「「「待て待て待て」」」
転校生、大蔵からの提案に総十郎、葵、武の三人が異口同音に首を振って、慌てた様子で制止する。
「だって仲良くなりたいし」
「だからって二人っきりで温泉旅行?お前、そりゃ結婚間近の婚約者のデートだろ。俺ら、会ったばかりでさ…」
「何、あんた尻軽なの?」
「あのさ、結衣ちゃん。ないわ、それは流石に…うん、端的に言って無い」
思わず頭を抱えたくなる発言をした大倉に、三者三様の反論を展開する。
「だって楽しいよ!」
「…人数が多い方がな」
「え、待って。俺らも行くの!?」
「チャンスだろ、温泉に入る。それに俺だけ行ったら何されるか。これあれだよ、絶対ヤバい案件ぶっこむパターンじゃん、嫌だよ俺。武、俺との仲だから頼むわ、道連れが欲しいだけなんだよ」
「今『道づれ』つったよな!?ヤだよ俺!何されんの!?」
「大丈夫大丈夫、やばいお薬キメて人体実験されるだけだって」
「死ぬ!俺死んじゃう!」
「…温泉だよ」
途中から総十郎と武の漫才になっていた会話に、思わず大倉が突っ込んでしまう。
「ねえ大倉さん。ウチの総十郎とは知り合いなの」
「ううん、直接会ったのは転校してから。でもお祖父様が『お前に相応しいのは龍禅の坊主だけだ』って」
「うん?その口ぶりだと俺と言うより、親父の知り合いか」
態々髭を触る真似までしてみせる大倉の言葉を聞いて、総十郎が考察モードに入る。
「龍禅君、お弁当美味しい!?」
「んー。うーん、ぬぅうん。…うん、不味くはない」
「結構悩むなオイ」
余りの悩みっぷりに思わず突っ込んだ武に「美味いのは美味いんだが」と総十郎は飽く迄も歯切れの悪い様子を崩さない。
「大倉、これはお前が?」
「うん、未来の旦那様の為に頑張ったよ!お母様が微妙な顔で味見してたのが、不安材料だったけれど」
「メシマズ属性は持ってないみたいで何よりなんだが…。これは…純粋に発展途上と言うよりは…」
美味しい。美味しい筈だが何だか釈然としない。
「因みに料理の師匠とか居るの」
「お父様が張り切ってくれたのだけれど…。その、あの人は勝手に調味料を投入しちゃって、勝手に味見して自爆したから、レシピの修正に時間がかかったのよ」
「味見してくれるだけマシだ。多分な」
半分「聞かなければ良かった」と言う顔をして武が顔を逸らす。
「で、肝心の予定だけど予定ってどうなってるの。まだ私達も何も決めてないから、融通は利くけれど」
「『私達』ってのは大倉ん家のご家族総出でお迎えでもしてくれるのか」
「うん、一族の皆が張り切って作戦会議してくれてるの!」
「い、『一族』と申されるか…」
苦い顔をして武が総十郎の方を向く。彼自身、一族と言う単語には良い思い出がない。昔、軽い気持ちで龍禅邸の道場で修業に参加した際に「総十郎様のご学友をご指導できるとは」とは誰が言ったのだったか。結局、龍禅家に連なる弟子達に酷い目に遭わされた。
「な、何だよ」
「俺知ってるぞ。お前、操縦してる時の動きが半分龍禅流の足運びになってるぞ」
「……武さん、それマジっすか」
当人も気づいていなかったらしく、驚きを隠さないでいる。
「そーじゅー?そーじゅー、操縦、そう、じゅ―――ねえ、何を操縦したって」
「ああゲームの話。
「そう、やっぱりしてるんだ。運営さんがログデータを見つけたって、喜んでたよ」
(こいつの家は一体何処まで
これだから金持ちは、とぼやくと「お前の家もだろ」と武が言うので「金の使い方が違う」と反論。その後は午後の授業の話題になった。
「じゃあ、放課後!」
「放課後?…今日、剣道部に呼ばれてるんだけどな」
「まーた、助っ人?」
元気に手を振る大倉を見送りつつ、総十郎が呟いた言葉に葵が「何時もの事だけど」と言いながら呆れる。
「どの部活も今一心の中で盛り上がりが無いんだよな。体験入部してないのは帰宅部と演劇部だけだし」
「演劇部は兎も角、帰宅部に体験も糞もねぇだろ。帰るんだから」
「結局、その帰宅部にすら入ってない訳だけど」
「何かに入ったら一年間変更できないからな。だったら別に良いさ」
そう言いながら教室に戻る総十郎と、それを追い掛ける二人。大倉はそれを廊下の窓から見ていた。
(あの人の隣に私も――か。決められた相手にしては上出来かもね)