翌日。早朝からネウロイの出現を知らせるサイレンが基地内に鳴り響いた。
「監視所から報告が入ったわ!」
ブリーフィングルームに隊員全員が集まるとミーナがボードに張ってある地図を指しながら説明する。
「敵はグリット東114地区に侵入。高度はいつもより高いわ。今回はフォーメーションを変えます」
ミーナに続いて坂本が編成の指示を出した。
「バルクホルン、ハルトマンが前衛!シャーリーとルッキーニは後衛!ペリーヌは私とペアを組め!」
「残りの人は、私と基地で待機です!」
『了解!』
ミーナの命令に全員が従い、基地に約半数を残してネウロイ迎撃に出撃した。
「行っちゃったね」
「そうですね……」
芳佳とリーネは出撃したメンバーを滑走路から見送っていた。
「今出来ることって何だろう?」
「足手まといの私に出来る事なんて……」
「リネットさん!」
リーネは基地の中へ走って行ってしまう。彼女と入れ替わるようにミーナが芳佳の元へやって来た。
「芳佳さん、ちょっといいかしら?」
「あっ、はい」
芳佳が頷くとミーナが話を始める。
「リーネさんはこのブリタニアが故郷なの」
「えっ……」
「ヨーロッパ大陸がすでにネウロイの手に落ちていることはお兄さんから聞いてるわね?」
「はい」
芳佳は以前赤城で優人から欧州の現状を聞かされていた。
「欧州最後の砦。そして故郷でもあるブリタニアを守る。リーネさんはそのプレッシャーで、実戦だとだめになっちゃうの」
「リネットさん……」
ミーナから話を聞き、心配そうに呟く芳佳。祖国防衛のプレッシャーに周りはエース級はばかり、リーネの気持ちもわかる気がした。
「芳佳さんはどうして、ウィッチーズ隊に入ろうと思ったの?」
「はい!困っている人達の力になりたくて!」
質問に力強く答える芳佳にミーナは微笑んだ。
「リーネさんが入隊した時も同じ事を言っていたわ。その気持ちを忘れないで。そうすれば、きっとみんなの力になれるわ」
ミーナは優しく微笑むと基地内へ戻って行った。ミーナが去った後、芳佳は何かを決意した表情で空を見上げていた。
◇ ◇ ◇
その頃、坂本をはじめとする出撃メンバーがネウロイと交戦に入った。しかしネウロイは特に反撃することもなく、あっさり撃墜された。
「手応えがなさすぎるわ……」
海に落ちていくネウロイを見て、ペリーヌは違和感を覚えた。
「おかしい、コアが見つからない」
坂本は上空から魔眼でコア探していたが、それらしきものは全く見当たらない。
「まさか!陽動ですの!?」
ペリーヌの言葉を聞いて坂本はハッとなった。
「だとしたら基地が危ない!!」
おそらく目の前のネウロイは自分達を引き付けるための囮、コアを持った本体は今頃基地へ向かっている。
◇ ◇ ◇
「リネットさん」
芳佳はリーネの部屋の前に立っていた。そして、部屋の中にいるであろうリーネに向かって語りかけた。
「私、魔法もへたっぴで叱られてばかりだし、ちゃんと飛べないし、銃も満足に……使えないし、ネウロイとだってホントは戦いたくない。でも、私はウィッチーズにいたい。私の魔法でも誰かを救えるのなら、何か出来る事があるのならやりたいの」
芳佳は自分の想いを伝える。リーネは部屋の中で、ドアに背中を預けながら聞いていた。
「そして、みんなを守れたらって……」
「!……守る……」
芳佳の“守る”という言葉を聞いて目を見開くリーネ。それは自分がウィッチを志した時に、そして501基地に来た時に誓ったことだった。
「だから私は頑張る。だからリネットさんも……」
芳佳の話が終わるとリーネはドア越しに彼女の方を向いた。何か言おうとしていると、基地内に再びサイレン音が響き渡った。
◇ ◇ ◇
サイレンが鳴った直後の待機室にはミーナと優人、エイラの姿があった。
「出られるのは私と優人、エイラさんだけね」
ミーナが言う。続いて優人がエイラに質問する。
「エイラ、サーニャは出られないのか?」
「夜間哨戒で魔力を使い果たしてる。ムリダナ」
エイラは両手の人差し指を交差させながら言う。
「そう……じゃあ、三人で行きましょう」
ミーナがそう言って出撃しようとした時、芳佳が待機室へ駆け込んできた。サイレンを聞いて走ってきたのだろう、息が上がっている。
「私も行きます!」
出撃を進言する芳佳。
「まだ貴方が実戦に出るのは早すぎるわ」
「足手まといにならないよう、精一杯頑張ります!」
真剣な表情で芳佳を制するミーナ。芳佳は同じく真剣な表情で言い返す。優人は何も言わずに二人のやり取りを見ている。
「訓練が十分でない人を戦場に出すわけにはいかないわ。それにあなたは、撃つことにためらいがあるの」
そう言うミーナに優人も内心同意している。芳佳は訓練中も銃を使うことを渋っていた。もし引き金を引くことが出来なければ、敵を倒すどころか自分や仲間の身も守れない。しかし、芳佳は引き下がらなかった。
「撃てます!守るためなら!」
「とにかく、貴方はまだ半人前なの」
「でも……」
それでも、と言い続ける芳佳。するともう一人待機室に入ってきた。
「私も行きます!」
リーネだ。芳佳と同じく彼女も出撃を進言する。
「リネットさん……」
「二人合わせれば、一人分ぐらいにはなります!」
引っ込み思案な普段の彼女からは想像出来ない堂々とした態度にミーナは驚かされた。優人は何かを決意したその表情を見て、ミーナに進言する。
「ミーナ、出撃させよう」
「優人!でも……」
「ネウロイが来てる。二人を説得する暇なんてないだろ?」
優人の言葉を聞き、ミーナは二人を見据える。二人の表情は真剣そのもの、簡単には引き下がりそうもない。
「……90秒で支度しなさい」
ミーナは彼女達の出撃を許可した。
「「はい!!」」
二人は力強く返事した。それから五人は基地から空へ上がった。優人がS-18対物ライフル芳佳が13mm機関銃、ミーナとエイラがカールスラントのMG42、リーネがボーイズMk.Ⅰ対装甲ライフルを装備している。
「敵は三時の方向から基地に向かってくるわ!私と、優人、エイラさんが先行するから、芳佳さん、リーネさんはここでバックアップをお願いね」
「はい!」
「はい!」
芳佳とリーネは順に答える。
「じゃあ、頼んだわよ」
「了解」
そう言ってミーナは優人、エイラと共に先行する。三人を見送ると、リーネが芳佳に話し掛けた。
「宮藤さん。本当は私、怖かったんです……」
「私は今も怖いよ。でも、うまく言えないんだけど…何もしないでじっとしている方が怖かったの」
「何もしない方が……あっ!」
何かに気付いたリーネが顔を上げる。
「どうしたの?」
「ほら、あそこ!」
リーネが指差した先では戦闘の光が見えた。先行した三人がネウロイと交戦を開始していた。
「速い……」
エイラが呟く。ミーナとエイラはMG42で射撃を行うがネウロイのスピードに翻弄され、弾が当たらない。しかも、ネウロイは三人のことなど眼中になく、真っ直ぐ基地に向かっている。
「今までより圧倒的に早いわ、一撃離脱じゃ無理ね。速度を合わせて!」
「了解」
「ん……」
優人を口頭でエイラはサインで返事をすると、ミーナの指示に従ってネウロイの速度に進行方向を合わせる。そして、ネウロイの後方から攻撃を開始する。芳佳とリーネはその様子を遠くから見ていた。
「……ネウロイ?」
「そうみたいです……」
「近づいてくるよ!」
芳佳に言われ。リーネは慌ててボーイズライフルを構える。優人、ミーナ、エイラの三人はネウロイの後部に弾を撃ち込んでいく。
「加速した!」
とエイラ。ネウロイは後部をパージし、軽量化によって加速する。三人は分離した胴体をどうにか回避するが、その隙にネウロイは三人を引き離し、基地の方へ進んでいく。
「速すぎる、不味いわね。優人お願い!」
ミーナが一番射程の長いS-18対物ライフル持つ優人に命じる。優人はすかさずライフルを構え直すが、ふいに「あっ……」という気の抜けた声を漏らした。
「どうしたの?」
ミーナが訊ねる。
「弾詰まりだ」
「ええっ!?」
「ナニやってんダ!!」
エイラから怒号が飛ぶ。そうしている間にもネウロイは遠ざかって行った。
「だめ!全然当てられない!」
後方ではリーネが狙撃を行うも、高速で左右にぶれるネウロイに当てられないでいた。
「大丈夫!訓練であんなに上手だったたんだから!」
焦るリーネを芳佳が励ます。
「私、飛ぶのに精一杯で射撃を魔法でコントロール出来ないんです!」
「だったら、私が支えてあげる。そうすれば撃つのに集中できるでしょ?」
そう言って芳佳はリーネを肩車した。リーネが射撃に魔力を振り分けられるように芳佳が二人分の飛行を請け負うつもりだ。
「どう?これで安定する?」
「あ……はっ、はい……」
芳佳の行動に頬を赤らめるリーネ。二人のインカムにミーナから通信が入る。
「リーネさん、芳佳さん!敵がそちらに向かっているわ!貴方達だけが頼りなの、お願い!」
「「はい!」」
返事をする芳佳とリーネ。リーネは再びボーイズMk.Iを構える。射撃が得意なリーネと空を飛ぶ素質を持つ芳佳、二人の力を合わせればベテランにも負けないだろう。
(そうだ!敵の避ける未来位置を予測して、そこに……)
リーネが策を思い付くなり、実行した。
「宮藤さん!私と一緒に撃って!」
「うん!わかった!」
リーネの指示に従い、芳佳は片手で13mm機関銃を構える。リーネは魔法力で視力を上げた眼でネウロイを捉える。
「今です!」
リーネの合図で二人は射撃を開始する。ネウロイが芳佳のフルオート射撃をかわすと、今度は避けた先でリーネが放った数発の魔法弾がすべてネウロイに直撃する。一発がコアを撃ち抜き、ネウロイ破片となって砕け散る。
「すごーい!!」
芳佳がネウロイを仕留めたリーネの射撃に感動しているとリーネが跳びついてきた。
「やった!やったよ宮藤さん!私初めて皆の役に立てた!宮藤さんのおかげだよ!!ありがとう!!」
初戦果に興奮したリーネが芳佳に抱き着く。それによってバランスを崩した二人は海へ落下していった。
「「あははははははは!」」
海に落ちた二人はすぐに海面から顔を出すと、笑い合った。
「“芳佳”でいいよ!私たち友達でしょ?」
「じゃあ、私も“リーネ”で!」
「うん!リーネちゃん!」
「はい!芳佳ちゃん!」
そう言って、リーネは再び芳佳に抱き着いた。
「あははははははは!」
「り、リーネちゃん。苦しい……」
リーネの豊満な胸につぶされそうになる芳佳。そんな二人を優人は上空から見ていた。
(もう心配無さそうだな)
「ねえ優人」
「ん?」
ふと、ミーナが優人に声を掛ける。
「さっきの嘘でしょう?」
「え?」
「弾詰まり」
「ああ、バレてたか」
優人はあははと乾いた笑い声を出す。
「まったく!上手くいったからよかったけれど、一歩間違えたら取り返しがつかなくなっていたわよ?」
少々おかんむりな様子のミーナ。部隊や基地を預かる司令としての彼女の立場を考えれば当然と言えよう。それにマロニー大将をはじめ、ブリタニア空軍には自分達501を快く思っていない人間も少なくない。彼らに付け入る隙など与えてはならない。
「悪かった。処分は受けるよ」
「なら、今日の分の書類お願いね」
「……そんな殺生な」
山積みの書類を思い出し、優人の顔が一気に青ざめる。
「いいですね?宮藤大尉」
「……はい、中佐殿」
笑顔で威圧するミーナに逆らえず、優人はガクッと肩を落とした。
◇ ◇ ◇
ところ変わって、連合軍総司令部。赤坂は再びマロニーの執務室を訪ねていた。
「まだ諦めていなかったのかね?」
デスクについたまま、呆れたようすのマロニー。
「だから、こうして頼みに来たんですよ」
と、マロニーのデスクの前に立つ赤坂が言う。
「ええ、そもそも『兄弟姉妹を同じ部隊に配属させない』というのはリベリオン軍のルールです。それを連合軍管轄の501で適応するのはお門違いではありませんか?」
「申し訳ないが宮藤大尉の異動はもう決定したことだ」
頑として首を縦に振らないマロニー。赤坂は攻め方を変える。
「ブリタニアは輸送船団を護衛する艦艇が不足しているそうですね?」
護衛艦の話を持ち出すとマロニーの顔がにわかにに引き締まった。
「扶桑海軍から海防艦を何隻か提供することが可能ですが?」
「代わりに宮藤兄妹を二人とも501置いておけというのかね?」
「悪い話ではないでしょう?」
赤坂に提案され、考え込むマロニー。ブリタニアは過去の船団護衛や対ネウロイ戦等によって、多くの艦艇を損失している。ブリタニアのような島国にとって、ネウロイによる通商破壊は死活問題。輸送船団を護衛する艦艇
や航空ウィッチは必要不可欠である。
それにブリタニアの首相であるチャーチルは海軍相から今の地位に就いた。ここで扶桑の海防艦を手に入れ、海軍に恩を売っておくことは、国のトップに貸しを作ることにもなる。しかし、ただ赤坂の話に乗ることは面白くない。
「君は頼みに来たと言ったがね」
一通り考えたマロニーは立ち上がり、窓から外の景色を見る。
「あまり頼まれているような感じがしないんだがね」
赤坂は奥歯を噛みしめてソファーから立ち上がると、マロニーに向かって頭を下げた。
「後生です!宮藤兄妹の501配属を許可して頂きたい!」
マロニーが振り返ると、赤坂は屈辱で震えていた。こうして、宮藤優人大尉のワイト島転属は取り消されたのだった。
◇ ◇ ◇
その夜。なんとか書類を片付けた優人はミーナと別れ、執務室を後にする。
「ふぅ……」
優人は自分の肩をトントンと叩きながら、溜め息を漏らす。膨大な量の書類整理は何度やっても慣れない。終わらせたばかりの今も、達成感より明日も同じ量をこなさなくてはならない、という憂鬱感が彼の心を支配している。
クシャ!
「ん?」
何気無しにポケットへ手を突っ込むと、紙のような何かに触れた。取り出してみると昨晩、リーネから受け取った除隊申請書が出てきた。大切な書類をずっとポケットの中に入れたまま忘れていたらしい。優人は意外とズボラなのだろうか。
「これは返さないとな」
優人は呟くと、リーネの部屋へ向かって歩を進める。リーネは初戦果を上げたことで自信をつけ、芳佳という友達も出来た。一緒に戦う友が一人でもいれば、プレッシャーに押し潰されることもないだろう。
やがて、リーネの部屋に辿り着いた優人はドアをノックもせずに開いてしまう。
「リーネ、入るぞ!」
「へっ?」
「あっ……」
優人の視界に飛び込んできたのは純白のズボンとブラのみを着用しているリーネだった。彼女は着替え中だったらしい。優人はノックをしなかったことを後悔すると同時にリーネのグラマラスボディに目が釘付けになった。
「い……い……」
あまり男性に免疫のないリーネ。下着姿を見られて彼女の顔はみるみる赤くなっていく。
「いやあああああぁ!」
バチーン!
「ぶっ!」
優人の顔を目掛けて飛んできた平手が、彼の頬に真っ赤な紅葉を作った。
14話までは以前とあまり変わりませんが、15話からは内容を変えています。しかし、原作沿いなので同じに見えるかも知れません。
感想、誤字脱字報告待ってます。