ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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サーニャがサーニャっぽくないかも……


第22話「地上の兄と夜空の妹」

1944年8月18日の夕刻、兄藤痴漢行為事件(命名エイラ)という事件が発生した。宮藤優人大尉の不注意から入浴中の宮藤芳佳軍曹、サーニャ・V・リトヴャク中尉、エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉と風呂場で鉢合わせてしまったのだ。

この件はユーティライネン少尉によって第501統合戦闘航空団司令ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐に報告され、同少尉から宮藤大尉への厳しい処罰を求める声が強く上がった。

しかし、こういった事態を避けるために用意されていた『ウィッチ入浴中』の札を掛け忘れていた少尉達にも非があり、さらに宮藤軍曹とリトヴャク中尉も大尉への強い処罰を望まず、騒動中に宮藤大尉が負傷したことや三人に対して宮藤大尉が扶桑式謝罪法(土下座)で必死に謝罪したことから不問に付された。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同日の夜、501基地宿舎。

 

「はぁ~……」

 

夕食を終えたウィッチ達が談話を楽しんでいるミーティングルーム。その隅っこでは優人は膝を抱えて、大きく溜め息を吐いていた。

 

「優人のやつ、一体どうしたんだ?」

 

ソファーに座ったシャーリーが重たい空気を纏った優人を遠目で見ながら言う。

 

「あの落ち込み具合、頭からキノコが生えてきそうだね」

 

と目を眇めるハルトマン。ミーティングルームには二人の他にリーネ、ペリーヌ、バルクホルン、ルッキーニが集まり、テーブルを囲んでお茶をしていた。皆紅茶を飲んでいたが、ルッキーニのみ「眠れなくなるといけないから」とリーネがホットミルクを用意していた。飲んですぐに身体が温まったルッキーニは二日前の夜と同じく椅子で丸くなって眠っている。

 

「なんでも、夕方から芳佳ちゃんに無視され続けてるみたいで……」

 

リーネが説明すると周囲から驚きの声が上がった。

 

「はぁ?あの『お兄ちゃん大好き』を絵に描いたような芳佳が?」

 

「稀有なことがあるものですわね」

 

シャーリーとペリーヌが信じられないと言った顔をする。

 

「そうなんだよ……」

 

話を聞き付けたらしい優人。今の彼は顔が幽霊のように青く、ゾンビのようにふらついた足取りでウィッチ達の元へ近寄る。

 

「ひっ!?」

 

あまりに変わり果てた優人を見て、リーネが悲鳴を上げた。

 

「スゴく怒ってるみたいで……目があったら背けられるし、近付くとそっぽ向かれるし、声を掛けたら逃げられるし……それにそれに」

 

「こりゃ重症だな……」

 

ブツブツと蚊の泣くような声で呟き続ける優人を見て、シャーリーの顔がひきつる。芳佳が優人を無視しているのは、言うまでもなく風呂場の一件が尾を引いているためだ。優人もそれは理解している。

 

「気持ちは痛いほど分かるぞ優人!」

 

優人のシスコン仲間であるバルクホルンが床を蹴って立ち上がる。

 

「私も……クリスから露骨に避けられたり、拒絶されたりしたら……」

 

「バルクホルン……」

 

目に涙を浮かべて固い握手を交わす扶桑の兄バカとカールスラントの姉バカ。数ヶ月前まで言葉など殆ど交わさなかった二人だが、現在はシスコン同士ということもあって周りがドン引くほど距離が縮まっている。

 

「で……どうすんの?このままだと優人は一生芳佳に口を聞いて貰えなくなるよ?」

 

「いっ……一生……だと?」

 

ハルトマンの言葉を聞いて優人は膝から崩れ落ちた。顔色が真っ青から真っ白に変わり、目からは涙が滝のように流れている。

 

「ハルトマン中尉、トドメを刺さないでくださいまし」

 

軍人としてもウィザードとしても使い物にならなくなってしまった扶桑海軍大尉を横目で見て、ペリーヌは溜め息を吐いた。

 

「優人さん、温かい紅茶をどうぞ」

 

「あっ……ありがとう」

 

優人はリーネから紅茶のカップを受け取り、口をつける。紅茶を飲んで多少は落ち着いたらしい。涙が止まり顔色も良くなった。

紅茶を渡したリーネとペリーヌは優人のことを部隊のお兄さん役の様な存在として認識していただけに、あまりに普段と掛け離れた今の優人に内心当惑している。

 

「だが、ハルトマンの言うことにも一理ある。早急に手を打たねば……」

 

バルクホルンが真剣な面持ちで言う。ウィッチの中で一番優人の親身になっているのは彼女だろう。

 

「避けられている原因に何かお心当たりはありませんの?」

 

「……実は――」

 

ペリーヌに訊ねられた優人は意を決して風呂場での出来事を話始めた。

 

「なるほど、そういうことか」

 

優人の話を聞いて納得したシャーリーがポンッと手を叩いた。いくら家族とはいっても芳佳は年頃の女の子、男である優人に超至近距離で裸を見られてしまっては怒り心頭に発するの当然だろう。

 

「札を立てておかなかった三人も三人ですけれど、宮藤大尉も不注意過ぎですわ」

 

「返す言葉もございません……」

 

ペリーヌから厳しい言葉を賜った優人はガックリと項垂れる。

 

「あの……多分、芳佳ちゃんは怒っているわけではないと思うんです」

 

リーネが手を挙げながらおずおずと言う。

 

「いやいや、怒ってないならなんで優人を避けるんだ?」

 

とシャーリーが怪訝そうな顔をして訊く。

 

「えって、その……見られちゃったから……恥ずかしくて優人さんの顔を直視できないんだと……思います」

 

段々と赤くなりながらもリーネはどうにか言い切る。要するに芳佳は羞恥心や気まずさから優人を避けている、ということだ。

 

「原因はわかったけど……どうしたら?」

 

優人がすがるような目でウィッチ達を見る。

 

「定番だけど、プレゼントでご機嫌取りとかは?」

 

「プレゼントか……そう言えば、今日は俺と芳佳の誕生日だ」

 

シャーリーが提案すると優人が思い出したように呟いた。

 

「あら、兄妹で同じ誕生日ですの?」

 

「まぁな……」

 

ペリーヌの質問に優人は曖昧な返事をする。厳密には違うが、話す必要を感じなかったため優人は詳しい説明をしなかった。

 

「おっ!誕生日ならちょうど良いじゃんか!バースデープレゼントとして自然に渡せるな!」

 

「でも、プレゼントなんて今から用意出来るの?」

 

ハルトマンが欠伸を噛み締めながら訊く。バルクホルンとは違い、あまり真剣ではなさそうだ。

 

「う~ん、今から買い物には行けないしなぁ……」

 

優人は考え込んだ。普段から妹を溺愛している彼ならば1ヶ月くらい前からプレゼントを用意していそうなものだが、軍務の多忙さや父の命日と重なっていることから芳佳が喜んでくれるかどうか分からず、準備に逡巡してしまっていた。

 

「だったらバースデーカードにしたらどうだ?」

 

「バースデーカード?」

 

シャーリーの口から出た聞き慣れない単語を優人が繰り返した。

 

「バースデーカードって言うのは……誕生日を迎えた人にメッセージを添えて送るカードなんです」

 

シャーリーに続くようにリーネが説明する。どうやらリベリオンや欧州では極一般的なの習慣のようだ。

 

「おっ、それなら今日中に出来そうだな!みんな!作り方教えてくれ!」

 

仲間からアドバイスを貰った優人は彼女達の指導の元、早速カード制作に取りかかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、芳佳、サーニャ、エイラの三人は月明かりに照らされた雲の海を飛んでいた。

 

「ごめんね、二人ともお兄ちゃんが……うぅ」

 

謝罪の途中で芳佳は赤面した顔を両手で抑えた。至近距離で裸を、超至近距離で胸を見られてしまった。このことは当分忘れられそうもない。そして、芳佳が今日以上に恥ずかしい思いをすることはおそらく一生ないだろう。

 

「まったくダ!」

 

エイラが苛立たし気に吐き捨てる。色白な肌が印象的な彼女も顔が真っ赤にしていた。こちらは羞恥心ではなく怒りが原因だ。

 

 

「ミーナ隊長も坂本少佐も何で兄藤みたいな痴漢を部隊に置いて置くンダヨ!」

 

「うぅ……酷い言われよう」

 

エイラの言葉を聞いてへこむ芳佳。不可抗力とはいえ、裸を見られている。エイラが怒るのも当然と言えば当然だ。しかし、エイラは自分よりもサーニャを見られたことに憤慨している。

 

「エイラ……そんな言い方をしてはダメよ」

 

とサーニャがエイラを注意した。

 

「で、でも……アイツは」

 

「エイラだって、お姉さんのことを悪く言われたら嫌でしょ?」

 

「うっ……」

 

言い負かされてしまうエイラ。『無傷のエース』、『ダイヤのエース』と称される彼女もサーニャ相手では形無しだ。

 

「何でサーニャは兄藤の肩を持つンダ?」

 

エイラは不満気に唇を尖らせた。

 

「私は何度か宮藤大尉と夜空を飛んだことがあるから」

 

「ナ、ナンダッテェエエエエエエ!!」

 

驚愕に染まったエイラの叫び声がブリタニアの夜空に木霊する。エイラは優人とサーニャがそこまで親しい関係だとは思ってなかった。続いて芳佳もサーニャに訊ねる。

 

「サーニャちゃんって、お兄ちゃんと仲良かったの?」

 

「そこまでじゃないけど……、501に来たばかりの頃に大尉と夜間哨戒に出ていたから」

 

サーニャによれば、彼女が配属されて数日間は優人と組んで夜間哨戒に出ていたらしい。ナイトウィッチであるサーニャに夜間飛行で教えることは何もないので、哨戒ルート確認の意味合いが強かったようだ。

母国やウィーンでも見たことがないウィザード相手にサーニャは緊張していたが、優人は優しくしてくれたので少しずつ慣れていったとのこと。

 

(お兄ちゃん……って、サーニャちゃんとも仲良しだったんだ)

 

顔を俯かせる芳佳。小さい時から優人が自分以外の女の子と仲良くしている姿を見ると胸が痛んだり、モヤモヤしたりしていた。成長するに連れて、それが嫉妬という感情なのだと理解していった。

このことを母に相談すると「大好きなお兄ちゃんを盗られたくないのね」と微笑ましそうに笑っていたが、芳佳は優人を盗られることはもちろん、誰かに嫉妬心を抱いてしまう自分自身が嫌だった。

 

「大尉はよく宮藤さんの話をしてくれたの」

 

「私の?」

 

芳佳は目を丸くする。

 

「可愛くて優しくて、自分には勿体無い最高の妹だって……毎日聞かされたわ」

 

「シスコン極まれりダナ」

 

サーニャから優人の新たなシスコンエピソードを聞いて、エイラは怒る気も失せる。呆れ顔のエイラに微笑むとサーニャは芳佳に視線を戻した。

 

「大丈夫よ宮藤さん」

 

「へっ?何が?」

 

「嫉妬しない人なんて一人もいないわ。それに大尉にとって一番大切な人はあなただから……」

 

「へっ?はっ?えへへ……あ、ありがとう」

 

まるで自分の心を見透かしているようなことを言うサーニャに芳佳は頭を掻きながら照れ笑いを返す。これも魔導針の力なのだろうか。

 

「ねぇ聞いて……」

 

芳佳がストライカーを吹かして、二人の前に出る。

 

「今日はね、私とお兄ちゃんの誕生日なの!」

 

「え?」

 

芳佳の告白を聞いて面食らうサーニャ。

 

「ナンダ?兄妹揃って同じ日なのカ?何で黙ってたんダヨ?」

 

と訊ねるエイラ。

 

「私達の誕生日は父さんの命日でもあるの。何だかややこしくてみんなに言いそびれちゃった」

 

「あっ……」

 

訳を説明する芳佳。彼女の話を聞いたサーニャの瞳に影が宿る。

 

「馬鹿ダナァ、オマエら。こういう時は楽しいことを優先したっていいんダゾ?」

 

命日という言葉を発してからほんの少し元気だけ無くなった芳佳に対し、エイラが励ますように言う。

 

「え~、そういうものかな?」

 

「そうダヨ~」

 

微笑むエイラ。彼女らしい優しさに元気づけられ芳佳とサーニャもつられて笑顔になる。

 

「宮藤さん……耳を澄まして」

 

サーニャは芳佳の隣に来るとそっと囁いた。

 

「え?」

 

サーニャの言う通り、耳に神経を集中させる芳佳。やがてインカムから雑音混じりに人の声や音楽が聞こえ始める、それは次第に内容がわかるほどハッキリしてきた。

 

「……あれ?何か聞こえてきたよ?」

 

「ラジオの音……」

 

不思議そうな表情を浮かべる芳佳にエイラがボソリと呟く。心無しか、その声はいつもよりもぶっきらぼうだった。

 

「夜になると空が静まるから、ずっと遠くの山や地平線からの電波も届くようになるの」

 

「へえ~、すごいすごい!こんなことできるなんて!」

 

説明を聞いて芳佳が興奮してはしゃぎだす。

 

「うん、飛ぶ時はいつも聞いてるの」

 

「二人だけの秘密じゃ無かったのカヨ~」

 

エイラがサーニャに近寄り、少し不満気な表情で囁いた。

 

「ごめんね。でも、今夜だけは特別」

 

クスリと微笑みながら言うサーニャ。これはサーニャから芳佳へのプレゼントらしい。

 

「……ちぇっ、しょうがないナ~」

 

速攻で許すエイラ。そして、腕を頭の後ろで組んでローリングしながら離れていった。

 

「えっ?どうしたの?」

 

エイラの反応が気になり、芳佳がサーニャに尋ねる。

 

「うん、あのね……」

 

「あのな!今日はサーニャも……」

 

エイラがサーニャの代わりに答えようとした。その時――

 

「あっ!?」

 

リヒテンシュタイン式魔導針が激しく点滅した。同時に微笑んでいたサーニャの表情が強張る。

 

「どうしタ!?」

 

エイラがサーニャを心配して問い掛ける。すると、サーニャが受信した音が夜間専従班のインカムに流れてくる。

 

「!?……ナンダ!?」

 

「これ歌だよ!」

 

その音にエイラと芳佳が反応する。低いうなり声のような不気味な音、しかしそのリズムには聞き覚えがあった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、501基地管制塔。

 

「これが……ネウロイの声?」

 

基地管制塔の司令室では坂本とミーナもスピーカーから大音量で流れてくるネウロイの歌を聞いていた。今までに無かったネウロイの行動に二人とも困惑している。

 

「サーニャを真似てるってのか!?……サーニャは!?」

 

「夜間飛行訓練中のはずよ、宮藤さんたちと一緒に」

 

ミーナはローテーション表を確認しながら答える。

 

「すぐ呼び戻せ!」

 

「無理よ!この状態じゃどこにいるのかも……」

 

ネウロイは歌うだけでなく、魔導波に酷似したものによる電波干渉を起きている、501基地に設置されている最新のレーダーが機能していない。レーダースコープの表示画面は激しく乱れ、何も読み取れない。基地は目を失ったも同然、通信も繋がらない。

 

「そうか……敵の狙いは……」

 

坂本はネウロイの目的に気付き、唇を噛んだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

歌が続く夜空。サーニャはその場を動くことも出来ずに黙ったまま、虚空を見つめていた。

 

「……どうして?」

 

茫然としながら呟くサーニャ。ネウロイが歌を唄い、魔導波を使っている。その上、歌はいつも自分が口ずさんでいる歌に間違いない。

 

「敵か!?サーニャ!!」

 

「ネウロイなの!?どこ!?」

 

「二人とも避難して!」

 

何かを感じ取ったサーニャはそう告げるユニットの回転数を上げて急上昇する。

 

「あっ!?」

 

急に自分達から離れて行ったサーニャを見て、芳佳が驚きの声を上げる。直後に雲の中を高速で移動していたネウロイがサーニャ目掛けてビームを発射した。直撃は免れたが、掠めたビームによってサーニャの左足のストライカーを吹き飛ばした。

 

「サーニャ!!」

 

バランスを崩し、墜ちてくるサーニャをエイラが抱き止めた。

 

「バカ!ひとりでどうする気ダヨ!」

 

無茶をしたサーニャをエイラが怒鳴りつけた。

 

「敵の狙いは私……間違いないわ。私から離れて……一緒にいたら……」

 

「馬鹿!ナニ言ってンダ!」

 

「そんなこと出来るわけないよ!」

 

震えながら言うサーニャにエイラと芳佳が反論する。

 

「……だって――」

 

「……宮藤、サーニャを頼むゾ」

 

「え?……う、うん」

 

エイラはサーニャを芳佳に任せると、自身のMG42を背負い、サーニャのフリーガーハマーを手に取る。

 

「どうするの?」

 

と芳佳が訊くとエイラが二人に向かって振り返った。

 

「サーニャは私に敵の居場所を教えてくれ。大丈夫、私は敵の動きを先読み出来るからやられたりしないよ」

 

再びネウロイが高速で接近してくる状況の中、エイラは優しく語りかけた。

 

「あいつはサーニャじゃない。あいつはひとりぼっちだけど、サーニャはひとりじゃないダロ?私達は絶対負けないよ!」

 

力強いエイラの言葉に芳佳もサーニャに微笑んだ。

 

「……うん」

 

サーニャは頷くと芳佳の肩に乗せた手に力を込める。




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