ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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8ヶ月ぶりの更新になります。

大変長らくお待たせしましたm(_ _)m




さて、原作の設定に年相応にか弱い乙女であるウィッチが軍内で理不尽な目に遭わないよう初期階級を軍曹に定めているそうですが、個人的には水面下で一般兵から嫌がらせやイジメを受けているウィッチもいると考えています。


第6話「教官の苦悩、扶桑海軍の闇」

1945年1月某日、東太平洋洋上――

 

航空母艦“加賀”の艦内格納庫には、航空練習艦隊で航空歩兵部隊の教導を担当する教官等及び訓練生たるウィッチ候補生達が使用するストライカーユニットと、それらの機体や武装を収納した発進ユニットが幾つも格納されている。

それらの殆んどが、既に一線を退いた零式艦上戦闘脚のニ一型であった。

零式艦上戦闘脚は、かの有名な技術者――宮藤一郎が設計・開発した宮菱重工業製のストライカーユニットで、本大戦中期まで扶桑皇国海軍の主力を担った名機である。

より高性能なストライカーユニットの登場によって、旧式・二線級化した本機だが、魔法力の弱いウィッチでも扱える手軽さに加え、身体への負担が少ないため長時間の活動が可能なことや、軽快な運動性等の特徴から後方部隊や連絡機、訓練機へ転用されるようになっていた。

佐世保航空予備学校等で使用されている零式練習用戦闘脚一一型は、初期に製造され、旧式の魔導エンジンを搭載していた零式艦上戦闘脚ニ一型をベースに、構造の一部を簡略化されたものだ。

新造された機体も多いが、ニ一型を改造したユニットも少なくない。

航空艦練習艦隊のように、ニ一型をそのまま使用する訓練部隊も多く存在する。

 

「これが例の新型ユニットか?」

 

発進ユニットに固定された、零式とは異なる新たなストライカーユニットを見て、優人が呟く。

独り言とも質問とも取れる発言に、彼の機体を担当する機付長が応じる。

 

「ええ、正確には紫電改の改良型。魔導エンジンを誉ニ一型から宮菱重工業製のマ43−11型へ変更した紫電五三型です」

 

そう説明し、機付長は詳細が書かれているであろう書類を手渡す。

優人はさっさく受け取った書類に目を通した。なるほど。マ43は誉よりも大型で重量もある一方で、その分構造に余裕があり、エンジン出力も1.2倍高く、生産性にも優れている。

 

「量産試作品故、多くの不具合が懸念される。それで遠洋航海中にテストしろと?」

 

何処か不満げな扶桑海軍ウィザードに、かつて航空ウィッチを志した機付長は言葉で肯定せず、代わりに肩を竦めた。

航空練習艦隊における優人の役目は本遠洋航海に参加しているウィッチ候補生達の教導のはずだが、魔導エンジンを新型に換装した五三型の稼働試験も兼ねているらしい。

しかし、後輩――次世代の航空歩兵の教育と新型ストライカーの飛行試験は、どちらも片手間で出来るほど簡単なものではない。

況してや、スペックに不明瞭な点が残る試作型の魔導エンジンを搭載したユニットなら尚更だ。

それに、マ43は宮菱重工業で開発された魔導エンジンで、優人の父親の宮藤一郎も開発に携わっている。

ブリタニアで愛息と愛娘に再会した一郎は、直後に新型魔導エンジンを試作し、優人やリベリオン陸軍のシャーロット・エルウィン・イェーガー大尉のストライカーユニットに搭載・試験的に運用された……のだが、3機の試作魔導エンジン全てに存在していた致命的な欠陥により事故を連発。優人もイェーガー大尉も危うくあの世に行きかけた。

一郎を父親としても、技術者として尊敬している優人だが、先述の悪夢のような体験が災いし、一郎が開発に携わったもの全てに不審感を抱いてしまう。

また父が自らのマッドサイエンティストな面を拗らせ、また信頼性の“し”の字も無い魔導エンジンを造り上げたのではないか。そう勘繰り、警戒してしまうのも無理はない。

 

「五三型と合わせて、3機分の飛行試験をしろとのことです」

 

そう付け加え、機付長は更に機体のスペックが詳細に記された書類を追加で渡す。

紫電五三型と同様に、マ43系統の魔導エンジンを搭載した宮藤重工業製と筑紫飛行機製の新型機体だ。

 

「この“烈風”とかいうユニット、謂わば零式の後継機か。坂本が知ったら喜びそうだ」

 

「ならば“烈風”のテストだけでも坂本少佐が――」

 

「残念だが、それは無理だな」

 

と、機付長の提案を遮り、優人は断言する。数瞬置いた後、機付長はハッと気付く。

 

「そうでしたね。坂本少佐は、もう魔法力が……」

 

決まり悪そうに目を伏せる機付長に対し、優人は「いや」と首を横に振った。

 

「それ以前の問題だよ」

 

「え?」

 

「アイツは世界的エースで、優秀な現場指揮官で、凄腕の教官ではあるんだけど。性格的にテストパイロットには不向きなんだ」

 

優人と同じく501航空団へ派遣されていた坂本美緒少佐は、かつて零式艦上戦闘脚の試作機――十二試艦上戦闘脚のテストパイロットを務め、開発に大きく貢献している。

だが、高い運動性能を誇る零式に対する思い入れが強過ぎる坂本――彼女に限らったことではない――は、零式の正当後継機の開発を強く望み、紫電改系統をはじめとする宮菱重工業以外のストライカーユニットを敬遠していた。

ウィッチとしての実力と前線指揮能力は申し分ない彼女だが、多分に宮菱重工業贔屓な所があるため、テストパイロットには向いていないと言わざるを得ない。

一方で、優人は父親が宮菱重工業に勤務しているものの、宮菱重工業製の機体や零式系統の機体に拘ることは殆んどないので、坂本と比べればテストパイロット向きと言える。

また、航空歩兵や機体への負担・消耗が大きい格闘戦よりも、堅実且つデメリットの少ない一撃離脱戦法を重視している点から見ても、優人の方がまだ客観的な視点からストライカーの性能を吟味して、より有意義な試験結果を上層部へ報告出来るはずだ。

しかしながら、紫電系統の機体の生産・配備が順調に進み、現場からの評価も高い現状を鑑みれば、烈風・震電系統のストライカーは採用されたとしても少数配備に留まり、海軍航空隊の主力ストライカーユニットは変わらず紫電系列が務めることだろう。

要するに、今回のテストは所謂出来レースなのだ。だから教導任務のついでのように扱われている。

一郎がもっと早く扶桑に帰還し、“烈風”の設計や魔導エンジンの開発に関わっていれば違ったかもしれないが……。

 

「まぁ、とにかく午後にはテスト飛行始めたいから」

 

「分かりました。それまでに機体を整備しておきます」

 

「頼むよ」

 

それだけ言うと、優人は踵を返して甲板へと向かう。機付長は挙手敬礼で、その後ろ姿を見送った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

横須賀を出港して数日が過ぎた昼下がり。今日も今日とて、鬼教官こと若本徹子中尉教導の下、訓練が実施されている。

彼女の教練プログラムは、拷問染みた体力作りに始まり。飛行甲板からのストライカーユニットの発着艦訓練、洋上飛行訓練を経て。現在は空中模擬格闘戦に移行していた。

さすがに各ウィッチ養成学校の優等生だけあって、遠洋航海に志願した候補生達は、殆んどが優秀な成績を叩き出している。

陸の訓練とは勝手が違う洋上訓練に戸惑いこそすれど、比較的早く順応していた。

空母からの発着艦に関しては、ストライカーユニットの滑走距離の短さが幸いしたようだ。もし艦上戦闘機や艦上攻撃機だったらこうはいかなかっただろう。

 

「ほらほら、どうしたぁ!それでもウィッチのつもりかぁ!」

 

空中模擬格闘戦の仮想敵機役の若本。零式艦上戦闘脚ニ一型を操り、洋上を縦横無尽に駆け回る。

時折、後方を飛ぶ候補生のロッテを振り返り、ご丁寧にも辛辣な物言いで煽り散らしていた。

 

「くっ……!」

 

ロッテの長機を務めるウィッチ候補生――三隅美也が苦悶の声を漏らす。相方の2番機共々、若本と同じ零式艦上戦闘脚ニ一型を両脚に装備している。

九九式二号二型改13mm機関銃に酷似した外見の模擬銃を携え、旧型の魔導エンジンを唸らせながら、仮想敵機役の若本に肉薄せんと迫る。しかし、距離は中々縮まらない。寧ろ引き離されているように思えた。

模擬銃から放たれるペイント弾も、殆んどが若本に容易く躱され、次々と蒼穹へ消えて行く。

 

(何で?同じストライカーを使ってるのに、何でよ!?)

 

三隅は歯噛みする。彼女は悔しくて堪らなかった。自分は必死で追い縋っているのに、若本の方はまだまだ本気じゃないと言った感じで、訓練というよりは遊覧飛行でもしているかのような余裕を見せている。

終いには、飛行したまま模擬銃の点検すら行う始末。三隅は怒りを覚え、自分達の番を待ちつつ“加賀”の甲板から模擬戦を見学していた他のウィッチ候補生等を唖然とさせた。

 

(いくら扶桑海軍を代表するウィッチだからって……!)

 

若本的には、自分への対抗心や敵愾心を煽る――要は憎まれ役をやる――ことで、教え子達の力を引き出そうとする目論見があるのだが、教官の意図など三隅には知る由もない。

また、推し量るほどの冷静さも無い。完全に若本から見下されていると思い込んでいる。

 

(こんな!こんなはずじゃ!)

 

佐世保航空予備学校にて、学年主席という好成績を誇る三隅。座学・実技共に秀でた優等生である彼女は、己の実力に絶対の自信と確固たるプライドを持っていた。

ブリタニア空軍のリネット・ビショップ軍曹は、ウィッチ養成学校を卒業後すぐにかの有名な第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』へ配属となり、各国のエースに劣らぬ戦果を上げている。

ならば自分とて、統合戦闘航空団隊員と同等の働きが出来るはず。エース級のウィッチ・ウィザードにも引けを取らない活躍が出来るはずだ。

三隅は、そう信じて疑わなかった。しかし、彼女と若本の埋めようの無い実力差を見れば分かる通り、現実は非常に厳しく残酷であった。

如何に学校の成績が良かろうが、それが実際の現場や実戦で通用するかどうかは、別の話。自らが『井の中の蛙』でしかなかった現実に打ちのめされ、彼女のプライドはズタズタになっている。

 

(一発!一発当てさえすれば!)

 

模擬戦の勝利条件はペイント弾を当てること。即ち、一発でも当たれば、三隅達の勝ちだ。

相手が自分達を舐めて掛かっている今がチャンスと言わんばかり魔導エンジンの回転数を上げ、若本目掛けて加速していく。

 

「はぁ……はぁ……」

 

鬼教官の鼻を明かしてやろうと躍起になっている三隅。その2番機を務めるウィッチ候補生――吉沢は、遠ざかっていく長機の背中を懸命に追かけていた。

彼女は佐世保航空予備学校とは別のウィッチ養成校の生徒で、遠洋航海参加者の例に漏れず将来有望なウィッチ候補生だ。

とはいえ、三隅の無茶な挙動に付き合うのはさすがに無理があ

ったらしい。

体力と魔法力を消耗した彼女は息絶え絶えで顔色も悪く、ストライカーの操縦もフラフラと覚束無いものであった。

 

「吉沢さん、下!」

 

「えっ?……きゃああっ!?」

 

自分に呼び掛ける三隅の叫び声に耳朶を打たれ、疲弊気味な吉沢は鈍く反応する。直後、下方から飛来した火線――もちろん、実弾ではなくペイント弾だ――に晒され、彼女は堪らず悲鳴を上げる。

魔法シールドで防御することも忘れ、ペイント弾が多数命中。吉沢の制服や零式ストライカーが、鮮やかなオレンジ色に染め上げられてしまう。

 

「みっともない声を出すな!それでも扶桑の撫子か!?」

 

ペイント弾に次いで飛んで来る叱責。吉沢が連られて視線を走らせると、いつの間にか足下に若本が回り込んでいた。

 

「……はい」

 

表情を一層険しくした鬼教官に凄まれ、萎縮する吉沢。消耗していたこともあり、弱々しく返すのがやっとのようだ。

撃墜判定を受けたウィッチ候補生は、ペイント弾で汚されたストライカーユニットを引き摺るように加賀の飛行甲板へ降りていく。

遠洋航海に志願した候補生は日々、模擬戦の度に優人と若本のロッテに完膚無きまでに叩きのめされている。仮想敵機役が若本1人でも、それは変わらなかった。

自分達に何が足りないというのか。技量、経験、魔法力、生まれ持った才能。漠然とした解答が色々と思い浮かぶも、それだけでは片付けられない“何か”を感じる。

もしその何かさえ分かれば、自分達も若本中尉や宮藤大尉のような世界的エースになれるのだろうか。そもそも、その“何か”を理解出来る日が来るのだろうか。彼女等は一様に苦悩するのだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同日夕刻、“加賀”艦内・士官用居室――

 

「ふぅ~……」

 

入浴を終え、艦内浴場から居室に戻って来た優人は、1日の疲れに促されるようにしてベッドへ身を投げた。

簡易的な2段ベッドの1段目で大の字に寝転がり、上の寝床へ何気無しに視線を向ける。

新型ストライカーユニットの性能評価を目的としたテスト飛行に、自身の後輩であるウィッチ候補生達の教導。そして、それらすべての報告書の作成、航空練習艦隊に配属されてからの日々は多忙を極めた。

性能評価試験や書類仕事はともかく、候補生等の教育指導は航空歩兵としての生活に慣れすぎているベテランにとってはかなりの難題だ。

ただ単に知識や技術を伝授すれば良いというものではない。教え子達の苦悩・挫折を理解する為に初心を思い出し、その上で彼女等に寄り添わなくてはならない。

実戦レベルまで鍛えあげる自信はあるのだが、精子面――心を育てることは明確な答えが存在しないのもあって非常に難しい。優人には、欧州の最前線でネウロイを相手にしている方がずっと楽に思えた。

必要以上に肩入れし、甘やかしてしまう優人。言葉足らずで厳格さが悪目立ちしている若本。教育方針や教え子への接し方が真逆且つ極端な2人に、これから海軍航空隊次世代を担うウィッチの教導が務まるのだろうか。

同輩の坂本美緒少佐や竹井醇子大尉が如何に優秀であるかを、扶桑海軍ウィザードは再認識する。

 

「よぉ」

 

ふとドアが開かれ、1人のウィッチが顔を覗かせる。若本だ。彼女も風呂上がりらしい。優人とお揃いの寝間着用甚平――優人と違い、下は女性用の白ズボンだが――を着ている。

 

「ノックくらいしろよ」

 

優人は首を持ち上げると、気怠げに若本を咎める。だが、当の若本は意にも介していない様子だ。

 

「暇だろ?1杯付き合えよ」

 

ニッと歯を見せて同輩に笑い掛けると、徳利と2人分のお猪口を掲げてみせる。

 

「酒か……」

 

魅力的な誘いに応じるかのように、扶桑海軍ウィザードは身を起こす。

若本は満足そうに喉を鳴らすと、優人にお猪口を手渡して酌をしてやる。

 

「お前とこうして飲むのも久しぶりだな」

 

と、嬉しそうな声音で呟き、若本は優人の隣に腰を下ろす。次いで自分のお猪口にも酒を注ぐと、勢い良く呷った。

 

「ぷはぁ~っ!やっぱり風呂上がりの1杯は堪らないなぁ!」

 

酒が入ってすっかり気を良くした若本に倣い、優人も酒を口に含む。

上等な酒の味と喉越しを楽しみつつ、扶桑海軍ウィザードはすぐ隣に座るウィッチを横目でチラチラと見ていた。

若本に自覚はないだろうが、今の彼女は普段とはまるで印象が異なっていて色っぽい。

酒で濡れた唇は艶が増し、湯上がりの肌は紅に上気している。見せつけるかのようにスラリとした脚を組み、大きく開かれた甚平の胸元からは豊かな乳房と深い谷間が覗いている。

寝間着を大胆に着崩した同輩の艷姿。扶桑海軍ウィザードは酒を飲むのも忘れて数瞬の間釘付けになるも、直ぐ様(いかんいかん)と頭を振って己の中から煩悩を追い払った。

優人も優人だが、若本も若本だろう。いくら優人が同期生で海軍入隊以来の長い付き合いとはいえ、こんな目のやり場に困る格好で男の部屋を訪れる等。些か無防備過ぎやしないだろうか。

坂本以上にざっくばらんで、あまり細かいことを気にしない性分なのか。或いは優人を異性として意識していないのか。

 

「ヒック!……そういりゃ、新型ストライカーはどうだったんだらぁ?」

 

久々の酒盛りは意外と話が進んだ。酒の肴に雑談を交わす中、若本が不意に問い掛けてきた。

既に彼女はデキ上がっているらしく、呂律が回らなくなっている。坂本然り、501部隊の仲間達然り。ウィッチが酒に弱いのは万国共通らしい。

 

「まぁまぁだよ、新型の魔導エンジンを採用したのが良かったな」

 

当たり障りの無いながらも具体性の薄い解答。それに対し、若本は細めた両目を向ける。

 

「………………………………」

 

「な、なんだよ?」

 

ジト目で凝視してくる同輩に、優人はたじろぐ。まさかと思うが、先程の邪な思考に勘付いたのだろうか。

 

「…………この部屋、なんだか暑くないきゃあ?」

 

「は?いや、別に。ていうか、それは酒のせ……ええええええええええぇ~っ!?」

 

突然、叫び声を上げる優人。それもそのはず、若本が彼の前にも関わらず寝間着を脱ぎ出していたのだ。しかも上から……。

 

「うるせぇ、デカい声出すなにゃよ……」

 

「お前、何してんだよ!?」

 

「あ?にゃにって、暑いから裸に――」

 

「俺の前で脱ぐことないだろう!」

 

悪酔いからの脱ぎ魔となった同輩。優人は狼狽えながらも、彼女に怒鳴す。

 

「何だよぉ……ガキの頃、風呂場で散々見ただろう?」

 

「そんな昔のはな――」

 

不意に強い力が身体にのし掛かり、優人はベッドに仰向けに倒される。

 

「――っ!?」

 

「恥ずかしがるなよぉ、お前と俺の仲じゃんきゃあ~……」

 

優人は若本に押し倒されていた。彼女は焦点の合わない双眸を扶桑海軍ウィザードへ向け、ペロリッと舐めずりしてみせた。

上半身は以前として裸のまま、晒しすら巻かれていないふた房のたわわな果実がタユンッと揺れている。

 

「ほりゃあ、見せ合いっこしりょうじゅえ?」

 

かような発言と共に、痴女と化した若本は優人の甚平に手を掛け、瞬く間に脱がせてしまった。

 

「バ、バカっ!やめっ……んぶっ!?」

 

「俺のはどうでゅあ?美緒とどっちがデカい?んん?」

 

「んっ!んんっ!んんんんんっ!」

 

顔面に押し付けられた豊かな果実に口と鼻を塞がれた優人は、ジタバタと藻掻いて抵抗を試みる。

 

「ほりゃほりゃ、暴れるにゃよ♪言ったりょ?遠洋航海中に溜まったら“手伝う”くらいはしやりゅって♪」

 

(コイツ、冗談で言ってたんじゃ!?……って、そうじゃない!)

 

尚も抗い続ける優人。このままでは男として大切なものを失って……いや、奪われてしまう。扶桑海軍ウィザードはかなり必死だった。

 

「やめろ~っ!」

 

渾身の力を振り絞り、優人は漸く若本を押し返した。その拍子に若本は勢い良く床へと投げ出される。

 

「はぁ……はぁ……徹子?」

 

身体を強く打ってしまったのか、動かなくなった若本。優人はすぐさま彼女に駆け寄った。

 

「おい!おいっ!徹子っ!しっかりしろっ!」

 

大声で呼び掛ける優人。何の反応も返ってこなかったため、扶桑海軍ウィザードは青ざめた。が、それは取り越し苦労で終わる。

 

「ん~……すぅ~っ……すぅ~っ……」

 

「…………寝てる?」

 

どうやら酔い潰れて寝入ってしまったようだ。酒癖の悪さはといい、本当に人騒がせなウィッチだ。

 

「まったく……」

 

優人は嘆息すると、熟睡している海軍ウィッチの寝間着を直し始める。

 

「言い忘れてたけど、候補生達に厳しすぎるんじゃないか?アレじゃイビり倒してるのと変わらないぞ?」

 

とは言ってみたものの、眠っている若本には聞こえない。扶桑海軍ウィザードは、無意味なことをしている自らを秘かに自嘲した。

 

「お前は……優しく、してやれ……」

 

「え?」

 

「嫌われるのは、俺だけで……十分、だ……」

 

「徹子……」

 

「すぅ~……」

 

「……………………」

 

憎まれ役を買って出た若本の発言。それは寝言だったのか。それとも……。

 

(そういや、坂本も敢えて憎まれ役をやってたな……)

 

――ガタッ!

 

「っ!?」

 

物思いに耽る優人を現実に返したのは、居室外の艦内通路から響いた物音だった。

つられて通路へと続く扉に目を向けると、走り去っていく足音が優人の耳朶を打つ。見られたのだ。誰かに見られた。確実に見られた。

 

「………………」

 

寝間着を肌蹴けさせ、殆ど全裸状態の扶桑海軍ウィザードが、同じく寝間着を着崩した扶桑海軍ウィッチに覆い被さり、そして傍らには酒の入った徳利とお猪口。

こんな場面に出くわした側からすれば、優人が若本に酒を飲ませ、泥酔した彼女を襲っているようにしか見えない。

一難去ってまた一難。扶桑海軍ウィザードの頬を、嫌な冷や汗が伝う。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、“加賀”艦内格納庫――

 

「はぁはぁ。ま、まさか……宮藤大尉と若本中尉が……」

 

優人の居室前から全力で走って来た三隅は、乱れた息を整えていた。

しかし、上官達のショッキングで刺激的な場面に出くわしてしまった彼女はすっかり動揺しており、そのせいか中々呼吸が落着かない。

 

「よりによって、遠洋航海中の艦で……先輩方って、意外とああいうことに積極的なの?」

 

酸素不足で頭が上手く回らない。そんな三隅の脳内を悩ましい妄想が駆け巡る。

 

「もうっ!御二人もまだ子どもなんだからっ!あんな破廉恥なことは……」

 

「おらぁ、早くしろよっ!」

 

「へ?」

 

ふと格納庫内に怒号が響き、三隅は我に返った。何事かと声がした方へ視線を走らせる。そこには1人のウィッチと、彼女を取り囲む海軍兵数名の姿があった。

 

「吉沢……さん?」

 

囲まれていたのは三隅では同じウィッチ候補生の吉沢だった。そして周りの海軍兵等は、“加賀”に乗艦していた戦闘機隊のパイロット達と一部の整備兵達だ。

航空練習艦隊の基幹たる“加賀”及び“土佐”には、ウィッチ候補生や教導を担当する教官。さらに、零式艦上戦闘機からなる戦闘機隊の1個中隊が搭載されている。

練習艦隊に参加しているものの、戦闘機中隊の面々は新兵やパイロット候補生等ではなく、ウィッチ候補生に戦闘機隊との共同訓練を経験させる為だ。

 

(一体、何をしているの?)

 

今にも泣き出しそうな顔をして、零式が固定された発進ユニットの前に佇む吉沢と、明らかに友好的ではない他兵科の将兵達。三隅は咄嗟に物資の影に身を隠し、両者を訝しげに見据える。

 

「お前等ウィッチ候補生が使ってるストライカーはな、俺達が丹精込めて整備してやってるだよ!それを傷物にするたぁ、どういう了見だ?お?」

 

「しかも訓練の成績も散々!」

 

「情けないったらありゃしねぇなぁ!」

 

整備兵が声高に詰り、2人のパイロットが尻馬に乗る。どうやら連中は訓練の成績が酷く、機体も損傷させた吉沢に因縁をつけているらしい。

とはいえ、上述の件はあくまで口実だろう。動機なんて何でもいい。彼等は単に弱い者イジメをして、日頃の鬱憤を晴らしたいだけなのだ。

1人の加害者を加害者達が徒党を組んで執拗に攻撃する。悪い意味での典型的な扶桑人だ。みっともない。

 

「黙ってないで何か言えよ!」

 

「お前、口が聞けねぇのか!」

 

「どんだけヘタレなんだよ!」

 

周囲から浴びせられる罵声罵倒の集中砲火。心無い暴言をぶつけられる度、吉沢はその身をビクッと震わせる。

ナミの滲んだ瞳をギュッと閉じ、吉沢は悪夢の如き状況を必死に堪えていた。

 

「ほら、零式様に謝れよ!」

 

「土下座だ!土下座!」

 

「早くしろや!」

 

「ちゃんと教えた通りにやれよな!」

 

将兵等に促される――或いは強要される――がまま、両膝と両手を着いてゆっくりと頭を下げる。

 

「零式様。偉大な祖国からのお借り物である貴方様を粗末に扱い、剰え訓練で何の成果も上げられず……誠に申し訳ありませんでした。どうかお許しください……」

 

吉沢はフルフルと震えながら、ぎこちない所作で自らの練習機に謝罪する。その様を見て、将兵達は腹を抱えて笑い始めた。

当たり前だが、彼等はストライカーユニットが口が聞くとも、謝罪を受け入れるとも思っていない。

彼等は所謂“反ウィッチ派”。自分達他兵科よりも軍上層部から期待され、世間からも人類の希望と目されている小娘共が気に入らないらしい。

其れ故、軍内で唯一強く出られる相手であるウィッチ候補生を標的に様々な嫌がらせをしているのだ。

 

「そんなんじゃ零式様は許してくれないぜ?」

 

「じ、じゃあ……どうすれば?」

 

オズオズと聞き返す吉沢に、戦闘機隊の中隊長がわざとらしく考える素振りをした後に応えた。

 

「そうだなぁ、じゃあ服を脱げ」

 

「えっ?」

 

「え?じゃねぇよ。服を脱いで全裸になってもう一度土下座すんだよ!」

 

「そ、そんなぁ……」

 

(あいつら……!)

 

あんまりと言えばあんまりな横暴ぶり。見ていられなくなった三隅は、遂に物陰から飛び出したのだった。

 

「やめてください!」

 

と、三隅は吉沢の元へ駆け寄ると、彼女を庇うように将兵達の前に立ち塞がった。

 

「あ?何だ、てめえは?」

 

「ウィッチ候補生の三隅美也軍曹です!吉沢さんが何をしたのか存じませんが、いくらなんでもやり過ぎです!」

 

自分より年配で、軍人としてのキャリアも上な将兵等に向かって、三隅は毅然とした態度で抗議する。しかし、そんなことで引き下がる彼等ではない。

 

「はっ!おいおい!こちらの資産家令嬢様、俺達に意見するつもりらしいぜ?」

 

中隊長が仲間達ひとりひとりの顔を見回しながら、小馬鹿にするように言う。それに合わせて、他の連中も一斉に三隅を嘲笑し始めた。

彼等の自分を見下し、軽んじる物言いが、三隅のムカッ腹を刺激する。

 

「よぉ、お嬢様。あまり調子に乗るなよ?」

 

「どういう意味でしょうか?」

 

「あんたはお金持ちの親か艦長か憲兵に告げ口すれば良い、自分はお嬢様だからウィッチだから守ってもらえると思っているのかもしれない……け・ど・な」

 

三隅の鼻先にまで顔を近づけると、中隊はそれまでのにこやかな表情を一変させ、鬼のような形相で怒声を飛ばした。

 

「ここは海の上!洋上を航行中の軍艦!本国から遠く離れたこの場所じゃあ何かあっても誰も駆けつけない、誰もてめらぇみたいな小娘助けちゃくれねぇんだよ!」

 

――バシッ!

 

「きゃああっ!?」

 

強烈な平手が三隅の左頬を襲う。突然の暴力に、三隅は堪らず床にひれ伏す。

中隊の平手を喰らった左頬は赤く腫れ上がり、見るからに痛々しい。

 

「疑うんなら艦長か艦隊司令官にでも訴えてみろや!おの自己保身的な爺さん達なら隠蔽に走ると思うがな!」

 

――ガッ!

 

「い"っ」

 

言葉を切るのと同時に、中隊長は三隅を腹に容赦の無い蹴りを見舞った。軍用靴がめり込み、平手打ちの比ではない痛みが三隅を襲う。

 

「あ……あぁ……」

 

三隅に庇われていた吉沢は、自分を助けてくれた恩人が嬲られている様子をただ見ていることしか出来なかった。

軍内には、自分達ウィッチを快く思っていない者も少なくないとは聞いていた。だが、まさかこれ程とは……。

この日、彼女は初めて軍人という存在に恐怖した。特に三隅に対し、躊躇いなく暴力を振るう中隊長はまさに悪鬼羅刹。吉沢は恐怖で失禁しそうになるのを懸命に堪えた。

 

「さてと、年長者への敬意が足りていない三隅美也軍曹にはお仕置きが必要だな。とりあえず……」

 

中隊長はそこで一旦言葉を止め、身を屈めた状態から三隅を見下ろす。

その表情や声色はとても楽しげで、新しいオモチャを見つけた子どもを思わせる。純粋故の残酷さも含めてだが……。

 

「吉沢軍曹の変わりに全裸で土下座して貰おうか?」

 

「………………」

 

「出来るよな?」

 

笑顔で威圧しつつ、念を押す中隊長。三隅は言葉で応じる代わりに、拙い所作で第二種軍装のボタンを外し始めるのだった。




誤解されたくないので弁明しておきます。私は三隅さんを嫌っていません。むしろ大好きです❤️

あと三隅さんは所謂婦女暴行はされていません。純潔のままです。ご安心ください 


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