【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
ざわついた方に行ってみると、主賓であるユミナ達が居た。
ユミナ達の格好を褒めて、写真を撮ったら獣王様に騒がれた。
それを無属性魔法でごまかして、獣王様もとったら他の人が我も我もよって大変だったので逃げてきた。
3行でおわっちゃったよ……。
「なんでダイジェスト?」
「ハーメルンの規約に引っ掛かっちゃって……」
お偉方のリクエストを追え、一息つこうと会場の外に出た。廊下の角に設置してあるソファに腰掛ける。会場に比べて随分静かだな、向こうの戦力は軒並み火星に――駄目だこれ死ぬ。
何気なく廊下を眺めていると、奥の方に奇妙なものが横切った。
「え?」
思わず変な声が出た。
遠くの廊下を歩く変なもの。簡単に言えばそれはぬいぐるみの熊だった。
背の高さは50センチ位、また無属性魔法なのか? 正直見飽きてきたんだけどな……。
すると、歩いていた熊が立ち止り、こっちを見た。目が合っちゃったよ。
じ――――っ……。
前もあったなこんなの。
何だか、熊が手招きしている。……ついて来いって? 嫌だよ今は休みたいんだ、という意思表示のつもりで僕は首を横に振る。
すると熊は腕をパンッと叩き、指で空中に2と書き、腕で丸を作り、最後に手を目の上に置き遠くを見る仕草を見せる。
これはおそらくパン、ツー、マル、ミエだな。成程、パンチラスポットに誘ってくれたのかこの熊。そうならそうとさっさと言ってくれよ! いや無理か。とにもかくにもついて行こう!!
歩く熊について行くと、会場から少し離れた部屋の前に来た。ドアノブに届かない熊が、器用にジャンプしてノブを上手く回しドアを開ける。中に入ると、来いよ相棒とばかりに手招きされた。分かってるよ。
部屋に入ると、窓から差し込む月明かりで中がよく見える。そこそこ広い部屋で、家具などもしっかり揃えられている。
「……あら? 奇妙なお客さんを連れてきたわね、ポーラ」
不意に聞こえた声に、僕は思わず構えて声のした方を見る。すると、窓の前、赤いソファに1人の少女が腰かけていた。
見た所歳はユミナやアルマと同じくらいだろうか。ツインテールに白い髪に黄金色の瞳。フリルが付いた黒いドレスに黒い靴、そして黒のヘッドドレスとまるでいつかエルゼに買ったゴスロリ衣装だ。だけど1番目を引くのは、彼女の後ろにある薄く半透明の羽根。友人族が持っている羽根じゃなく、おとぎ話で聞く妖精が持ちそうなものだった。彼女が妖精族か。
「それで? あなたはどなたかしら?」
「僕は望月冬夜。冬夜が名前ね」
「……あなたが、今日のパーティーに来ているっていう竜殺し?」
「そうだよ。で、君は?」
「あら、ごめんなさい。自己紹介が遅れたわね。私は妖精族の長、リーンよ。こっちの子はポーラ」
妖精族の長だって!? 子供でも務まるのか!? というか敬語使った方がいい!? と驚きで声も出ない僕を見て、可笑しそうにリーンは笑う。
「こう見えてもあなたよりずっと年上よ? 妖精族は長寿の一族だから」
「長寿って言われましても……」
ファンタジーお約束のロリババアって奴なのは分かるんだけど、実感わかないなあ。
「これでも600は超えてるのよ。……面倒だし612歳って事にしといて」
「しといてって……。適当なババアだな……」
僕が思わず呆れて呟くと、リーンは初動をほぼ見せることなく僕に接近し、腹にパンチを叩きこむ。思わず僕が膝を崩すと、リーンは僕の頭を掴みそのまま膝蹴りを顔面に叩きこんだ。
「ぐあっ!」
吹き飛ばされて呻く僕。でも流石にこれは僕が悪いな。
「いたた……。年齢を揶揄してごめんなさい」
「こっちもごめんなさい。思わず妖精族秘伝の格闘技を叩きこんでしまったわ」
妖精らしさの欠片もないな。
「後敬語は使わなくていいわ。あなたとは対等で話した方が楽しそうだもの」
「それじゃあ遠慮なく。タメ口で話させてもらうよ。ところで1つ聞きたいんだけど」
「何かしら?」
「パンチラスポットはどこ?」
「は?」
リーンが何言ってるのこいつ、と言わんばかりに僕を睨む。その視線を受けて僕はポーラに掴みかかる。
「どういう事だポーラァァァ!!」
ポーラは嘘ついてすみませんでしたこの腕切って詫びます、とばかりにどこからかナイフを取り出し腕を切ろうとしていた。
「あなたぬいぐるみだから切っても意味無いでしょうに」
「ぬいぐるみなの? 召喚獣だと思ってたんだけど」
「違うわよ。正真正銘熊のぬいぐるみ。動いているのは私の無属性魔法プログラムが働いているからよ」
「プログラム?」
何かそのままな名前だなあ。
「プログラムは、無機質な物にある程度の命令を入力して動かす事が出来る魔法よ。そうね、例えば……」
リーンは部屋の端に置いてあった椅子を僕の前に持ってきて、手をかざし魔力を集中させると椅子の下に魔法陣が浮かび上がった。
「プログラム開始
/移動:前方へ2メートル
/発動条件:人が腰掛けた時
/プログラム終了」
椅子の下の魔法陣が消えていく。そしてリーンがその椅子に腰掛けると、ゆっくりと前へ進んで行き、2メートル程進むと動きを止めた。
「速度の指定を忘れたわね。まあ、こうやって魔法による命令を組み込む事が出来るのよ」
成程、確かにプログラムだ。物体に入力した事を自動でさせるなんて、凄く使える無属性魔法だぞこれ。
「それって、ポーラに飛べって命令を組み込めば飛ぶ事が出来るの?」
「そこまでの力は無いわ。プログラムで出来るのは簡単な動きまでだから。でも鳥の模型の羽を動かして、飛ばすとかは出来るわよ」
「へぇ……」
制限はある、と。でも十分便利だな、この魔法は。
「ちょっと使わせてもらうよ」
「え?」
椅子に魔力を集中。さっきリーンがやったみたいに床に魔法陣が現れ、プログラムの準備が完了する。
「プログラム開始
/移動:ポーラに向かって人の走る速さでポーラに命中するまで
/発動条件:僕が腰掛けたら
/プログラム終了」
椅子の下の魔法陣が消えてから、腰掛ける。すると、椅子がポーラ目がけて飛んでいく。ポーラは少し逃げたが、椅子の方が圧倒的に早くポーラを跳ね飛ばして停止した。
「これでパンチラで僕を釣った事はチャラだ」
「言う事もやる事も小さいわね……。じゃなくてあなた今プログラムを……」
「使ったよ?」
「何で疑問形なのよ……。というかあなたも使えるの?」
「えっと、あー、うん。そうみたい」
リーンが訝しげな視線を向けてくる。
「じ――――っ……」
またこれか……。
やがて、リーンは軽く息を吐き、腕を組んだ。
「色々聞きたい事はあるけれど、今は止めときましょう。……ポーラに気に入った人間がいたら、連れてきてとプログラムしておいたけど、また面白いのを連れてきたわね。シャルロッテ以来の掘り出し物かもしれないわ、あなた」
「シャルロッテ?」
聞き覚えのある名前に思わず反応する。あの宮廷魔術師のシャルロッテさんか?
「私の弟子の1人よ。今はベルファストで宮廷魔術師をしていたわね、確か」
やっぱりあのシャルロッテさんか……。え、じゃあ……。
「ああ! ぶっ倒れるまで魔法使わせてトランスファーで魔力回復させてまたぶっ倒れるまで魔法使わせるっていう、地獄の修行をさせたあの鬼師匠か!!」
「あ“!?」
やだ、超怖い。というか僕が言ったわけじゃないのに……。
「……まあいいわ、シャルロッテはいずれ引っ叩くとして。冬夜、あなたの魔法の才能は素晴らしいわよ。無属性以外ではどの属性を使えるの?」
「全属性使えるけど」
「……もう驚かないわ」
しばらく溜息をついて考え込んでいたリーンだったが、ゆっくりと金色の目をこちらに向けると、自らの目の前で両手を叩いた。
「――――決めたわ。あなた、私の弟子になりなさい」
「お断りします」
僕の言葉に、ツインテールのゴスロリ少女は、それはそれは不満そうな顔をした。