【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
「なんですと……!?」
重兵衛さんが絶句する。噂通り、武田軍は既に山本完助によって支配されているらしい。
「真玄殿は既に亡くなり、武田四天王も高坂殿以外全て地下牢へ投獄されているらしい。なんとか完助を止めて武田を救ってくれとある」
「高坂様は完助に従う振りをして、武田奪還を考えております」
椿と名乗ったくノ一が言葉を添える。完助は亡くなった真玄を傀儡に武田を市中に治め、それに気付いた四天王を投獄し、完助の考えに追従した振りをした高坂のみがその配下として動いている、という感じかな。
「正直に言えば、徳川は武田の為にそこまでする義理は無い。だが、このままでは完助が操る鬼面兵に徳川がやられてしまうだろう。情報の信憑性もあるのでその話を聞き届けたいが……。恥ずかしながら我らに武田を救う力は無い。徳川を救うのも武田を救うのも、全ての決定権はベルファストから来た客人達にあるようだ」
「ちょっと待って下さい。情報の信憑性って何ですか」
余りにも話がとんとん拍子に進むので思わず口を挟む僕。信憑性って何の事?
「ああ、我等徳川と武田は代々仲が悪くてな。我等に助けを乞うなど本来なら異常事態なのだよ」
「はあ……」
「それに冬夜殿なら、相手が罠に掛けるつもりでも何とかなるだろう?」
「図々しいなおい」
思わず敬語すら忘れてツッコミを入れてしまう僕。おまけに根拠も弱いし。まあ確かに、大抵の事なら何とかなると思うけど。
それによくよく考えればここで搦め手を使う意味は武田には無い。なぜなら鬼面兵を使い続ければ普通に徳川を制圧出来るからだ。正攻法で沈められるのにわざわざ搦め手を使う理由が無い。家泰さんもその辺りを考慮して言っているんだろう。
「お願いします、冬夜さん」
ユミナも同じ考えなのか、僕に武田を救うよう指示を出してくる。しょうがない、今はユミナの護衛だしリアルくノ一の頼みを断る選択はしたくない。
「やるよ、ツツジガサキへ潜入する。安心してニルヤの遺跡に行きたいからね」
「感謝します」
くノ一、椿さんが頭を下げた。
「となると、あまり大人数で潜入する訳にはいかないし、僕と椿さん、リーンの3人で潜入しよう」
武田内部に詳しい椿さんと、打撃と魔法に長けたリーンがいれば何とかなるでしょ。あ、ポーラは悪いけどお留守番ね。その事を伝えたらふざけるな、とばかりに飛びかかってきたのでデコピンで迎撃した。
「よし、じゃあ早速――」
「待って待って! こんな真昼間から忍び込むの!? 夜になるのを待ってからの方が良いんじゃない?」
「拙者は一旦に家に帰りたいでござる。兄上と父上の無事を伝えねば」
「ライムさんにも、帰れないって伝えた方がよいのでは……」
「今は砦の皆さんに、食料を届けることを優先しましょう」
僕が勢い込んで立ち上がると、皆が静止しもっともな意見を言ってきた。確かにそうだし、これは僕の考えなしだった。
「……皆さんのおっしゃる通りです」
すると、その様子を見ていたリーンが面白そうに僕に言う。
「とても無数の敵を殲滅した強者とは思えないわね」
「……古来より男は女に勝てない様出来てるものなんだよ」
「あらそう」
僕が軽く反論するも、リーンはどこ吹く風だ。
……とりあえず、まずはベルファストの家に帰ってライムさんに一泊する事を伝えるとするか。
「それじゃ椿さん、ツツジガサキの館が見える場所を思い浮かべて下さい。なるべく人のいない所をお願いします」
「分かりました」
目を瞑っている椿さんの両手を握る。あれこれ実はキス待ちだったりしない? 何か顔赤くない? 気のせい? ともかくまずはやる事やっちゃおう。
「リコール」
魔力を集中させて額を合わせる。椿さんは背が僕と同じくらいなので、八重の時の様に少し屈む必要は無かった。ぼんやりと複数の堀に囲まれた大きな平屋の館と、それを取り巻く城下町が脳裏に見えてきた。あれが武田領地の本陣、ツツジガサキか。
「ゲート」
椿さんから離れ、ツツジガサキへ向かうゲートを天守閣の中で生み出す。
「じゃあ行ってくる」
〈琥珀、何かあったら連絡よろしく〉
〈分かりました〉
琥珀と僕はかなり離れていても念話で話す事が出来る。これならもし、こっちで何かあってもすぐに駆けつけることが出来る、だろう。
開いたゲートにまずリーン、次に椿さん、最後に僕が飛び込んだ。
ゲートを抜けると、真上には月の無い夜空に星だけが瞬いていた。辺りは鬱蒼とした森で、遠くに松明の明かりが見える。あれがツツジガサキの館だろう。
「あそこに潜入するのか……」
とりあえず様子を見ようと、ロングセンスを展開し視覚を飛ばす。堀に囲まれた中でいくつかの橋があり、当然ながら城門は閉ざされていた。
門の前には鎧兜で武装した屈強な男達が槍を持ち、門番として立ちはだかっている。
更にその門の先を見ると、迷路のように城堀が続き、その横手には井戸があった。その場所から少し離れた所には隠れるにはうってつけの庭木がある。ならまずはここに転移しよう。
「ゲート」
早速ゲートを発動し、それを潜り抜けようとするもなぜか突き抜けてしまい、門の前から一歩進んだだけだった。
「これって……」
「護符による結界ね。おそらくそれがゲートの転移を阻んでいるんだわ」
「やっぱりそれか」
前にオルトリンデ様が言ってたし、ミスミドでも1回これと同じ事があったな。
「おそらく完助の手によるものでしょう。私だけなら適当な理由で中へ入る事が可能ですから、その護符とやらを破壊します」
そう言って館の方へ歩き出す椿さんを、リーンがスライディングで制止した。
「何でスライディングしたの?」
「やめときなさい。結界を壊せばそれを仕掛けた本人、完助にもばれる可能性が高いわ。誰が壊したまでは分からなくても、警戒されるのは得策じゃないわに」
「わに?」
「ではどうするので?」
椿さんがリーンに問いかける。ここはやっぱりあれしか有り得ない。
「リーン、透明化の魔法で潜入しよう。僕とリーンが透明になって、椿さんに先導してもらって門を通り抜ける。これなら大丈夫でしょ?」
「透明化じゃなくて視覚の……、まあいいわ。それじゃそこに立ちなさい」
言われるがままにリーンの正面に立つ。僕に手をかざし、彼女が魔力を練り始めると僕とリーンが立っている地面に魔法陣が浮かんできた。
「光よゆがめ、屈曲の先導、インビジブル」
「魔法名はどう聞いても透明化なんだよなあ……」
リーンが呪文を唱えると、足元の魔法陣が上昇し僕らの身体を通過していく。頭の天辺まで通り抜けると魔法陣は静かに消えた。
「消えた……」
椿さんが驚きの声を上げる。え、もう消えてるの? でも自分の姿もリーンの姿も見えるんだけど?
「リーン、僕らにはこの魔法の効果は無いの?」
「当たり前でしょう? 自分の体まで見えなくなってしまったら、不便で仕方ないわ」
「あ、声は聞こえるんですね」
椿さんはどこか安心したような声でそう呟いた。消えているのは確かみたいだけど、どうにも実感が湧かないな……。
と思っていたらリーンがいきなり笑い、椿さんの背後に回ったかと思うといきなり両手で彼女の胸を揉みしだいた。
うわ下衆い顔してるよリーン、あれじゃスケベ親父と大差ないな。
「ふひゃあぁあぁああっ!?」
「ちょっと冬夜―、見えないからって何してるのよー」
「と、冬夜さん!?」
「違う違う僕じゃない! リーンだから! 僕一歩も動いてないから!!」
私はここにいるよアピールの為に近くの木を揺らして見せる。というか声の聞こえる方向とかで分かるでしょ!?
「やっ……、ああっ、ちょ、そんなに……。あうんっ!」
「見た通りかなりあるわね……。しかも予想より柔らかい……」
「ま、マジで!?」
気になる。椿さんの胸の柔らかさもだけど、それ以上に彼女の揉まれている時の表情が。涙目で頬を赤らめ羞恥に悶えながらも体の反応には逆らえない。エロい、エロ過ぎる。明らか感じてるじゃーん、これはR-15ですわ。
「えー冬夜、直に行けって? 仕方ないわねこのスケベ」
「言ってないから!」
しかし直か……、直!? 直接揉むって事!? え、どうしよう!? 止める!? 止めた方が良いよね!? でも止めたくない! 年上美人くノ一がロリババアにおっぱい揉まれて喘ぐ光景見たくない男って居る!? 居たらホモかロリコンかブス專だよ!? そして僕はそのどれでもない!!
「ほらほら冬夜、もっと近くで見なさいな」
「う、うぅ……」
リーンの言葉に僕は少しずつ吸い寄せられるかのように椿さんの下へ向かう。
重力とは本来どんなものにもある。大きい程それが持つ重力も大きくなるんだ。つまり地球と同じ大きさのものがあれば、その物は地球と同じ重力を持つ。つまり僕が巨乳に目を向けてしまうのも同じ理屈なんだ。だから――
「さあ揉め、リーン!」
「ごめんなさい、そんな本気で叫ばれると私引くわ」
何か凄い勢いでリーンに梯子を外された。
一方、椿さんはその隙にリーンの拘束(?)を外し
「いい加減にして下さい!」
「「グハァ!!」」
僕らにラリアットを叩きこんだ。リーンは顔面に、僕は首にダメージを受け悶え苦しむ。ちょっと待って本気で息できなかった一瞬。
「い、痛いじゃない……。何でよ、私美少女なのよ? 普通ちょっと胸揉んだ位で顔面にラリアット叩きこむ?」
「セクハラは同性でも成立するんだよ……。それより僕何にもしてなのに攻撃されたんだけど、そっちの方が問題でしょ」
僕とリーンが互いに自己弁護する。その姿がどう見えるかは知らないが、それを見た椿さんは一喝した。
「お2人とも破廉恥です!!」
どこの委員長だよ。
「高坂様からの使いだ。通して頂きたい」
「確かに。しばしお待ちを」
椿さんが手にした鑑札を見て、門番の2人は重々しい扉をゆっくりと開いた。通用口が無いんだなここ。不便じゃない?
開かれた扉の間から、素早く姿を消した僕とリーンが中へと滑り込む。その後から椿さんが門を抜けると再び音を立てて門が仕舞った。潜入成功だ。
「ところでリーン。1つ聞きたいんだけど、この魔法って解除される条件とかってあるの?」
「そう言えば言ってなかったわね。この魔法は人に触れられるとバレるわよ、光を迂回させて対象物を見えなくしているだけだから」
そういう事は先に言ってほしいな。
ともかく、まずは地下牢に捕らわれている武田四天王のうち3人助けに行くとしよう。もし戦えるのなら味方になってくれると有難い。と椿さんに言うとすぐに賛同してくれた。
「地下牢はこっちです」
椿さんの後ろを追いかけて、月の無い闇夜を僕らは駆けていく。
それにしても彼女、尻もエロい。
「それ私も思ったわ」
「やっぱり?」