ロスマン先生と孝美お姉ちゃんって、アニメだと唇が色っぽいですよねぇ……
「んぅ……あれ?」
目を覚ました優人の瞳が見慣れない天井を捉える。いつもなら目を開けると大きな木材を使用した梁が巡らされた天井と梁に取り付けられた電球が見えるのだが、今日は小さなシャンデリアと軽く装飾が施された天井が視界に現れた。
(昨日はホテルに泊まったんだったな……)
まだ目が覚めきっていない優人は眠たい目を擦り、気だるい身体をゆっくりと起こした。
「痛っ!」
ふと激しい頭痛に襲われて優人は反射的に頭を押さえる。苦痛に歪む顔を伏せると、痛みが治まるのをじっと待った。この痛み方に覚えがある。二日酔いのそれだ。
「飲み過ぎたかな?……いつつ」
昨晩、芳佳の寝顔を堪能した優人はロスマン、クルピンスキーの二人が泊まっているこの部屋を訪れていた。ロスマンと約束した通りクルピンスキーも入れて3人で焼酎で酒盛りをしていた。調子に乗って飲み比べまでしたせいで途中から記憶が全くない。
吐き気や胃のむかつきがないだけマシだが、優人の経験上今日は辛い一日になるだろう。
ふと室内を見渡すと、室内には彼が寝ていた物を含めシングルサイズのベッドが二つにミニテーブル、チェスト、イージーチェア等の調度品が並べられ、ミニテーブルには空になった焼酎の酒瓶3本と同数のグラス、その他にも複数の洋酒が無造作に置かれている。
しかし、一緒に飲んでいたはずのロスマンとクルピンスキーの姿が見当たらない。
「ん?なんかスースーす……る?……ぶふぅぅ!!」
布団の中を覗き込んだ優人は思わず吹き出した。二日酔いの頭痛に気を取られて気が付かなかったが、パンツ一枚履いているだけのほぼ全裸状態だった。
さらに視界の端で恐ろしいものを捉えた気がして恐る恐る目を向けると、そこには素肌にシャツという悩むしい格好で寝息を立てるロスマンの姿があった。布団の中に潜り込み、猫のように丸くなっている。
「……うぅん」
艶かしい声を漏らすロスマン。色っぽく潤んだ唇、ベッド上に乱れた美しい銀髪、大きめのシャツに包まれた華奢さの際立つ身体、白くきめ細かい肌。それらすべてが年齢に見合わず小柄な彼女を扇情的に魅せ、優人は思わず息を生唾を呑んだ。
(下は履いてるのかな?……って、何考えてんだ!!そんなことより……)
自分でも気付かないうちにシャツの裾へ手を伸ばしていた。理性を総動員して腕を引っ込めるとロスマンから顔を背け、煩悩を追い払おうとパンパンと両頬を叩く。
(ど、どういうことだ!?な、なんでこんな格好?それにロスマン曹長と同じベッドに……?)
ほぼ全裸姿の男女が同じベッド眠っていた、前夜に酒を浴びるほど飲む、それが原因で記憶を失う。これらの要素から導き出される答えは一つ。
必死に他の可能性を探るだが、何も思い付かない。記憶を辿ってみるも、元々なかったかのように何も思い出せない。代わりに悩ましい妄想が膨らみ、既に眠気と二日酔いが吹き飛ばした。
「お、俺は……取り返しのつかないことを?」
優人が頭を抱えてビクビクと震えているとバスルームの扉が開かれ、中からバスローブ姿のクルピンスキーが出てくる。
「あっ……優人君、起きたんだ?おはよう」
タオルで濡れた髪を拭きながら、軽く手を上げて優人に挨拶をする。
先に目覚めた彼女は朝シャワーを浴びていた。広く開かれたバスローブの胸元からは豊かな谷間が覗き、薄い生地はキュッとしまった腰を強調し、短い丈は美しい生足を露出させる。シャワーの熱い湯を浴びたことで灯された紅が肌を鮮やかに彩っている。
否でも応でも女性らしさを感じさせられる美しいボディラインに優人は釘付けとなる。
「おやおやぁ?君は何処を見てるのかなぁ?」
クルピンスキーに指摘され、優人は慌てて目を逸らすが時既に遅し。クルピンスキーはニヤニヤと笑みを浮かべる。
「シャワー上がりの女を前にして、何か期待しちゃった?」
「……殴るぞ」
「おおっと、恐い恐い。冗談だよ冗談」
キッと睨み返されたクルピンスキーは両手を軽く上げて降参のポーズを取る。優人は『期待しちゃった?』と言われた際に不覚にもドキッとしてしまった自分を憎く思った。
「……ところで、何で俺は……こんな格好でロスマン曹長と……その、寝てるんだ?」
訊いていいものか分からなかったが、意を決した優人は単刀直入に切り出してみる。
「あれ?覚えてないの?」
「えっ?」
「昨晩の優人君すごかったのに……」
そう言ってクルピンスキーはクスリと唇を綻ばせる。対する優人は顔から血の気を引いていくのを感じた。
「な、何だその反応は!?俺はクルピンスキーやロスマン曹長に何をしたんだ!?」
「クルピンスキーじゃなくてさ……昨日みたいに“トゥルト”って呼んでくれないかな?」
僅かに頬を紅潮させたかと思えば、流し目で優人を見るクルピンスキー。
「トゥルト、って……え?」
「先生のことも名前で呼んでたよ、エディータって。女の子を可愛がったことはあるけど、誰かに可愛がってもらったのは僕も彼女も初めてで――」
「じょ、冗談が過ぎるぞ!」
質の悪いイタズラであることを期待しつつ、優人は声を張り上げた。それに反応してか、背後のロスマンが「う~ん」と唸り、身を捩る。
優人の言葉にクルピンスキーは手で眉間を押さえ、やれやれと溜め息を吐いた。
「本当に覚えてないのかな?優人君は誠実な男だし、やったことの責任はちゃんと取ってくれると思ったんだけどなぁ……」
そして、ゆっくり顔を上げると魅惑的な笑みを作ってトドメの一言を見舞う。
「戦争が終わったら、僕らを扶桑に連れて行ってよ?酒で覚えてないかもだけど、君は確かにそう言ったんだからさ♪」
小悪魔を思わせる表情でクルピンスキーは告げる。すると優人は身体の活動と思考を停止し、石像のように動かなくなった。
「プッ!……フラウの手紙通り、からかい甲斐のあるイイ男だね」
ショックのあまり固まってしまった優人を見て吹き出すクルピンスキー。その悪戯な笑顔は彼女から多大な影響を受けたハルトマンのものと酷似していた。
一方、別室に泊まっている芳佳は……。
「お兄ちゃ~ん……えへへ♪」
枕を抱き締め、幸せそうな寝顔で兄の名を呟いていた。
もちろん優人と二人の間には何もありません。海猿のアレみたいなオチです←