【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
ミスミドから帰ってきた次の日、依頼の報酬を受け取りに僕らは王都のギルドへ向かった。
リフレットのギルドと同じく騒がしい依頼ボードの辺りを横目に、受付にカードを提出する。個人への直接依頼の為、既に依頼完了の知らせは王宮から伝わっているはずだ。
受付のお姉さんは僕らのカードと依頼書を確認すると、魔法のハンコを押した。
「お疲れ様でした、そしておめでとうございます。今回の依頼で全員ギルドランクが上がりました」
渡されたカードを見ると、ユミナは緑、ユミナ以外の僕らは青にランクアップしていた。一流と称される赤ランクまであと1つだ。
「そしてこちらが報酬の白金貨10枚でございます」
受付のお姉さんがカウンターの上に10枚の白金貨を並べる。2つの国の国交を結びつけるのに大きく尽力した人間に対して妥当な報酬だとは思うけど、それが僕の手に収まるのは不思議な感覚だ。今更と言えば今更だけど。
僕らはそれを2枚ずつ財布に入れて、ギルドを後にしようとした。
「少々お待ちください。王宮から連絡があったのですが、貴方がたが黒竜を討伐したという望月冬夜様のパーティで間違いないでしょうか?」
「間違いなく僕らですけど……。それが何か?」
証拠でも出せと言うのか? 出すにも竜の殆どは村に寄付したし、残りはブリュンヒルドと化している。どうしよう。
「いえ、ご本人かどうか確認したかっただけです。竜討伐の方は王宮の方で保障されましたので問題ございません。ついては竜討伐の証、ドラゴンスレイヤーの称号をギルドから贈らせていただきます」
そう言ってユミナ以外の僕らのカードを受け取ると、別の判子をまた押していく。するとカードの右隅に丸いシンボルが浮かび上がっていた。丸くなった竜に突き刺さる剣、これがドラゴンスレイヤーの証。
しかし1回受け取ってまた渡してって完全に二度手間じゃん。
「最初から一括で押せばいいのに……」
「申し訳ございません」
僕のボヤキに律儀に謝罪するお姉さん。そう素直に謝られるとこっちが申し訳ない。
「それはそれとして、そのシンボルが付いたギルドカードを提示して頂ければギルド提携の武器屋、防具屋、道具屋、宿屋などにて料金が4割引きとなります。ご活用ください」
へえ、特典が付くんだ。実力者は優遇しておくってスタンスか、こりゃありがたい。ちなみにドラゴンスレイヤーの称号は5人以内のパーティで討伐すると貰えるらしい。まあネトゲのレイドボスよろしく集団でボコって、皆でドラゴンスレイヤーですとか言われても嫌だしね。
ギルドを出ると、皆は洋服やらなんやら買い物があるらしいので僕だけ先に帰る事にした。って、その前に僕も買う物あったよ。
荷物が多くなってしまったのでゲートを使って家の庭に帰還すると、花壇を手入れしていた庭師のフリオさんを驚かせてしまった。
「旦那様、それは何ですか?」
僕が抱えている物が不思議なのか、花壇の手入れを途中で止めてフリオさんが尋ねてくる。
「銅とゴム、それと革が少し。これで自転車を作ろうかと思いまして」
「じてんしゃ?」
「まあ、乗り物ですよ」
「はあ……?」
特に意味は無いけど何となくはぐらかす僕。
とりあえずタイヤ部分から作ろう……って、まずは空気入れ作らなきゃダメじゃない?流石に肺活量で自転車のタイヤを膨らませるのは無理、ていうか嫌だし。
モデリングで簡単な空気入れを作り、ちゃんと動くかどうかを確認しているとライムさんとオルトリンデ様がやって来た。
「旦那様、オルトリンデ公爵殿下がいらっしゃいましたが……。何をされてますので?」
「やあ冬夜君。何だいそれは?」
フリオさんと同じ反応をする2人。それに対し僕はフリオさんに言ったのと同じ内容を話しておく。
「ところでオルトリンデ様はどのような用件でこちらへ?」
「いや、今回の依頼のお礼を言おうと思ってね。それとあの手紙を送れる鏡。アレを1つ貰えないかと」
「ゲートミラーを? 何でです?」
「いや妻にね。遠方の母親と手紙で頻繁にやり取り出来れば喜ぶかな、と」
若干照れながら公爵はそう語る。どうにも僕には真似できそうにないな、お熱い事で。とりあえずライムさんに僕の部屋の机の引き出しからミスミドで作ったゲートミラーを1セット持ってきてもらい、エンチャントでゲートを付与する。一応確認はしたが、特に問題は無さそうだ。
「わざわざ言うまでもないかもしれませんけど、内緒にしておいてくださいよ?」
「ああ、分かっているとも」
ついでにミスミドで買ったスゥへのお土産も渡そうかと思ったが、直接渡す方が良いかと思い直し仕舞う。いやこれ、どのタイミングで渡そうか本当に。
「ところでこの……、自転車? はどれくらいで出来るのかね?」
「うーん、初めて作るので何とも言えませんね」
「そうか。まあ完成まで見せてもらおうか」
「……暇なんですか?」
「まあな」
おい公爵、と思わずツッコミを入れようとしたけどよく考えたらこの人どんな仕事してるのかよく知らないな。……まあいいか、当人がいいって言ってるんだし。とりあえずタイヤを完成させよう。僕はタイヤチューブを作る為、ゴムをモデリングで変形させ始めた。
「よし、これで完成だ」
「ほう、これが自転車かね」
出来上がった自転車をオルトリンデ様とライムさん、そしてフリオさんが興味深そうに眺める。
作ったのは一般的に流通しているママチャリって奴だ。簡単な造りだけどちゃんと前カゴもあるし、リアキャリアもある。夜間用のライトは面倒だったから付けてないけど。
早速革製のサドルに跨り、ペダルを漕いで走り出す。見ていた皆が感嘆の声を上げる、やっぱりこの世界自転車無いんだな。まあ地球でも正確な発祥は不明らしいけど。
庭を一周してブレーキをかけて停車。よし、車体にもブレーキも何の問題もないな。
「冬夜君、それは私にも乗れるものかね!?」
「誰でも乗れるものですよ。ただ、初めて乗るには結構練習が必要ですけど……、やる気ですか?」
「勿論!」
なんて力強い返事だ、わざわざ聞いたこっちが間違っているみたいじゃん。オルトリンデ様は勢い込んで僕から自転車を受け取ると、サドルに跨り僕を真似してペダルを漕ぎだしたが見事にすっ転んだ。慌ててライムさんが助け起こすが、再びペダルを漕ぎだしまた転ぶ。
僕も子供の頃ああやって転んで覚えたっけ。どれくらいで乗れたかは正直覚えてないけど、結構掛かったしその分乗れた時は嬉しかったなあ。
流石にこれ以上転ばせるのもなんなので、ネットで調べてみると自転車を1日で乗れる方法みたいなサイトが出てきたのでそれを参考にアドバイス。
何度も何度も転んではノリを繰り返すオルトリンデ様をライムさんとフリオさんに任せて、僕は2台目を作り始める。乗れるようになったら欲しがるし、乗れなくても練習の為に欲しがるのは火よ見るより明らかだ。
やがて2台目の自転車も完成し、よく考えればスゥも欲しがるんじゃないかという懸念から、子供用のを作り始めた。補助輪を付けようかと思ったけど、スゥは10歳だし無くてもいいだろう。
やがてそれも完成し、オルトリンデ様はどうなったのかなと様子を見ようとしたタイミングで、当のオルトリンデ様が僕の前を自転車に乗って走り抜けた。お、乗れた乗れた。
「やった、やったぞ! はははははは!!」
笑いながら自転車を自由自在に操るオルトリンデ様。立派な服や顔が泥だらけだが、いい笑顔でぐるぐると庭を走り続けていた。自分でも性格悪いと思うけど、いい年こいた大人が子供みたいにはしゃぐ光景を僕はどんな思いで見ればいいんだろうという疑問が頭から離れない。
「え、何それ?」
「何でござる!?」
「……乗り物?」
「叔父様!?」
買い物から帰ってきた4人が、笑いながら自転車で庭を回り続けるオルトリンデ様を奇妙な物を見る目で見ていた。確かにちょっと引く。
やがてオルトリンデ様が停車すると、開口一番予想通りの事を言ってきた。
「冬夜君、この自転車を譲ってくれ!」
「そう言うと思って作っておきましたよ。スゥの分もどうぞ」
流石に材料費よこせなんてケチ臭い事は言わない。
後ろに置いてあった2台の自転車を見ながら
「さすが冬夜君だ!」
と言ってから自分の物になった自転車に嬉々として跨る。嬉しくない褒められ方だな。
スゥの分は公爵家の庭にゲートで送っておいたが、オルトリンデ様は自転車に乗って帰ると言い出した。
一応周りに気を付けるように言っておいたけど大丈夫なんだろうか。大丈夫だよね、いい大人なんだし。
オルトリンデ様は上機嫌で馬車を伴いながら自転車に乗って帰って行った。オルトリンデ様この分だと王様に自慢しそうだな……。王様の分をもう1台……。いや他にも要望が来るかもしれないから何台か作っておくか。
オルトリンデ様を見送り振り返ると、自転車に跨り盛大に転んでいるエルゼの姿があった。
「いたた……。意外と難しいわね」
「では次は拙者が」
「その次は私が」
「冬夜さん、もう1台作れませんか?」
「……君らも乗るの?」
「「「「当然」」」」
だから何で強く返事するの? 僕が間違っているのこれ? というかユミナとリンゼはスカートだし着替えた方がいいんじゃないの?
ずっとオルトリンデ様のサポートをしていたライムさんとフリオさんがエルゼ達を手伝うのも横目に、結局みんなの分と使用人さん用の1台を作る羽目になった。途中で材料が足りなくなり、もう1回買いに行かなきゃいけなくなったけど。自転車屋なんてはじめないぞ僕は。
これがあればラピスさんにセシルさん、後フリオさん達の買い出しが楽になると思って作ったのに……。まあ、乗りこなすのはちょっと手間だけど。
その日、風呂場でしみるという悲鳴が何度も響いた。あ、回復魔法でも掛ければ良かったのか。ま、リンゼが居るんだし自分でするでしょ。