幕間の余白   作:シベリアンハスキー

1 / 4
シグニット:ひと夏の思い出

これは僕のひと夏の思い出、眩しい彼女と出会った、夏の思い出

 

僕は漁師町のガキ大将でリーダー的立ち位置だった、その日は一人だけで遊ぼうと少しばかし足を伸ばしてみた

少し足を伸ばしてみると、初めて見る森がそこにはあった

好奇心に身を任せて森へと入った。

 

森は陽のあたる場所、陽の当たらない場所が点在し、まるで自然のキャンバスの様相を呈していた

 

嗅ぎなれた潮の香りが微かに流れてくる

 

海がある、と僕は駆け出した

 

見知らぬ海は護岸工事のコンクリートではなく

くすんだ黒い砂浜だった

 

くすんだ色合いの中に初めて見る"白"がある

肩掛けカバンを掛け直し、好奇心に身を任せて駆け出す

 

初めて見る白は砂を踏む足音に気づき、振り返る

 

最初に目に付いたのは夕日より赤いルビーのような瞳

次に目に付いたのは困ったように歪む口元、そして不安げに組まれた両の手

 

白はモノではなく人だった

 

白はおっかなびっくり僕に問う

 

「あ、あの、こちらに住んでいるひ…方ですか?」

 

それに対して僕はこの近くに住んでいるけれど

ここに住んでいるわけじゃない

と答えた

 

白の名前はシグニット、そう彼女は言った

 

日は中天に近く、お腹も空いていたので彼女に一緒に昼食を取らないか?と誘う

 

彼女は

「そんなの悪いよ」

と申し訳なさそうにするが

 

僕はいいからいいから、と彼女の手を取り道中で見つけた座れそうな木陰へと進む

 

海に向かう途中に見つけた座れそうな木箱とドラム缶

壊れなさそうな木箱を手で押して感触を試し、おにぎりを包んできた風呂敷を敷く

 

ここに座って、と僕が言うと彼女は

「気遣い、ありがと」

と微笑む

 

気を良くした僕はお気に入りのツナマヨネーズのおにぎりを渡しドラム缶に座る

おにぎりは合わせて四つ、ツナマヨネーズ、おかか、昆布、梅干し、全て母さんの手作りだ

 

彼女はお腹がすいていたようで、美味しそうにおにぎりを頬張る

 

外国の人に梅干しは苦手だろうと普段は誰かに押し付けている梅干しおにぎりを自分から食べた

 

僕も彼女もおにぎりを一つずつ食べ終わり、次のおにぎりに手を伸ばす、ツナマヨネーズの次に好きなおかかおにぎりだ、迷わず彼女に渡す、すると彼女はおにぎりを半分に割って僕に差し出す

 

「貰ってばっかじゃ悪いから」

 

僕はそれを受け取り二人で頬張った

最後の一つも二人で分け合いあっという間に食べ終わった

 

彼女は物足りなさそうにお腹をさする

僕は少し待ってて、と言い食べるものがないか探す

海に潜れば貝類が手に入るだろうけれど、母さんに生モノは食べてはいけないと言いつけられているし、彼女が食べれないかもしれない

 

探しながら海の方を見ると、黄色い実がなっている実を取ろうと駆け出し木のそばまで来ると、実は木に登らないとダメな位置に実が付いている

僕は木に登り手を伸ばす、実は指先が届く程度の距離にある、工夫すれば届くだろう、僕は躊躇わず木から踏み出し、落ちながら実を取る

 

大きめの実を一つとった僕は急いで彼女の元へと戻った

 

彼女は僕の姿を見ると小さく手を振る

彼女は僕の擦り傷を見て

「大丈夫!?」

とあわてる

 

僕はこのくらいの傷は平気だと言うと

「本当に大丈夫?」

と心配してくれる

 

僕は怪我したことよりも、採ってきた大きめの実…爺さんが教えてくれた伊予柑とやらだろう、を剥く方法を考えていた

 

僕はとりあえず齧ってみる事にした

 

彼女は呆気に取られたような顔をしたが、すぐに僕の意図を理解して、苦笑いを浮かべる

 

齧ったところから皮を少しずつ剥いて、半分に割る

 

半分を彼女に渡し一房食べる

 

夏の昼のような突き抜ける酸っぱさが、そのあとにほんのりと甘い白い雲が、丁度いいバランスで存在している

 

食べきって彼女の方に顔を向けると、酸味と格闘している彼女のすぼめた口が目に入った

 

顔を上げた彼女と視線が絡む、彼女は照れたようにえへへと笑う

 

食べ終わった僕らは僕の海で遊ぼう、と言う提案で海で遊ぶことになった

 

彼女はフッドさんと言う人に水着を貰った、だけど休みが被らなくて海に来たはいいけれど手持ち無沙汰になり、歩いていたらあの場所に辿り着いたと困った顔で話してくれた

 

僕はそれを聞いて尚更海で二人で遊ぼうと彼女の手を引く

 

彼女は

「君は水着じゃなくていいの?」

と訊く

 

僕はいつもこの格好で海に入るから平気と答える

 

彼女はそれに対して納得したのか

「物陰で着替えてくる」

と言って岩の影に引っ込む

 

覗いて見たかったけれど彼女に嫌われたくないなと思いとどまる

 

僕は先に海に入る、普段見ている海とは違って底は岩のようになっておらず、砂が広がっていた、逆にいつもの海は魚が多くいたが、こっちには海藻ばかりが広がっている

 

僕は海から上がり彼女を待っていると、こちらを探す彼女が岩陰から出てきた

 

彼女はこちらを見つけると早足で歩いてきて

「うち、変じゃない?」

と僕に訊いた

 

僕はそれを聞いて今まで出会った中で一番綺麗だと答えた

 

照れた彼女は麦わら帽子で顔を隠す、消え入りそうな声で

「ありがと」

と、麦わら帽子の縁から覗く耳はとても赤く染まっていた

 

彼女に何がしたい?と聞くと泳ぐのは苦手で、浮き輪がいると、浮き輪は持ってきたと言って萎んだ浮き輪を出す

 

僕は口で浮き輪を膨らます、彼女は横に座り僕の作業を見ている

 

僕が膨らまし終わると

「ありがと」

ふにゃりと彼女は笑う

 

僕は浮き輪を僕が引いて、少し遠くまで泳いで見ようと提案した

 

彼女は少し悩み、よろしくと言って海に浮き輪を浮かべその上に乗った

 

僕はいつもより大きく水をかき、いつもより早く足を動かした

 

彼女と他愛ない話をしながら時折浮き輪に捕まり休みながら次第に海岸から離れる

 

彼女の

「もう戻ろう」

と言う声を聞き

 

元の砂浜に戻る海から上がり、地面に背中を預け水を吸った服を乾かす

 

彼女は疲れていないかと気遣うような目でこちらを見るが、僕はそれに笑顔で返す

 

僕は流れる雲を数え始めた、彼女も横に座り似たようなことをしてる

 

日も傾き始め、世界が橙色に染まる

 

いつの間にか着替えていた彼女はもうそろそろ帰らなければと言う

 

僕もそれに同意し、森の方へと足を向ける

 

森は夕日の絵の具で塗り替えられたようにオレンジに染まっている、陽の角度も違うため昼に来た時とは違った顔を見せる

 

僕は景色に見とれていて足下を見ていなかった、だからだろう、木の根に躓いたのは

 

彼女は驚いた様にこちらに手を伸ばした、僕はゆっくり時間が流れる世界の中で彼女の方を振り向いた

 

元の時間の流れに戻り、目を開けるとまず目に入ったのは彼女の顔

 

彼女は心配そうに

「怪我はない?」

とこちらを見る

 

僕は彼女の綺麗な赤い瞳に吸い込まれ、時が止まったように感じた、彼女と視線が絡まる、彼女頬が赤く熱を伴う、いや、熱を伴っているのは僕の頬か

 

じきに彼女も僕の上に乗っかってるということに気がついたのか急いで飛び退き

「う、うち重かったよね、ごめんなさい…」

と謝った

 

僕は世界が動き出したのを感じた、そして彼女に怪我がなくて良かった、と彼女に伝えた

 

彼女はもう一度

「ごめんね」

と謝る

 

僕は熱くなる頬を感じながら、大丈夫だよまた会おうね、と彼女に告げ家路へと走った

 

これは僕の夏の思い出、彼女と出会ったあの夏の日の思い出




アズレンss増えて
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。