【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。   作:味音ショユ

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今回は、このSSの冬夜は原作冬夜の面影を残さないほどキャラをぶっ壊しているわけじゃない、という事を示してくれると思う話です。
実際示しているかは私にもよく分かりません。


収納魔法、そして盗難。こんなことなら覚えたばっかりの収納魔法使っとけば良かった

「ストレージ:イン」

 

 覚えた無属性魔法を展開。魔法陣が床に現れ、その上に置いてあった椅子が一瞬にして床に沈んで消える。完全に見た目はホラーだけどこれ収納だから。

 

「ストレージ:アウト」

 

 今度は椅子を思い浮かべ魔法を発動。魔法陣が浮かび上がり椅子が床から飛び出してくる。

 

「うおっと」

 

 飛び上がって落下してきた椅子を受け止める。力加減ミスすると出すだけで飛んでくるとか結構怖いんだけど。

 ストレージは物をしまっておける無属性魔法だ。動物や魔物の様な生き物は収納できないが、植物は例外なのか収納できる。その収納は魔力に比例するらしく、僕の場合おそらく家1軒以上は収納できる気がする。

 収納されている間は時間が凍結しているのか、温かいスープを収納しておく実に取り出しても冷める事は無いらしい。なんかドラ○もんの道具に似たような物があったような……。

 旅をしていて一番面倒なのは、荷物の運搬だと僕は思う。ミスミドに持っていた姿見とか、手に入れた竜の角とか。持ち歩くのは面倒極まりなかった。この間の自転車もだけど。

 そこでこの魔法だ。これでまるでRPGの主人公よろしく荷物に悩まされる心配は無い。思い返すとドラ○エの主人公が持ってたふくろもこの魔法みたいなものかもしれない。

 さて、今日も買い物をしてこよう。この魔法があればいくら買っても問題ないからな。

 財布を持って上機嫌で自室を出て1階へと降りた。リビングに入ると隅のソファで琥珀が体を伸ばして気持ち良さそうに寝ていた。お前虎じゃなくて猫だろ。

 そのままテラスを通り庭に出る。庭の隅ではフリオさんとクレアさん夫妻が家庭菜園の野菜の様子を見ていた。

 

「どうです、ちゃんと育ってます?」

「あ、旦那様」

「ええ、順調ですよ。とりあえずキュウリとトマトを植えたのですが、この分ならその内収穫できますよ」

 

 フリオさんが嬉しそうに語る。もぎたて野菜サラダを食べられるって訳か。そうなると果物も欲しくなるな、栗とか柿とか。……栗って果物か?

 

「旦那様、今日のお昼は何か要望がございますか?」

 

 思考の迷路に陥りかけていた僕にクレアさんがランチのメニューを尋ねてくる。大体お任せにしているが、どれも美味しい。流石ライムさんが連れてきただけはある。

 

「この前あげたミスミドの料理の本に書いてあったメニューはもう打ち止めですか?」

「いえ、エルゼ様や八重様がそろそろミスミド料理は飽きたと申しまして……」

 

 確かに、ベルファストに帰ってきてからミスミド料理ばかりを僕が希望してたしずっと食べてたような気がするな。

 

「それで旦那様の郷土料理を何かお聞かせ願えればと思いまして……」

「そうですね、それなら――」

 

 クレアさんの言葉を聞いて僕は考える。今日は暑いからさっぱりしたものがいいな、そうだ。

 

「冷やし中華がいいです」

「ひやしちゅうか? 聞いた事がありませんね」

 

 クレアさんが嬉しそうに目を輝かせる。おおっと、見た事の無い表情だ。ひょっとして未知が嬉しいんだろうか。とりあえずレシピを調べて、ドローイングで転写してクレアさんに渡す。はてさてどうなるやら。

 とはいえそれはそれとして、そろそろ出かけよう。

 

 

 ゲートを使って王都の外周部、南区へ向かう。この辺りは商業区で、色んな店が軒を並べている。西区に近い方には色物多めの高級防具店ベルクトの様な店が、東区に近い方には安い酒場や劇場がある歓楽街が広がっていた。ちなみにストリップもやってるらしく、僕は何度か行ってるんだけど、それが皆に知られるとユミナとエルゼ、後ラピスさんになぜか睨まれた。解せぬ。

 僕らの家がある西区は富裕層が住む住宅街となっているが、反対に東区は普通の人達が住む住宅街になっていた。

 しかし、東区は西区に比べると治安が悪くスラム街の様な場所もあるらしい。働き口を失った者や、親を亡くした子供たちなんかが等々を組み窃盗などをしている噂だ。ま、どこにも暗部はあるって事かな。日本でもちょこちょこそういうのは見た、特に何もしなかったけど。

 南区の裏路地に出た僕は賑わう表通りに出た。まるずはギルドに行ってお金を少し下ろさないとな。

 路上では旅の行商人や大道芸人などがいる。おお、ナイフのジャグリングをしているぞ。お婆ちゃんに習ったお手玉すら満足にできない僕からすれば、あれこそチートにしか見えない。

 そんな事をよそ見しながら考えていたら人にぶつかってしまった。ぶつかった相手は10歳位の男……、いや女の子だ。薄汚れたキャスケットを目深に被り、ヨレヨレのジャケットとズボンを着ている。

 

「っと悪いね、前を見てなかった」

「ボケっとしてんなよ兄ちゃん。気を付けな」

 

 そう言い放って女の子はさっさと人ごみに消えてしまった。スゥより年下だろうにちょっとガラ悪いな……。

 ギルドに着くと相変わらず今日も賑わいを見せていた。色んな冒険者が依頼ボードの前で依頼書を睨んでいる。僕はそれを軽くスルーして、受付のカウンターで預けているお金の引きおろしを頼んだ。

 

「ではギルドカードの提示をお願いいたします」

「はいはいっと」

 

 ……あれ?

 懐、胸ポケット、尻ポケットその他諸々。……あれれ~おかしいぞ~?

 財布が無い。確かに持って出てきたぞ僕!? 落とした? いやあいつだ!!

 やられた、多分さっきの子供だ。見事にスラれたって訳だ。やるじゃん、許さないけど。

 中身は大した事無いけど、ギルドカード掏られたのは非常に拙い。

 僕はギルドを足早に出ると、幸いな事にスラれて無かったスマホを取り出し僕の財布で検索する。ヒット、まだこの地区になるな。

 なんだ? 走っているのか凄いスピードで財布が移動しているな。あ、裏路地の袋小路に入った所で動きが止まった。まあ、そうなれば僕のギルドカードで検索すればいい。

 とりあえず急いで検索地点に辿り着くと、そこにはガラの悪い男が2人で地面に蹲るスリの女の子を何度も足蹴にする姿があった。

 

「また俺達の縄張りで仕事しやがったなこのクソガキ! てめえのせいで佳らが厳しくなっちまったじゃねえか!」

「好き勝手にやられるとこっちが迷惑なんだよ。覚悟は出来てるだろうな」

 

 1人がナイフを取り出し、女の子の腕を押さえる。それを見て女の子の顔が恐怖に染まった。

 

「やめて、やめてよ! 謝る、謝るからぁ!!」

 

 女の子が涙を流し懇願するが、2人の男はせせら笑うだけで押さえる手をどかそうとはしない。なんかエロ同人の冒頭みたいだな。

 ……ま、僕の財布をスリ取った代償はあれくらいでいいだろう。

 

「もうおせえんだよ。同業者のよしみで指1本で目をつぶってやる。2度と俺達の縄張りで仕事するんじゃねえぞ。次は殺すからな?」

「いや……、いやあぁぁ!!」

「スリ如きが随分偉そうな口きくね」

 

 チンピラっぽい女の子を押さえている男2人が、声をかけた僕の方を睨む。押さえられた女の子も涙を流しながら目を見開いていた。

 

「なんだてめえは? 邪魔すんじゃねえよ、殺すぞ?」

「そんな安い脅し文句聞いたのは久しぶりだよ。……それより、一応聞くけどあんたらもスリだよね?」

「だったらどうだってんだ!」

「撃つのに躊躇いが無くなるだけだよ」

 

 それだけ言って僕は腰からブリュンヒルドを引き抜き、2人のチンピラを撃つ。スリに、ましてや食指の動かない子供とはいえ、女を足蹴にして指切り落とそうとする奴に容赦する理由は無い。

 

「ゴゥッ!?」

「ガハッ!?」

 

 パラライズをエンチャントしたゴム弾を食らいその場に崩れ落ちる2人。それを見て唖然としている女の子。僕は銃をホルスターに仕舞うと、そのまま女の子に話しかけた。

 

「さてと、それじゃ僕の財布を返してもらおうかな」

「あ……」

 

 そう小さく呟くと、女の子は懐から僕の財布を取り出し僕に投げる。それを僕が受け取ると中身を確認する。大丈夫だ、問題ない。

 

「ま、中身抜かれてないし通報は勘弁してあげるよ。それとこれもサービス」

 

 僕は女の子に近づき様子を見る。当たり前だが女の子の身体には痣や傷痕があった。

 

「癒えよ、なんかいい感じに、キュアヒール」

 

 回復魔法をかけてあげると、たちまち小さな傷や痣が消えていく。女の子は自分の身体に起こったことを驚きの目で見ていた。

 

「それじゃあね」

「あ、あの!」

 

 立ち去ろうとした僕を女の子が呼び止める、何だよもう。

 

「助けてくれて、有難う……」

「そう思うならもうスリはやめといた方が良いよ。腕前は認めるけど次は捕ま」

 

 ぐぅぅぅうぅうぅ……。

 

 るぞ、と後ろに付けるより前に物凄いお腹の音が鳴った。辺りに沈黙が流れる。

 

「……何、お腹空かせてるの?」

「もう3日食べてない……」

 

 そう言って女の子は俯いた……、と思ったらこっちをチラチラ見てくる。図々しいなこの子。

 でもまあ、いいか。ここで僕が見逃してもこの子の空腹は収まらないし、別の人相手にスリして捕まるのもなんだし。

 

「いいよ、何かの縁だし食べ物買ってあげるよ」

「本当!?」

 

 セリフだけ聞くと誘拐犯みたいだな、と思っていると女の子が駆け寄ってくる。すると、走った弾みでキャスケットがずれ、帽子の中から一房の髪が零れ落ちてきた。へえ、ロングだったんだ。

 肩口を超える位まで伸びた明るい亜麻色の髪。なんだかさっきまでのイメージとガラリと変わってしまった。

 

「……キャスケットで髪隠さない方が可愛いんじゃない?」

「い、いきなり何言ってんだよ……。えっと――」

 

 そこで言いよどむ女の子を見て、そう言えば自分の名前を名乗っていない事に気付く。

 

「僕は望月冬夜。望月が家名で冬夜が名前だよ」

「あたしはレネ。よろしくな、冬夜兄ちゃん!」

 

 自己紹介の後、スリの加害者でおまけに被害者にご飯買ってもらう立場とは思えない程いい笑顔を見せるレネ。女の子ってのはメンタルが強いなあ。

 ……いやこの子が特別製なだけかな?

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