ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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今回、優人が陸戦型ネウロイを苦手とする理由が明かされます!

…………間を空けすぎた、忘れてる人いっぱいいそうだなorz


第32話「扶桑海軍ウィザードの恐いもの」

1944年9月、ガリア共和国パ・ド・カレー沖――

 

 

扶桑皇国海軍遣欧艦隊麾下の空母――赤城型航空母艦二番艦“天城”は、パ・ド・カレーの沖合いに停泊し、遣欧艦隊総司令部からの辞令を待っていた。

当艦の主な役割は、欧州方面への補給任務だ。これは本来、ウォーロックとの戦闘で轟沈した同型の一番艦“赤城”の任務で、主に扶桑海軍のウィッチが派遣されている統合戦闘航空団基地へ機材や武器、食糧等を海上輸送していた。

ブリタニアの戦いで赤城が失われた後は、同型艦の天城が役目をそのまま引き継いでいる。

赤城と天城。この2隻は、かつて第一航空戦隊としてウィッチをはじめとする航空戦力を伴い、扶桑海軍空母機動部隊の中核を担っていた。

艦の乗員・各種航空機のパイロットは海軍屈指の練度を誇り、ウィッチに至っては扶桑海事変を戦い抜いた一騎当千の猛者が揃えられ、開戦当時世界最強の航空戦力を有する精鋭部隊であった。

その実力たるや。当時、陸で八面六臂の活躍を見せていたリバウ航空隊――海軍第十二航空艦隊が中心――と並び称され、欧州は疎か扶桑本国やリベリオン合衆国にまでその雷名を轟かせたほど。

しかし、大戦初期より激戦が続き、第一戦隊は空母こそ両艦共健在だったものの、人員を多くの人員を損失してしまう。

それは航空歩兵も例外ではない。負傷者に戦死者、運良く五体満足で生き延びたウィッチも、多くが引退している。

この数年、第一戦隊戦力再建に努めたが、将兵の練度回復や航空歩兵の定員さえままならない状態だった。

尤も、航空歩兵については元々ウィッチ・ウィザードの人口が少ないせいでもあるが……。

緒戦を生き抜いた赤城型も、艦齢の長さを理由に一線を引き、第一航空戦隊には新たに2隻の軽空母――祥鳳と瑞鳳が編入された。

ただし、これらは大鳳型等の新鋭艦配備までの繋ぎの意味合いが強く、新たな正規空母就役後は他所へ移される予定である。

此度のネウロック掃討作戦は、補給任務を主とする天城と乗員達にとって久々の――新参の将兵にとっては、初めて経験する実戦となったことだろう。

第一航空戦隊所属時に比べて、練度も経験不足している天城には堪えたはずだ。疲労の色が浮かんだ乗員等の表情からも、それが窺える。

心身共に疲弊した彼等にとって、笑顔を振り撒きながら艦内を闊歩するウィッチ達の存在は精神的な支えであり、目の保養でもあった。

修羅場慣れしていない若き海軍兵は、目麗しい乙女達を己が双瞳に映して陶然する一方で、ウィッチの従兵を命じられている男性兵士やウィッチ部隊に配属されるウィザード等。彼女等と近しい関係にあり、親しげに言葉を交わす者達に対しては、嫉妬と怨念の入り混じった感情を抱いている。

早い話が、良き出会いに恵まれない哀れな男共の僻みというものだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「ふぅ……」

 

天城の艦内に設けられた浴場では、西洋風の少女が湯浴みを楽しんでいた。

長い絹の如く美しい金髪をアップに纏めた少女は、熱い湯の張られた浴槽に身を沈め、ホッとしたように溜め息を零す。

 

「明るいうちの入浴も良いものですわね」

 

と、少女は誰に話し掛けるわけでもなく独り言ちる。その澄んだ声音から気品が感じられ、彼女の育ちの良さが窺えた。

身体が良い具合に温まると少女は目を閉じ、愛する祖国のこれからについて思いを馳せる。

彼女の生まれ育った国は、つい最近まで異形の怪物共に支配されていた。しかしそれも、連盟空軍精鋭部隊の活躍によって終わりを告げた。

数年間、我が物顔で居座り続けた怪物共の巣は跡形もなく消滅し、国土は解放され、国民の帰還を今か今かと待ち続けている。

精鋭部隊の名は第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』。カールスラント空軍のエースウィッチにして優秀な士官――ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐が指揮する多国籍ウィッチ部隊。

12名の所属メンバーは何れもエース級の航空歩兵。異形共の潜む巣を撃破し、敵に侵された領土の奪還という人類史上初の快挙を成し遂げた英雄達だ。

異形共の力を恐れる世界中の人々が、どれほど歓喜したことだろう。どれだけ勇気づけられたことだろう。

無論、少女もその1人なのだが、数年に渡る異形との激戦を経験した身としては、いつまでも手放しで喜んでいるわけにもいかない。問題は山積みなのだ。

異形の怪物の群れは国境を越え、自分達の勢力下にある土地へ敗走した。しかし、完全な勝利を手にしたわけではなかった。

敵は少女の祖国へ再度侵攻し、占領するだけの力を有している。“ブリタニアの戦い”で失った戦力も、異形共にとって大した損害ではないのかもしれない。

今この時も、未だ敵の占領下にある隣国内では異形の大群が蠢き、もう1度少女の国を襲おうと、虎視眈々と機会を狙っているのだろう。

先日、カールスラント方面から飛来した強力な飛行型の異形は、その為の斥候とも考えられた。

以前として侵略の脅威に晒されているわけだが、それでも多くの国民は、1日でも早い祖国への帰還を強く望んでいる。

少女は高貴な生まれであった。それ故、一刻も早く国を民が暮らせる状態にまで復興させることこそが、自分の義務と考えていた。だが、それは言うほど容易いものではない。

また、瘴気に蝕まれた国土は荒廃し、土地を耕し直すのはもちろん、川浚いもしなくてはならない。しかし、それは膨大な時間と労力、資金が不可欠だ。最悪の場合、そこまでしても必要なだけの収穫が得られないかもしれない。

それに加えて、解放されたばかりで当然食糧の備蓄も不足しており、他国から支援を受ける必要があるが、十分な支援が得られなければ多くの民が餓死しかねない。

異形との戦いにおいて。本来の国力ほどの貢献が出来ず、避難・亡命等で様々な国・組織に多大な借りがある少女の国の政府では、外交で優位に立つことも難しかった。

交渉に踏み切ったとして、足元を見られるのは想像に難くない。

また、避難する際に財産の殆んどを持ち出せなかったため、少なくない民が生活基盤を失って貧困に喘ぎ、奴隷労働や強制売春に身を落としていた。おそらく、帰国が叶ったとしも状況は大して変わらないだろう。

どうすれば愛する祖国――ガリアを、かつてのような豊かな国を取り戻せる。どうすれば全ての民を幸せに出来る。少女は大層心を痛めていた。

某帝政国家首相の養女から、自分の知らない。或いは知ろうともしなかった事実を聞かされた時は、ショックのあまり気を失いかけた。そうならずに済んだのは、持ち前の使命感と責任感で己を律したからだ。

だが、所詮はか弱い少女。突き付けられた現実――祖国復興の厳しさに心を打ちのめされている。

そのため、直後に持ちかけられた取り引きの内容が、彼女にはとても魅力的に思えたのだ。

高貴なる義務――“ノブレス・オブリージュ”を胸抱く少女は、密かに決意する。ガリアの為ならば、悪魔とだって取り引きしてやろうと……。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

数十分後、天城艦内通路――

 

「あっはははは!」

 

天城の艦内通路に、リベリオンウィッチの笑い声が響く。

胸を反らし、豪快に笑う少女の声に引かれて振り向いた乗員等は、まずその美しさに息を呑み、次に10代とは思えぬ発育の良さに残らず絶句する。

リベリオン陸軍の制服を以てしても隠し切れない特大サイズの胸。スカイブルーのズボンから伸びるはち切れんばかりの太腿。程好く肉が付いた尻。それらとは対象的にウエストはキュッと細く締まっている。

世の男共の理想を具現化したかのようなダイナマイトバディこそ、彼女が“グラマラス・シャーリー”と呼ばれる所以だ。

 

「それで文字通りペリーヌの雷が落ちたわけか!優人ぉ!お前も懲りないヤツだな!」

 

「優人ってば、ホントにえっちなんだからぁ~♪」

 

艦内浴場での一件を聞かされ、シャーロット・エルウィン・イェーガー大尉――通称“シャーリー”はなんとも楽しげに笑い、彼女の傍らにいるロマーニャ空軍ウィッチのフランチェスカ・ルッキーニ少尉が、リベリオンウィッチの尻馬に乗る。

 

「………………」

 

愉快そうな2人の数歩前を、扶桑海軍ウィザード――宮藤優人大尉が、居心地悪そうな表情で歩いている。何枚もの絆創膏が顔中に貼られ、焦げた髪の毛がプスプスを音を立てている。

ブリタニア空軍ウィッチの“リーネ”ことリネット・ビショップ軍曹が彼に付き添い、ガリア空軍ウィッチのペリーヌ・クロステルマン中尉が、不機嫌さを滲ませた面持ちで集団の先頭に立ち、歩を進めている。

浴場でひと悶着あった優人とペリーヌ。騒ぎを聞き付けて2人の元へ駆けつけたシャーリー、ルッキーニ、リーネの計5人は、仲間達のいるガンルームへ向かっていた。

 

「優人さん、大丈夫ですか?」

 

変わり果てた姿の扶桑海軍ウィザードを心配して、リーネが訊ねる。

浴室にて。ペリーヌの放った固有魔法『雷撃(トネール)』を諸に受けたためであるが、ネウロイすら粉砕し得る攻撃系の固有魔法を生身で喰らい、この程度済んだのは僥倖と言えよう。

 

「だ、大丈夫だよ……」

 

後輩に気を遣わせまいと、優人はリーネに笑顔を向けるが、それは明らかな作り笑いであった。

斜め後ろから見ていたシャーリーも、「無理しちゃって……」と肩を竦めている。

ガリアウィッチの一撃は、かなり効いたらしい。優人の身体のあちこちには、まだ痛みや痺れが残っていた。

医務室を借りて休もうかとも思った。少し前に、天城に乗艦している軍医と顔を合わせ、彼からも「寝台が空いてる」と勧められが、ガンルームで仲間を待たせているので、遠慮させてもらったのだ。

決して、扶桑海軍ウィザードに向けられた笑顔に嫉妬と殺意の色が滲んでいたからでも、軍医の懐から短刀が顔を覗かせていたからでもない……はずである。

 

「しっかしなぁ……」

 

と、ここでシャーリーが先頭を歩くペリーヌの背中に目を向ける。

 

「………………」

 

会話に加わらず、無言を貫いていた彼女だが、背後から聞こえる話し声に微妙な居心地の悪さを覚えながら、ガリア貴族令嬢は唇を尖らせていた。

 

「いくら裸見られて胸を触られたからって――」

 

「触られたのではありませんわ!お兄さ……宮藤大尉は掴んだのです!私の、左胸を!」

 

そう言いながら、風呂場での出来事が脳裏に蘇ったらしい。ペリーヌの顔が熱を帯び始める。無理もない。

優人の天才的――或いは病的なほどの女難癖。もといラッキースケベ体質については、ペリーヌも重々承知している。

風呂場で鉢合わせたことに関しても、『ウィッチ入浴中』の札を掛け忘れた自分にも非がある。と、頭では理解していた。

しかし、持ち前の気の強さとプライドの高さ故に、中々認められずにいる。さらに、素直になれない理由はもう一つある。

 

(確かにリーネさんやシャーリーさんと比べれば、私の胸はちょっとだけ……ちょ~っとだけ小ぶりですわよ!けど、だからと言って……言うに事欠いて淑女のような慎ましさがあるだなんて!わざわざそんな風に仰らずとも!)

 

数十分前、優人に告げられた自身の胸に対する素直過ぎる感想がペリーヌの中に反芻する。

それと同時に、浴室で目にした扶桑海軍ウィザードの肉体までもが、目蓋に浮かんできた。

ウブなガリア貴族令嬢は、自分が味わった羞恥と家族以外では初めて見た異性の裸と想起し、悶々としている。

 

「掴んだぁ?ペリーヌって、掴めるほどオッパイあったっけぇ~?」

 

と、シャーリーの隣を歩くルッキーニが怪訝そうな表情で疑問を口にする。

ペリーヌは即座に反応し、振り返るとまだ幼さが残るロマーニャウィッチに向って怒鳴った。

 

「なっ!?貴方はまたそんなことを!」

 

「だってペリーヌのオッパイって、天城の飛行甲板みたいにペタンコでしょ?掴めるわけないじゃん……」

 

「飛行甲板って!ほぼ真っ平らじゃありませんの!」

 

「にひひぃ~♪残念賞改め甲板胸って感じぃ?」

 

ペリーヌの反応が面白かったのか。ルッキーニは意地の悪い笑みを浮かべて煽り続ける。

 

「誰が甲板胸ですって!?私の胸はそこまで平べったくありませんわ!そもそも女性の価値は胸の大きさで決まるものではなくってよ!大きさだけでなく、肌の色に形の美しさも重よ……って、貴方は私に何を言わせますの!?」

 

と、ペリーヌは胸について熱く語り、大阪出身の扶桑人の如く見事な1人ボケツッコミまで披露する。

ルッキーニに茶化されたとはいえ、己がガリア貴族の令嬢であることや淑女としての振る舞いを忘れてしまったかのようなこれらの言動。ペリーヌが如何に動揺しているかが分かる。風呂場での一件は思った以上に堪えたらしい。

 

「む~、勝手に言ったクセにぃ……」

 

ヒステリックに喚き散らすペリーヌに対し、ルッキーニはムスッとした表情で応じる。

一方のルッキーニは、追い討ちとばかりに扶桑皇国の諺を元にした言い回しで報復した。

 

「ていうか。ペリーヌの言ってることって、単なる負け胸の遠吠えじゃないの?」

 

「なぁ!?貴方って人はぁ~っ!ああ言えば、こう言ってぇ~っ!」

 

「ペリーヌさん、落ち着いて!」

 

怒りのあまりワナワナと身を震わせるペリーヌを、リーネが宥めようと口を挟む。

しかし、ガリア貴族令嬢に鋭い目付きで睨まれ、リーネは「ひっ!」と萎縮してしまう。

 

「あ!そうだ!」

 

そう言って、ルッキーニがポンと手を叩く。何かを思い出したらしい。

 

「優人!ちょっと来て!」

 

ルッキーニは優人の手を取り、彼を何処かへ連れて行こうとする。

 

「ルッキーニ?どうしたの?」

 

「いいからいいから♪早く早くぅ~!」

 

「分かったから、そんなに引っぱるなよ」

 

「ちょっとルッキーニさん!まだ話は――」

 

「ペリーヌさん!」

 

「そうカッカすんなって……」

 

どうにも治まらないペリーヌをリーネとシャーリーが押し止めている隙に、ロマーニャ空軍ウィッチは扶桑海軍ウィザードを誘導する。

グイグイと引かれた手に若干の痛みを覚えながらも、優人はルッキーニに従い、彼女が連れて行かんとする場所まで付き合った。

 

「さ、入って入って♪」

 

案内されたのはルッキーニとシャーリーに割り当てられた船室だった。優人は手招きするルッキーニに促されるまま、扉を潜って入室する。

部屋に入った直後。男好きする甘い香りがして、扶桑海軍ウィザードの鼻腔を擽った。

それは一時的にこの船室の主となったリベリオンウィッチと、ロマーニャウィッチの肌や髪の香りが染み付いたものである。

甘ったるい匂いにクラクラしつつ、優人は室内に目を凝らす。

2つあるベッドの内、シャーリーが使っていると思しき右側のベッドと、無造作に置かれている衣類を視界に捉えた。

衣服の中に、カップサイズの大きいピンク色のブラを偶然見つけてしまい、優人は慌てて目を逸らす。

 

「ん~っと……何処にしまったかなぁ?」

 

もう片方のベッドでは、優人を部屋まで案内したロマーニャウィッチが、ごそごそと荷物の中を探っている。

ルッキーニのベッドも、下着を含む衣類が乱雑に散らばっていた。

自由奔放で細かいことに拘らないシャーリー、ルッキーニらしいと言えばそうだが、やはり見ていて気持ちいいものではない。バルクホルンが知ったら何と言うだろうか。

軍人としての自覚うんぬんと、カールスラントの堅物大尉のように説教垂れるつもりは毛頭無いが、せめて下着くらいはしまっておいてほしいものだ。

 

「あ!あったぁ~♪」

 

どうやら探し物が見つかったらしい。ロマーニャウィッチは制服の裾をヒラリと翻し、ウキウキした様子で優人の元へ小走りで戻ってくる。

自分よりずっと背の高い扶桑海軍ウィザードを上目遣いに見上げ、船室まで連れた理由を説明し始めた。

 

「あのね♪アタシから優人にプレゼントがあるの♪」

 

「プレゼントと?俺に?」

 

「うん!」

 

頷きながら、ルッキーニは満面の笑みを浮かべる。純真無垢なあどけない笑顔。口元から覗く八重歯がとても可愛いらしい。

 

「優人、アタシがミーナ中佐や坂本少佐に怒られた時によく助けてくれでしょ?扶桑海軍のカッチョイイ制服もくれたから、そのお礼♪」

 

と、ルッキーニは続ける。シャーリーが501へ派遣されてくる少し前まで、ルッキーニの世話は優人の担当だった。

5歳年下の妹――芳佳がいる彼ならば、小さい子どもの相手も慣れているだろう。

第501統合戦闘航空団司令のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐と、副司令兼戦闘隊長である坂本美緒少佐はそのように考え、優人をルッキーニの世話役に指名したのだった。

司令と副指司令の判断が功を奏し、配属当初から問題行動が目立っていたロマーニャウィッチも、多少大人しくなった……のだが、悪戯っ子な面には相変わらず手を焼かされていた。

ミーナに叱られ、坂本に怒鳴られている姿を基地のあちこちで見かけては、優人が庇ってやったものだ。

或いは無邪気で甘え上手なルッキーニに、幼き日の妹の姿を重ねていたのかもしれない。

やがて、優人はデスクワークに忙殺されるミーナの手伝いでルッキーニと過ごす機会が徐々に減っていき、彼女に次いで基地へ配属となったシャーリーが、代わりに面倒を見るようになった。

 

「そんなこと。別にいいのに……」

 

「ううん、どうしてもお礼がしたかったの!アタシ、一人っ子だから……優人といると、お兄ちゃんができたみたいで嬉しかったんだよ!」

 

そう言いながら、ルッキーニは笑顔を輝かせる。多少照れ臭さを感じているらしく、柔らかな頬には紅が灯っていた。

 

「ルッキーニは妹みたいなものだよ?お転婆で、少しだけ手がかかるけど……だからこそ可愛いんだ♪」

 

と、優人。彼に限らず、501のメンバー――先程からかわれていたペリーヌを含め――は、天真爛漫なロマーニャウィッチのことを妹のように思い、可愛いがっている。

そういえば、以前ルッキーニは優人のことを「パ~パみたい」とも言っていた。ルッキーニからすれば、兄も父親も大差ないのかもしれない。

 

「にひひ~♪そうでしょそうでしょ~!」

 

ルッキーニは「えっへん」と無い胸を張って、得意気に応じる。

ロマーニャウィッチの自信満々な態度に、優人は苦笑しつつも微笑ましく思う。彼女は本当に人懐っこく、甘え上手だ。

 

「だからね!好きで好きで大好きなお兄ちゃんの優人に、アタシの宝物をあげるね♪」

 

「お?ルッキーニの宝物だって?何だろうなぁ、ワクワクするよ!」

 

可愛い妹分の心が込もったプレゼントなら、どんな物でも嬉しい。

その一方で、ロマーニャウィッチが口にした宝物というワードが、優人の興味を引いている。

贈る主のルッキーニが好むであろう期待するような素振りを見せつつ、プレゼントが彼女から手渡されるのを待った。

 

「ジャジャ~ン!」

 

快活な掛け声と共に、ルッキーニは身体の後ろに隠していたプレゼントを優人へ向かって差し出す。

出てきたのは、赤いリボンで飾られた少々大きめの瓶だった。

目を凝らして見て見ると、中には複数の黒い物体が蠢いているのが分かる。

 

「スゴいでしょう!基地の中庭や林とかで見つけたアタシの宝物だよ?いっぱい捕まえたから、優人にも分けてあげる♪」

 

「……………………」

 

「……………優人?」

 

「……………………」

 

「優人ぉ、どったの?」

 

「……………………」

 

「ねぇ~、優人ってばぁ~?」

 

「………………ぎ……」

 

「ぎ?……」

 

「ぎぃいいいいいいいいやぁああああああああ~っ!」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

悲鳴を聞きつけたシャーリー、リーネ、ペリーヌの3人が目にしたのは、通路の床に尻餅を着き、手足をバタつかせ、何かから必死に逃れようとする扶桑海軍ウィザードの姿だった。

 

「な、何だぁ?」

 

恐れ戦く優人の姿を目にし、シャーリーは当惑を覚えた。リーネやペリーヌも、信じられないといった表情で目を瞬かせている。

海軍へ志願して以来、幾度も死地に立ち、ネウロイと戦い続けてきた歴戦の猛者。そして、ネウロイの支配からガリアを開放した12名の英雄の1人だ。

ストライクウィッチーズで唯一のウィザード――男ということもあって、部隊でも特に頼りにされている優人が、聞いたこともないような情けない叫び声を上げ、仲間に醜態を晒す。こんなことは初めてだった。

 

「優人ってば、どうしたの?」

 

と、少し遅れてルッキーニが通路に姿を見せる。優人がこうなったのは、どうやら彼女が原因らしい。

尤も、扶桑海軍ウィザードの身に何が起きたのか。ルッキーニも分かっていないようだった。

脅える優人をじっと見つめながら、不思議そうに首を傾げている。

 

(あれ?ルッキーニちゃん、何か持ってる?)

 

ロマーニャウィッチが大事そうに抱えている瓶の存在に気が付いたのは、リーネだった。

観察能力に優れたウィッチである彼女は、優人がその瓶――更に言えばその中身――に恐怖しているのだ、といち早く理解する。

 

(瓶に入ってるのって……まさか、虫!?)

 

遠目で虫のシルエットを見咎めたリーネの背筋に、ゾクリと悪寒が走る。女の子にとって、虫は天敵なのだ。

 

「虫……ですわよね?」

 

と、ペリーヌが目を細める。彼女とシャーリーも、虫の存分に気付いたらしい。

 

「いやだ!やめろぉ!そんなもの近付けるな!」

 

扶桑海軍ウィザードにとって、虫は天敵どころではないようだ。

恐怖で見開かれた瞳からは涙が滝のように流れ、通路内に絶え間無く絶叫を響かせる。

ガリア解放の英雄が見る影もない。こんな惨めな姿を愛する妹が見たら、どう思うだろうか。

 

「何でぇ?ツヤツヤで、ピカピカで、カッチョイイのにぃ……」

 

虫に脅えて泣き喚く優人を目の当たりにしても、ルッキーニは特に驚いた様子もない。

自分のプレゼント――お気に入りの虫達を気に入ってもらえなかったことへの不満を口にし、不機嫌そうに膨れている。

 

「ああ、やっぱりか……」

 

「女難癖や罪作りなところだけでなく、虫嫌いも相変わらずなのね」

 

不意に何処か素っ気なく冷ややかな声と、それに続いて溜め息混じりの穏やか声がする。

振り返ると、2人の扶桑海軍ウィッチ――竹井醇子大尉と若本徹子中尉が、リーネ達のすぐ後ろに並んで立っていた。

純白の扶桑皇国海軍第二種軍装を身に纏う彼女等は、優人や坂本とは同期入隊の間柄であり、2人に負けず劣らずの大エースである。

 

「優人って、虫嫌いなのか?」

 

優人との付き合いが、自分達501の仲間よりずっと長いであろう2人にシャーリーが訊ねる。

 

「嫌いなんて平和なものじゃないわ」

 

と、竹井が苦笑気味に応じる。そして、シャーリー達に仔細を話始めた。

彼女曰く、優人の虫嫌いは常軌を逸しているらしい。虫を見かけて悲鳴を上げる。気絶する程度ならば、まだ良い方だという。

例えば、ウィザードとして扶桑海軍航空隊へ志願し、直後に勃発した扶桑海事変に参加していた新人時代のこと。

ウラル方面の扶桑軍前線基地格納庫にて、運悪く“G”と鉢合わせてしまった優人は完全に正気を失い、その場で機関銃を乱射し、何人もの整備兵があの世に行きかけた。

本大戦初期――リバウ滞在時には、蜘蛛や蜘蛛の巣と遭遇するなりカールスラント陸軍――ビフレスト作戦の過程で、本国から撤退してきた部隊――から無断で持ち出した火炎放射器で、巣が造られた建物諸共焼き付くそうとしたこともあった。

この時、燃やしかけた建物は弾薬庫だったのだが、恐怖のあまり我を忘れていた優人には、それを考える余裕など無かった。ボヤ騒ぎで済んだのは、不幸中の幸いと言える。

 

「まさか優人さんが……」

 

「意外でしたわ……」

 

リーネとペリーヌが口々に言う。彼女達は優人の弱点が虫だと聞いて驚いている様子だが、シャーリーだけはなにやら得心がいったようにポンと手を叩く。

 

「なるほど。地上ネウロイとの戦いで、少し様子がおかしかったのはそのせいか?」

 

リベリオンウィッチの問いに、竹井は肩を竦めてみせた。

 

「本物の虫ほどじゃないみたいだけれど、蜘蛛に似た容貌の個体が多い地上ネウロイも苦手みたいね。優人、そのせいで対地攻撃は少し不得手なのよ」

 

「ったく、虫ぐらいなんだ。情けないやつだな」

 

若本が鼻を鳴らし、悪態を吐く。自分が言われたわけでもないのに、リーネは身を縮こまらせる。

おっとり大人しい性格の彼女は、若本のみたいに気が強く、ズバズバと物を言うタイプの人間に苦手意識を抱き易い。

高飛車でプライドの高い――心根はとても優しいのだが――ペリーヌとの仲も、芳佳が現れるまでは頗る悪かった。

そんなリーネの心中を察したのか。ブリタニアウィッチの傍まで歩み寄った竹井は、彼女の肩にそっと手を置く。

世界的エース――“リバウの貴婦人”の優しい微笑みに対し、リーネもまた笑顔を返した。

 

「…………静かになりましたわ」

 

と、ペリーヌが呟いた。通路内に喧しく響いていた悲鳴がいつの間にか止んでいる。

5人のウィッチが揃って目をやると、声の主である優人は白目を剥いたまま硬直していた。どうやら恐怖のあまり気絶してしまったようだ。

幼いロマーニャウィッチが声を掛けながら、扶桑海軍ウィザードの身体をユサユサ揺すっている。

 

「力尽きたか?」

 

「そのようね……」

 

2人の扶桑海軍ウィッチは短く言葉を交わしつつ、呆れ混じりの溜め息を吐く。

斯くして。本日中に予定されていた第501統合戦闘航空団の解散式は、数時間延期となったのであった。




ペリーヌとルッキーニの口調が再現出来なくなってる気がしてならない……(´・ω・`)


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