【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
試合開始と共に獣王様が撃ちこんできた。僕は正面からそれを受け止め、身体を捻って受け流す。そして一旦後ろに飛び退き、今度はこちらから仕掛ける。
「ブースト!」
身体能力をブーストで上げ、切りかかる。しかし獣王様の盾に防がれ、受け止められる。そして盾に押され、僕の体勢が崩れたと同時に獣王様の突きが飛んでくる。
それをしゃがんで躱した僕は、そのまま足払い。
これは躱せない、そう思ったのだが
「アクセル」
獣王様がそう呟いたと同時に、捉えたと思ったその姿が消え失せ、僕の足払いはむなしく空振る。
「……後ろっ!?」
姿を消した相手がする事など背後を取る以外有り得ない。咄嗟にその場からジャンプで逃げると、跳んだ直後に獣王様の木剣が水平に振り抜かれた。そのまま転がりながらその場を脱し、体制を整える。あっぶな! 何今の!?
「今のを避けるか! やるな、冬夜とやら」
「今のは、無属性魔法ですか」
「左様、儂の無属性魔法アクセルだ」
怪しい時はとりあえず無属性魔法理論(命名僕)を振りかざしたがどうやら正解らしい。加速魔法だろうか? これがクロッ○アップ……。仮面ラ○ダーカブトはYouT○beにて絶賛公式配信中!
「どういった魔法なんですか?」
「何、身体の素早さを上げるだけの魔法だ。動いているときは身体に魔法障壁も発動するので、馬鹿みたいに魔力を食うから常時発動は出来ないがな。その速さに普通の人間は反応出来ない筈なんだが、よく避けられたな」
「たまたまですよ」
実際ほぼ適当だし。ともかく純粋な加速魔法らしい。超スピードとは言っても、ソニックブームが発生しない程度なら体当たり喰らってもちょっと痛い程度で済むな。
「成程、よく分かりました。良い魔法をお持ちですね」
「だろ?」
「なので使わせて頂きます。――――――アクセル」
クロッ○アップ、みたいなノリで発動したけど実際はただ加速しているだけなので実際はメイド・イン・ヘ○ンだ。一瞬で獣王様の横を通り抜け、、自分の足にひっかけて、盛大にこけた。
「ヴァァァァアアア!!」
「「こけた!?」」
そのままゴロゴロと闘技場の端まで転がり、背中を壁に思いっきりぶつける。マジで痛い。
「あいたたた……」
それでも何とか余裕を保ったまま、背中を払いながら立ち上がる。
「なっ……!? おま、今の……!?」
「使うのが難しい魔法ですね。でも次は当てますよ」
「いや余裕保ててないから! 鼻血出てるから!!」
エルゼのツッコミを聞いて、思わず鼻を手で拭う。するとそこには真っ赤な液体が。
「――アクセル!」
「無視!?」
僕は超速のスピードで獣王様に迫るが、相手もアクセルを発動し同じ速さで打ち合おうとする。が、僕はまたも体の操作を誤りそのまま獣王様の顎に頭突きをしてしまった。
「ぬおおおおおおおおおおおお!!」
「あああああああああああああ!!」
「大丈夫ですかねあれ……」
リンゼの不安げな声を聞きながら僕らは立ち上がり、アクセルを同時に使う。
そして躱し、頭突きを決め合い、剣で打ち合う。恐ろしい速さだが、僕もやっと何とか剣を合わせられるようになり、懸命に撃ち落としていく。何度も打ち合っているとスピードに慣れたのか、段々普通に見えてきた。
獣王様が迫ってくる。また打ち合うのを望んでいるのかは知らないけど、思い通りにはさせない。
「砂の目潰しは王者の鼓動、ブラインドサンド」
今まで使っていない地属性魔法を使えないと思っていたのか、獣王様は不意を突かれた表情を見せながら目潰しの砂塵に身を投じる。
すると獣王様の動きが止まる。僕はその隙にアクセルで一気に迫り、獣王様の喉元に木剣を押し当てる。
「チェックメイド。あ、間違えた。チェックメイト」
「どんな間違いだそれは……。とはいえ儂の負けのようだな」
木剣を捨て、両手を上げて獣王様が負けを認める。それを見て審判が大きく右手を上げて叫ぶ。
「勝者、望月冬夜殿!」
その声をきっかけにして、闘技場の観客席から一斉に拍手が放たれる。勝敗関係なく良い戦いをしたら互いの健闘を讃えるといった感じだろうか。何だか獣王様への私怨も混じっている気がしないでもないけど。
「まさかお前もアクセルの使い手だとは驚きだ。儂はどこか自分の魔法に絶対の自信を持ち、思い上がっていたようだ。戒めなければならんな」
「まあ、ははは……」
笑ってごまかす僕。言えない、全ての無属性魔法が使えるイレギュラーだとはとても……。でも予想できない事が起こるのが実戦ですし、しょうがないよねうん。よし言い訳終わり、早速獣王様の重臣達が用意しているメイドさんの歓待を受けなければ。という事で僕は一目散にグラーフさんの下へ駆けだした。
この部分が映像化したら、絶対止まらないスマホ太郎GBが使われるだろう。
最高だった……。何がって? 冷静に考えてよ、獣耳でメイド服の美人が自分を歓待する所を。これを最高以外の言葉でどう示せって言うんだ、むしろ余計な言葉が陳腐になる。
「冬夜様、これ美味しいですよ」
「本当? それあーんしてよあーんって」
その後、夜に軽いミスミドの重臣や、有力貴族に主要な大商人を迎えたオリガさん帰還のお祝いと、ベルファスト王女ユミナの歓迎パーティを開くという事で、僕は着替えさせられた。軽くないよこのパーティ!?
白のたっぷりとした上下に黒のベスト。幅広の紺の帯に幾重にも体に巻かれた白く長い布。例えるならターバンを付けてないアラジンみたいな感じだ。ドラビ○ンナイト大好きです。
立食形式のパーティー会場では、皆が思い思いに会話を楽しみ、食事に舌鼓を打っていた。僕もまた、メイドさんにあーんしてもらって楽しんでいる。
「ところで、主賓のユミナやオリガさんはまだ?」
「おそらく今は、お着替えの真っ最中かと」
メイドさんにそれを聞いた僕はふーん、と適当に相槌を打つ。それだけ言うとメイドさんは誰かに呼ばれ、去ってしまった。すると
「冬夜殿、その……。凄いですね……」
「何がですか?」
シャンパン片手に、燕尾服に身を包んだリオンさんが話しかけてきた。こういったパーティーには慣れてそうな立ち振る舞いが正直ちょっと羨ましい。
そんなリオンさんが僕を凄いと評する、一体何がだ。
「さっきのメイドは、今日会ったばかりですよね?」
「ええ、少し前に歓待してもらいましてね。その時に仲良くなりました」
「いや、私も冬夜殿みたいにスラスラ女性と話せるようになれればいいなと思ったので……」
「ならなくていいと思いますよ」
そんな褒められる事じゃない。
「女の子口説くなんてのは結局数こなすのが1番上達するものですし」
「数って……」
少し引き気味のリオンさん、だから褒められたもんじゃないんだよ。
「それはそれとして、その、オリガ殿はどこですかね?」
「僕は見てませんが……」
話を変えたいのか、それとも本題がこっちなのかリオンさんが尋ねてくる。そわそわと落ち着きがない騎士様に、苦笑いしながら会場を見渡す。
「冬夜さん!」
そんな声と共に、急に後ろから腰の辺りに抱き着かれた。その辺りを見るとピコピコ動く小さな狐耳が。
「アルマか」
可愛らしいドレスに身を包んだアルマの頭を撫でる僕。ん? と思ってアルマの後ろを見ると、恰幅のいい白い髭を蓄えたにこやかな紳士が立っていた。頭は白髪交じりで、狐耳が伸びていて太くて長い尻尾もある。もしかして
「初めまして、アルマの父のオルバと申します」
えらく名前似てるな、オリガさんとそのお父さんのオルバさん。アルマも。
オリガ、アルマ、オルバ。名前並べると凄いそっくり、お母さんの名前が気になる。
っと、挨拶されたんだしちゃんと返さなきゃ。
「どうも初めまして、望月冬夜です。冬夜が名前で望月が家名です」
「ほう、イーシェンのお生まれで?」
久しぶりに聞いたなそのフレーズ。
「ベっ、ベズヴァズドゥ王国第一騎士団所属、ディオン・ムディッヅディア゛ディバズ!」
「リオンさんオンドゥル語になってるから落ち着いて。ベルファストの騎士として堂々と立ち振る舞おう」
まあ意中の相手の父親にいきなり挨拶する事になったら緊張……、するのか? 駄目だ、ヤクザと付き合いあったりマフィアに殺されかけたりしてるから、今一つ普通の価値観が分からない。僕多分平然としてると思う。
「娘達を護衛して頂き、誠に有難うございます」
「い、いえっ、しょれぎゃ我々にょ任務どぇしゅきゃりゃ!」
「最早呂律回ってないんですけど」
テンパるにも限度あるだろ。とりあえず助けよう、流石にこのままじゃベルファストのイメージにも関わりかねない気がする。何で僕がベルファストのフォローしてるのさ。いや立場的にはおかしくないのか?
「オルバさんは何のお仕事を?」
「私は交易商をしております。ベルファストからも色々と良い物を仕入れさせて頂いていますよ」
交易商人か。色々扱ってるみたいだし僕が世話になる事もあるかもしれないな。
「最近では将棋という物を何とか手に入れて、こちらでも売ってみようかと思っています。なんでもベルファスト国王陛下も気に入って嗜んでいる物だとか」
「え、何だって?(難聴)」
いつの間にか将棋広まり過ぎでしょ、ちょっとした恐怖すら感じるんだけど。どうやらオリガさんに送ってもらった手紙に書いてあったらしい。そんな事書く余裕あったのか。
「将棋なら1セット持っていますからお譲りしましょうか?」
「おお、本当ですか! それは有難い、1度本物を見てみたかったのですよ」
旅の途中に作った暇つぶし用の将棋盤と駒がまだあるはずだ。無かったら作る。
「では明日にでも届けますよ。僕はちょっと用事があるのでリオンさん、オルバさんの所へ届けてもらえますか? ルールはオリガさんが知っているので、教えてもらえるでしょう」
「え!? 私がですか!?」
急に振られて、リオンさんが慌てふためく。
「リオンさんのお父上はあのレオン将軍でして、将棋の開いてもよく勤めているそうですよ」
「ほう、あのレオン将軍ですか! それはそれは、是非我が家に来ていただいてお話を伺いたいものですな」
オルバさんはにこやかに笑みを浮かべて、リオンさんへ語りかける。娘の婚約相手にふさわしい地位を持った相手だとアピール出来ただろう。自分でして欲しい。
「は! それでは後日伺わせて頂きます!」
直立不動の姿勢で仰々しくオルバさんの言葉を受け取るリオンさん。大丈夫かなこの人、とちょっと心配していると急に会場がざわめきだした。
おや、どうしたんだろう?(無能)
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