ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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第13話「扶桑の兄とカールスラントの姉」

バルクホルンが撃墜された日の夕方。芳佳とリーネ、ペリーヌは一足早く基地に帰投していた。

 

「あ~あぁ。結局何もやれなかった……」

 

「そんなことないよ」

 

「そうかなぁ」

 

戦闘であまり役に立てなかったと思っている芳佳をリーネは励ます。実際はエースであるバルクホルンを瀕死の重症から救った大活躍なのだが、怪我人を助けることが当たり前な芳佳はそれを誇ろうとしない。

 

「あっ……」

 

二人の元にペリーヌがやって来た。入隊時から何故か芳佳に敵意を剥き出しにする彼女がまた突っかかってくると思い、芳佳は反射的に身構える。

 

「……ありがとう」

 

ペリーヌは頬を染めて恥ずかしそうに呟く。

 

「えっ?……」

 

「一応、礼だけは言っておくわ」

 

「……うん!」

 

自分の失敗を助けて貰ったことに礼を言うペリーヌ。芳佳は予想外のことに少しキョトンとするが、すぐ笑顔で返事をする。ペリーヌはさらに続けた。

 

「それと、貴女のお兄様、宮藤大尉は……以前からわかっていましたが、その……素敵な方ですわね。坂本少佐の次ぐらいに……」

 

「えへへへ!ありがとうございます!」

 

兄が誉められたことで芳佳の笑顔はさらに眩しくなる。坂本の次に素敵、というのはペリーヌからすれば最大級の賛辞である。元々、彼女は坂本が絡まないところでは優人のことも尊敬する上官として見ている。

 

「宮藤~!トゥルーデを助けてくれたんだって?」

 

ハンガーにやって来たハルトマンが芳佳の背中に抱き着く。

 

「トゥルーデ?」

 

「バルクホルン大尉のことよ」

 

トゥルーデがバルクホルンの愛称だということをリーネが教える。

 

「いえ、あれはお兄ちゃんがいたからで……」

 

「なら兄妹二人でトゥルーデを助けてくれてありがとう!」

 

大切な友人を助けてもらい、大喜びのハルトマン。芳佳も自然と笑顔になる。誰かの役に立てた実感で芳佳は高揚している。

 

「あっ、戻ってきた!」

 

リーネが優人、坂本、ミーナ、バルクホルンの帰還に気付く。芳佳達は滑走路に降りてきていた四人に手を振って出迎える。バルクホルンも照れ臭そうに笑いながら、軽く手を上げた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

夜。ようやく休暇を取る気になったバルクホルンは執務室にいるミーナに休暇申請書を提出し、部屋を出た。そのまま、自室へ向かうとしたところで誰かに呼び止められた。

 

「バルクホルン」

 

声の主は優人だった。

 

「優人……」

 

「傷は大丈夫か?」

 

「ああ、お前達兄妹のおかげでな。むしろ負傷する前より調子が良いくらいだ!」

 

ガッツポーズをして絶好調であることをアピールするバルクホルン。今の彼女の表情は憑き物が落ちたかのように晴れやかだ。

 

「そうか。いや、治したのは芳佳だろ?」

 

「私と治療をしてくれたお前の妹を守ったのはお前だ、感謝している。もちろん、お前の妹にも」

 

「そりゃ、まぁ……どういたしまして……」

 

ストレートに感謝され、優人は照れ臭そうに頭を掻いた。誉められることになれていないらしい。

 

「それと……すまなかったな」

 

「何で謝るんだ?」

 

唐突に謝罪をするバルクホルン。優人は何故彼女が謝るのかわからなかった。

 

「昨晩、殴ってしまっただろ?本当にすまない」

 

そう言いながら頭を下げるバルクホルン。

 

「なっ、何言ってるんだ!?お前は別に悪くないだろ?俺が余計ことを言ったから……俺こそ悪かった」

 

そんなバルクホルンを見て、優人は慌てて言い返す。実のところ、バルクホルンは優人の言動に腹を立てたというよりは彼が自分の妹と仲良く過ごしている姿に嫉妬してしまっていた、というのが殴った一番の理由だったりする。

 

「いや!どんな理由であろうと友人に手をあげてしまったんだ!許されないのは私の方だ!」

 

「友人?」

 

「あっ、すまない。馴れ馴れしかったな……」

 

バルクホルンは頬を赤く染めて恥ずかしそうに言う。どうやらバルクホルンは素っ気ない態度を取りながらも、優人のことを友人だと思っていたらしい。バルクホルンはそのまま話を続ける。

 

「私達は歳も階級も同じだ、それにお互いに妹がいる。お前さえ良ければ、その、今からでも友人になって欲しい」

 

「…………………」

 

「い、いや!嫌なら別にいいんだ!」

 

優人から返事がないため、不安になり眼を背けるバルクホルン。今までの態度や手をあげてしまったことを考えれば仕方ないか、と彼女は思った。しかし、優人の方はバルクホルンの言葉をが嬉しくて頬が緩むのを抑えられずにいた。

 

「……今からなるのは無理だ」

 

「えっ?」

 

優人の言葉に反応してバルクホルンは視線を戻す、そこには笑顔の優人がいた。

 

「俺達はとっくに友達で家族だろ?」

 

優人にそう言われてパァッ、と笑顔になるバルクホルン。普段はあまり笑わない彼女だが、その笑顔を優人は素直に可愛いと思った。

 

「あっ、それと」

 

「なんだ?」

 

「ミーナから聞いた。お前は書類仕事で苦労していると……」

 

「ま……まぁな」

 

優人の目が虚ろになる。バルクホルンの言葉で机に積まれた大量の書類を思い出したしまったらしい。

 

「その書類仕事!私がやらせてもらう!」

 

「えっ?」

 

「お前には借りがある!毎日は無理だが、3日に一度くらいは代われる!」

 

「本当にいいのか!?」

 

「カールスラント軍人に二言はない!」

 

キリッとした表情で宣言するバルクホルン。ここまで言われると断りづらい。押し付けるわけではない、相手の厚意に甘えるだけだ。優人はそう心の中で言い訳をしつつ、バルクホルンの申し出を受けた。

 

「じゃあ、頼むよ」

 

「任せろ!」

 

バルクホルンは胸を張ってそう言うと、今度は頼みごとをしてきた。

 

「それと機会があったら、兄妹で妹に会いに来てくれないか?」

 

「もちろんだ!しかし、お前が不調になるほど悩むなんて……妹さんは一体どんな子なんだ?」

 

「クリスか?お前の妹と少し雰囲気が似ているな」

 

「芳佳と?」

 

バルクホルンの妹が芳佳と似ている、そのことを優人は意外に思う。彼はバルクホルンをそのまま小さくしたような規律に厳しい、生真面目な少女を思い浮かべていたからだ。彼女の妹は意外にお転婆なのだろうか。

 

「あっ、でもクリスの方がずっと美人だがな」

 

「……なに?」

 

バルクホルンのシスコンな発言に反応し、優人の眉がピクッと動いた。

 

「お前の妹がどれほど美人か知らないが……芳佳の方が美人だ!」

 

優人の方も負けじとシスコン発言をする。

 

「なんだと!?」

 

「芳佳の方が美人だと言ったんだ!」

 

「確かにお前の妹も美人だが……クリスの方が上だ!」

 

「いや、芳佳だ!」

 

「いーや!クリスだ!」

 

「芳佳だ!」

 

「クリスだ!」

 

「芳佳!」

 

「クリス!」

 

不毛な争いを繰り広げる二人の大尉、両者一歩も譲らない。統合戦闘航空団に所属する二名のスーパーエースがこんなことをしていると知ったら、世のウィッチやウィザード達は幻滅するだろう。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

二人はしばらくにらみ合いを続ける。

 

「…ぷっ………」

 

「……ははっ……………」

 

「「はははははははっ!」」

 

言い争いをする自分達が可笑しく思えたのか、笑い合う優人とバルクホルン。優人は笑いながら、昨日執務室でミーナと話したことを思い出していた。

 

『実はトゥルーデにはね……姉バカなところがあるの』

 

『姉バカ?バルクホルンが?』

 

『意外かも知れないけど本当よ……ね?あなたと似ているでしょ?』

 

(確かに似ているな。俺とバルクホルンは……)

 

言われた時は信じられなかったが、今のバルクホルンを見て納得する優人。優人はバルクホルンに向かって右手を差し出した。

 

「それじゃあ、改めてよろしく!ゲルトルート・バルクホルン!」

 

「あ……あぁ!よろしく頼む!宮藤優人!」

 

バルクホルンはそう言って握り返す。同世代の男性とあまり関わりのない彼女にとって優人は初めて出来た異性の友人だ。嬉しさのあまり力が入り過ぎており、優人は若干の痛みを覚えた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

翌朝。廊下を走る芳佳とリーネの姿があった。

 

「寝坊しちゃった!」

 

「芳佳ちゃん!きっともうみんな起きてるよ!」

 

二人は料理担当だが今日は寝坊してしまったらしい。身だしなみからもそれが伺える。芳佳は髪に寝癖が残っており、リーネはネクタイを締め忘れている。

二人が食堂に到着すると、ペリーヌ、シャーリー、ルッキーニが入り口から食堂内を覗き込むように見ていた。芳佳は三人が一体何をしているのか気になり、声を掛けた。

 

「皆さんどうしたんですか?」

 

「あっ!芳佳、リーネ!おはよぉ!」

 

二人に気付いたルッキーニが挨拶をする。

 

「それがなぁ……まぁ、中見てみろよ」

 

「えっ?」

 

「なに?」

 

シャーリーに言われて、芳佳とリーネは中を見る。食堂には坂本、ミーナ、ハルトマンがテーブルに着いて朝食を待っている。夜間哨戒をしていたサーニャとそれに随行していたエイラは今寝ているためいない。次に二人はキッチンの方に目をやる。そこにはエプロンをして朝食を作っている優人とバルクホルンがいた。

 

「ん?おはよう。ってお前ら何してる?」

 

優人が入り口の五人に気付き、声を掛けてきた。

 

「朝食ならすぐに出来るから、座って待っていてくれ」

 

と優しく微笑むバルクホルン。五人は戸惑いながらも言葉に従い、席に着いた。

 

「優人、味噌汁味見してくれ」

 

「ああ……おっ!いい味出てるな!」

 

「ふふっ!私が本気を出せばこんなものだ!」

 

バルクホルンの作った味噌を小皿を使って味見する優人と、優人に味噌汁を誉められ胸を張るバルクホルン。

 

「ねぇシャーリー。二人ってあんなに仲良かったっけ?」

 

いつもと違う二人を見てルッキーニがシャーリーに訊ねる。

 

「いや、仕事以外で話しているとこあんまり見たことないぞ」

 

シャーリーもどういうことかわかっていなかった。二人を含め、後から食堂にきた五人は急に仲が良くなった優人とバルクホルンを見て、軽く動揺している。

 

「まるで新婚夫婦みたいだな」

 

「新婚!……」

 

「……夫婦!」

 

ハルトマンがにやつきながら言う。その言葉を聞き、リーネとペリーヌは顔を赤くする。

 

「美緒。扶桑のことわざではこういうことを『雨降って地固まる』って言うのかしら?」

 

「二人が受けたのはビームの集中放火だかな」

 

二人が揉めていたことを実は知っていたミーナと坂本が微笑みながら言う。

 

「なんかお兄ちゃん……楽しそう……」

 

軽く膨れる芳佳。彼女は優人とバルクホルンの仲の良さに嫉妬していた。

その数十分後、基地宿舎の廊下にて。

 

「芳佳だ!」

 

「クリスだ!」

 

「芳佳!」

 

「クリス!」

 

「何やってんダ?うるさくて眠れやしないぞ」

 

「喧嘩?」

 

またしても不毛な争いを繰り広げる優人とバルクホルンが呆れ目のエイラと眠そうに目を擦っているサーニャによって目撃された。


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