VAADIKUTO   作:エグ・エルード

14 / 16
第4の4話 駆け抜ける刃

 戦の大舞台を前に、総十郎はイクサーを仕上げる為にテストアリーナへやって来た。

アリーナ内は模擬戦や武器の試し撃ちをするVAADIKUO(ヴァーディクト)でごった返していた。大きな施設だけあって、テストアリーナの広さは他のギルドを遥かに超える。普通ならバトルアリーナ用に管理する様な規模だが、一回使う毎に割と高めの料金を取られるので、アーノギルド側としては収支がつくのだろう。

 

 調整を繰り返した愛機の挙動を試すべく、ペダルを優しく踏み込むと脚部のローラーユニットが床に叩き付けられて、機体全体が僅かに持ち上げられる。速度計の数値が僅かに変動し、ディスプレイがローラーモードに移行した事を表示している事を確認した総十郎が、今度はペダルを一気に踏み込んだ。

 

『初速120。現在加速中』

「123、144、187、240、270、390…。最高速度は時速390キロか」

 

並走していた武のVAADIKUO(ヴァーディクト)、スナイピスがあっという間に引き離されてしまった事は葵や総十郎を驚かせるには十分過ぎた。スナイピスが四脚なのに対しイクサーが二脚(人間と同じ構造の脚部)であるが故に重心移動できる事が強みだろう。逆関節型の脚部でも同じ事が出来るが、その構造上後ろへの重心移動は得意だが、前には重心移動し辛いのだ。

勿論、後ろへの速度が増す構造でもあるので遠距離戦闘を重視するVAADIKUO(ヴァーディクト)は跳躍性能の高さから生じる三次元機動能力も相まってスナイパー向けの脚部とされる事もある。一方の二脚は癖が少ないのでフレーム毎の性能差を言及しないのであれば、基本的に初心者向けと言われている。当然基本が揃った性能だから初心者向けと称されるだけであって、その基本性能を引き出す術を持つ上級者なら大きな可能性を秘める事となる。

 

 「ローラーだけの加速とは思えないな」

『内部構造は別パックを買ったんだ。買い換えただけで結構動きが違う。今のハードに馴染んだらしい』

「へえ、道理で熱反応が何時もと違う訳だ」

 

武の言葉通りスナイピスのメインモニターには、性能調査の為に様々なセンサーの情報が表示されており、その中の一つにサーモグラフィーがあった。高熱の所を赤く表示して、冷えていれば青、冷たいと黒く表示する機能だ。

 

 イクサーを高機動化する為、足裏に装備されていたローラーを撤去し、代わりに緩衝材を増やした。これにより高所からの着地耐性が大幅に強化され、相手を蹴り飛ばしても反動を機体に伝わり難くすると言った格闘面での利点も増えた。

大型のローラーユニットを脹脛に半分埋め込む形で格納し、ユニット内部にスラスターを仕込む事で空中での変幻自在な回避運動を実現、更にエネルギーの消費速度増大に伴い、エンジン回りの高出力化を図った。その代償として燃料関連の大型化を避けきれず、電子戦用バックパックを諦めてエンジンを更に追加。ダブルエンジンにしてバックパックに背中のブースターとは別に大型バーニアを増設した。

 

 装甲の素材は変わらないが、内部の骨組みが軽量化の為に素材変更されており、頑丈さは強化されたが皺寄せとして、修理費を釣り上げる結果となったが、機体自体は良い仕上がりだ。

 

 「第1項目終了、第2試験項目開始」

『第2って…って、何そのスピード!?』

「これは…体感速度が凄いな!」

 

機体のブースターを用いた推力加速。それを試す為に総十郎がコンソールを操作したのだが、それが武と葵を驚かせる加速っぷりとなったらしく、事実として鳳来のセンサーは凄まじい数値を表示している。

 

 「ぶつかる!」

 

思い掛けない加速性能に対処し切れない総十郎の反応が遅れる。目の前に模擬戦を繰り広げている二機のVAADIKUO(ヴァーディクト)の間に突っ込んでしまう。咄嗟にイクサーをジャンプさせバーニアも使ったハイジャンプを行った総十郎は、モニターに表示される速度計の数値を睨みながらペダルに触れる足に力を入れた。

 

 「何だよ今の!?」

『滅茶苦茶跳びやがる』

 

思わず模擬戦を中断する二機。両足を地面に向けて膝をやや屈折させての着地を成功させたイクサーが、ドリフトターンと共に急停止する様に唖然としてしまった。自分達の両側を通過するテルマナの存在もあって、自分達に勝負を挑むのか、と身構えてしまう。

 

 『驚かせた。新型機なんで扱い切れなかったんだ。今ので何か事故は?』

『ない。それに今の着地なら良い見物だった。相当の腕利きらしいな、チームに来いよ』

『ああ、その腕なら大歓迎だぜ』

 

一瞬相方の言葉に驚きはしたが、もう一方の方も認めてくれた様だ。

 

 「悪い事をしたな。…じゃあ、今回の作戦で会う事があれば、又腕を披露しよう」

 『良いのか、誘いは』

「今、交渉より調整だろ。中途半端じゃお前らの足を引っ張るからな」

 

武の確認に答える総十郎の言葉は、模擬戦をしていた彼らへの誘いに対しての返答を含んでいなかった。受け取り次第では別の意味にも感じるだろうが、総十郎はそんな所を考えるつもりを持ち合わせていない。

 

 「次の試験項目だ。とっとと数値を記録するぞ」

『お、おお』

『勿体ないと思うけどなぁ』

 

 

 

 

 作戦実行日の当日、総十郎達三人組は第23区防衛隊に選ばれていた。三人でチームを組んでいたのでチーム単位で配備されたのだが、彼らの乗り込むトレーラーは防御重視の高速輸送型で、搭載数は僅か6機。

 

 三人とは別に乗り込んだVAADIKUO(ヴァーディクト)はアメリカ勢で有名になりつつある軽装甲のヴァルブ。軽量な二脚、胴体、腕部と多機能的なセンサーを詰め込んだ、古典的な作戦遂行能力重視型である。防御は薄いが量産性に優れ、大手米国ギルドでは大部隊に採用されている。

 

連係プレイを前提にした機体なので、規格外の化け物プレイヤーに滅法弱いのだが、逆に言うと目立つ欠点がないので部隊単位運用するのであれば良質なVAADIKUO(ヴァーディクト)と言える。恐らくは三機一組みの小隊構成でトレーラーに乗り込んだのだろう。となると機体の性質からして他のトレーラーは殆どが同じVAADIKUO(ヴァーディクト)ばかりの可能性もある。

 

 『職業軍人の覇気か。戦場の匂いでもするのかね』

『まあ入れ込むのは分かるけど、余り張り詰めた空気ってのもな』

『うう、本物の軍人さんって怖いのかな』

 

 葵が肩を縮ませていると、不意に特大の衝撃が全員に襲いかかった。車内通信回線から運転手の声が聞こえ出して、敵に囲まれたと叫んだ瞬間、ヴァルブが強制脱出装置を使って大空へ脱出した。自分達も、と後に続いて脱出すると凄い光景を見てしまった。

 

 噴射が終わった瞬間、脱出装置を敵へ蹴りやり空中での弾除けにしたのだ。更に脱出装置の乱回転を見極め、射線が通るタイミングのみ遊撃砲を発砲、的確に敵の重装甲型の腕と胴体の隙間に命中させる。接続部分を破壊された敵機はマシンガンを自分へ乱射してしまい、混乱状態に陥る。其処に腕部に内蔵されたワイヤーで機能終了した脱出装置を捕まえた直後、ヴァルブが腰の関節の可動範囲の広さを活かして捻りを加えた。

 

 ゴォオン!

 

ハンマーの様に勢いよく頭部を破壊、爆発する脱出装置。二重のダメージにより機体が沈黙、隣のVAADIKUO(ヴァーディクト)が反撃しようとミサイルランチャーを構えた瞬間、別のヴァルブが両手のマシンガンで敵を攻撃、正確にミサイルランチャーを破壊した後、着地の勢いを利用して前方へ跳躍、ダブルトリガー特有の正面火力で敵の動きを封じ込め、至近距離で放たれたロケットを頭上を飛び越えて回避する。

 

 相手はランチャーの盛大な大爆発で姿勢制御の復帰で精一杯であり、自分のロケットによる爆風で前が見えなくなってしまい、ヴァルブの予備動作が見えなくなってしまう。直後、背中のブースター類が爆発し左側の空間に一瞬だけ影が見えた事をパイロットが認識、右肩のスラスターを最大出力で噴射して体当たりを試みるが、相手は高速で前方に移動していたので、反応も動作も絶望的に鈍い重装甲型ではヴァルブの放つアーマーパンチに対処出来る筈がない。

 

 前方に躍り出たヴァルブは左足で踏ん張り、右手のマシンガンを背中のガンマウントに収納。同時に右手をカバーアーマーが包み込み、その上に簡易的なナックルブレードがセットされる。最後にロケットブースターが起動して、超豪速の鉄拳が敵の頭を殴った。

 

 横にいると思い込み、体当たりの姿勢のままだった重装甲なVAADIKUO(ヴァーディクト)は、旋回性能の低い四脚型脚部を採用していた。ローラーやブースターを内蔵していれば、素早く動けた可能性もあったのかもし知れないが、何せ横を向いていた頭を拳が直撃したのだ。複合型モノアイユニットがカバーフィルムと共に破損、内部回路がスパークしながら飛び出す。上半身が思わぬ方向からの鉄拳に仰け反り、完全に無防備な状態となる。其処を脱出装置で敵を沈黙させたヴァルブが、攻撃目標の背後にブースターの推力で移動して着地、通過する際にブレードダガーで一閃を浴びせた。

 

 この機体、ブースト移動で着地地点を変更したのは脱出装置が爆発した瞬間の事である。元々射撃し易い様に僅かにブースターで落下速度を緩めていたのだが、実際に撃破した所要時間は十秒未満であり、持ち上がった高さも地上数百メートル。減速した分も含めて殆ど一瞬で、地上に到達する様な時間しかない。

 

 三機目のヴァルブは空中でスラスターと手足の遠心力で攻撃を回避しながら、脱出装置を途中で破棄。ブレードダガーで敵の首を一閃し、視界情報の途絶えた敵へブレードダガーの斬撃を浴びせる。

 

 

 「何今の!?」

『あれは日本人の動きだったな。極限の訓練に打ち込んだ廃プレイヤー…と云うより、あのレベルだと武人と言って良いぞ。何が奴等を駆り立てて、あんなチート染みた動きを…』

 

葵が呆然として機体を着地させると、横に着地したイクサーが周囲を確認する。が、視界に入る機体は武の四脚VAADIKUO(ヴァーディクト)、スナイピスと総十郎のイクサー、三機のヴァルブのみ。残りはトレーラーと残骸に成り果てた敵機ばかり。

 

 

 『A-1より各機。移動を再開する為、準備に移る』

『A-2、了解』

『此方A-3。警戒は?』

『其処の奴等に任せろ。こいつ等、俺達の動きを見切っていたからな』

 

 『余り頼りにし過ぎるなよ、エースパイロット』

 

態々ギルド共有のボイスチャットで言う辺り、総十郎達の事は気にしている様だ。そして、それを感じた総十郎達は周囲に居るかも知れない敵以上に、このヴァルブ三人組に注目していた。

 

 

 『索敵装置1号機、ロスト。3時方向、距離3900に敵反応』

『来るのか?』

 

この様な事態に陥れば、基本的にトレーラーの運転手は索敵に専念するのが普通だ。大型の乗り物には専用の機材を積むには余裕が有るので、主力攻撃部隊であれば強力な武装をしていたりする。今回では基本的な移動の為のトレーラーなので、多数の迎撃装置と沢山の索敵装置を積む事で、周辺警戒の拠点として活動するタイプとして仕上げている。

 

 『3号機、5号機ロスト。第33攻撃部隊のルートに接近。予定通りの進行具合なら接敵するぞ』

『向こうにぶつかるのか。しかし索敵装置のリンクに気付かれなくて良かったな』

 

A-1の言う通り、索敵装置にはリンクシステムが存在する。敵に特殊電子戦兵装を搭載した機体が居れば、リンク先を辿って此方に来る可能性があった。迎撃装置があるとは言え、精々が機銃と近距離用の小型ミサイルを装備している程度なので、身動きの取れない内に襲撃されるのは好ましくない。

 

 『ハンガーセット完了。乗ってくれ』

 

 トレーラーからの通信に応じ、全機乗車。再発進したトレーラーは作戦予定地点へ向かう。

 今回はアーノギルドから南西30キロ地点に存在する盆地が戦いの舞台で、南から東に掛けての丘がデパート系ギルドの配達ルートになっており、アーノギルドと関係が良好なショップとのルートを防衛する意味もある。人間で言う動脈を中国勢プレイヤーから守る為、総十郎もイクサーの回収を行ったのだ。

 

 『敵は7時方向から9時方向に掛けて、大規模な隊列を維持。既に友軍部隊も到着し、各隊で隊列の調整を始めて居る為、戦闘は隊列の衝突…しかる後、敵との乱戦を回避する為、我が方の弾幕で応戦する。

 

 尚、乱戦になった場合は各自の対応に任せるが、戦況次第では後退して戦線の再構築を行う可能性がある。各自の信号弾確認、システムリンクの設定の再確認を維持する』

 

 準備の整ったトレーラーは、行先を再設定して出発するのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。