優人「それより執筆しろ!」
1944年9月某日早朝――
ネウロイ化したグラーフ・ツェッペリンとの戦闘から、既に半日以上の時間が経過していた。
扶桑皇国海軍遣欧艦隊所属の大型航空母艦“天城”。帝政カールスラント皇室親衛隊麾下の同型空母“ドクトル・エッケナー”。
乗員等の弛まぬ努力によって、艦内全ての部署が復旧した2隻の大型空母は、漸くまともな運用が可能となる。
天城とドクトル・エッケナーな一時的に所属している混成戦隊の司令官――ゲオルグ・ゾンバルト准将は、創造主たる人類に反旗を翻したグラーフ・ツェッペリンの動向を警戒しつつ、出撃可能な両艦の艦載機に行方不明となった連盟空軍第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』司令――ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐及び同部隊戦闘隊長代理――宮藤優人大尉の捜索を命じる。
皇室親衛隊第1独立戦闘航空団『インペリアルウィッチーズ』第1、2飛行隊が交代で、グラーフ・ツェッペリンの偵察を実施。ミーナと優人を捜索には、天城所属の艦攻機――九七式艦上攻撃機で編成された飛行隊が駆り出されることとなった。
対ネウロイ戦における扶桑海軍攻撃機の役目は、地上型ネウロイに対する水平爆撃の他。偵察任務にも兼用されている。
ちなみに501航空団には、今のところ指示は来ていない。全てのストライカーユニットの修理が出来ず、数が足りていないことが原因だろう。
「~♪」
天城の艦内格納庫にて。鼻唄を口ずさみながら、ストライカーユニットを整備する美女の姿があった。
リベリオン陸軍第8航空軍から501航空団へ派遣されている航空ウィッチ――“シャーリー”ことシャーロット・エルウィン・イェーガー大尉である。
ストライカーユニットで音速突破を目指す彼女は、機体の整備・改造に余念が無い。しかし、シャーリーが整備しているのは、愛機たるP51“マスタング”ではなかった。
フラックウルフFw190D-6と、メッサーシャルフBf109G-2及びG-6。いずれもカールスラント製のストライカーユニットで、501ではそれぞれバルクホルン、ミーナ、エイラ、ハルトマンが愛用している。
ストライカーユニットの整備は、基本に基地兵站群隷下の飛行脚整備中隊に任せるもので、シャーリーも自分のユニット以外は殆んど弄ったりしない。しかし、今回は事情が違っていた。
自国のみならず、各国の機体に精通した人材が集めらる統合戦闘航空団の整備中隊とは異なり、天城に乗艦している扶桑海軍の整備は自国のユニット――零式や紫電改等――しか扱えないのだ。
それ故、エースウィッチでありながら有能なメカニックでもあり、501基地飛行脚整備中隊と同様に他国のストライカーユニットを扱うことが出来るシャーリーが、整備を引き受けているのだ。
しかし、いくら必要な技術と知識を持ち合わせていようと、部品が揃わなければ整備は難しい。
(……パーツさえ足りていれば、あたしもP-51で優人や中佐を探しに行けるのに……)
現在の天城及びドクトル・エッケナー艦内で整備が可能なのは、カールスラント製と扶桑製のユニットのみ。ブリタニア、ガリア、オラーシャ、ロマーニャ、リベリオンの機体は補給を待たねばならない状態だった。
しかし、総司令部が一時的に指揮能力を失っている現状で、果たして部品の至給が望めるのか。機械好きのリベリオンウィッチには甚だ疑問である。
臨時司令部として機能している親衛隊西方装甲軍司令部も、勝手が違う前線の連合軍戦力を統制するので精一杯なはず。
そもそも、親衛隊の将官が自分達の要望に何処まで答えてくれるのか。
鼻唄を歌ってお気楽そうに見えるシャーリーだが、行方の知るない戦友2人のことを思うと、心中穏やかではない。“グラマラス・シャーリー”の象徴である豊かな胸の奥に不安が滲んでいた。
一方、ネウロイ化したグラーフ・ツェッペリンやその凄まじい戦闘能力について話を聞いても、それほど危機感は抱かなかった。
元大型空母の巨大ネウロイが相手だろうと、501の仲間達と力を合わせれば大丈夫。根拠無いものの、揺るぎない自信が沸いてくる。これがブリタニアの戦いで培った信頼というものか。
「イェーガー大尉」
ふと声を掛けられ、シャーリーは背後を振り返る。天城に整備兵として乗艦している少年兵が、すぐ後ろに立っていた。
「ん?何か用か?」
整備を中断し、シャーリーは少年整備兵と向き直る。すると、少年整備兵は手に持っている海軍ラムネを差し出してきた。
「少し休憩されては?昨晩の疲れも残っているのでしょう?」
「お、サンキュー♪」
笑顔でラムネを受け取るシャーリー。栓を空けるなり、勢い良くラムネを喉へ流し込んだ。
「ぷはぁ~、うめぇ♪整備の後の炭酸は最高だなぁ♪」
あっという間にラムネ瓶を空にしたシャーリーは、着ていたツナギ服を脱ぎ始める。
整備作業に没頭していたため、カーキ色のツナギ服もその下に着ていた無地の白Tシャツもオイル塗れになっていた。
しかし、少年整備兵をはじめとする天城の整備兵等は、作業服の汚れよりも、西瓜のように巨大な胸の方に興味が引かれるらしい。挙動の度にたゆんたゆんと揺れる爆乳を食い入るように凝視している。
「すみません、俺達の代わりに整備して頂くことになってしまって……」
他国のストライカーユニットとあっては歯が立たない自分の代わりに、徹夜でカールスラント製の機体を整備してもらっている。
少年整備兵も、他の整備兵も。そのことに負い目を感じていた。
「ん?いや、気にすることないよ。機体の整備はあたしが好きでやってることなんだし」
歯を見せて優しく微笑むシャーリー。リベリオンウィッチの笑顔があまりに眩しくて、ウブな少年整備兵の心はいともたやすく奪われる。
(か、可愛い……!)
サバサバとしたナイスバディのお姉さんが好みな少年整備兵は一瞬で恋に落ち、シャーリーの為ならなんでもする強い覚悟が決まる。
その反面。そんな憧れの人と非常に親しい関係にあり、恋人との噂――もちろん、デマだが――も流れている優人に対して、激しい嫉妬を覚えた。
「ところでさぁ。ずっと気になってたんだけど?」
「はい?」
「アレって、ストライカーユニットだよな?」
少年整備兵は、シャーリーが顎で指し示した場所へ視線を走らせる。視線の先には1機のストライカーユニットが置かれていた。
零式とも紫電改とも異なるその機体には使用感が無く、長い間使われていないことが窺えた。白地に太陽と月のマークが描かれており、紛れもなく扶桑のユニットであった。
「ああ、確かに我が扶桑海軍のストライカーユニット“九九式艦上爆撃飛行脚二二型”。急降下爆撃等の戦法で対地攻撃を行う機体ですよ」
「ふ~ん?」
九九式に興味を抱いたのか。シャーリーはユニットを舐め回すように見る。
少年整備兵の言った通り。九九式は対地攻撃用のストライカーユニットである。
一時期は地上型ネウロイへの急降下攻撃にも使用されていた。しかし、急降下爆撃ならばウィッチに任せずとも、通常の爆撃機で十分であり、ただでさえ数が少ないウィッチを対地攻撃に回すことへの抵抗もあって、九九式以降対地攻撃用ユニットが製造されることはなかった。
シャーリーの目の前にある九九式も、空母機動部隊の戦力としてな一線を引いた天城の艦内で長いこと埃を被っていた。
機体性能がいかほどのものか。シャーリーには知る由も無いが、少なくとも状態はそこまで悪くなさそうだ。
「イェーガー大尉?」
「これ使っても良いか?」
「いやいや、ソイツで空戦は無理ですよ!低速で防御力も低いんですから」
九九式で、スピードマニアのシャーリーを満足させるだけ速度を出せるわけが無かった。
対ネウロイ戦にしても、対地攻撃ならともかく空戦など出来ようはずもない。
「嘘嘘!言ってみただけだよ!」
シャーリーはそう言うと踵を返し、九九式に背を向けて整備作業中だったストライカーユニットの元へ戻っていった。
(別に飛べさえすれば、いいんだけどなぁ……)
現状では完全な整備を望めない愛機に目をやり、シャーリーは歯噛みする。
(優人、お前とは映画の約束があるんだからな!)
「シャーリー♪」
悔しさを胸に滲ませる爆乳リベリアンの元へ、一匹の仔猫が快活な足取りで駆け寄ってくる。
もちろん、艦内に本物の猫などいるわけがない。仔猫のように人懐っこく、自由気儘で天真爛漫なロマーニャウィッチ――フランチェスカ・ルッキーニ少尉だ。
彼女の性格と言動、小柄で可愛らしい容姿。仔猫がそのまま人間の少女になったかのようだ。
「ルッキーニ?」
「ジュンジュンにご飯貰ってきたよぉ~♪」
自分とシャーリー。2人分の朝食を乗せたトレイを炊事場から持って来ていたルッキーニ。
しかし、大好きなシャーリーと一緒に食べることばかり考えていた彼女は、床に転がっている工具類に気が付かなかった。
「うにゃっ!?」
工具の一つを踏んでしまい、ルッキーニは足を滑らせ、前のめりに転倒する。
両手に抱えていたトレイが宙を舞い、おにぎり、豚汁、沢庵、タコさんウインナー、水の入ったコップが投げ出される。
せっかくの料理は床に散らばり、コップの中の水は爆乳リベリアンへと降り注ぐ。
「うわっ!?…………あちゃ~、びしょ濡れだ」
コップ2杯分の水を頭から被ってしまったシャーリーは、ついてないと言った風に自分の身体に目をやる。
水を吸ったシャツが肌に張り付き、ピンク色の下着とグラマラスな肢体を浮かび上がらせていた。
(グラマラス・シャーリーの艶姿を拝めるなんて!)
(ありがてぇ!)
(俺、もう死んでも良い!)
(母さん、僕は死に場所を見つけました!)
場に居合わせた少年整備兵を含む天城乗員達は、一様に鼻息を荒げ、獣のように血走った双眸でリベリオンウィッチの豊かな胸元を見入る。
グラマラス・シャーリーのシャツ透けは、厳しい軍隊生活。長期間の過酷な船旅。死と隣合わせの最前線。
苦しい環境に置かれた扶桑海軍の将兵等を、これ以上ないほどに歓喜……いや、狂喜させたのだった。
◇ ◇ ◇
同時刻、天城艦内烹炊所――
扶桑皇国海軍では、基本的に会計や庶務などを受け持つ主計科が炊事関係を担当している。
軍艦においても、艦長以下乗員全ての胃袋を満たす為、相当数の主計科将兵が乗り込み、烹炊所と呼ばれる軍艦の調理室にて業務に勤しんでいる。
しかし、前線に赴くウィッチ・ウィザードの中には主計科に属さない身でありながら、炊事番に混じって自ら進んで炊事を担当する者も少ない。
第501統合戦闘航空団の宮藤兄妹や東部前線に配備されている第502統合戦闘航空団『ブレイブウィッチーズ』の下原定子少尉等がそうであり、ここ天城においては竹井醇子大尉が主計科と共に炊事を行っている。
若い乗員達の中には、そのこと知るや否や「何故扶桑海事変からの大ベテランで、大戦初期にはリバウ三羽烏の一角として戦果を上げたほどウィッチが、そのような役目を進んで引き受けているのか?」と疑問を抱く者も多い。
それに対して竹井は「好きでやっているだけよ♪」と答えることにしている。
この日も、天城の烹炊所にはいつも通り朝食の準備を進める竹井がいた。
無言のまま慣れた手つきで調理を進めている。格好は扶桑海軍第二種軍装の上に白い割烹着。火を掛けられた鍋の蓋が立てる音と、包丁で食材を刻む音が烹炊所内で静かに響き渡っている。
「失礼しま~す♪」
ふと烹炊所の扉が開かれ、おっとりとした声音が竹井の耳朶に触れる。
入ってきたのは“リーネ”ことリネット・ビショップ軍曹だった。ブリタニア空軍610戦闘機中隊から、501部隊へ派遣されている将来有望な若手ウィッチだ。
扉を潜り、シャーリーに次いでグラマラスな肢体を烹炊所へと滑り込ませる。格好は軍務中のそれだが、上からシンプルなデザインの白エプロンを着用している。
リーネに続いて、現在501部隊臨時指揮官のカールスラント空軍大尉――ゲルトルート・バルクホルン。そして、オラーシャ陸軍ナイトウィッチ――“サーニャ”ことアレクサンドラ・V・リトヴャクの2人も姿を現した。
バルクホルンもサーニャも見慣れた士官用の制服を着ているが、その手にはエプロンが抱えられている。
「3人共、どうしたの?朝食はまだ出来ないわよ」
竹井が少し驚いたような顔をする。烹炊所に501部隊のウィッチが顔を出すとは思っていなかったというのはもちろん、訪ねて来たのがバルクホルンとリーネの2人だったことも意外だったからだ。
501の殆んどと付き合いが浅い竹井だが、バルクホルンとリーネの組み合わせが珍しいことはなんとなく分かる。
そもそも、バルクホルンはともかくとして。リーネやサーニャは昨日の疲れでまだ寝入っていると思っていた。
「休んでなくて良いの?」
「あ、いや……船室のベッドに慣れないせいか。早く目が覚めてしまってな。かといって、特にやることもない……良ければ、朝食の準備を手伝わせてくれないか?」
「私もバルクホルン大尉と同じで。手伝わせてもらってもいいですか?」
「わ、私も……」
カールスラント、ブリタニア、オラーシャのウィッチは揃って恥ずかしげに頬を染める。
ウィッチとしては若手に相当する2人はもちろん、大戦初期からのベテランであるバルクホルンの紅潮も、生真面目なイメージとのギャップがあって中々に可愛らしい。
「助かるわ、ありがとう♪それにしても……」
竹井は頬に人差し指を当て、興味深そうにバルクホルンのエプロンを見る。
エプロンは大分使い込まれているようで、所々に染みが滲んでいた。尤も竹井が注目しているのは、エプロンのデザインの方だが……。
「む?何だ?」
「フリル付きのエプロンだなんて。お堅そうに見えて、以外と可愛いものが好きなのねぇ♪」
「なっ!?」
悪戯っぽく指摘する竹井の言葉を受け、バルクホルンの顔は一瞬のうちに赤ランプの如く真っ赤に染まる。
「別に良いだろう!これは優人からの貰い物で、使い勝手が良いから愛用しているだけだ!」
ムキになって反論するバルクホルンを見て、竹井は笑うのを堪えられず、恭しげに手で口元を隠しながら応じる。
「ハルトマン中尉から、あなたが可愛いデザインのエプロンを好んで使っているって、予め聞いていたけれど。こういうデザインだったのね♪」
「本当に可愛いエプロンですね♪」
「素敵です……」
「リーネ、サーニャ!お前達まで一体何だ!?……とにかく、手伝わせてもらうぞ!」
顔を赤く染めたまま、バルクホルンは烹炊所の奥へ向かう。
上官の後ろ姿を微笑ましげに見据えていたリーネとサーニャも後に続く。
「じゃあリーネさん、サーニャさん。あなたはお味噌汁の具を刻んでくれるかしら?」
「分かりました」
サーニャはエプロンを着けながら、何処か弾んだ声で応じる。
彼女のエプロンもまた、黒猫のワンポイントマークが描かれたシンプルでありながらキュートにデザインのものであった。
「今日は雨で少し肌寒くなるみたいだから、豚汁にするつもりなのよ♪」
「わぁ!私、豚汁好きです♪芳佳や優人さんに何度か作って貰いました♪」
「竹井大尉」
豚汁に喜ぶリーネを余所に、バルクホルンが声を掛けてくる。
「これは何だ?」
と、訊ねるバルクホルンの目の前にあるのは、昨日彼女が「ソーセージではない!」と頑なに否定した扶桑産のウインナー。
だが、昨日のものとは異なり、飾り包丁が入れるというひと工夫が成された一品である。
「それはタコさんウインナー。ウインナーでタコの形を模して作ったもので、扶桑ではオーソドックスなお弁当の食材よ♪ルッキーニさんが喜ぶと思って用意したの♪」
「ホント……可愛いです……」
「ルッキーニちゃん、きっと喜びますよ!」
サーニャとリーネの御墨付きを頂いたわけだが、不幸なことにタコさんウインナーは食されることなく格納庫の床に叩きつけられてしまっている。
「…………可愛いな」
「「え?」」
「いや!何でもない!それより、私は何をすればいい?竹井大尉、早く指示をくれ!」
慌てて誤魔化すバルクホルンの顔は、先程よりもさらに朱に染まっていた。
エプロンのこととい、実用重視で可愛らしさ等の外見上の特徴はあまり気に掛けない堅物大尉殿にも、漸く洒落っ気や美的感性が目覚めたのか。
もしくは軍規や規律、ウィッチとしての使命を優先した結果。元々持っていたものが目立たなくなってしまっていたのかもしれない。
その後。リーネとバルクホルンは竹井から指示をもらうなり、テキパキと調理を進めていく。
元々料理上手な3人は、501基地では宮藤兄妹から扶桑料理についてのレクチャーを受けていた。
細かく教えたりする必要もない。天城の烹炊所は、なんとも頼もしい戦力を得たのだった。
(まぁ……そうよね……)
竹井の口元から笑みが消え失せ、代わりに苦々しげな視線を注いでいた。
(物凄く疲れているはずなのに……それでも眠りが浅くなるほど、優人やミーナ中佐の安否が気掛かりということなのね……)
◇ ◇ ◇
「…………え?」
目覚めたてのぼやけた視界に映ったのは、年季の入った古めかしいデザインの天井だった。
ミーナは唖然としながら、パチパチと目蓋を何度も開閉させる。
「ここは?……」
仰向けになっていた身体をお越し、周りを見渡す。思考が覚醒し始め、段々と自分の置かれている状態を理解していく。
自分は扶桑皇国の伝統的な寝具――布団の上に寝かされていて、その布団はこれまた扶桑の伝統的な品である畳の上に敷かれていた。
六畳程度の狭い部屋――どう見ても、純和風の部屋。調度品の類いは見当たらず、少々ホコリっぽい。
枕元には認識票に護身用拳銃のPPKが置かれている。しかし、MG42Sとストライカーユニットは見当たらない。
「これは……ガウン……?」
身なりを確認し、ミーナは自分がオリーブドラブの制服ではなく、見慣れない白い寝間着を着ていることに気付く。
一見すると丈の短いガウン状の寝間着だが違う。かつて扶桑ブームがガリアで巻き起こった際に、扶桑の着物が国内に持ち込まれた。それを一部の富裕層がガウンとして着ていたものから発展した“着物風ガウン”。彼女はそれを着ていた。
身につけているのは着物風ガウンのみ。薄い布がたったの1枚だけである。
軍服着用時に用いる臙脂色のズボンと同色のブラも着けていない。少々無防備な格好だ。
「私は……一体どうして?ここはまさか……扶桑?」
ミーナは首を左右に振り、その考えをすぐさま否定する。そんなことはあり得ないからだ。
自分は北海洋上でネウロイ化したグラーフ・ツェッペリンと交戦していたはず。短時間で約9000キロメートルもの長距離を移動して扶桑にいるわけがない。
だが、目の前の風景は過去に雑誌か何かで目にした経験のある扶桑の和室だ。
夢なのか。しかし、夢にしてあまりにリアル。現実味が有り過ぎる。
「私、どうして?……うっ!」
布団から立ち上がると、一瞬意識が遠退くような感覚に襲われた。身体がやけに重たい。足もフラつく。
(貧血かしら?)
ミーナは一度腰を下ろし、体調と心を落ち着かせるように息を吐くと、改めて室内を見回した。
やはり和風の部屋。それも扶桑式のホテル――“旅館”の客室に酷似した一室だ。ミーナは扶桑文化に詳しいわけではないが、それくらいは分かる。
やがて心身は共に落ち着いたミーナは、あることに気付く。
「優人は何処?」
グラーフ・ツェッペリンから仲間達を逃がすため、共に殿を務めた扶桑海軍ウィザードの姿が無い。
「優人?」
潜めた声で優人に呼び掛けるが、返事は何処からもない。建物内は静寂に支配されていて、優人の姿どころか人の気配が全く無かった。
再度立ち上がったミーナは、右手の隙間が開いた襖から室外に出ようとする。
襖の向こうからガタンッとから物音がしたのはその時だった。
「――っ!?」
静まり返っていた屋内に突然響いた正体不明の物音。ミーナは反射的に身構える。
「誰か……いるの?」
警戒態勢となったミーナは、ガウンの帯をギュッときつく巻き付けた。
手に取ったPPKの弾倉と薬室に銃弾が装填済みなのを確認すると、足音を立てぬように気を配りながら慎重な足取りで襖まで移動する。
「何者!?」
PPKの安全装置を外し、和室から廊下に躍り出る。直後、見知った顔がミーナの眼前に現れた。優人だ。
扶桑海軍第二種軍装を脱ぎ、黒いガウン姿――ミーナと同じく着物風ガウン――となっている宮藤優人が驚いたように目を見開き、ミーナを見返している。
「ミーナ?……って、うわっ!?」
「えっ、優人?……きゃあ!?」
慌てた優人は声を上げる。勢い良く部屋から飛び出したミーナは、彼との正面衝突コースに入っていたのだ。
どうにか足を止めようとするミーナだが、その拍子に足が縺れて、前のめりに転倒。扶桑海軍ウィザードに抱き着く形で激突し、優人もまたミーナ共々背中から倒れ込んでしまう。
「いてて……」
背中を思いっきり床に叩きつけてしまい、優人はあまりの傷みに苦悶する。
「ご、ごめんなさい。大丈夫?」
謝意を述べつつ身体を起こそうとするミーナだが、次の瞬間彼女は凍り付いた。
ぶつかった拍子にガウンが肌蹴てしまい、豊かな2つの乳房の片方――左側を晒していた。
しかも悪いことに。扶桑海軍ウィザードの右手が、カールスラントウィッチの左胸をバッチリと捉えていたのだ。
目を見開いたまま微動だにしないミーナ。優人も彼女と同じく彫刻のように固まっていたが、自分とミーナの状況を理解すると、白く柔らかな乳袋に触れている右手ねみを動かし始めた。
感触を確かめるように数回ほど胸を揉んだ後、優人は引き攣り気味な笑顔を浮かべ、乾いた笑い声を上げるのだった。
「お、大きいなぁ……まるで戦艦の主砲みたいだ。いや、さすがはミーナだな。あは、あはははは……」
「――っ!?」
何を言いたいのかよく分からないが、セクハラだとは理解出来る優人の発言を受け、ミーナの顔が一瞬でネウロイのビームもかくやというほど真っ赤に染まる。
間を置かずして、使い魔である灰色狼の耳と尻尾が出現し、蒼味を帯びた魔法力の光が全身を包み込んだ。
「おい、ちょっと待――」
「いやぁああああああ!」
「ぶへぇ!」
501航空司令が放つ渾身の右ストレートが、扶桑海軍ウィザードの鼻っ面にめり込んだ。
優人は間の抜けた声を漏らした後、顔面に強い痛みを覚えつつ、そのまま己の意識を手放した。
◇ ◇ ◇
同時刻、リベリオン合衆国ハワイ州――
「今、優人の声が……気のせいか?」
宮藤兄妹の父親――宮藤一郎博士は、キョロキョロと周りを見回し、愛する息子の姿を探してみる。
優人の姿はない。彼は今ブリタニアにいるのだから当然だ。やはり気のせいだったらしい。
遣欧艦隊司令長官――赤坂伊知郎大将の命を受け、坂本と一郎は一足早く帰国の途に就いていた。現在、2人はハワイへ移住した扶桑人が経営する旅館にて休養を取っていた。
扶桑海軍が所有する大型飛行艇――二式飛行艇に搭乗し、グレートブリテン島からリベリオン東海岸。そこから反対側の西海岸。そして現在はハワイと、連日長距離を移動してきた。
このペースならば1週間程で扶桑本国へ辿り着ける。だが、軍人である坂本や飛行艇のパイロット達ならいざ知らず、民間人且つ病み上がり同然の一郎にあまり無理はさせられない。
なので、こちらの旅館に一泊してから改めて扶桑へ向かうこととなっている。
「おっと、もうこんな時間だ。早く大浴場に行かないと清掃時間になってしまうな……」
小脇に入浴タオルと石鹸の入った風呂桶を抱えた一郎は、腕時計で時間を確認すると、和風に仕立てられた廊下を進んでいく。
大浴場の入り口に到着した一郎は、2つある浴場のうち旅館到着時に入ったのと同じ浴場へと足を運んだ。
だが、彼は知らなかった。この旅館の大浴場は、時間帯によって男湯と女湯が入れ替わることを……。
「さぁて、ひと風呂浴び……」
暖簾を潜り、脱衣場に入った一郎はその場に立ち尽くしてしまう。
なんと彼の目の前には服を脱ぎ終え、飾り気の無い白い下着姿になった白人美女がいたのである。
やや前屈みになり、手を後ろに回して今まさにブラジャーを外そうとしていた。膨よかな胸と、同色のズボンに包まれた丸みのある尻を、異国の中年男性に向けて至近距離でさらけ出されてしまっている。
彼女は体勢を維持したまま、目を丸くして硬直している。突然の侵入者に思考が停止しているらしい。
「あ、これは失礼……うわっ!?」
「へ?きゃあっ!?」
足早に立ち去ろうとする一郎だが、何かに躓いたらしく、前のめりに転倒してしまう。
先述の通り。すぐ目の前に白人美女がいたので、彼女を巻く込む……というか押し倒す形での転倒である。さらに悪いことに……。
――むにゅん!
「ひゃあん!」
一郎の両手が事もあろうに、彼女の両乳房をしっかりと捉えてしまったのだ。突然胸を触られた相手の口から甲高い声が漏れ出る。
「………………」
「………………」
無言のまま見つめ合う2人。ただし、一郎の表情が固まったまま変化が無いのに対し、名も知らぬ白人美女の顔は段々と羞恥や怒りに満ちた紅色に染まっていく。
「え~っと、私は宮藤一郎……扶桑人だ。その……君の胸は……重爆撃機のようだね!素晴らしい!」
何か言わなければと思って口に出したのが、唐突な自己紹介と優人と同じく何を言いたいのかよく分からない一郎のセクハラの発言。
何がスゴいのかというと、一郎はこれを満面の笑みで言ってのけていた。
「…………こ……」
「こ?」
「こぉんの☆◆ったれ扶桑人がぁああああ!」
悪態と共に美女の右ストレートが、一郎の鼻っ面に叩き込まれた。
後でわかったことだが、彼女は後に第506統合戦闘航空団『ノーブルウィッチーズ』へ招聘されるリベリオン海兵隊の航空ウィッチ――マリアン・E・カール大尉であった。
扶桑皇国との連絡任務を終え、ハワイにて休養中だったそうな。
優人がミーナさんのパイ乙揉んだのは、おそらく初めてな、はず……←
RtBで彼女の胸が縮んだ気がしてならない←
あと、マリアンのズボンの色がわからないので勝手に白にしました←
感想、誤字脱字報告をお願い致します。