【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
多分私ハーメルンユーザーの中で上から10番目くらいにイセスマについて考えてる気がする。
「これが、河? 海じゃんこんなの……」
水平線の彼方にやっと陸地が見えるレベルの河が、僕の眼前に広がっている。子供の頃に見た青森の大間岬から北海道が見えた時の感じに似てる。海峡レベルに広いって事か……。
旅立ってから6日、ベルファスト王国最南端の町カナンに到着した。ここから船に乗り、対岸のミスミド王国の町、ラングレーを目指すのだ。
しかし、流石にベルファストとミスミドを結ぶ町だけあって、亜人が多い。犬猫の獣人を始め、背中に鳥の羽を生やした有翼人、額に角が生えている有角人、身体の一部にうろこがあり、太い尻尾を持つ竜人なども居る。
港、じゃなくて河岸に着くと様々な船が浮かんでいた。しかしどれもこれも小型船、大きくても中型船だ。大型船は無いようだ
帆船だが、テレビで見る様ないくつも帆が張ってあるような奴ではなく、簡素な帆船、ナイル河の走るファールカみたいなものをイメージして欲しい。ファールカ知らないから出来ない? ファールカは帆が1枚の小型帆船だよ、大きさはヨットよりちょっと大きい位の。いや、ここにある船はファールカより大きいかな?
どうも聞いたところによると風属性の魔法を使える者が乗り込むので2時間もすれば対岸に着くらしい。なのでそんなに大きい船は必要ないとか。それ風属性魔法の使い手に不調起きたらヤバくないですか?
その懸念を一々伝える義理はない、最悪僕が使えば問題ない。なので特に何も言うことなく、船の手続きをオリガさんやガルンさん達に任せる。今まで乗ってきた馬車がはここで預け、船に乗りミスミド側に渡る。そして向こう側にも用意された同じような馬車に乗って行くのだ。
それを任せて僕はいつものように見知らぬ美人を口説きに行くつもりだったんだけど
「あ、あっちに細工物が売っています!」
「こちらには絹織物、色んな物が売られているんですね」
いつの間にか横にアルマとユミナが居て、売られている商品を見ている。いつ来たんだ。
とはいえ、流石にアルマ連れでナンパする気は起きないのでおとなしく観光する。たまにはこんなのもいいか。
「あら? 冬夜さん、あそこ……」
「ん?」
ユミナの視線の先にはブローチや指輪、ネックレスなどのアクセサリーを並べている露天商の前で、難しい顔で唸るリオンさんの姿があった。確か王宮への手紙を出しに行ったって聞いてたんだけど。
リオンさんはどのアクセサリーを買うか悩んでいるらしい。オリガさんへのプレゼントだな。
ちょっとだけからかってみよう。
「リオンさん、ご家族にお土産ですか?」
「え? と、冬夜殿!? いや、なに、その……。は、母上に。そう! 母上にお土産をと思いましてね!」
「へえー」
見事な狼狽えっぷりに、この人はいくつなんだとツッコミをいれたくなった。僕なら迷うことなくオリガさんの為と即答するぞ。そして親にはアクセサリーとか絶対買わない。適当にお菓子でも買ってる。
「色んなアクセサリーが売ってますね。そうだアルマ、1つ選んでよ。ベルファストの思い出にプレゼントするよ。ユミナも」
「いいの!?」
「私はついでですか……?」
アルマは喜んで、ユミナは少しジト目で並べられたアクセサリーの中から1つ選びだす。アルマは葡萄の形をしたブローチだ。実の所に紫水晶が嵌め込まれた一品だ。ユミナは葉の形をした細工で、基本を木で作り葉脈以外には翠の水晶を埋め込み、首駆ける部分は普通の紐のネックレスだ。
「よく似合うよ、アルマ」
「えへへ、ありがとうございます」
嬉しそうに笑うアルマを見ながら、露天商に2つ分の代金を払う。
「はいユミナ」
ユミナのネックレスを手に取った僕はユミナに掛けてあげる。センスに自信が無いからこれでいいのかはよく分からないが、まあ似合っていると思う。
「似合っているよユミナ、翠の色が君にピッタリだ」
「あ、ありがとうございます……」
恥ずかしいのか僕に顔を埋めながらお礼を言うユミナ。正直ユミナはそんなキャラじゃないと思ってた。と、ここでリオンさんが知りたいであろう情報をアルマから聞き出す事にする。
「オリガさんもアルマが選んだ様なブローチが好きなのかな?」
「んー、お姉ちゃんは花とかの意匠の方が好きです。特にこのエリウスの花が大好きでよく買っています」
と言いながら、アルマは露店に並ぶ1つの髪飾りを指差す。それは桜の様な花が彩られた、地味だけど美しい髪飾りだった。あれは確かにオリガさんによく似合いそうだ。
その言葉にリオンさんが嬉しそうな表情になる。分かりやすいなこの人。
「それじゃあ、僕らはこれで。リオンさんもお早めに。そろそろ出発ですから」
「あ、はい。すぐに戻りますので。ってユミナ、動けないからそろそろ離れてよ」
「はい、分かりました冬夜さん」
ユミナは嬉しそうな声色で僕に顔を埋めるのを止めた後、今度は腕を組んでくる。動けるから問題はないんだけどね。と思いながらその場を離れて、しばらくしてから振り返ると、リオンさんがエリウスの髪飾りを買って、包んでもらっているのが遠目に見えた。
「何かじれったいから、僕がリオンさんに女性の口説き方でも教えた方が良いかな」
「やめた方がよろしいかと」
僕の呟きにユミナが返答する。駄目かな?
「冬夜さんには冬夜さんの、リオンさんにはリオンさんのいい所があります。そう易々と他人の真似をさせてはいけないと思います」
「そうかなあ?」
「それにリオンさんが急に冬夜さんみたいになったら、オリガさんビックリしてしまいますよ」
「あー、それは確かにそうかも」
残念、1歩前進させられると思ったのに。
「あっという間に着いたわね」
「片道2時間でござるからな」
エルゼと八重がそう言いながら、姿見を入れた箱を持ち船を降りた。それに続いて荷物を持ったアルマとユミナ、そして琥珀が降り、最後に僕がリンゼを背負って船を降りる。
「……すみません冬夜さん」
「いいよいいよ、気にしなくて」
リンゼは船に乗って1時間ほどで船酔いになった。試しにリカバリーをかけたが効果は無いようだ。やっぱり船酔いは状態異常にカウントされなかったか……。MOT○ERシリーズならカウントされたかもしれないけど。
船を降りてラングレーの町を見渡す。亜人達の国ミスミドらしく、カナンより亜人の数が多い。露店の商人もほとんど亜人だ。色んな人種がいるんだな。
「思ったより大きい町なんだなあ」
「……ここはまだ、ベルファストよりだからじゃないでしょうか」
僕の呟きにリンゼが小さく答える。町を見ながらオリガさんの案内で歩いていくと、カナンの町に置いてきたのと同じような馬車が3台停まっていた。
「どうします冬夜さん? リンゼさんの体調がすぐれないようでしたら、今日は休んで明日出発という事に致しましょうか?」
オリガさんが心配そうに声をかけてきた。
「あ、もう、大丈夫です。船から降りたら楽になりましたから」
リンゼが僕の背中から降りる。するとエルゼが近寄ってきて、僕に小さくこう聞いてきた。
「もうちょっとおんぶしたかったんじゃないの、冬夜?」
「そうだね、背中に感じる柔らかい感触をあと2時間くらいは――」
思わず僕が本音で話すと、オリガさんとアルマ含めた皆が白い眼でこっちを見てくる。
「ちょっとエルゼ、今の誘導尋問は卑怯だよ!?」
「ゴメン、そんなに素直に誘導されるとは思ってなくて」
「僕はいつだって素直じゃん!」
「いやそれは無いと思うけど」
僕はいつだって、僕の心に素直だよ!
「では1時間後に出発致しましょう。私は獣王陛下に手紙を出してまいりますので」
「あ、で、では私もついて行きましょう。何があるか分かりませんから!」
「はい、ではリオン殿も」
オリガさんが小さく笑い、2人連れ立って歩き出す。段々微笑ましさすら感じてきた。
「冬夜殿、ここからはしばらく大きな町もない。必要な物を買っておいた方が良いと思いますよ」
「ありがとうございます」
ガルンさんの言葉に素直に従い、僕らも1時間後に待ち合わせをしてそれぞれの買いもをすることにした。
僕はユミナと琥珀を連れて、一緒に非常食やお茶の葉など細々したものを露店で買ったんだけど……。
視線を感じて僕は思わず感覚を研ぎ澄ます。……気のせいか?
「どうしました?」
僕の行動を見てユミナが声をかけてきた。
「いや、誰かに見られているような気がしたんだけど……」
「琥珀ちゃんが珍しくて見ていた人では?」
ミスミド王国では白い虎は神聖視される。殺してはいけないし、捕えてもいけない。僕が琥珀に首輪と付けて鎖で連れていたら、僕は吊るし上げを喰らうだろう。あくまで琥珀は自分の意思で僕らについてくる、というスタンスでなければならない。分かりやすく言うなら奈良の鹿と同じ様なもの、と思えばいい。
〈いえ、主。確かに何者かがこちらの様子を伺っておりました。私ではなく、主たちの方に。今は完全に気配を消しているようですが〉
琥珀の念話を聞いてもう一度辺りを見回す。監視者、一体何者なんだ……!?
それから形は洋梨、色はオレンジ、匂いはリンゴというよく分からない果物を10個ほど買って皆の所へ戻った。
馬車には皆揃っていて、僕らが最後らしかった。
「これで皆揃いましたね。では出発致しましょう」
オリガさんがそう言うと、護衛の兵士達が1番前と1番後ろの馬車に乗りこみ始めた。僕らはベルファストの時と同じく真ん中だ。エルゼと八重が御者台に座り、残りの皆が客車乗り込もうとしたとき、オリガさんの髪に、カナンで見たエリウスの花の髪飾りが光っているのを見つけた。
「あら、素敵な髪飾りですね。よくお似合いです」
「え? そ、そうですか。ありがとうございます」
ユミナが目ざとく髪飾りを褒めると、どこか照れたような感じでオリガさんが小さく笑う。どうやらちゃんとリオンさんがプレゼントようで何よりだ。
……なんで僕は他人の恋路なんか応援してるんだろうね、本当。