第1話「兄と妹」
扶桑皇国。季節は春。美しい桜並木の中を二人の子どもが手を繋いで歩いていた。ひとりは幼く、小さな女の子。もうひとりは女の子よりも大きく、何歳か歳上であろうが年齢よりもしっかりしているように見える。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん~?」
小さな女の子が声を掛け、男の子が返事をする。
「お兄ちゃんは男の子だよね?」
女の子はわかりきったことを聞いてくる。それに対し兄と呼ばれた男の子が答える。
「?……間違いなく男の子だけど、それがどうしたの?」
「男の子なのになんで魔法が使えるの?」
女の子、いや妹の質問に兄は少しだけ考えてから答える。
「うーん…芳佳と一緒に人を助けたかったからかな?」
「私と?」
芳佳と呼ばれた女の子は目をパチクリさせる。
「うん!俺は魔法で悪い人をやっつけて、芳佳は魔法で悪い人に傷つけられた人を治してあげる。そうやって二人で一緒にやっていけばたくさんの人を守れるし、助けてあげられるから」
「そっか~!!」
芳佳は目を輝かせた。
「じゃあ、大きくなったら私はお医者さんになる!そして怪我をした人を治してあげるの!」
「ふふ、ならその頃までにお兄ちゃんはたくさんの人を守れるくらい強い男になるよ!」
兄妹はお互いの夢を語り、互いに応援し合った。互いに優しく温かい笑顔で――。
◇ ◇ ◇
「…………………………」
ブリタニアのとある建物の一室。十代後半程の年齢の少年がベットから起きあがる。
「懐かしい夢だな」
幼い日、妹と夢を語り合った日の夢。すでに忘れかけていた記憶。なぜ彼は今夢で見たのだろうか?
「少し早く起きちゃったな……」
窓から外を見ると空はまだ薄暗い。しかし、眼が冴えてしまい二度寝は出来そうもない。少年はベットから出ると服を着替えた、扶桑皇国海軍の士官の軍服に。
「芳佳、元気かな?」
と、一言呟いて宮藤優人(みやふじ ゆうと)大尉は部屋を出た。
◇ ◇ ◇
「……ん~…………」
扶桑皇国、横須賀にある診療所の一室でまだあどけなさが残る中学生くらいの少女が目を覚ます。学校の宿題をしていてそのまま眠ってしまったようだ。
「えへへ……懐かしい夢見ちゃった///」
少女もまた夢を見ていた。大好きな兄と桜並木で夢を語り合った日の夢を。嬉しくて頬を軽く赤らめなが微笑む。しかし、その笑顔はすぐに暗くなっていく。
大好きな兄とはもうずっと会っていない。軍の仕事で現在は海外で暮らしているらしいがそれ以外は何もわからない。母によれば「お兄ちゃんは仕事で忙しくて簡単には帰ってこれない」らしい。
「お兄ちゃんの…バカ……」
宮藤芳佳はどこにいるかもわからない兄に対して呟いた。
「会いたいよ……」
その目には涙が浮かんでいた。
ここは以前のままです。