すみません( ;∀;)
1945年1月某日、航空練習艦隊旗艦・空母“加賀”――
航空練習艦隊教導官の1人――宮藤優人大尉は、宛てがわれた居室にて頭を抱えていた。
彼は今、グリップボードに纏められた書類に目を通している。自らの教え子たるウィッチ候補生達の成績が詳細に記された、要は成績表だ。
優人と若本の教育が良かったおかげだろう。殆んどのウィッチ候補生は、少しずつではあるが確実な練度の向上が見込め、実戦レベルへの到達もそう難しくはない。
航空練習艦隊初の遠洋航海が概ね順調に進行する最中、優人を苦悩させるものがあった。2人の生徒、三隅美也と吉沢歩だ。
他のウィッチ候補生等が着実に力を付けて行く中、彼女達だけが成績停滞もしくは低下の憂き目にあっている。
予め英才教育を受けていた三隅はもちろん、内気な印象のある吉沢も優秀なウィッチ候補生には違いなく、遠洋航海開始直後の訓練成績も優秀であった。しかし、横須賀を経って数日が過ぎた頃から、2人は訓練に身が入らなくなったのだ。
そればかりではない。威勢というか覇気というか、そういったものをすっかり失ってしまい、鬼教官である若本の怒声にも歩歩反応しなくなっていた。
成績以前に明らか様子のおかしい2人を、元来御人好しで――殊に後輩ウィッチに対して――世話焼きな優人が気に掛けない筈もなかった。
(三隅、吉沢。一体どうしたって言うんだ?)
体調でも悪いのかと思ったが、本人達に何を訊いても「大丈夫です」の一点張りで埒が明かない。
大丈夫な筈がない。当人等の影が差した表情や何処か暗めな声音がそれを物語っている。何か悩みがあるのだろうか。
だが、2人はあくまで教え子だ。同じ年頃とはいっても、妹――宮藤芳佳のように堅い絆で結ばれた兄妹でもなければ、部隊ないの風通しが良かった――軍隊にしては良すぎたかもしれない――第501統合戦闘航空団の後輩達のように懐いてくれているわけでもない。
知り合って日が浅い三隅と吉沢が、優人を信頼して悩みを打ち明けてくれるだろうか。答えはノーだ。
「はぁ~……」
自然と溜め息が漏れる。どうしたものかと苦悩しつつ、優人の脳裏に1人の戦友の姿が浮かび上がる。
坂本や若本に並ぶ扶桑海軍同輩の航空歩兵にして、現在はロマーニャで第504統合戦闘航空団戦闘隊長――竹井醇子大尉だ。
気性が穏やかで落ち着いた雰囲気の彼女は、航空ウィッチの後輩達に寄り添うのが、優人等3人に比べて遥かに上手かった。
リバウ滞在時も、坂本の厳しい訓練や泥沼化していくネウロイとの戦いに疲弊した後輩達を持ち前の包容力で受け止め、励ましていたものだ。
昨年から第502統合戦闘航空団に派遣されている下原定子少尉も、その1人である。
竹井ならば、もっと三隅達ウィッチ候補生との距離を縮めることが出来ただろう。
先述の竹井醇子人柄や同じ女であるのも相俟って、候補生達も彼女の方が色々と相談しやすかった筈だ。
やはり自分では教官として力不足なのだろうか。自分ではなく竹井が遠洋航海に参加していれば……。
不意にそんな考えが頭を過ぎるも、すぐに「いいや」と首を振った。
今この場にいない人間を宛にしてどうする。己に無いものを強請ってどうする。
引き受けた以上、全力を尽くすのみ。戦いにおいても教導においても、それは同じ。どの道、自分は竹井醇子になれない。
それならば、自分は自分のやり方で教え子と向き合えば良い。両の頬をパンパンと叩き、優人は気合を入れ直す。
「うっ……」
「ん?」
ふと苦しげな声が扶桑海軍ウィッチの耳朶に触れる。痛みに悶えるような、堪えているような。そんな声音が、部屋の外から漏れ聞こえていたのだ。
「この声は……」
優人はベッドから立ち上がると、声の主を探しに居室の扉を潜る。部屋の外に出た彼が目にしたのは、通路で1人佇んでいるウィッチ――件の三隅美也だった。
何やらセーラー服を捲り上げ、自身の身体を水練着越しに探っている。
「三隅?」
既に恒例行事となっているラッキースケベの如く、遭遇してはならない場面に出くわしてしまった。そんな不安を覚えつつも、扶桑海軍ウィザードは思い切って教え子に声を掛けた。
「ひっ!?……あ、宮藤教官」
ビクッと肩を震わせた後、三隅は恐る恐る振り返った。上官である優人に礼を尽くすのも忘れ、恐怖の滲んだ双眸で彼を見つめている。
「眠れないのか?」
何かに怯えているらしい三隅を気遣い、優人は優しげな声色で問う。
顔を合わせたのが若本や他の海軍士官ならば、敬礼を怠った点をまず咎めただろう。しかし、優人は違った。
「い、いえ……」
身体を小刻みに震わせ、三隅はか細い声で応じる。上官に向けるべき視線を足元に落とし、己を庇うかの如くその身を掻き抱く姿がなんとも意地らしい。
「そうか」
「…………」
「なぁ、三隅」
「……はい」
「良ければ、少し話さないか?お茶でも飲みながら……」
「え?」
上官からの予想外のナンパ――もとい誘いに、ウィッチ候補生は面食らった。
◇ ◇ ◇
同時刻、“加賀”飛行甲板――
扶桑皇国海軍兵曹長――姉帯豊子は、飛行甲板に出ていた。彼女は、優人が試験飛行を実施している2機の試作ストライカーユニットの整備を担当しており、今晩も少し前に仕事を終えたところだ。
その後、何となく夜風に当たりたくなり、夜の甲板まで足を運んだ次第である。
日中は訓練中のウィッチ候補生が練習機の魔導エンジン音を響かせていた艦上も、今は波の音が控え目に聞こえる程度で、静かなものだった。
夜空に浮かんだ美しい満月を見上げ、姉帯はかつて憧れた空に想いを馳せる。
元々、航空ウィッチ志望であったものの、残念ながら基礎教練過程を終えても魔法力が発現せず断念した過去があった。
ならば、せめて前線で戦う航空歩兵等を間近でサポートとしようとストライカーユニットの整備兵へと転向したのだ。
ウィッチの才能に恵まれなかった彼女だが、整備畑で瞬く間に頭角を現した。
遣欧艦隊がリバウ方面に派遣された大戦初期以降は、第24航空戦隊のストライカーユニット整備中隊に配属され、今日に至るまで宮藤優人大尉の従兵兼専用ストライカーユニットの機付長を務めている。
今の彼女にとって、ストライカーユニットの整備と空を駆けるウィッチないしウィザードの勇姿を眺めることが何よりの生き甲斐であるが、その一方で空への未練も捨て切れずにいた。
練習艦隊に参加しているウィッチ候補生が、教官である若本徹子中尉の厳格さと容赦の無さに辟易している様でさえ、姉帯には羨ましく思える。
「ん?」
ふと視界の端で何かを捉える。気になり目を向けると、飛行甲板の先端――艦首にて小さな人影が佇んでいるのが確認出来た。
「誰?」
と、目を凝らす姉帯。月明かりの助けもあり、すぐに人影の正体が判明する。
「吉沢さん?何であんなところに?」
ウィッチ候補生の吉沢だ。多くの候補生が昼間の訓練で疲れ果て眠っているというのに、何故彼女だけがこんな時間に飛行甲板にでているのか。
訝しむ姉帯を他所に事件は起きた。突如、吉沢の小柄で華奢な身体が、力の無い動作で前のめりに倒れ始めたのだ。
「危ないっ!」
姉帯の反応は早かった。甲板の床を力強く蹴りつけると、吉沢の元へ駆け出した。
さすがは元ウィッチ志願者。基礎訓練で培われた姉帯の身体能力は前線の兵士と比肩するほど高い。
瞬く間に距離を詰め、吉沢に右手を伸ばす。ギリギリのところで届き、なんとか転落を免れる。
「ふぅ~、危機一髪……」
ホッと安堵した姉帯は腕に力を込め、ウィッチ候補生を甲板に引き戻した。
「吉沢さん、よね?一体――」
そこまで言い掛け、姉帯は口を噤んだ。原因は、彼女へ向かって振り返った吉沢の表情だ。
肌は青白く、目元には濃い隈が出来ており、瞳に至っては光が消えている。
10代少女らしからぬ生気の抜けた表情は、宛ら病人か死人。最初に見かけた吉沢とは、まるで別人のようだ。
「…………何で?」
「え?」
「何で助けたんですか?何で放っておいてくれなかったんですか?……」
「……………………」
姉帯は何も応えず。また転落未遂に関して何かを訊ねることも出来ず。彼女に出来るのは、哀れなウィッチ候補生を医務室まで連れて行くこと。それだけだった。
◇ ◇ ◇
同時刻、宮藤優人の士官用居室――
三隅を自身の部屋に招待した優人は、彼女に扶桑茶と茶菓子を振り舞っていた。
「これ扶桑から持ってきたんだ。良かったら食べてくれ」
「…………ありがとうございます」
テーブルの向こう側で椅子に腰掛けている三隅。軽く頭を下げて礼を述べるが、やはりその声音は何処か苦渋が滲んでいる。
「地元の老舗店で売ってる茶菓子で、街や横須賀軍港じゃ評判なんだよ」
と、優人は茶菓子に舌鼓を打つも、三隅は茶菓子どころか、茶にも手をつけようとしない。
その後も暫くは優人の方から世間話が振られるも、ウィッチ候補生はただただ俯き加減で聞き、時折気の抜けた声で応じるだけだった。ますます三隅らしくない。
更に言えば、彼女は終始服の下を気にしている……いや、庇っている様に見える。
「………………」
優人は無言で立ち上がると、テーブルを周って三隅の元へ歩み寄った。
座っている彼女に目線を合わせる様に屈むと、出来るだけ穏やかな口調で問いかける。
「怪我、してるな?」
「――っ!?」
ハッとなって顔を上げる三隅。反応からして正解のようだ。優人は彼女の瞳をジッと見据え、質問を重ねた。
「だから訓練に身が入ってなかったんだな?」
「………………」
三隅は無言で応じる。沈黙もまた肯定の意思表示、優人は言葉を続ける。
「医務室に行こう。訓練に支障が出るようなら診てもらわ――」
「大丈夫ですっ!」
語気の強めな声色で、三隅は優人の提案を遮る。先程までとは違い、ハッキリとした口調であった。
「大丈夫って、現に訓練もままなら――」
「本当に大丈夫ですっ!失礼しますっ!」
三隅は立ち上がり、優人に背を向けて出口へと歩を進める。速歩きで逃げようとする教え子を、優人は直ぐ様呼び止めようとする。
「お、おい三隅!」
慌てて伸ばした優人の右手が、三隅の肩に触れる。その時だった。
「っ!?い、いやっ!」
――バシッ!
悲鳴にも似た声を上げた三隅は、自らに触れた上官の手を手荒く払い除けた。突然の出来事に、優人は思わず呆然とする。
痛む右手を擦りながら無言で三隅を見返す。彼女は両腕で己の身体を掻き抱き、フルフルと小動物のように震えていた。
涙の滲んだ彼女の双眸からは、優人に対する怯えにも似た感情が見て取れた。いや、正確に言えば優人というより男という存在に対する明確な拒絶反応だ。
優人は、“これ”を知っている。軍隊という理不尽な組織で。最前線という過酷な環境で。彼は同じ状態に陥ったウィッチを何人も見てきた。
世間の常識や人間の道徳が通用しなくなる状況下において、人は自分より弱い存在を見つけては攻撃し、虐げる残酷な一面を持っている。
扶桑皇国軍をはじめとする人類統合戦線麾下の各国軍隊では、か弱い少女であるウィッチが、時折攻撃対象になることは想像に難くない。
「あっ!……も、申し訳ありませんっ!」
我に還った三隅が慌てた様子で深々と頭を下げる。自らが上官で、教官でもある優人に非礼を働いてしまった事実を理解したのだろう。
「……三隅」
声につられて顔を上げた三隅が目にしたのは、いつの間にか間合いを詰めていた上官が、無表情で自分を見下ろす姿だった。
「あ……」
非礼を叱責される。そう思った三隅は目を見開き、身体を強張らせる。
当然だ。上官に対する暴行など、軍隊では絶対に許されない。咎められるのはもちろん、場合によっては軍法会議もの。
三隅は、自身のウィッチないし扶桑海軍人生の終わりと、それ相応に罰を覚悟する。
だが、扶桑海軍ウィザードの行動は彼女が予想だにしないものであった。
「…………えっ?」
優人は三隅を自身の元へ引き寄せると、両腕を彼女の背中に回して力を込める。そう、ウィッチ候補生は扶桑海軍ウィザードに抱き締められたのだ。
「あ?……え?……」
力強く。それでいて優しく温かな感触に包まれながら、三隅の頭は混乱する。
数瞬置き、自分が憧れの上官に抱き締められているのだと理解し、全身がカァッと熱くなるを感じた。
「た、大尉っ!一体何を――」
「我慢しなくていいんだ」
「え?」
キョトンとする三隅に、優人は髪を優しく梳くような所作で彼女の頭を撫でつつ、言葉を続ける。
「甘えたい時には好きなだけ甘えていいし、弱音を吐きたい時は存分に吐き出せばいいし、泣きたい時には遠慮なく泣いていいんだよ」
「大尉?」
「ウィッチだから。軍人だから。強くなきゃいけないからって、無理をする必要は無いんだよ?だからさ……」
優人はそこで一旦言葉を切り、再び両腕を三隅の背中へと回した。怪我に配慮しながら彼女は抱き締め、優しく囁く。
「泣きなさい」
「うっ……ふぅ、うううぅ……!」
三隅は上官の胸に顔を埋めると、声を上げて泣き始めた。優人は彼女が泣き終えるまでの間、ずっと抱き締め続けた。
そして、三隅はもちろん優人も気付かなかったが、彼の両手から青く温かな光が発せられ、ウィッチ候補生の傷を秘かに癒していた。
◇ ◇ ◇
「うぅん……」
早朝。三隅は起床時効よりも大分早く目を覚ます。いつもより睡眠時間は短かったが、怠さ等は全く無く、寧ろ身体軽く感じられた。昨晩、優人の胸を借りて思い切り泣いたおかげだろうか。
「お、起きたか?おはよう」
「大尉?おはようござ……へ?」
ふと聞こえてきた上官の声に、寝惚け眼を擦りながら挨拶を返す三隅。だが、すぐにハッとなって目を見開く。
彼女の眼前に現れたのは、自分に向かって微笑む優人の顔であった。それも互いの息がかかり、鼻先がくっつくくらいの至近距離にだ。
「た、大尉っ!どうしてっ!?」
顔を真っ赤にして飛び起きる三隅。よく見ると、彼女が寝ていたのは本来宛てがわれている船室ではなく、昨晩招待された優人の居室だった。
よく見てみると、優人は昨晩と同じ寝間着姿で、三隅はセーラー服を脱いだ水練着姿であった。
つまり、彼女は互いに薄手を格好で同じベッド仲良く眠っていたことになる。
「あ、いや……」
優人は三隅から目を逸らすと、決まり悪そうに後頭部を搔きながら仔細を説明し始めた。
どうやら三隅は昨晩、泣き疲れた末優人に抱き着いたまま寝入ってしまったらしく、彼女が離してくれなかったことや起こすのを気の毒に思い、優人が自身のベッドに寝かせたそうな。
三隅が水練着姿なのは、皺になってはいけないと思った優人が、なんとかセーラー服を脱がせた為であり、テーブルの上に畳んだ状態で置かれている。
「申し訳ありませんっ!」
茹で蛸の如く顔を真っ赤にした三隅は、勢い良く頭を下げて謝意を述べる。憧れの宮藤優人と床を共に出来たことが嬉しい反面、一晩中迷惑を掛けたこと。バッチリ寝顔や寝起きを見られたことで、三隅は顔から火が出そうだった。
「そんなの気にしないで。そもそもの原因は俺だし、それに……」
優人は三隅に顔を近付けると、悪戯な笑みを湛えた表情で言い放つ。
「後輩ウィッチの可愛い寝顔も見れたことだしな♪」
「か、からかわないでくださいっ!」
「はははっ!ごめんごめん♪まぁ、それよりも……」
打って変わって真剣な眼差しになった優人は、真面目な口調で続ける。
「今から医務室行くぞ。怪我の件、このままにはしておけないしし」
「あ、そうですね……あれ?」
ふと何かに気づいた三隅が、両手で己の身体を真探りだした。それによって、慎ましいながらも女性らしいボディラインが水練着越しに浮かび上がり、優人は目のやり場に困った。
「どうした?」
「怪我、治ってます……」
「えっ!?」
信じ難いことだが、三隅が負った怪我は一晩のうちに全て完治していたのだ。
目視で確認してみたが、傷も痛みもまるで始めから存在しなかったかのように消えている。
「ど、どうですか?」
と、三隅が気恥ずかしそうに訊く。自力で確認出来る箇所は一通り見終え、目の届かない背中は教官殿に確かめてもらっていた。
水練着を上半分程脱ぎ、胸元を両手で庇うように隠している三隅。頬に羞恥の朱を灯してはいるが、異性の優人に明確な拒絶反応を示していた昨晩とは打って変わって大胆だ。
「大丈夫、みたいだな……」
シゲシゲと教え子の背中を観察する優人。疚しいところは何も無いのだが、何故か怪しく見える一幕である。
「そう、ですか……」
「背中綺麗だな」
「なっ!?」
優人がボソリと呟いたセクハラ染みた一言を、三隅は聞き逃さなかった。
「へ、変なこと言わないでくださいっ!」
「え?俺なんかマズいこと言ったか?」
「い、いえ……背中が綺麗っていうのは嬉しいですけど、じゃなくてっ!」
「大尉っ!」
三隅が扶桑海軍ウィザードに詰め寄っていると、不意に船室の扉が勢い良く開かれ、長い黒髪をポニーテールの扶桑撫子が部屋に飛び込んで来た。士官候補生の服部静夏だ。
「大変です大尉っ!吉沢さん、が……」
上官への礼も忘れ、何事かと慌てふためく服部。だが、彼女は優人と三隅を前にすると直ぐ様大人しくなった。
当然だ。教官の居室で、寝間着姿の教官と、半裸状態の三隅が向かい合っているのだから。何かを誤解してもおかしくはない。
「は、服部?」
「服部さん……?」
「御2人共。一体、何を?……」
熟れたトマトのように顔を赤く染めながら、服部はフルフルと身を震わせる。
(マ、マズい!)
服部は明らかに誤解している。何とか説明なければ、と優人は懸命に思考を凝らす。
だが、無慈悲な神は、扶桑海軍ウィザードに考える暇も弁明する暇も与える気は更々無いらしい。
突如、けたたましい警報の音が”加賀“艦内全域に轟いた。次いで、伝声管から切羽詰まった声が響く。
『敵襲!ネウロイ出撃!総員戦闘配備!繰り返す、総員戦闘配備!』
「ネウロイっ!?どうして!?」
「太平洋にまで現れたの?」
服部と三隅が驚愕の声を上げる。大陸側領土の防衛戦力で押し止められている筈のネウロイが、何故太平洋にまで現れたのか。
大陸側の防衛線が突破されたのか。或いは何らかの方法で掻い潜ったのか。扶桑本国と国民は無事なのか。
様々な可能性と不安が、扶桑海軍ウィザードの頭を過ぎる。しかし、今はそんなこと考えても仕方がない。
優人は頭を振って余計な思考を振り払うと、服部・三隅両ウィッチ候補生に避難命じ、自らは服を着替えて格納庫へ走った。
◇ ◇ ◇
数分後、”加賀“艦内格納庫――
予想外の敵襲で、格納庫は蜂の巣を突いたような有り様だった。既に僚艦空母“土佐”より戦闘機隊のが発進しており、ここ“加賀”からも中隊が出撃しようとしている。
「遅いぞ、優人っ!」
格納庫に駆け込んだ優人を出迎えたのは、若本の怒号だった。耳を塞ぎたくなるよいな怒声を受け、優人は顔を顰めた。
「もう戦闘機隊が発進するぞ!俺達が出遅れてどうす――」
「お前、何してんだ?」
「はぁ?寝惚けてるのか?出撃待機だよ!」
「そうじゃない。何でそのストライカーを履いてるんだ?」
と、優人が怪訝そうに訊ねる。若本が今装備しているのは使い慣れた零式ではなく、優人が評価試験を行っていた試作ストライカー2機の内の1機――“烈風”だ。
「2つあるんだ、1つくらいいいだろ?」
事も無げに言う同輩に対し、扶桑海軍ウィザードは溜め息を吐く。
「試験中の機体だぞ?まだ実戦に耐えられるかも――」
「お前が散々試した結果、問題無いと報告したって聞いたぞ」
「俺はともかく、お前は試運転もしてないだろ?大丈夫なのか?」
「こーゆーもんはぶっつけ本番で何とかなるし、何とかするんだよ!」
と、嘯く若本。初見は乗りこなす自信があるのか、それとも単に適当なだけなのか。
何れにしても、こうなった若本はテコでも動かない。それは付き合いの長い優人が一番よく知っている。
武器ラックから九九式二号二型改13mm機関銃を取り出す戦友を尻目に、優人はもう1機の試作ストライカーユニット――紫電五三型が固定された発進ユニットに歩み寄った。
「まさか、こんな形で実戦テストをすることになるとはな」
苦笑しつつも、両脚を紫電五三型に通す優人。魔導エンジンを始動させ、武器ラックからS-18対物ライフルを取り出す。
「さて、ネウロイ。俺達が相手だ、教え子達には手を出させねぇぞ」
「お前も案外過保護だな」
「仕方ねぇだろ、性分なんだから……」
若本に茶化されつつ、扶桑海軍ウィザードは生徒を守るという決意を表すように薬室へ初弾を装填した。
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