瀉血の剣士、命を削り高みを目指す   作:古狩人ロク

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<登場人物紹介>

「名もない少年」
性別:男
年齢:14歳
身長:164cm
種族:ヒューマン

所属:【アステリア・ファミリア】/ステイタス:Lv.1
武器:《無銘ノ黒刀》
発展アビリティ:なし
スキル:《???》



「アステリア」
性別:女
身長:152cm
種族:神
所属:【アステリア・ファミリア】主神



【1】名もない少年、迷宮都市へ

「ねぇ、キミ。あの……えっと………わ、私の【ファミリア】に、来てくれないかな?」

 

 恐る恐るといった様子で、女神アステリア様に【ファミリア】への勧誘を受けたのが3ヵ月くらい前のこと。

 

 

 

 

 

 

 3ヵ月前………あの頃の僕には、何もなかった。

 荷物も、お金も、家族も、友人も、帰る家も。……自分の名前さえ。唯一持っていたのは、自分の生まれ故郷から持ち出してきた黒い鞘に納められた刀だけ。身一つで故郷から()()()()()、ひたすら走り続けて辿り着いたのが迷宮都市「オラリオ」という街だった。

 

 

 

 故郷から離れたまではよかったけれど、まさか辿り着いた先が冒険者の活気に満ち溢れた迷宮都市だとは予想していなかった。その時は冒険者のことも、ギルドのこともよく知らなかったために、冒険者になるという考えにはすぐには行きつかなかった。それに故郷では()()()()から一人でいることがほとんどだった。……あまりの人の多さに、僕はすっかり気圧されていた。

 耳を傾けると、いろんな会話が聞こえてくる。

 

ダンジョンでの自分の成果を自慢する話。

もっと下の層へ向かうために強い武器を買いに行く話。

以前買ったアイテムの性能がイマイチだった話。

 

 聞こえてくる会話のほとんどが冒険者絡みで、周りを見渡せば鎧や多種多様な武器を背負った冒険者が思い思いの表情を見せながら楽し気に言葉を交わしている。でも、そんな楽しげな雰囲気の中に、僕という存在は完全に浮いていた。周りは普通の洋服を着ていたり、立派な防具に身を包んでいるというのに、僕は故郷で着ていたボロ布のまま。背中には故郷から持ち出した黒い刀を、黒ずんだ細長い襤褸切れで巻き付けているだけ。

 

 自分のみすぼらしい恰好を改めて自覚し始めたとき、今まで聞こえていた会話の中に嘲笑うような声が混じっていることに気づいた。周りを見回すと、冒険者3人のグループが僕の方を見て笑ってる。その目は、まるで汚物を見ているような。自分より遥かに劣る下賤を見下すような。そんな目をしていた。

 

 

 

 

 僕はその場から逃げ出した。耐えられなかった。

 

 汚物に向けるものと同じ視線。

 僕を貶めるためだけに紡がれた、楽し気で仄暗い嗤い声。

 

 僕が生まれてから、ずっと故郷で経験してきたものが、偶然辿り着いただけのこの街にも存在していたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 気が付いたら、僕はどこかの裏路地に座り込んでいた。まったく日の光が差し込まない暗く湿った裏路地の片隅に。寂しさを紛らわせたかったのか、何か縋るものが欲しかったからかは分からないけど、背中に背負っていた黒い刀を両手でしっかりと抱きかかえていた。自分でも無様と思うくらい刀を握る手が震えていた。

 

 

「……………なんで……」

 

 

 なんで。その先の言葉は出なかった。言ったところでしょうがないし、聞いてくれる人もいない。

 

 

 なんで僕は生まれてきたんだろう。

 

 なんで僕がこんな目に会うんだろう。

 

 なんで僕は生きているんだろう。

 

 なんで僕はまだ死んでいないんだろう。

 

 

 なんで僕は………

 

 

 

 僕は思考を止めて、刀を抱きかかえたまま目を閉じた。

 この街を離れるほどの体力はもう残っていないし、どうせ移動出来たところで、辿り着いた先での扱いはここと大して変わらない。どこまで行っても僕は嫌われ者だ。なら嫌われ者に相応しい最期を迎えようと思った。誰も気にも留めない場所で、一人静かに朽ち果てて消えてしまおう。

 

 僕はそっと俯き、静かな死を願って目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…あの……ねぇ、キミ。だ、だいじょうぶ? どこか痛むの?」

 

 

 目の前から聞こえてきた、優しく穏やかな声。その声に反応して、僕はゆっくりと顔を上げる。

 

 

 僕の目の前にいたのは、僕と同じ年くらいの女の人だった。

 

 

 その人の第一印象は「なんだかちぐはぐな人」だった。

 肩まで伸びた綺麗な金色の髪は、裏路地に吹くそよ風に靡いて輝いているように見えた。でも、綺麗な髪なのに所々跳ねている。なんて言えばいいのか……ひどい癖っ毛?顔立ちもとても綺麗で、まるで物語に登場するお姫様のようなのに、着ている服はボロボロの布を継ぎ合わせて作ったような粗末なものだった。

 

 そんなちぐはぐな女の人が、僕のまるで死人のように濁った瞳をじっと見つめて、なんでか僕を見てオロオロしている。その様子をぼんやりと見ていたけど、少しして僕はもう一度俯き、目を閉じた。一人でひっそりと朽ち果てようと思っていたところを邪魔されて煩わしかった。それに、髪と同じ金色の透き通った瞳で、僕の濁った瞳を見てほしくなかった。

 

 

 

「キミ、だいじょうぶ? ケガしてるの?」

 

 目を閉じていても分かった。女の人が僕の方に歩み寄って来ている。何故か靴音ではなく、ペタペタと石畳を裸足で歩く音が聞こえる。ボロ布で作った服に、靴すら履いていないなんて。一体この人は何なんだろう。

 

 もう一度顔を上げると、ちぐはぐな女の人が僕の正面にしゃがみこんで、僕の顔を心配そうな顔でじっと見つめている。……正直言って、僕の顔を見つめるのをやめて早くどこかへ行ってほしい。惨めな僕の濁った眼と顔を見ないでほしい。

 

 

 

「…………大丈夫です。………大丈夫ですから………構わないで下さい……」

 

声はひどく掠れていたけど、ちゃんと拒絶の言葉は言えた。こんな下賤に"構うな"と言われれば、誰だって怒って帰る。この人だって、すぐに僕を見下して、悪態をついて帰るに決まってる。

 

 

 

 

「そんなこと言わないで。ほら、顔を上げて?」

 

 そう言うと、この人は僕の頬に両手を添えて、ゆっくりと優しく…本当に優しく僕の頬を撫でた。

 

「キミ、立てる? ケガしてない?」

 

「…………」

 

 僕は何も答えなかったけど、この人は僕を放っておく気がないのか、僕の手を掴んで僕を立たせようとする。……本当に不思議な人だな。こんなボロ布を着た屑に話しかけてくるのも、拒絶したのに帰らないのも、僕にとっては不思議でならない。だから、僕は聞いた。

 

 

「なんで……僕に、構うんですか? ………大丈夫って、言ったのに………」

 

 

 

 

「…だいじょうぶな子はそんな悲しくて寂しそうな顔をしないよ。ほら、おいで? 服も身体もボロボロだよ? ちゃんと手当てして、きれいなお洋服に着替えないと」

 

 ……本当に不思議な人だな。

 

 

「あの………」

 

「……? どうしたの?」

 

 

 

 

「………あなたは……?」

 

「わたし? …アステリア。こう見えて女神、なんだよ? よろしくね」

 

 

 

 

 それが、女神アステリア様との出会いだった。

 

 

 アステリア様に出会って、本当に色んなものをもらった。

 

 僕の新しい名前も。

 

 僕の新しい居場所も。

 

 

 路傍に転がる石ころ同然だった僕に、恩返ししてもしきれないほどのものを沢山もらった。

 

 

 

 

 

 

 僕が【アステリア・ファミリア】に誘われるまでのことも話したいけども、それはまた今度。




この物語は、誰かの語りで進行していく形式となっています。

駄文ですが、感想等頂けると幸いです。
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