【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
このところ自然災害が猛威を振るっていますね、不安です。
そしてこのSSに対するモチベもどんどん下がっていますが、完結まで後20話もないので頑張ります。
ゲートを抜けた峠の先から見えたのは黒煙を上げ、責められている砦の姿だった。一応言っておくけどBL的な意味じゃないよ。
ロングセンスを使い資格を砦の方へ飛ばす。
小高い山の上に聳え立つその砦は、何とか敵兵を防いでいるものの至る所から火の手が上がり、消火と迫り来る敵の撃退で精一杯に見える。
絶える事無く火矢が飛び交い、その隙をついて砦の防壁を敵の兵士たちが登ろうと群がっている。
僕は懐からスマホを取り出し、八重のお兄さんと検索。前にやったから情報は出る筈だけど……。居た、砦の中、城壁の手前で左右に動いている。無事らしい。
「お兄さんは無事だよ。お父さんの方はちょっと分かんないけど……」
「っ! 早く砦に向かわないと……!」
「待ちなさい。貴方あの中に飛び込んで無事でいられると思うの?」
すぐにでも砦へ向けて駆け出そうとする八重をリーンが止める。実際砦は敵兵で囲まれ、近寄るのは容易じゃなさそうだ。
「ならリーン殿、背中の羽根で飛んでいけないでござるか!?」
「無理よ。背中の羽根は退化してしまって、ちょっと浮く程度しか出来ないわ」
「というか、この状況で空を飛んでいたら完全にいい的ですよ」
八重は自分の出したアイデアがリーンの不可能発言と、ユミナの言葉によって否定されて項垂れてしまう。
「大丈夫だよ八重。僕がロングセンスで1キロ先を確認してゲートで跳ぶ。これを繰り返せば砦の中に入れるから。目立つと拙いから、まずは僕1人で砦まで行って改めてここにゲートを開くから、皆は待ってて」
「あの……」
僕が砦へ行く方法を提示すると、八重は安心した素振りを見せたが代わりにリンゼがおずおずと手を上げる。
「何、リンゼ?」
「その方法だと、砦には不法侵入しますよね」
「するね」
「……怪しまれますよね」
「怪しいよね」
そう、この方法たった1つの欠点。それは単に向こうが誤解で襲い掛かってこないかという問題だ。
「ねえリーン、僕はどうすればいい?」
「八重を連れて行けばいいじゃない」
「それだ」
という事で八重を連れて2人でカワゴエの砦を目指す事になった。とその前に
「琥珀、皆の事を頼む。何かあったら連絡を」
『分かりました』
「この子、喋るの!?」
リーンが僕に返事をした琥珀に驚い目を丸くしていた。あ、思わず普通に喋っちゃった。黙っててくれるといいなあ……。ま、何とかなるでしょ。何とかなるよね……?
ともかく今はロングセンスを展開し1キロ先を視認し、砦の手前の林の中にゲートを開いて八重と共に転移。戦場特有の雄たけびや怒号が飛び交い、焦げ臭さと血の臭いが漂っていた。
目の前の砦を見上げ、ここからどう跳ぶか考える。後2回位で入れると思うけど、敵兵に見つかりたくは無い。スニーキングミッションだ。
ロングセンスで視界を再び飛ばすが、どこもかしこも敵だらけだ。仕方ない。敵の少ない場所へ行き、その辺りを制圧してからゲートを繋ごう。
しばらく視点を切り替えながら、比較的敵兵が少ない場所を探す。すると、砦の側面から少し離れた所に丁度いい場所を見つけた。ここなら目の前にいる弓兵を2人倒せばしばらく時間を稼げそうだな。
「ブレードモード。八重も刀を抜いて、これから2人敵兵が居る所に行くから」
「承知した」
ブリュンヒルドを長剣に変えながら八重にも戦闘準備を促す。そしてゲートを使い2人の敵兵の後ろ、死角になる所へ転移。そのまま狙いを定め、八重と同じタイミングでそれぞれ敵兵を斬る。ん、何か感触がおかしいような……。
2人の敵兵は背中を斬られてそのまま倒れこんだが、何事も無いかのようにゆっくりと立ち上がり腰から刀を抜いた。なん……だと……。
僕が驚いたのは斬られてすぐに立ち上がってきたのもあったが、それ以上に相手の異様な姿にある。
日本風の鎧兜に身を包み手には刀。それはいいとしても、その顔にかぶせられた仮面が異様さを醸し出していた。
鬼の仮面だ。角を伸ばし、憤怒の表情を浮かべる赤い鬼。範馬勇○郎かな?
更に異様な点として、鎧兜の覆われていない部分や敗れた服の隙間から覗く皮膚が、仮面の様に赤い事だった。まるで赤鬼そのものが仮面を被っている様だ。
相手の異常さを僕より先に察したのか、すぐさま八重が刀で敵兵の首を刈り取る。恐ろしく迷いの無い速攻、僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「スリップ」
僕も負けじと、もう1人の敵兵をスリップで転ばせてから兜割で相手の頭を仮面諸共叩き割る。すると仮面が粉々に砕け、それきり動かなくなった。
……とりあえず、頭が弱点だな。
そう言えばと思い八重の方を見ると、そこには頭だけで動き周り八重を追い詰めようとする敵の姿があった。
「ひぃっ、お化けでござる!」
怯える八重を尻目に僕はブリュンヒルドでゆっくりと化した敵兵の仮面を砕く。すると、ゆっくり敵兵は動かなくなった。よし、これで無力化完了だな。仮面が弱点だったのか……。
「何でござるか、こやつらは……」
それは僕が聞きたい、と思いながら何気なく倒れた敵兵に近寄る。この臭い、死臭か!? まさか、あの仮面で死体を操って兵士に仕立て上げている? 便利な世の中になったなあクソが!
そういえばさっき斬った時に返り血を浴びなかった。死んでいるから心臓が動いて無いから、と考えれば納得できる。……出来るか?
「死体を操る、ネクロマンサーって所かな」
ゾンビ兵って言うにはちょっと機敏すぎる。こんな奴らが襲ってきているのなら、八重のお兄さんは沼に挑戦しに来たカ○ジを迎え撃つ一条みたいな気持ちでいるのだろう。
ロングセンスで砦の中に視覚を飛ばす。八重のお兄さんを探して直接会った方が良いだろう、八重いるんだし。
えーっと、この人かな? 黒髪黒目、右頬に刀の傷跡。黒い鎧を着こみ、穏やかそうだが身のこなしは只者では無い。身体中返り血に濡れ、檄を飛ばしていた。
一応八重にも確認する。八重も間違いないと言ってくれた。
「ゲート」
いきなり目の前に現れると問答無用で斬られそうだから、ゲートを開いた状態を保ち間を空ける。向こうでは光の扉が突然現れた状態になっているはず。あれ、余計警戒されない? とはいえやっちゃったものしょうがない、ゆっくりと扉を潜り、八重のお兄さんの前に転移する。八重が。
「何で拙者が!?」
「いや、僕がいきなり現れても普通に怪しいし。八重が説明してくれれば話がスムーズに進むから」
「冬夜殿も来て下され、細かい説目には冬夜殿が必須でござる!」
「その言い回し何かおかしくない?」
微妙に納得いかない気持ちを抑えつつ、僕も一緒に転移する。
「八重……? 本当に八重なのか?」
「はい!」
「……本当に八重のようだな。いきなりで悪いが、説明してくれ」
「勿論でござる!」
そうして八重は、自分達が八重のお兄さんの危機を知り助けに来た事。僕はベルファスト王国で知り合った仲間で、さっきいきなり現れたのは僕の無属性魔法だという事を説明した。纏めると超あっさり。
「ゲート」
何となくもういいかと思い、残りの仲間を呼ぶためにゲートを発動。僕は一旦ゲートを潜り、仲間を連れて砦に戻ってきた。
「いきなりぞろぞろ何人も連れ込んですみませんね」
「いや、今は人手が足りない。助かる」
僕はひょっとしたら邪魔になるのでは、と思い軽く謝罪したがどうもその心配はいらなかったみたいだ。
「それよりも兄上、父上はご無事なのですか?」
「ああ、無事だから安心しなさい。父上は家泰様の警護をしている。後で会うといい」
父親を心配する妹に優しく語りかける兄。絵になるなあこの人。僕もああなりたい。
しかし、この状況は酷いな。そこらに怪我人がうずくまって動けなくなっている。丁度いいしアレを試してみるか。駄目だったら僕が1人1人回復魔法を掛ければいいし。
スマホを取り出してマップアアプリを開く。マルチプルはエンチャントしてあるから、後はプログラムだけだ。
「プログラム開始
/発動条件:画面でターゲットをタッチ
/対象補足:マルチプルにて同じターゲットを全て
/プログラム終了」
これで1つずつロックする必要はなくなる。あれかったるかったんだよねー。
徳川郡の気が人で検索すると、画面上に対象を示すピンが次々と落ちていく。結構いるなあ。画面マップを引いて、砦全体を範囲内に入れる。
ターゲットを1人タッチしてロックすると、画面上で次々と他の人もロックされていく。横を見ると、怪我をして蹲っている兵士の上に小さな魔法陣が浮いていた。マルチプルの魔法陣だ、準備完了。
「癒えよ、雄々しく、そして激しく! キュアヒール」
「どう聞いても回復魔法の詠唱じゃないわ」
エルゼのツッコミを尻目に、魔法陣から柔らかな光の粒が降りてくる。やがてそれが怪我人を包むと、対象になった者達の傷がみるみる塞がり回復していった。
しばらくすると砦の至る所から歓声が上がり、目の前にいた怪我人の兵士も不思議そうに立ち上がって身体を動かしていた。
「ちょっと、何したの? 回復魔法をかけたのは分かったけど、まさか……」
「砦の怪我人を全員治した。上手くいったよ」
僕の言葉にリーンが呆れた様な顔を向けてきた。まあ、何となく言いたいことは分かる。散々言われてきたし。
「怪我人が……、これは一体……?」
「冬夜殿の回復魔法でござる」
目を丸くして辺りを見渡す重太郎(八重の兄の名前、どこで知ったとか言わないで)さんに、八重はそう言って僕の方へ視線を向ける。
「あくまで傷をふさいだだけですから、あまり無理はさせないようにして下さい。失った血は戻ってませんので」
「あ、ああ分かったよ。ちゃんと通達しておこう」
重太郎さんはまだ驚きから回復していない感じで、僕に返事をする。とりあえずこれでけが人はどうにかなった。後は砦に群がる死体兵団を何とかするだけだな。
「いっちょ、派手に行きますか!」
「もう十分派手な事はしましたけどね」
リンゼは相変わらずツッコミが鋭いなあ。