【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
「ただいまー」
オリガさんとリオンさんのデートを尾行したせいで、僕とスゥのデートが有耶無耶になってしまったので別の日に改めてデートに行ってきた。今度は特に何かが起こる訳でもなく、スゥも1日楽しそうにしていた。
その帰り、スゥを公爵家に送りゲートを抜けて家の玄関先に帰り、玄関ホールに入るとライムさんが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、旦那様。お客様がお見えになっています」
「客?」
帰ってきたばっかりなんだけどなあ、と思いながらライムさん越しに廊下を見ると、ひょこひょこと何かがこっちに歩いてくる。
隊長50センチ、灰色の毛並みに首には赤いリボンを付けた熊のぬいぐるみ。
「ポーラ!?」
名前を呼ばれたポーラは、よう相棒と言わんばかりに右手を上げて挨拶をする。いや僕は君の相棒になった覚えは無いんだけど。
それにしても何でポーラがここに……?
「まさかポーラ、君には飛行能力があるのか!?」
「そんな訳無いでしょう。私のお供でついて来たのよ」
応接間の扉が開き、ツインテールの白髪と黒いゴスロリ衣装を身に纏った少女、リーンが顔を出した。
その瞬間、特殊能力持ちポーラの夢は完全に消えた。
「……なんだ、リーンが連れてきたのか」
「何で落ち込んでるのよ」
「いや別に落ち込んでないし、それより何でベルファストに?」
「どう見ても落ち込んでるけど、まあいいわ。ちょっと調べ物にね。後シャルロッテにお仕置きをしに来たって所かしら、もう引っ叩いて来たけど」
「器ちっさ」
随分根に持つなあ、と呆れを篭めて小さく呟いたらリーンが軽く僕にローキックを入れてくる。
それを適当にあしらっていると、たまたま通りかかったのかユミナがいつの間にか近くにいて僕に声をかけてきた。
「お帰りなさい冬夜さん。あら、その方はどなたですか? 冬夜さんが新しく口説いた人でしょうか?」
「さらっと僕をロリコンにしないで欲しい……。この人はミスミドの妖精族の長で名前はリーン。こう見えても600歳越えのババアだからちゃんと敬意を」
「フンッッッ!!」
僕がユミナにリーンの紹介をしている最中、リーンはいきなり飛び上がり、回し蹴りの要領で足を回し、膝の裏側を僕の側頭部に喰らわせる。プロレスのシャイニング・ウィザードだ、これ。
「いったあああああああ!! 何するのさいきなり!!!」
「女の子にババアとか言うからよ」
「あの……、妖精族、ですよね?」
ユミナは訝し気な目でリーンを見る、そりゃ魔法特化の種族がプロレス技を使って攻撃すればそんな目で見てもおかしくない。
更に言うなら、リーンの背中には前あった筈の妖精の羽根が無くなっている。
「何、毟ったの背中の羽根?」
「毟ってないわよ。背中の羽根は光魔法で見えないようにしているのよ、こっちの国じゃ目立つから」
魔法を解除したのか、段々と背中に半透明の羽根がある事が分かる。その羽根は窓から差し込む太陽の光でキラキラと輝いている。
「でも何でウチに? どこで住所知ったの? 個人情報保護は?」
「貴方の家の場所はシャルロッテから聞いたのよ。そしてここに来たのは貴方に聞きたいことがあったから。今から数ヶ月前、貴方が倒したっていう水晶の魔物について」
「……何でまた?」
水晶の魔物、といったら僕にまるで将棋だなと言わせたあいつしかいない。旧王都の地下遺跡にいた剣も通じず、魔法も吸収し、再生能力を持つあの怪物。
「ミスミドにも出たのよ。その水晶の魔物がね」
「……マジで?」
リーンの発した言葉に、僕は驚きと共に何とも言えない寒気を覚えた。
「貴方達が帰る前の日にね、ミスミドの西側にあるレレスのという町から急使が来たの。数日前から奇妙な現象が起こっているってね」
「奇妙な現象?」
リーンから詳しい話を聞くため、僕らは場所を変えリビングに居る。椅子に腰掛けたリーンが紅茶のカップを手に取って口にする。対面には僕とユミナ、左右にはリンゼと八重が座っていた。ポーラはリーンの横でフラダンスを踊っていたが、リーンに殴られてその後は黙って座っている
ちなみにエルゼはいない、。ここ最近エルゼとレオン将軍は何度も手合わせしており、今じゃ師弟の様な関係になりつつある。その為一緒に訓練しているらしい。今もしているんだろうか?
「それを発見したのはレレスの村の子供達だった。森の中の何もない空間に小さな亀裂が浮かんでいるのを発見したのよ。触ることは出来ない、でも確かにそこに存在する奇妙な亀裂をね」
空間に亀裂か……、ゴル○ムの仕業だな。違うか。
「やがて子供達は、日ごとに段々とその亀裂が大きくなっていくことに気付いた。それで慌てて大人達に知らせ、村の長老が王都へと使いを出したのよ」
その使いが辿り着いたのが、僕らがベルファストに帰る前の日って事か。
「話を聞いて興味を持った私は、戦士団1小隊と共にその村に向かったわ。だけど、そこで見たのは壊滅に追い込まれた村だった。水晶の魔物が村人達を殺し、蹂躙の限りを尽くしている現場だったのよ。私と共にいた戦士小隊戦ったのだけれど、剣も魔法も通じず更には再生する相手には歯が立たなかった。まさに悪夢だったわ。戦士達は半数が再起不能、村は完全に滅んだわ」
「僕らが戦ったのと同じだ……。それで、その水晶は?」
「魔物を付けなさいよ。まあ、物理的なダメージを与える魔法なら効くと分かって、そいつの頭を重さ数トンの岩をぶつけたのよ。そしたら頭が砕け散って、二度と再生しなかったわ」
おそらく僕がアポーツで取り除いた赤いボールを破壊したんだ。だから活動を停止したんだろう。あのコオロギと一緒だ。
「このモンスターを調べようと思ってシャルロッテに引っ叩きながら協力を求めたら、ベルファストでも似たようなモンスターが現れたっていうじゃない。しかも倒したのが貴方だっていうから、驚いたわよ」
「本当に?」
「ごめんなさい嘘。似たようなモンスターが現れたのには驚いたけど、倒したのがあなたと聞いた時はなんか納得したわ」
リーンは意味もなく嘘を吐きながら、人の悪い笑みを浮かべて僕の方を真っ直ぐ見てくる。何この状況、昔おじいちゃんにヤクザとのつながりを周りに自慢したのがばれて怒られた時みたいな嫌な感じは……。
「聞いたわよ? 貴方、無属性魔法なら全て使えるらしいわね? 道理でプログラムも使えるわけだわ」
「ヒ・ミ・ツ、にしてくれると嬉しいなーって」
シャルロッテさん喋っちゃったのかー。まあこの妖精族相手に本気の隠し事は、結構きつそうではあるけども。
「まあそれはそれとして。生き残った村人の話では、空間に広がっていった亀裂が破壊されて、その中から水晶の魔物が出てきたという事だったわ」
破壊された空間から……? そんな事が出来るのはやはりクラ○シスか……?
リーンがポケットから1枚の紙を取り出し、それをテーブルの上に広げる。そこに描かれていたのは、僕達の倒した魔物ではなく、別の形をした魔物だった。
僕らが倒した魔物は、アーモンド型の頭部に細長い足が6本付いた、一言でいえばコオロギみたいな形をしていた。だけどリーンの紙に描かれていたのは、アーモンド型の頭部という共通点はあるけれど、そこから伸びる足は無く長い胴体があるだけだった。さながら蛇だ。自然界に居る丸みを帯びた姿ではなく、さながら荒いドット絵みたいにカクカクとした蛇。
「僕らが倒した奴とは形が違うね。こっちのはコオロギみたいだったし、足を伸ばして攻撃してきたんだ」
「こちらのは尻尾の部分伸ばして刺し殺したり、薙ぎ払ってきたわね。まるで槍だったわ」
おそらく形は違えど、本質は同じものだろう。ポ○モンでいうなら種類は違うけど同じウルトラビーストみたいな感じ。あってる?
「……昔、私がまだ小さかった頃に妖精族の長老から聞いたお話があってね、どこからともなく現れたフレイズという悪魔がこの世界を滅ぼしかけたとか……。その悪魔は半透明の身体を持ち、ふじみだったとかという話よ。結局、その悪魔は消えて世界は何事も無かったかのように元に戻ったらしいけど」
「……えぐい昔話だね。そのブレイヴって奴が水晶の魔物って事?」
「昔話なんてそんなものよ、後フレイズね。まあ、フレイズかどうか分からないわ。既に長老は亡くなっているし、長老も子供の頃聞いたお伽噺だって言ってたもの。それに妖精族が外部と付き合うようになったのはここ150年の事だから」
「鎖国してたんだ……」
もしあの怪物がフレイズだとして、どこから来たのかとか何故人を襲うのかとか疑問は山ほどある。が、考えても分かる訳無いし倒せない訳じゃない。その上で黒幕がいるなら引きずり出してぶっ倒す。
「僕らが考えても分かる問題じゃないよ。現れたら倒す、位しか言えないや」
「そうね。ところで私、オリガの代わりに今度ミスミド大使としてこの国に滞在する事になったのよ」
「シャルロッテさん可哀想……」
リーンの言葉に思わず呟く僕。本当に可哀想。
「これからちょくちょく遊びに来るからよろしくね」
「勘弁してよ……」
「それと冬夜、貴方ゲートが使えるわね?」
あ、ばれてた。わざわざ面倒な子芝居を打ってまで秘密にしてたのに。これではせっかく結んだ国交が台無しになっちゃう。
「始末……」
「しなくていいわよ。獣王や他の一族の長に言ったりはしないから安心なさい。私は身内には優しいのよ」
「身内?」
「弟子入りしてくれるんでしょう?」
「脅迫って言わない、それ?」
にやにやと嫌な笑みを浮かべながらこちらを見てくるリーン。僕が脅迫と断言しても彼女は表情を揺るがさない。
「ふふ、冗談よ。いつか貴方が言ったように、無理矢理なんて趣味じゃないわ」
「嘘くさ……」
半分位は本気だったでしょ、と僕がリーンに言っても彼女は余裕綽々のままだった。そのまま僕が彼女を睨んでいると、リビングの扉が開き、紅茶のポットとお菓子を乗せた盆を持ってセシルさんとレネが入ってきた。
「お茶の、おかわりを、お持ちしましたっ」
レネがガチガチに固まって緊張しながら言葉を紡ぐ。ぎくしゃくとまるで立てつけの悪い絡繰り細工みたいな動きで、テーブルの中央にお菓子の入った皿を置き、空になったティーカップにお茶を注いでいく。それを後ろで笑顔で見守るセシルさん。
「失礼いたしましゅた」
噛んだ。一礼して部屋から2人が退出する。まあよくやったんじゃない、とは思うけどフォローしてあげなよセシルさん。
「随分と小さな子を雇っているのね。趣味変えたの?」
「僕の年上趣味は永遠に不変だよ」
そう言いながらカップに注がれたお茶を飲む。少し熱いし味が濃いけど、まあ新人だ。温かく見守ろう。そう、さながら老師の様に……。温かいかなこれ?
「ところでさっきの話だけど、ゲートは使えるのね?」
「使えるよ。1回行った所にしか行けないってのが欠点だけど」
「無属性魔法リコールって知ってる? 他人の心を読み取って記憶を回収する魔法なんだけど、これを併用すれば読み取った他人の記憶からその場所へ跳べるはずよ」
「そんな魔法あったの!?」
何だよ、もっと早く知ってたらわざわざ長々とミスミドまで旅する必要もなかったのに……。
しかも聞く限り別に妖精族の秘伝って訳でも無いし、一方的に僕の知識不足が明らかになってる気が……。
「その魔法とゲートを使って、貴方に連れて行って貰いたい所があるのよ。そこにある古代遺跡から、手に入れたい物があってね」
「よく分かんないんだけど、どこに連れて行けばいいのさ?」
「東の果て、神国イーシェンへ」
「イーシェン?」
思わず視線を八重の方へ向けてしまう。向けられた八重もびっくりしていた。
元世界の日本によく似た国らしいイーシェン。正直ずっと気になっていたけど遂に行けると気が来たのか。
「こっちの子はイーシェンの生まれでしょう? この子の心を読み取ればゲートでイーシェンに行けるわ」
「ちょ、待つでござる! 心を読み取るって、拙者のでござるか!?」
「心配しないで。リコールは渡す方が許可した記憶しか回収できないから、お風呂シーン流出の心配は無いわ」
「それはいいでござるが……」
八重が何とも言えない顔で悩んでいる。何でそんなプライバシー保護に熱心なんだこの無属性魔法。
「リコールは相手に接触して心に触れ、その記憶を自分の中に回収する魔法よ。接触にはなんてったって口付けが一番ね」
「よし八重、早速使おう! これはいやらしい気持ちじゃなくリーンの為だから、ね!?」
「必死過ぎて正直引くでござる」
「というか冗談ですよね、そうだと言って下さい」
「じょ、冗談よ」
恐ろしい殺気を見せるユミナに、流石のリーンも少々たじたじになっていた。というか冗談なのか……。
「よくもだましたアアアア!! だましてくれたなアアアアア!!」
「悪かったわよ……。とにかく貴方達はこっちで対面に立って、そして両手を握る」
リーンに引かれるままに八重と向かい合って立ち、八重と両手を握らされる。や、柔らかい……。剣握ってるんだから手にタコとかないのか、どういう事だ!?
「はい2人とも目をつぶって。八重の方は頭にイーシェンの風剣を思い浮かべる。なるべく鮮明な場所をね。曖昧な場所だと似たような場所にゲートが開くかもしれないから。そしたら冬夜は八重とおでこを合わせてリコールを発動させて」
リーンに言われるがままに魔力を集中し、八重と自分のおでこを合わせる。ふわっといい匂いがしてきて、思わず集中を乱しそうになるが何とかこらえて魔法を発動した。
「リコール」
頭の中にぼんやりと何かが流れ込んでくる。大きな木……、その木の根元に何か、鳥居かこれ。小さな祠に左右には狛犬らしきもの。ここが八重の中にあるイーシェンの記憶なのか。
「見えた!」
目を開いて正面の八重と見つめ合う。他人の記憶を共有するって変な気分だな、パー○ンのコピーロボットってこんな感じなのかな?
「もういいでござるか?」
「え、うん」
僕が答えると八重はあっさり僕の手を離す、なんか悔しい。
ま、いいや。とっととゲートを使おう。
「ゲート」
さっき脳裏に浮かんだ光景を再び思い浮かべゲートを発動。
浮かび上がった門をくぐると、そのは森の中であり、大きな木と狛犬に守られた鳥居と祠が見えた。ここが、イーシェン……。
「間違いござらん。ここは拙者の生まれ故郷、イーシェンでござる。実家のあるハシバの外れ、鎮守の森の中でござる」
同じようにゲートを抜けてきた八重が断言する。
東の果て、極東の国、神国イーシェン。僕らはそこに足を踏み入れた。
ところでリンゼ、あの場に居たのに一言も喋らなかったな。
アニメ8話終了。
残り4話、キツイ。