ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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久々の投稿となりますが、どうぞよろしくお願い致しますm(_ _)m


第30話「一難去ってまた一難」

1944年9日上旬、ブリタニア連邦・首都ロンドン――

 

ロンドンにある連合軍西部方面統合軍総司令部。ここで謎の武装集団による籠城事件が発生してから、既に丸1日が経過していた。

拳銃や短機関銃で武装した集団は、人類連合軍として対ネウロイ共同戦線を展開している各国から派遣された将軍・提督等が、大規模な欧州反攻作戦の為一同に介するこの機を狙って会議を占拠。15名の将官達を人質に立て籠っている。

ブリタニア軍や在武カールスラント軍の憲兵隊、帝政カールスラント皇室親衛隊麾下の軍警察師団等が対応に当たり、事態の収拾及び人質救出に動いている。

しかしながら、彼等が実施中の救出作戦は遅々として進まぬまま、時間ばかりが徒らに過ぎていく。

それもそのはず。人質になっているのは、リベリオン陸軍欧州派遣軍総司令官――ドナルド・D・アイゼンハワー元帥をはじめとする各国軍の重鎮ばかりだ。

彼等の身に何かあれば、それだけで国際問題に発展しかねない。自分達の進退にも影響する。下手をすれば首も飛びかねない。

そんな不安が指揮官達の脳裏を度々過り、思いきった行動に出られない。各部隊は事件終息を試みながらも、二の足を踏んでいた。

 

(まったく……)

 

15名いる人質の1人――カールスラント空軍ウィッチ隊総監のアドルフィーネ・ガランド少将は、内心で舌打ちをする。

彼女を含めた人質は、全員会議用テーブルから窓際に移動させられ、パイプ椅子に座らされていた。

座り心地のよろしくない安っぽい椅子に尻を置き、両手を頭の後ろで組む様はまさに虜囚の身。今次大戦が人類とネウロイではなく人類対人類の戦争だったら、こんな風景も目にすることも多々あっただろう。

ガランドも、他の将官達も長時間緊張下に置かれている割には顔色が悪くなく、寧ろとても健康的である。

膠着したまま変化の訪れない現状に焦れ、苛立ちこそすれど。人質として自らの最悪の未来を想像し、恐怖することはないようだ。

連合軍上層部に席を置く将官としての責任感、各国軍の重鎮としてプライドがそうさせているのだろうか。

ガランドにいたっては籠城事件発生直後、人質になることを“レアな経験”だと皮肉混じりに思うなどと、肝も座っている。

ただ、代わり映えのしない退屈な状況に、さすがの彼女も苛立ちを募らせていた。

 

(早くシャワーを浴びて、眠りたいな……)

 

と、ガランドは心中で嘆息する。彼女は最高司令部附の連合軍少将としてその辣腕を奮い、統合戦闘航空団等のウィッチ隊や基地の組織化と運営指導、各方面総司令部にて各国との調整や作戦指導等を日々こなしている。

反面、ウィッチ隊総監への就任やウィッチとして“あがり”を迎えたこと。さらにカールスラント皇帝――フリードリヒ4世の意向もあり、ガランドが航空ウィッチとして出撃し、ネウロイと交戦する機会はめっきり減っていた。

彼女は自らの現状に強い不満を抱いている。ストライカーユニットを操って空を飛び、ネウロイを相手取っての空戦を生き甲斐としていた彼女にとって、これらを制限・禁止されることはストレス以外の何物でもなく、ある種の死活問題とも言える。

同じく一線を引いた同輩のウィッチからは「大袈裟だ」と呆れられているが、ガランドはそうは思わない。

各国軍との連絡・調整において、ウィッチであり現場主義とは反りが合わない頑迷な輩と顔を合わせなくてはならないことも多く、表向きは悠揚迫らぬ態度で臨みながらも、内心辟易している。

なによりも、多くの後輩達を最前線という名の死地へ送り出しておきながら、自身は安全快適な後方にいる事実に、罪悪感から胸を痛めてもいた。

面倒な会議が終わったら、とっとと私室に戻ってシャワーを浴び、染み着いた汚れと疲れを綺麗に落とす。そして、ベッドに向かって身を投げ出して、束の間の休息を満喫する気でいた。知らず知らずのうちに重なっていた心労も、それで多少はマシになる。

だが、無慈悲な神はそれすらも許してくれなかったらしい。

 

「は……了解致しました」

 

ふと涼やかな声がして、室内にいる者達の耳朶にそっと触れる。もちろん、ガランドの耳にも届いていた。

チラッと目をやると、武装集団のリーダー格らしき西洋系の女性がブツブツと独り言ちているのが確認出来る。

 

「速やかなに実行します……」

 

(一体誰と話している……?)

 

ガランドを含む各国の将官達は皆、一様に同じ疑問を抱いた。

リーダー格の女性は仲間達と会話しているわけでもなければ、通信機の類いを使用しているようにも見えない。

瞬き一つせずにジ~ッと虚空に目を据え、実体を持たない何者かと交信しているようだった。

変な薬でもやっていて、幻覚でも見ているのか。怪しげな宗教にどっぷりハマり、苛烈で過激な思想にでも目覚めているのか。或いは、その両方か。

大戦初期、黒海方面より端を発したネウロイの大規模侵攻。ヨーロッパ大陸からの撤退戦を経験した欧州人の中には、戦災の悲惨な記憶から一時的にでも逃れるため、非合法な薬物に手を染める者。救いを求めて怪しげな宗教に傾倒する者が多い。

近年、人類の希望たるウィッチ・ウィザード。果ては、人類の仇敵であるはずのネウロイすらも信仰対象とした新興宗教が次々に誕生しては独自の教えを説き、信者を獲得している。

また、質の悪い教団は信者をターゲットに、非合法薬物の売買を密かに行っていた。

これら人の弱味に付け込む卑劣な犯罪は増加傾向にあり、現役軍人の戦争犯罪と並んで銃後の人々を脅かしている。人類の敵は、やはりネウロイだけではないということだろう。

だが、眼前の集団はそういった下卑た輩には見えず、また胡散臭い宗教家とも思えない。

何の目的があってこんなバカげたことを企てたのか、ガランドには分からない。しかし、奇行に走っているリーダー格の女性をはじめとした武装集団のメンバーは、一様に高潔な意思の下で団結・行動している。

少なくとも、カールスラント空軍ウィッチ隊総監殿はそう感じ、退屈だったこともあって彼女達に興味を抱き始めていた。

 

――カチャッ!

 

自らに関心を寄せる元ウィッチを余所に、リーダー格の女性は拳銃――カールスラント製のPPK――を取り出し、撃鉄を起こしていた。

他のメンバーも、携行している拳銃や短機関銃を射撃位置へと持ち上げる。対するガランド、そして将官達の頬を嫌な汗が伝う。

 

「始めなさい」

 

永遠にも思える数秒が経ち、リーダー格の女性が冷ややかな声色で、短く命令を出す。一拍置いて、複数の銃口が一斉に火を噴いた。鮮血が宙を舞い、殺風景な会議室を彩る。

しかし、銃弾の群れに貫かれたのはガランドでも、他の将官達でもなかった。我が身の息災に安堵する間も無く、彼等は目の前の惨状に目を見開く。

鉄の雨に晒され、全身から血を吹き出したのは、なんと立て籠り犯達だったのだ。

至近距離で互いを撃ち合い、肉が抉れ、血を飛ばし、部屋中を穢す。その様は、まさに地獄絵図と形容して差し支えないものだった。

立て籠り犯等は、リーダーの女性を残して次々と力尽き、床に伏していく。

 

「………………」

 

仲間達の死に微塵の動揺も見せず、リーダーの女性は彼等の同士討ち――正しくは集団自決――を無言・無表情。そして無感動に見届けていた。

死にきれず、苦痛に悶える仲間がいれば、頭部へ銃弾を叩き込んで楽にしてやる。

人間を射殺するという精神に多大な負荷を強いる行為を事務的に熟し、女性は自らが拵えた骸達を冷然と見据える。まともな感性と倫理観の持ち主であれば、今の彼女の姿に寒気や恐怖を抱かずにはいられないだろう。

女性は軽く息を吐き、ゆっくりと瞳を閉じる。PPKを握った右手を持ち上げると、銃口をこめかみに押し付けた。

彼女が何をするつもりなのか。ガランドも将軍達も即座に理解する。

 

「君!や、やめっ――」

 

――ズガァン!

 

自由ガリア軍代表――シャルル・ド・ゴール将軍が制止の声を掛けるも、言い切る前に引き金が絞られた。

一筋の閃光が発砲音と共に迸り、それから一瞬遅れて脳漿が飛び散る。美麗な容姿の女性は己の鮮血で真っ赤に染め上げたのだ。

一泊置いた後、女性の身体は前のめりに倒れ、血肉で彩られた床と接触。鈍い衝突音と、生理的嫌悪感を催す飛沫音が会議室内に反響する。

何の前触れも無しに行われた集団自決ショー。犯人グループは突然正気を失ったようだった。

異常な光景を目の当たりにした将官達の誰もが、状況を理解出来ず呆然とする。無論、ガランドも例外ではない。

暫くして、廊下へと続く扉が勢い良く開かれ、短機関銃“MP40”で武装した兵士が大勢雪崩れ込んできた。

ガランドはすぐさま部隊章を確認する。兵士達は正規軍の人間ではないが、立て籠り犯のような危険な犯罪者集団でもない。

 

「随分と遅い御到着じゃないか……」

 

と、ガランドは皮肉に口元を歪ませる。部屋に突入してきたのは、皇室親衛隊隷下の軍警察師団に所属する親衛隊員等であった。

 

 

◇◇◇

 

 

翌朝、ガリア共和国パ・ド・カレー――

 

東の空から射し込む曙光が、ドーバー海峡に面したガリア沿岸――パ・ド・カレー港を照らし始める。

淡い赤色で彩られた洋上を、黒鉄の威容が目を引く無数の艦艇群が遊弋している。遥か東方より派遣された扶桑皇国海軍外征部隊――遣欧艦隊麾下の機動部隊だ。

指揮官である岾口中将が直率する第二航空戦隊――蒼龍型航空母艦2隻を中核に編成された本艦隊は元々、海上部隊の主戦力としてガリア反攻作戦に参加するため西欧へ派遣されていた。

しかし、第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』の活躍によって、ガリア上空のネウロイの巣が消滅。ガリア国内に巣食う敵側の戦力も大幅に低下していった。

これに伴い、遣欧艦隊及び西部方面統合軍の両総司令部は上陸地点をノルマンディーからパ・ド・カレーへ変更した後、新たなガリアへの逆上陸作戦を実施。岾口中将指揮下の機動部隊は、地上戦力の支援に回されていた。

筑波型戦艦4隻で編成された第三戦隊の砲撃支援と、第二航空戦隊空母航空隊の援護を受け、西部方面統合軍主力部隊――ブリタニアとリベリオンの陸軍が中心――は、作戦開始時より快進撃を続けている。

また、補給任務を帯び、以前から欧州に派遣されていた扶桑海軍正規空母――赤城型航空母艦2番艦“天城”。

そして、3番艦“グラーフ・ツェッペリン”と共に帝政カールスラントへ売却され、現在は皇室親衛隊にて運用されている4番艦“ドクトル・エッケナー”の2隻も、岾口機動部隊の艦艇群同様パ・ド・カレー湾内に停泊している。

朝日が完全に顔を出すのと時同じくして。複数の機影が編隊を組んで北方より飛来し、艦隊へ接近していった。

機影群の正体はストライカーユニットを装備した航空歩兵。各々第501統合戦闘航空団、扶桑海軍航空隊、カールスラント皇室親衛隊第1独立戦闘航空団『インペリアルウィッチーズ』第3飛行隊に所属するウィッチ・ウィザードだ。

昨夜の戦闘による疲れが抜けていない身体で懸命にストライカーを飛ばし、なんとか母艦が停泊する海域まで辿り着いたのだ。

艦が眼前まで迫ると、航空歩兵等は二手のグループに分かれた。一方は天城、もう一方はドクトル・エッケナーの飛行甲板へ向けて降下していく。

 

「優人、もう少しだからな。頑張れよ」

 

「あ、あぁ……」

 

天城の甲板へ垂直降下していったグループ――501と扶桑海軍のウィッチ・ウィザード達――の中に、両脇から2名のウィッチに肩を貸してもらい、どうにか飛行している少年がいた。

扶桑海軍遣欧艦隊から、501航空団へ派遣されている航空ウィザード――宮藤優人大尉だ。

右側を支え、共に飛んでくれているリベリオン陸軍のウィッチ――“シャーリー”ことシャーロット・E・イェーガー大尉が、心配そうに彼の顔を覗き込んでいる。

ネウロイ化したグラーフ・ツェッペリンとの激戦を終え、ウィッチ達は揃いも揃って満身創痍。疲労困憊といった体だが、優人は特に消耗しているように見えた。

自分の身を案じ、励ますように言葉を掛けてくれたシャーリーに対し、喘ぐように短い声しか返せない。その事実が彼の疲弊ぶりを物語っている。

 

「まったく、相変わらず軟弱だな。それとも書類仕事で身体が鈍ったのか?」

 

優人の左側を支えている扶桑海軍ウィッチ――若本徹子中尉が、シャーリーのものとは正反対の辛辣な言葉を投げ掛ける。

若本の手厳しい態度を苦々しく思ったのか。シャーリーは軽く眉を顰めた。

 

「徹子、言い過ぎよ」

 

もう1人の扶桑海軍ウィッチである竹井醇子大尉も、若本の言動に多少問題を感じたらしく、即座に自重を促す。

 

「醇子、お前こそ少し甘いんじゃないのか?この後、地中海方面で504航空団副司令の任に着くんだろ?そんなことでいいのか?」

 

と、若本は不機嫌そうに眉を吊り上げ、少々ムキになって反論する。が、竹井も負けじと語気を強めて言い返している。

2人のやり取りを横目で見ていたシャーリーはあることに気付いた。それは若本が怒っている、ということだった。

とはいっても、優人の不甲斐無い様を見て怒っているのではない。

先の戦闘で、優人が自分の身も省みずに無茶を行ったことが許せないのだ。

ネウロイ化したグラーフ・ツェッペリンを一撃で仕留めた優人の覚醒魔法『絶対凍結』。シャーリーがこの技を目にしたのは、今回で二度目である。

相変わらず凄まじい威力だったが、その分使い手に掛かる負担も激しい。ウィッチ2人に抱えられて飛んでいるのも、そのせいだ。

シャーリーと優人の付き合いは浅く、知り合ってまだ1年と経っていない。

ブリタニアで共に戦い、強い信頼関係で結ばれた戦友兼親友という間柄だが、まだまだ互いのことはよく知らない。

しかし、仲間やネウロイの危機に晒されている人々を守る為なら、どんな無茶でも迷わずに引き受けようとする優人の人柄を、シャーリーは嫌と言うほど理解していた。

自分の妹が、自分と同じような無茶をすると厳しく叱るくせしてこの体たらく。血は繋がっていなくとも、2人が兄妹なんだと改めて認識させられる。

だがシャーリーは、そんな優人の人格を尊重している反面、少し複雑な心境だった。

優人が進んでリスクを冒そうとする度、彼女は不安と恐怖で心が押し潰されそうになる。

無事に帰って来ればホッと安堵し、喜びながらも危険を冒した優人を見て腹立たしくもなった。もちろん、彼を想っていればこその感情だ。

他の501メンバーも、優人と肩を並べて戦った経験のある航空歩兵達も同じ気持ちである。

自分達でこれ程なのだ。妹の宮藤芳佳、同輩の坂本美緒、竹井等のより近しい人々はさぞや気を揉んだことだろう。無論、無茶をするのは優人に限ったことではないが……。

つまり若本も憎まれ口を叩いているが、内心では心配で仕方ないのだ。ヤンチャな弟を気に掛ける姉の心境に近いだろうか。

性格は異なるものの、優しいのに素直じゃない一面は501のペリーヌ・クロステルマン中尉やゲルトルート・バルクホルンによく似ていた。

 

「よっ!とうちゃ~っく♪ふぁ~……眠ぃ……」

 

天城に着艦すると共に、カールスラント空軍ウィッチのエーリカ・ハルトマン中尉が呑気な声を漏らし、あろうことか大口開けて欠伸をする。

例によって、規律の鬼と名高いバルクホルンが叱責するも、慣れきっているハルトマンは風と受け流す。

 

「出迎えは無しか……?」

 

と、若本が細めた双眸で天城の甲板を見渡した。通常、空母の飛行甲板というものは、整備作業中の整備要員やら甲板員やらエンジンやらで騒々しくなっているものだ。

しかし今の天城の甲板には、優人達のストライカーユニットを格納する為に用意されたとみられる発進ユニットが、エレベーター上に複数――事前に連絡したので若本の発進ユニットも用意されている――置かれているだけで人っ子一人見当たらない。

甲板……いや、天城全体が、作戦行動の軍艦にしては不気味なほど静まり返っている。

 

「何故、誰もいないんだ?」

 

「…………妙ね」

 

若本に続き、バルクホルンが疑問を口にする。彼女の隣には、同じ疑問を抱いた竹井が自らの顎に手を添えつつ、飛行甲板を訝しげに観察していた。

 

「でもまぁ、取り敢えずはストライカーユニットを脱ぎましょう?」

 

そう言うと竹井は発進ユニットのあるエレベーターまで滑走し、自身の愛機――紫電改を固定する。

背中に担いでいた九九式二号二型改13mm機関銃も、武器ラックに格納する。

 

「あんな戦いの後じゃ、小休止くらい取らないと、身が保たないわ」

 

「だよねぇ~」

 

ハルトマンが賛成したのを皮切りに、一同は各自ストライカーユニットと携行火器の格納を始めた。

優人も、メッサーシャルフ社製Bf109G-2――本来の持ち主はミーナ――を、近場の発進ユニットに固定する。

 

「優人、自分で歩けそうか?」

 

まだ消耗から立ち直れていない優人を見て、シャーリーが心配そうに訊ねる。

 

「…………なんとか」

 

優人はフラフラとした足取りで立ち上がる。歩行出来なくはなさそうだが、やや覚束無い。

 

「おいおい、本当に大丈夫かよ?」

 

「大丈夫だ……自力で歩け――」

 

――ゴウンッ!

 

「何だ?」

 

優人の言葉を遮るかのように、エレベーターが唐突に稼働・降下を始めた。

帰艦したばかりの航空歩兵と機材を載せ、艦内格納へ降りていく。

 

――ガクッ!

 

「あ……」

 

「へ?」

 

――ボフッ!

 

突然の揺れに襲われた扶桑海軍ウィザードは、疲弊していたこともあって立っていられず、前のめりに転倒。そのまま、すぐ目の前にいたリベリオンウィッチの爆乳へ顔から突っ込んでしまう。

お約束というか、なんと言うか。起きるべくして起きてしまったアクシデントだと言えよう。

 

「なっ!?…………」

 

「……………………」

 

微かに羞恥の色を滲ませた声が頭上から降り、疲労で頭が鈍くなっていた優人は、自分の置かれた状況を理解するのに時間を要した。

まぁ理解したところで、彼には硬直することしか出来ないのだが……。

柔らかな谷間に挟まれている優人の視界はゼロ。彼に胸の持ち主であるリベリオンウィッチの表情を窺い知ることは出来ないが、当のシャーリーは白い頬に仄かな紅を灯して当惑している。

数時間前にまったく同じことが起こり、その時は自分から優人に抱き着き、自慢の爆乳を押し付けてきた。

にも関わらず、不可抗力でダイナマイトバディをどうこうされるのは照れくさいらしい。

暫しの間、2人とその周囲を沈黙が支配していたが、やがてシャーリーは優人の背中と後頭部へ手を回し、自分の胸元へ引き寄せた。

 

「…………優人、お疲れ様♪」

 

自然と目尻が下がり、表情を穏やかなものへ変化させたシャーリーが、一昨晩以来苦境続きだった優人の労をねぎらう。

その姿からは溢れんばかりの母性が見受けられ、まるで我が子を慈しむ母親のようだ。いずれは愛する人との間に子を授かり、強く優しい立派な母親となることだろう。

優人もまた、シャーリーの行為を無言で受け入れている。衣服越しに伝わる乳房の感触と温かみを顔全体で堪能し、頭の中は真っ白。暫くはものを考えられそうにない。

 

「優人、リベリアン!き、ききききき……貴様等ぁああああああああああ~っ!くくくくくくくく……空母の飛行甲板で、なななななななな……何をして!?」

 

「トゥルーデ、落ち着きなよぉ」

 

「これが落ち着いていられるか!大体コイツらは!グラーフ・ツェッペリンと戦う直前にも!」

 

激しく狼狽え、今にも2人に飛びかかりかねない様子のバルクホルンを、ハルトマンが羽交い締めにして必死に押さえ込む。

ガリア解放の英雄達が子ども染みた戯れ合いを繰り広げる様を、竹井は微笑ましげに見守り、若本はジト目を向けていた。

 

「コイツらが、あの音に聞く第501統合戦闘航空団とはな……」

 

と、若本は呆れ混じりに嘆息する。数日行動を共にし、501の自由で奔放な隊風にすっかり馴染んだ竹井とは異なり、彼女は少々理解に苦しんでいる様子だ。

竹井は竹井で、統合戦闘航空団特有の和やかな空気を甚く気に入ったらしい。

後日、自分が戦闘隊長を務めるであろう第504統合戦闘航空団『アルダーウィッチーズ』も、501のように楽しく賑やかな部隊にしたいとさえ思っている。

それは軍人としてあるまじき考えかもしれない。しかしネウロイとの戦いで、常に矢面に立たされるウィッチ達には心さやらげる場所が必要だ。

例えば、501司令――ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は、基地を家。ウィッチ隊のメンバーを家族と認識しているようにも見えた。

 

「皆さん!」

 

聞き慣れた……だが何処か切羽詰まったような声音が格納庫内に響き、ウィッチ達の視線が声のした方へ集中する。

シャーリーの深く柔らかな谷間に酔いしれていた優人もハッと顔を上げ、後ろを振り返った。

奥の暗がりから軽やかな足音が聞こえ、次いで2人分の人影が浮かび上がる。

1人は亜麻色の長い髪を三つ編みに結んだ蒼色の瞳を持つグラマラスな体型の少女。もう1人は翡翠色の瞳と色素の薄い髪、北欧生まれであることを示す真っ白な肌が印象的な小柄な少女だった。

彼女達はブリタニア空軍軍曹――リネット・ビショップと、オラーシャ陸軍中尉――アレクサンドラ・ウラジミーロヴナ・リトヴャク。

501部隊のメンバーで、仲間内ではそれぞれ“リーネ”“サーニャ”の愛称で呼ばれている。

 

「リーネとサーニャか」

 

「肩で息なんてして、どうしてたの?」

 

息を切らしながら駆け寄ってきたリーネ達に、バルクホルンとハルトマンが順に声を掛ける。

先の戦闘の折。芳佳、サーニャ、エイラの3人は優人の指示を受け、地上へ降りてミーナを回収。自分達の隊長を連れ、グラーフ・ツェッペリンと交戦中のメンバー――優人、バルクホルン、ハルトマン、シャーリー――よりも一足早く天城へ帰艦していた。

また、リーネを含めた3人――他にはペリーヌとルッキーニがいる――は、諸事情により出撃はせず、天城で待機となっていた。

 

「はぁはぁ……た、大変です。ミーナ隊長が……」

 

「それに……はぁはぁ……エイラや芳佳ちゃんも……」

 

「芳佳がどうかしたのか!?」

 

サーニャの口から漏れた愛する妹の名を耳聡く聞きつけた扶桑海軍ウィザードは、弾かれたようにリベリオンウィッチから離れ、2人へ駆け寄っていく。

離れていく優人の後ろ姿を、シャーリーが少し寂しそうな表情で見つめていたが、優人が気付くことはなかった。

 

「じ、実は――」

 

「あらぁ?」

 

リーネが乱れた息を整えつつ、サーニャに代わって説明しようとする。

だが、そんな彼女の声を遮るかのように、また新たな声が格納庫内に響き渡った。

一同が目を向けると、声の発生源に1人の女性が佇んでいた。

彼女は501のメンバーにとって、とても関わり深い人物である。

 

「ミーナ!?」

 

と、バルクホルンが驚愕に目を見開く。声の主はミーナだった。

前述の通り。サーニャ達と共に帰投したはずなので、ミーナが既に天城にいて優人達を出迎えることは、別段おかしくはない。おかしいのは彼女の出で立ちだった。

 

「やっほ~♪……って、何その格好?」

 

隣で固まっているバルクホルンを余所に、ハルトマンは一昨日ぶりに再会した戦友兼上官にヒラヒラと手を振って挨拶する。

が、然しものウルトラエースも、今のミーナの服装は無視出来なかった。

ミーナは見慣れた制服姿ではなく私服……よりストレートに言えば、下着姿だったのだ。

それも、黒い布地に深紅の薔薇の模様が描かれた凝ったデザインのブラとローライズズボン、ニーソックス。

ズボンとニーソックスは真っ赤なガーターベルトで繋がっており、コケティッシュな印象を受ける。

色彩といい、作りといい。なんと悩ましいデザインの衣服だろう。

ミーナ本人の美貌も相俟って、周囲を威圧せんばかりの色香を漂わせている。

 

「あ、優人ぉ♪帰ってきたのねぇ♪」

 

「うおっ!?」

 

ミーナはハルトマンの質問に応えず、跳び跳ねるかの如き動作で優人に抱き着いた。

優人は、その拍子に危うく転倒しかけるも、どうにか持ちこたえ、ミーナを抱き留めることに成功する。

 

(う……これはまずい……非常にまずいぞ)

 

肌や髪の匂い、感触、温もり。シャーリーの時とは違い、それらを衣服越しではなくほぼ直に触れ、感じることなり、優人の心臓はすぐに早鐘を打ち始める。

同時に彼の中にある男の性というか。ケダモノの本能が首を擡げるも、扶桑海軍ウィザードは自らの理性を総動員して抑え込んだ。

 

「ミーナ、一体何を――」

 

「もう寂しかったわぁ~……」

 

ミーナは呂律の回らぬ口調で、スリスリと甘えるように身体を擦り付けてくる。

どうやら、扶桑酒を飲んだ際の酔いがまだ覚めていないらしい。

緋色の髪と同色の瞳は艶かしく潤み、目元は朱色に染まっている。

アルコールのせいで人格が豹変してしまっており、その上に見当識も低下し、優人を恋人か何かと誤認しているようだった。

 

「お願いだから、もっと早く帰ってきてぇ♪私、あなたと一緒にベッドへ入らないと、眠れないのぉ~♪」

 

「はぁ!?」

 

酔いに任せてとんでもないことを言い出すミーナ。優人は素っ頓狂な声を上げる。

 

「み、ミーナ……一体何を言って……」

 

「どうなってんだコリャ?」

 

「いつものミーナじゃない……」

 

動揺を禁じ得ないバルクホルン、シャーリー、ハルトマンの3人が口々に言う。

今のミーナは、彼女達が知っている淑やかで気品に溢れたウィッチ隊隊長ではなく、淫らに男を誘う魔性の女となっている。

 

「なぁに?恥ずかしがってるのぉ?私の寝込みを襲って、服を脱がせたクセにぃ♪」

 

「ばっ!?誤解を招く言い方するなよ!」

 

「え?それってどういう?」

 

と、聞き咎めたハルトマンが2人に訊ねる。すると、ミーナが彼女の方へ振り向き、ギロッと目を剥いた。

 

「フラウ……」

 

「な、何?あなた……柔らかそうな唇してるわね?肌もとっても綺麗♪」

 

「え?」

 

「ねぇ、今から私の部屋に来ない?あ~んなことやこ~んなことして上げるわよ♪」

 

「い、いい!いいよ!間に合ってます!」

 

「遠慮しないの♪さぁ、行きましょう?」

 

「や、やめてよ!もう!」

 

「待ちなさ~い♪」

 

脱兎の如く逃げたずハルトマンを、肉食獣のようなミーナが追いかけていく。

立ち去っていく2人の姿を、優人とウィッチーズは呆然と見送る。

いつの間にか。リーネとサーニャも姿を消していた。ミーナが現れた直後に、格納庫を去ったらしい。

 

「助かった……」

 

ミーナの意識がハルトマンに向いたことで、優人は結果的に解放された。

彼女が上手いこと逃げ切るのを祈りつつ、扶桑海軍ウィザードはホッと息を吐く。

しかし、喜びも束の間。優人は何者かによって羽交い締めにされる。

 

「わっ!?何だ!?」

 

背中に当たる柔らかな感触から、自分を拘束しているのがシャーリーだと優人は理解する。

何事かと思い、チラッと背後に目をやる。視線の先では、リベリオンウィッチがいつも通りのサバサバとした笑顔を浮かべていた。が、心なしか目が笑っていない。

 

「優人」

 

今度は正面から凄みの利いた声がする。視線を前に戻すと、両拳にメリケンサックを装備したバルクホルンが視界に入った。

 

「さっきの話は本当か?」

 

「え?」

 

「ミーナの服を裸にひん剥いたそうだな?」

 

「あ…………」

 

「そうか、事実なんだな?」

 

と、バルクホルンは緩慢な動きで、拘束された優人の元に一歩。また一歩と、ゆっくり近づいていく。

 

「ま、待ってくれ!バルクホルン!おい、お前等!たすけろ!」

 

優人は藁に縋る思いで同期の桜達に助けを求める。しかし、彼女達は無慈悲だった。

 

「これは困ったな……」

 

「ええ、助ける理由が見当たらないな」

 

と、若本と竹井は揃って肩を竦めてみせた。優人を救う気などサラサラないらしい。

 

「お前!そんな薄情な!」

 

「何処を見ている?」

 

声につられて正面へ向き直ると、鬼気迫る表情のバルクホルンが眼前まで迫っていた。

 

「ち、ちょっと……待っ――」

 

――ガッ!

 

優人の懇願は、鈍く重々しい一撃によって掻き消された。




えっちなミーナ隊長を書きたかった♪←


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