ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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腰痛の痛みとストレスが私の執筆を妨げるorz

エイプリルフールに託つけて嘘ついたから罰が当たったのかな?

今回、宮藤兄妹は出ません。


第36話「魔眼の涙」

坂本は憎悪にまみれた表情で人型ネウロイを睨み付けると、素早い動作で九九式二号二型改13mm機関銃を構えた。

怒りに任せて銃を乱射し、自分が被弾する危険性も省みずに真正面からネウロイに突っ込んでいく。しかし、ろくに照準も合わせない状態での射撃が、航空ウィッチさながらの機動を取る人型ネウロイに当たるはずもなく、いたずらに弾をばらまくだけであった。

 

(よくも、よくも……よくもぉ!)

 

戦闘で僚機を失ったことがなく、そのことを誇りとしていた坂本。そんな彼女の目の前で、隊において最も長く苦楽を共にした戦友が自分を庇って負傷してしまった。

この事実が日頃の冷静さを彼女から奪っている。猪突猛進としか言えない戦いぶりが坂本自身の精神的・感情的な動揺を物語っていた。

対する人型ネウロイは、激昂した坂本の剣幕に気圧されたのか、それとも複数のウィッチ相手では分が悪いと判断したのか、逃げの一手だ。

 

「坂本少佐っ!突出し過ぎるな」

 

「1人で突っ込み過ぎだよぉ!」

 

仲間達が追い付いてきた。バルクホルンとハルトマンが無茶な戦いぶりに警告を発するも、強い怒りの感情が胸中で渦巻いている坂本の耳には届かない。

今の坂本の耳に聞こえているのは13mm機関銃の発砲音のみ、彼女の眼に映っているのは戦友の仇である人型ネウロイだけだ。

やがて弾倉内の弾をを撃ち尽くした坂本は、13mm機関銃を投げ捨て、背中の愛刀に手をかける。

 

「おのれぇええええええ!!」

 

抜刀と共に怒号放った坂本は、ネウロイとの距離を一気に詰めようとする。その時だった。

 

「――っ!?」

 

突如、坂本の眼前へ進行を妨げるかのように一筋の光が降ってきた。鉄をも瞬時に溶解させるほどの高熱を帯びた赤い閃光――ネウロイのビームだ。坂本がハッとなって顔を上げると、別個体のネウロイが彼女の真上に陣取っていた。

 

(新手!?)

 

新たに現れたネウロイも人の形をしており、使い魔の耳を連想させる頭部の装飾とストライカーユニットを模した脚部を持っているが、ウィッチに似た一体目とは細部の形状が異なる。女性用のズボンに相当する部位は再現されておらず、ウィッチよりもやや大柄でガッチリとした体格に短めの頭髪のような形状の頭部も相まって、その姿には男性的な印象を受ける。

芳佳と接触した個体がウィッチを模して変形したネウロイならば、こちらはウィザードを想わせる風貌をしている。

 

「邪魔をするなっ!」

 

行く手を阻んだ二体目の人型ネウロイに向かって吠えると、坂本は刀を両手で構えて上昇しようとする。対して坂本を静かに見下ろす人型ネウロイは右腕を構えてビームを放った。

 

「お止めください!少佐!」

 

追い付いたペリーヌが背後から坂本に抱き着ついた。感情的になっている上官を制しつつ、シールドを張ってビームから自分達の身を守った。

 

「離せペリーヌ!」

 

「ダメですわ!」

 

「上官命令だ!離せ!」

 

「その命令には従えません!」

 

頭を振って命令を拒否するペリーヌ。二人が争っている隙に、人型ネウロイはビームでウィッチ達を牽制しながら離脱していく。

 

「離してくれ!やつは!やつらは優人を!」

 

ペリーヌの腕の中でもがきながら、遠ざかっていく二体の人型ネウロイを鋭く睨み付ける坂本。しかし、ペリーヌもまた坂本を離すまい、行かせまいと腕に力を込める。

 

「離すわけには参りませんわ!今のままネウロイと戦えば、宮藤大尉だけでなく少佐まで……」

 

段々と小さくなり、嗚咽が混じり出すペリーヌの声を聞いて、坂本はハッとする。

 

「……ペリーヌ、泣いているのか?」

 

「…………」

 

ペリーヌは何も答えなかった。代わりに密着した坂本の背中にコツン、と額を押し付けた。

 

「…………すまない」

 

ペリーヌの言葉でいつもの冷静さを取り戻した坂本は短く詫びると、インカムを使って基地へ連絡を入れた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

ネウロイとの戦闘で負傷した優人は基地へ搬送されると、直ちにストレッチャーに乗せられ、基地内の手術室に運ばれていった。

間も無く、基地の嘱託医――アラン・ロフティング医師と彼の元で働くウィステリア・ピース看護師が駆け付け、緊急手術が開始されようとしていた。

手術室の前では、ミーナがウィステリアから優人の容態を聞かされていた。

 

「宮藤大尉についてですが、銃が暴発した際に飛び散った破片が胸部に多数突き刺さっています。出血も酷く、大変重篤な状態です」

 

「……助かるんでしょうか?」

 

予想より重症を負っていた優人。501の隊長として気丈に振る舞いながらも、ミーナの瞳には近しい人間の負傷からくる動揺が見てとれる。

 

「それが……輸血用の血液が足りなくて」

 

「そんなっ!ウィッチやウィザードに輸血するための血液は優先的に用意されるはずです!」

 

「書類上は保存されていることになっていますが、保管庫内に見当たらないんです」

 

「えっ!?」

 

ウィステリアが告げると、ミーナは目を見開いた。501の隊員や整備兵などの基地要員に輸血するための血液は、ストライカーの部品や武器弾薬等と共に補給物資として総司令部経由で送られてくる。

数日前、補給が来た際にミーナ自ら届いた物資と内訳書を照らし合わせ、不備が無いことを確認していた。輸血用の血液も間違いなく全員分届けられていたはずだった。

 

「それに加えて、宮藤大尉の血液型はAB型のRhマイナス。2000人に一人という珍しい型で、調べましたが基地内にはウィッチ隊の皆さんを含め適合者が一人もいません」

 

「……分かりました。周辺の基地や街に連絡して、輸血者を募ってみます」

 

「なるべく急いで下さい。大尉の容態は、もってあと2、3時間……いえ、それ以下かも」

 

ミーナはウィステリアの言葉に小さく頷き、「宮藤大尉をお願いします」と軽く一礼してからその場を後にした。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

浴槽から立ち上る湯気で満たされた宿舎の大浴場。そのシャワースペースでは髪を下ろし、右目の眼帯を外して魔眼を露にした坂本が、降り注ぐシャワーの湯を頭から浴びていた。

正午前は訓練を終えたウィッチ達で賑やかだった浴場も、今は彼女一人の貸切状態。シャワー音と天井から水滴の落ちる音だけが浴場内に響いている。

坂本はシャワースペースに茫然と立ち尽くしたまま石鹸で身体を洗うことも、シャワーを終えて熱い湯に浸ってリラックスする様子もない。ただシャワーベッドに向けるようにして顔を上げ、ひたすら湯を被る。

 

(優人……)

 

ふと露になっている魔眼から一筋の涙が溢れ出た。その雫はシャワーの湯と共に肌を伝い、床へと流れ落ちていった。

 

「……くそぉおおっ!!」

 

ガンッ!

 

静寂に支配されていた浴場内に、怒りに満ちた叫び声と鈍い打撃音が響き渡る。坂本が己の右拳を強く握り、壁に叩きつけたのだ。

余程の力を込めたのだろう。魔法力を使わないながらも拳を受けた壁には罅が入っていた。当然、坂本自身も無事では済まず、ゆっくりと壁から引き抜いた拳には血が滲んでいる。

 

「……くっ……うぅ」

 

左手で右拳を押さえた坂本は小刻みに震え出した。普段の凛々しい姿からは想像出来ない弱々しい姿は、彼女もまた年齢相応のか弱い少女であることを物語っている。

坂本は戦闘時のことを振り返った。脳裏に浮かぶのは自分を庇った時の優人の後ろ姿。黒煙に紛れて飛び散った大量の血。そして、その血が頬に付着した感触。

ミーナに言われるまでもない。自身の魔力がシールドをまともに使えなくなるほど減退していることはわかっていた。だが、まだ空は飛べる。魔眼も使える。シールドでビームを防げないなら避けてしまえばいい。そう思っていたし、やってのける自信もあった。しかし、長年シールドを使って戦ってきた癖が簡単に抜けるはずもなく、坂本はネウロイのビームをシールドで受けようとした。

その結果、減退のことを知っていた優人が彼女の身代わりとなった。本当は自分が負うはずだった傷を自分が守りたかった人間の一人に負わせてしまった。

さらに自分を見失い、芳佳が隊に来る以前のバルクホルンのような……いや、それよりも危険な戦闘スタイルでネウロイに向かっていった。ペリーヌが止めてくれなければ、坂本も優人と同様ネウロイに撃墜されるか、最悪戦死していただろう。

 

(何が……サムライだ、何が501の戦闘隊長だ)

 

目尻に涙を浮かべた坂本は膝から床へ崩れ落ちた。過信から仲間が撃墜される原因の一旦を作り、怒りのままに暴走して醜態を晒し、仲間の敵を討つどころか傷一つ付られなかった。

 

「うっ……ふっ……うわぁあああああああっ!!」

 

坂本は久し振りに、本当に久し振りに大声を上げて泣いた。幼い子どものように、ポロポロと涙を流しながら……。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

数分後、ブリーフィングルーム――

 

ミーナが召集をかけると、すぐにウィッチ達が集まった。

芳佳、坂本、リーネの姿はなく、全員が揃ったわけではなかった。が、緊急を要するため、壇上に上がったミーナは今室内にいるメンバーにのみ急ぎ状況を説明した。

 

「輸血用の血が足りない?」

 

事情を聞いたバルクホルンが確認するように繰り返すと、ミーナは「ええ」と頷いた。

 

「もし血液や輸血者が見つからなかったら、宮藤大尉はどうなりますの?」

 

ペリーヌが訊ねると、ミーナは顔を伏せ唇を軽く噛みながら答える。

 

「……あと3時間。いえ、2時間以内に輸血が出来なければ……宮藤大尉は助からないわ」

 

「そんな……」

 

優人に命のタイムリミットが迫っていることを知らされたサーニャは、今にも泣き出しそうな表情で呟く。隣に座るエイラがそれに気付き、慌てて彼女を励ました。

 

「た、たった2000分の1の確率ダロ?すぐ見つかる!ナンテコトナイッテ!」

 

「……うん」

 

だが、サーニャの表情は暗いままだった。

 

「ねぇねぇ、シャーリー。アタシの血、優人と同じ赤色だけどダメ?」

 

涙を瞳いっぱいに溜めたルッキーニが、シャーリーの肩をユサユサと揺らしながら問う。

 

「残念だけど、輸血っていうのは血液型が合わないと出来ないんだよ」

 

「うじゅう……」

 

シャーリーに諭され、ルッキーニは肩を落とした。優人を助けたいのだろうが、血液型が合致したとしても彼女の年齢では輸血は難しいだろう。

 

「事は一刻を争います。皆さんには近隣の街や基地に出向いて――」

 

ジリリリリン!

 

ミーナの言葉を遮るように司令部直通の赤電話が鳴り響いた。音につられ、ウィッチ達の視線が自然と電話に集中する。

 

「電話?」

 

「まさか……もうマロニーが嗅ぎ付けたのか!?」

 

電話の着信音で一同が沈黙する中、ハルトマンとバルクホルンが順に呟いた。二人もミーナも優人の負傷にばかり気を取られ、トレヴァー・マロニーという男の存在を忘れていた。

各国の指揮系統から独立した部隊である501を疎ましく思っているマロニーは、当部隊をブリタニア空軍の指揮下に置くため、虎視眈々とウィッチーズの落ち度や弱みを探っている。

もし今の状況が彼の耳に入っていたとしたら、他の基地や部隊に圧力をかけた上で、優人への輸血と引き換えに指揮権の譲渡を持ち掛けてくる可能性が高い。当然、芳佳の一連の独断専行や命令無視に関しても口出ししてくるだろう。

 

「…………」

 

しばらくは出ることを躊躇して無言で赤電話を見つめていたミーナだったが、意を決して手を伸ばし、取った受話器を耳に当てた。

 

「はい。第501統合戦闘航空団司令、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です」

 

『ミーナ中佐か。私だ、扶桑海軍の赤坂だ』

 

「――っ!?赤坂中将!?」

 

受話器の向こうから予想外の人物の声が聞こえ、ミーナは驚きの声を上げた。

 

『突然すまないな。宮藤大尉が戦闘で負傷、それもかなりの重症を負っていると聞いたものでね』

 

「なっ!?何故中将がそのことを!?」

 

西部方面総司令部所属にしている将軍の一人とはいえ、まだブリタニア軍にすら報告していない優人の容態を何故彼が知っているのだろう、とミーナは心中で訝しがった。

 

『蛇の道は蛇、とだけ言っておこうか』

 

ミーナの問いには応えず、煙に巻くような言動を取る赤坂。

 

『輸血の件なら心配要らんよ。今しがた、遣欧艦隊から輸血者を飛行挺で派遣した。あと30分もすればそちらに到着するはずだ』

 

「了解しました。では、受け入れ準備を――」

 

『それとだ。宮藤大尉の状態について、飛行挺のパイロットを通して私に事細かく報告して欲しい。マロニー大将の耳に届くよりも先に』

 

「……それは命令でしょうか?」

 

ミーナは表情を険しくしながら訊く。

 

『あくまで要請だよ。私には君ら統合戦闘航空団に命令する権限などない』

 

白々しいことを言う赤坂の言葉に耳を傾けながら、ミーナは眉を寄せた。501の運用において、ブリタニア空軍やカールスラント空軍に並ぶ発言権を持つ扶桑海軍将官の“要請”は“命令”ほどの強制力が無いにせよ、無下に出来るものではない。

マロニーが狐だとすれば、彼の政敵である赤坂は狸。連合軍という組織内において、利権絡みの化かし合いを繰り広げる二人はブリタニアと扶桑、空軍と海軍、ウィッチーズに協力的であるか否か等々の違いがあれど所詮は同じ穴の狢。隙を見せてはいけないことに変わりはない。

 

「ならば、こちらからも一つ条件を提示させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

『それは内容次第だが、何だね?』

 

赤坂が訊ね返すと、ミーナはおもむろに口を動かした。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

約30分後、宿舎内脱衣所前――

 

「少佐っ!」

 

「……ペリーヌか」

 

風呂から上がり、坂本が脱衣所から廊下に出ると、すぐ近くの休憩所のソファーに座っていたペリーヌが立ち上がった。坂本を待っていたらしい。慣れないコンタクトは外され、眼鏡を掛けている。

 

「あの……お伝えしなければならないことが……」

 

「優人の容態についてか?」

 

と、問う坂本。ひととおり泣いたことで落ち着きを取り戻したのか。いくらか疲れているような印象を受けつつも、表情と所作にいつもの凛々しさが戻っているように見えた。

 

「はい」

 

ペリーヌは頷き、ブリーフィングルームでのことを語り始めた。優人の容態、輸血のこと、赤坂が派遣した輸血者のこと等々。治癒中の優人がいる手術室を目指して歩きながら、一つ一つ順序立てて説明する。

 

「では、輸血の件は心配ないんだな?」

 

「はい。つい先程、輸血者の方が到着されましたわ」

 

一通り説明を終えたペリーヌは僅かな沈黙を挟んだ後に、ハンガーの一件より心の隅に引っかかっていた疑問をぶつけてみた。

 

「あの、少佐」

 

「ん?」

 

「宮藤大尉とみや……芳佳さんは、もしや義兄妹なのですか?」

 

芳佳は優人に向かって『私達、本当は“兄妹でも何でもない』と言っていた。言葉通りに受け取るならば、二人は血の繋がりがない義兄妹ということになる。

 

「そうか。そう言えばミーナ以外にその話をしていなかったな」

 

坂本は思い出したように呟くと、優人について自分の知りうる限りのことを語り始めた。

14年程前、優人は記憶を失い、自分の名前すら分からなくなっていたこと。宮藤家に引き取られ、宮藤夫妻の養子になったこと。夫妻から名を与えられ、『宮藤優人』として今日まで生きてきたこと等々。

ペリーヌは坂本に合わせて歩を進めつつ、真剣な面持ちで時折頷きながら、彼女の話に耳を傾けた。

 

「そういった事情がありましたのね……」

 

ペリーヌは特に驚くというよりは納得していた。養子ならば、才あるウィザードであるはずの優人が、代々母方の直系に受け継がれてきた治癒魔法を有していないことや優人と芳佳が兄妹にも関わらず容姿が似ていないことにも説明がつくからだ。

 

「養子になる前の記憶については?」

 

「それが未だに何も思い出せないらしくてな。まぁ優人自身、特に意識して思い出そうともしてないようだがな……」

 

「……とおっしゃいますと?」

 

「はじめこそ自分が何者かも分からず不安がっていたようだが、芳佳や宮藤家の人々と暮らしているうちに気にならなくなったらしい」

 

自分が誰かも分からず、家族や友人のことも全く覚えていない。記憶を失ったばかりの頃の優人を取り巻く不安と恐怖がどれだけのものなのか、他者には想像も出来ない。

そんな状況下でも宮藤家の人々と出会えのは幸運だった。養子に迎えられ、両親や祖母から惜しみ無い愛情を注がれて育った優人は自身の境遇を悲観することなく生きてこれたのだ。

それでも家族と血の繋がりが無いことには、やはり負い目を感じていたのだろう。だからこそハンガーでの芳佳の発言に激昂して、彼女に手を上げてしまった。

 

「……妹の方はどうしている?」

 

坂本が芳佳のことを訊ねると、ペリーヌは僅かに表情を険しくする。

 

「まだ部屋で眠っています。リーネさんがついて下さっていますわ」

 

リーネと共に優人の救助に当たっていた芳佳は、目の前で大好きな兄が撃たれ、負傷したことに強い精神的ショックを受けていた。さらに錯乱した状態で使用した治癒魔法が魔法力と体力を激しく消耗させた。

他の仲間達が遅れて駆けつけると、体力的にも精神的にも限界を迎えた芳佳は気を失い、優人と重なるように倒れていた。

 

「目の前で家族が撃たれたんだ、無理もないな」

 

坂本は優人だけではなく、芳佳のことも気がかりだった。

優人が負傷した直接の原因は坂本だが、きっかけは芳佳の独断専行と命令無視。軍規に疎い芳佳がそのことを理解しているかどうかは分からない。しかし、芳佳の性格とハンガーでの一件を鑑みて、おそらく彼女は自分のせいだと思ったことだろう。

 

「大尉も少佐もあの子に甘過ぎます」

 

ふとペリーヌが不機嫌さを孕んだ口調で語り始めた。

 

「今まで世界を守ろうと戦ってきたのは私達です。なのにあの子ったら突然やって来て、大尉に怪我までさせて……」

 

「ペリーヌ……」

 

語りの途中で歩みを止め、俯くペリーヌ。坂本も一旦動きを止め、彼女に向き直った。

 

「厳しい言葉をかけられて、カチンとなるのは分かりますけど。誰だって好きで憎まれ役をやっているはずありませんわ。むしろ可愛い妹にきつく接しなければならない大尉の方が辛――」

 

「ペリーヌ!」

 

段々と泣き声混じりとなっていくペリーヌを、坂本は大声で制した。ハッとなって顔を上げたペリーヌは怒られると思ったのか、シュンと萎縮する。

しかし、予想とは裏腹に坂本はペリーヌの頭をそっと撫でた。その優しい手つきにペリーヌは「え?」と目を丸くした。

 

「ありがとう」

 

不思議そうに自分を見上げるペリーヌに、坂本は穏やかな表情で告げる。

 

「戦闘中、怒りで目が曇っていた私の目を覚ましてくれただろう?本当に感謝している」

 

「少佐……」

 

敬愛する上官からの慈愛に満ちた温かい言葉に感動を覚えたペリーヌは瞳を潤ませ、頬を染めながら見つめ返した。

 

「と、いかんいかん。優人のところへ急がねばな」

 

坂本は思い出したように言うと、手を引っ込めた。ペリーヌは「あっ……」と残念そうな声を上げた。

 

「輸血者は今どこにいる?」

 

「確か、手術室前に……あっ、いらっしゃいましたわ!」

 

そう言ってペリーヌが指差した先では、手術室前のベンチに腰掛けた輸血者らしき男性がミーナと話をしていた。

 

「美緒」

 

近付いてくる坂本に気付いたミーナが声を掛ける。

 

「ミーナ、話はペリーヌから聞いた。それで、そちらの方が?」

 

「ええ、優人への輸血を申し出て下さったのよ」

 

ミーナが簡潔に説明すると、男性は立ち上がって一礼する。

男性はノーネクタイで黒色のスーツを着こなし、紳士帽のような洒落た帽子をやや深めに被っている。そのせいで顔は半分ほどしか確認出来ないが、鼻が低いことから扶桑人の男性だというのが分かる。帽子越しに眼鏡と火傷の跡のような傷も確認出来た。

遣欧艦隊から派遣されたそうだが、体格からして軍人には見えない。軍属の技術者か何かだろうか。

 

「第501統合戦闘航空団戦闘隊長の坂本美緒です。この度は宮藤大尉の為に――」

 

坂本が一礼して謝意を述べると、フフッという笑い声が彼女の耳朶を打った。声につられて顔を上げると、男性は帽子を脱いで顔を見せていた。

 

「久し振りだね、坂本少尉。いや、今は少佐だったね。大分遅れてしまったけど昇進おめでとう」

 

「なっ!?あ、あなたは――」

 

坂本は目を見開いた。彼女は男性の顔、声、口調に覚えがあった。それは数年前に起きた事故で、この世を去った人物のものと瓜二つ――いや、本人そのものだったのだ。




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