ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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改訂版、変わっていないように見えて地の文を中心に直しております。


第2話「第501統合戦闘航空団のウィザード」

第501統合戦闘航空団、通称『ストライクウィッチーズ』。

それは各国のトップエースや将来有望な若いウィッチを有し、ブリタニア本土防衛及びガリア奪回を目的とする多国籍の精鋭部隊である。後に目覚ましい戦果をあげ、伝説となり、世界中の人々の希望となっていく。

その部隊にひとり、魔法力を持って生まれ男性『ウィザード』が所属している。

 

「誰もいない。って当たり前か」

 

1944年、3月のある朝。宮藤優人はまだ整備兵もいないハンガーへやってきた。彼はいつもより早く目覚めてしまい、朝食までの時間を自分のストライカーを整備して過ごすことにした。デスクワークをすることも考えたが、朝から書類と格闘しようとは思わなかった。

優人の父は彼が10歳の時に欧州へ旅立った。同時に優人も扶桑海軍に入隊し、数々の戦いを経験してエースとなった。現在は第501統合戦闘航空団に配属されている。 

優人は自身のストライカーユニット『零式艦上戦闘脚二二型甲』の元へ歩み寄る。扶桑海軍を代表する機体であり、彼のパーソナルマークであるライフル弾をくわえた柴犬がペイントされている。

 

「はぁ~……」

 

優人は愛機をいじりながら大きな溜め息をついた。彼には悩みがあったのだ、原隊の遣欧艦隊に配属されてから今日に至るまで一度も故郷の横須賀には帰れていない。出来るだけ早いうちに一時的にでも帰省するつもりでいたが戦況は厳しく戦いに明け暮れ、気が付けば18歳になっていた。手紙も中々出せず、家族の現状もよくは知らない。

優人は家族の中でも自分にべったりであった妹が今どうしているのか心配だった。8年前、妹から「行かないで」と泣きつかれたことが、つい昨日のことのように感じられる。

 

「む?優人じゃないか?」

 

「ん?」

 

後ろから名前を呼ばれ振り向くとそこには彼と同じ軍服を着用し、片眼に眼帯して長い髪をポニーテールに纏めている少女がいた。

 

「坂本か……おはよう」

 

「ああ、おはよう」

 

優人は身体を少女の方に向けて挨拶する。少女は笑顔で返す。彼女は坂本美緒少佐、501の戦闘隊長を務める扶桑海軍のベテランウィッチ。優人にとっては入隊して以来、長く共に戦ってきた戦友であり、上官であり、また姉のような存在でもある。

よく見ると彼女は汗をかいていた。どうやら、日課の朝の訓練をしていたらしい。

 

「今日も朝から訓練か?」

 

「ああ」

 

「熱心だな」

 

「お前こそ朝からストライカーの整備をしているじゃないか?」

 

「俺はたまたま早く眼が覚めたんだよ。んで朝食まで暇だからさ」

 

「なるほどな」

 

坂本はそう呟き、続けて質問をしてきた。

 

「ずいぶんと大きな溜め息ついていたな?」

 

「見ていたのか?」

 

優人は顔をしかめる。

 

「何か悩みか?大方、妹が心配で仕方ないといったところだろう?」

 

「!?」

 

自身の悩みを言い当てられ、優人は図星な反応をしてしまう。さすがに付き合いが長い相手には簡単にわかってしまうらしい。まぁシスコンな優人が散々妹の話をしたのだから当たり前であるが――

 

「その悩み、近々解決するかもしれないぞ」

 

「どういうことだ?」

 

「すぐにわかるさ」

 

含み笑いをする坂本。そんな会話をする二人を木箱の影から見ている人物が一人。

 

「それは近付き過ぎです少佐ぁ……あぁ。何故、隣にいるのが私ではないのです?」

 

自由ガリア空軍のトップエース、ペリーヌ・クロステルマン中尉だ。彼女は自身が敬愛する坂本と異性でありながら親しい優人に対して嫉妬心を抱いている。優人の方もペリーヌに対して、多少ながら苦手意識を持っている。

 

「では、私は風呂で汗を流してくるからな」

 

「あ、ああ」

 

「なんなら、一緒に入るか?」

 

「は?」

 

優人の目が点になる。

 

「久しぶりに裸の付き合いでもしな――」

 

「するか!」

 

恥じらうこともなく混浴に誘ってくる坂本に対して、顔を真っ赤にして怒鳴る優人。余程動揺しているのか、口調が少し荒くなっている。

 

「何を怒っているんだ?昔、浦塩で一緒に入――」

 

「それ以上言うな!」

 

優人はさらに強い口調で怒鳴る。坂本が言わんとしたことは優人にとってあまり思い出したくない過去らしい。

 

「?……。まったく、付き合いの悪いやつだ」

 

愚痴りながら風呂へ向かって歩み出す坂本。彼女は優人のことを信頼しているのか、それとも親から貞操概念を教えられていないのか。どちらにしても年頃の男女が一緒に入浴など言語道断である。優人は戦友を見送るとストライカーの整備を再開した。

 

「しょ、少佐と!い、いいいい一緒にお風呂ですって!?なんて恐れ多い!異性とお風呂に入るなど……破廉恥!不潔ですわ!!」

 

二人が混浴したことがあると聞いて、その嫉妬がオーラとして視覚化されるほど強くなっている。

 

「うっ……」

 

優人はペリーヌの発する威圧感を感じとっていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

窓から空を見ると日が先ほどよりも高く上っていた。そろそろ食事の時間だ、と食堂へ向かう優人。整備を終えても時間が余っていたため自室で本を読んでいた。彼の部屋には忙しさのため、読むことが出来なかった本が溜まっている。

 

(今日のメニューは何かな?スープでるかな?)

 

優人は18歳という年齢にも関わらず、子どもの様に朝食のメニューを予想してワクワクしていた。

ま戦闘とデスクワークで忙しい彼にとって食事はこの基地における数少ない楽しみなのである。普段の忙しさも過酷な戦闘も忘れ、心から安らげる時間だ。

 

「あら?優人おはよう!」

 

誰かに声を掛けられた。声のした方へ目をやる、相手はカールスラント空軍のウィッチ、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐。彼女は第501統合戦闘航空団の司令を務めている。

 

「ああ、おはようミーナ!」

 

挨拶をしたミーナに優人も挨拶を返す。本来なら上官であるミーナには敬語を使うべきなのだろうが本人の意向で口調を崩して話している。それは他のウィッチたちも同様である。

 

「聞いたわよ、悩みがあるんですって?」

 

「なんだ…もう隊長の耳に入っているのか?(さては坂本だな……)」

 

優人は自分の悩みのことをミーナに伝えたであろう友人を脳裏に浮かべる。

 

「ええ……ふふふ、本当に妹さんが大切なのね」

 

ミーナは手を口に当て上品に笑いながら言う。ミーナは優人の妹のことを知っている。坂本経由で伝わっているのだ。いや、妹のことに限らず優人が坂本に話したプライベートのことは大体ミーナに筒抜けなのである。それ故に優人はミーナに知られたくないことは絶対に坂本の前では話さないようにしている。

 

「そりゃ妹は大切さ。眼に入れても痛くないほどに可愛いやつだよ」

 

軍事基地の廊下でシスコン宣言ともとれる発言している男がここにいる。それもドヤ顔で。これにはさしものミーナ中佐も苦笑いを浮かべていた。雑談をしながら歩いているとさらに二人のウィッチと出会した。

 

「ミーナ!優人!おはよ~!」

 

「あら、おはよう。エーリカ、トゥルーデ」

 

ミーナは挨拶を返す。二人に手を振りながら挨拶したのはミーナと同じくカールスラント空軍ウィッチのハルトマンだ。隣にはもう一人のカールスラントウィッチ、ゲルトルート・バルクホルンがいる。トゥルーデとはバルクホルンの愛称だ。ミーナに続いて優人も挨拶を返す。

 

「おはようハルトマン!バルクホルンも」

 

「……おはよう」

 

バルクホルンが挨拶を返す。笑顔で挨拶したミーナやハルトマンに対し、バルクホルンは無表情でなんだか素っ気ない。

 

「皆さんおはようございます」

 

食堂に到着する。四人に挨拶したのはリネット・ビショップ軍曹、愛称はリーネ。ブリタニア空軍からきた新人ウィッチだ。彼女はキッチンカウンターに朝食の乗ったトレイを並べていた。

 

「おはようリーネ。いつも食事の準備ありがとう!」

 

「だって、私にはこれくらいしかできませんから」

 

「え?」

 

「い、いえ……何でもありません!」

 

よく聞き取れなかった優人。聞き返すがリーネは誤魔化し、トレイを取ってテーブルに行ってしまう。テーブルにはスオムス空軍のスーパーエース、エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉とオラーシャ陸軍のナイトウィッチ、サーニャ・V・リトビャク中尉が座っている。二人とも北国出身で透き通るような白い肌をしている。

夜間哨戒明けのためかサーニャは目が開いておらず、こっくりこっくり船を漕いでいる。エイラはサーニャが椅子から転げ落ちないように彼女を支えている。

 

「優人ぉ~っ!!」

 

「ん?うわっ!」

 

優人が心配そうにリーネを見ていると誰かが後ろから飛びついてきた。しかもその相手は何やら優人の胸をまさぐっている。

 

「ルッキーニ、またか?」

 

振り返る優人。飛びついてた相手はフランチェスカ・ルッキーニ少尉、ロマーニャ空軍のウィッチ。部隊最年少でみんなの妹分的な存在だ。彼女はよく女性の胸を揉む、何故か男性である優人の胸まで触ってくる。

 

「どうだ?少しは変わってたか?」

 

そうルッキーニに尋ねるのはリベリオン陸軍のウィッチ、シャーリーことシャーロット・E・イェーガー中尉。オレンジのロングヘアーと男受けしそうなダイナマイトバディの持ち主だ。

 

「う~ん。相変わらず、残念」

 

「あっはははは!そうかそうか」

 

優人から離れたルッキーニはつまらないと言った表情を浮かべて言う。シャーリーは大笑いしている。

 

「おはよ~優人」

 

「ああ、おはよう」

 

優人はシャーリーに挨拶を返すと、ルッキーニに向き直る。

 

「あのなルッキーニ。俺は男だから、胸がないのは当たり前だよ」

 

と優人は言う。彼がルッキーニにこれを言うのは何度目になるだろう。これがルッキーニなりのスキンシップなのか、単純に他人の胸が揉むのが好きなだけかもしれないが――

 

「それにしても、ルッキーニは本当に胸が好きだな」

 

「うじゅ?優人もおっぱい好きでしょ?」

 

「……えっ?」

 

「違うの?優人はいつもシャーリーやリーネのおっぱい見てるから好きなのかな?って」

 

「えっ?……えええええええええぇ!!」

 

ルッキーニの話を聞いて顔を真っ赤にしながら叫ぶリーネ。両手を使って、胸を庇うように隠している。

 

「み、見てない!断じて見てないっ!!」

 

激しく首を横に振る優人、どうやら図星のようだ。ムキになって否定する優人に対し、ルッキーニは不満そうな顔をする。

 

「うっそだぁ~!いつも二人のおっぱいジロジロ見て……むぐっ」

 

優人はルッキーニが何を言おうとしているか理解し、彼女の口を手で塞ぐ。ルッキーニは「ん~!~ん!」と唸りながらジタバタしている。

 

「優人も健全な男子ってことか~」

 

ニヤッと意地の悪い笑みを浮かべるシャーリー。

 

「もしかして優人って、私達の身体目当てで501にいるの?」

 

シャーリーと同じ笑みを浮かべて自分の身体を抱きしめるハルトマン。

 

「まさかオマエ、サーニャのこともそんな目で……」

 

ハルトマンの冗談を鵜呑みにしたのか、エイラはサーニャを守るように抱き寄せながら優人を睨んでいる。一方、サーニャの意識は夢の中である。

 

「いやいや、俺はそういうのお互いが認めてないとやらないから」

 

やましいことなど何もない優人は手を顔の前でブンブンと振りながら言う。

 

「素敵な考えね。でもみんなの着替えやお風呂を覗いたらダメよ?」

 

笑顔で言うミーナ。しかし、優人はその表情から凄まじいプレッシャーを感じた。

 

「不可抗力以外なら極力気をつけるけど……」

 

「不可抗力なら覗くことを了承しろということか?」

 

優人の言葉を聞いて、バルクホルンがぎらっと彼を睨んだ。優人の額や背筋に冷や汗が一筋流れる。

 

「八百万の神々に誓って覗きません!」

 

そう言いながら優人は頭を下げる。バルクホルンはふんっと鼻を鳴らすとトレイを持って席に着いた。

 

「おー!みんな揃ってるな」

 

入浴していたため、遅れた坂本がやって来た。彼女の後ろにはペリーヌがいる、心無しか優人を睨んでいるように見える。これで全員が揃った。

 

「ハイハイ、皆さん!そろったことだし、お喋りは止めて朝食にしましょう」

 

ミーナが手を叩きながら言うと隊員達はテーブルに着いて食事を始めた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

朝食の後。優人は隊長執務室に呼び出されていた。部屋には彼以外に坂本とミーナの二人がいる。

 

「帰国?扶桑に?」

 

「そうだ」

 

優人の質問に坂本が答え、ミーナが続ける。

 

「ブリタニアに駐留していた扶桑の空母『赤城』が、明日の朝補給物資受領のために本国へ戻ります」

 

「私も新人ウィッチのスカウトのため赤城に乗艦して帰国する。お前も同行しろ」

 

と坂本。501の基地が置かれているブリタニアは欧州最後の砦にして人類の反抗拠点である。そして501はそのブリタニアの本土防衛とガリア奪還を目的とした部隊であり戦力はいくらあっても多すぎるということはない。優秀なウィッチが加わってくれれば心強い。しかし、優人は一つ疑問を抱いた。

 

「坂本はともかく何で俺まで?」

 

優秀な教官であり、人の才能を見抜くことに長けている坂本が直に新人を見極めるのは理解出来る。しかし、適正はあるものの、教官や指揮官としては平凡な優人が着いていく意味がわからなかった。

 

「赤城はお前の故郷、横須賀に入港予定だ」

 

「横須賀に?」

 

「お前はもう何年も帰国していないだろう?」

 

(なるほど。それで今朝あんなことを……)

 

優人は今朝坂本に言われたことを思い出していた。

 

「しかし、一度に2人も抜けて大丈夫か?」

 

ブリタニアから出発して扶桑到着するまでひと月はかかり、往復で2ヶ月だ。優人からしてみれば、そんな期間を留守するのは気が引ける。

 

「大丈夫よ。少しの間なら二人がいなくても問題ないわ」

 

「しかしなぁ……」

 

渋る優人。扶桑へは以前から帰りたいと思っていたため、帰国出来ることは最高に嬉しい。しかし、いざ帰国するとなると優人は複雑な心情だった。家族、特に妹に会うことは少し不安だった。8年も会っていないため忘れられてる可能もある。例え覚えていたとしても長いこと自分をほったらかしにした兄のことなんて嫌いになっているかもしれない。

それに501にはミーナ達カールスラント組をはじめ、ネウロイによって国や家族を失った隊員達がいる。彼女達のこともあって、優人は帰国を躊躇っていた。

 

「お前は仲間を信頼していないのか?せっかく帰国出来るんだ、中佐の好意に甘えさせて貰え」

 

坂本がため息混じりに言う。無論、優人とて仲間を信じていないわけではない。

 

「いや、信じていないわけじゃ――」

 

「はい、そこまで」

 

ミーナはすっと立てた人差し指で優人の唇を閉じ、彼の言葉を止める。

 

「あなたは少し気に病み過ぎよ?私達に遠慮なんかしないで家族に顔を見せてあげなさい」

 

ミーナは慈愛に満ちた表情で言うと、優人の唇から指を離す。

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

優人は赤面しながらも何とか言葉を紡ぐ。

 

「む?どうした?熱でもあるのか?」

 

坂本が優人の顔を見て、首を傾げる。

 

「と、ところでスカウトするウィッチはどんな子なんだ?ウィッチ訓練校の生徒か何か?」

 

優人が誤魔化すように質問をする。

 

「これを見てみろ」

 

坂本は優人の質問に答える代わりに書類を優人さに手渡した。恐らくはスカウトしに行く相手に関する書類だろう。優人は渡された書類に目を通す。

 

「なっ!?…」

 

優人は書類に添付された写真を見た瞬間、目を見開いた。何故ならそこには――

 

「芳佳?……」

 

成長しているが間違いない。写真に写っているのは優人の妹、宮藤芳佳だった。




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