【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
昨日は皆ではしゃぎ過ぎた為、今日はちゃんと遺跡の調査をしようということになったのだが
「さて、どうしたものかね」
「そうね……。とりあえずロングセンスとライトでちょっと遺跡の中を見てくれないかしら」
「それ根本的な解決にならないんじゃ……」
「遺跡の仕掛けで排水出来るものが」
「そんなのが?」
「あったらいいわね」
「願望なの!?」
エルゼのツッコミが響く中、とりあえず僕は言われた通りロングセンスとライトを飛ばして遺跡の入口から中へと進む。
昨日見た石の階段をしばらく下っていくと、大きな広間に出た。中央に魔法陣が描かれた段があり、それを取り囲むように6つの台が並んでいる。台にはそれぞれ魔石が埋め込まれており、無属性を除く魔法の6属性の色が輝いていた。
それ以外は何もなく、変わった所も見当たらない。これだけとは思いたくないし、この魔法陣が仕掛けだろう、多分。
視覚を戻して見たままをリーンに伝える。彼女はしばらく腕を組んで考えていたが、やがて口を開いた。
「それはおそらく転送陣ね」
「転送陣?」
「多分6つの属性を起動させると、中央の魔法陣がどこかへと転送させるのよ。貴方のゲートのようにね」
成程、RPGでよく見るテレポートさせる魔法陣って所か。ひょっとしたら昔は水位がもっと低かったのかもしれないな。それが時の流れと共に水没し、使えなくなったと。
「なんとか起動させたいところだけれど……、そこに行くにはやっぱり水中でも呼吸できる無属性魔法を見つけるしか……」
『主よ』
更に考え込んでしまったリーンをよそに、ユミナに抱え上げられた琥珀が声をかけてきた。
「何?」
『あらゆる水を操り、主達の悩みを解決できるものにひとつ心当たりが』
砂浜から離れ、岩場の近くの地面にリーンが魔法で大きな魔法陣を描いた。
「通常、召喚魔法は特定の相手を呼び出すなんて事は出来ないのよ?」
『主の魔力に私の霊力を混ぜます。その状態で呼びかければ、奴らは必ず反応し呼び出しに応じるでしょう』
琥珀はリーンの言葉を受け流した。どうやら琥珀の提示する手段は酷く常識外れらしい。
「それにしても、玄帝を呼び出すって……。その子が白帝ってだけでも驚いたのだけれど、更にもう1匹増えるなんてありえないわよ」
「まあまあ、冬夜殿のそういった事を気にしたら負けでござるよ」
まだぶつぶつ言っているリーンを八重が宥める。酷い宥め方もあったものだ。
『呼び出す事は出来ると思いますが、奴らが何を契約の条件に求めて来るか分かりません。気性の荒い奴らでは無いのですが、ちょっと変わった奴らですから……』
「あのさ、さっきから奴らって言ってるけど1匹じゃないの?」
『なんと言いますか、奴らは2匹で玄帝なのです。まあ、呼び出してみれば分かります』
何だろう、スマ○ラのアイスクラ○マー的存在なんだろうか。というか何で焦らす。
ま、単に言葉では説明しにくいだけか。ともかく魔法陣の前に立ち、闇属性の魔力を集中させていく。魔法陣の中心に黒い霧が漂い始め、だんだんその霧が濃くなっていく。そこへ傍らにいた琥珀が自分の霊力を霧に混ぜていく。
「冬と水、北方と高山を司る者よ。我が声に応えよ。我の求めに応じ、その姿をここに現せ」
実はここでサーヴァント召喚してやろうかと思ったのは内緒だ。と思っていると充満していた霧から突如、莫大な魔力が生まれた。いや、霊力なのか? ともかく琥珀が召喚された時の様な魔力の波動を感じる。
霧が晴れると、そこには巨大な亀が居た。大きさは4メートル近くもある4本足のリクガメだ。まるで怪獣みたいだな。
そしてその亀には黒い大蛇が巻きついていた。こっちも大きい、アナコンダくらいだろうか。黒真珠の様に輝く。その眼が僕と琥珀へ向けられた。
『あっらぁ? やっぱり白帝じゃないのよぅ。久しぶりぃ、元気してた?』
『久しぶりだな、玄帝』
『んもう、玄ちゃんでいいって言ってるのにぃ、い・け・ず』
「軽っ」
蛇の喋り方が軽い。あの荘厳な呪文から呼ばれたとは思えない程軽い。でも喋り方の割に声が野太い、オカマか……。
『それでそちらのお兄さんはぁ?』
『我が主、望月冬夜様だ』
『主じゃと?』
亀の方がまるで値踏みするかのようにこっちを見た。しかし、容貌の割に声が女性的だ。お前女かよぉ!?
『このような人間が主とは……。落ちたものだな、白帝よ』
『ふっ、否定はせぬ』
「なに恰好つけてるの!? 唐突な主ディスはNG!」
『だがそれはそれとして、お前達の主にもなられるお方だぞ』
『戯れ言を!』
涼しい顔で亀の長髪を受け流す琥珀。いや僕の扱い……。
しかしそんなことはどうでもいいとばかりに、亀は怒りの眼で、蛇は好奇の眼で僕を見る。なんか亀の方は出会った直後の琥珀を思い出すなあ。
『よかろう、冬夜とやら。お前が我等と契約するに値するか試させてもらう』
「いいけど、何するのさ?」
『我らと戦え。日没までお前が五体満足で立っていられたのなら、力を認め契約しようではないか。しかし魔法陣から出たり、気を失ったり、我らを攻撃する事が出来なくなれば契約は無しじゃ』
倒せたら僕の勝ち、とは言わないのか。つくづく神獣ってのは僕を舐めてくれるな。いいさ。琥珀みたいに即堕ち2コマにしてやるよ。神の力でね!
「日没まで立っていられたらいいんだね?」
『そうだ。逃げ続けても良い。日没まで逃げ続ける事が出来ればのう』
馬鹿にしたような嗤いを乗せて亀がそう返す。
魔法陣の大きさは直径20メートル位。逃げ続けることは出来ると思う。そして今が大体お昼前位だから、日没まで6,7時間位かな? 逃げ続けるのも限界があるだろう。
僕は逃げたりしないけどね。
「分かった、さっさと始めよう」
「と、冬夜、大丈夫なの?」
エルゼが心配してるのか、不安そうな声を出して僕を見上げる。ちなみに他の皆は、僕なら大丈夫だろみたいな目で見ている。もうちょっと心配してくれてもバチは当たらないんじゃない?
「大丈夫、勝つのは僕さ」
そう言い残し、魔法陣の中へと入る。亀は嗤っているけど、どうでもいい。
『意外と落ち着いているのねぇ』
『その度胸だけは褒めてやろうかの。では参るぞ!』
亀が戦いのゴングを鳴らすかのように、咆哮を上げる。完璧怪獣じゃないか……。
ま、戦いは先手必勝。
「スリップ」
『『ふぎゃっ!?』』
地響きを鳴らして蛇と亀が転倒する。あ、亀に蛇が押しつぶされて痛そう。
僕はスリップの効果が効いているうちに、ウエストポーチから弾丸を1発取り出し、それに魔法をかけ始めた。
「エンチャント:スリップ」
そのまま今度は別の魔法を発動、弾丸に仕掛けを施していく。
「プログラム開始
/発動条件:スリップの効果が消滅時
/発動魔法:スリップ
/停止条件:術士の解除命令
/プログラム終了」
これで細工は流々、後は仕上げを御覧じろってね。
『くっ!』
立ち上がろうとする亀の足元の地面に、出来上がったその弾丸をブリュンヒルドで撃ち込む。
『『うぎょっ!?』』
また地響きを立てて亀が転倒する。亀が立ち上がろうとする度に、盛大にその音が響きなり、辺りの地面が幾度も揺れた。
「鬼ですね……」
ドン引きしたかのようにリンゼが僕にジト目を向けてくる。ちなみに隣のエルゼは呆れた顔で「そうよね、あんたはそんな奴よね」と言っていた。納得いかなーい。
「スリップの効果が切れるのをスイッチとして、別のスリップが発動。これが魔力が切れない限り続くなんて、まさに無限ループじゃないの。普通ならすぐ魔力が切れておしまいの筈よ」
バルサ伯爵がスリップに抗っている光景を思い出して考えたんだけど、上手くいって良かった。正直エラーになってもおかしくないと思ってました。
ちなみに魔力の方は回復率が消費率を上回っているから何も問題は無い。
「後は日没までここで待っていれば――」
『舐めるな小僧!!』
もう勝ったと思い、お昼でも食べようかと思うといきなり亀の叫びが聞こえた。亀の方を見ると、そこには右足1本でグルグルと回っている亀と蛇の姿が。
そして亀と蛇は回りながら飛び上がり、スリップが無限ループしている地面から少し離れた所に着地する。これで僕の無限スリップは無効化されたので、解除命令を出しておく。下手したら今度は僕が引っかかりかねないし。
『中々やるようだな。もう侮りは無しだ、ここからは全力で行くぞ』
「ああ」
どうやら即堕ち2コマとはいかないらしい、手強いな。でも
「勝つのは僕だ! 行くぞおおおおお!!」
『来い!』
ブリュンヒルドをブレードモードに変え、僕は亀と蛇に斬りかかった。さあ、ここからが本当の勝負だ。
「スリップ」
『『うぐうっ!』』
「使うのでござるかスリップ!?」
だって便利だし。
次回作ありふれを検討していたので、とりあえずアフターは残っていますが本編は読了。
絶対イセスマよりSS書きやすいわアレ……。