ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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また久しぶりの投稿になってしまった(-""-;)


第28話「宮藤兄妹の災難」

1944年9月某日、カールスラント北西部北海沿岸地域――

 

宮藤優人大尉と若本徹子中尉が、ネウロイ化したグラーフ・ツェッペリンと交戦するのと時同じくして。

妹の宮藤芳佳軍曹、サーニャ・V・リトヴャク中尉。そして、エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉の3人は地上へと降りていた。

彼女達が垂直降下で向かった先には、優人と第501統合戦闘航空団司令のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐が潜伏していた沿岸の街があった。

 

「こんなに何もかも壊されて……ひどい……!」

 

ストライカーユニットを操りながら、眼下に広がる凄惨な光景へ目を向けていた芳佳は、悲痛な声を漏らす。

建物の殆んどが廃墟となり、海岸線を埋め尽くす膨大な量の瓦礫。民間人とも兵士ともつかない夥しい数の死体が、白骨化して街のあちこちに散らばっている。

かつては大勢の人で賑わい、誰もがありきたりながら平穏で幸せな日々を過ごしていたであろう街は、見る影もない。

 

「………………」

 

サーニャもまた、哀しみに揺れる翡翠色の瞳の中に、変わり果てた街の惨憺たる姿を映していた。

オラーシャウィッチを案じるように、彼女の傍らに寄り添うエイラも同様だ。

北欧の最前線を戦い抜いたスオムス空軍のトップエースであっても、街の惨状には表情を曇らせ、義憤を抱かずにはいられないものがあった。

如何に戦う覚悟を決め、ウィッチ隊に志願している者であっても、その実は年齢相応にか弱い少女である。

メンタリティが民間人と大差ない少女等には、戦争の現実を直視し、飲み下すことは不可能に近い。

 

「ホラ!2人共、ぼーっとするナヨ!早くミーナ中佐を見つけて天城に帰るゾ!」

 

沈黙に堪え兼ねたのか。或いは芳佳とサーニャを気遣ったのか。エイラは必要もなく声を張り上げ、哀然としている2人に行動を促す。

その甲斐あって、芳佳とサーニャはハッと我に還ると同時に、地上へ降りた目的を思い出した。

 

「そうね。エイラ、ごめんなさい」

 

「あ……わ、分ければ良いんだけどサ……」

 

感傷的になっていたことをエイラに叱咤されたと思ったのか。サーニャは自省し、そして謝罪する。

一方で、咎める気など微塵も無かったエイラは、ばつが悪そうに後頭部を掻く。

 

「宮藤!兄藤の言ってた建物は見つかったのカ?」

 

と、エイラは芳佳に話を振る。“兄藤”とはエイラが優人に付けた渾名である。兄の方の宮藤だから兄藤、と……。

エイラには悪いが、安直で捻りも面白味も無いネーミングセンスだ。

ちなみに、優人がサーニャにちょっかい――と言っても、ただの世間話だが――を出したり、例によってラッキースケベの才能を発揮した時のみ。渾名は安直な兄藤から、“エロ藤”という罵倒へ変化する。

 

「え~っと……」

 

芳佳は額に手を翳し、街中に視線を巡らせた。彼女達3人は、グラーフ・ツェッペリンとの戦闘で激しく消耗していたため、救援に駆け付けたバルクホルン等と入れ替わる形で空母天城へ帰投することになっている。

しかし、その前に扶桑の典型的な旅館をモデルとした和風様式のホテルへ立ち寄り、ミーナを回収しなければならなかった。

優人と共に敵勢力下で行方不明となっていたミーナ。優人曰く、目立った負傷もなく無事とのことだが、ある事情により優人1人では連れ出すことが出来ず、やむ無くホテルに置いてきてしまったそうだ。

ネウロイの勢力圏内にいつまでも残しておけない。自分達の代わりにグラーフ・ツェッペリンを相手を引き受けた優人の頼みを聞き、芳佳達はこうしてミーナを迎えに来ていたのだった。

ミーナが待っている建物の特徴は予め聞いている。しかし、北欧出身のサーニャとエイラに扶桑式の建築様式をいまいちピンとこない。

なので建物の捜索は、自然と生粋の扶桑人である芳佳の役目となる。

 

「あ!あれじゃない?」

 

全壊もしくは半壊した建物ばかりの街で、原形を留めているものは極僅か。芳佳はその中から、祖国の情緒漂う建物をすぐに見つけた。

 

「ヨシ!じゃあ、ワタシとサーニャは周囲を警戒してるから、お前が迎えに行ってくれヨ」

 

「はい、エイラさん!」

 

二つ返事で了承する芳佳に、少し心配そうに眉を落としたサーニャが声を掛ける。

 

「芳佳ちゃん、もし何かあったらインカムで報せてね?」

 

「うん!ありがとう、サーニャちゃん!」

 

心配症なサーニャを安心させるため、屈託の無い笑顔で応じると、芳佳はストライカーユニットを操り、件のホテルへ向かっていった。

 

「しっかしナァ……」

 

芳佳の後ろ姿を見送りながら、エイラは怪訝そうな表情で腕を組んでいた。

 

「エイラ、どうしたの?」

 

「ナンでミーナ中佐を置いてこなけりゃならなかったンダ?」

 

「きっと、優人さんのストライカーユニットが壊れて。それでミーナ中佐のユニットを借りたんじゃないかしら?」

 

と、サーニャは自分の推測を述べる。彼女の言う通り、優人の“紫電改”こと紫電二一型は昨晩の戦闘で大破している。

それ故、優人はミーナのBf109G-2を借りて。サーニャ達の危機に単身駆け付けたのだ。

 

「それなら、ミーナ中佐が来れば良かったんじゃないカ?」

 

エイラの言うことも一理あった。いくら優人が遣り手のウィザードとはいえ、ろくに機種転換訓練も行わずに勝手が違う他国のユニットを使用し、さらに戦闘にまで参加するとなると、さすがに不安を禁じ得ない。

もちろん、サーニャ達が知らないだけで、優人が過去に他国のストライカーユニットを試す機会があったのかもしれない。

まぁ優人ほどの腕前と経験ならば、ぶっつけ本番でもなんとかなりそうだが……。

 

「気になるナァ……」

 

「ミーナ中佐に聞けば分かるわよ」

 

「それもそうダナ」

 

オラーシャウィッチの言葉に納得したエイラは、考えるのを止めて警戒態勢に移る。

サーニャも魔導針と広域探査能力を駆使し、周囲の警戒を始める。その時だった。

 

『わっ!ミーナ中佐!やめっ!』

 

「――っ!?芳佳ちゃん!どうしたの!?」

 

突然、インカム越しに芳佳の声が伝わる。子細は分からないが、なにやらただならぬ雰囲気だ。

 

「宮藤!どうかしたのカ!?おい、宮藤!」

 

エイラが即座に交信を試みるも、芳佳から返事は来ない。

 

「芳佳ちゃん!」

 

親友の危機を感じ取ったサーニャは、一目散に芳佳の元へ向かい、エイラも慌てて彼女に追従していった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、カールスラント北西部北海沿岸地域・上空――

 

「じゃあミーナは無事で、サーにゃん達は迎えに行ったんだね?」

 

優人から事の経緯を聞き終え、要点を分かりやすく纏めたエーリカ・ハルトマン中尉は、納得したように手の平をポンと叩く。

 

「そういうことだ」

 

と、優人が首肯する。ハルトマンは原隊からの相棒であるゲルトルート・バルクホルンへ振り返り、彼女に声を掛けた。

 

「だってさ、トゥルーデ!」

 

「………………そうか……」

 

戦友の言葉を背中で受けたバルクホルン大尉は、彼女らしからぬか細い声音で応じる。

優人やハルトマン、他のウィッチ達に背を向けているため、表情を窺い知ることは出来ない。だが、両の耳が鮮やかなピンク色に染まっているところ見るに、赤面しているのは確かだ。

軍服を脱ぎ捨ててしまったので、今はシャーリーからリベリオン陸軍の制服を借りている。

カールスラント空軍支給のタンクトップの上から、カーキ色の上着を羽織っているわけだが、その背中は普段よりも小さく、弱々しいものだった。

 

「まったく……水練着姿だと思えば恥ずかしくはないだろうに……」

 

「徹子、誰しもがあなたみたいに図太いわけじゃないのよ……」

 

呆れたように言う若本を竹井が窘める。どうやら、この若本徹子という名の扶桑撫子は、つり目がちの表情や男勝りな表情に違わず豪胆な性格をしているらしい。

気が強く、厳格ながら面倒見の良い性分はバルクホルンと共通しているが、若本が坂本並みに豪快なのに対して、堅物大尉殿は生真面目な分、かなり繊細である。

異性相手に、自らの痴態――月下のストリップショー及び胸をはしたなく強調する――を晒してしまったショックには堪えられまい。

実は何故をしてしまったのか。バルクホルン自身にもわからない。口論で熱くなったが故の一時的な気の迷いなのか。

或いは、爆乳リベリオンウィッチに「小さい胸」と煽られたことが、負けず嫌いな彼女を奇行に走らせたのやもしれない。

 

「ありゃ当分使い物にならないか?」

 

と、他人事のように言うシャーリーだが、バルクホルンがこうなってしまった原因の一端は彼女にもある。

 

「ん~……あ!」

 

役に立たなくなったバルクホルンを見て、ハルトマンはどうしたものかと、難しい顔をして考え込んでいた。

だが、すぐに名案――または迷案――を思い付いたらしく、閃いたと言わんばかりにポンと手の平を叩く。

 

「ねぇ、優ぅ人ぉ♪」

 

「ん?なんだよ?」

 

ニヤニヤと、明らかに何かを企んでいる顔で、ハルトマンが優人に声を掛ける。

これまでの経験則により、嫌な予感がして仕方がない扶桑海軍大尉は、訝しげに聞き返す。

 

「いつものトゥルーデに戻すために、ちょっとでいいから手伝ってよ♪」

 

そう言い、素早い動きで優人の背後に回ると、ハルトマンは彼の背中をグイグイ押しながらバルクホルンに近付いていった。

 

「おい、ハルトマン?なんなんだよ?」

 

「こっそり近付いて~……いっけ~!優人ぉ!」

 

「うわっ!?」

 

ハルトマンは具体的に何をどうするのかも説明せず、バルクホルン目掛けて、優人を突き飛ばすという暴挙に出たのだった。

 

――むにゅん♪

 

「ひっ!?」

 

「…………あ……」

 

堅物大尉が、驚愕の色を滲ませた可愛いらしい悲鳴を上げる。一拍置き、扶桑海軍ウィザードもまた間の抜けた声を漏らした。

 

「おぉ!優人!ナイスキャッチ♪」

 

と、自らが嗾けた扶桑海軍ウィザードにパチパチと賞賛の拍手を送るハルトマンは、我が意を得たりとばかりに嬉々としている。

優人はただ衝突しただけではなかった。ぶつかった拍子に扶桑海軍ウィザードの両手が、タンクトップに包まれたバルクホルンの双丘をしっかりと捉えてしまっていた。つまり、お馴染みの展開である。

 

「な、な、なっ!……」

 

バルクホルンはゆっくりと肩越しに振り返った。突然飛んできて、自分の乳房を鷲掴みにした扶桑海軍ウィザードと至近距離で顔を合わせる。

顔は一層朱が増し、茹で蛸の涙目となっている。数秒の沈黙の後、耳をつんざくような絶叫が彼女の口から飛び出した。

 

「何をするかぁ~っ!優人!一体何処を掴んでいるっ!?」

 

「えっ!?……あ、いや!こ、これはっ!ぶへっ!?」

 

なんとか弁明を試みようとする優人だが、激しく動揺したバルクホルンは聞く耳を持たない。

すぐさま強烈な肘鉄が放たれ、それは無情にも扶桑海軍ウィザードの脇腹に叩き困れるのだった。最早、お約束である。

 

「落ち込んでいる女性にセクハラを仕掛けるなどと!お前というヤツは!人の弱味に突け込んで!堕ちるところまで堕ちたのかぁ!?」

 

「あぐぁ!……バ、バルクホルン……苦しい!……」

 

怒り心頭のバルクホルンにギリギリと首を絞められ、優人は呼吸ができなくなる。

爆乳リベリオンウィッチの深い谷間を顔面で受けた時とは違い、純粋な苦痛しか感じられない。

トマトのように顔を真っ赤にした堅物大尉とは対照的に、扶桑海軍ウィザードの顔は段々と生気の薄い蒼色に変わっていった。

 

「バルクホルン大尉。お怒りは尤もだけど、離してあげて。それ以上やったら死んでしまうわ」

 

「…………ふん!命拾いしたな!」

 

「ゲホゲホッ!」

 

竹井の助け船で九死に一生を得た優人だが、バルクホルンからは完全に悪者扱いされている。

幸いというか、何というか。すぐハルトマンによるネタばらしが成された。

 

「うんうん♪やっぱりトゥルーデには、優人からの乳揉みが一番の薬みたいだね♪」

 

「ハルトマンッ!?……まさか、全て貴様の仕業かぁ!」

 

「いやぁ♪すっかり汐らしくなっちゃったトゥルーデを元気付けようと思ってさ♪あはは♪」

 

「付くかぁ!こんなことでぇ!」

 

バルクホルンは声を張り上げて否定するものの、実際のところは彼女に元気が戻り、いつもの堅物大尉になっていた。

ウルトラエースの荒療治には、確かな効果があったようだ。501部隊結成以前からの相棒だけあって、扱いも心得ているらしい。

ただ単に、優人やバルクホルンに悪戯を仕掛け、2人の反応を面白がっているだけかもしれないが……。

 

「なんと言うか、緊張感ゼロだな……」

 

と、若本は呆れた様子である。初めこそ、久々の再会を果たした優人を好きに弄り回して楽しんでいた彼女だが、今は501一同のあまりに緩く、お気楽な空気に何とも言えぬ表情を浮かべている。

この場で、目の前の愉快な集団が各国のウィッチ隊から抜擢されたエース級で固められた精鋭部隊――第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』で、ガリア救国の英雄達だと言われても、大抵の人間は信じないだろう。

何せ、優人や坂本。そしてWエースたるバルクホルン、ハルトマンの実力を熟知し、認めている若本ですら彼女等のやり取りを見て、首を傾げたくなっているくらいだ。

 

「何だか懐かしいわね♪」

 

「?」

 

「第十二航空隊にいた頃の私達みたいじゃない?」

 

「…………確かにな」

 

優人と同じく、同期の桜である竹井に昔話を振られ、若本は苦笑気味に頷く。

若い時分の自分達――まだまだエースには程遠かった新人時代の優人、坂本、竹井、若本の4人もまた、501メンバーのように下らないことばかりを話し合い、バカみたいにはしゃいだりしたものだった。

軍人としての自覚がまだまだ足りなかった。メンタルがそこいらの学生と変わらなかったと言えばそれまでだ。

しかし、あの明るい雰囲気があったればこそ。扶桑海軍事変の厳しい戦況を乗り越えることができたというものだろう。

そしてそれらの過去は、世界的なエースにまで上り詰めた彼女等の現在を形作っているとも言える。

時間が許せば思い出話に花を咲かせたいところだが、今はそんな余裕は無い。

 

「と……いつまで遊んでいるなよ!早くあの化物をなんとかをしないと、取り返したばかりのガリアをまた失うことになるぞ!」

 

「言われなくたってわかってるよ……」

 

バルクホルンの肘鉄を諸に受けた脇腹を擦りながら、優人は若本の叱責に呻くように応じる。

言われるまでもない。グラーフ・ツェッペリンを取り込んだネウロックの目的が、ネウロイ側にとってやや劣勢となった戦線を押し戻すことなのは明らか。

せっかく取り戻したペリーヌやアメリーの故郷を再びネウロイに明け渡すなど、あってはならない。

なんとしてもネウロック並びにグラーフ・ツェッペリンを撃破する必要がある。しかし、戦闘能力でウォーロックやウォーロックと融合した赤城を遥かに上回る今のグラーフ・ツェッペリン相手に、正面から挑んでも勝ち目は薄い。ましてや、今の501は全開時よりも、戦力が低下していた。

一体どうしたものか。優人は思考を働かせ、なんとか打開策を見い出そうとする。

 

「ん?」

 

何気無しに視線を走らせると、シャーリーの履いているストライカーユニットに目が留まった。

 

「シャーリー、それ!」

 

「ん?ああ、これか?」

 

シャーリーが使用しているのは使い慣れた愛機――P-51“マスタング”ではなく、扶桑海軍の対地攻撃用ユニット――九九式艦上爆撃飛行脚二二型。空母天城の艦内格納庫の隅で埃を被っていた機体である。

元々は急降下爆撃用に開発・運用されていたユニットで、本大戦初期には爆撃任務等で活躍していたが、強力な飛行ネウロイが現れ始める――九九式艦爆の損耗率が高かったのも理由の1つ――と、戦闘脚の配備が最優先となり、対地攻撃にはウィッチが装備するストライカーユニットではなく、爆撃機や攻撃機等の航空機が使われるようになっていった。

九九式艦爆より後発の“彗星”や“流星”及び“流星改”も、開発データをフィードバックした航空機のみが前線に出るようになり、同名のストライカーユニットは殆んど使用されていないのが現状だ。

ウィッチ・ウィザードは稀少な存在。艦上航空歩兵となれば尚更であり、少ない人員を対地攻撃に回す余裕が無かったのも理由の一つである。

 

「P-51がちょっと使えなくてさ。代わりに天城にあったコイツ借りたんだよ」

 

そう言うシャーリーに、すかさず若本が反論……というよりは苦言を呈した。

 

「代わりと言うが、さすがにそいつで空戦は厳しいだろ?」

 

高性能ユニットであるP-51と低速且つ防御力も貧弱で空戦には向かない九九式艦爆が、彼女の愛機の代わりになるとはとても思えない。

統合戦闘航空団の一員だけあって、シャーリーの技量や魔法力の才能は確かだが、それだけでは補い切れないだろう。はっきり言って戦力外だ。

しかし、優人は九九式艦爆を履いたシャーリーの姿を見て、ある作戦を思い付く。

 

「シャーリー、皆!俺に考えがあるんだ」

 

優人は構築した対グラーフ・ツェッペリン作戦案を、仲間達に聞かせ始めた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

数分前、カールスラント北西部北海沿岸地域・地上――

 

「ミーナ中佐ぁ!迎えにきましたよぉ!」

 

ミーナがいるらしい扶桑様式のホテルを玄関の引き戸を開き、小さな身体を屋内へ滑り込ませる。

建物内を見渡しながらミーナの姿を探し、彼女の名を呼んでみる。しかし、返事はない。

 

「あれ?ここじゃないのかな?」

 

と、芳佳は小首を傾げて独り言ちる。玄関からさらに奥へ進むとロビーがあり、フロントや二階に続く階段も確認出来る。

空が晴れたのか。屋内に射し込む月明かりによって、やや薄暗いながらも視界は良好であった。

 

「う~ん……建物間違えちゃったのかなぁ?」

 

芳佳は小首を傾げつつ、2階へ上がる。奥へ進みながら、部屋を一つ一つ確認していく。やはりミーナの姿はない。

それでも屋内の探索を続けていると、近くの和室から物音するのに気付いた。

 

「あ、ここかな?ミーナ中佐!お迎えに来ましたぁ!」

 

「入っていいわよぉ!」

 

襖の向こう側から、声楽家を連想させる澄んだ声が返ってくる。

思ったより元気そうなその声音に、芳佳はホッと胸を撫で下ろした。

 

「失礼しま――」

 

「いらっしゃ~い♪」

 

芳佳の声を遮るように、ミーナが和室から姿を現す。突然、視界に現れた501司令の美貌。理由は分からないが少しばかり頬が上気し、目元が艶かしく潤んでいた。

普段から年齢不相応にアダルトな雰囲気を身に纏っているミーナだが、今の彼女はいつにも増して色っぽい。そんな上官を前にして、芳佳は顔を強張らせつつゴクリと息を呑む。

 

「あ、あの!ミーナ中佐、お迎えに――」

 

「ありがとう♪」

 

またしても芳佳の言葉を遮ったミーナは、背を向けて室内に戻っていく。部屋のほぼ中心に敷いてあった布団に身を投げ、あお向けに寝転がった。

よく見ると、布団の周りには大量の酒瓶――全て扶桑酒――が散乱している。

 

「ミーナ中佐!お酒飲んだんですか!?」

 

「えぇ、そうよ♪あぁ~♪久しぶりにたくさん飲んで良い気持ちぃ♪」

 

なんとも幸せそうな笑顔応じるミーナの姿は、元の美しさや恭しさもあって見苦しさは感じない。寧ろ絵にすらなっていた。

 

「もう!何やってるんですか!?早く帰りましょうよ!」

 

と、ミーナを連れ出そうとする芳佳だったが、やはりというか。そうは上手くいかなかった。

 

「芳佳ちゃ~ん♪」

 

「え?きゃっ!?」

 

不意に手首を捕まれ、芳佳はミーナが寝ている布団へ引きずり込まれてしまう。

 

「そんなに急かさないでぇ♪もっと、ゆっくりして行きましょうよ♪添い寝して、添い寝ぇ~♪」

 

「わっ!ミーナ中佐!やめっ!」

 

抵抗する間も無かった。芳佳はミーナに抱き竦められ、身動きが取れなくなった。

 

「う~ん、良い抱き心地♪抱き枕にして今日はもうねるぅ♪」

 

「うぅ……」

 

ガッチリと拘束されている上、ミーナの豊満な胸を顔に押し付けられ、気も漫ろとなる。

 

「み、ミーナ中佐……寝るのなら、せめて天城に――」

 

「ひっど~い!私の誘いを断るなんてぇ!私のこと、ウィッチとしては年増だと思って甘く見てるのね!」

 

舌足らずな口調でそう言うと、ミーナは制服を脱いで下着姿になってしまう。

 

「どぉだぁ~♪見ろぉ♪これが、成熟した女の身体よぉ♪」

 

と、大胆にも自らの肢体を見せつけてくる。胸の大きさこそシャーリーやリーネに劣っているものの、全体的なプロポーションでは上回っており、女体を形作る曲線はまるで芸術品のよう。芳佳も思わず「すごい」と感嘆を漏らした。

 

「芳佳ちゃん♪とても可愛いわぁ♪このまま食べてもいいかしら?」

 

「わ、私は……美味しくないですよ!どうせ食べるならもっと高いお肉とかが、その……いいと思います!」

 

よく分からない命乞い(?)をする芳佳を尻目に、ミーナは彼女の頬に手を添えて、ゆっくりと顔を寄せる。

 

「ふふ♪芳佳ちゃ~ん♪」

 

「いやぁああああああ!」

 

後に芳佳は、駆け付けたサーニャとエイラによって救助されたそうな。




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