1944年9月某日、カールスラント本国北海沿岸地域・上空――
扶桑皇国海軍遣欧艦隊機動部隊所属の航空ウィッチ――若本徹子中尉は、宮藤兄妹以下4名の501隊員とグラーフ・ツェッペリンが交戦中の空域に颯爽と現れるや否や、精錬された一撃離脱戦法を活かした奇襲攻撃を仕掛けた。
手痛い一撃を受けたグラーフ・ツェッペリンは、艦首部分に搭載した大型砲台が大破・喪失。しかし、ネウロックの手に堕ちた正規空母が沈黙したのは、ほんの一瞬だった。闇夜に佇む巨大な威容は、すぐさま活動を再開した。
悲鳴とも怒号ともつかない鳴き声を上げると、グラーフ・ツェッペリンはネウロイ化を経て強化・増設された砲門や赤い光を灯す正六角形の装甲から、幾重もの光条を一斉に撃ち出す。
ろくに狙いもつけず、無茶苦茶に撃ち続けているだけだが、一発一発の破壊力は凄まじく。何より数が多い。
光のカーテンとで形容すべき光柱の弾幕に晒され、若本と宮藤優人大尉――扶桑海軍が誇る2名のベテラン航空歩兵は苦境に立たされているように思われた。
だが、実際のところはやや劣勢ながらもグラーフ・ツェッペリンと渡り合っている。
『優人!』
ビームの豪雨を回避しつつ、両手でそれぞれカールスラント製の大型拳銃――M712“シュネルフォイアー”と同じくカールスラント製の護身拳銃――PPKを応射していた優人の――正確には、サーニャが持ち合わせていた予備の――インカムに、若本からの通信が入った。
「何だ?」
撃ち尽くしたシュネルフォイアーの弾倉を交換しながら、優人は少々ぶっきらぼうに応じる。
さすがは経験豊富な射撃の名手というところか。貧弱な武装にも関わらず、発射直前の砲口を見事撃ち抜き、暴発を誘う形でグラーフ・ツェッペリンの次々と砲台を潰していく。
他者との会話の片手間であっても、その射撃の精度は些かも低下しない。
『お前、武器はそれだけか?そもそも何でカールスラントのユニットを履いてるんだ?』
若本が指摘した通り。今、優人が履いているのは扶桑海軍現主力ユニットの紫電改でも、前主力ユニットの零式でもない。
メッサーシャルフ社製のBf109G-2。カールスラント製のストライカーユニットだ。
機体に描かれているパーソナルマークは、第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』司令を務めるカールスラント空軍ウィッチ――ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐のもの。つまり、今使っているG-2型は彼女の愛機である。
支給されたばかりの紫電改が昨晩の戦闘で大破し、主兵装たるS-18対物ライフルの弾薬も使い切ってしまっていた優人は、PPKと共にストライカーユニットをミーナから借りていたのだ。
「それが、長くてつまらない話なんでね」
そう言葉を濁しと応じると、今度は優人が己の質問を若本にぶつけた。
「お前こそ、何でここにいるんだ?空母“蒼龍”以下機動空母部隊の任務は、ガリア上陸作戦の支援だろ?」
『それが長くてつまらない話なんでね』
皮肉のつもりか。若本は全く同じ台詞を返してきた。優人は不愉快そうに片眉をピクピクと痙攣させる。
「俺をおちょくってんのか?」
『おちょくるだなんて心外だな。これでも俺はお前を尊敬しているだが……』
「へぇ、それは知らなかったよ……」
『何せ、お前は“扶桑皇国スケベ大魔王決定戦・東の横綱”と名高い我が国の誇りだからな』
「…………何言ってんだお前?」
『なんだ、知らなかったのか?』
少々意外そうな声音で応じると、若本は子細を説明し始めた。
『本国のゴシップ誌に掲載されてるんだよ。欧州派遣以降のお前の度重なるスケベっぷりや女性遍歴なるぬウィッチ遍歴に関する記事が――』
「はぁ!?」
扶桑海軍ウィザードの口から飛び出した素っ頓狂な声が、同期の桜の言葉を途中で遮る。
実を言うと、この手の話は初めてではない。ワイト島へ出向した際に似たような内容の話をリーネの姉で、王立ファラウェイランド空軍ウィッチのウィルマ・ビショップ軍曹から聞かされていた。
それ故に、ブリタニアで根も葉も無い――まったくのデタラメというわけでもないが――噂が広まっていることは認知していたが、まさか欧州から遠く離れた扶桑本国にまで届いているとは夢にも思わなかった。しかも、よりにもよってタチの悪いゴシップ誌に掲載されていようとは……。
記者達が胸の内に秘めているジャーナリズム魂を甘く見ていたようだ。
「な、なんだそれは!?ウィッチ遍歴って、一体何が書かれて……」
スケベ大魔王決定戦に関しては大体の想像がつくが、ウィッチ遍歴というのは一体なんなのか。
内容の真否はともかく、若本の物言いから察するに記事の中身はかなり具体的なもの。
また、宮藤優人という扶桑海軍ウィザードの軍生活や私生活を面白おかしく書き綴った記事であろうことは間違いない。
正直なところ、を訊くのはとても恐い。しかし、一方で好奇心から記事の内容を知りたい自分もいるのだ。
意を決した優人は、上擦った声でインカムの向こうにいる若本に訊ねる。
『心配するな。そんな大した内容じゃない』
「そ、そうか……」
『ロマーニャへ修行に行った際に、お前が美緒に寝込みを襲っただの。リバウでは醇子や後輩のウィッチ達に片っ端から手を出して、何十股も掛けて交際していただの。ブリタニアへ異動してからは、統合戦闘航空団に招聘された各国のウィッチ達と取っ替え引っ替えで――』
「待て待て待てっ!いくら何でも酷過ぎるだろ!」
と、優人は堪らず怒鳴り散らした。無理もない。いくらゴシップ仕とはいえ、記事の内容はあまりと言えばあんまりなものなのだ。
記事を書いた名も知らぬ記者は、優人のことを完全に女にだらしがない男として扱っている。だが、自らのゴシップネタが広まるのも、世間に名を馳せた者の定めと言えよう。
初陣を飾った扶桑海事変からガリア奪回に至るまでの数年間。優人は、扶桑皇国海軍を代表する航空歩兵の1人として各地を転戦し、行く先々で目覚ましい活躍を見せ、数々の戦果を上げてきた。
当人にはあまり自覚がないようだが、最愛の妹や501部隊の仲間達と共にガリアを解放した優人は、軍のプロパガンダに活用されたこともあり、全世界――特に扶桑本国においては芳佳、坂本と揃って英雄扱いされている。
良くも悪くも有名人であるが故に、噂話が独り歩きする。ゴシップ記者という名の生き物は、そういったところへ付け込んでくるのだ。
ウィザードはウィッチよりもさらに稀少な存在で、尚且つ原則として男子禁制で、年頃の乙女達ばかりの兵科であるウィッチ部隊に、男子でありながら例外的に組み込まれている。
各国軍内において。秘密の花園とでも形容すべき少女のみ空間へ、少年という異分子が混じっていれば、戦果の有無に関わらず悪目立ちは避けられない。
記者の中には、万国共通で“儚い花”や“高嶺の花”等と憧れの象徴とされているウィッチ達と、誰よりも――軍の整備兵、従兵等と比較しても――近しい立場にあり、彼女等と気軽に会話のできるウィザードに対する嫉妬心から、敢えてゴシップ記事を書いて彼等を攻撃してやろうと企む者も少なくない。
扶桑へ帰国後は、家族や親戚に累が及ばぬよう常に立ち振舞いに気を配らねばならないだろう。だが、天才的なラッキースケベ体質の優人にとって、それは人並み以上に困難なことだった。
有名俳優のように、外出時は帽子やサングラスが必需品になるやもしれない。
『そう熱り立つな。北郷先生も言っていただろう?悪名は無名に勝る、ってな』
若本はインカムを通して慰めているのか、煽ってるのかよく分からない言葉を掛けてくる。
クックックッと押し殺すような笑い声が聞こえるあたり、後者だろう。
優人と若本の関係は、501で例えるならばバルクホルンとシャーリーの関係に良く似ている。所謂、喧嘩友達だ。
こうして会話すると、憎まれ口を叩き合っていた新兵時代が、つい昨日のことのように感じられた。それでも、腹の虫は治まらないが……。
「徹子。お前ってやつは本と……」
苛立ち混じりに皮肉を返してやろう。そう思った優人だが、すぐに止めて正面の敵へ意識を向け直す。
小型飛行ネウロイの大編隊や艦首の大型砲台を潰されて尚、気勢の衰えないグラーフ・ツェッペリンが戦術を変えてきていた。
巨大ネウロイに生まれ変わった大型空母無数の砲台で牽制しつつ、自らの体内に格納していた子機を新たに射出する。
黒雲の下に躍り出た複数の子機は、大編隊を形成していた先程の集団とは形状が異なっている。先端が赤く輝ているそれは、漆黒に染まったロケット弾のようでもあり、宙に浮く短槍のようでもあった。
子機は先端よりビームを迸らせながら急迫してくる。縦横無尽に空中を飛び回るその動きを、優人は以前にも経験していた。
「おい!あれは何だ!?」
状況を見て合流してきた若本が、インカム越しではなく優人に直接声を掛けてくる。
「あの武器はガリアの残党ネウロイと同じ!?」
若本の問いに応えたわけではなく、優人は我知らず言葉にしていた。
眼前の子機は、かつて優人がバルクホルン、シャーリー、ルッキーニ等3人と共に対峙したガリアネウロイの残党――高速で飛び回る移動砲台と形容すべき性能を有した槍状の小型ネウロイと同一の存在であった。
その特異な能力と、バルクホルン達501の面々を手こずらせた子機に似合わぬ戦闘力の高さ故に、この個体の存在は強く印象に残っていた。細部の形状が僅かに異なるものの、おそらく性能は何ら変わることはないだろう。
変則的な機動で空中を疾走する槍は、四方八方から襲いかかってくる。シールドでは対処しきれないと判断した2名のベテラン航空歩兵は背中合わせの体勢となり、息を合わせた回避行動でビームを避けつつ、銃器で応戦し続けた。
「ちょこまかと!」
と、若本は九九式二号二型改13mm機関銃の弾倉を交換しつつ、持ち前の観察眼で槍状小型ネウロイの能力を冷静に分析する。
しかし、エース集団出合い501部隊のウィッチですら一度は苦戦した相手だ。若本徹子といえど初見での対応は、困難を極めた。
一方、機関銃も対物ライフルも無く、拳銃二挺で応戦しなければならない優人は火力が低下した分、迎撃能力も下がっている。
それに加え、機種転換訓練を行わず、不慣れなBf109G-2での飛行というハンデもあった。
やがて2機の槍状小型ネウロイが弾幕を掻い潜り、遂に優人の眼前まで迫った。だが次の瞬間、無数の銃弾が横殴りに叩きつけられ、小型ネウロイは白い破片と四散する。
「な、何だ?」
突然の援護に扶桑海軍ウィザードは戸惑いの声を上げる。直後、優人のインカムから聞き慣れた声が響いた。
『優人!無事か!?』
「バルクホルン?」
呆然と、或いは噛み締めるように優人は戦友の名を呟く。ハッとなって銃弾が飛んできた方へ目をやると、複数の人影を視界に捉える。
両手にMG42Sを携えたゲルトルート・バルクホルン大尉。彼女と同じく、MG42Sを装備したエーリカ・ハルトマン中尉。若本と同様に九九式二号二号改13mm機関銃を構えた竹井醇子。そして、3名の武器とは異なり自動小銃のような形状の“BAR”――ブラウニー・オートマチック・ライフル――M1918と、たゆんと揺れる爆乳が目を引く“シャーリー”ことシャーロット・エルウィン・イェーガー大尉。
第501統合航空団と原隊たる扶桑海軍遣欧艦隊第24戦隊で寝食を共にした戦友達が、優人達の危機に颯爽と現れ、助けに入ってくれたのだ。
バルクホルン等の後方には、さらに航空歩兵が6人程確認出来る。帝政カールスラント皇室親衛隊第1独立戦闘航空団『インペリアルウィッチーズ』第3飛行隊のウィッチ達だ。
飛行隊長のアリョーナ・クリューコフ親衛隊大尉を含めた親衛隊ウィッチ達は、現在501の指揮官を臨時で務めているバルクホルンの指揮下に入っていた。もちろん、一時的にだ。
状況確認するため、真っ直ぐ優人達の元へ向かってくるバルクホルン率いる501及び竹井と一旦分かれ、アリョーナと彼女の飛行隊は一足早くグラーフ・ツェッペリンへ攻撃を開始する。
「優人!」
今度はインカム越しではなく、優人の耳に直接バルクホルンの声が届く。
戦友の無事な姿を目にした堅物大尉の頬は上気し、瞳には涙が滲み、声には安堵の色が窺える。
「やっぱ生きてたんだ?悪運強いじゃ~ん♪」
はにかみ笑いを浮かべたハルトマンも、からかうように声を掛けてくる。
だが、優人が彼女に言葉を返すことはなかった。いや、正確に言うと出来なかったのだ。
「優人ぉ~っ!この野郎め!生きてやがったかぁ~っ!」
「ムグッ!?」
いつにも増してハイテンションなリベリオンウィッチが、再会するや否や人目も憚らずにカバッと抱き着いてきた。
リベリオン陸軍の制服を押し上げんばかりに自己主張する“グラマラス・シャーリー”の爆乳が。世の男共を虜にする魅惑の果実が。扶桑海軍ウィザードの顔面に押し付けられる。
「この!このぉ!心配させやがって!」
さらにシャーリーは、優人の後頭部と背中に腕を回すと、自分の方へ引き寄せた。
戦友の生存を知って欣喜雀躍するリベリオンウィッチにガッチリと拘束され、扶桑海軍ウィザードは身動きが取れなくなる。
さらに顔面を圧迫している巨大な乳房に口と鼻を塞がれてしまい、息をすることすら困難となった。
「お仕置きだ!このっ!このぉ~っ♪」
「ん~!んんっ!ん~っ!」
リベリオン産の良く育った2つの西瓜。その谷間に顔全体が埋まってしまい、扶桑海軍ウィザードは呼吸も儘ならない。大好物の爆乳だが、その感触を堪能するだけの余裕は無かった。
そんなことは露知らず、シャーリーはお仕置きと称して優人相手に目一杯じゃれついている。
ウィッチとのスキンシップは、全ての男性にとっての夢である。だが当然ながら、この夢を叶えるのは非常に困難だ。
大抵の男は志し半ばで倒れ、悔しさのあまり夜な夜な涙で枕を濡らすこととなる。それをいとも容易くに成し遂げてしまうのが、宮藤優人という男だった。
こんなところを天城の乗員達が目にしようものなら、嫉妬に狂って何をするかわからない。
機関銃の集中砲火で蜂の巣にされるか。扶桑刀を使って優人を滅多刺しするか。対空機銃や高角砲で撃たれ、粉々の肉片に変えられるか。
尤も、別のベクトルで嫉妬に駆られている者は、今この場にもいるのだが……。
「お、おお、おおおおお前等ぁ!な、ななな、何をしているだっ!」
目の前でイチャコラしているリベリオンウィッチと扶桑海軍ウィザードの様を見たカールスラントの堅物大尉は、なんとも分かりやすく動揺する。
彼女の頬は、優人の無事を直に確認した先程よりも鮮やかに紅潮していた。
ワナワナと身体を震わせながら2人を指差すと、上擦り気味な口調で怒声を浴びせる。
「何って……再会のスキンシップだけど?」
と、振り返ったシャーリーは事も無げに応える。その物言いが、バルクホルンの神経を逆撫でし、更なる怒りと動揺を誘う。
「い、今は!せせせ、戦闘中でっ!な、なな、なんてっ!ふしだらなっ!」
「ごめん、シャーリー♪トゥルーデは自分が真っ先に優人に抱き着きたかったんだよ♪シャーリーに先を越されちゃったから、焼き餅焼いてるんだよぉ~♪」
と、悪戯っぽい笑みを浮かべたハルトマンが横から茶々を入れてくる。
「ハ、ハルトマン!出鱈目を言うな!」
バルクホルンはすぐさま怒号を飛ばして叱りつけるも、その程度でハルトマンを黙らせることなど出来るはずもなかった。
「そうかなぁ?トゥルーデ、シャーリーが優人を抱き締めるのをすごい羨ましそうに見――」
「ないないないないっ!そんなことは断じてないっ!」
堅物大尉の耳をつんざくような怒鳴り声が、ハルトマンの言葉を無理矢理遮る。
相棒の主張をやたらムキになって否定したバルクホルンは、これ以上追及されてなるものかと、リベリオンウィッチへ視線を戻す。
「リベリオン!貴様、いつまでそうしているつもりだ!優人を離せ!」
そう言って優人に手を伸ばすバルクホルンだったが、シャーリーは自らの胸の中にいる扶桑海軍ウィザードを彼女から遠ざけてしまう。
「何だよ、ちょっとくらいいいだろ?」
「ダメに決まっているだろうが!ネウロイを前にして、よくもそんな破廉恥極まりない真似を!」
「破廉恥ってのなんだよ!?あたしはただ、敵の勢力圏内で一晩中孤立していた優人を癒してやってるだけだぞ!」
「何が疲れを癒しているだ!100万歩譲って癒しているとして、そんな脂肪の塊を押し付ける必要が何処にある!」
「脂肪の塊とは御挨拶だな!あたしのダイナマイトバディには男を悩殺するだけじゃない!94.3センチのバストで包み込み、疲れや苦痛を癒してやることだって出来る!」
と、ドヤ顔で熱弁するシャーリーを軽蔑するように、バルクホルンはフンッと鼻を鳴らす。
「ふん!その無駄にデカい胸を揺らして、男共に媚びを売ってるだけだろうが!軍人の身で、なんてふしだらなヤツだ!」
「なんだよ!人をビッチみたいに言いやがって!さてはバルクホルン!自分の胸が小ぶりだからって、あたしに嫉妬してんのか!?」
「なっ!?そんなわけがあるか!だいだい、私の胸は小さくなどない!」
一体何を思ったのか。バルクホルンは反論するなり、突然タイと上着のボタンを全て外し、灰色の制服をバサッと豪快に脱ぎ捨てた。ここは敵制空圏内だというのに、回収はどうするつもりなのだろうか。
さらに彼女は、制服の下に着ていた白ワイシャツにも手を掛ける。ボタンを外す僅かな時間すら惜しいのか。バルクホルンは両手を使い、力任せな動作でシャツの胸部が開かれる。
なんとも大胆なやり方で、うら若き乙女の胸元が晒され、シャツの下から軍支給されたであろう白地のタンクトップが姿を現す。
軍の支給品に違わず、実用性一点張りのシンプルなデザインのインナーは、生真面目な性格をしたバルクホルンらしいチョイスだが、味も素っ気も無い。
年頃なのだから、もう少し冒険して色気のある品を選んでも良さそうなものだ。
だが、その白布に包まれた乳房は、シャーリーには及ばないものの、中々に発育が良い。バルクホルン本人が言った通り決して小さくはなく、巨乳ないし豊乳と呼べるサイズであった。
「おいっ!」
「トゥルーデ、何してんの!?」
突然始まった堅物大尉のストリップショー。目の当たりにしたハルトマンとシャーリーは、揃って動揺する。
引き気味な戦友達を余所に、バルクホルンはシャツを脱ぎ捨て。タンクトップ越しに己の胸を見せつけるかのように持ち上げた。
「見ろ!私の胸は小さくなどない!この胸で優人を癒してやることだってでき……って、何をやらせるんだ!」
「いや、トゥルーデが勝手に脱いだんじゃん……」
戦友の奇行にすっかり呆れ果てているらしい。1人ボケツッコミを披露するバルクホルンに対し、ハルトマンは冷静なツッコミを入れる。
「ん~!ん~っ!」
「おっと、忘れてた」
と、シャーリー。バルクホルンとの舌戦に熱を入れ過ぎたために、自らの胸で抱いている扶桑海軍ウィザードの存在をすっかり忘れていた。
この様子では、優人が自分の爆乳のせいで呼吸困難になっていたことにも気が付いてはいまい。
「ぶはっ!?た、助かったぁ……」
漸く解放された優人は、すぐさま肺いっぱいに新鮮な空気を取り込む。解放されるのがあと少し遅ければ、優人は窒息死していただろう。
優人が一息ついたのを見計らい、爆乳リベリオンウィッチが声を掛ける。
「あっはははは!どうだ、あたしの胸は?癒されただろ?」
豪快に笑いながら訊ねるシャーリーを見るに、やはり自分のせいで扶桑の戦友が窒息死しかけたことには、まったく気付いていないようだ。
「ま、まぁ……苦しかったけど。幸せな感じがしたよ」
優人が律儀に応えると、シャーリーは「だろぉ?」自慢げに胸を反らす。すると、質量の暴力とでも呼ぶべき巨大な乳房がたゆんと揺れた。
この爆乳に潰されての窒息死。男としては、それはそれで本望かもしれない。
ゴシップ記事に起因する心の幾分緩和されたので、シャーリーの言う94.3センチのバストによる癒し効果は、多少なりとも存在したのかもしれない。
まだ、柔らかく温かな乳袋の感触が顔に残っている優人は、ばつが悪そうに後頭部を掻く。
「いやぁ~、身体張った甲斐があったよ♪あっはははは!」
シャーリーは高笑いを続けながら、膨よかなバストとは対象的にキュッと細く引き締まったウエストに両手を添える。
たったそれだけの仕草で、抜群のプロポーションが一層引き立った。
「徹子、来てくれたのね」
穏やかな声音に喜びの色を滲ませた竹井が、若本に声を掛ける。
戦場にいる緊張感の無い501部隊のメンバーが和気藹々と過ごす一方で、504部隊の戦闘隊長と空母機動部隊所属のベテランウィッチも、再会の喜びを噛み締めていた。
「同じ釜の飯を食った同期の頼みじゃ、無下にも出来ないからな」
と、若本は少しばかり口角を吊り上げる。性格が似通っているためだろうか。そのサバサバとした笑顔は、もう1人の同期である坂本美緒を連想させた。
「おーい、質問が2つあるんだが?」
と、優人が軽く手を上げると、竹井が「何かしら?」と応じる。
「ペリーヌやリーネやルッキーニの姿が無いみたいだが、何かあったのか?」
「ストライカーにトラブルがあってさぁ~……出撃出来なくなっちゃって。3人は天城でお留守番だよ」
竹井に代わってハルトマンが簡潔に説明する。優人は「そうか」と軽く流すように応じると、2つ目の質問をぶつけた。
「じゃあ、もう1つ。バルクホルンは、その……何で……そんな格好を?」
「え?……あっ!きゃあああああ!」
気まずそうにチラチラと横目で視線を送ってくる優人の指摘を受け、バルクホルンは自分がインナー姿であることを思い出し、羞恥心からなんとも可愛らしい悲鳴を上げる。
裸よりはマシとはいえ、上下共に布1枚程度――上半身は丈が短めの臍出しタンクトップ、下半身は同色のローライズズボン――の無防備ではしたない姿を異性に晒してしまった。
優人は優人で、シャーリーの胸で窒息しないよう意識を繋ぎ止めるのに精一杯だったため、バルクホルンが脱衣した理由を知らない。
(こ、こんな……だらしない姿を優人に!まさか、飛行中に露出をする変態だと思われたんじゃ……)
有らぬ誤解により、優人との関係に壁ができてしまうことを危惧したバルクホルンは、即座に弁明する。
「ち、違うんだ優人!これは……これはだな!軽量化、そう軽量化だ!軽蔑化によって、機動力がどれほど向上するかをテストしていたんだ!」
「あれぇ?胸で優人を癒してあげるんじゃないの?」
「ちっがあああああああう!出鱈目ばかり言うなぁああああああ~っ!」
またしてもハルトマンが横槍を入れてきた。バルクホルンは、すかさず彼女の指摘を絶叫を上げて否定する。
やはりというか。大声だけでは、ハルトマンの減らず口を沈黙させることは出来なかった。
「え~、トゥルーデ言ってたよ?この胸で優人を癒してや――」
「うわぁあああああああ~っ!」
すっかり乱心していたバルクホルンは、反射的に拳を出してしまう。だが、ハルトマンはそんな堅物大尉の剛拳を軽々と躱していく。
「わっ!危なっ!やめてよ、トゥルーデ!」
「黙れ!黙れ!黙れ!黙らんかぁあああああ~っ!」
「な、何なんだ?」
状況に理解が追い付かず、優人が両の目を点にしていると、背後から囃し立てるような声がかかった。
「あらあら♪」
「中々オモテになって。結構ですなぁ、色男♪」
(コイツら……人の気も知らないで……)
他人事だと愉快がる同期達に静かな怒りを燃やしていると、今度はシャーリーから質問がきた。
「ところで、芳佳やサーニャがあたし達よりも先に来てるはずだけど?」
「そうだ!ミーナは!?ミーナは何処にいるんだ!?アイツは無事なのか!?」
ハッと我に還ったバルクホルンが、シャーリーに次いで優人を問い質す。
だが、それに対する扶桑海軍ウィザードの返答は、なんとも歯切れの悪いものであった。
「あ、いや……それは……あはははは」
と、優人は空笑いを浮かべる。何かを誤魔化す時や後ろめたいことがある際に、彼がよく見せる笑い方である。
まぁ彼の態度から察するに、ミーナが五体満足の状態で生きていることは確かだろう。無論、芳佳達夜間哨戒組も無事なはずだ。
このシスコンのこと。妹と妹分の身に何かあれば、発狂していてもおかしくない。
そして、件の芳佳達はというと。優人のある個人的な頼みを受け、北海に面したカールスラント本国北西部沿岸地域へと降りていた。
今さらですが、九九式二号二型改13mm機関銃って、501や502に配備されている機関銃の中でも特に大口径ですよね(^_^;)
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