プロローグ~親衛隊大佐~
とある海洋国家が太平洋方面へ進出した際に発見・到達したその島は、島と呼ぶには大きい。ちょっとした大陸程の面積を持っている。
動植物や地下資源が豊富にありながら、ほぼ無人という非常に好条件の揃った土地で。海洋国家は、この島を海洋進出の策源地として入植・開発を積極的に行い、自国の発展や領土拡大の足掛かりとなった。
時が経ち。海洋国家の言語で“南洋島”と名付けられた島は、本土の発展に伴い開発が加速し、人口も増加。中央部には“新京”という名の都市が築かれ、住民はここを南洋島の首都とした。
◇ ◇ ◇
その“家族”は、新京から遠く離れた山奥に存在する小規模な集落で暮らしていた。
総人口は100にも満たないだろう。木々が鬱蒼と生い茂る森林地帯を抜けなくてはならない場所にあるため、他所から人が訪ねて来ることは殆んどない。新聞や郵便の配達員くらいだ。
外部との交流もろくになく、所謂“陸の孤島”状態。都市として栄えている新京とは対照的な寂れた集落である。
住民達は日々農業に勤しみ、自給自足生活の中で助け合って生きていた。先述の“家族”を除いては。
魔法力と呼ばれる不思議な力を身に宿した存在――ウィッチであるとされている、集落生まれの女性。彼女を妻に迎えた余所者の夫。女性の力を受け継ぎ、発現の兆候を見せ始めている双子の兄妹。
集落における彼等の生活は、決して平穏なものではなかった。閉鎖的な環境下で暮らしているせいか。住民達は自分達とは違う存在を忌み嫌い、またひどく恐れてもいた。
不可思議な力を宿した母子と、余所者の父親。この家族が集落の人々に害を成したわけではない。ただ異質だという理由で一家は迫害を受け、父親はその最中でなくなった。愛する妻と、まだ幼い我が子を残して。
程無くして、母親は双子を連れて集落を去った。夫の死を哀しむ暇はない。これからは女手一つで子どもを育てていかなければならないのだ。
子ども達はなんとしても自分が守ると、母親は強く決心する。
周りと違うということ異質だということは、それだけで攻撃の対象になるのだ、と思い知らされた彼女は、夫が残してくれた金で本土へ渡った。
自分達の素性を知る者がいない遠方の土地へと移り住み、家族3人で新たな生活を始める為に。
◇ ◇ ◇
「何なの、あなた達は!?」
家に押し入ってきた男共に向かって、母親が叫ぶ。軍服を着た青年達が薄笑いを浮かべ、彼女を取り囲んでいる。
明らかに友好的ではない。ギラついた視線向けてくる男達を前に、母親の顔は恐怖に歪んでいた。
彼女が咄嗟の判断で押し入れに隠した双子は、その光景を戸の隙間からじっと見つめている。
「おいおい……コイツ、化物のクセに人の言葉をしゃべりやがるぜ?」
「化物?私はウィッチで――」
「うるせぇよ!」
化物呼ばわりしてきた男とは別の男が母親を殴り飛ばす。力任せに顔を殴られた母親は、短い悲鳴と共に倒れ込んだ。
男は透かさず覆い被り、そのまま母親に暴力の限りを尽くす。
自分達の母親が無茶苦茶にされる様子を、双子は声を押し殺して眺めているしかなかった。幸か不幸か。男達が壁になっていたために、双子は大好き母が惨たらしく嬲られる光景を直接目にすることはなかった。
だが、喉が裂けんばかりに泣き叫ぶ母親の声と、愉悦と嗜虐に満ちた男の嘲笑は、双子の心を蝕んでいった。
◇ ◇ ◇
1944年末、ブリタニア――
(また、あの日の夢……)
薄暗い室内のキングベッドの上で、悠貴・フォン・アインツベルン親衛隊大佐は、朝を迎えていた。最悪の目覚めだ。
悠貴はベッドから起き上がると、窓辺と向かう。勢い良くカーテンを開けると、眩い陽光が部屋へ射し込み、思わず目を細める。
あの忌々しい出来事から十数年が経ち。19歳となった悠貴は、目麗しい容姿を持つ者が多いウィッチの中でも取り分け美しい女性に成長していた。
帝政カールスラント皇室親衛隊の制服を着込んでいても、起伏が分かるほどスタイルが良い。
本人も自らの魅力に理解しており、己の美貌と処世術を駆使して、人類連合軍や各国政財界に幾つものパイプを作っている。
漸く光に慣れてきた双眸を窓外へ向けると、世界有数の大都市――ブリタニアの首都“ロンドン”の景色が眼前に広がっていた。
彼女は今、ブリタニアでも有数の高級ホテル最上階のスイートルームに宿泊している。自身の支援者であるブリタニアの実業家が、長期題材用にと用意してくれたものだ。
足首まで沈むほど深く柔らかい絨毯。清涼感のある香水の薫り。室内のあちこちに置かれた調度品は、どれも一流のもので、部屋自体も広々としていて内装も豪奢。スイートルームに違わぬ居心地のいい空間が造り出されている。
しかし、当の悠貴は超一流のホテルや調度品に対し、欠片ほどの興味も抱いていない。
彼女が望むのはただ1つ。この世に残った唯一の肉親である兄だけだった。
今すぐ兄に会いたい。抱き締め合って互いを感じたい、心の内に秘めた愛を囁きたい。
「待ってて、お兄ちゃん……」
悠貴はそう独り言ちると、シャワーを浴びにバスルームへ歩いていった。
書いといてなんですが、ワールドウィッチーズっぽくないですね(^_^;)
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