【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
遅筆ですがこれからもよろしくお願いします
村が炎に包まれている。人々は逃げ惑い、炎弾を放つ黒い竜が我が物顔で空を舞う。力強い四肢と長い尾、背中から広がる大きな翼。そして夜の闇に赤く輝くその双眸は、この状況を楽しんでいるようだ。
「村人の救出を優先させろ! 動けない者を運び出せ!」
ガルンさんが叫ぶ。ミスミドの護衛兵士達は、すぐさま倒れた柱の下敷きになった人や、怪我をして歩けなくなった者を助けるべく、行動を開始した。
「我々も救出を手伝うぞ! 1人残らず助け出すんだ!」
リオンさんが号令をかけると、ベルファストの護衛兵士達も村人達の救出に加わった。
「さて、僕らは僕らのやるべき事をしなくっちゃな」
悠々と空を飛びまわる竜の気を引き、村から引き離す。その間にガルンさんやリオンさん達が村人を救出する。ここに来るまでに立てた作戦はそんなものだった。シンプルになったが、彼らにはオリガさんの護衛という任務がある。ここで倒れるわけにはいかないから仕方ない。
それに相手は空を飛んでいるから、こちらの武器では攻撃が届かない。魔法が使える僕とリンゼで何としなくちゃいけない。
「光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン!」
詠唱にネタ挟めるほど馬鹿やれる場面じゃないので真面目に発動。しかし黒い竜は僕の魔法を躱し、口腔から炎弾を放ってきた。
「やばっ、ブースト!」
ブーストを遣いその場から避難する。炎弾の着弾地点で爆発が起こり、辺りに火の粉が降り注ぐ。
やばいやばい、攻撃以外の方法で気を引かないと村が危ない。
「琥珀!」
『御意』
僕の呼びかけに応じて、琥珀が本来の姿に戻る。
「リンゼ乗って!」
「はい……!」
僕は琥珀の背に乗ると、さらにリンゼを引き寄せ、僕の前に座らせる。そして一気に村の南へ駆けだした。
後ろを見ると、竜が僕ら目がけて次々炎弾を放ってくる。琥珀は僕らを乗せたまま、炎弾を右へ左へ見事に回避する。さすこは! もっとひきつけてくれ。
そして林を抜けると広い牧草地帯に出た。見晴らしがよく、遮る物が無い。ここなら被害はさほど出ないだろう。
ゴガアァァアァ!!
竜が咆哮する。その声を聞いた琥珀が喉をうならせて威嚇する。
『貴様、我が主を侮辱するか……! されて当然な部分もあるが、たかが空飛ぶトカゲ如きが見下してよい存在ではないぞ!』
「かばうか貶すかどっちかにしてくれない?」
というか言ってることわかるの? と僕が尋ねると、琥珀が竜の言葉を通訳してくれた。
『「我が享楽を邪魔した小さき虫よ。その身体を八つ裂きにして喰らってくれる」だと? 人の言葉も話せぬ鼻垂れ小僧が……! これだから蒼帝の眷属は気に食わんのだ!』
人の言葉を話せるほうが偉いのか魔獣業界は。というか不愉快な事言ってくれるなこの竜は。
「享楽、享楽ねえ……」
生きるための糧を得るとか、聖域不法侵入者への過剰報復とかではなくただの遊びか。
「なら僕らがあの大きなトカゲを縊り殺す事に、何の躊躇もいらないって訳だ」
『そうなりますね、我が主』
「という訳だから僕がアイツを叩き落す。そしたらリンゼは翼をぶった斬れ」
「了解です」
リンゼが小さく頷くのを見てから、僕は無属性魔法を展開した。
「マルチプル!」
僕の周りに小さな魔法陣が竜に向けて銃口の様に展開される。1つが2つ、2つが4つ、4つが8つと次々増えていき、やがて128になった所で僕は次の魔法を発動させた。
「とりあえず光、シャイニングジャベリン!」
次の瞬間、竜へ向かって一斉に光の槍を発射する。僕は高位呪文はまだ使えないが、魔力による手数なら誰にも負けない。塵も集めれば山になる、そして僕が集めるのは塵じゃない。
流派迫りくる光の弾幕を回避しようとしたみたいだが、128本の槍からは逃れられない。何発か体に受け、血を流しながら無様に地面に落下した。
竜はすぐさま体を起こし、翼を広げ再び空へ舞いあがろうとする。僕がスリップで阻止しようと思ったが、その前にリンゼが空へ逃げる事を許さなかった。
「水よ来たれ、清冽なる刀刃、アクアカッター!」
圧縮された水の刃が竜の翼目がけて飛んでいく。水の刃は見事命中し、右の翼が半分ほど切り落とされた。
次の瞬間、痛みによるものなのか一際大きな叫び声をあげるが竜がまた飛び立とうとした。しかしバランスを崩し、少し浮かび上がっただけですぐさま落下する。これでやっと対等だ、多分。
竜は憎しみを篭めえた赤い眼をギラつかせ、口を大きく開いた。今まで炎弾を放っていたモーションとは異なる動き、さっきまで普通に連射してたし。という事はこれって……。
僕は横にいたリンゼを抱き寄せ、ブーストで強化された脚力で竜から離れる。
離れた直後、竜の口から火炎放射器さながらの炎が吐かれ、辺りを紅に染める。ドド○ゴかあいつは。やってて良かったゼ○ダの伝説。
リンゼがもう一度アクアカッターで切りつけようとするが、炎のブレスで作られた火の壁がバリアとなって威力を削ぎ、ダメージを与えるまでに至らない。
と、その時竜の頭上に1つの影が落ちてくる。
「やあッ!!」
落ちてきた八重の剣閃が竜の右目を切り裂く。
「ブーストォッ!!」
続けて林から飛び出して来た身体強化済みのエルゼ渾身の一撃が、竜の脇腹に炸裂する。
「痛ったぁー! 硬すぎるわよアイツ!」
「前に戦った水晶の魔物よりは、再生しないだけましでござるよ」
八重とエルゼが文句を言いながら、竜から距離を取る。
片目を潰された竜は怒りに任せ、2人へ向けて炎弾と火炎を吐こうとするが――
「スリップ!」
僕がその前にスリップで竜の足元の摩擦を奪い、転ばせる。
「ヒャッハー! 袋にしてやる!!」
「セリフが完全に悪役!」
「つくづく正義の味方になれないでござるな拙者達は……」
エルゼのツッコミを受けながら、僕らは竜との距離を詰め再び攻撃する。
八重は竜のもう片方の目を斬り、エルゼは脇腹を殴りつける。
ブーストをかけて、僕も続いて斬りかかる。がしかし
カン ポキッ プス
斬りかかった僕の刀が折れ、折れた刃が僕の足に刺さる。
「イイッ(↑)タイ(↓)アシガァァァ(↑)!!」
「何してんのあんた!?」
僕が痛みに呻いている隙に、竜が尾を振るい僕は吹き飛ばされる。
「ああああああああああああああああああああ!!」
「ああもう!」
「一旦離脱でござる!」
吹き飛ばされた僕に合わせてエルゼと八重が離脱する。
「水よ来たれ、清冽なる刀刃、アクアカッター!」
離れた直後にリンゼが水の刃を放つ。火の壁が無い今なら刃の切れ味はそのままで、見事に竜の首を斬りおとす。
斬れた首から上は落ちて地面を揺らす。それは僕らに竜の死を実感させるには十分な衝撃だった。
「た、倒した……?」
「そうね……」
「でござるな」
でも何だろうこの気持ち。そう、なんというか……。
「「「「盛り上がらない……」」」」
あ、皆も同じ事考えてた。
微妙な気分を味わっていると、地面に黒い影が前触れなく落ちる。何かと思って頭をあげると、そこには月を背にして空に浮かぶ、2匹目の竜がいた。
「もう1匹……!?」
しかも倒れた竜よりも一回り大きく、赤いうろこに後頭部から尻尾に掛けて白い体毛が生えていた。角は長く太く、尻尾も長い。以下この竜は赤竜と呼称する。
突然の2匹目の来襲に、僕らはそれぞれ構える。リンゼなんか既に詠唱を始めている。殺意高っ。
しかし、赤竜は僕らの予想に反し声を発した。
『こちらに戦う意思は無い。我が同胞が迷惑をかけてすまない、謝罪する』
「話せるのか!?」
『我は聖域を統べる赤竜。暴走した者を連れ戻しに来たのだが、どうやら遅かったようだ』
赤竜はどこか悲しみを浮かべた金色の瞳を静かに閉じる。連れ戻しに来たのか……。もっと早く来いよ、と毒づきたくなるがそれは言っても仕方ないか。
何とも言い難い雰囲気の中、琥珀が赤竜の前に出る。
『赤竜よ。蒼帝に言っておけ、自らの眷属くらいちゃんと教育しておけとな』
『何……? この気配、まさか……。貴方は白帝様か!? なぜこのような所に……!?』
赤竜が驚きの声を上げる。そういえば随分大層な存在だとユミナが言ってたっけ?
『成程、黒竜を倒したのは白帝様であられましたか……。通りで黒竜ごときでは相手にも……』
『勘違いするでない。そやつを倒したのは我が主冬夜様とその仲間だ。恐れ多くもこの小僧は我が主を侮辱し追ったのでな、当然の報いよ』
『なんとっ……!? 白帝様の主ですと!? 人間が、ですか!?』
再び驚愕した声を上げ、金の双眸が僕を見つめる。やがて静かに赤竜は地面に降り立つと、身をかがめて頭を下げた。
『重ね重ねのご無礼、平にご容赦を願いたく……。此度の事はこの黒竜1匹が起こした事。何卒温情をもって……』
「まあ、当の竜はもう死んだしどうこう言わないけど……。今後こんな事が無い様に若い奴らに躾けておいてよ」
「はっ、必ず。ただちに聖域へ戻り皆に伝えましょう。それでは失礼いたします」
赤竜は立ち上がり、もう1度頭を下げると翼をはためかせゆっくりと上昇していき、頭上を一回りすると南に向かって去って行った。
『まったく迷惑な。これだから蒼帝は……』
文句を言いながら琥珀がまたマスコット枠に戻る。蒼帝と何やら仲が悪そうだ……。何があったんだか。
ん? と思って周りを見渡すと3人が地面に座り込んでいた。
「どうしたの皆して?」
「どうしたのって、動けなかったのよ……」
エルゼがかすれた声を出す。そういえば琥珀を召喚した時にユミナも同じ状態になってったっけ? あの赤竜結構上位の存在だったのかもしれない。
「冬夜さんは、大丈夫だったんですか?」
「ぜーんぜん平気」
「何か理不尽でござるな……」
とか言われてもね……。恐らく神様のせいだし、どうしようもない。何だか単なる鈍感なのか恐怖心が欠落してるのか若干気になるけど……。いや世界中の美人が僕に見向きもしない事を考えると恐ろしくて仕方ないから恐怖心が消えた訳じゃないな、単なる鈍感野郎じゃないこれ?
そんな事を考えながら、僕は皆に回復魔法をかけて回った。
実は前書きで異世界オルガ1周年を祝おうと思っていたのは内緒