見知らぬ風景に落ちていく夕陽を横目に暫く歩きつつようやくメモに書いてある住所に辿り着いた。
綾文町は開発プロジェクトから隔絶された街で二駅行けば大都会が広がっているのだがこの街はそんな喧騒とは隔絶された様に街灯の灯りもちらほらしている商店街とその周囲を囲む様に住宅街があり、その先に叔父のアパートがある。
今年で25才、何一つ好きなものを見つけられずプラプラしていた折りに両親に家を叩き出されナジ叔父さんから世界的な興行に出ている為今年中空けるアパートを新居が見つかるまで使っていいという有難い進言だったのだが…
「駅から30分か…、あんまりいい立地じゃないけどナジオジって凄い所に住んでんだ。」
見上げるアパートはこれまた古びた建物で洋館風とも旅館風とも言える古びてはいるが細かいところまで良く手入れされた建物だが夕陽が沈んだ今だと幽霊の一つも出るんじゃないかと思ってしまう。
「一望堂」と書かれた古びた看板を抜けて恐る恐る呼び鈴を鳴らすが反応は全くなく仕方なしにドアを開けると通路の明かりがそれに呼応したように次々と灯り、肝を冷やしながら階段を登りやっとナジ叔父さんの部屋を見つけた。
メモに書いてある通りに玄関前の花をつけたサボテンの鉢の下から鍵を拾いドアを開けると意外にも埃っぽさは無く電気をつけると部屋が綺麗に片付けられているのを見て心底安心した。
以前のナジ叔父は録に片付けもしない人だから歩く度にバキッとかベキッという音がした瞬間足の裏に何かが刺さっていたお陰ですっかり足裏の皮が頑丈になったものだが人は変わるんだなとしみじみしていると誰かの視線を感じ振り返るとそこにはテーブルの上に不自然に飾られているものがあった。
「はぁ、ビックリしたぁ。そういえば叔父さん、こういう仕事だったな…」
そこには生まれる頃から現在まで世界的な人気を誇っているロボットアニメ「ガンダム」のプラモデルがあった。
ナジオジはそういったプラモデルを使った競技[ガンプラバトル]の賞金で食いつなぎプラモデルを手入れしてネットオークションに出品する『ビルダー』と呼ばれている人間でもあった為にかつてはそこかしこの部屋にプラモデルがあった。
テーブルの上にアクションベースに接続されて置かれているプラモデルはガンダムタイプ、しかし、名前にまるで心当たりがない。
しかしナジオジの商品なのかそこかしこに手が加えられているようだが塗装はされておらず全身は白装束の様に真っ白だった。
『いい年したオッサンがよくもまぁ、まだこんなものうぉっっ!?』
何がおこったのかは解らないが、突然奥の部屋から飛び出した影に突き飛ばされたようだった。
「ダレかッ!」
手を捻られた状態で押し倒され、背後から人を呼ぶというよりも此方がどういうものか詰問している女の声が耳に響いた。
「イダダッ!…アクラ・ヨイチってんです!ここに住んでるアクラ・ナジラの甥ですよぉ!」
「嘘言ってもダメだよ!このまま警察に突きだすからね!」
「ホントですよっ!あ…そうだ、叔父から何か連絡来てませんか!?せめて確認だけでも…」
「うるさいよ、夜中に何騒いでんのさ」
後ろから突然現れた声に驚いた女はそそくさと離れたのは良かったもののまだ手首が痛い。
「ナジの甥…って言ったね、アンタ」
「さっきからそういってるじゃないですか、イテテ」
捻られた手首を擦りながら睨むと腕を組みながら此方を見下ろす女性は事態を飲み込めずキョロキョロとする女の子の頭にげんこつを落とした。
「娘がいきなり手荒な事して悪かったね。アタシは管理人のシンジョウ・サキで…こいつは娘のアユナ。」
「うぅ、ごめんなさいぃ」
半泣きになりながら頭を擦るアユナと言う少女が深々と頭を下げるのを押し止める様な手振りで止めつつ立ち上がる。
「連絡はあったんでしょ?」
「あったよ、甥の面倒を頼むってだけね…でも日時も名前も教えられなきゃ対応のしがいがないだろう」
そう問い詰めようとする間も無くナジオジのいい加減は変わってない事を知らしめられ反論も出来ず溜め息をつきそうになる。
「でも悪いけどキミにこの部屋は貸せないな」
「えっ?どういう事ですか!?」
「家賃、今年になってから払ってもらってないんだよねぇ」
「えぇ……」
「ナジの野郎は体よく音信不通になるからね、もう出ていってもらう事にしたんだよ。だからアユナに汚い部屋を片付けさせてたのさ」
よくみると奥の部屋はゴミ袋だらけで何れもガンプラやら美少女フィギュアやらが詰め込まれていた。
「…………マジかよ」
「でもキミが来てくれて助かったよ。業者も呼ぶだけ損だからね。数日中でいいからこのゴm…ナジの荷物引き取ってやってくれ」
輝かしいキャンパスライフが叔父によって爆砕されようとしているばかりでなくこの悪趣味なフィギュアやらガンプラを家まで電車で往復で運ぶと考えただけで死ねる。
だいたい連絡がつくまで何処に置くんだ、実家の部屋だけは絶対に嫌だ。
「ちょ…ちょっと待って…それじゃ色々な面で困るんですよ!何とかなりませんか?」
「お…お母さん、私も迷惑かけちゃったし何とかならないかな」
その場を去ろうとするサキさんの手を思わず引っ張るが直ぐに蛇の様な鋭い視線が帰ってきた。
「今ここで溜めに溜まってる家賃、だせる?」
「いや…それは…でもここ以外当てがないんです、お願いします俺に出来る事なら何でもしますんでっ!」
その言葉を聞いた瞬間、胸ぐらを引き寄せられギョッとするとサキさんの瞳はギラッと光り舌で唇をなぞりながら俺に聞き返す。
「何でも……って、言ったね」
「え…は、はぁ」
「考えてやってもいいよ…奥にきな…アユナ、アンタもだよ」
「え…うん!お母さん」
そういったやり取りがあって連れてこられたのは広い部屋で照明がつけられるとバーカウンターと大小のテーブルが並んでいる部屋の中央に一台の妙な台座が置かれていた。
「ガンプラバトル、知ってるだろう?これでアユナと闘りな」
「なんでこんな所にこんな物が…」
「ナジの荷物だったんだが金になりそうだったんで差し押さえた」
まただ、何故か『ガンプラバトル』という言葉を聞くと何故か背筋がゾワゾワしてしまう。
「持ってませんよ、そんなオモチャ」
「ナジの部屋に丁度いいのがあったんだろ?それでしな」
瞬間、テーブルにあるガンプラのデュアルアイと目が合う。
落陽の光に淡く、緑の瞳が反射していた。