【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
でも5000字ちょっとってどういう事でしょうか。
「『『ハァ……ハァ……』』」
僕、蛇、亀は示し合わせた様に同じタイミングで息切れする。
時は日没、太陽は海の向こうへ消えて、闇に月と星が浮かぶ夜が始まる。そう、僕は玄帝の出した試練を乗り越えたのだ。
え、戦闘シーン? 悪いけどカットで。ほらアレだよ、SA○アニメ1期で75層のボス戦開始だと思ったら次の話で既にやられてたじゃん、それと一緒。
『見事です望月冬夜様、貴方は我らの試練を真っ向から乗り越えました。貴方は我が主にふさわしい。どうか我らと主従の契約を』
「スリップはいいのでござるか」
『大丈夫だ、問題ない』
「無いんだ……」
今一つ神獣の価値観が分からない。が、そんなことはどうでもいいや。次は確か……。
「名前を付ければいいんだっけ?」
『そうよぉ。素敵な名前をくださいな、ご主人様』
『こやつらなど蛇と亀で十分です』
『おめぇは黙ってろや! やんのか、ああ!?』
クレ○んのオカマみたいな変貌するな、この蛇。
というか僕も心の中では蛇だの亀だの言ってたけど、ばれなきゃ問題ないか。
玄武……、黒とか水ね……。
「じゃあ黒曜とサンゴでいいか」
『コクヨウ?』
『サンゴ?』
琥珀も宝石の名前だし、統一感があっていいでしょ。黒とか水とか連想できるし。蛇が黒曜で亀が珊瑚ね。
「どう? 適当に決めた割にはいい感じだと思うけど」
『喜んで黒曜の名前を頂きますわぁ』
『ではわらわもこれからは珊瑚と名乗らせて頂きます。よしなに』
どうやら気に入って貰えたらしい。満足気な珊瑚はのっそりと魔法陣の結界から出てきた。
『ちょっと待て、珊瑚。我らは主の魔力にて常に顕現することが出来る。だがその姿では主に迷惑が掛かるのだ。姿を変えろ』
『……そうなのか?』
『琥珀ちゃんみたいに小さくなればいいのかしらん? それならすぐに……、ねっ!』
ポンッ、と珊瑚と黒曜は一瞬にして小さくデフォルメされた姿に変わっていた。
対象30センチ位の黒い亀に、普通サイズの黒蛇が巻きついている。その状態で宙にふわふわと浮いて、泳いでいるからシュールこの上ない。
「よろしくね。珊瑚、黒曜」
僕は肩に乗っている珊瑚と黒曜の頭を撫でた。ナデポ狙いでは無い。
『この珊瑚、お役に立ってみせましょう』
『アタシも役に立つわよぅー』
それじゃあ早速、仕事を与えるか。
『海に入っても呼吸が出来るようにすればいいのですね?』
「お願いできる?」
『楽勝よぅ。まもりに関してはアタシ達に並ぶ者は居ないんだからぁ』
とは言っても危険があるかもしれない。まずは僕だけで行ってみて、全ての魔石を起動させよう。それから魔法陣でどこかに転移したら皆をゲートで連れてくればいい。
「何かあったらゲートですぐに戻ってきなさいよ」
エルゼ達の心配を受けながら、僕は肩に珊瑚と黒曜を乗せ服のまま海へと入る。おお、本当に濡れない。体から1センチ程離れた所に魔法障壁が張られているみたいだ。
更に海の中へと入り、やがて首より水位が上になると視界は一面の海の中。ライトで明かりをつけて見える光景は、昔見たチューブ型の水族館みたいだ。綺麗だなあ。
海底の景色を眺めながら歩き続ける。最初は楽しかったが、段々飽きてきた。水族館ってやっぱり工夫されてたんだな、と思っていたらやっと目の前に巨石群が現れた。ストーンサークルを抜けて遺跡中央の階段から中へと入る。
地下へと下っていくと大きな広間、魔法陣のある部屋へと辿り着いた。
早速赤い魔石がある台に近寄り、取り付けてあった魔石に火属性の魔力を流す。途端に、魔石を取り付けている台自体がぼんやりと赤く輝き始めた。
これで起動したと思った僕は残りの魔石にも次々魔力を流していく。そして最後に水の魔石に魔力を流すと、中央にあった魔法陣が静かに輝き始めた。
「これで魔法陣が起動したって事で、いいのか?」
ボヤキながら恐る恐る魔法陣の上に乗ってみる。……何にも起こんないじゃん。
何で? ってああそうか、無属性か。この魔法陣に無属性の魔力を流し込まなきゃいけないのか……?
物は試しとばかりに魔法陣の中央に立ち、無属性の魔力を送り込む。足元の魔法陣から爆発的な輝きが襲い掛かり、僕はその場から転送された。
あまりの眩しさに閉じた瞳をゆっくりと開くと、そこは庭園だった。花々が咲き乱れ、小鳥が飛び回り、細い水路には水が流れている。
僕の足元には遺跡と同じような魔法陣があったが、起動させる魔石台は無かった。一方通行らしい。
『ご主人様ぁ……、ここどこかしら?』
「さて、ね」
とりあえず魔法陣から降り、庭園を見回していると遠くから誰かがこちらへ歩いてくる。女の子、だな。
段々とその姿がはっきりと見えてくる。そしてはっきりと見えてきたが故に、僕は思わず死んだ目になるしかなかった。
翡翠色の短く切り揃えられたサラサラの髪、白磁の様な肌に金の双眸。ミステリアスな雰囲気を醸し出す少女だった。歳はエルゼとそんなに変わらないだろう。それはいい。
ノースリーブの黒い上着に薄桃色の大きなリボン、白いニーソックスに黒いエナメルの靴。そこもいい。
「初めましテ。私はこのバビロンの空中庭園を管理する端末のフランシェスカと申しまス」
空中庭園とか端末とか、疑問はいくらでも浮かぶけど、それ以上に疑問な事が目の前にある。
「あのさぁ……」
「はイ、なんでしょウ?」
「スカートもズボンも穿かずにパンツモロ出しなのって、君の趣味?」
少女の下半身は、パンツ一枚だけ穿いたモロ出し状態だった。
痴女なんだろうか……。とりあえず僕はこう思う。
ないわー。
「趣味ではありませンが……、義務?」
フランシェスクカと名乗った彼女は可愛く小首を傾げる。なんなの、ここはスカートやズボンを穿いちゃいけないルールでもあるの? 責任者呼んで来い。
「えーと、フランシェスカだっけ?」
「はイ。シェスカとお呼び下さイ」
フランシェスカなら愛称フランじゃないのか? と思ったけどこの際それはどうでもいい。
「とりあえずなんか下に穿いてくれない? 痴女は趣味じゃないんだ」
「ぱんつは穿いてまスが?」
「ズボンかスカート穿けって言ってるんだけど」
「……まア、そこまで言うのなら穿きまスが」
何でちょっと不満そうなんだよ。とか思っていたらどこから出したのか、シェスカは白いフリルの付いた黒いスカートを穿き始めた。持ってるなら最初から着ろよ。
「しかシ、モロ出しのパンツに無反応とハ……。もしや貴方は同性愛者でスか?」
「違う」
一応LGBTに配慮する気は在れど、僕は異性愛者だ。というかモロパンなんて萎える物見せられた挙句、同性愛者疑惑は流石に酷くない?
そうまで言うならなんで無反応だったか、はっきり教えてやる。
「いいかシェスカ。エロとは過程だ」
「……はイ?」
「隠されている物が白日に晒される、そこに価値があるんだ。だからパンチラは尊いし覗きはいつまでたっても無くならない。なのに君は、それを汚した! 最初から見えるパンツに意味なんか無い! パンモロなんて邪道なんだ! チラリズムこそが、男のロマンでエロスの極限だ!! それを、お前は……!!」
僕は血を吐くように叫ぶ。それは正しい怒り。許しがたい邪を駆逐する聖の一撃。
「……貴方のお名前ハ?」
「え? ああ。望月冬夜」
いきなりシェスカに名前を問われて、思わず答えてしまう僕。しかし、次の瞬間さらなる怒涛の展開が僕を襲う。
なぜか、シェスカがこっちに跪いているのだ。
「何、何なの!?」
「まずハ言い訳をさせて下さイ。あのパンモロは私ではなく私達の創造主、レジーナ・バビロン博士の意思で行われていたものでス」
「創造主?」
創造主って、妙な言い回しをするなあ。まるで自分達が造られたみたいな……。ってまさか。
『ご主人様、この者は人間ではありません。命の流れが感じられません』
「なっ……!」
考えていた事を珊瑚に言われて、思わず声が漏れる。まさか、リアルガイノイドを見る日が来るなんて……!
「私はこの庭園の管理端末として博士に造られましタ。今から5092年前の事でス」
「ごっ……!」
リーンですらBBA扱いなのに、それより4480歳も年上なのか!
しかしなぜその話を今するのか。一体シェスカは何が言いたいんだ。
「そしてまあ色々ありましテ、私達を造った博士は自身が亡くなる前に残される私達を、あの魔法陣を抜けてキた適合者に譲渡する事を決めましタ」
「適合者?」
何だろう、あの魔法陣を発動するには何らかの資格が必要だったんだろうか?
「適合者とハ、他者を思いやる優しさを持つものでス。具体的にハ、パンモロしている私に襲い掛かってクる者ではなく、何もせず放置する訳でもなく、チラ見しながラも自制し、興味が無い様な振りをスるムッツリの事でス」
「頭おかしいだろその博士」
何そのギャグ漫画のボケキャラみたいな博士、天才と馬鹿は紙一重とはまさにこの事なの!?
「頭がおかしイのは否定しませン」
「しないのかよ」
「しかし、冬夜様の叫びが私の何かを響かせまシた。なので博士の命令はうっちゃらかして、私の意思で貴方に仕えようと思いまス」
「うっちゃらかすの!?」
というか何で千葉県の方言で言うの!? 普通に放っておくでいいじゃん!
「という事デ冬夜様。貴方は適合者としテふさわしいと認めまシた。これヨり機体ナンバー23、個体名フランシェスカは貴方に譲渡されまス。末長クよろしくお願いいタしまス」
「えぇー……」
正直いらない、こんなファンキーなガイノイド。なんとか隙を見てクーリングオフするとして、まずは聞きたいことを聞くとしよう。
「あのさ、質問していい?」
「ええ、どウぞ。マスター」
「ここって一体どこなの?」
「バビロンの空中庭園でス。ニライカナイと言ウ人もいまス」
空中庭園? 辺りを見回してみると確かに庭園だけど……。上を見るとガラスのドーム越しに空が見える。シェスカが端に案内すると言うのでついて行くと庭園の終わり、ガラス張りの壁が現れた。
その先には雲海が広がっていて、間違いなくここは空に浮かんでいることが分かる。本当に空中庭園なんだな。
「ここって一体何の為にある施設なの?」
「ここは博士が趣味で造った庭園でス」
「趣味なのか……」
「はイ」
何だろう、重要度低そうだなこの施設。
ま、いいや。とりあえず皆をここに呼ぶか。1回話し合った方が良い。シェスカに事情を説明し、地上へとゲートを開いた。
「空中庭園、ね。古代文明パルテノの遺産と言った所かしら」
辺りを見回しながらリーンは感慨にふけっていた。
古代文明パルテノ。様々な魔法を生み出し、それによるアーティファクトを作り出した超文明らしい。ひょっとして凄いアダルトグッズとかあったりして。
バビロンもその文明が作りだした遺産の1つであり、それ自体がアーティファクトともいえる。つまりシェスカもアーティファクトだったんだよ!(迫真)
皆は庭園を見て回っている。庭園らしいかは知らないけどとにかく草木が植えられている植物園みたいなエリアもあれば、噴水や飛び石、花壇や池などがあるガーデニング好きなら浮かれそうな庭のエリアもある。今度フリオさんを連れてこようか。
その一角、池のほとりに設置された休憩場になる東屋で、僕とリーン、そしてシェスカが寛いでいた。
「それでリーンの手に入れようとしていた物はここにあるの?」
「そもそも私は古代魔法をいくつか発見出来たらいいなと思っていただけなのよ。なのにそれ以上の物が見つかってしまったから、どうしましょう?」
「どうしましょうって言われても……」
このバビロンが古代魔法の結晶みたいなもんだしなあ。5000年稼働している庭に、萎れる事の無い草花などアーティファクトのオンパレードだ。
ここを造ったレジーナ・バビロン博士は間違いなく天才ではあったんだろう。パンモロを人に強要する時点で僕と話は合いそうにないが。
「シェスカ、ここは庭園として以外に何か機能があるの?」
「いえなにも。他と違って、単なる空に漂う個人庭園でございまス。財宝も無ければ、これといった兵器もございませン。空飛ぶ素敵なお庭でございまス」
「謙遜してるのか自慢してるのかどっちなんだ」
「謙遜していますマスター。そして、このバビロンの空中庭園は既にマスターのモノでございまス」
「え?」
どういう……、事だ……!?
「このバビロンを制御、管理しているのは私にございまス。そして私はマスターの物。私のバビロンもマスターの物」
「何その三段論法」
僕がシェスカをあしらっていると、いきなりリーンがシェスカに鋭い目を向けて問いかける。
「ねえシェスカ。ちょっと気になったのだけれど、貴女さっき他のと違って単なる空に漂う個人庭園、と言ってたわよね。それってどういう事?」
そう言えばそうだ、他のと違ってって要は他があるって宣言してるよね。
「バビロンはいくつかのエリアに分散して空を漂っていまス。私の管理する庭園の他に、研究所や格納庫、図書館などが私の姉妹によって制御、管理されておりまス。すべて合わせてバビロンなのでス」
「勘弁してくれよ……」
まだ居るのか、こんなファンキーなのが……。