ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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当作品には関係無いことですが、自衛隊とストパンのコラボポスターに批判が集まったことは対し、個人的に大変遺憾に思います。


第32話「深紅のドレスと戦場の歌姫」

朝食時、宿舎食堂――

 

「じゃあ、お兄ちゃんはここで寝てたんですか?」

 

と、サーニャとエイラに確認する芳佳。夜間哨戒の疲労と眠気が本格的に出てきたのか、サーニャはウトウトと舟を漕いでいる。半睡状態のサーニャを支えながらエイラが応じる。

 

「夜間哨戒から帰ってお茶を飲もうと食堂に来てみたら、オマエのアニキが寝てたんダ。びっくりしダゾ」

 

エイラは優人が突っ伏して眠っていた席を指差し、不満げに唇を尖らせる。

ほんの10分程前、優人と一悶着あったエイラは脱兎の如きスピードで食堂を出た。数分程、自室に戻って頭を冷やしていたが、愛しのサーニャとヘンタイ(優人)を二人きりしてしまったことに気付き、慌てて食堂に舞い戻ってきたのだ。

 

「あたしもびっくりしたよ」

 

モグモグとおにぎりを食べていたシャーリーが、芳佳とエイラの会話に合いの手を入れる。

 

「ライスボールかと思って食べてみたら、具も塩気もない米の塊だったなんて……」

 

「うじゅ……味しな~い」

 

シャーリーとルッキーニが食べているのは、エイラが作ったやや形の崩れたおにぎり。塩も具も海苔も無く、白米のみで味気も無い。不味くはないが食い切れたものでもない。

元々料理上手なサーニャならいざ知らず、出来る料理がサンドイッチ程度のエイラに西洋とは勝手が違う扶桑の料理は難があったようだ。

 

「エイラのおにぎりは微妙だけど、サーにゃんのは美味しいよ~♪」

 

「…………」

 

シャーリー、ルッキーニに続くハルトマンのストレート過ぎる感想に、エイラは不愉快そうに片眉をピクピク動かす。

テーブル中央の大皿には二人が作ったおにぎりが山のように盛られているが、サーニャのおにぎりは次々消えていくのに対し、エイラのおにぎりには中々手が伸びない。

 

「で、でも……これなら扶桑のお米の味がよく分かりますよ?」

 

「具と塩と海苔は用意しましたから、皆さんのお好みでどうぞ」

 

エイラをフォローするリーネと厨房から具材を取ってきた芳佳。梅干、鮭、おかかと定番の具材が皿に盛られてテーブルに並べられる。

余談であるが、『おかか』という鰹節の呼び名は皇室の宮中に住む女官が使っていた独特の言葉で、それが広く一般にも使われるようになったそうな。

 

「そう言えば、坂本少佐はどちらに?」

 

「ミーナ隊長と優人もいないね?」

 

朝食の席に姿を見せない上官達の所在を、ペリーヌとルッキーニが訊ねる。すると、サーニャが一瞬だけ眼を開け――

 

「優人、さんは……おにぎり食べて……お部屋に……」

 

と、だけ言うとテーブルに突っ伏して再び夢の中へ沈んでいった。エイラが戻ってきた頃には、優人は既に朝食を済ませて食堂を出ていた。着替えとその他の身嗜みを整えるためだろう。

 

「ミーナは昨日やり残した書類を片付けてから来るって……少佐は朝練してたみたいだし、シャワーじゃない?」

 

と、ハルトマンが残りの二人のことを説明する。

 

「それにしても優人め。深夜に酒盛をして酔い潰れるなど、弛んでいる証拠だ」

「そんなカリカリすんなよ。優人だって寝つけなくて酒が欲しくなることもあるんだろ?」

 

手厳しいバルクホルンをシャーリーが宥める。

 

「普段から規則正しい生活をしていれば、自然と眠りに就けるはずだ。酒に頼ることはない」

 

不機嫌そうに眉間にシワを寄せ、おにぎりにパクつくバルクホルン。食べているのはエイラのおにぎりだが、機嫌が悪いのは味が微妙だからではなさそうだ。

 

「そんなこと言って、トゥルーデだって昨日は眠れなかったんじゃないの?」

 

「ん?」

 

口元に米粒をつけたハルトマンがニヤニヤと笑みを浮かべながらバルクホルンの顔を覗き込む。バルクホルンは扶桑茶をすすりながら横目で怪訝そうな視線を送る。

 

「優人に胸揉まれたことを思い出して、ムラムラしちゃってさ♪」

 

「ッ!?ゲホゲホッ!ハルトマン!な、何を言い出すんだ!?」

 

ハルトマンの口から飛び出た予想外且つ破廉恥な発言にバルクホルンは咽返る。

 

「男に触られたのがきっかけで遂にトゥルーデにも遅めな思春期が――ぎゃっ!?」

 

「調子に乗るな!!」

 

鍛え上げた拳で下品な戦友を黙らせるバルクホルン。

 

「いったぁ~い。コブできたじゃん!トゥルーデの暴力女ッ!」

 

ハルトマンがすぐさま抗議するも、バルクホルンはフンと鼻を鳴らしてそっぽ向いてしまう。

 

「何だ何だ?カールスラントの堅物大尉殿はムッツリスケベだったのかぁ?」

 

「ムッツリィ~♪スケベェ~♪」

 

ニヤついたシャーリーがバルクホルンを茶化すと、ルッキーニもその尻馬に乗る。しかし、ルッキーニはムッツリスケベの意味を理解しておらず、ただバルクホルンをからかってはしゃいでいるだけである。

好き勝手言う二人に対し、バルクホルンは頬に青筋を浮かべて必死に怒りを抑えていた。

 

「まったく、騒々しいですわね」

 

食事を終え、ナプキンで口元を拭いていたペリーヌはシャーリー達の言動に呆れて独り言ちる。

朝から晩までとにかく騒がしい501基地。嫌いではないがせめて食事時ぐらいは静かにして欲しい、とガリアの貴族令嬢は切実に想う。

 

「あれ?ペリーヌさん?」

 

厨房からお茶の御代わりを持ってきたリーネ。改めてペリーヌの顔を見て、彼女がいつも違うことに気付いた。

 

「眼鏡、どうしたんですか?」

 

美しいブロンドの髪、自己調達の青い制服と並んで己のトレードマークである眼鏡をペリーヌは掛けていなかった。以前、寝坊して忘れたことがあったが、今日は余裕を持って起床してきたため、忘れたわけではなさそうだ。

 

「え?ああ……き、今日からコンタクトにしましたの」

 

「イメチェンですか?」

 

「まぁ、そんなところですわ」

 

リーネの問いに答えると、何故かペリーヌ頬を染めて気まずそうに目を逸らした。そして彼女の言葉が終わると同時に――

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

と、基地内にネウロイ出現の警報が鳴り響いた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

約1分前、宮藤優人の部屋――

 

朝食を軽く済ませて自室に戻った優人は、扶桑海軍の制服に着替えていた。

顔を洗い、食堂で眼を覚ました時は寝癖がついていた髪もキッチリ整えられ、人前に出ても恥ずかしくない姿となっている。

 

「……何だったんだ?さっきのは?」

 

ベッドに腰を下ろし、神妙な面持ちで両手の平を見つめる優人。

食堂で彼の手から発現し、サーニャの手の傷を治した光は紛うことなき治癒魔法。妹の芳佳、母の清佳、祖母の芳子等、秋元家に生まれた女性が一族の血と共に受け継いできた癒しの力だ。養子であり、両親の血を引いていない優人が使えるような代物ではない。

 

「一体…………うっ!?……」

 

じっと手を眺めていると、頭に頭痛が走った。同時に3つの映像が優人の脳裏に浮かび上がる。

一つは和風造り家の屋内、一つは降り積もった雪で白銀に染まっている田舎の風景。どちらも身に覚えのない景色だが、何故か懐かしく感じる。

そして、もう一つは長い黒髪をした優しそうな女性がこちらに向かって微笑んでいる映像だ。

 

(この人は……誰だ!?)

 

顔立ちからして扶桑人、歳は20歳前後から20半ば程。前述の二つの映像と同じく、覚えはないが何処か懐かしい感じがする。女性は艶やかな唇を開き、何を語り掛けている。

 

(何だ?何を言っている?)

 

現れた映像はまるで就寝時に見る夢のようにフワフワとしながらも強く現実味を帯びている。おそらくは過去の記憶、優人が宮藤家に引き取られる以前のもの。

そう直感した優人は必死に思い出そうとするが、後一歩のところでシャットアウトされてしまう。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

「――ッ!?敵襲っ!?」

 

基地の警報が耳朶を打ち、優人は一気に現実へ引き戻された。すぐさま部屋から飛び出し、ブリーフィングルームへ向かって駆け出した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

ブリーフィングルーム――

 

警報を聞き、501のメンバーはブリーフィングルームに集合していた。壇上に上がったミーナの言葉に、一同は耳を傾ける。

 

「ガリアから敵が進行中との報告です」

 

「今回は珍しく予測が当たったな」

 

皮肉めいた笑みを口元に湛える坂本。ミーナは「ええ」と頷き、報告内容を補足する。

 

「現在の高度は15000。進路は真っ直ぐこの基地を目指してるわ!」

 

いつも通り簡潔に状況を説明するミーナ。昨晩、優人の一言で現れた動揺は既に瞳から消えているように見える。少なくとも表面上は。

 

「よし!」

 

席から立ち上がった坂本は、勤務表を確認しながら指示を出す。

 

「今日の搭乗割りは……バルクホルン、ハルトマンが前衛!ペリーヌとリーネが後衛!宮藤兄妹は私とミーナの直掩!シャーリーとルッキーニ、エイラとサーニャは基地待機だ!」

 

「お留守番~お留守番~♪」

 

「ユニットのセッティングでもするか……」

 

歌を口ずさんで楽しげなルッキーニと趣味に興じるつもりでいるシャーリー。二人は真剣な面持ちの出撃メンバーとは対照的にはお気楽な様子を見せている。

夜間哨戒と朝食作りで疲れているサーニャは枕を抱いて眠っていおり、「スー……スー……」と可愛らしい寝息を立てている。

ここまではいつもと変わらぬ501の日常風景である。しかし、いつもと違うところもある。一つは何故かエイラの姿がないこと、理由は優人とサーニャの二人のみが知っている。そしてもう一つは――

 

「お兄ちゃん、一緒に出撃だね」

 

「ああ、そうだ――」

 

そこまで言い掛けて優人はハッとなり、緩んだ表情を引き締める。

 

「芳佳、遊びに行くんじゃないんだぞ」

 

「あっ……うん、ごめんなさい」

 

久しぶりに大好きな兄と一緒に空を飛べる、と大いに喜ぶ芳佳だったが、優人は彼らしからぬ厳しめな言動を取った。

てっきり笑顔で「そうだな」「一緒に頑張ろう」と言ってくれると思っていたので芳佳はしょんぼりとする。

 

「お前達、どうかしたのか?」

 

宮藤兄妹の私語を耳で捉えた坂本が二人を交互に見ながら訊ねる。優人は小さく首を振って応じる。

 

「何でもないさ」

 

「む?そうか……」

 

付き合いの長さ故か、優人の態度に僅かながら違和感を感じ取っていた坂本。しかし、ネウロイが接近中なこともあり、それ以上は追及しなかった。

 

「よし!準備にかかれ!」

 

坂本の号令を受け、優人ら出撃メンバーはハンガーへ向かう。

 

(お兄ちゃん……どうしたんだろう?)

 

芳佳は移動中、何の前触れもなく自分への態度が激変した兄――優人の背中を怪訝そうに見つめていた。自分が何かしてしまったのか、と思ったが心当たりがない。強いて言えば昨日優人の教練をちゃんと聞いていなかったことぐらいだが、優しい兄がそれくらいで自分に辛く当たるとは思えない。

到着するなり優人は自身のパーソナルマークの柴犬が描かれた零式を履き、エンジンを始動させる。発進ユニット側面の武器ラックからS-18対物ライフルを取り出し、弾薬の装填を確認する。

いつもなら隣の発進ユニットでストライカーを始動している芳佳を心配して「大丈夫か?」「緊張していないか?」と過保護気味に訊く優人だが、今日はそれもない。まるで芳佳を避けているかのようだ。

 

「い~ってらっしゃ~い!」

 

元気一杯に手を振るルッキーニ、愛機の整備をしにハンガーに姿を見せたシャーリーに見送られ、優人は妹やウィッチ達と共に大空へと飛び立った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

数分後、ドーバー海峡上空――

 

「敵発見!」

 

基地を発ってほどなく、坂本が遠方より接近中の飛行物体を視認する――ネウロイだ。

 

「タイプは?」

 

「確認する!」

 

ミーナに詳細を問われ、坂本は敵を見定めるため眼帯を外して魔眼を発動させる。巨大なキューブ状の大型ネウロイが見えた。

 

「300m級だ!いつものフォーメーションか?」

 

坂本がミーナに確かめると、彼女は「そうね」と短く返す。

 

「よし!突撃!」

 

坂本の号令を合図にウィッチ達が動く。まず前衛のバルクホルン隊が先行し、ペリーヌ隊がそれに続いた。

501だけではない。己の存在を脅かす天敵の接近を察知したネウロイもまた迎え撃つため、戦闘態勢に入る。

 

「えっ!?」

 

「なにっ!?」

 

驚きの声を上げるハルトマンとバルクホルン。二人がネウロイに照準を合わせた瞬間、ネウロイは300mの大型から多数の小型に分かれたのだ。

 

「分裂した!?」

 

「こんなネウロイもいるのか!?」

 

部隊内で実戦経験が一番長い自分達でさえ見たことのないタイプのネウロイ。優人と坂本は驚きの声を上げる。

 

「右下方80、中央100、左90」

 

一方のミーナは冷静だった。彼女の固有魔法『三次元空間把握』を使い、小型に分裂したネウロイの数と位置を把握する。

 

「総勢270機分か。勲章の大盤振る舞いになるな!」

 

呆れたように言う坂本。各個体に見た目以上の戦闘能力は無さそうだが、数が厄介だ。注意を怠ろうものなら、あっという間に包囲され、袋叩きにされかねない。

 

「あなたはコアを探して」

 

「了解」

 

「バルクホルン隊、中央」

 

「了解」

 

「ペリーヌ隊、右を迎撃」

 

「了解」

 

「優人、あなたは私についてきて。左の90機を叩くわよ!」

 

「了解」

 

次々と的確な指示を出していくミーナ。統合戦闘航空団司令の名に恥じぬ采配に感服しつつ坂本、バルクホルン、ペリーヌ、優人が順に応じる。

 

「芳佳さん、あなたは坂本少佐の直掩に入りなさい」

 

「了解!」

 

「いい?貴方の任務は少佐がコアを見つけるまで敵を近づけないことよ」

 

最も経験の浅い芳佳。緊張した面持ちの彼女を振り返り、ミーナはやるべきことを細かく伝える。

 

「はい!」

 

芳佳が応じるとミーナは身を翻し、敵の真っ只中へ突入していった。芳佳、坂本以外の隊員も彼女に続く――戦闘開始だ。

先陣を切ったミーナのMG42と優人のS-18の銃口から無数の銃弾が放たれ、ネウロイ群を次々と破片に変えていった。二人に負けじとWエースも戦果を上げる。

 

「これで10機!」

 

「こっちは12機!久しぶりにスコアを稼げるな!」

 

「ここの所全然だったからね!」

 

不敵な笑みを浮かべて言葉を交わすハルトマンとバルクホルン。数々の激戦を乗り越えてきた二人からは余裕が見てとれる。

 

「いいこと?貴方の銃では速射は無理だわ。引いて狙いなさい」

 

「はい!」

 

「私の背中は任せましたわよ!」

 

リーネに指示を出すと、ペリーヌはネウロイ群の中央へ急降下していく。

 

「これを使うと後で髪の毛が大変なのよね……トネール!」

 

ペリーヌは愚痴を零しながら固有魔法『雷撃(トネール)』を発動する。彼女の身体から放出された雷撃が周囲のネウロイを一瞬で蹴散らし、破片に変えていく。

 

「フン!わたくしにかかればこのくらい……」

 

ペリーヌがそう言って逆立つ髪を押さえていると、その背後に忍び寄っていたネウロイが砕け散る。そのことに気付いたペリーヌが振り返ってみると、リーネの構えるボーイズライフルの銃口から白煙が上がっていた。

同士討ちになりかねない状況でも冷静な援護射撃を決めたリーネからは自信を喪失していた新兵の面影はもはやない。

 

「や、やるじゃない」

 

言葉通りペリーヌの背中を守ったリーネ。彼女を見上げるペリーヌは複雑そうに苦笑する。

 

「お兄ちゃん、みんな……すごい」

 

上空から仲間達の戦闘を見ていた芳佳は感嘆の声を漏らす。

 

「あっ!?」

 

実弾とビームが飛び交う中、4機の小型ネウロイが上昇し、坂本と芳佳の方へ迫る。芳佳が13mm機関銃の引き金を引くと、ネウロイは破片となって砕け散った。

 

「その調子で頼むぞ!」

 

「はい!」

 

坂本の激励に芳佳ははっきりとした声で応じた。

 

「キリが無いよ!」

 

撃っても撃っても一向に減る気配のないネウロイの大群に愚痴を零すハルトマン。

 

「コアは一体どいつなんだ!?」

 

と、苛立たしげに呟くバルクホルン。さしものWエースも残弾を気にし始めていた。

 

「坂本!」

 

「コアは見つかった?」

 

コアを探す坂本のところに優人とミーナが上がってきた。

 

「駄目だ」

 

「また陽動じゃないだろうな?」

 

リーネが初戦果を上げた時のことを思い出す優人。しかし、坂本はそれをやんわり否定する。

 

「それはない、コアの気配はある。ただし、どうもあの群れの中にはいない」

 

「戦場は移動しつつあるわね」

 

「ああ、大陸に近寄っているな」

 

ミーナと坂本は眼下に見えるヨーロッパ大陸に目を向け、言葉を交わす。

 

「――ッ!上っ!?」

 

気配を感じて振り返る芳佳。太陽を背にした数機のネウロイが急降下してきていた。

 

「くそっ!見えない!」

 

芳佳の声に反応して坂本も振り返るが、逆光で視界を遮られてしまう。

 

「行きます!」

 

躊躇うことなく迎撃に向かう芳佳。シールドでビームを防ぐと13mm機関銃を発砲し、ネウロイを次々と撃破する。芳佳を援護するために優人とミーナも射撃を行う。

 

「よし!いいぞ!もう少し頼む!」

 

「はい!」

 

攻撃を続けつつ、坂本の指示に応じる芳佳。

 

「見つけた!」

 

坂本の魔眼がとうとうコアを特定した。直後にコアを持った個体は急降下し、4人のすぐ横を通り過ぎていく。

 

「あれなの?」

 

「ああ!」

 

降下していくコアを見据え、頷く坂本。

 

「全隊員に通告。敵コアを発見、私たちが叩くから」

 

インカム通して全体に命令するミーナ。

 

「「「「了解」」」」

 

と、命令に応じるウィッチ達。

 

「いくわよ!」

 

「「「了解」」」

 

ミーナ、優人、芳佳、坂本の4人はコアを追いかけて雲の中へ突入する。

 

「いた!」

 

雲の外に出て視界が開けると急降下を続けるコアを視認する。4人はコアに集中砲火を浴びせた。優人の撃った一発が霞め、コアは弾かれたかのように別方向へ飛んでいく。

 

「逃がすかよっ!」

 

優人は透かさず反転し、不規則挙動を繰り返すコア持ちネウロイに照準を合わせる。トリガーを引こうとしたその時、優人の脇を芳佳が通り過ぎ、射線上に飛び出してきた。

 

「なっ!?芳佳!?」

 

優人は驚きのあまりスコープから眼を離した。彼の位置からでは芳佳とネウロイがほぼ重なって見えてしまうため、誤射する危険がある。

やむなく優人は狙撃を中止した。一方、芳佳はコアを逃がさぬように速度を上げる。同時に射撃を行い、数発の12.7mm×99弾を叩き込まれたコアは四散、白い破片となって降り注ぐ。四人はシールドを張って破片から身を守ろうとする。

 

「ッ!?――」

 

破片のひとつが坂本のシールドを容易に貫通し、彼女の額を霞めた。

 

「美緒っ!!」

 

気付いたミーナが悲痛な叫び声を上げる。二人より高い位置にいた宮藤兄妹や離れた場所で戦っていたウィッチ達は誰もこのことに気付かなかった。

 

「芳佳ちゃんすっご~い!」

 

と、芳佳に飛びつくリーネは親友の初戦果を自分のことのように喜んでいる。

 

「フン、あんなのまぐれですわよ」

 

腕を組みをして、プイっとそっぽ向くペリーヌ。そこへバルクホルンがフォローを入れる。

 

「いや、不規則挙動中の敵機に命中させるのは中々難しいんだ」

 

「芳佳、やるじゃ~ん!」

 

「えへへ。そ、そうかな?」

 

エースであるハルトマンからの賛辞をうけて、照れ笑いを浮かべる芳佳。

 

「芳佳」

 

やや遅れて優人も近寄ってくる。

 

「お兄ちゃん!やったよ!私、ネウロイを――」

 

「何で飛び出した?」

 

「……えっ?」

 

「俺が狙撃しようとしていたのはわかったよな?何で射線上に飛び出したんだ?危うく撃つところだった」

 

周りが芳佳を誉め称えていたのに対し、優人は険しい表情で詰問するかのように問う。

 

「あっ……ごめんなさい」

 

「もう少し自重しろ」

 

「……はい」

 

優人の厳しめな言葉に落ち込む芳佳。何やらギスギスとした雰囲気の宮藤兄妹にウィッチ一同は首を傾げる。普段の優人なら妹の初戦果に大喜びしそうなものだが、一体どうしたというのだろう。

 

「あれ?ペリーヌ、眼鏡は?」

 

宮藤兄妹のやり取りでしん、としてしまった空気を何とかしようとハルトマンが話を振った。ペリーヌは自慢のブロンドをかけあげながら、したり顔で答える。

 

「コンタクトにしましたのよ」

 

「コンタクト?何でまた?」

 

「眼鏡の方が使い勝手が良いいんじゃないのか?」

 

ペリーヌが眼鏡からコンタクトに変えたと聞いて、バルクホルンと坂本が怪訝そうな顔をする。

 

「二人共わかってないなぁ」

 

意味深な笑みを浮かべたハルトマンがチッチッチッ、と人差し指を振る。

 

「年頃の女の子が急に眼鏡からコンタクトにイメチェンなんて、異性を意識してるからに決まってるでしょ?」

 

「む?そういうものか?」

 

顎に手を当てて、分析する坂本と

 

「わからんな、コンタクトにしたぐらいで何になると言うんだ?」

 

よくわからないと言った感じのバルクホルン。年頃の乙女らしからぬ軍人気質を持ち合わせている二人は、戦闘以外は万事疎い。

ペリーヌが洒落っ気を出したことと、異性への意識がどう繋がるのか理解できないらしい。

 

「…………」

 

ガールズトークに華を咲かせるウィッチ達を他所に、ミーナは悲しげな表情で廃墟を見詰めていた。その視線が錆び付いた一台の車を捉えると、誰にも声を掛けることなく廃墟へ降下していった。

 

「ミーナ?」

 

「えっ?」

 

廃墟へ向かって降りていくミーナにバルクホルンとペリーヌが気付く。

 

「おーい、どこにいく――」

 

「待て!」

 

後を追おうとするハルトマンを制する坂本。

 

「ひとりにさせてやろう」

 

「……そうか。ここはパ・ド・カレーか」

 

坂本に言われ、バルクホルンは眼下の廃墟がパ・ド・カレーだと理解する。

 

「パ・ド・カレー……ダイナモ作戦か」

 

と、優人はミーナの後ろ姿を目で追いながら独り言ちる。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

ミーナは廃墟と化したパ・ド・カレーの地に降り立つとユニットを脱ぎ、車へ近付く。ドアを開けると運転席の上にある赤いリボンのかかった包みを見つけた。

 

「……あっ」

 

リボンをほどいて包みを開く、中には一通の手紙と一着のドレス。ミーナはそれが誰のものなのかをすぐに理解した。

 

(クルト……)

 

悲しみが波のように押し寄せ、ミーナは涙を流した。こぼれ落ちる涙が手紙を濡らした。

ダイナモ作戦――501が結成される少し前に実施された撤退作戦。カールラント、オスマルク、ガリアの国民をダンケルクにに集め、そこからドーバー海峡を越えてブリタニアに撤退させる大規模な作戦だ。

カールラント、ブリタニア、ガリアの連合軍は遅滞戦術を繰り返し、民衆の避難が完了するまでネウロイの足止めして時間稼ぎを行った。ミーナたち501のカールラント組もこの作戦に参加していた。

民衆全てと連合軍の大部分の撤退が完了した時点でカレー基地は放棄され、本作戦に参加した全ウィッチ隊は対岸のブリタニアへ移動命令を受けた。しかし、整備兵や基地守備隊は更なる撤退を支援するため、現状を死守する命令を受けていた。彼らは自分達が撤退のための囮であり、全滅は免れないことも理解していたが、同胞を守るため、最後までに任務を全うし、その命を散らしていった。

その中にはミーナの想い人であり、彼女が小さい頃から兄のように慕っていた幼馴染でもあった整備兵――クルト・フラッハフェルトもいた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同日夕刻前、501基地――

 

本日分の仕事を全て終わらせたミーナは自室に戻ると、カレー基地跡で見つけたドレスに着替えた。そして、鏡の前に立ち、ドレスを身に纏っていた自分の姿を確認する。

亡き想い人――クルトから贈られたのは背中と胸元が大きく開かれた深紅のイブニングドレスだった。同じ素材で作られた夜会靴も用意されている。

 

(見透かされていたのね……)

 

まだカールスラントが健在であった大戦初期のこと。隣国オストマルクの陥落と時同じくして、最前線への転属を言い渡されたミーナは声楽家になる夢を断念、コンサートホールで着るはずだった青いドレスを暖炉で燃やし、戦いに臨む覚悟決めた。いや、決めたつもりだった。

新たなドレスの贈り主――クルトは音楽を諦めきれていないミーナの心の内を見抜いていたのだろう。ピアニストであっただけに繊細で器用な指をしていた彼はストライカーユニットの整備兵として軍に志願した。愛する女性と共に戦うために、愛する女性を傍で支えるために。しかし、クルトはダイナモ作戦で戦死した。生きている限り再び会うことのかなわなぬ場所へ旅立ってしまった。

 

(クルト。今の私を見たら、あなたは何て言うかしらね)

 

彼の死によって心に深い傷を負ったミーナは、第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』が結成されると部隊司令の立場を利用して基地の男性陣がウィッチと必要以上に接触することを禁じた。自分が味わった悲しみ、苦しみを若いウィッチ達から遠ざけるために。

優人に対しても、ウィザードだと割り切りながらも無意識のうちにウィッチ達から遠ざけようとしたことが数回あった。反面、心を病んだバルクホルンに意図的に近付けていたこともある。

もしかしたら心の何処かで自分と基地の現状を変えて欲しい、と思っていたのかもしれない。

 

「ミーナ、俺だけど?入ってもいいか?」

 

ふと室内に響く優人の声とノック音。それらの音に耳朶を打たれ、ミーナは現実に還った。

 

「ええ、どうぞ」

 

ドアの方へ振り返り、言葉を返すミーナ。ドアが開かれ、優人が部屋に入ってくる。

 

「準備は整ったぞ。後は……」

 

ミーナのドレス姿を見るなり、言葉を止める優人。完全に開ききっていないドアのノブに手を置いたまま、じっとミーナを見据えている。

 

(綺麗だ……)

 

優人はお世辞抜きにそう思った。ミーナの緋色の髪に合わせたような深紅のドレス。光沢のある素材が上品さと優雅さを演出し、身体を形作る優美な曲線をより美しく魅せている。

 

「どうしたの?」

 

「え?あ、いや……ステージの準備が出来た。後は歌姫の……お前の登場を待つだけだ」

 

女性らしい色香が漂うミーナを直視出来ず、優人は目を逸らした。その頬はミーナの髪やドレスにも負けないほど鮮やかな紅が灯っている。

自身のドレス姿を見て、幼い少年のようにウブな反応を示す優人のことが可愛らしく思えたミーナは口元を右手で隠しながらクスクスと上品に笑う。

 

「ふふふ、そう?じゃあ……」

 

ちょっとした悪戯心が芽生え、ミーナは優人の隣に移動すると彼の腕を取った。まるで恋人にするかのような自然な動作に優人は困惑する。

 

「おっ、おい!ミーナっ!?」

 

「お迎えありがとう、宮藤大尉。このままステージまでエスコートしてくださる?」

 

「うっ……はい」

 

ガチガチに緊張してしまっている優人には、そう答えるのが精一杯だった。

悪戯は成功。ミーナはやや子どもっぽい笑顔を作り、静かな笑い声を上げていたが、優人の耳には自身の心臓のバクバクと激しく脈動する音しか聞こえていなかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

数分後、501基地近海――

 

日が傾き始めた頃、赤城は反抗作戦に参加するため、501基地の港から出港する。甲板では芳佳に手紙を渡そうとした少年兵が名残惜しそうに基地を見詰めていた。

 

「やっぱり……こなかった」

 

と寂しそうに呟く少年兵。すると彼の耳が魔導エンジンの音を捉える。3つの影が彼のすぐ後ろを通り過ぎていき、巻き起こされた突風で飛ばされて軍帽が宙を舞う。

 

「あっ!」

 

軍帽を目で追うように少年兵は振り返る。その際、彼や甲板上にいた乗員たちが目にしたのは3人のウィッチ。

 

「宮藤さん!」

 

赤城を見送りにきた芳佳、坂本、リーネの姿だった。

 

「みんなありがと~!頑張ってね~!私も頑張るから~!」

 

芳佳は赤城と並行して飛行すると、甲板の乗員たちに向かって力いっぱい手を振った。

 

「芳佳ちゃん、よかったね!」

 

「うん!ちゃんとお礼言えた」

 

微笑むリーネに向かって嬉しそうに振り返る芳佳。

 

「世話になったからな」

 

「はい!」

 

坂本の言葉に頷く芳佳。赤城の乗員たちも「ありがとう!」と芳佳たちに向かって手を振した。戦地に赴く彼らには何よりの手向けになったことだろう。

 

「みんな嬉しそう」

 

乗員たちの姿を見てリーネが言う。

 

「よかった」

 

芳佳は礼を言うことが出来たことを喜びつつ、許可をくれたミーナに感謝する。

3人が基地に戻ろうとしたその時、インカムに通信が入ってくる。赤城の艦橋でも同じものを捉えていた。

 

「艦長、通信が入っています」

 

「ん?つなげ」

 

杉田は通信に耳を傾ける。聞こえてきたのは歌声だった。それも聞き覚えのある澄んだ声音の旋律。

 

「おお!これは……全艦に繋げ!」

 

「了解!」

 

通信兵は杉田の命令に従い、歌を全艦に流した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、501基地宿舎ミーティングルーム――

 

歌は501基地のミーティング・ルームから送られていた。室内には優人と赤城を見送りに行った3人以外のウィッチが集まっていた。

室内のほぼ中央に置かれたマイクを前に唄っているのはドレス姿のミーナ。目を閉じ、両手を胸元の位置で合わせ、戦地に赴く男達の無事を祈るように唄う。

ピアノの伴奏はサーニャ。白魚を思わせる繊細で美しい指が、鍵盤の上を舞う。

バルクホルンは穏やかな表情でカメラを回し、部隊の記録係としての役目に精を出している。

無線の調整を担当するのは、機械全般に強いシャーリー。彼女のおかげで、基地の敷地外にいる芳佳達3人や赤城の乗員、そして501基地全域に歌を届けることが出来た。

 

(戦場の歌姫か……)

 

壁に背を預けて歌を聞いていた優人の脳裏に、ふとそんな言葉が浮かぶ。確かに今のミーナに相応しい呼び名だ。

サーニャの伴奏に合わせてミーナが歌っているのは『リリー・マルレーン』。哀しくも美しい旋律を奏でる彼女の姿は眩しい程に輝いて見える。過去に後ろ髪引かれ、足踏みをしていた一人の少女。このコンサートがきっかけとなり、少しずつ前へと進み始めたのだ。

ウィッチとミーナの歌に送られ、扶桑海軍航空母艦赤城は夕陽に向かい去っていった。

見送りから戻ってきた芳佳たちがミーティング・ルームに顔を出すと、ちょうど歌い終えたミーナが自分の歌を聞いてくれたウィッチ、ウィザード、そして必要な機材を運ぶため宿舎への立ち入りを特別に許可された数人の整備兵に向かって、優美な所作で一礼する。やや遅れてミーティング・ルームに拍手の称賛の響き渡る。

 

「とっても……素敵な歌でした」

 

芳佳はうっとりとした表情で心からの感想を述べる。

 

「ありがとう」

 

自分の歌に感動してくれた芳佳にミーナもまた、いつもの慈愛に満ちた笑顔を返した。直後、芳佳の背後からエイラの手が伸びて、芳佳の柔らかな両頬を引っ張る。

 

「ほへ?にゃにひゅるんでふか~?(何するんですか~?)」

 

「サーニャのピアノはどうした~?サーニャの~?」

 

引っ張っていたのはエイラだった。真っ先にサーニャのピアノを褒めなかったことが気に入らないらしい。

 

「ふぉっへもふへひへひふぁ~(とっても素敵でした~)」

 

「えい!もっと褒めろ!」

 

「ふぉへへまふっへふぉ~(褒めてますってば~)」

 

エイラは餅のように伸びる芳佳の頬っぺを限界ギリギリまで引っ張ろうとする。室内を満たしていく一同の笑い声と楽し気な空気。ミーナの心も幸福で満たされていった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同日、深夜――

 

ミーナはドレス姿のまま、自室の窓から景色を眺めていた。明かりの消えている室内にノック音が響く。ミーナが振り返ると、ドアのところに穏やかな笑みを口元に湛えた坂本が立っていた。

 

「いい歌だった」

 

「ありがとう」

 

坂本からの賛辞に微笑みながら礼を言うミーナ。坂本も昨晩と同じく、窓辺にミーナと並んで立った。

 

「見送りの許可を出してくれて、感謝している」

 

「あなたも行きたかったんでしょ?」

 

「ああ、世話になった艦だからな」

 

ミーナは坂本に目を向けると、表情を優しげなものから厳しいものに変える。

 

「昨日ね、優人に言われたの。愛したことを後悔しているのか……って」

 

「…………」

 

「確かにあの人を失った時、本当に辛かったわ。こんな思いをするくらいなら好きになんてならなければ良かった……ってね」

 

自身の心情を語り始めるミーナ。坂本は何も言わずにミーナの横顔を見つめながら彼女の話に耳を傾ける。

 

「でも……そうじゃなかった」

 

「そうか……」

 

「でも、失うのは今でも恐ろしいわ。それなら……失わない努力をすべきなの!」

 

そう言うとミーナはワルサーPPKを取り出し、銃口を真っ直ぐ坂本へ向ける。坂本は特に驚いた様子もなく、落ち着いた物腰で身体をミーナの方へ向ける。

窓からは月明かりが射し込み、見つめ合う二人のウィッチを照らしていた。




今回のミーナは人によってはちょっとビッチっぽく見える……かな?


ラル隊長の色仕掛けの時みたいに失敗したかもorz
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