【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。   作:味音ショユ

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宿屋、そして初の食事。美人の手料理はそれだけで美味しい

 しばらく歩くと宿屋銀月に到着。スマホに出てるから場所は間違いない筈、多分。見た目は3階建ての建物、がっしりした造りで泊まるのに支障は無さそうだ。駄目そうだったら最悪馬小屋に泊まるつもりだったのは内緒だ。

 両開きの扉を開け、入ると1階は酒場みたいな感じになっている。右手にはカウンター、左手には階段がある。何だかゲームの宿屋にリアルで泊まるみたいで、何ともいえない高揚感がある。

 

「いらっしゃーい、食事ですか? それとも宿泊で?」

「あなたと一夜を共にしたいです」

 

 カウンターにいたお姉さんが声をかけてきた、赤髪のポニーテールがよく似合う活発そうな美人だ、歳は僕より上だろうか。そんな人に声を掛けられたら、反射で口説くのが男のサガである。これで失敗した経験は無数にあるが、懲りないのが僕だ。仕方ない、彼女が美人なのが悪い。

 

「あはは、面白いねあんた。でも私今お仕事中だからお客さん以外と話す気は無いよ?」

「すいません泊まりでお願いします。1泊いくらですか?」

 

 でも引き際はちゃんと見極めよう。それで骨折ったことあるから。

 

「ウチは1泊朝昼晩食事つきで銅貨2枚だよ。前払いね」

 

 銅貨と言われても、僕が持ってるのはザナックさんから貰った金貨しかない。なのでとりあえず金貨1枚を出してカウンターに置く。

 

「これで何泊できますかね?」

「50泊だけど、計算も出来ないの?」

「グハッ!」

 

 ダイレクトに馬鹿にされてちょっとよろめく僕、でもこの辺の貨幣価値が分からないなんて言えないししょうがないから黙って受け止める。

 でも同時に何とも言えないドキドキを感じる、これは恋だな。間違いない、僕はこの人と出会うためにこの世界に来た、気がする!

 

「じゃあ、とりあえず1月分お願いします」

「はいよー、1月ね。最近お客さん少ないから助かるわ。あ、ちょっと今銀貨切らしているから銅貨でお釣り出すけどいい?」

「むしろ助かりますよ、今ちょっと金貨しかなくて細かいの欲しかったんです」

「どういうことそれ」

「いや無一文の状態から持ってた服を下着まで含めて金貨10枚で売り飛ばしまして」

「ごめん、あんまり聞きたくないわ」

 

 金貨を受け取りながらそう言って露骨に目をそらすお姉さん。何か誤解されてない? 男娼か何かだと思われてない? その後、お釣りとして銅貨40枚を持ってきたがやっぱり目はそらされている。これはまずい、早く誤解を解かないと!

 

「いや違いますからね、ファッションキングザナックのオーナーに珍しい服を着ているから売ってくれって言われただけですからね!」

「あ、なんだそういうことか。ザナックさんが不埒なことするわけないし、誤解だったんだ」

 

 ありがとうザナックさん、あなたの人徳で僕への疑いが晴れました。

 

「まあそれはともかく、はいこれ」

 

 そう言ってお姉さんが出してきたのは宿帳らしきもの、羽根ペンも一緒に出してることから名前でも書けばいいのかな。

 

「じゃあここにサイン書いて」

「あーすいません、僕字が書けないんで代筆してもらっていいですか」

「そうなの? じゃあ名前は?」

 

 僕の言葉に特に疑問を挟まないお姉さん、どうやらこの辺りの識字率はそこまで高くないらしい。

 

「僕の名前は望月冬夜です」

「モチヅキって、珍しい名前ね」

「いえ望月は家名です。苗字が先なんです」

「ああ、イーシェンの生まれなのね」

「いや違うんですけど……、まあいいか」

 

 イーシェンの知名度が若干気になる。

 

「はい、書けた。じゃあこれが部屋の鍵ね」

 

 そう言ってお姉さんはカウンターの下から鍵を出す。成程、異世界でも鍵の形状は変わらないみたいだ。カードキーとか出されたらどうしようかと思った。

 

「部屋の場所は3階の1番奥、日当たりのいい部屋よ。トイレと浴場は1階、食事はここね」

「あ、お昼お願いしていいですか。今日まだ何も食べてないんですよ」

「じゃあ何か簡単なもの作るから、その間に部屋の確認でもしてて」

「分かりましたー」

 

 鍵を受け取り階段を上り、3階の僕にあてがわれた部屋に入る。ベッドと机、椅子とクローゼットだけのシンプルな部屋だ。まあ安宿っぽいしこんなものかな、受付が美人なだけで僕にとっては高級ホテルの千倍価値があるけど。日当たりはいいし、窓を開けて外を見れば通りが見えてなかなかいい眺めだし。

 

「うん、いい部屋だ」

 

 一通りの確認を済ませ、僕は部屋を出て1階に降りる。

 どうやら食事が出来たようだ。

 

「はいよー、お待たせ」

 

 食堂の席に着くと、サンドイッチ、だと思うものとスープとサラダが出てきた。中世だから味の質は覚悟していたが、現代日本の味に慣れ親しんでいる僕でも十分美味しいと思った。いや文化を見下しているとかそういう訳じゃ無く、時代的にね。中世って食事あんまり美味しくないって前に見た事あったし。

 とにもかくにも完食。うん、美味い!

 さて、腹ごなしと観光でもかねて散歩にでも行こうか。せっかく知らない町に来たんだ、見たことの無い物を見ていこう。

 

「散歩にでも行ってきます」

「はいよー、行ってらっしゃい」

 

 お姉さんに見送られ、僕は宿を出る。とその前に、大事なことを聞いてなかった。

 

「そうだ、しばらくこの宿で泊まるんだし、お姉さんの名前聞かせてくださいよ」

「ん、私? 私はミカだよ」

「ミカさんですか、あなたによく似合う素敵な名前ですね」

「ははは、ありがと」

 

 僕の言葉を軽く流し、手を振って見送るミカさん。まあ振られるのはよくあるから別に気にもしないけどさ。

 

 

 町を散策する僕。異世界だけあって見るもの全てが珍しいが、あんまりキョロキョロしてると田舎者扱いされそうなので気を付ける。

 そして色々見て回って気付いたが、武器を持っている人が多い。流石剣と魔法のファンタジー、あれがいわゆる冒険者って奴だろうか。ならギルド的なのがあってもおかしくない。

 

「幸い神のおかげで戦闘力はあるらしいし、それ確かめたら冒険者で食っていこうかな」

 

 モンスターとの戦闘という今までは非現実なものにわくわくしながら歩いていると、ふと裏路地から言い争うような声が聞こえる。

 

「何だろ? 行ってみようか」

 

 半分くらい野次馬根性で、僕は裏路地へ向かった。

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