悠貴・フォン・アインツベルンのコンセプトは、有能且つアダルトな色気ムンムンのとってもえちえちな女性士官です。
スタイル抜群のセクシーなウィッチは原作シリーズに大勢いますが、いずれも健康的な色気(あくまでも作者の匙加減です)!
妖艶とか魅惑的等の単語が似合うキャラデザのウィッチはまだいない……はず←
1944年9月某夜、カールスラント本国北海沿岸地域・上空――
悪酔いしたミーナが優人に絡み出す数分前のこと。叩きつけんばかりの豪雨は止んだものの、西欧の夜空は相変わらず分厚い黒雲に覆われていた。
サーニャから連絡を受けた芳佳と悠貴の2名は、急ぎ彼女とエイラのロッテと合流する。北欧組に指示された空域まで赴いた扶桑皇国海軍ウィッチ。及び帝政カールスラント親衛隊ウィッチが視認したのは、闇夜に浮かぶ巨大な威容――ネウロックと融合し、恐ろしい怪物に生まれ変わった大型正規空母のグラーフ・ツェッペリン。そして、空母の巨体を取り囲むように飛び回っている小型ネウロイの大編隊だった。
グラーフ・ツェッペリンを中心に展開する小型ネウロイの編隊は、巣の周辺で蠢き飛び回る蜜蜂の大群を連想させ、生理的嫌悪感を否応なしに煽ってくる。
どういうわけか。小型ネウロイの形状は、以前グレートブリテン島近海で赤坂伊知郎中将――現大将――率いる扶桑皇国海軍遣欧艦隊――空母“赤城”を旗艦とし、第16駆逐隊三隻と第17駆逐隊四隻の計八隻で構成――を襲撃した300m級の大型飛行ネウロイに酷似したものだった。
数ヵ月前。芳佳は、元になった個体を目にしている。エイによく似たシルエットといい、赤く発光の装甲の配置といい、そっくりだ。
小型化に伴い、火力も防御力も航続能力も著しく低下しているだろうが、その分中型や大型のネウロイに比べて、低コスト且つ短時間で大量生産が可能。それが小型ネウロイの利点だ。
グラーフ・ツェッペリンを手に入れたネウロックが、エルベ川河口の巣へ一時退却したのは、マスターコアが同胞を産み出している巣内で、自らを護衛する子機を相当数揃えるため。4人のウィッチの中で、唯一戦略的な観点から物事を見ることの出来る悠貴は、そう推察する。
新たに得た航空戦力。そして、既にガリア方面へ進撃を開始している地上戦力を使って、再びガリアを支配下に置くつもりか……。
(ふ~ん……ネウロック、おもしろい子ね。ますます欲しくなっちゃう……)
薄紅色をした形の良い唇をひと舐めし、悠貴は身を震わせる。気に入った存在を目にした時に見せる仕草だ。親衛隊大佐は、今己の気持ちを昂らせている。
「とってもいい子、濡れちゃうわ……」
「えっ?雨は止んでますよ?」
ボソリと呟いたつもりだったが、傍らにいる芳佳に訊かれてしまっていた。悠貴は艶やかな微笑で誤魔化すと、前方の敵飛行編隊へ再び目を向けた。
グラーフ・ツェッペリンと小型ネウロイ群の装甲が発する赤い光が、闇夜の空に輝きと彩りを与えている。
「では、リトヴャク中尉。指示を頂けるかしら?」
と、悠貴は4人の中で最も夜間戦闘慣れしているナイトウィッチへ向けて首を巡らせる。芳佳にそうしたように、サーニャに対しても艶然と微笑み掛けて指示を促す。
本夜間飛行隊の指揮官はオラーシャ陸軍屈指のナイトウィッチたるサーニャだ。
階級に年齢、ウィッチとしての総合的な実力や経験。全てに置いて悠貴の方が上である。しかし、夜間戦闘に関して言えば、サーニャに1日の長さ――悠貴も全く無いわけではない――がある。悠貴が辞退したこともあり、サーニャが指揮をしている。
引っ込み思案でコミュニケーション能力に難のある彼女だが、戦闘時には普段の大人しい姿からは想像出来ないほどの行動力・戦闘力・作戦指揮能力を発揮する。それが“リーリヤ”――オラーシャ語で百合の意――と渾名されるエースウィッチ――サーニャ・V・リトヴャク中尉だ。
「………………」
指示を求める悠貴の言葉に耳を傾けつつ、サーニャは目と魔導針を用いて、漆黒の闇の中で蠢くネウロイ群の動きを捕捉する。
オラーシャナイトウィッチの傍らに控えるエイラは、悠貴の発言を一種の嫌味と受け取ったらしく、ムスッとした表情を親衛隊大佐に向けていた。
魔導針と併用した広域探索で捕捉したのは、グラーフ・ツェッペリンをベースにした巨大ネウロイに、軽く100は超えているであろう夥しい数の小型ネウロイの大群。
サーニャの見立てでは、戦力差はざっと30対1。戦況は彼女等が圧倒的に不利だ。
対抗するには、統合戦闘航空団クラスのウィッチが、最低10人は必要だろう。
天城のバルクホルンには既に報告済み。501本隊の仲間達やインペリアルウィッチーズが到着するまでは、索敵可能な程度に距離を取って、やり過ごす方が懸命か。
「…………みんなっ――」
振り返ったサーニャが、皆に号令を掛けようとした瞬間だった。ネウロイの動きを見張っていた魔導針が、主の声を遮りかのように何かに反応する。
サーニャは、反射的に前方のネウロイ群へと視線を戻す。グラーフ・ツェッペリンの周囲に滞空していた小型ネウロイの群れが、月光の遮断された暗い夜空へ躍り出てきていたのだ。
戦端は否応なしに開かれ、サーニャが状況に合わせて新たな指示を飛ばす暇も無かった。
小型ネウロイの半包囲するような陣形から4人の魔女目掛けて無数の光条が殺到し、漆黒の空間に細かい筋を描く。
ウィッチ達はストライカーユニット機動力を以て回避と同時に散開し、各々反撃を開始する。
まずは、スオムス空軍トップエース――エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉が、敵陣へ切り込んでいく。
彼女が愛用する機関銃は、501航空団のカールスラント組も使用しているMG42汎用機関銃のウィッチ用モデル“MG42S”だ。
エイラは、固有魔法の『未来予知』を駆使した絶対回避で光の豪雨を掻い潜りつつ、敵飛行編隊へMG42Sを射撃位置に保持すると、毎分1200発以上の銃撃を敵飛行編隊へ見舞う。
スオムスウィッチの魔法力を帯びた大量の銃弾と魔法弾を叩きつけられ、小型ネウロイ群れは次々に白く光る破片へ代えられていく。
続いて攻勢を掛けたのはサーニャだった。多連装ロケット器――“フリーガーハマー”より射出された複数のロケット弾が、エイラと交戦中のグループとは別の編隊へ撃ち込まれる。時置かずして、凄まじい破壊力を有する火球が発生。夜空を明るく照らし出す。
密集していたネウロイ群は、その殆んどが熱波と衝撃波の塊である光球に呑み込まれ、瞬く間に塵や破片となった。
オラーシャウィッチとスオムスウィッチの初撃は、ひとまず成功を収めた。しかし、それはあくまで敵航空戦力の一部を削り取ったに過ぎない。
敵飛行集団の陣容は尚も厚みと深みを誇っている。ネウロイ側からすれば、初戦で失った戦力は0に等しいのかもしれない。
「敵の本隊……!」
サーニャの魔導針が敵側の新たな動きを感知する。幾多の夜間飛行を経て、夜目が利くようなった翡翠色に輝く瞳で改めて確認する。
親玉たるグラーフ・ツェッペリンの周囲から、多数の小型ネウロイが一斉に動き出していた。
先程の敵編隊はあくまでも斥候。今度はグラーフ・ツェッペリンの傍らに控えていた全ての小型ネウロイ。視界を埋め尽さんばかりの凄まじい物量を、より近距離で目視した芳佳、サーニャ、エイラの3人は戦慄を覚えるも、悠貴だけは変わらず妖艶な笑みを口元に湛え、動揺の色を一切見せていない。
「あんなに……たくさん……」
「攻撃、来ます!」
呆然と呟く芳佳に次いで、サーニャが警告を発する。濁流の如く殺到するネウロイ群が、ウィッチ達の行く手を塞ぎ、彼女達が一瞬でも足を止めれば、間髪入れずに狙いをつけてビームを放つ。
ウィッチ達も黙ってやられる気はない。敵の群れに銃弾やロケット弾を多数散撒く。魔法力を帯びた攻撃を受け、小型ネウロイは次々に四散していくが、この損害も圧倒的な物量差の前では微々たるもの。
銃弾やロケット弾、魔法力に限りがある以上。押し切られるのも時間の問題だろう。
「あぁ、もう!鬱陶しいナ!」
「くっ……数が多過ぎる」
「キリが無いよ!」
魔法力と弾薬が急激に消耗するのを感じ取り、エイラは苦悶の表情を浮かべる。芳佳やサーニャも同様だ。
彼女達が攻撃を加える度に、漆黒の群れから白い破片が生まれては消える。だが、ネウロイは些かも怯むことなく、雪崩を打ちように迫ってくる。もちろん、ビームを撃ち込みながらだ。
指揮を預かるサーニャは、なんとか窮地を脱しようと必死に思考を巡らせる。
このままでは、いずれやられる。今のまま反撃を続けても、長くはもたない。眼前の危機を乗り越えられるのなら何でもいい。一刻も早く答えを導き出さなくては……。
仲間達を救うため、サーニャは懸命に脳細胞を働かせるも、緊張で倍になった疲れと焦燥のせいで思考は却って鈍くなり、考えが纏まらない。
時間ばかりが、砂時計の砂粒のようにサラサラと零れ落ちていく。そんな感覚がオラーシャウィッチを襲う。
それでも彼女は諦めない。ナイトウィッチという役職と引っ込み思案な性格故、501内で孤立していた自分の心を癒してくれた2人の友人を守るために。本国シベリア方面へ疎開した両親と再会するために……。
決意の火を両の瞳に灯したサーニャは、魔法力の充填された数発のロケット弾を一斉に発射する。小型ネウロイの群れに着弾・炸裂したそれらにより、多数の敵機が熱波に焼かれて消し飛ぶも、戦況は変わらずサーニャ達の劣勢だった。
対して、濁流の如く押し寄せてくる小型ネウロイ群の勢いは衰えず、今にもウィッチ達を呑み込みそうだ。
嫌な汗が、サーニャの額に滲む。彼女も芳佳もエイラも既に激しく消耗しており、戦闘を継続する余力等無い。
「悠貴さん!悠貴さん、大丈夫ですか!」
九九式二号二型改13mm機関銃で応射しながら、芳佳は自らの長機である親衛隊大佐の身を案じて呼び掛ける。しかし、返事は無かった。
「あれ?悠貴さん?悠貴さん!?」
悠貴からの返事がない。芳佳はキョロキョロと周囲に視線を走らせ、『インペリアルウィッチーズ』司令の姿を探した。
親衛隊大佐は、ついさっきまで芳佳の傍らで戦っていた。それは間違いない。
群れから離れ、正面の本隊に意識の向いている芳佳達の背後を突こうとする敵の小規模編隊に対し、扶桑系親衛隊士官は抜刀した白刃を振るって応戦していたはずだった。
何処へ消えてしまったのか。まさか、やられてしまったのか。
芳佳はどうにか悠貴を見つけようとする。しかし、彼女はサーニャ達ほど夜間戦闘慣れしていないため、夜目が利かない。
ブリタニアの時は雲の上を飛行していたので、月明かりで十分な視界を確保出来たが、今は分厚い黒雲の下を飛んでいるせいで数メートル先が見えない。
ネウロイの位置も、サーニャが撃ち出すロケット弾の爆発光と暗闇の中で赤色に輝く装甲を頼りに、なんとか把握している状況だ。
サーニャのような探査能力があるならともかく、肉眼で。それも大量のネウロイを相手する片手間に人ひとり見つけ出すのは難しいだろう。
「悠貴さん!悠貴さん!」
インカムを使って再度呼び掛けるも、やはり応答は無い。表情に不安の色を滲ませる芳佳の元にサーニャとエイラが近付いていった。
散開していたウィッチ達は1人のゲストを除いて再集結し、背中合わせでネウロイの攻撃に備える。
「芳佳ちゃん、アインツベルン大佐は?」
「それが、いつの間にかいなくて。探してるけど見つからないの」
「フン!逃げたんダロ?」
不安がる芳佳とサーニャの会話に、エイラが苛立った声音で口を挟んだ。
「エイラ?」
「ヤバくなったモンだから、逃げだしたんダヨ!ワタシ達のことを置き去りにしてナ!」
「そ、そんなことありません!」
「じゃあ、何でアイツは不利になった途端いなくなったんダヨ!?もし撃墜されてるなら誰かが気付くはずダロ!」
「それはっ!……」
異議を唱える芳佳に、エイラはムッとした様子で怒鳴り返す。
芳佳はすぐさま反論しようとするも、怒り心頭なスオムスウィッチを納得させられるような回答が何も思い浮かばず、口を噤んでしまう。
「バルクホルン大尉も、アイツ等親衛隊は信用できないって言ってたゾ!現にあの親衛隊大佐もヤバくなったらすぐ逃げたじゃないカ!?」
大半の501メンバーと同様に、エイラもまた親衛隊やインペリアルウィッチーズを良く思っていなかったらしい。
「エイラ、落ち着いて!」
感情任せに捲し立てるスオムス空軍のトップエースをサーニャが宥める。
「決めつけるのはいけないことよ」
「う……けど……」
然しものエイラも、特に大切な存在であるサーニャには強く出られないらしい。
一度は異議を唱えようとするも、サーニャ相手ではそれも叶わず言い淀む。
そしてネウロイの群れも、少女達がこれ以上言葉を交わすだけの余裕を与えなかった。3人のウィッチを包囲した小型ネウロイ群が、一斉にビームを放ったのだ。
中型以上の個体に比べれば威力が大分弱い。航空歩兵・装甲歩兵が展開する魔法シールドはもちろん、戦車の前面装甲でも防御が可能である。
とはいえ、対人・対物には十分な効果を発揮する。もし直撃すれば、ウィッチやウィザードであっても只では済まない。
「――っ!?」
数えるのも馬鹿馬鹿しいほど膨大な数の光条が、芳佳達が展開するシールド目掛けて殺到。直撃の振動が少女達の華奢な身体を揺さり、暗雲に覆われた夜空は紅と碧で織り込まれた光のカーテンで眩く彩られる。
シールドを通して途切れる無く響く衝撃と振動に、ウィッチ達は魔法力だけでなく、精神まで削り取られていく。
「ぐっ!もう弾が……」
エイラのMG42Sは弾切れ寸前。サーニャのフリーガーハマーも、ロケット弾の残りは一発だけ。芳佳の13mm機関銃も、最後の弾倉が空になりかけていた。
一方で、ネウロイの数は殆んど減っていないように見える。寧ろ会敵時よりも微妙に増えている気もする。
どうやらグラーフ・ツェッペリンは、己の体内に予備の戦力を格納しているらしい。
これまでの戦闘で芳佳達が撃墜した以上の数を、追加で戦場に投入してきていたのだ。
「っ!?グラーフ・ツェッペリンが!」
「何!?」
「ドウシタ!?」
サーニャの緊迫した声につられ、芳佳とエイラが振り返る。
己の子機たる小型ネウロイを前面に出し、後方に控えていたグラーフ・ツェッペリンが、艦首――正確には、そこに搭載されている大型砲台をウィッチ達へ向けていたのだ。
距離があり、暗くて視界も悪い。しかし、砲口に灯る紅の光はハッキリ見えていた。
扶桑皇国海軍の航空母艦“天城”と親衛隊所属の同型空母“ドクトル・エッケナー”を襲った大出力のビーム。それを撃ち出したグラーフ・ツェッペリンの大型砲台が、今自分達を狙っている。
そう認識した途端、激しい戦闘の末上気していた3人の表情から血の気が失せ、全身が強張る。
直後、黒雲夜に支配された夜空が眩いばかりに輝き出した。使い方次第では、航空機の大編隊や艦隊規模の戦力を一撃で葬り去れる大威力のビームが発射されたのだ。
初めは小さな光点だったが、一瞬のうちに光と熱の奔流となり、3人の乙女に容赦なく襲いかかる。
射線上にある全ての存在を呑み込み、焼き付くす灼熱の大河。この砲撃に晒された天城とグラーフ・ツェッペリン――2隻の大型空母に、目立った損傷がなく撃沈も免れたのは、距離があったこと。そして、奇跡的な幸運のおかげだろう。
亜光速で接近する光熱の塊は、既にウィッチ達の眼前まで迫っていた。小型ネウロイ群の集中砲火によって釘付けにされていては回避不可能。魔法シールドで防御しようにも、この距離では展開が間に合わない。
高熱を伴った紅の輝きで視界を埋め尽くされる。芳佳は己の身体が焼かれる痛みに備えてギュッと目を瞑り、最愛の人を求めて心の中で叫んだ。
(お兄ちゃんっ!)
芳佳もサーニャも、咄嗟の判断でサーニャを庇うように抱き締めたエイラも生涯最後の苦痛を死を覚悟した。しかし、痛みや死が訪れることはなかった。
代わりにネウロイのビームが魔法シールドによって防がれ、弾かれる際に生ずる衝撃音が耳朶に触れる。それは実戦経験を積んだウィッチにとって、聞き慣れたものである。
目蓋を閉じながらも、芳佳は何者かがシールドを展開して自分達を守っているのだ、と理解していた。だか、一体誰が……。
芳佳は恐る恐る目を開ける。鳶色の瞳がまず映し出したのは、見慣れた後ろ姿が魔法シールドを展開し、グラーフ・ツェッペリンのビームを受け止めている光景だった。
士官の扶桑海軍第二種軍装に身を包んだ身体は、特別高身長でも筋肉痛でも、ましてや肥満というでもない。
少なくとも扶桑人の基準では、若干痩せ気味の普通体型と言える。それでも芳佳よりずっと背が高く、身体つきも幾分逞しい。
そして、シールドを通して伝わる振動で揺れる短めの黒髪。これらの後ろ姿から、芳佳は突如現れた救世主が誰なのかを理解する。
「お、お兄さん?」
軍歴の浅い扶桑海軍ウィッチが震わる声で呟く。それとほぼ同時にネウロイの攻撃も止む。
士官用の制服を着た人物はシールドを閉じると、芳佳達へ振り返って微笑んだ。
「大丈夫か!?」
歯を見せて爽やかに笑う姿は――笑顔だけならば――恋に恋する全ての乙女を無意識のうちに虜にしてしまうほどのイケメンぶりを発揮する彼は、扶桑海軍大尉の宮藤優人。芳佳の大好きな兄である。
「お兄ちゃん!無事だったんだね!」
目に嬉し涙を浮かべながら、芳佳は兄の胸へ飛び込んだ。ストライカーユニットの加速もあり、結構な勢いだったが、優人は最愛の妹をしっかりと抱き留めた。
心配させてしまった御詫びの意を兼ね、扶桑海軍ウィザードは妹の頭を撫でてやる。
昨日の戦闘でミーナと共に撤退の殿を務め、行方不明となっていた兄が元気な姿で帰ってきた。優しく慣れた手つきで撫でられ、芳佳は兄の生還を改めて実感していた。
「心配だった?」
「うん。でも、お兄ちゃんなら絶対帰ってくるって信じてたから!」
「お、そっか……」
パァッと華が咲くような笑顔の妹が、上目遣いに見つめてくる。たったそれだけで、優人はクラっときてしまう。
丸1日離れていたために、シスコン兄貴の妹耐性は著しく低下してしまっているらしい。或いは病気が重症化しているのか。
「優人さん……」
芳佳に続いて駆け寄ってきたサーニャが、遠慮がちに声を掛ける。
兄妹のスキンシップを邪魔して悪いと思ったのだろうが、その一方で宮藤兄妹が仲良くする様を見て、羨ましいとも思っていた。
サーニャの背後には、憮然とした表情を浮かべたエイラが控えている。どういうわけか、こちらは感動の再会を果たしたはずの優人を憎々しげに見据えている。
「ご無事で何よりです……」
「うん。ありがとう、サーニャ」
宮藤の家の妹と同様に、自分の生還を喜んでくれている501の妹――優人は部隊の年少組全員を妹同然と思っている――に礼を述べると、優人は彼女に向かって片手を伸ばす。
差し出されたサーニャはキョトンと小首を傾げる。やがて、優人の意図を理解した彼女は白い頬を仄かに紅潮させた。
「おいで♪」
と、優人は優しく声を掛ける。サーニャは伏し目がちになりながら視線をあちこちへ泳がせた後に、再び上官へ目を向ける。
「………………失礼します……」
そう言うと、サーニャは優人へ近寄り小さな顔を彼の胸へ埋めた。
スリスリと顔を擦りつけ、使い魔の尻尾を嬉しそうに振る宮藤の妹とオラーシャ出身の妹は、まるで親兄姉に甘える仔犬や仔猫をようで、2人を間近で見ている優人の口元は自然と緩んでしまう。
「2人共、心配させてごめんな」
「ギャアアアアアアッ!?ナ、ナナナナナ!?ナニやってんダ、オマエッ!?」
優人に対し、完全に心を許しているサーニャの姿を目の当たりにしたエイラは、面白いくらい動揺する。
そんなスオムスウィッチを余所に、優人の胸を枕にしてするサーニャは安心しきっているらしく、とても穏やかな顔をしていた。
「お兄ちゃん」
「優人さん」
「よしよし」
「コ、コラァ!いつまでくっついんてんダヨ!敵はまだいるんダゾ!」
大切なサーニャが、嫌いなウィザードに懐いている様をまざまざと見せつけられ、エイラの嫉妬のボルテージは鰻登りだった。両手足をジタバタと動かし、ヒステリックに喚き続ける。
「エイラにも心配か――」
「してナイ!」
優人の言葉を怒鳴って遮ると、エイラはグルルと凶暴な番犬を想わせる唸り声を上げて、扶桑海軍ウィザードを威嚇する。
スオムスウィッチの悪態に、優人は困った表情を浮かべて小首を傾げた。エイラの機嫌を損ねてしまった彼だが、何故そうなったのかをまったく理解していなかったのだ。
3人のウィッチとウィザードが、コメディのような一幕を展開している間にも、ネウロイ側は攻撃を継続していた。
グラーフ・ツェッペリンの砲撃が失敗したとみるや、小型ネウロイの群れによる集中攻撃を4人に仕掛けたが、優人が背面に展開したシールドによって容易く防がれている。
「まったく……」
優人はウンザリだと言わんばかりに嘆息を漏らすと、可愛い妹達を退かせ、自分はネウロイの群れへ向き直った。
「ぞろぞろ、ぞろぞろと。お前等はそんなに暇なのか?」
不適な笑みを口元に浮かべ、扶桑海軍ウィザードの挑発と皮肉を湛えた言葉を投げ掛ける。
殆んど間を置かずに、小型ネウロイ群が特有の無機質で甲高い雄叫びを上げた。返答代わりだろうか。
ネウロイに人類側の言語が理解できるとは到底思えないが、目の前の異形達は優人の発言を受けて激昂しているようにも見える。
程無くして小型ネウロイの大編隊は、ビームを乱射しながら優人目掛けて一斉に突撃を敢行する。実戦の経験が浅く、己の感情のコントロールが難しい新兵が、時折見せる自棄っぱちな行動と酷似している。やはりお怒りのようだ。
ネウロイにも感情を持つ個体が存在するらしい。連中の生態を調査している世の科学者達が、この事例を知れば歓喜することだろう。いや、正しくは狂喜か……。
「お兄ちゃん!」
「優人さん!」
ネウロイの不気味な声を聞き、現実に還った芳佳とサーニャが、優人の背中にしがみつく。2人共、身体をカタカタと震わせている。恐いのだ。
魔法力を有するウィッチであること。統合戦闘航空団に招聘される優秀な航空歩兵であることに目を瞑れば、彼女達は10代のか弱く繊細な少女。メンタル面においても、アマチュアの域を出ていない。
弾薬も魔法力も使い切り、抗う術がほぼ無くなった今、異形の敵に恐れ戦くのも当然というものだ。
スオムス空軍のトップエースウィッチたるエイラも、例外でない。サーニャが近くにいるから強がっているだけで、過去に経験したことの無い危機を前に焦りを感じていた。
「喚くなよ。妹達の可愛い声が聞こえないだろうが!」
小型ネウロイの大群が自分に迫る光景を前にしても、優人は変わらず余裕の笑みを崩さない。
病的なほどのシスコンぶりや年相応のスケベぶりな面に隠れて目立たないが、優人は扶桑海事変時から今日まで戦い続けてきた古強者。
オストマルク、カールスラント、オラーシャ、スオムスの各戦線へ馳せ参じたリバウ時代において。彼はもっと大規模な敵飛行編隊との戦闘を経験している。
この程度の航空戦力で、扶桑皇国最強の航空ウィザードを仕留めることなど出来ない。
優人は自身と妹、妹分。そして、自分に敵意を向けているスオムスウィッチを守るためにシールドを展開。それと同時に固有魔法『凍結』を発動した。
魔法力から変換された超低温の冷気がシールド越しに放出され、優人に接近してきた小型ネウロイを残らず芯まで凍結させる。
凍り漬けとなったネウロイは、その全てが戦闘能力と飛行能力を失い、海洋へと落下していく。
その後は海面に叩きつけられて粉々に砕け散ったり、海中へ沈んでいったりと。2種類の末路を迎えていった。
「うわぁ!お兄ちゃん、強~い!」
「優人さん、スゴいです」
大ベテランである優人の圧倒的な強さを、改めて目の当たりにした芳佳とサーニャが揃って喝采する。
自分達が3人がかりで応戦しても、数を減らすだけで精一杯だった小型ネウロイの大群を、優人は一瞬のうちに殲滅してしまったのだ。
攻撃系魔法というアドバンテージがあるにせよ、敵飛行編隊を仕留めたのは、紛れもなく優人の実力だった。
一方エイラは、心の中で扶桑海軍ウィザードの強さを認めてはいたものの、やはりサーニャの関心が彼に向くことが面白くないようで、フンと鼻を鳴らして顔を背けていた。
しかし、まだ小型ネウロイ群がいなくなっただけだ。一度はストライクウィッチーズを退けたグラーフ・ツェッペリンは、未だ五体満足の状態で漆黒の夜空に佇んでいる。
優人は“M712シュネルファイアー”を取り出す。シュネルファイアーは、カールスラント製の大型拳銃である。
対ネウロイにおいて。南部十四年式拳銃の火力不足を痛感した優人は、ブリタニア出立直前にシュネルファイアーへ持ち替えていたのだ。
とはいえ、超大型ネウロイ相手では流石に心許ないことに変わりはないが……。
「なにっ!?」
本丸であるグラーフ・ツェッペリンへ視線を走らせた優人は、驚愕の声を上げる。
艦首部分に小さな光点が見えたのだ。先程、芳佳が目にしたものと同じ、大型砲台の砲口から漏れ出るビームの灯だ。
「まさか、もう次がっ!?」
ウィザードと3人のウィッチは揃って息を呑む。グラーフ・ツェッペリンの艦首にある大型砲台が、膨大量の熱と光を有する光芒の第二射を、早くも放とうとしている。
流石のベテランウィザードも、あれだけの破壊力を持つ大出力ビームがこれほど短い間隔で連射できるとは、思っていなかった。
例え撃たれようと、十分な魔法力を残している優人のシールドならば、あと2、3発は防げる。妹達を守れる。
しかし、優人の考える“ある秘策”を以てグラーフ・ツェッペリンを倒すには、出来る限り魔法力を温存しなくてはならない。
既に発射まで秒読みに入っている。今からでは回避も間に合わない。残された僅かな時間の中、扶桑海軍ウィザードは苦慮する。
(背に腹は変えられないか……)
今は何よりも妹の芳佳と501の妹分――サーニャとエイラを守るべきだ。意を決してシールドを展開しようとした。
「っ!?誰か来ます」
魔導針による索敵を続けていたサーニャが、何者かの接近を告げる。
彼女の報告通り。当戦闘空域に急速に接近する機影――ウィッチが存在し、それは間も無くサーニャ以外の3人も目視で確認できる位置に現れた。
優人や坂本、竹井と同じく純白の扶桑海軍第二種軍装を身に纏い、扶桑刀を携え、両足には零式艦上戦闘脚を装備したそのウィッチは、真っ直ぐグラーフ・ツェッペリンへ向かっていく。
ウィッチはグラーフ・ツェッペリンの艦首まで接近すると、裂帛の気合いと共に魔法力を込めた刀身を大型砲台目掛けて振り下ろした。
砲身は竹のように切断され、過負荷を受けた砲台は誘爆を起こす。発射直前でエネルギーが集中していたため、爆発の規模も相応に大きい。グラーフ・ツェッペリンは堪らず悲鳴を上げる。
攻撃を加えて離脱したウィッチは悠々と夜闇の中を飛行している。戦場に現れた際は、長く風に靡いていた茶髪は何故か短くなっている。
ウィッチは大型砲台を斬りつけた扶桑刀を大仰に振るう。その所作は、敵を斬った後に刀身に付着した血を払って落とそうとする侍のようだった。
「え?誰?」
「あいつは……」
突如現れたウィッチを唖然と見据える芳佳の疑問に、優人が応じる。
扶桑海軍の第二種軍装。それも士官用の制服を好んで着用する航空歩兵で、あんな芸当が出来るのは2人だけだ。
宮藤兄妹よりも一足早く帰国の途に就いた坂本美緒少佐と、もう一人。宮藤優人と坂本美緒、そして竹井醇子と同時期に扶桑海軍へ志願し、“軍神”北郷章香の薫陶を受けながら扶桑海軍事変を戦い抜き、今では“扶桑皇国最強のウィッチ”とまで称されるようになった優人の同期の桜。
『久しぶりだな、宮藤優人。相変わらず配属先のウィッチにちょっかいばかり出していると聞くぞ?』
「お前こそ、その口の悪さは変わらないな。若本徹子?」
インカム越しに優人と皮肉を交わす相手は、扶桑皇国海軍遣欧艦隊機動部隊所属――若本徹子中尉だった。
えっ?なんか優人が急に強くなったって?彼は元々これくらい強いのです!
使い勝手が悪いと設定されているはずの固有魔法『凍結』がややチートっぽく描写してあるのは、ネウロイがまとめて突っ込んでくるという有利な状況故です!
まぁ、主人公補正もかかってますが……←
感想、誤字脱字報告お願い致します。