【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
頑張らないと。
一旦家に戻り、エルゼの帰宅を待ってから準備してもう1度イーシェンへと渡る。さっきのはあれだよ、ルーラ出来るようにするためにとりあえず一旦町に入るみたいな感じ。
メンバーは僕と八重、エルゼ・リンゼ姉妹にユミナと琥珀、それとリーンにポーラだ。
八重の案内で鬱蒼とした森の中を抜け、段々と木洩れ日が差してくるようになったかと思うと、急に視界が開けた。
「おぉー」
思わず声が漏れる。小高い丘の上から見えたその景色には、街と水田が広がっていた。その向こうに立っているのは日本で見た事のある城だ。ジャパニーズキャッスルだ、僕が知っているものと比べると若干小さく見える。
「あれが拙者の故郷、オエドでござる」
おお、お江戸ならぬオエド。何そのパロディAVみたいな雑な違い。どうせならT○Aばりに頑張ってよ。
よく見ると町の作りが単純に日本の江戸時代のままじゃない。町は城砦都市で周りを堀で囲み、白く高い壁が町への侵入を拒む。城壁の上には保証が性質、所々に立つ櫓には弓兵がいるらしい。
イーシェンは決して大きな国では無い。一応国王がいるらしいのだが、今では名ばかりで地方の領主が好き勝手幅を利かせているらしい。日本との違いが見えてなによりだ。
主だった9人の領主が地方を治め、小競り合いしながらも何とか形の上では国王をトップにして、国として成り立っている様だ。それ成り立ってるって言う? まあ僕はいいけど。
9人の領主とは、島津、毛利、長宗我部、羽柴、織田、武田、徳川、上杉、伊達……っておい。日本に寄せるのか寄せないのかどっちかにしてくれ。
何、イーシェンって戦国時代なの? 天下統一目指してるの? と八重に確認してみるとそんな事は無く、大規模な戦などここ数十年無いそうだ。まあ、そうじゃなきゃベルファストに剣を教える人が行くわけないか。
八重の実家があるオエドはイーシェンの東、徳川家の治める領地だ。そこそこ豊かで、領民にやさしい領主であるらしい。
「で、リーンが行きたい古代遺跡ってどこにあるの?」
小さいと言っても国だし、やみくもに探したくは無い。
「場所は分からないわ。ただ、ニルヤの遺跡としか」
「えぇ……、そんな適当な話に付き合わされるの僕ら……」
「遺跡探索なんてある程度は当て水量になるものでしょ」
「場所のアタリぐらいは付けて欲しいんだけど……。八重は知ってる?」
「ニルヤ……、でござるか? 聞いた事がある様な無い様な……。父上なら知っているかもしれませぬ」
とりあえず八重の先導で町へと歩いていく。大きな堀に掛かる木製の橋を渡り、街中に入る。
町に入ってみると、限りなく和風に近い世界であった。建物は殆ど木製の平屋建てで屋根には瓦、障子の張られた戸に、店には暖簾が掛かっている。ん、今プラスチックの雨どい無かった? ちなみに暖簾に描かれている文字は当たり前だけど日本語じゃない。落ちつかないなあ……。
行き交う人々も侍姿に着物姿、町人らしき人も居れば着流しの浪人までいた。でも侍はちょんまげにしていないな、皆ポニーテールのように結いているだけだ。
「うわあ、何アレ? 人がなんか担いでるわよ?」
エルゼが道の向こうから、鳶籠を担いででやって来る2人組に目を奪われていた。僕も実物見るのは初めてだ。
「あれは鳶籠屋でござる。イーシェンの辻馬車の様なものでござるよ」
八重が答えると、エルゼ達は目を丸くしていた。そりゃ馬車があるのにわざわざ人が運ぶなんて理解不能だよね。
「……何でわざわざ人が運ぶんですか? 馬車の方が楽だし早いのに……」
「イーシェンはベルファスト程道が整備されないでござるからな。それに起伏が激しい土地が多くて、その道を馬車で上り下りするのは大変でござる。それと、こちらでは馬はかなり貴重な物でござるからな」
へえ、そんな理由があったんだ。土地柄って事か。
「冬夜さん、あそこの人木の靴を履いてますよ」
「あ、あれは下駄だよ」
「あっちの塔には何であんな鐘がぶら下がってるの?」
「あれは火の見櫓に半鐘って言って……」
「綺麗な音が……、あれは何を打っているんですか?」
「風鈴だね。風で鳴る音で風情を感じる物で……」
「……えらく詳しいでござるな、冬夜殿は」
ちょこちょこ解説してたら八重に凄く疑念を抱かれてる。だっておじいちゃんの影響で時代劇とか結構見てたから知ってるものばっかり出て来るんだもん。まさかこの世界って未来の地球なんじゃ……。現代→滅亡→今ここ、みたいな感じで。流石にそれは無いか。
八重の案内で神社の鳥居を横切り、竹林を抜けると開けた場所に堀で囲まれた大きな屋敷が現れた。
九重真鳴流剣術道場 九曜館と書かれた看板が下がる立派な門をくぐり、その家の玄関に着くと八重は声を張り上げた。
「誰かいるか!」
しばらくすると、奥から足音を立てて20歳を超えた位の黒髪を後ろで1つに纏めた女中さんがやって来た。
「はいはい只今……。まあ、八重様!」
「綾音! 久しいな!」
綾音と呼ばれた女中は驚きながらも笑顔で駆け寄り、八重の手を取った。何あの人美人じゃーん。
「お帰りなさいまし八重様! 七重様、八重様がお戻りに!」
綾音さんが奥に向けて声をかけている隙に、僕は八重の脇腹を肘でつつく。
「何でござるか冬夜殿?」
「綾音さんだっけ? 紹介してよ」
「え、嫌でござるが」
「そんなにべもなく断らなくてもいいじゃん……」
そうこうしている内に、再び足音が響き渡り、30代後半位の薄紫の着物を着たどことなく八重に似た優しそうな女性が姿を現した。
「母上、只今帰りました!」
「八重、よくぞ無事で……。お帰りなさい」
母上若っ!? 似てるから血縁だとは分かるけど姉妹でも違和感ないぞこれ! とい僕の思いを置いて母は娘を抱き寄せる。仲睦まじくて何よりで。
「八重、こちらの方たちは?」
「拙者の仲間達でござる。大変世話になっている人達でござるよ。あ、綾音はこの冬夜殿に近づかない方が良いでござるよ、口説かれるでござるから」
「は、はぁ……」
「名指し!?」
名指しで綾音さんに対し僕に注意するよう呼びかける八重。ひ、酷い!
「何でそこまで頑なに口説かせないのさ!? 僕のライフワークを邪魔しないでよ!!」
「改めて聞くと酷いライフワークね……」
エルゼが何か言ってるけど僕には聞こえない。
「あ、あの……。私は初対面の殿方とその様な不埒な行いは致しませんので……」
「不埒なんかじゃない! これは、前を往き、未来を切り開くための行い! そして明日に残る確かなものを作る為の行為だ!!」
「格好良く言ってますけど、要するに床に誘っているだけですよね」
「そうでもある!」
「何て力強い断言でござるか!?」
ユミナと八重のツッコミに怯む事の無い僕。でもこれ口説くのもう無理じゃないかな? いや、まだだ!
「ともかく綾音さん。僕は別に最初からそこまでの関係になろうと思うほど性急な事は言いません」
「でも最終目標は?」
「当然ベッドイン」
しまった、思わずリンゼの問いかけに普通に答えちゃった!?
「すみません、やっぱりなしで」
そう言って綾音さんは去って行ってしまった。ちくしょう!
「八重のせいで……!」
「いやこれあんたの責任でもあると思うけど」
「でも流石にちょっとだけ冬夜さんが可愛そうですよ」
僕の恨めしい目線とユミナの言葉に、八重は怯み素直な謝罪を口にする。
「うう……、申し訳ないでござる。綾音は少々殿方が苦手なふしがあるものでつい……!」
「確かに冬夜は積極的に行くタイプだから、苦手な人はいるかもしれないわね」
八重の言葉にリーンが同意する。いや、そうならそうと言ってくれれば僕だってちゃんと配慮するよ。男性が苦手ならそれを克服するまで僕は付き合うよ、勿論克服してからも付き合うけど。
「ときに母上、父上はどちらでござるか? 城の方にでも?」
八重の言葉に七重さんは少々視線を逸らし、その表情を曇らせる。やがて七重さんは八重の方に顔を向け、ゆっくりと口を開いた。
「父上はこちらにはいません。殿、家泰様と共に合戦場へ向かいました」
「合戦ですと!?」
八重が驚きの余り声を荒げ母親を凝視する。戦いなんてここ数十年無かったんじゃないのか?
「一体どこと!?」
「武田です。数日前、北西のカツヌマに奇襲をかけて落とし、今はその先のカワゴエに向かって進軍しつつあるようです。それを食い止める為に、旦那様と重太郎様がカワゴエの砦へ向かいました」
八重の問いに七重さんは言葉を続ける。どうやら隣接地の領主が突然攻めてきたらしい。戦争なんて突然と言えばそれまでだけど、宣戦布告とか無かったのか……?
「兄上も戦場へ向かわれたのか……。しかし分からぬ、武田はなぜそんな侵略を始めたのか……。武田領主の信玄殿が、そのような愚を犯すとは思えぬが……」
「最近、武田の領主に妙な軍師が付いたそうです。山本某と言う者だそうで。色黒隻眼で不思議な魔法を使う人物だとか……。その者に妙な事を吹きこまれたの矢もしれませぬ」
七重さんが語る話を聞きながら、僕はちょっと頭がこんがらがっていた。えっと、武田の軍師で山本って確か……、武田二十四将の1人の山本勘助だよな? 分かるのかな、今の子供に。僕は時代劇見てるから何とか分かるけど。
「それで戦況はどうなの?」
シリアスパートに入った途端無言だったリーンがそう切り出す。足元のポーラは誰が相手でも関係ないとばかりにファイティングポーズを取り、琥珀に跨っていた。何してんだ。
「何分急な事だったので、十分な戦力を集められず、このままではカワゴエの砦が落とされるのも時間の問題だという噂です」
「それでは父上や兄上は……!」
八重のその言葉に七重さんは無言で首を振る。八重は愕然とするが、すぐにその目からは不安や怯えの色は消え、燃える様な決意の色が現れた。それはそうだ、八重はこの状況で黙って見過ごすような女の子じゃない。
「冬夜殿! カワゴエ砦の近くの峠なら拙者、行った事があるでござる! どうか……!」
「ああ分かったよ! 行ってやるよ、行けばいいんでしょ! 途中にどんな地獄が待っていようと、お前を、お前らを……。僕が連れて行ってやるよ!!」
「冬夜殿……!」
「でもその代わり、綾音さんに僕のいい所たっぷりアピールしてもらうからね」
「了解でござる!」
僕は八重の手を握り、はっきりと自分の考えを告げる。皆の方を見ると、エルゼもリンゼもユミナも、小さく頷いてくれた。正直ユミナは置いて行った方が良い気もするけど、そんな事言える空気じゃない。……優先的に守ろう。
「まさか戦場に行くことになるなんてね。ま、気持ちは分かるから私も付き合うわ」
肩を竦めてリーンが小さく笑う。相方のポーラハやる気満々で、琥珀に跨りながら槍のおもちゃを振り回していた。それどっから出したの。
「八重、その峠の事を思い浮かべてくれ」
「分かったでござる」
八重の両手を握り、目を閉じた彼女の額に自分の額を軽く当てた。
「リコール」
イーシェンに行く時と同じように頭の中に風景が浮かんでくる。大きな一本杉に遠くには砦。あれがカワゴエの砦か。和名なのにカタカナだと何かファミコンチックだよね。
八重の手を離しゲートを開く。真っ先に八重が飛び込み、エルゼ達も次々とゲートに入り消えていく。
その光景を茫然と眺めている七重さんに、最後に残った僕が声を掛ける。
「必ずご主人と八重のお兄さんを連れて帰ってきます。皆無事に戻ってきますから、心配しないで下さい」
「貴方は一体……」
七重さんの問いかけに何と答えたらいいのか困ったが、すぐに決めてこう返答した。
「僕は望月冬夜。全ての美人の味方です」
それだけ言って僕もゲートを潜り抜けた。