今回の作戦拠点、アーノギルドは通称『弾薬ギルド』と呼ばれる程、弾薬庫が沢山ある。その為、攻撃拠点として優秀であり、防壁や防衛砲台も充実しているので、籠城戦や防衛戦にも対応出来る。只、輸送系の乗り物が今回の作戦には若干足りないので、他のギルドから輸送部隊や護衛部隊が追加出来ている。
『ヴァ、
『そりゃ今回の作戦の参加人数は四千人だぞ。機体だけじゃない、輸送部隊も参加するし、ギルドのお付き連中だけでも数百人は参加するそうだ。トラックの運転とかもあるし、流石に全員がパイロットって訳じゃなさそうだが、それでも50人以上は愛機で暴れる予定だろうさ』
『そりゃそうだろうけど…総十郎、駐機してる機体が格納庫からはみ出してる』
『そりゃ、格納庫と言ってもギルド所属者専用が普通だろ。開放都市でもない限り―――』
「5時方向」との武の声に、総十郎が絶句した。イクサーが5時方向にモノアイを旋回させた瞬間、機体が一瞬停止しそうになった程、総十郎は驚いた。何せ通路と云う通路に
「えええええええええ!?」
開いた口が塞がらない。顎が上がらない。「何だこれは」としか言い様のない異常な光景である。大手ギルドでありながら一部すら格納庫が解放されていない、と云うのは珍しいが単純に立勢力との協力が少ないだけなのだろう。アーノギルドは日米共同戦線以前に建設されたギルドで、本来はアメリカ人プレイヤーが個人的に運営していたと聞く。単に共同戦線に参加して、建設自体はそれ以前の物であれば、致し方ない事もある。しかし、それを考慮しても異常すぎる。
「総十郎、お前が大声で驚くの久しぶりだな」
『可笑しいだろ、想定外の数が来たとしても…。これ、敷地に余裕がないだけか?』
「共同戦線に参加するに際して、大急ぎで防衛砲台や防壁を増設した。多分、そんな感じだろ。増設も想定してなかった感じの構造してるし、日本のギルドマスターも四苦八苦してるみたいだし」
『大事が行き成り振って来たからね』
武の言葉に葵も同意する。自分達も聞いた時は「はあ!?」と思った程だ。第一、何故『中韓VS日米』なのか、理由が今一解らない。確かに韓国勢は殆どが廃人級だが、日本勢のぶっ飛んだ武器や機体の、余りにもあんまりすぎる発想に押し負け感が強い。中国勢は強い事には強いが、一級のエースと呼べる活躍劇が少なく、開発具合も韓国勢と比べると見劣りする。何より、開発のぶっ飛び具合で日本やイギリス、アメリカに圧倒的に負けていて、他国と比べるとギルド間協定件数が著しく少ない。「中韓製は爆発する」と云う事はゲーム上に於いては無いが、やはり何処か納得する材料が少ない。
そもそも日米陣営が中韓陣営に攻めるのは、距離的に今一だ。比較的両国勢から近い中国勢を先に攻撃するか、数を活かして韓国勢を包囲するなら兎も角、両勢力を一度に攻撃するのは些か無理がある。事実、過去の攻撃ではよその作戦で負けたと言う報告も多数ある。大半が挟撃だ。作戦に参加し、勝利しても帰り際に撃破される事が多く、中韓陣営戦力の殆どが囮ではないか、とも噂される程だ。
だが、「強力であり、倒してもメリットがない」と云うのは飽く迄プレイヤー目線だ。一部の『課金部品』を新登場させる運営からすれば、戦闘が激化する程に課金率が高まるのだから、現実世界では批判される悪戯に戦火を刺激するも行為も、誰も死なないゲーム世界であれば文句は出ない。要はやっている事が『死の商人』なのだ。プレイヤーは経済戦争の尖兵でしかない。
最も、それは悪い言い方をすればの事だ。「自分でデザイン・カスタマイズ・開発したロボットで戦える」とあらば世界中からプレイヤーが集まるのは道理だ。『男の子の夢』を叶えるプレイヤーと、その活躍によって利益を得る運営側の関係は、やっている事が『経済戦争の先兵』とは言え、互いに理のある関係なのだ。
その意味では、「撃破されても期間を設ければ復活する」と云うのは、延々と戦いが続く事に繋がり、経済戦争と云う目的を達成するに相応しい舞台なのだ。世界中のゲーム会社が運営に加わろうと必死になるのも、そうするだけで莫大な利益を得られるからだ。そうなれば、「自国の会社が参加した」と聞いた者がプレイヤーになるのは当然の話だ。
「成程、良く出来ている。得をする経済戦争の先兵、か」
良く考えた物だ。感心せざるを得ない。事実、善十郎でさえ大喜びでイクサーを操縦し、戦う程だ。そして
武達と別れた後、総十郎はショップを比べ歩いていた。
「この辺の地区は護衛有りか。向こうはルート指定型だったけど…。まあ、出発地点が激戦区だし、此処等の地域じゃ割高だわなぁ」
品揃えは普通だが、土地柄料金が高い。フィールドに展開しているショップの殆どは廃業か、襲撃に耐えられず破壊されたまま放置されているので、ギルド内に展開しているショップと違って、確証無しに近づくと、全く別の勢力の隠しギルドになっている事もあり、不意打ちを食らう危険もある。そもそもフィールド型自体、腰の軽さを活かして激戦区から離れたり、意図的に戦場に開店したりしてライバル店と勝負しようとするのだから、地雷要素が強くて当然であり、ギルドの戦力に維持して貰っているルートを使うショップでもない限り、通販は信用できない。
ギルド側がルートを維持する事で得る利益もある。多くのギルドはルート料金を取り、ショップ側は値段と料金を合計した金額で勝負する事に成り、ショップ単位の護衛付より料金が高いが安心度も高い。そうなるとショップの利用者数が安定し、ギルド側の徴収額も一定を維持し易くなる。そうなればルート維持用の設備や戦力の増強が図れ、よりルートが安定する。大手ギルドの中身がデパートと化している事があるのも、これが理由だ。
「おお、量産ラインが見えるのか!!」
ショップ激戦区を抜けると、正面からガッコンガッコと工場染みた音が聞こえて来た。何だろう、と手摺の所迄近づくと、其処には数種類のイクサーと別の機体が大量生産されていた。
「お前さん、作戦参加者か」
「あ、どうも。此処の人ですか」
「俺は同盟ギルドから派遣されたマードック・アルシュタイナー。今作ってる機体は予備機だ。大作戦前のお約束の一つで『俺は生きてるけど乗る機体がないよ』ってな時は、このラインで生産されたイクサーに乗る事になるからよ。宜しくしてくれや」
「龍禅 総十郎です。イクサーを自分仕様にチューンした機体に乗ってます」
そう言って握手するとマードックは嬉しそうな顔で「おお、イクサーユーザー!」と肩を叩いた。比較的安値な部品で構成されるイクサーは、大量生産するには打って付けの即戦力品であり、その分量産機としての印象が強い。乗ってしまえば中々名機なのだが、自分で作った機体に乗りたがるプレイヤーには印象故に遠慮されがちで、特に欧米系ではオリジナル趣向主義が強い為か、奇怪な機体ばかりを使うプレイヤーが大半だ。
「無駄に格好付けたがるから、みーんなイクサーを嫌がるんだ。で、戦線復帰が間に合わず…ギルドがドカン」
「量産型も良いと思うんですがね。そりゃオリジナルも悪くは無いですけど、作るのが手間なんですもん」
「はっはっは、それがこのゲームの醍醐味じゃねェか。そう言う意味じゃオリジナル主義者の方が正解だ」
「それでギルドが潰れたら無意味じゃないんですかね…」
オリジナル型を使うとなると、如何しても高値の部品を使いたくなる。その結果は『建造費が高過ぎて建造出来ない』か『建造出来ても修理費が毎回高値なので維持出来ない』かの二択だ。高性能なのは良いが、安値で高水準を目指そうと思えば普通に高性能な量産型が作れる手前、総十郎としてはオリジナル主義者は理解出来ない。
妹の桜に頼まれて、試しに『兎さん一号』の設計図を製作したが、如何しても性能と維持費が割に合わず、建造を見送ったのだ。コクピットは流通品を無理矢理突っ込んだが、建造せずとも性能を発揮し切れないのは目に見えている。挙動設定を一切変更して居ないので、恐らくエラーばかりでエンジン起動も出来ないだろう。
オリジナルを作ろうとすると、コクピットが難関なのだ。設定は元よりボタンや操縦桿の配置、どのペダルをどのブースターに対応させるか、どの様に対応させるか。ロックオンシステムの設定と頭部カメラとの調整、武器の相性と電力供給機関の出力設定と、物凄く面倒臭い。
マードックと他愛ない会話をした後、購入した新実装部品を50個程買い込んで、格納庫へ入った。
今度の戦いでは、今迄以上の激闘が長期的に展開される事が予想されるらしい。何せ日米陣営がアーノギルドに戦力を終結させている様に、近頃若干不利になり始めた中韓陣営も同様に戦力集中をしており、総十郎達が属する日米陣営の作戦目標が、相手のギルド制圧なのだから、その中間の荒野は激闘の大地と化す事が予想される。
不利な状況を打破すべく、相手が用意した大型トレーラーは、言わば移動要塞の様なので、総十郎は個人レベルでの戦闘を戦果を挙げる為に頑張ろうと思う一方、戦略レベルでは可能な限り的トレーラーを破壊したいとも考えている。
勿論自分がギルドマスターではないので、そればかりは総十郎が決められる事ではない今回の機体調整では両方を狙う為に、イクサーの重装甲化とハイパワー化を図り、武器を重荷電粒子砲に絞って機動力とエネルギーバランスを可能な限り維持する方向なのだが、それなりに運動性が悪くなる事は想定している。追加ブースターで加速を補うのも良いが、そうなると機体重量で圧迫されたエネルギー容量を更に押し潰しかねない。だからと言ってエンジン込みのブースターでは、弱点を増やす事になる。
「イクサーの頭部は電子系を詰め込む程、容量が多くないんだよな。射撃用短距離レーダーと広域カメラアイで一杯だし、銃撃仕様は其処がなぁ。とは言え、電子戦闘用のバックパックを排除するとレーダーレンジが絶望的な事になる。頭にアンテナつけてデータリンクで誤魔化しても良いが、入れ替わりの激しい前線ではリンク設定の手間が増える。如何な物かね」
追加ブースター用のジェネレーターを追加しようにも、今の内装容量は管制ユニットとジェネレーターに冷却器、それ等を繋ぐエネルギーケーブルに、バック、サイド、メインの三種類のブースターに接続された燃料消費モードに切り替える為の、エンジンと燃料タンクで一杯だ。容量を増やすには、機体の構成部品を減らして内部空間を増やす必要があるが、余り装甲の分厚い方ではないイクサーを、更に軽装甲にするのは不安があり、その分を追加装甲で補おうにも、無理な設計では姿勢制御に支障を来す。
その上、部品毎に設定されている『荷重限界性能』は、部品を重ねる事で強化可能だが、これを超えると被弾時の衝撃で自壊する事もある。内側とは言え、部品数を減らすと荷重限界性能を低下させる事になる。
特に被弾率の高い胴体の荷重限界性能は維持したい思いもあり、胴体や肩に追加する装甲に可動用アームを取り付けたとしても、余り期待は出来ない。
「これは…仕方ない、サイトに良い情報が無いか探そう」
端末からサイトへアクセスすると、スクロールバーを下へ移動させている最中に、気に成るタイトルがあった。
「『荷重限界を維持した高防御機の秘密』か。部品数を減らさずに防弾性を高めるには角度跳弾を狙う事で意外と簡単…だと? しかも『機体重量を増やさない防弾性の確保手段としても優秀』だと!?」
跳弾には二種類ある。一つは攻撃者の威力が足りずに装甲で弾かれる『正面跳弾』で、
もう一つが、このスレで利用するゲーム上の仕様で『角度跳弾』と呼ばれ、着弾角度が浅いと跳弾率が高まる事を利用し、可動アームを設けた追加装甲にセンサーを付け、意図的に角度跳弾を発生させよう、と言う物だ。此処暫く戦いに集中し過ぎてアップデートの事を忘れていた総十郎だったが、つい先日実装された攻撃感知センサーを使えば、アームの可動性能を確保するだけで、実質的に数値よりも何倍もの防弾性を獲得できるとの事だ。
―――これなら。
総十郎は早速作業を開始した。
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