ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

103 / 119
本編よりも幾分素直なペリーヌを書きました♪


第25話「泣く子と酒乱には勝てない」

1944年9月某夜、北海洋上・空母天城――

 

扶桑皇国海軍軍曹――宮藤芳佳軍曹。オラーシャ帝国陸軍中尉――サーニャ・V・リトヴャク。スオムス空軍少尉――エイラ・イルマタル・ユーティライネン。そして、帝政カールスラント皇室親衛隊第1独立戦闘航空団『インペリアルウィッチーズ』司令――悠貴・フォン・アインツベルン大佐。

各国国防軍より、連盟空軍第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』へ派遣されている航空ウィッチ3名と、皇室親衛隊大佐の地位にある親衛隊ウィッチの計4名は、行方不明者――501航空団司令のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐、同部隊宮藤優人扶桑海軍大尉の2名――捜索を兼ねた夜間哨戒任務に従事していた。

その最中、ネウロックとの合体により超大型ネウロイと化したグラーフ・ツェッペリン。及びその随伴子機らしき小型飛行ネウロイの大編隊と接敵。すぐさま遭遇戦となった。

夜間戦闘が専門のナイトウィッチであるサーニャは、戦闘開始と同時に天城へ状況を報告。彼女の連絡を受け、司令不在の501部隊を預かっているカールスラント空軍大尉――ゲルトルート・バルクホルンは、即ちにウィッチーズをガンルームに召集する。

 

「集まったな!では、状況を説明する!」

 

号令から僅かな時間でガンルームに集合した501の戦友達を見渡し、バルクホルンは満足げに頷く。

彼女の傍らには、ここ数日ですっかり501メンバーと打ち解けた竹井醇子扶桑海軍大尉と、インペリアルウィッチーズ第3飛行隊隊長のアリョーナ・クリューコフ親衛隊大尉の姿があった。

竹井はともかく、何故微妙を通り越して険悪な関係にある親衛隊の士官がこの場にいるのか。

ある者は不思議そうに首を傾げ、ある者は大して関心を示さず、ある者は不信と敵意を湛えた瞳をアリョーナへ向けている。

ウィッチーズから多種多様な反応を示されたアリョーナは、ウンザリしたように深く溜め息を漏らしていた。

居心地悪そうな親衛隊ウィッチを余所に、バルクホルンは状況の説明を始めた。

 

「夜間哨戒中のサーニャ隊が洋上にてグラーフ・ツェッペリンを視認!ヤツに随伴する小型飛行ネウロイの編隊と交戦状態に入った!」

 

ネウロックと融合した強力なネウロイと化したグラーフ・ツェッペリンが、エルベ川河口付近の巣を出て攻勢をかけてきた。

しかも、今度は子機の大編隊を引き連れていた。その事実に501隊員は揃って表情を強張らせる。

 

「そして、ガリア沿岸にて作戦行動中の扶桑海軍遣欧艦隊からも連絡が入ったわ。巨大且つ強大なネウロイと化したグラーフ・ツェッペリンを西欧全体の脅威と見なし、艦上ウィッチ1名を援軍に寄越してくれるそうよ」

 

バルクホルンの言葉を継ぐようにして、竹井が別の報告を付け加える。

親衛隊が立案した作戦では、こちらが僅か2隻の空母で巣を攻撃し、中に潜むグラーフ・ツェッペリンを誘き出すという算段だった。

作戦の無謀ぶりを鑑み、実施する前に向こうから出てきてくれたのは、幸いだったのかもしれない。

扶桑海軍遣欧艦隊からの航空ウィッチによる増援の約束も取り付けた。僅かだが、事態は好転している。

とは言うものの、西部方面統合軍からはこれ以上ウィッチの増援は見込めないだろう。

西部方面総司令部の将官達は、以前として正体不明の武装集団に拘束されたまま。親衛隊西方装甲軍の司令官・幕僚から成る臨時司令部が指揮統括を行っているが、組織間の連絡や調整は困難を極め、またガリア方面の戦況も余談を許さない。

昨日、グラーフ・ツェッペリンが出現して以降、ガリアの隣国――ヘルギガ方面のネウロイが動きを活発化。再度ガリアを占領せんと、国境を越えて侵攻してきた大群と西部方面統合軍の地上戦力が現在交戦中である。

グレート・ブリテン島に駐留しているリベリオン陸軍麾下の第8航空軍は、既にウィッチを含める航空戦力をガリア逆上陸作戦における制空権確保と地上部隊への支援に多数投入しており、こちらに援軍を送る余裕はない。

ブリタニア空軍戦闘機軍団麾下にも多数のウィッチが所属しているが、ネウロックやグラーフ・ツェッペリンの存在を報されてからは再び起きるかも分からない本土空襲を警戒し、国外派遣に難色を示している。

カールスラント空軍第3航空艦隊も駐留しているが、数年前に実施された“バルバロッサ作戦”に合わせて多数の所属ウィッチがブリタニアから東部戦線へ移動しており、その後の防衛戦闘における戦力の消耗もあって、現行の主力は空軍夜戦師団をはじめとする地上部隊となってしまい、近々ノイエ・カールスラント防空戦力の強化。もしくは本国奪還に投入される航空戦力増強のために解体される予定となっている。

それでなくとも、航空ウィッチは重要且つ貴重な戦力であり、扶桑海軍遣欧艦隊から1名を派遣するのが精一杯なのだ。

 

「援軍って、ウィッチ1人だけぇ?」

 

不満げに唇を尖らせるハルトマンに、竹井がニッコリと微笑み返して自信満々に告げる。

 

「御心配しないで。宮藤大尉や坂本少佐にも負けない、一騎当千の大エースだから♪」

 

「んで、グラーフ・ツェッペリンは一体何処へ向かっているんだ?」

 

と、シャーリーが疑問を口にする。巣を飛び出したということは、何か具体的な攻撃目標を定め、そちらへ向かって飛行しているということだ。

実際、ガリアの巣から定期的に射出されていた飛行ネウロイも、グレート・ブリテン島を攻略対象にしていた。

 

「サーニャの報告によると、エルベ川河口より南西へ向けて飛行しているようだ」

 

バルクホルンの回答に、シャーリーは両の目を細めて思考する。

 

「エルベ川から南西って言うとガリア方面か……ちょっと待て!まさかっ!?」

 

「ああ、そのまさかだ」

 

グラーフ・ツェッペリンの進行方向に何があるのか理解したシャーリーに対し、バルクホルンが首肯する。

リベリオンとカールスラント。2人のウィッチのやり取りを見聞きしたペリーヌもまた、ハッとなって気付く。

 

「まさか……パリ!?そ、そんな……そんな……嫌ぁ!」

 

敵の目的が何なのか。ハッキリ理解したペリーヌの表情が一瞬で青ざめ、悲痛な叫び声を上げる。

ネウロイ――いや、グラーフ・ツェッペリンを取り込んだネウロックは、強化された己の力を駆使し、一気に戦線を押し返すつもりなのだ。

今この時にも、グラーフ・ツェッペリンに率いられた飛行ネウロイの大編隊が、西部方面統合軍の防衛体制が十分に整っていないガリアを目指して進行している。解放されたばかりの祖国が再びネウロイに蹂躙されようとしている。

そう思うと居ても立ってもいられなくなったペリーヌは、一目散に駆け出した。

 

「そんなこと……させませんわ!」

 

「ちょっと、待ちなよ!」

 

焦燥感と恐怖心に苛まれたペリーヌは、勢いに任せてガンルームを飛び出そうとする。

素早く動いたシャーリーが彼女を捕まえ、羽交い締めにして動きを封じる。

 

「1人でどうする気さ!?」

 

「放してっ!ガリアが!ガリアがっ!私の国がっ!」

 

完全に冷静さを失い、感情のままに動かんとするペリーヌの様を見て、リーネとハルトマンも止めに入った。

 

「ペリーヌさん、落ち着いて!」

 

「そうだよ。焦ったって、ストライカーが無いんじゃどうしようもないじゃん」

 

501部隊は、連日の激戦からくる損耗により部品が供給が追い付かずないという厳しい現状にあった。

本作戦で天城に艦載されているストライカーユニットで、稼働状態にあるのは天城と親衛隊からそれぞれパーツの供給が可能な扶桑製とカールスラント製。そして、現在ネウロイと交戦中のサーニャが使用してるる“MiG60”のみである。

サーニャの愛機はオラーシャ製だが、他のストライカーユニットに比べて損傷の度合いが低く、部隊の消耗も少なく済んでいたのだ。

 

「なら、天城の航空機で構いませんわ!扶桑の艦載機を1機、私に預け――」

 

「――っ!?落ち着け!ペリーヌ・クロステルマン中尉!」

 

シャーリーの語気を強めた怒声に一喝され、ジタバタと暴れていたペリーヌの動きがピタリと止まる。

 

「…………シャーリー……さん?……」

 

呆けた様子のペリーヌが肩越しに振り返る。羽交い締めから体勢を変えたシャーリー、大切な戦友を後ろからギュッと抱き締めた。

 

「1人で行かなくなっていいだろ?あたし達は仲間じゃないか」

 

「にひひぃ♪ペリーヌだけにいいカッコさせないもんねぇ~♪」

 

と、悪戯っぽい笑顔でシャーリーの後に続くルッキーニだが、そう言う彼女のストライカーユニットも飛行不能である。

 

「ペリーヌ」

 

バルクホルンと竹井も、ガリアウィッチの元へ悠然と歩み寄ってくる。他の仲間達と同じく、2人もペリーヌの身を案じているのだ。

普段と変わらず鹿爪らしい表情のバルクホルンと、ミーナを想わせる慈愛に満ちた微笑を口元に湛えた竹井が、順に語り掛ける。

 

「お前の国を想う気持ちは素晴らしい。だが、1人で全てを背負い込む必要はない」

 

「あなたには、あなたと一緒に戦ってくれる素敵な仲間がいるじゃない。それを忘れてはいけないわ」

 

「私とかねぇ♪」

 

「わ、私もっ!」

 

「…………皆さん……」

 

仲間達の温かい言葉を受け、感極まった様子のペリーヌは、自慢の髪と同じく金色に彩られた瞳に涙を浮かべていた。

 

「とは言うものの……現状で出撃出来るのは私とハルトマンと竹井大尉だけだが……」

 

「御心配無く、我々もお手伝いさせて頂きますので……」

 

少々困り顔のバルクホルンが苦言を呈すると、すかさずアリョーナが協力を表明する。

 

「あなた方がか?」

 

と、バルクホルンは怪訝そうに眉を顰める。自分達に心を許さない501ブダペスト臨時指揮権の対応に、アリョーナは肩を竦める。

 

「グラーフ・ツェッペリンの件はもちろん、ミーナ中佐や宮藤大尉の捜索には人員が、我々の力が必要。そうでしょう?」

 

「……信じていいのか?」

 

「我々はインペリアルウィッチーズ第3飛行隊は、ホフマン大尉や第1飛行隊とは違います。皆さんへの協力は惜しみません」

 

「それは頼もしいわね」

 

訝しげなバルクホルンに代わり、柔和な笑みを浮かべた竹井が応じる。扶桑海軍ベテランウィッチの発言は本音とも皮肉ともつかないものであった。

やはり彼女も親衛隊の特権階級的な扱いに納得がいかず、そしてホフマンとの一件が未だに尾を引いていることは明らかだ。

我の強い同僚のせいで受けるとばっちりを心中で嘆きながらも、アリョーナは精一杯の愛想笑いを竹井へ返したのだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、カールスラント本国北海沿岸地域――

 

北海に面したカールスラント北西部のとある街には、過去にこの地へ移住した扶桑人男性と、現地生まれのカールスラント人女性が夫婦で経営していた和風ホテルがある。旅館を模した外観は、西洋の街並みの中で完全に浮いていた。

この国では異質とも言える建造物だが、皮肉にも殆んどの建物が倒壊している情景の中で唯一原型を保っている。

経営者や従業員が戻り、大掃除さえ行えばすぐにでも営業を再開出来そうだ。

 

「う~ん……何も残っていないのかしら?……」

 

501航空団や親衛隊から戦闘中行方不明者として扱われているカールスラント空軍航空ウィッチ――ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐。着物風ガウンから、お馴染みのオリーブドラブの制服に着替えた彼女は、ホテルの厨房を訪れていた。

何かを探しているらしく、引き戸棚の中へ頭を突っ込んでは、ごそごそと物色している。臙脂色のズボンに包まれた魅力的なお尻が後ろへと突き出され、フリフリと悩ましく揺れる。

世の男達が見たら間違いなく鼻息を荒げつつ、目を血走らせて凝視することだろう。

 

「避難する時に全て持ち出したのかしら?」

 

細く繊細な人差し指を色白の頬へ当て、ミーナは独り言ちる。

彼女は何か食料が残っていないかと、厨房まで探しに来ていた。特に缶詰のような保存食が残されていることを期待していたのだが、物の見事に何も無かった。

 

「困ったわねぇ……」

 

――ぐぅううううっ!

 

「あ…………」

 

腹の虫が鳴き声を響かせ、饑文字さを訴える。誰に聞かれたわけではないが、花も恥じらう乙女であるミーナは僅かばかりの羞恥心で頬を軽く紅潮させた。

優人の胸を借りて、ゆっくりと静養したおかげで体調は大分良くなり、体力・魔法力共に回復している。

井戸の清らかな水で喉も潤っているが、昨晩から何も食べていない。

 

「さすがに、少し辛いわね……」

 

立ち上がったミーナは軽い立ち眩みを覚え、フラついた。空腹感に苛まれ、力が出ないらしい。

彼女と優人が、2人揃ってネウロイの勢力下から脱出するには、万全とはいかないまでもコンディションを整えておく必要がある。

それにグラーフ・ツェッペリンとの戦闘時から、ミーナは何度も優人に助けられていた。

さすがに頼ってばかりでは気が引ける。礼も兼ねて、彼の腹を満たすだけでも出来ないものかと、厨房へ来ていたのだが、残念ながら収穫無し。

身体を休めていた自分がこれ程までに空腹なのだ。色々と動いていた優人はもっと辛いことだろう。

 

「あら?何かしら?」

 

別の棚を物色すると、透明な液体で満たされた瓶が複数本出てきた。

扶桑産の飲料だろうか。ラベルに扶桑語で銘柄が書かれているが、ミーナには扶桑語が分からない。何と読むのかさっぱりだ。

 

「ミネラルウォーターかしら?」

 

何と無く興味をそそられたミーナは瓶を開封し、中身を一口含んでみる。

普段のミーナならば、ラッパ飲みなど行儀の悪い真似は絶対にしない。しかし、周りにあるコップやグラスは、どれも埃を被っているので使えなかった。

 

「あぁ……どうしたのかしら?なんだか、身体が火照って……」

 

突然訪れる体調の変化。妙な感覚に戸惑いながらも、ミーナの気分は不思議と高揚していた。

 

「この水……もしかして傷んでたの?」

 

ミーナは手にした瓶を軽く掲げ、矯めつ眇めつ眺めてみる。

そうしている間にも、身体の火照りと気分の高揚が一層増していく。

 

「止めた方が良いかしら?けど……でも……」

 

逡巡する素振りを見せながらも、瓶の中の液体が発している謎の誘惑には抗えず、結局ミーナは瓶の中身をさらに呷り始めた。

彼女が口に運んだ飲料の正体。ミーナが軽い気持ちで飲んだそれは、“乱れ桜”という銘柄がラベルに書かれている扶桑酒だったのだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「ふぅ……」

 

ホテルのロビーにて。優人は簡単な整備作業を行っていた。全ての作業を終えて満足そうに息を吐くと、第二種軍装の袖で汗を拭う。

 

「これで、どうにか天城に合流出来そうだな……」

 

自らが整備した帝政カールスラント・メッサーシャルフ社製ストライカーユニット――“Bf109G-2”を見据え、自画自賛気味に「うんうん」と頷き、凝った首をポキポキと鳴らす。

ミーナの使用するBf109G-2は昨日の戦闘で燃料の大半を消費していたが、大破した優人の“紫電改”に残っていた分を移す形で補給した。

僅かな損傷が見られたものの、優人は“ストライカーユニットの父”と渾名される著名な技術者――宮藤一郎の息子であり、過去に難度か父親の仕事を手伝った経験があるので、ストライカーユニット等の基本的な整備ならばこなすことが出来る。さすがにシャーリーや軍の整備要員には及ばないが……。

紫電改に使用されている部品が、“零式”シリーズに比べて各国のストライカーユニットとの共通化が進められていたことも幸いしたようだ。

これから2人で脱出するわけだが、優人は自分が疲労の残るミーナを抱えるなり、背負うなりして天城まで飛んでいくつもりでいた。

そして、紫電改と弾が殆んど残っていないS-18対物ライフルとミーナのMG42Sはこの場に放棄しなければならなかった。

勿体無い気もするが仕方がない。人間1人運んで敵の制空権内を飛行するので、余分な荷物まで持っていけないのだ。

天城へ辿り着くまでは、ミーナに固有魔法の『空間把握』で索敵を行ってもらい、可能な限り接敵を避けながら飛行するのがベストだろう。

無論、やむを得ず戦闘になった場合はサイドアームの拳銃と固有魔法『凍結』を用いて応戦するつもりだが……。

 

「ちょっと、外の空気でも吸って来ようかな?」

 

そう独り言ちると、優人はロビーから外を目指して歩を進めた。引き戸を潜り、外へ出た扶桑海軍ウィザードの視界に黒雲で覆われた不穏な夜空が現れる。

叩きつけるような土砂降りは既に止めんでいたが、雲行きは変わらず怪しい。黒色に染められた雲の不気味さは、優人の胸に嫌な不安を滲ませる。

 

「あ~……早く芳佳と会いたいなぁ……」

 

ふと最愛の妹――芳佳のことを思い浮かべ、寂しげに優人はぼやいた。

優人とミーナが仲間達と引き離されて、既に丸1日もの時間が経過してしまっている。連絡が取れない以上、自分達の無事や居場所を報せることも出来ない。

 

(芳佳、心配してるだろうな。501の皆にも迷惑かけてるし……戻ったら、お詫びに天ぷらでも作ってやるかな?)

 

501部隊のウィッチ達は皆良く食べる。本当に良く食べる。宮藤兄妹が台所に立ち、手料理を振る舞うようになってからはさらに食欲が増している。

2人の作った扶桑料理が余程気に入ったらしい。あれだけ美味しそうに食べてもらえると、優人達としても作り甲斐があるというものだ。

新兵時代は、とある同期生から扶桑男児の身でありながら台所に立つこと。料理が得意なこと等を度々冷やかされ、一時期は長所1つであったはずの家庭的な面がコンプレックスになっていた。

しかし、かつて所属していた第十二航空隊や第288航空隊。そして、ストライクウィッチーズの仲間達が「美味しい美味しい♪」と嬉しそうに食べてくれる様を見て、自らの長所にまた自信を持てるようになった。

 

(そういや、天城にジャガイモが大量に積まれてたっけな。ジャガイモの天ぷらってのもいいかな?)

 

そんなことを思い、漫然と空を眺める優人は、遥か遠方に浮かび上がった光芒を目に留めた。

 

「…………何だ?」

 

オレンジ色に輝くそれは、どうやら爆発の光らしい。距離はかなりあるが、黒い雲を背景に煌々と輝いているのでハッキリと視認出来た。

 

「あの爆発は……フリーガーハマーか!?」

 

光芒の正体は、フリーガーハマーから射出されたロケット弾が炸裂して生み出される爆炎だった。それも一つ、二つではない。幾つもの火球が黒雲の中で咲いては消えていく。

子細は不明だが、フリーガーハマーを装備したサーニャ。或いは、インペリアルウィッチーズに所属する親衛隊ウィッチの誰かが戦闘中なのは明らかだ。

 

「こりゃ、急いだ方が良さそうだな」

 

そう呟いた優人は踵を返すと、ホテルへ向かって駆けていく。ロビーへ戻ってきたところを、厨房から帰ってきたミーナに出迎えられる。

 

「ミーナ、丁度良かった!実はすぐ飛ばないといけなくなって!」

 

「………………」

 

「……ミーナ?」

 

どういうわけかミーナの反応が鈍い。いや、“心ここに有らず”と形容する方が正しいだろうか。

優人と向き合ってはいるが、焦点は定まっておらず。頬が少しばかり上気し、目元は艶かしく潤んでいる。

 

「おい!どうしたんだよ!?」

 

「…………あ……」

 

語勢を強めた優人の声を聞き、ミーナは漸く扶桑海軍ウィザードへ目線と意識を向けた。

恍惚とした表情を浮かべる501司令は、そのまま覚束無い足取りで一歩。また一歩と、ゆったりとした所作で優人へ近付いていく。

 

「……み、ミーナ?」

 

まごつく扶桑海軍ウィザードを尻目に、酔っ払ったミーナは彼の肩をガシッと掴んだ。そのまま優人の身体を押し倒した。

あまりにも予想外なミーナの行動と力強さに、優人は抵抗する間もなく仰向けに倒されてしまう。

 

「はっ!?えっ!?」

 

床に倒された優人の口から間の抜けた声が零れる。驚愕のあまり目を白黒させる扶桑海軍ウィザードに向かって、ミーナは優しく微笑んだ……かと思えば、急に表情を険しくしする。

 

「な、何だ?……一体どうしたんだ?」

 

「優人、前から思っていたのだけれど。あなた、トゥルーデやシャーリーさんと仲が良過ぎるんじゃないかしら?」

 

と言い、ミーナは扶桑海軍ウィザードを睥睨する。変わらずトロンと力の抜けた双眸ではあったが、その瞳の奥では鋭い光がギラリと輝いている。

一方、あまりに唐突な指摘をされた優人の頭上でクエスチョンマークが踊っていた。

 

「同僚との仲が険悪なのよりはいいけど。ちょっと距離が近過ぎるというか、親しくなりすぎじゃないかしら?」

 

「って、言われてもなぁ……」

 

今更感が否めない話題を振られ、優人は当惑気味に返事をする。

それが気に入らなかったらしい。ミーナはギロリと目を剥いて怒鳴り返してきた。

 

「真面目な話をしてるのよ!もっと、真剣にか聞きなさい!」

 

「あ、あぁ……」

 

「返事は『はいっ!』よ!」

 

「は、はいっ!」

 

凄まじい剣幕のミーナに気圧され、優人は命じられるがままに従った。

恐怖と動揺で声が裏返り、仰臥位の体勢にも関わらず背筋がピシッと伸び、自然と姿勢を正してしまう。

 

「大体、あなたって人はぁ!手が早過ぎ、手を出し過ぎなのよ!501設立直後の初期メンバーに!後から来たサーニャさん!エイラさん!ルッキーニさん!シャーリーさん!挙げ句、去年の冬はヘルシンキでグンドュラやフーベルタ相手に鼻の下伸ばしてデレデレデレデレと!ウィッチとなれば誰にでもスケベ心を抱いて!見境ってものがまるで無いじゃない!あなたがそんな好色家で、下半身のだらしない人だなんて思わなかったわ!なんて酷い人なの!最低よ!」

 

文句・罵声・罵倒等々を矢継ぎ早にぶちまけていくミーナ。最初に見せた意識の鈍さや動きの緩慢さといい、感情のコントロールを失ってしまったかのような豹変ぶりといい、記憶の捏造からくる酷い言い掛かりといい、目の前の彼女は明らかに様子がおかしかった。

原因は、ミーナから斜め後ろの位置にあるもの。そこには、中身が飲み干され、空になった扶桑酒の酒瓶が、数本程転がっている。それらの中には件の乱れ桜も含まれている。

初めて飲んだ扶桑酒の魅力にハマったミーナは、まず乱れ桜を瓶1本丸ごと飲み干し、さらに他の扶桑酒にも手をつけ、気が付けば全て飲み尽くしてしまっていた。

疲労が残っていたこともあって、ミーナの魔法力は消耗したまま回復するまでには至っていない。

アルコールへの耐性も著しく低下していたことから、酒が全身に素早く回り、完全な泥酔状態だ。

普段、心の奥底に封印している不平不満を一気に解放し、捲し立てる。事情を知らない優人は戸惑うばかりだった。

 

「あのなミーナ、ちょっと誤か――」

 

「どうしてっ!?どうして、あなたはあああああぁ~っ!うわぁあああああんっ!」

 

困惑しながらも、取り敢えず誤解――ウィッチに手を出す、ラルやフーベルタにデレデレしていた等――を解こうとする優人であったが、ミーナは扶桑海軍ウィザードの言い分を遮るように泣き出してしまった。『火がついたように泣き出す』とは、まさにこのことだろう。

 

「私は!私は情けないわっ!あなたも美緒やクルトと一緒だったのねっ!?わぁあああああああああん!」

 

いつものミーナなら、嗚咽を漏らしながら静かに涙を流すのだが、今日は大口開けて泣き叫ぶという良く言えば“ギャップ萌え”。悪く言えば“キャラ崩壊”といった珍妙な姿を晒している。

ある意味では、優しいが怒らせると非常に恐い見慣れたミーナよりも質が悪く、厄介だ。

 

(ああ、もう!今は酔っ払いの相手をしてる場合じゃないんだよ!)

 

優人は両耳を手で塞ぎ、いつ終わるとも分からぬ泣き声にひたすら耐えるのであった。




ミーナさんは絶対に酒乱だと思う←超偏見


感想、誤字脱字報告お願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。