瀉血の剣士、命を削り高みを目指す   作:古狩人ロク

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【4】ダンジョンにて

 薄暗い路地を出て、ようやく昇った朝日を拝みながらダンジョンまでの道をゆっくりと歩く。朝日を浴びながら、朝の新鮮な空気を吸い込んで歩くなんて、少し前の僕には考えられない贅沢だ。

 

「(えっと、今日は3階層で魔石稼ぎをして……余裕があればもっと下まで潜ってみようかな……)」

 

 ブツブツと考え事を呟きながら、ダンジョンまでの道を歩く。

 

 

 今のところ、【アステリア・ファミリア】の団員は僕一人しかいない。収入を得るためには僕が積極的にダンジョンに潜る必要がある。とは言え、僕はまだまだレベルが低い。安定した収入を得るための実力がまだ不十分だ。……アステリア様に今以上の苦労と心配と迷惑を掛けるわけにはいかない。もっと“下層”に行かないと。今以上に強くならないと。

 

 

 

「お、ブランク~!! おーい!!」

 

 考え事をしながら歩いていると、元気の良い声で名前を呼ばれた。考え事をやめて振り返ると、僕にとって数少ない知り合いの冒険者だった。

 

「……おはようございます、クリス」

 

「おはよう! お前、また何か考え事しながら歩いてたな? 危ねぇからやめろってこないだ言ったじゃねえか。それと“友達”に敬語使うのもやめろ。なんか距離を感じる」

 

「……すみません」

 

 

 

 彼は“クリス・ウィンチェスター”。僕の数少ない知り合いの一人。【ヴォーダン・ファミリア】の眷属で、レベル1の冒険者。

 

僕が彼に出会ったのは、僕がまだダンジョンに潜ったばかりの頃。十数体のコボルトに囲まれて苦戦していた時に、偶然通りがかったクリスに手助けをしてもらったのがきっかけで知り合い、以降彼と度々交流するようになった。街ですれ違えば他愛もない世間話をしたり、ダンジョンでお互いの魔石・素材集めに協力し合ったりするうちに仲良くなった。……僕にとって、初めてできた友達。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今日はどうするんだ? 魔石と素材集めか? それとも下に行ってみるか?」

 

「ちょうどそれを考えていたところです。クリスはどうするんですか?」

 

「今日は他の団員が素材集めしてくれるって言ってたから、今日はもっと下に潜ってみるつもりだ」

 

「……同行してもいいですか?」

 

「いいけど、お前んとこの神様、心配するんじゃねぇか?」

 

「……言い訳を考えておきます」

 

 

 

 

 

 

 

 オラリオの大通りを通り抜け、神塔(バベル)の中に入り、ダンジョンに続く階段まで歩みを進める。その道すがら、僕はアステリア様への謝罪と言い訳の言葉を考えていた。

 

僕はまだまだレベルもステイタスも低いため、アステリア様やギルドの迷宮探索アドバイザーの人にも「下の階層に行くのはもう少し強くなってから」と念押しされている。僕のことを心配してくれているのだろうけど、生憎僕は自分の身はそれほど大事とは思っていない。アステリア様に恩返しするまで死ぬつもりはないけど、傷を負うぐらいは()()()()()。とは言え、言いつけを守らず下の階層に潜るのだから、なんとか納得してもらえる謝罪の言葉を考えていた。

 ついでに、今後も下の階層に行く許可を頂かないと。もっと下に行けば、今よりもっと強くなれる。……今よりもっと稼いで、アステリア様が不自由しないようにしないと。

 

 

「ブランク、ちゃんと前見て歩け。また考え事しながら歩いてたろ?」

 

「……え?……あぁ、すみません」

 

「……さっき言ってた“言い訳”は思いついたか?」

 

「今のところはまだ……」

 

「やっぱり下に潜るのやめとくか?」

 

「いえ……強くなる、いい機会ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 考えごととクリスとの会話を挟むうちに、あっという間にダンジョンに続く階段を下っていた。この階段を下りた先は、無数のモンスターが蠢く地獄……は言い過ぎかな。でも命のやり取りをする場所、という意味では地獄とも言えるかもしれない。そんな地獄を何十回、何百回と繰り返した強者達や先人達は、今の僕らが苦戦するような場所を片手間程度で突破できるものなんだろうな。ダンジョンの階段を下りながら、不意にそう思った。

 

 

 

 

 

 1階層、2階層を順調に駆け下り、3階層に到達した。途中何体かのモンスター、何人かの冒険者とすれ違ったけど、今日の目的は到達階層の更新。道を遮るモンスター以外は無視して横切り、僕にとって今のところの“最深階層”である3階層に着いた。

 

 

「さて、ここまでは順調っと……行くか、4階層」

 

「はい。……その前に……」

 

「あぁ。肩慣らしでもしとくか」

 

 

 クリスと一瞬顔を見合わせ、すぐに周囲に視線を戻す。

 周りの岩壁が徐々にひび割れ始め、十数体ほどのモンスターが這い出てきた。どこかで聞いた“ダンジョンはモンスター達の母体である”という噂も、この光景を目の当たりにすると納得してしまう。

 現れたのはゴブリンやコボルトばかりだったが、十数体に囲まれれば厄介ではある。うっかり背後を取られないよう、周りに気を張りながら立ち回らないと。

 

 

「よし、んじゃ……始めるか」

 

 握りこぶしをパキパキと鳴らしながら、気合を入れた表情を見せる。気合を入れる彼の装備を横目に見ると、腰にアイテムポーチを着けているが、武器は背中にも腰にも見当たらない。

 クリスは刀剣や槍、斧などといった、“武器らしい武器”を持っていない。彼の武器は、両手に装着した無骨な手甲。彼が言うには『不器用で武器を扱えないし、鍛えるにはコイツが一番』らしい。ほとんど素手に近いとは言え、彼のパワーは馬鹿に出来ない。彼の現時点での本気の拳は、ゴブリンの頭蓋を爆散させるほどの威力を持つ。これが今後、ステイタスの更新やレベルの上昇でより強くなると思うと、少し恐ろしくもあるけど頼もしい。

 

 

 

「「「グガアァァァァアアアァァアァ!!!」」」

 

 コボルトが一斉に咆哮し、ゴブリン達も同時に僕らに向かって駆け出してきた。

 既に四方を囲まれているけど、逃げるつもりはない。僕らを取り囲む全てを相手にしてやる。

 

 

「……ふっ!!」

 

 僕の方に向かってきた、“僕から一番近い”コボルトの懐に素早く潜り込み、その腹を裂く勢いで抜刀する。故郷から持ってきた黒い刀はその切れ味を発揮する。滑らかにコボルトの脇腹に入り込んだ鋭い刀身は、抜刀の勢いを落とすことなくコボルトの肉を、骨を、臓物を断ち切り、地面に血の雫を叩きつけ、僕の腕が振り切られると同時に止まる。

 一瞬遅れてコボルトの胴がずれ、ボタボタと血が垂れ落ち、次の瞬間に断ち切った胴体の上半分がドシャっと汚い音を立てて落ちた。

 

 ……今の抜刀の勢いで返り血が顔や手に派手に付いたけど、あとで拭えばいいか。

 

 

「ギギィッ!!??」

 

 仲間の両断された姿を見て、他のコボルト達が怯んでいる。僕は攻めるチャンスを見逃さなかった。

 コボルト達が怯んでいる隙に、僕は奴らのもとへ駆け出す。刀を握る力を強め、2匹目のコボルトに斬りかかる。

 

「グガァ!!」

 

 コボルトを袈裟切りにする直前に、1匹のゴブリンが僕に棍棒を振るってきた。視界の端に映ったその棍棒を、身を翻してギリギリ回避する。空中で身体を捻り、着地と同時に刀を横薙ぎにし、棍棒で襲ってきたゴブリンと斬ろうとしていたコボルトの足を断ち切った。

 素早く体勢を立て直し、足を斬られバランスを崩した2匹を地面の礫ごと斬り伏せた。

 

 

「ブランクッ! しゃがめ!!」

 

 背後から突然聞こえたクリスの叫び。声の聞こえた方に振り向くと、クリスがゴブリンの頭を鷲掴みにして、僕に向かって振りかぶっている。……まさか。

 

「ぅおおおおりゃあぁぁ!!!!」

 

 気迫のこもった大声と同時に、クリスは鷲掴みにしていたゴブリンを渾身の力でぶん投げてきた。……僕の嫌な予感が的中した。ゴブリンが投げられた瞬間、即座に身を屈めた。頭上を掠めたのは、叫びながら飛翔する哀れなモンスター。それはスピードを緩めることなく飛んでいき、さっきまで僕が斬ろうとしていたコボルトに激突した。

 

 グキャリッ

 

 ブチブチッ

 

 何かが砕け、千切れる音が鳴った。その嫌な音が鳴った方を見ると、身体が奇妙に捻じ曲がった2匹のモンスターの骸が転がっていた。

 

 

「……僕の方に投げないで下さい」

 

「悪い、お前なら躱すだろうな~って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、こんなところかっと……まぁ下に行く前の準備運動にはなったな」

 

「ついでに魔石も取っておきましょう。戦うだけはもったいない」

 

 

 ゴブリンを投げられてから5分と経たず、戦いは終わった。お互いに顔や服は返り血で汚れているし、武器も血でベタベタだ。僕らは戦い方がまだ洗練されていないから、どうしても戦った後は凄惨な見かけになる。もっと腕を磨けば、ここまで汚れずに済むものなのかな。

 以前、返り血を洗いもせずそのままホームに戻ったら、アステリア様にボロボロと涙を流すくらい心配されてしまった。僕が大怪我を負って帰って来たと誤解させてしまったようだ。それからはホームに戻る前、ギルドを訪れる前には必ず血を洗い流す、という新しい習慣が出来た。

 

 

「あ~、クソ。両手が血で滑って気持ちワリィ」

 

「魔石を取って下の階層に行くまで我慢して下さい」

 

「分かってるって……お、ドロップアイテムだ。こりゃ爪かな?」

 

「こっちもコボルトの牙を拾いました……あ、魔石が砕けてる」

 

「あぁ、そいつはもうすぐ消えちまうな。おっと、魔石、魔石……」

 

 

 2人でモンスターの死骸を漁り、着々と魔石やドロップアイテムを入手していく。この小さな光る魔石や、魔石を失っても消滅せずに残った爪や牙の一つ一つが、僕ら冒険者の収入源になる。浅い階層で取れるものなんて二束三文にしかならないけど、少しでもお金を得るためにも無駄には出来ない。

 

「まだポーチに余裕があるな……下の階層でガンガン稼ぐぞ~」

 

「そうですね。とは言え、3階層から4階層というのは、どれくらいの違いがあるんでしょう……」

 

「ま、行ってみりゃ分かるだろ。強え奴がいるなら、早く勝負してえな」

 

「……喧嘩じゃないんですよ」

 

「分かってるって…………ん?」

 

 血だらけの拳をパキパキと鳴らしていたクリスが、ふと別の場所に視線を向ける。

 

 

「どうしました?」

 

「……なんか聞こえねぇか?」

 

 

 …………

 

 ………………

 

 耳を澄ませて周りの音を聞くと、確かに遠くの方から何か聞こえる。それは何かの唸り声と、人の声のようなもの聞こえる。唸り声の方はおそらくモンスターなんだろうけど、今まで見たモンスターからは聞いたこともないような、野太く覇気のある唸り声だった。

 

「(まさか、下層のモンスターが上がって来た?)」

 

 各階層のモンスターは、基本的にその階層内で行動し、上の階に上がってきたり下の階に降りることはあまりない、とギルドのアドバイザーの人から聞いたことがあるけど、そんなイレギュラーが100%無いとは言ってない。人の声が聞こえるということは、誰かがそのイレギュラーに遭遇して追いかけられているかもしれない。もしそうなら、助けないと。

 

「……誰か追っかけられてるかもな」

 

「助けに行きますか?」

 

「当たり前だ。……倒すことは期待できねぇが、逃げる時間稼ぐくらいはやらねぇとな」

 

 クリスの考えも僕と一緒だった。僕らのような低レベル冒険者が下層のモンスター相手にどこまで立ち回れるか分からないけど、誰かが命の危機に晒されているなら、助けないわけにはいかない。

 

 

 

「ほぁああああああああああああああああっ!?」

 

 

 

「「っ!!??」」

 

 

 目の前を通り過ぎたのは、一人の小柄な冒険者と、“ミノタウロス”と呼称される15階層レベルの怪物。僕らより遥かに格上の怪物が何故こんな上層まで来たのか。疑問が生じたし、十分衝撃を受けたけれども、僕とクリスにとって重要なのは、その怪物に追いかけられている冒険者の方。

 

 

 

「……ベル君!?」 「……ベル!?」




ここにきてようやく原作の主人公を登場させることが出来ました。
これから原作キャラもどんどん登場させる予定です。

オリジナルキャラも増えていくので、温かい目で見て頂けると幸いです。
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