【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
あたしはユミナに手を引かれて空中庭園を走っていた。というか痛い、ユミナちょっと強く握り過ぎ!
「ちょっとユミナ、離して! 痛いから!!」
「あ、ごめんなさい」
そう言ってユミナはあっさり手を離す。それと同時に後ろからリンゼと八重もやって来た。
「それで、作戦会議って何するのよ?」
あたしはずっと聞こうとしてた事を質問した。冬夜とシェスカのキスを見たら、いきなりユミナに手を取られて走ってたから何も分かってない。
「当然、私達も冬夜さんとキスする為の作戦会議です!」
「うえぇ!?」
キス!? あたしが冬夜と!?
「な、何であたしが冬夜なんかとキスを……!?」
「いえ、もうそういうの結構ですから」
「そうでござるよエルゼ殿」
「お姉ちゃんが冬夜さん好きなの気付いていないの、多分冬夜さんだけだよ」
なんか皆冷たい。というか……。
「そんなに、あたし分かりやすかった?」
「ええ、それはもう」
「ユミナ殿が仲間になった時は凄かったでござるな」
「何でアレに気付かないの冬夜さん、って思ったもん」
やめて、凄く恥ずかしい! 何であたし辱められてるの!?
というかもう認めるしかないわね、これ。
「そうよ、あたしは冬夜が好きよ! 悪い!?」
「正直男の趣味は悪いと思うでござるが」
「それはあたしも若干思ってるわよ!!」
確かにしょっちゅう女の人口説いてるし、なんか知り合いは女性ばっかりで美人多いし、今日も海で水着見せたのに他の人にデレデレしてばっかりだったし!
「まあ、それはさて置きまして」
「置くの!?」
「私はエルゼさんに聞かなければならない事があります」
「……何?」
聞かなければならない事がある、そう言ったユミナの顔は真剣そのもの。なのであたしもそれに合わせて必然声が低くなる。
「ズバリ、エルゼさんは冬夜さんのどこを好きになったんですか!?」
「それ今聞く事!?」
「ええ、打算まみれの私と違ってエルゼさんは純粋に冬夜さんが好きみたいですし」
「打算まみれ?」
あたしが疑問を呈すとユミナはハッ、とした表情になってこう言った。
「そういえば冬夜さんには言いましたけど、皆さんには言ってませんでしたね。私、実は冬夜さんに一目惚れした訳では無く、全ての無属性魔法が使える冬夜さんをベルファスト王国に縛り付けたかったんです!」
「凄い告白した!?」
「そうだったんでござるか……」
「納得ですね……」
「そして2人ともあっさり受け入れた!?」
「それほどの人材という事よ」
納得する2人に続いて、いつの間にかリーンまで話に入ってきた。というか、いきなり全肯定するのね。
「全ての属性魔法に適性があって、全ての無属性魔法の行使が可能で、さらには白帝と玄帝まで従えている。冬夜のキャラが愉快過ぎて忘れてるかもしれないけど、はっきりいって化物よ」
「化物って……」
確かにそうかもしれない。あたしは1周回って呆れてたけど、思えばリンゼは怯えていたような気がするわ。
八重は最初から遠慮無かった気もするけど。
「私も、最初は正直ちょっと怖いと思ってんだよお姉ちゃん。しばらく一緒にいると、怯えるのが馬鹿馬鹿しく思えてきたから遠慮しなくなったけど」
「でしょうね」
女の人口説くのも力づくなんて真似はしなかったし、もっと阿漕になればいくらでも欲しい物なんて手に入ったでしょうに。
……現状でも割と手に入れてない? 金も名誉も女の人も。
「で、話を戻しますがエルゼさん。何で冬夜さんが好きなんですか?」
「……それ、どうしても聞きたい?」
「はい。冬夜さんは私の婚約者で、冬夜さんも口では色々言うでしょうがいずれは受け入れて結婚するでしょう。そして私は王族、王族と結婚すれば冬夜さんも王族になり、側室を娶る事が出来ます。色んな人が冬夜さんの妻になりたがるかもしれませんが、正直冬夜さんを純粋に慕う人は少ないでしょう。だからこそ、1人位はエルゼさんみたいな素直な好意を示す人がいて欲しいと思うんです」
「分かったわ」
ユミナに答えると返事してから考える。あたしが冬夜を好きな理由を。
そんなに大きい理由がある訳じゃない。助けられたけどあれは自分でも切り抜けられた。じゃあ何でだろう、何であたしは冬夜が好きなんだろう。
顔? 悪くは無いけどイケメンかと言われると違う気がする。
性格? それはないわね。
なら何だろう。
――そうね、あえて言うなら
「あたしは、冬夜といるのが楽しいのよ」
「はぁ……?」
あたしの言葉にユミナは気の無い返しをする。まあ、自分で言っててもよく分からないししょうがないわね。
「あたしは冬夜と出会うまであんな馬鹿に出会ったことが無かった。リンゼはいい子だからあんまり予想外な事とか起こさないけど、あいつは違う。馬鹿みたいにはしゃいでて、いっつも楽しそう。それで女の人に袖にされてもヘラヘラ笑ってるあいつが、なんだかんだで周りにいる人を笑顔にしてくれるあいつが、気付いたら好きになってたのよ」
「つまり、気付いたら好きになっていたという事ですか」
「そういう事。我ながらとんでもない奴に、つまらない引っ掛かり方したわね」
「いいじゃないですか」
「え?」
ユミナの言葉にあたしは思わず間の抜けた返事をする。
「物語じゃあるまいし、人を好きになるのに劇的な理由がなくたっていいじゃないですか。私だって一目惚れみたいなものですしね。打算ありきの」
「打算と一目惚れって両立するの?」
どう考えても水と油でしょ、その2つ。
しかしユミナは自信満々にこう答える。
「しますよ。冬夜さんにはベルファストの力になって欲しいというのと、私のお婿さんになって欲しいという気持ちは私の中で何も矛盾しません」
「……確かに矛盾はしてませんね」
「まあ、打算だけならスゥ殿に婚約してもらえばいいでござるからな」
呆れたようにリンゼと八重が思い思いの事を言っている。というか、ユミナの言い分が凄い。リンゼの言うように矛盾は無いけど。
「でも側室は絶対増えるでござるよ」
「新しい人にガンガン声掛けそうですし」
そしてあたしが1番懸念している事を2人は容赦なく言った。
あたしは諦めてるけど、ユミナはどう思うのか。
「え、構いませんよ? 私が正妻であるなら、側室が10人だろうと20人だろうと一向に構いません。私は器の大きい女ですから」
「ああ、そう……」
この返答は王族なら一般的なのか、それともユミナ個人の考えなのかが凄く気になる。
「なら私も側室に入れてもらおうかしら。ベルファストの王族と夫婦になるのは、ミスミドにとっても悪い話ではないしね」
するとここでなぜかリーンが側室宣言をしてきた。いや、でも……。
「冬夜さんに欠片も相手にされてない人が側室は無理だと思いますけど……」
「くっ、流石リンゼね……。ツッコミが手厳しいわ」
「というか、リーン殿も冬夜殿が好きだったんでござるか?」
八重が聞きたい事を聞いてくれた。正直冬夜と息はあってるみたいだけど、あんまりそんな風に見てるとは思えないし。
「まあ、愛してるってわけじゃないけど。でも結婚するなら他の詰まらない奴よりは冬夜みたいな方が面白そうじゃない」
「でも袖にされてますよね」
「……シャルロッテを、シャルロッテを投入すればあるいは」
「あるいはではないでござるよ!?」
「というかシャルロッテさんはベルファスト王国の人ですからね!? いくら師弟でもうかつにミスミド有利にはさせませんからね!?」
リーンの無茶苦茶な発言を、3人がかりで止めようとしてるのをあたしは黙って見ている。そういえば作戦会議はどうなったのかしら?
ま、いいわ。まずは自分の想いを伝えなきゃ始まらないし。
じゃ、戻りましょうか。
「ねえ、このコードどうするの?」
「さア? 新しくマスターになった者に渡せば分かル、と博士が」
シェスカの左手首から出てきたコネクタ付きのコードについて僕が聞いても、シェスカの答えは適当だった。というかちゃんと言えよ博士。
ん? でもコネクタの形状、見た事あるぞ。あ、これスマホに接続できるじゃん。僕は懐からスマホを取り出し、シェスカの差し出してきたコネクタに接続する。ピッタリだ。
独特な電子音が響き、半透明なゲージが画面に表示され少しづつ緑色に変わっていく。やがてすべてが緑のゲージに変わった所で、スマホの画面が輝き始めた。
「なんだなんだ?」
やがて光が収まると、なんと画面の上に15センチ程の人間が立っていた。
あれか、最近流行のARか? でも僕のスマホにそんな機能は無い。
15センチ程の映像として現れているその人間は、白衣を着た20歳前後の女性で、丸い眼鏡をかけて口には煙草の様な物を咥えていた。髪は長くボサボサで、せっかくのブロンドも台無しといった感がある。白衣の中に上着とスカートもだらしなく着こんでいて、その無頓着さに拍車をかけていた。
「レジーナ・バビロン博士でス」
「この人が……?」
気怠そうにしていた博士の顔が、こっちを見上げにたっと笑った。ん?
『やあやあ初めまして。ボクはレジーナ・バビロン。まずは空中庭園及び、フランシェスカを引き取ってくれた礼を述べよう。ありがとう、望月冬夜君』
「……え?」
その年でボクっ娘かよとか、引き取るって正直産廃だと思ってるだろとか言いたいことはあったけど、全部吹っ飛んだ。
何で、5000年以上前の人間が、僕の名前を知っているんだ!?
よくよく考えれば、なぜこのコネクタは僕のスマホに合うんだ? まるで最初から知っていたかのような……。
『分かるよ。君の疑問はもっともだ。まず、なぜボクが君の事を知っているのかだね? それはボクが未来の出来事を覗く事が出来る道具を持っているからだ』
未来を覗く道具? タイムテ○ビ? そんなものまで造れるなんて……。この年で一人称ボクが痛々しすぎて全然天才感が無い。大人の女性で一人称ボクが許されるの香月し○れ位だからな、本当に。
『時空魔法と光魔法を組み合わせて、そこに無属性魔法をいい感じに――。まあ、細かい事は省略するけどその道具は未来を映し出す事が出来る。しかし、あいにくとこの道具は断片的な物事しか覗く事が出来ない上に、覗く時代を決められてしまう欠点があるんだ。使用者と同じ生体波動を持つ者を時代を超えて捉え、映し出すシステムでね。ボクの場合、全属性持ちなんて事が災いして遠すぎる君の時代しか覗けない訳だが』
この人と生体波動が同じって、何か嫌なんだけど。同類扱いじゃないよね、絶対認めないからな。僕はモロパンや見せパンを嫌う紳士なんだからな。
『ま、それを使って君の事を見つけた。初めはちょっとした興味からだったんだけど、楽しくなってきてね。君と仲間の冒険を楽しく眺めていたのさ。特に君の行動は面白い』
「勝手に芸人扱いするな」
『だけどある時、それが見えなくなってしまった。なぜかって? 未来が変わってしまったのさ。いや、変わったというか、不確定になってしまったという方が正しいか』
人を芸人扱いした事を流すのはともかく、気になる言葉が出てきた。
不確定? 未来が?
話を聞く限り時間軸は1本しか無さそうだし、未来が変わるなんてことはなさそうだが。
『パルテノの滅亡……。いや、それは決まっていたのだろうな。実際、君達の時代ではボクらの文明は滅んでいるのだし。ともかく人類の敵、フレイズ共の侵略によるパルテノの滅亡には、既にボクが見ていた未来に織り込まれていたんだ』
フレイズ……、フレイズ!? あの水晶の魔物が、5000年前の古代文明滅亡を引き起こしたのか!
『ボクラも戦ったが、幾万ものフレイズによるパルテノ滅亡は止められなかった。そしてそいつらが世界中に拡散する事による、世界の滅亡は目前に迫っていたんだ。おそらくその先に未来は無い。だからボクは未来が見えなくなった』
でも僕らはここにいる。世界はフレイズに滅ぼされてなんかいない。
『そう。君も気付いている通り、なぜか世界は滅亡しなかった。ある時を境にフレイズ達が世界から消えてしまったんだ。理由は分からない。でもおかげでまた君達の未来が見える事になった』
世界は滅ばなかったって事か。ま、そりゃそうだ。
だけど何でフレイズ達は急に消えてしまったんだ……? 宇宙戦争みたいにフレイズのみを害するウイルスが発生したのか?
『つまり、そういう訳でボクは君の事を知っていたという訳さ。無論、ボクの遺産バビロンは君の為に遺した物だ。好きに使ってくれたまえ。君好みの娘達も造っておいたから好きに使ってくれたまえ』
「使えるか」
にまにまと腹立たしい笑みを浮かべる立体映像に吐き捨てる僕。ただの高性能ダッチワイフだろそれ!
『一応君以外にバビロンが渡ってしまうのはよろしくないので、分散させておいたがまあ残りは見つけなくても構わない。気が向いたら探せばいいさ。あまり、強すぎる力はその時代には必要ないらしいしね』
適当過ぎるぞこの博士。
『では長くなったがこれでメッセージを終える。ちなみにこのメッセージが終わったと同時に、フランシェスカは半裸になる』
「マジで!?」
『冗談だ。ではまた』
何なんだよこの博士。シリアスしたいのかギャグしたいのかはっきりしてくれ!! というか考える事が多すぎる!!
おそらくだけど、博士はフレイズが未来に居る事を見ていない。見てたら多分強大な力が必要になる場面もあると思うだろし、バビロンは分散してなかっただろう。
あのコオロギ型のフレイズは地下にまるで封印されているみたいな感じだったから、5000年前の遺物か、1000年前にも侵攻があってそれを捕えたものだったのかもしれない。
でもリーンが言うには空間が割れて出てきたんだよな、ヘビ型のフレイズ。……これ再びフレイズが侵攻してくるって事じゃないの?
え、探すの? バビロン捜索必須!? というか
「こんな重大な話、時間つぶし感覚で聞きたくなかった……」
「すみまセんマスター。まさかこんな重い話だとは思っていませんでしタ」
未来見えてるなら有効に使えよその力! と内心で僕がツッコミを入れていると
「ちょっと、話があるんだけど」
僕とシェスカ以外の声が聞こえた。
声の主は分かってる、エルゼだ。さて、何を言って来るんだ?
次回、最終回。