突貫作業で仕上げたので文章がおかしかったり、不十分かもしれません。
日が登ったばかりでまだ薄暗い明け空。レシプロストライカーのプロペラ音がブリタニア南東部上空に響いていた。音を追うようにして空を見上げるとストライカーユニットを装着して飛んでいるウィッチの姿が確認出来た。サーニャだ。
サーニャが履いているユニットはオラーシャ帝国のミール・ガスゥダールストヴァ設計局が開発したMiG60。サーニャの機体は初期型に見られた様々な不具合を修正した後期型。高々度用の魔導エンジン『AM-35A』を搭載し、夜間用の塗装が施されている。
「ふぁ~……」
夜間哨戒を終え、愛機と共に基地へ帰投中のサーニャが欠伸を漏らす。ナイトウィッチである彼女はブリタニアと仲間達の安眠を守るために昨晩から今朝にかけて哨戒任務に従事していた。その疲労とネウロイが現れなかった安堵感が強い眠気となって襲い掛かり、彼女の目蓋を重くしている。
(帰投したらすぐベッドに入ろう……)
サーニャは心の中で呟くと基地の滑走路へ降りていった。降下する直前にもう一度、大きめの欠伸を漏らしていた。
◇ ◇ ◇
数十分後。基地内に起床ラッパが鳴り響き、宿舎の自室から優人が出てくる。何年も愛用して普段着も同然となっている扶桑海軍第二種軍装の制服をビシッと着こなし、廊下で軽くストレッチをする。
「ふぁ……」
ふと欠伸を漏らす。昨晩、遅くまで読書をしていたので寝不足なのだ。
本は心を豊かにしてくれる物だったり、現実逃避の道具だったり、退屈な物だったりと人によって印象は様々だ。本から蓄積された言葉や知識は人生の糧になる、という人間がいるが、つい最近まで多忙だった優人の部屋には知識よりも未読の本が蓄積されている。
「寝坊しちゃった……」
隣の部屋から芳佳が出てくる。彼女は寝間着のまま着替えておらず、手に枕を抱えていた。目は眠たそうな半開きで、髪も所々寝癖になっている。
「おはよう芳佳」
「お兄ちゃん?おはよぉ」
目覚めが悪い芳佳は舌足らずな口調で答えるが顔は優人ではなく、自室のドアに向けられている。自分と間違えてドアに挨拶する妹にシスコン兄は呆れつつも可愛いと感じてしまった。
「お~い……お兄ちゃんはこっちだよ」
「ふぇ?」
気の抜けた声を漏らした芳佳は、今度こそ優人の方を向く。早くも目蓋が下がり始め、さらに目が細くなっている。
「ほら!今日は坂本に朝練を見て貰うんだろ?顔洗って、髪直して、制服に着替えなさい」
芳佳の目を少しでも覚まそうと、優人は彼女の頬をペシペシと叩くが芳佳は「う~ん」と鈍い反応したのみで覚醒には至らない。そのままゆったりとした動きで部屋へ戻っていった。
寝坊したというのに焦ることなく、のんびりとしている妹。このような状態で朝練に行けば、坂本の「馬鹿者っ!!」が炸裂するだろう。
「遅刻遅刻!……きゃっ!」
「うわぁっ!」
心配そうに芳佳を見ている優人に誰かがぶつかった、ペリーヌだ。18cm身長差があるため、まるでペリーヌが自分の顔を優人の胸に埋めるかのようになった。
「いたた……」
痛みで涙目になったペリーヌは、優人から離れるとぶつかって赤くなった鼻を右手で押さえる。
「大丈夫か?」
優人は顔を傾けて訊ねる。慌てぶりから察するに彼女も寝坊したのだろうが、同じく寝坊した芳佳とは対照的に髪から服装まで身がしっかり整えられている。貴族生まれであるペリーヌの育ちの良さ故か、軍人としての自覚の差が出てしまっているのか。あるいはその両方か。
「宮藤大尉?失礼致しました!」
ペリーヌは自身の前方不注意を侘び、ペコリと頭を下げる。ペリーヌの顔を見た優人はあることに気付いた。
「あれ?眼鏡は?」
「あっ!私としたことが……」
ペリーヌは自己調達の青い制服と並んで、自身のトレードマークである眼鏡を掛け忘れていた。それが原因で優人にぶつかったのだろう。
服も髪も完璧なのに視力が低い人間にとって必需品であるはずの眼鏡を忘れるというミス。以前のペリーヌならあり得なかった。寝坊したことといい、最近一緒にいることが多くなったリーネのドジッ娘属性が移ったのかも知れない。
「ペリーヌにもこういうことがあるんだな……フフッ」
自然と笑みを零す優人に憤然としたペリーヌは抗議の目を向ける。
「大尉っ!」
「ごめんごめん!それにしても……」
優人は軽く謝罪すると顔を近付け、ペリーヌのことをマジマジと見る。
視力低下がかなり進んでいるペリーヌは裸眼では視覚がぼやけてよく見えない。それ故に入浴時や水泳時も眼鏡を離さず、外すのは就寝時のみ。何気に優人がペリーヌの素顔を見たのは初めてだ。
「何ですの?人の顔をジロジロと……」
「いや……眼鏡がないとペリーヌの美人顔がよく見えるなぁ、って」
「……へっ?」
素で口説き文句のようなことを言う優人。ペリーヌは何を言われているのかすぐには分からなかったが、程なくして言葉の意味を理解し、茹で上がったロブスターのように顔を真っ赤にする。
「――っ!」
「ちょっ……ペリーヌ!?」
声にならない悲鳴を上げたペリーヌは、まるで逃げるかのように廊下を駆けていった。ボヤけてよく見えないはずの視界で全力疾走していくのはかなり危険だが、今のペリーヌにはそんなことを考える余裕はない。
「なんだ?」
「お兄ちゃん」
「ん?」
優人が走り去っていくペリーヌの後ろ姿を不思議そうに見ていると、制服姿で戻ってきた芳佳に声を掛けられた。今度は眠い目ではなく、ジト目で優人を見上げていた。
「おっ?ちゃんと起きたか?」
「ペリーヌさんと何してたの?」
「えっ?」
「口説いてたよね?」
ズイッと顔を寄せてくる芳佳。その迫力に優人はたじろぎ、冷や汗を掻く。
「く、くど?」
「まぁペリーヌさんは美人でスタイルも良いし、お兄ちゃん好みの金髪さんだしね」
「よ、芳佳?一体どうし――」
「何でもないですよ~だ!」
あからさまに怒りを見せた芳佳はべ~っと舌を出すと、早歩きで優人から離れていった。呆然としながら去っていく妹を見つめていると、優人の耳が豪快な笑い声を捉えた。
「あっはははは!なんだ?朝から妹を怒らせたのか?」
「シャーリーか?人の不幸を笑……って何だ!?その格好は!?」
振り返った優人は驚愕する。後ろにいたシャーリーはなんと下着姿だったのだ。
「なんて格好しているんだ!!」
「いやぁ、最近夜も暑いからさ。ジャージだと蒸して寝苦しいんだよねぇ」
と頭を掻くシャーリー。彼女が着ているピンク色の下着はレースの付いたトップスと、小さなリボンの付いたローライズのボトムからなっている。
アダルティなデザインのトップスはシャーリーの豊満な胸をよりセクシーに魅せ、一見清楚な印象受けるボトムも明らかにサイズが小さく、お尻がはみ出ている。
シャーリーは基本的にトレードカラーの赤いジャージを寝間着にしているが、今日のような真夏日はこの下着を着て眠っている。
「暑いのはわかったから、そんな格好で俺の前に現れないでくれ!」
目のやり場に困った優人はシャーリーから顔を逸らして懇願する。確かに夏の暑さの中では快適かもしれないが、朝からこんな刺激的な姿を見せつけられては優人の心臓と理性が持たない。
狼狽する優人に悪戯心を擽られたシャーリーは、ニヤリと笑みを浮かべて優人との間合いを詰める。
「おっ?あたしのダイナマイトボディに悩殺されたか?前から思ってたけど、優人って意外とボウヤだよな?」
「お前なぁ……」
自分をからかってくるシャーリーに対して、優人は顔を背けたまま視線だけをシャーリーに戻して睨み付ける。
「そう怒るなよ。お詫びに一緒に風呂入って背中流してやるからさ」
「はあぁっ!?」
顔を逸らすことも忘れ、優人は素っ頓狂な声を上げる。シャーリーは優人の反応見て、ゲラゲラと腹を抱えて笑い出した。
「あっははははは!ホントお前は期待通りの反応をしてくれるよな!」
「――っ!」
面白がるシャーリーに青筋を立てる優人。いつもなら一方的にからかわれて終わりだが、やられっぱなしなのは癪だと反撃に出る。
「なら一緒に入って貰おうじゃないか!」
「……え?…………ええええええええぇ!?」
優人の口から出てきた予想外の言葉に、今度はシャーリーが顔を赤くして叫ぶ。
「は、入るって……本気?」
急に汐らしくなったシャーリーはモジモジしながら上目遣いに優人を見る。優人はさらに畳み掛けた。
「何恥ずかしがってんだよ、お前が言い出したことだろ?」
「で、でもさ……あたしは冗談のつも――」
「まさか自分から言い出しておいて……やっぱり止めます、なんて言わないよな?」
「むっ!……」
優人の挑発に眉を潜めるシャーリー。いつもの彼女ならば、この程度挑発は軽く流せそうなものだが、今はそれが出来ないほど動揺しているらしい。
「よ、よぉし!入ってやろうじゃんか!混浴上等!」
「お、おう!それでこそグラマラス・シャーリーだ!」
最早後には引けなくなった二人は風呂場に向かって並んで歩き始める。
「や、止めるなら今のうちだぞ!」
「そ、そっちこそ!」
強気に挑発し合うシャーリーと優人。しかし、心の中では互いに軽はずみな言動を取ったことを悔いていた。
(しまった!このままじゃ、ホントにシャーリーと混浴することに!)
(まさか優人が挑発してくるなんて……マズい!マズいぞ!)
後悔先に立たず、口は災いの元。今の二人にぴったりの言葉だ。こんなことになっても意地を張って、「やっぱり止めよう」と言えない二人の元に救世主にも魔王にも見える人物が声を掛けてきた。
「聞こえたわよ、二人とも」
「ん?」
「えっ?」
優人とシャーリーが声に振り返ると、そこにはミーナがいた。微笑みながらも自分達を威圧するミーナに二人は身震いする。
「仲が良いのは素敵なことだけれども、混浴はダメよ。男女間のけじめはしっかりつけましょうね?何か間違いがあったら大変でしょ?」
「は、はいっ!」
「Yes Ma'am!」
直立不動の姿勢から見事な敬礼をする優人とシャーリー。眉まで上げた手はカタカタと震えている。
「よろしい!優人、私は出掛けるから書類の方お願いね。リーネさんも連れていくから朝食当番も」
「仰せのままに!」
優人の返事にミーナは満足そうな顔で頷くと、二人の間を通り過ぎて行った。優人とシャーリーはしばらく固まっていたが、5分して我に帰ると優人は厨房へ、シャーリーは着替えるため自室へ向けて全力疾走して行った。
◇ ◇ ◇
その頃、ペリーヌ・クロステルマンの自室では――
「うぅ……心臓が落ち着きませんわ……」
優人との会話の後、部屋に駆け込んだペリーヌはドアに背中を預けるようにして立っていた。両手を胸に当て、激しく脈動する心臓を必死に静めようとしていた。顔からも熱が引いておらず、部屋の空気がやたらと涼しく感じられた。
――ペリーヌの美人顔がよく見えるなぁ。
「もう!宮藤大尉があんなキザなことをおっしゃるなんて!」
優人の言葉を思い出し、憤慨するペリーヌ。以前ならば、同じことを言われたとて、多少照れ臭くなる程度でここまで取り乱したりすることはなかった。
自分は一体どうしてしまったのか、と考えているとベッドの上に置かれた手鏡が目についた。ペリーヌはそれを手に取ると、自分の顔を映してみる。彼女はまだ眼鏡を掛けていない。
「……コンタクトにしてみようかしら?」
◇ ◇ ◇
同時刻。基地滑走路脇の草地には、木刀を手にした芳佳が真摯な表情で素振りをしていた。隣では坂本が其を見守っている。
「せいっ!やぁ!せいっ!やぁ!せいっ!やぁ!」
声を上げ、一心不乱に木刀を振り下ろす芳佳。そんな彼女の姿に坂本は感心する。
「ほぉ……今日は一段と気合いが入っているな」
体格が小柄なこともあって木刀を振る、というより振られている観のある芳佳。いつもなら坂本から「腰が入っていない!」「利き手の力が足りていない!」等とお叱りを受ける。
しかし、今日は普段よりも力強く、声もよく出ている。飛ばし過ぎてすぐにバテるのかと心配していた坂本だが、そんな様子もない。
(何さ、お兄ちゃんってば)
兄がペリーヌを口説いていた(ように見えた)風景を思い浮かべ、木刀を握る芳佳の手に力が込もり、素振りがさらに速くなる。
「せいっ!やぁ!せいっ!やぁ!」
(何やら殺気だっているな……)
芳佳の様子が気になりはしたものの、坂本は特に追求せずに指導に集中した。芳佳のかけ声と木刀が鋭く風を切る音が周囲に響いた。
◇ ◇ ◇
さらに舞台は代わり、基地の食堂へ移る。食堂内には優人、バルクホルン、シャーリーの三人がいた。彼らが着いているテーブルの上には優人がふかした大量のジャガイモが大皿に盛られていた。
「だ~れも起きてこないな」
フォークにジャガイモを刺したシャーリーが不思議そうに食堂内を見舞わす。いつもは賑やかな食堂も今日は優人達三人だけ。大袈裟な表現かもしれないが、まるでお通夜のようである。
「まったく……どいつもこいつも弛んでいる!」
バルクホルンはそう言うと、大口を開けてジャガイモを頬張る。規律の緩さに彼女は苛立っていた。
「芳佳は坂本と朝練、ミーナとリーネはさっき出掛けたよ。あとは何も聞いてないけど」
バルクホルンの向かい隣に座っている優人はそう説明すると、自分のフォークにジャガイモを突き刺し、口に運んだ。
「まぁ、しばらくはネウロイも来ないはずだし。いいんじゃない?」
とシャーリーがお冠なバルクホルンを宥める。バルクホルンは口の中のジャガイモを飲み込むとシャーリーを睨んだ。
「楽観的過ぎだリベリアン、備えよ常にだ」
「これだからカールスラントの堅物は」
シャーリーが呆れ顔で言うとバルクホルンはドン、とテーブルを叩いて立ち上がる。
「貴様が緩すぎるだけだ!そもそも貴様はだな!……」
食堂へ来る前に何かあったのか、ピリピリとしているバルクホルン。シャーリーに馬鹿にされたと思ったらしい。
「落ち着けよバルクホルン!」
このまま喧嘩になることを危惧した優人がバルクホルンとシャーリーの間に入った。
「なんだ!?お前はまたリベリアンの味方をするのか!?」
「いやいや、そうじゃなくて……」
「大体お前は、いっつもいっつもリベリアンやリーネの胸ばかり見て!この前なんて、いかがわしい雑誌を集めて!」
「ちょっ……それは今関係無いだろ!」
自分に矛先を変えたバルクホルンの言葉にムッとなる優人。バルクホルンは構わず続けた。
「ある!お前のそういったスケベなところが私は許せんのだ!軍人足るもの清廉潔白であるべきだ!」
「お前なぁ……」
睨み合うバルクホルンと優人。二人が妹以外のことで喧嘩するのは大変珍しい。
「まぁまぁ、二人ともそう興奮すんなよ。同じ大尉同士なんだし、仲良く……なっ!」
「わっ!」
「へ?きゃっ!」
シャーリーに背中を押され、バランスを崩した優人はバルクホルンを巻き込んで転倒してしまう。突然のことに驚いたバルクホルンの口からは普段聞けないような可愛い悲鳴が漏れる。
「いたた……あっ……」
「ふぇっ!?」
目を開けて二人は互いの顔が目の前にあることに気が付いた。優人がバルクホルンを押し倒す形になっていて、しかも互いの吐息がかかり、鼻と鼻がくっつく距離だった。
「えっ……えっ~と」
女の子特有の甘い香りが優人の鼻を擽る。困惑しながらも弁解しようとするが、上手く言葉が紡げない。さらにまずいことに、優人の右腕が制服越しとはいえバルクホルンの胸を鷲掴みにしていたのだ。
「な……な……なぁ!」
「ご、ごめん!」
みるみる赤くなるバルクホルンの顔を見て我に返った優人はすぐさま立ち上がり、逃げるように食堂を後にした。
「顔が……優人の顔が……あんな近くに……」
バルクホルンもぼとなくして身体を起こし、赤面した状態で床にペタンと座り込んだ。
「青春だねぇ……」
元凶であるシャーリーは二人の様子をひとしきり楽しんだ後に他人事のように呟き、次のジャガイモを口に運んだ。
◇ ◇ ◇
「ったく!シャーリーのやつ……」
廊下の壁に手を付き、呼吸を整えていた優人はシャーリーへの怒りを露にする。
不可抗力とはいえ、押し倒した上に胸を掴んでしまった。おそらくは怒り心頭であろうバルクホルン。ほとぼりが冷めるまで優人は彼女と顔を合わせることが出来なくなった。当然、朝食も否応なく中断である。
「ジャガイモまだ一つしか食ってないぞ……ん?」
優人は廊下の隅で丸まっている布の様なものを視界の端で捉える。何だ?と思って摘まみ、拾い上げるとそれはウィッチ用のズボンだった。色は生成り、形はローライズ。優人はこのズボンに見覚えがあった。
持ち主に届けようと優人が立ち上がった途端、狙い済ましたかのように本人が現れた。
「あっ!優人ぉ~おっはー!」
ブンブンと手を振り、スキップをするかのような軽い足取りで近付いてくるのはエーリカ・ハルトマン。
先日の出撃で撃墜数が250に達した501部隊の誇るスーパーエースだ。
今日は彼女自身の表彰式があるというのにそんなもの知らんとばかりに盛大な遅刻をする。しかもまったく懲りた様子がない。優人は理解した、バルクホルンの機嫌が悪かった一番の理由はハルトマンだと。
「おはよう、これお前のだよな?」
「あっ!私のズボン!優人が盗んだの!?」
「違う!そこに落ちてたんだよ!」
ズボンが落ちていた場所を指差して怒鳴る優人。善かれと思って拾ったというのに泥棒扱いされては堪ったものではないだろう。
「そなの?拾ってくれてありがと!」
訝しげな表情から一転、パァッと笑顔となったハルトマンは優人からズボンを受け取る。すると優人は疑問をぶつけてきた。
「お前、まさか下履いてないんじゃ?」
「履いてるよ?ほら!」
ハルトマンは制服の裾を持ち上げて見せる。
「あ、よかった。って……それルッキーニのだろ!?」
確かにハルトマンはズボンを履いていたが、それは彼女の物ではない。ルッキーニが「しましま~!」と呼んで愛用している青のストライプのズボンだった。
「いや~、自分のが見当たんなかったからさ」
「……盗ったのか?」
「む~……人聞き悪いなぁ。黙って借りただけだよ」
「それを盗ったって言うんだよ!」
優人の怒声が飛ぶがハルトマンはあくまでマイペースだった。
「まぁまぁ、細かいこと気にしない」
そう言ってハルトマンは黙って拝借した、事実上窃盗したルッキーニのズボンの両端に指を引っ掛け、優人が目の前にいることも構わずにスルッと下ろした。
「おい!何してるんだ!?」
「何……って、ズボン脱いでるんだよ?」
見てわからない?、とでも言いたそうな顔をするハルトマン。以前、半裸状態で優人のベッドに侵入したことといい、彼女には羞恥心というものがないのだろうか。
「何も廊下のど真ん中で脱ぐことないだろ!」
怒鳴る優人。彼はハルトマンが脱ぐ寸前に両手で顔を覆ったのだが、誘惑に負けて指と指の間からチラチラと見てしまっている。男とは、なんと悲しい生き物よ。
「いいじゃん減るもんじゃないし……よっと」
シャーリーが言いそうな台詞を吐きながらハルトマンは自分のズボンに着替え終えた。
「ところで、朝ご飯何?」
「カールスラントから届いたジャガイモをふかしたよ」
「うわぁ~い!やったー!おイモだ!おイモ~!」
好物のジャガイモの話を聞いたハルトマンは、嬉しそうに飛び跳ねながら食堂へ向かっていく。幸せ一杯と言った表情の彼女を見送りながら、優人は溜め息を吐いた。
まだ朝のうちだというのに優人はすでに疲労困憊。起きたばかりなのに、ベッドに入りたくなってしまった。
「はぁ……」
「優人ぉ~!」
「ん?ぶっ!」
ハルトマンに大声で呼ばれ、顔を上げた優人の顔面に何かが投げつけられた。手に取って見ると、それはハルトマンが先程まで履いていたルッキーニのしましまズボンだった。
「それルッキーニに返しといて~!」
「いや、自分で返せよ!」
「よろしくね~!」
優人の苦情を無視したハルトマンは、ブンブンと手を振ると再びジャガイモの待つ食堂を目指した。かと思えば何かを伝え忘れたのか、もう一度優人の方を向いた。
「私の脱ぎたてだからって、変なことに使わないでよぉ~!」
「使うかぁ!!」
「きゃ~!こっわ~い!」
ハルトマンはわざとらしく怯えると、踵を返して廊下の奥へと消えていった。ハルトマンの姿が見えなくなると、優人はルッキーニのズボンに目をやった。微かに残ったハルトマンの体温がズボンから優人の手に伝わる。
「……ハルトマンの、脱ぎたて……いやいやいや!」
優人はイカンイカンと激しく首を振り、邪な考えを頭から追い出そうとする。
「ルッキーニを探そう」
優人はズボンをポケットに突っ込むと、ハルトマンとは逆方向へ歩を進めた。
宮藤優人、ラッキースケベ全開!
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