ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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第34話「亀裂」

501基地近隣の訓練地域。緑が青々と生い茂るこの丘陵地帯では、ウィッチ達による訓練が行われていた。

参加者は芳佳、リーネ、ペリーヌ、シャーリー、ルッキーニの五人。訓練内容は、2対2の空中模擬格闘戦。

芳佳とペリーヌ、シャーリーとルッキーニがそれぞれロッテを組み、四人の上空ではリーネがホイッスルを片手にジャッジを行う。

ウィッチ達は、各々が愛用している銃に似た模擬を手に飛び交い、ストライカーユニットのエンジン音を蒼空に響かせる。

 

「宮藤さん!後ろを取られてましてよ!」

 

「う、うん!」

 

背後を取られるペリーヌ、芳佳ペア。ペリーヌは、長機として2番機の芳佳を注意する。一方の芳佳は、動きがどこかぎこちない。

対ネウロイ戦とは違い、模擬戦は同じ航空歩兵を相手にする。素人目には敵機が変わっただけの同じ空中戦に見えるが、実際はいろいろと勝手が違う。対ネウロイ用の戦術とは別の手法が必要になる。

芳佳は飛行速度を維持しつつ、ペリーヌと位置の入れ替えを繰り返して振り切ろうとするも、性格の相性が良いシャーリー、ルッキーニペアはぴったりとくっついて離れない。

 

「にっひひ~ん♪いっただき~!」

 

芳佳の背後を取り、勝利を確信するルッキーニ。ペイント弾が装填されたM1919A6に酷似した模擬銃を構えて照準を合わせる。しかし――

 

「ほえ?」

 

引き金を引こうとしたその瞬間。芳佳の姿が突如、視界から消えた。かと思えば自分達の背後に現れる。

 

「あの技はっ!?」

 

驚きのあまり目を見張るペリーヌは他所に、芳佳の模擬銃から放たれたペイント弾がルッキーニとシャーリーストライカーをオレンジ色に染め上げた。

 

「ああ~っ!?」

 

「うお~っ!?」

 

撃墜判定を受けた二人は驚きの声を上げる。後ろを取って有利だったにも関わらず、あっさり逆転されてしまった。

 

「ペリーヌ、宮藤ペアの勝ち!」

 

リーネはホイッスルを響かせて模擬戦終了を報せた後、ペリーヌと芳佳の勝利を宣言する。

 

「すごいよ、芳佳ちゃん!」

 

さらに芳佳へ駆け寄りながら、興奮気味に彼女を称賛する。自分のことのように嬉しいそうだ。

 

「やられたぁ~!おっかしぃ~なぁ?絶対後ろについてたはずだったのにぃ!」

 

撃墜され、悔しがるルッキーニ。負けたことよりも一瞬で後ろに回られたことに納得がいかない彼女は、腕を組んで考えを巡らせる。

 

「大分成長したなぁ、芳佳」

 

「え、そうですか?」

 

リーネに続いて、シャーリーからも称賛の言葉を贈られた。嬉しくなった芳佳は満面の笑みとなる。

そんな芳佳の背後に、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべたルッキーニが忍び寄り、彼女の慎ましやかな胸へ手を伸ばした。

 

「ひゃあっ!?」

 

「どれどれ~?どれどれ~?」

 

まるで品定めでもするかのように芳佳の胸を揉みしだき始めたルッキーニ。芳佳はあたふたしながら抗議の声を上げる。

 

「なっ、何するの~!?」

 

「ざ~んねんっ!こっちはちっとも変わりな~し!」

 

「ん、見りゃ分かる」

 

シャーリーはルッキーニの鑑定結果に強く頷き、同意の意を示す。同時に腕を組み、芳佳とは違って豊満な己の胸を強調するように持ち上げた。

 

「も~!コラ~!」

 

胸のことでバカにされ、芳佳は両腕を振り上げてプンスカ、と怒る。すかさずシャーリーが己の本心を交えたご機嫌取りをする。

 

「でも、腕を上げたのは確かだ」

 

「本当ですか?」

 

「うん!でも高々度だったら、こうはいかなかったけどねぇ~♪にひひ!」

 

と、はにかむルッキーニ。

 

「私達、案外良いペアなのかも知れないね?」

 

そう言いながら、芳佳は少し離れたところにいるペリーヌに笑顔で振り返る。しかし、当のペリーヌは――

 

「御冗談を!まっぴら御免被りますわ!」

 

と、そっぽ向いた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

ところ変わって、501基地宿舎大浴場――

 

訓練を終えたウィッチ達は、掻いた汗を流そうと大浴場に来ていた。

浴槽では髪をポニーテールに上げたシャーリーの掛け声にルッキーニがバタ足ストレッチをしている。楽しそうではあるが、マナー面から言えばよろしくない。

壁際のシャワースペースでは、芳佳とリーネが身体と髪を洗っている。

 

「すごいね、芳佳ちゃん!この前入隊したばかりなのに、もう一人前のウィッチみたい!」

 

リーネは三つ編みから解いた淡いブラウンの髪を洗いながら、芳佳に話し掛ける。

髪を下ろした彼女は、スタイルの良さも相まって雰囲気が普段より大人っぽい。

 

「えへへ、そうかなぁ」

 

と、照れ臭そうに笑う芳佳。

 

「でも、バルクホルンさんには『まだまだだぁ~!』って言われちゃいそう」

 

「私なんて、もっとまだまだだよ。羨ましいなぁ!」

 

そう言ってリーネが背伸びすると、たわわな胸がゼリーのように柔らかく揺れた。

 

「わ、私はリーネちゃんのこと、すごいと思うけどなぁ……」

 

「ええ~?どこがぁ?」

 

さらに大きく揺れるリーネの胸。

 

「どこが、って……」

 

芳佳の視線は、自然とリーネの顔から破壊力抜群の巨乳へ移っていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

さらに10分後、大浴場に隣接する脱衣所――

 

「宮藤さん!いつの間にあんな大技、覚えたんですの?」

 

風呂から上がり、さっぱりとした顔で脱衣所にやって来た芳佳を迎えたのは訝しげな表情をしたペリーヌだった。

湯上がり故、上半身はリボンを中央にあしらった青いブラ、白地のズボンと重ねて履くストッキングのみ、というセクシーな出で立ちだった。

 

「あれ?ペリーヌさん、いたんですか?」

 

「ずっといましてよ!」

 

ストレートに失礼な発言をする芳佳の天然ぶりに、ペリーヌの怒鳴り声が裏返る。彼女は勢いに任せて話を続けた。

 

「左捻り込みは、坂本少佐の得意技ですのに!宮藤大尉――あなたのお兄様ならともかく!何故、あなたが!?」

 

「え?私はただ、見ててこんな感じかな、って?」

 

激しく詰め寄るペリーヌに対し、芳佳は平然と答える。が、ペリーヌはそんな答えでは納得しなかった。

 

「嘘おっしゃい!あんな高等テクニック!見よう見まねでできたら苦労しませんわ!内緒で坂本少佐に教えて貰ったんでしょう!?卑怯ですわよ!!」

 

「そんなっ!?嘘なんか言ってません!」

 

あらぬ疑いを掛けられた芳佳はすぐさま反論する。しかし、怒りと嫉妬で感情的になっているペリーヌの耳には入らない。

 

「あくまでしらばっくれますのね。いい度胸ですこと!」

 

「そんなこと言われても……」

 

「宮藤さんっ!」

 

「はっ、はい!」

 

一際鋭い眼光で睨まれ、芳佳は反射的に直立不動の姿勢となる。

 

「私、あなたに決闘を申し込みましてよ!」

 

「け、決闘~っ!?」

 

自分に向けてビシッと人差し指を突きつけるペリーヌの申し出に、芳佳は驚愕の声を上げた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、基地食堂――

 

「芳佳が左捻り込みを?」

 

柴犬の可愛らしいエプロンを身に付け、厨房で昼食の準備をしていた優人は、シャーリーから訓練中の話を聞いて目を丸くした。

カウンターに寄り掛かる体勢で優人と話をしていたシャーリーは「ああ」と頷き、言葉を続ける。

 

「あたしも驚いたよ。芳佳があそこまで腕を上げていたなんて……」

 

「……そっか」

 

嬉しそうに口元を綻ばせる優人。『左捻り込み』とは、優人や坂本等、扶桑のゼロ・ファイターが得意とする空中格闘戦の高等テクニックである。敵に背後を取られた際に、宙返りと失速を組み合わせて、逆に敵機の背後を取る。

坂本が芳佳に教えたという話は聞いていない。つまり誰かに教わることなく、見取り稽古の要領で自分のものにしたということだ。本人の才能や坂本の指導によるところもあるだろうが、一番は直向きな心で毎日厳しい訓練に臨み続けた芳佳自身の努力の賜物であろう。

予想よりも遥かに早い妹の成長に驚きはしたものの、嬉しい気持ちの方が上回っている。反面、その成長を少し寂しく思う自分もいる。

 

「なんだ、大丈夫そうじゃんか?」

 

「ん?」

 

「いやぁ、昨日から芳佳との仲がギクシャクしてたみたいだからさ。喧嘩でもしたのかな?って」

 

「そう言うわけじゃ……ただ、いつまでも甘やかしてはいられないと……」

 

「少し極端じゃないか?」

 

「…………」

 

シャーリーに指摘された優人は、図星を突かれたように無言で応じる。

彼女の言う通り、優人は芳佳のためを思うあまり、つい厳しくし過ぎてしまっている。

昨日の初戦果だって、本当は芳佳の頭を撫でて「よく頑張ったな!」「偉いぞ!」と誉めてやりたかった。しかし、誉めれば慢心してしまうんじゃないか、という考えが頭を過り、代わりにキツい言葉が出てしまっていた。

 

「余計なお世話かもしんないけどさ……」

 

シャーリーは一息吐いてから言葉を続ける。

 

「あんまり慣れないことすんなよ。下手に厳しても逆効果だと思うし、甘えさせることも厳しく接するのと同じくらい大切だろ?」

 

「そうかもしれないけど……」

 

「少くとも任務外では、普段通りで良いじゃないか?何事もやり過ぎは良くないし、芳佳以上にお前が辛いだろ?いつもより元気ないし」

 

「そう見えるか?」

 

自覚症状のない優人は首を傾げる。シャーリーは頷くと、カウンターに押し付けている己の胸を指差した。重量感のある胸はむにゅっ、と潰れて横に広がり、よりインパクトを増している。

 

「あたしと会話する時、お前は10秒に一回は胸をチラ見するのに、今日はまだ一回も見てないぞ」

 

「なんだよ、その判断基準。てか、別にチラ見なんてしてないぞ!」

 

と、ムキになって否定する優人。

 

「そんな隠そうとするなよ。お前が巨乳好きだってことは、もうバレちゃってるんだからさ」

 

「うっ……」

 

いつぞやの公開処刑を思い出し、優人は悔しそうに呻いた。シャーリーはそんな優人の顔を眺めて、ニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

「ねぇねぇ優人!これ何ぃ?」

 

「扶桑の料理ですか?」

 

ふと食堂の方から声がする。シャーリーと共に風呂から戻って来たルッキーニとリーネだ。不思議そうな顔をした二人は、テーブルに置かれた大皿を――正確には、皿に盛られた料理を指差して訊ねる。

野菜に黄金色の衣を纏わせた揚げ物ような料理。扶桑ではお馴染みの料理だが、欧州の人間にとっては未知の存在。香ばしい匂いが鼻腔を擽り、少女達の好奇心と空きっ腹を刺激する。

 

「それは天ぷら、って言って……扶桑料理の一つだよ」

 

優人が説明すると、ルッキーニは目を爛々と輝かせた。

 

「食べてもいい!?」

 

と、重ねて訊くルッキーニはもう待ちきれないとばかりに口から涎を垂らしていた。

 

「手は洗った?」

 

「ばっちし!」

 

ルッキーニは両手の平を優人に向けて広げ、自身たっぷりに言う。

 

「ならどうぞ」

 

「やったぁー!いただきま~す!」

 

「いただきます!」

 

優人から許しを貰った二人は、一番手前に置かれた人参の天ぷらを手に取り、口に運ぶ。

 

「ん~!おいし~!サクサクしてるぅ~!」

 

「ホントに美味しい!中のジューシーさはそのままなんですね!」

 

初めて触れる天ぷらという文化だが、どうやら二人は気に入ったようで、すっかりご満悦だ。

皿には他に、玉ねぎ、ピーマン、ジャガイモ、蓮根等の野菜の天ぷらが並んでいる。

 

「おっ?じゃあ、あたしも」

 

美味しそうに食べるリーネ達を見て、シャーリーもカウンターから離れ、テーブルへ向かう。

 

「これを試してみるかな?」

 

何気無しに玉ねぎの天ぷらを摘まみ、パクついた。

 

「おおぉ~!マジで美味いな!」

 

シャーリーも二人と同じく天ぷらに感動する。

 

「これならいくらでも入っちゃう!はぐはぐ!」

 

すっかり天ぷらの虜となったルッキーニは、二個目三個目と次々口の中へ放り込んでいく。

 

「ルッキーニちゃん、他の人の分も残さないと」

 

ルッキーニの旺盛な食欲を見て不安になったリーネが、慌てて注意する。

 

「こりゃもう少し作っといた方がいいかな?」

 

そう思った優人は、柴犬が描かれた柴犬のエプロンを外すと、追加の野菜を取りに食糧庫へ向かう。

 

(ついでに芳佳の様子も見てくるかな?)

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、部隊長執務室――

 

バルクホルンとハルトマンは基地に戻るなり、ミーナの執務室を訪れていた。

デスクの向こう側には椅子に腰掛けたミーナ。その隣に坂本が立っている。

 

「悪いが、中身は勝手に見させて貰った」

 

バルクホルンは真剣な面持ちで言うと、キューベルワーゲンのワイパーに挟まっていた手紙をデスクの上に置いた。

 

「『深入りは禁物、これ以上知りすぎるな』。これはどういうことだ?」

 

「興味あるね」

 

いつになく真面目な顔をしたハルトマンがバルクホルンの言葉を継ぐ。

二人が脅迫状と言っても差し支えない内容の手紙を持ってきたことをきっかけに、重々しい空気が執務室内を流れ始めた。

 

「やましいことなど、何もしていない」

 

僅かな沈黙の後、坂本がおもむろに口を開いた。

 

「だろ?ミーナ」

 

「えっ?……ええ、そうよ」

 

考え事でもしていたのか、坂本に同意を求められたミーナはやや遅れて反応する。

 

「私達はただ、ネウロイのことを調べていただけで……」

 

「それでどうしてこんなものが届く!?」

 

惚けたような態度を取る二人に苛立ったバルクホルンが声を張り上げ、デスクに身を乗り出す。

 

「差出人に心当たりは?」

 

対して、ハルトマンは冷静な口調で訊ねる。

 

「ありすぎて困るくらいだ」

 

坂本はやれやれ、と言った感じで右手を腰に当てる。

 

「そうね」

 

坂本の意見に同意するミーナ。

 

「私達のことを疎ましく思う連中は、軍の中にいくらでもいるはずだから……」

 

ミーナは困った表情で言う。ウィッチやウィザード等の航空歩兵は、ネウロイに正面から戦いを挑み、尚且つ打倒し得る存在である。

その有効性は各国で認められており、ネウロイとの戦いにおける人類の切り札として第一線で活躍し、今日まで軍のどの兵科よりも多くのネウロイを倒している。

軍内外立場を問わずウィッチやウィザードを信頼し、好意的な者が多いが、快く思わない人間も数としては多くいる。

20歳にも満たない若い男女が殆どの部隊が自分よりも多大な戦果を上げていることに対する嫉妬だったり、『所詮は小僧と小娘だ』という軽蔑だったり、彼らが持っている魔法という強大な力に対する畏怖だったり、と理由は様々。

501をはじめとする統合戦闘航空団は特に風当たりが強く、各国軍の指揮系統から独立しているため、いずれかの国に拠点を置きながら、その国の指揮下にないことや連合軍管轄の多国籍部隊という特性上政争の焦点になりやすく、相手の立場によっては部隊そのものが邪魔者と認識されかねない。

 

「が、こんな品のない真似をする奴は見当がつく」

 

坂本が言うと、他の三人は手紙から彼女に視線を移した。坂本は自らの推理を続けた。

 

「おそらく、あの男はこの戦いの核心に触れる何かを既に握っている。私達はそれに触れなんだろう」

 

「あの男、って?」

 

バルクホルンが訊くと、坂本は一呼吸置いてからその人物の名前を述べた。

 

「トレヴァー・マロニー。空軍大将さ」

 

ブリタニア空軍大将トレヴァー・マロニー。ブリタニア空軍において戦闘機軍団司令官――実質的最高指導者の地位にいる狡猾で強かなその男は、特にウィッチの存在を疎ましく思っており、第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』にとって、ネウロイよりもよっぽど質の悪い存在である。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、基地格納庫――

 

ペリーヌから決闘を申し込まれた芳佳は、気乗りしないながらも彼女に気圧される形で了承し、二人でハンガーまで来ていた。

 

「そっちじゃなくてよ」

 

壁に掛けられている模擬銃へ手を伸ばした芳佳に、ペリーヌが声を掛けた。

芳佳が振り返ると、既にストライカーを履いたペリーヌが、発進ユニットの武器ラックからブレン軽機関銃Mk.1を取り出していた。

 

「でも!それは……」

 

芳佳は午前中の訓練と同様、模擬銃を撃ち合うものと思っていた。しかし、ペリーヌは実銃を使用するつもりでいる。当然、装填されているのはペイント弾ではなく、殺傷能力のある実弾だ。

 

「私達、これから決闘するんですのよ?」

 

と、ペリーヌ。誇り高きガリア貴族の令嬢である彼女にとって、これから行うのは己のプライド懸けた決闘である。模擬銃やペイント弾を使った訓練やお遊びではない。

 

「そんなっ……私嫌です!本物の銃を人に向けるなんて!」

 

実銃の使った勝負に拒否反応を示す芳佳。ペリーヌは、そんな彼女を鼻で笑った。

 

「まさか、本当に撃つはずありませんでしょ?気分ですわよ、気分」

 

決闘と言っても芳佳を傷付けるつもりは毛頭ない。あくまで形式だけ、真剣勝負だと互いに強く自覚するためだ。

 

「だからって嫌です!私、そんなことをするためにウィッチーズに入ったんじゃありません!」

 

彼女が501に入隊したのは亡き父との約束を果たすため、兄やウィッチーズの仲間達と共にネウロイという脅威から人々を守るためである。

その為にやむを得ず使用している銃や戦争には、人を傷付ける存在だと強い嫌悪感を抱いている。例え発砲しないとしても、そんなものを人に向けたくないのだ。

 

「まったく……入隊の時も、あなたそんなお馬鹿なこと言ってましたわね?言ってるでしょう?形だけですから」

 

芳佳の梃子でも動かないような頑固さに、ペリーヌは眉間を押さえながら呆れたように溜め息を漏らす。

 

「十秒以上後ろを取った方の勝ち。だったらいいでしょう」

 

「…………はい」

 

芳佳は不承不承ながら小さく頷くと、自身のストライカーユニットを固定している発進ユニットへ移動する。ストライカーを履き、武器ラックから九九式二号二型改13mm機関銃を取り出した。

 

(安全装置は……うん、かかってる)

 

安全装置を確認し、魔導エンジンを始動させようとしたその時――

 

「二人共、何してる?」

 

「「――っ!?」」

 

突如、耳朶を打つ第三者の声。二人がハッとなって振り返ると、すぐ後ろのキャットウォークに優人が立っていた。彼を見るやペリーヌと芳佳は身体が硬直させた。

 

「大尉!?」

 

「……お兄ちゃん」

 

「何をしているのか、って訊いてるんだ……」

 

重ねて問われ、二人は答えに詰まる。彼女は優人はもちろん、ミーナや坂本にも何も伝えず、許可を取らずに飛ぼうとしていたのだ。

 

「……二人共こっちにこい。銃は持ったまま」

 

優人にそう言われ、芳佳とペリーヌはゆっくりとストライカーから脚を出すと、躊躇いがちに優人の元へ歩み寄った。

 

「で、もう一度訊くけど……何をしている?」

 

蛇に睨まれた蛙のように畏縮してしまっている二人に、優人は再三問い質す。すると、ペリーヌが恐る恐る口を開いた。

 

「み、宮藤さんと……飛行訓練を行おうと」

 

「そんな予定は聞いていないが?それに!」

 

「あっ!?」

 

優人はペリーヌのブレン軽機関銃Mk.1を取り上げ、弾倉を外して中身を確かめた。

 

「実弾まで使って……決闘と言っているのが聞こえたけど、殺し合い形式の訓練か?随分と物騒だな」

 

優人の物言いは決して威圧的ではないが、それ故に得も言われぬ凄みがある。上官相手に食って掛かることもあるほど強気なペリーヌが、冷や汗を掻いていた。

 

「誤解です!撃つつもりはありま――」

 

「そう言う問題じゃないだろ!!」

 

格納庫全体に優人の怒鳴り声が響き渡る。弁明を遮られ、ペリーヌは肩をビクッと震わせる。

撃たなければいい、というわけではない。味方に銃を向けること自体が大問題なのだ。しかも二人は訓練、飛行、実銃及び実弾の使用を無許可で行おうとしていた。

 

「お前は士官という責任ある立場なんだ!もう少し自制心というものを働かせろ!」

 

「……申し訳ありません」

 

すっかり縮こまってしまったペリーヌは、顔を俯かせながら絞り出すような声で謝罪する。

 

「芳佳、お前もだ!何でペリーヌの言われるがままにした!?」

 

「ごめんなさいっ!」

 

頭から怒号を浴びせられた芳佳は身体を小刻みに震わせ、泣きたくなるのを必死に堪えていた。

 

「お前、昨日の初戦果や今日の訓練のことで少し天狗になってるんじゃないのか?」

 

「――っ!?」

 

優人に罵れたその瞬間、芳佳の中で何か弾けた。

 

「…………なんで」

 

「あ?」

 

「なんでそんな風に言われなくちゃならないの?」

 

13mm機関銃を掴む芳佳の両手に力が込められる。

 

「私、頑張ってたのに……もっと強くならなきゃ、って思ってたのに……なんで認めてくれないの?」

 

「み、宮藤……さん?」

 

芳佳は段々と早口になっていく。ストレートに感情を表現する彼女が、今は沸々と沸き上がる怒りを少しずつ声に滲ませる。

普段の芳佳から想像出来ないの一面に、ペリーヌは当惑する。

 

「私のことが嫌いになったんならそう言えばいいじゃない!急に厳しくされて、冷たくされて、意味わかんないよ!」

 

「お止めなさい!」

 

感情任せに言葉を発する芳佳。これ以上言わせては取り返しのつかないことになりかねない。そう思ったペリーヌは、慌てて止めに入る。

 

「宮藤大尉にだって、きっと何か理由が……妹であるあなたのことを思って敢えて厳しく接しているとか――」

 

「そんなのありがた迷惑だよっ!」

 

声を荒げる芳佳に、ペリーヌは思わずたじろいだ。

 

「軍隊に入ってから、何年も家に帰って来なかったくせに!偉そうにお兄ちゃん面しないでよ!そもそも私達、本当は“兄妹でも何でもない”んだからっ!!」

 

「……えっ?」

 

芳佳の言ったことの意味が、ペリーヌにはよく理解出来なかった。どういうことか訊くよりも先に――

 

パァン!

 

「あっ……」

 

唐突に響く乾いた音。それと同時に強い衝撃を左頬に受け、芳佳の視界は右へ僅かにずれる。ヒリヒリと焼けるような痛みが走り、芳佳は自分が叩かれたのだと理解する。

 

「…………」

 

左手で頬にゆっくりと手を添え、正面へ向き直ると、右手を振り抜いた優人が自分を睨み付けていた。彼が芳佳の頬を叩いたのだ。

 

「あっ……」

 

自分を叩いた兄を見つめ返していると、芳佳の目頭はジーンと熱くなり、溢れた涙が頬を伝った。

 

「お兄ちゃんのバカ!大っ嫌い!もう死んじゃえ!」

 

「ちょっと、宮藤さんっ!」

 

優人を罵倒した芳佳は、踵を返すとストライカーへ向けて一目散に走って言った。

ペリーヌの制止も聞かず、ストライカーを履いてエンジンを始動し、そのまま空へ逃げるように飛び立っていった。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!

 

それとほぼ同時に、ネウロイ出現を知らせる警報が基地全体に響き渡った。




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