【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
「ところで敵兵に混じっている鬼の仮面を被った奴らはなんなんですか?」
「分からない。あの仮面を壊すまでは、槍で刺されようが腕を斬られようが動きを止めない。まるで生きる屍だ」
かぶりを振って重太郎さんが答える。機敏だから一度は否定したけどやっぱりゾンビなんだろうか。考えてみればリアルでゾンビなんて見た事無いし、実際は機敏でも変じゃないよね。
すると、城壁から身を乗り出し、リーンが仮面の兵士達を睨みつけていた。
「ふうん……。何かの無属性魔法か、でなければアーティファクトかしらね」
「アーティファクト? 何か聞いた事がある様な……」
「古代文明の遺産、強力な魔法の道具の事よ。あなた前にベルファストの王城で破壊したって、シャルロッテが言ってたから知っているものと思っていたけど」
あー、そういえばそんな事あったなー。バルサ伯爵とユミナとの婚約の印象が濃くて忘れた。
にしてもアーティファクトか。死体を操るコントローラー的な物があるとして、あの仮面は受信機みたいな物かもしれないな。ラジコンみたいなものか。
「まあ、何にしろ仮面の奴らは厄介だ。一気に殲滅した方がよさそうだな」
「……何だって?」
不思議そうに重太郎さんが僕を見ているのを尻目に、スマホのマップアプリで仮面の武田兵と検索する。画面上の砦の周りにピンが凄い勢いで落ちまくり、その内の1つをタッチすると全てのターゲットがロックオンされた。
「な、何だあれは……?」
誰かの呟きに目を向けると、空に光を放つ小さな魔法陣が無数に浮いていた。
マルチプルによるロックオンは完了。
さあ、発動だ。
「ものみな眠る小夜中に
水底を離るることぞ嬉しけれ
水のおもてを頭もて
波立て遊ぶぞ楽しけれ
澄める大気をふるわせて
互いに高く呼びかわし
緑なす濡れ髪うちふるい
乾かし遊ぶぞ楽しけれ
Briah――
シャイニングジャベリン」
呪文が終わると、全ての魔法陣から光の槍がそれぞれのターゲットを目指して降り注ぐ。まるで天から落ちる雷の様に。
轟音の様な地響きが鳴り響き、土煙と光の粒が火花の様に弾け飛ぶ。
やがて雷は消え去り、武田勢の半数以上が倒れ動けなくなっていた。
そのまま武田兵を検索し、ロックし直す。
「パラライズっと」
残りの一般兵達も突然身体が痺れ、その場に崩れ落ちる。一部は護符を持っていたのか痺れなかったようだが、自陣の壊滅状態を目の当たりにして一目散に逃げ出した。
「ま、ざっとこんなもんさ」
しばらく呆然としていた砦の徳川軍だが、状況が把握できると皆一斉に勝鬨の雄たけびを上げた。助けた僕が言うのもなんだけど、こんな人頼みでそこまで叫ぶのか……。いや、戦国なんだから結果だけが正義か。
「今のは……、君がやったのか……?」
重太郎さんが掠れた声で尋ねてくる。信じられないものを見る目で砦の周囲で倒れる武田兵を眺めていた。
「ま、そうですけど。あ、あんまり騒がしくしないで下さいね。お礼なら最高級の遊廓で構いませイタタタタタ」
右手が強烈な痛みの信号を発しているので右を見ると、そこには手を抓ってくるユミナの姿があった。
「な、何するのさ!?」
「いえ、冬夜さんはいずれ王族になる方なのに子種をあちこちに振りまかれるのは都合が悪いのでつい」
「あ、そう言う心配? それなら大丈夫、避妊が出来る無属性魔法を最近見つけたかrアアアアアア!?」
今度は左腕にダメージを受けたので左を見ると、今度はエルゼが左腕にアームロックを仕掛けていた。
「ちょ、痛いんだけどエルゼ!?」
「だって、初対面の相手にいきなりお礼の強要とかするから」
「いやこういうのは最初に言った方が良いって! ほら重太郎さんからすれば僕は八重が連れてきた人ってだけだしさ! 圧倒的な力持っている奴がどんな奴か分からなかったら怖いじゃん? だからこうやって――」
「もうちょっと他に示し方あるでしょうが!!」
「アアアアアアアアアア! やめようエルゼにユミナ、今時暴力ヒロインとか流行らないって! 今は従順デレデレが一世を風靡する時代だよ多分!!」
「それただの都合のいい女じゃないですか!!」
「確かにぃぃいいいい!!」
右と左でまるで違う痛みを味わう僕を尻目に、リーンが呆れたように僕らを見る。
「あなた達っていっつもこんな感じなの?」
「はい。大体そうです」
リンゼがリーンの質問に律儀に答えていた。というかそろそろ止めて!!
「まずは此度の助太刀、心から御礼申し上げる」
砦の天守閣、いや砦なのに天守閣ってあってるのかな? ともかく天辺の15畳ほどの板の間で、上座に座る恰幅のいい40代前半のちょび髭男が深々と頭を下げた。徳川家泰。この砦がある領主の主であり、9人いる諸侯の1人だ。
「いえ、こちらに出向いたのは偶々の事です。どうかお気になさらぬように」
僕らの前に座り、家泰と話しているのはユミナだ。ベルファストの王女という立場を取り、あくまで僕らはその護衛という事になった。その方が向こうにも分かりやすいかと思ったからだが、おかげで助かった。
八重はユミナの護衛の1人という事にした。そのつながりでここに助太刀に来たという形にしたわけだ。実際その通りだしね。
「それにしても八重がユミナ姫の護衛とは……、全く驚いたぞ」
家泰の横に座るがっしりとした40代後半の偉丈夫が九重重兵衛。八重の父親にして、かつてソードレック子爵家で指南役をしていた人だ。今は徳川家の剣術指南役を務めているらしい。こんな所で話だけ聞く人に出会えるとは、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない。
「して、そちらの……。我が砦を救って下さった彼は……?」
家泰さんがユミナの後ろに控える僕に視線を向ける。その目は何だろう、僕の力に対する興味か恐怖か。僕にはよく分からなかった。
「この方は望月冬夜さんと申しまして、私の護衛であり、未来の旦那様です!」
きゃっ、と頬を染めながらまるで牽制するかのように僕に抱き着くユミナ。え、何? 今の家泰さんの視線の意味は僕を値踏みしてたって事?
ほぉ~、と感心とも驚きとも取れる声を洩らす領主と指南役。なんだその反応。
「いや成程。ベルファスト王女の許婚ともなれば、あの偉業も納得できますね。もしただの護衛であれば、とびきりの美女を用意して我ら徳川は歓迎したのですが」
「ほう……、とびきりの美女ですか……。興味があるので是非紹介して頂けませんかね? いやこれはいやらしい意味ではなく、ベルファストとイーシェンの将来の為に」
「ハッッッ!!」
僕の言葉を途中で遮り、的確に膵臓に肘を叩きこむユミナ。家泰さんは明らかに引いているが、ユミナはどこ吹く風だ。というかどこで覚えたのこんな技術。
「私が育てたわ」
「何してくれてるのさリーン」
僕がリーンに非難の目を向けているが、誰も気にすることなく話は進む。
「ところで1つお聞きしたいのですが、ニルヤの遺跡なる場所をご存じないでしょうか? 我々はそこを目指してイーシェンへ来たのですが……」
「ニルヤ……?」
ユミナの問いかけにしばし考え込んでいた家泰さんだったが、やがて何かに思い当たったのか膝を叩いた。
「ああ、ニライカナイの遺産があるという遺跡の事ですな。私は詳しくは存じませぬが……。重兵衛はどうだ?」
「確か……、ニルヤの遺跡は島津の領地にあったかと。しかしあそこは海の底ですぞ。入る事さえままならないと思いますが……」
「海の底!?」
まさかの海底遺跡!? どうしよう、ゾー○の服なんて持ってないよ。
まあ行ってみないと何も言えないな。とにかく場所は分かったんだから早速出発――しないよ?
「武田軍ですが、あれで引き下がると思いますか?」
僕が家泰さんに尋ねると、彼は腕を組み唸り始めた。
「確かにまた態勢を整えて攻めて来るやもしれぬ。鬼面の兵士を更に増やし、大砲を持ち出してくるかも……」
いくら兵士達を増やしても殲滅出来るけどね。でも兵士の補充の為に他を虐殺、なんてことされたら流石に夢見が悪すぎる。
「しかし、此度の鬼面兵といい突然の侵略といい訳が分からぬ。武田の領主、真玄殿は武田四天王と呼ばれる4人を武将を率いる猛者ではあるが、今回の戦いは真玄殿らしくないように思える。やはりあの噂は本当なのだろうか……」
「噂?」
家泰さんの呟きに思わず尋ねてしまう。それに対して返答したのは重兵衛さんの方だった。
「既に真玄殿は亡くなっているという噂だ。そしてその死体を操り、武田軍を意のままにしているのが、闇の軍師・山本完助だと」
「山本完助……」
「あの鬼面兵を見る限り、有り得ない事じゃないわね。死体を操る事に特化した魔法、もしくはアーティファクト使いなのかもしれない」
重兵衛さんの話を聞いて、リーンが自らの考えを述べる。確かに有り得る話だ。武田を乗っ取って、最終的にはイーシェンの王になろうというのか。
これじゃ武田軍を何とかしないと、遺跡どころじゃないな。
「その山本完助を何とかすれば、丸く収まりますかね?」
「それはそうかもしれんが……。あくまで真玄殿が亡くなっているというのは噂に過ぎないからな。それに完助は武田の本陣、ツツジガサキの館に籠って出てこないらしい」
「スニーキングミッションの始まりか」
「忍び込むつもりでござるか!?」
八重が驚きの声をあげるが、ぶっちゃけ他に方法無くない? ロングセンスとゲートで十分できると思うけど、見つからないためには姿を消す魔法なんかあると便利なんだけど……、あ。
「リーン、確か背中の羽根を光魔法で見えないようにしてるんだよね? それって身体全体を見えないようにする事も出来るの?」
「出来るけど……、いいの?」
「何が?」
「いや、内政干渉にならないかしら?」
……ああ、そう言われるとそうかもしれない。
……どうしよう。
「大丈夫ですよ冬夜さん、リーンさん。これはあくまでアーティファクトを悪用している者の討伐、という体にすれば何とかなります」
僕とリーンが困り顔なのを見てユミナが手助けをしてくれた。成程、事はイーシェンだけじゃ済まないかもしれないもんね。
「……多分大丈夫です」
一気に不安になった。
「まあ、それはさておき問題はそのツツジガサキにまでどうやって行く方法ね。八重は行った事があるのかしら?」
「いや、拙者はござらん。父上は?」
「ワシも無いが……、それがどうかしたのか?」
「ツツジガサキに行った事がある者がいれば、冬夜殿の魔法で一瞬で転移出来るのでござるよ」
「何と……!」
驚いた様子の十兵衛さんと家泰さんが再び僕を見る。僕はどうしていいかよく分からないので曖昧な笑みで誤魔化した。何言えっていうんだ。
「ツツジガサキへの案内、私が務めましょう」
どこからともなく天守閣の間に声に響き渡る。ここにいる誰の声でも無い。僕は咄嗟にブリュンヒルドを抜き放ち、天守閣を周回する高欄付きの周り廊下に銃口を向けた。
「誰d」
「誰だ!」
「あ、台詞取られた」
「言ってる場合ですか」
重兵衛さんに台詞を取られたが、とりあえず銃はそのまま構える僕。
すると、高欄付きの廻縁の陰から1人の人物が姿を現す。ところで高欄付きの廻縁って分かる? 天守閣の外側の回廊部分の事なんだけど。知名度どれくらいあるのこれ?
っと、それより出てきた人物に注目だ。うわお、忍者じゃん。しかもくノ一。見てそれとすぐに分かる黒装束だけど、真昼に着けるものじゃないだろ。でも鎖帷子と下半身の絶対領域のコンボで服装がなんかエロく、胸も大きくて顔も凄い好みなので何の問題も無いです。
「私は武田四天王がひとり、高坂政信配下、椿と申します。徳川家泰様宛の密書をお持ちいたしました」
「何、高坂殿の!?」
床に膝をつき、懐から密書を取り出してその場に置くと、くノ一はそこから1歩下がった。仮にもさっき戦った敵だから、油断は出来ない。のでユミナにそれとなく魔眼で見てもらった。
「どう?」
「悪人ではありませんが、戦争は別に正義と悪のぶつかり合いではありませんから……」
成程、それもそうだ。ならいつでもパラライズ出来るように構えておこう。
その間に家泰さんはくノ一から目を離さず密書を読んでいく。すると家泰さんの顔が、驚きから厳しい物へと変化していく。一体何が書かれているんだ。
「殿、密書にはなんと?」
「どうやら噂は本当だったらしい。武田軍は今や傀儡の軍と化しているようだ」
高欄付きの廻縁って言葉イセスマで初めて見ましたよ私。
皆さんはどうですか?