ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

41 / 119
お風呂のシーンを何度も見返しながら書いてたら、ムラムラしてしまいました←

ハルトマンが他のシーンよりもバストアップしてるようにも見えたし←


第38話「信じて欲しい妹、信じた兄」

優人が目を覚ましてから約一時間後、部隊長執務室――

 

軍規違反を犯した芳佳の処罰を決定するべく、ミーナは本人を執務室に呼び出した。間も無くバルクホルンとハルトマンに付き添われた芳佳が部屋を訪れる。

奥の机に着いたミーナは険しい表情で芳佳を見据え、彼女の傍らに立つ坂本は落ち着いた様子で目を閉じている。

 

「宮藤芳佳軍曹」

 

静寂に支配されながらも張り詰めた空気の漂う中で、ミーナがおもむろに口火を切った。軍規や軍刑法、軍法会議について書かれた書類が挟んであるクリップボード越しに芳佳を見ながら告げる。

 

「あなたは独断専行の上、上官命令を無視、これは重大な軍規違反です」

 

「……はい」

 

厳しい視線を投げかけるミーナに対し、芳佳は小さく頷いた。

 

「この部隊における唯一の司法執行官として質問します。あなたは軍法会議の開催を望みますか?」

 

「……あ、あの」

 

「返答がないので、軍法会議の開催は望まないと判断しました」

 

芳佳の言葉を遮り、ミーナは話を進める。本来、軍法会議を開催するかどうかの決定権は軍規を犯した側、つまりは芳佳にある。これは上官によって部下が不当な権利侵害を受けることを避けるための措置だ。しかし、芳佳に対して不利に働いていた。

今回の一件における芳佳の行動を軍法に照らし合わせると、良くて逃亡罪か違令罪、悪くて抗命罪に該当する。

もし芳佳が軍法会議の開催を主張すれば、他の部隊から法務士官が派遣され、厳密な調査を行った上で裁判が行われるだろう。しかし、501基地の場所はブリタニアで、直属の上官が日頃から501を疎ましく思っているブリタニア空軍のマロニー大将である以上、派遣される法務士官は彼の息のかかった人間である可能性が極めて高い。

そうなれば、芳佳に下される判決はほぼ間違いなく死刑、それを免れても禁固刑。彼女はブリタニア軍ではないので、判決に関わらず扶桑海軍に戻して本国送還となる可能性が高いが、最前線という理由で刑が執行されてしまう可能性も否定できない。それに狡猾なマロニーのことだ。おそらく、芳佳の件に乗じて501へ介入してくるだろう。

芳佳と部隊を守るためには、軍法会議の開催だけは避けなければならない。ミーナは芳佳が軍規に詳しくないのをいいことに、有無を言わさずに軍法会議を開かず隊内処分で済ませようとしていた。

 

「今回の命令違反に対し、勤務、食事、衛生上やむを得ぬ場合を除き、明日から10日間の自室禁錮を命じます。異議は?」

 

「あの……私、ネウロイと……」

 

「改めて訊きます。異議は?」

 

「まぁ待てミーナ」

 

何かを話そうとする芳佳を無視し、語気を強めて訊ね返すミーナを、さらに坂本が制する。

 

「芳佳、何故撃たなかった?」

 

芳佳をじっと見据える坂本は、ミーナ相手に萎縮してしまっている彼女を気遣い、なるだけ穏やかな口調で問う。

 

「え?」

 

「あの時、何故お前はネウロイを撃たなかった?」

 

「……撃てなかったんです」

 

繰り返し訊ねる坂本に、芳佳は俯きながら答える。

 

「人の形だからか?あれはお前を誘い込む罠だ」

 

「でも……私、あの時……何かを感じたんです」

 

芳佳には、聞いて貰いたいことがたくさんあった。人型ネウロイから他のネウロイとは違うものを、敵意ではない何かを感じたこと。あのネウロイは自分に何かを伝えようとしていたように思えたこと。分かり合えるかもしれないこと。

しかし、場の緊張感のせいだからか。せっかく発言が許されたというのに、芳佳は人型ネウロイと接触した際に感じたことを上手く説明することが出来きなかった。

 

「ネウロイは人類の敵だ」

 

人型ネウロイに対する芳佳の述懐を危険視したのか、坂本は真剣な面持ちでぴしゃりと言い放つ。

それに本人に自覚はないだろうが、考えといい、ネウロイを庇ったことといい、一連の彼女の行動は明らかな利敵行為。こんなことが今後も続けば芳佳は隊内で立場を失うかもしれない。

 

「それと私達は部隊として、ウィッチーズという名のチームとして動いているんだ。1人の身勝手な行動は周りを危険に晒しかねない。今回の優人のように……」

 

「…………」

 

俯いたまま、芳佳は黙って応じる。自分の行動が原因で兄に、優人に怪我をさせたことを改めて理解し、芳佳は瞳を潤ませる。

 

(私にそんなことを言う資格など無いがな……)

 

坂本は心の中で自嘲気味に呟くと、フゥと息を吐いてからミーナへ振り返る。

 

「……ミーナ。芳佳にも芳佳なりの理があるようだ。ここは私の顔に免じて自室禁固は勘弁してくれ」

 

「坂本少佐。ですが――」

 

「頼む」

 

何か言おうとするミーナを遮り、坂本は頭を下げて懇願する。数日前の夜、ミーナの部屋を訪れた優人も自分に頭を下げていた。無論、芳佳の為に。

 

「分かりました。芳佳さんには今日から一週間、トイレとハンガー内の清掃を命じます。良いですね?」

 

二人の戦友の姿が重なって見え、険しかったミーナの表情が自然と緩み、硬かった口調も柔らかなものへと変わる。同時に張りつめていた部屋の空気も和らいでいく。

 

「……はい」

 

一方、芳佳の表情は暗いままだった。それもそのはず、彼女が望んでいるのは処分の軽減ではない。

 

「では、退室して下さい」

 

ミーナのそう言うと、芳佳は心ならずも一礼し、執務室を後にする。バルクホルンとハルトマンもやや遅れて退室し、室内にはミーナと坂本の二人だけとなる。

 

「……ありがとう、美緒」

 

暫し沈黙を置き、ミーナが礼を述べる。

 

「何のことだ?」

 

「あなたのおかげで、芳佳さんを傷つけずに済んだわ」

 

ミーナは机に視線を落としながら自分の行いを振り返る。彼女の取った行動は、芳佳と部隊を守るためには最善と言えるものだった。

脅迫状の一件を考えれば、この件も既にマロニーの耳に入っているとみて間違いない。もたもたしていれば、バルクホルンが懸念したように芳佳の処遇について口出ししてくるだろう。

軍法会議を開かない隊内処分ならば、部隊内部だけの問題であり、501で最も階級の高いミーナの判断で処分内容を決定出来る。その判断に司令部や他の部隊が介入することは不可能であり、必要以上に書類を残す必要もない。芳佳の経歴に傷はつかないし、マロニー一派にあら探しをされる心配もない。

問題は、芳佳の心情に対する配慮が欠けていたことだろう。ミーナに心の余裕があれば、あのような高圧的な態度を取ることもなかった。軍法会議のことなどおくびにも出さずに、普段通りの優しい口調で芳佳に語りかけつつ、彼女の言い分にもしっかりと耳を傾けただろう。しかし、親しい間柄の友人――優人の負傷によって少なからず取り乱してしまい、規則通りにことを進めのがやっとだった。

もし今回負傷したのが坂本で、あの場に彼女がいなかったとすれば、彼女からフォローが入らなかったとすれば、ミーナの芳佳を助けようと必死になる気持ちばかりが先行して、高圧的な言動で芳佳を心理的に追い詰めてしまっただろう。

 

「ダメな隊長ね、私は……」

 

ミーナは目を閉じ、自嘲気味に呟く。

 

「優人の代わりに私が芳佳さんを守らなければならないのに……」

 

「ミーナ……」

 

坂本はミーナに近付くと、彼女の背中へ両腕を伸ばし、自分の方へ抱き寄せた。

 

「えっ!?……ちょっ!美緒!?何を!?」

 

突然のことに、ミーナは頬を染めて当惑する。

 

「ミーナ……すまなかった……」

 

「え?」

 

「優人が撃たれてよく分かった。私に銃を向けたあの夜、お前がどれだけ苦しかったか……」

 

坂本はミーナの背中へ回した腕に一層力を込めた。

 

「お前にずっとつらい想いをさせていたんだな。私こそバカな女だ」

 

「……ホント、バカよ」

 

ミーナは震える声で言葉を返し、嗚咽交じりに語りだした。

 

「あなたも優人も……私や皆に、こんな想いをさせて」

 

「……すまない」

 

「私達は……家族なの、よ。誰も欠けてはいけないの、12人全員、でストライクウィッチーズなのよ」

 

「すまない」

 

「謝るくらいなら、もう二度としないで」

 

ミーナの目尻に涙が浮かぶ。

 

「すまない。それは無理だ……」

 

「っ!?……バカ……」

 

「すまない」

 

「本当にバカ」

 

それからしばらくの間、執務室ではミーナが「バカ」と言い、坂本が「すまない」と応じるやり取りが続いていたそうな。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

リーネが廊下で忙しなく指を動かしていると、執務室から処罰を言い渡された芳佳が出てきた。リーネは弾けるような笑顔を浮かべ、芳佳に駆け寄った。

 

「芳佳ちゃん!優人さん、もう大丈夫だって!」

 

「……うん」

 

「良かったね!」

 

「……うん」

 

「うん?」

 

鈍い反応を示す芳佳の顔を、リーネは不思議そうに覗き込む。

 

「そうだ!ねぇ芳佳ちゃん、お風呂行こうよ!お風呂!」

 

「え?」

 

「ね?ほら、早く早くぅ!」

 

リーネは芳佳の返事を聞くよりも先に彼女の手を取り、大浴場へ向かって駆け出した。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

唐突な誘いといつになく積極的なリーネに、戸惑う芳佳であった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

湯気に包まれた大浴場には、執務室に残った坂本とミーナ、ペリーヌを除くウィッチ達が集まっていた。

浴槽にはシャーリーとルッキーニ、芳佳と同じく執務室からやって来たバルクホルンとハルトマン。シャワースペースでは、エイラとサーニャが身体を洗っている。

全体的に仲の良いウィッチーズだが、これほどの大人数で一緒に入浴を楽しむ光景は意外と珍しい。無論、男性かつ怪我人である優人の姿はない。

 

「来ましたぁ~!」

 

「あ、こっちこっち~!」

 

リーネと彼女に手を引かれた芳佳が浴室に姿を見せると、ルッキーニが手招きする。彼女に促された二人は、浴槽に張られた湯の中へゆっくりと身体を沈める。

 

「なぁ、芳佳。トイレとハンガーの掃除だって?」

 

すぐ隣にいたシャーリーが声を掛ける。さらに芳佳の首に腕を回し、自分の胸に抱き寄せた。グラマラス・シャーリー自慢の巨乳が眼前まで迫り、芳佳は顔を真っ赤する。

 

「自室禁固は勘弁して貰えてよかったなぁ〜!」

 

「シャーリーなんか5回も禁固刑くらってたもんね~?」

 

「バカ言え!4回だ4回!」

 

ルッキーニに茶化され、シャーリーはムキになって否定する。そこへ犬掻きをしていたハルトマンが近づき、シャーリーの尻馬に乗るように言う。

 

「私ぃ、6回っ!あはははははっ!」

 

胸を張りながら自慢気に語るハルトマン。彼女につられて、ウィッチ達も笑う。

問題児とも形容出来るほどに個性的なウィッチをも有する501において、禁固処分はさほど珍しいものでもないようだ。

 

「みんな聞いて!」

 

芳佳はそう言って浴槽の中で立ち上がった。一同の視線が彼女に注目する。

 

「あの、私ネウロイに……今までと違う何かを感じたの。もしかしたら、ネウロイと戦わずに済む方法があるのか――」

 

「何をバカなことをっ!」

 

真っ先に反応したのはバルクホルンだった。彼女は憤然と立ち上がると、鋭い眼光で芳佳を睨みつける。

 

「芳佳ちゃん」

 

芳佳のことを案じたリーネが制する。しかし、芳佳は主張を止めなかった。

 

「でもあの時はネウロイと分かり合えて――」

 

「今まで奴らが何をしてきたか知ってるのか?」

 

反論など許さないと言わんばかりに、バルクホルンは芳佳の言葉を遮る。

 

「人に仇なすことばかりだ。優人だって、お前の兄だって撃たれたんだ。なのにお前はネウロイの味方をするのか?」

 

意思疎通や相互理解によるネウロイとの和解の可能性は、この戦争の意義を揺るがす大問題である。しかし、今の二人にそんな考えはない。

バルクホルンにとってネウロイは、妹を傷つけ、国焼き、家族をはじめとする大切な人々の命を奪った怨敵。決して相容れことのない絶対悪だ。彼女に限らず、ネウロイに国を追われた人々の多くは、ネウロイを徹底的に殲滅すべき対象、憎き敵と見ている。

 

「今回のネウロイは他と違います!」

 

それでも、と芳佳は反論を続ける。怒りや憎しみの感情から異を唱えるバルクホルンに対し、芳佳は直感に忠実。理屈などなく、人型ネウロイと触れ合って感じたことを素直に口に出しているのだ。

 

「お前は違いが分かるほど戦ったのか!?」

 

バルクホルンが芳佳の発言を一蹴すると、浴室内が沈黙に支配された。本大戦の初期から戦い続けてきたバルクホルンの言葉が、芳佳の心に鉛のように重く伸し掛かる。

 

「にゃははははっ!人型が出たのは聞いたけど、だからってなぁ~」

 

ふと快活な声で笑うハルトマン。二人の間に流れる険悪な空気を吹き飛ばそうとしたのだろう。

 

「カウハバ基地のコトカ?所詮噂じゃん?」

 

シャワースペースでサーニャの頭を洗ってあげていたエイラが、浴槽へ振り返って口を挟む。

 

「でも……この間の唄うネウロイは?」

 

「それが罠だったじゃないカ!」

 

サーニャが芳佳の味方をしようとするが、エイラに一蹴されてしまい、ショボくれる。

 

「…………」

 

黙り込む芳佳。全員は無理でも何人かは自分の言い分を理解してくれると思っていたが、考えが甘かった。

ウィッチに限らず、すべて連合軍の将兵にとってネウロイは人類を脅かす存在。経験の浅い新兵一人の説得で、その意識が変わるはずはない。芳佳自身、つい昨日までネウロイを敵としか認識してなかった。

 

「……あっ!?」

 

突如、芳佳の身体が跳ね上がる。ルッキーニが彼女の背中に己の人差し指を這わせていたのだ。あまりの擽ったさに、芳佳はゾクゾクと小刻みに震える。

 

「芳佳ぁ~元気出せよぉ~♪うりゃ♪」

 

「ひ、ひゃああああっ!?」

 

続いて、左右の尻を両手でギュッと掴まれ、芳佳は悲鳴を上げる。さらに背後から手を回し、芳佳の両胸をムニムニと揉み拉いた。

 

「ダブルボンバー!!」

 

「やめて~!」

 

「ルッキーニちゃん!」

 

ルッキーニの餌食になっている芳佳をリーネが助けようとするが、どう助ければ分からず逡巡する。

 

「少しは育っタカ?」

 

エイラが訊ねる。彼女とルッキーニと趣味の方向性が似ているそうな。

 

「……ない」

 

隣で自分とエイラの胸を見比べたサーニャが哀しげに呟いた。二人共スレンダーな体型をしているが、サーニャはエイラと比べて微妙に発育が悪いことを内心気にしている。

 

「やっぱもの足んな~い……あっ!」

 

と、不満そうなに言うルッキーニ。視線をエイラから真正面へ戻してみると、すぐ目の前に大きく実った美しい果実――つまりは、リーネの胸を見つけた。

 

「な、なぁに?ルッキーニちゃん?」

 

自分をジッと見つめてくるルッキーニに対し、リーネは引き攣った笑みを浮かべ、おずおずと訊ねる。

 

「ニヤ~リ!」

 

擬音を口に出しながら笑みを浮かべるルッキーニ。その目は、獲物に襲いかかろうと狙いを定める肉食獣のそれだ。

 

「いやああああぁ~!」

 

「ニャヒャヒャヒャ!ウリャリャリャリャ!」

 

身の危険を感じたリーネは脇目も振らず、一目散に逃げ出した。同時にルッキーニも、湯を撒きながらリーネを――正解には、たぷたぷと揺れる胸を全力で追い掛ける。

しかし、ルッキーニの興味はより大きな獲物に移る。それはリーネをも上回り、部隊最大を誇るシャーリーの巨乳だった。ルッキーニはすかさず飛び込んた。

 

「にゃ~ん♪やっぱ、これだよねぇ~♪」

 

胸の谷間に顔を埋めたルッキーニは至福の表情を浮かべる。シャーリーもルッキーニを受け入れ、頭を優しく撫でてやる。

 

「楽しいのかなぁ?」

 

心底幸せそうなルッキーニのを見て、ハルトマンは脳裏に疑問符を浮かべつつも、同時に興味を抱いた。

 

「馬鹿なだけだ」

 

頭痛を覚えたバルクホルンが、頭を押さえながら言い捨てる。

 

「うりゃ!」

 

「うわぁあっ!」

 

試しにバルクホルンの胸を揉んでみるハルトマン。予想していなかったバルクホルンは、悲鳴と共に身体を仰け反らせる。

 

「な、何てことするだぁっ!!」

 

醜態を晒してしまったバルクホルンは、すぐさまハルトマンを怒鳴りつける。

 

「トゥルーデって、結構あるよね♪」

 

が、ハルトマンは至ってマイペース。バルクホルンの柔らかな胸の感触と面白い反応を楽しむ。

 

「こ、こ、こんなもの!戦いに必要ない!」

 

「こんもの、って……胸が無くなったら優人に愛想尽かされるかもよ?」

 

「な、何でそこで優人が出てくるんだぁ~っ!」

 

「にゃははは!トゥルーデ、顔を真っ赤ぁ~!」

 

「ぷっ!フフ……」

 

いつも通りの賑やかな光景に、芳佳は自然と笑みを零した。しかし、その笑顔も長くは続かず、すぐに雲ってしまう。

 

(どうして……誰も信じてくれないの?)

 

信じてもらえない悲しみから瞳を潤ませる芳佳。ふと脳裏に人型ネウロイの姿が浮かび上がる。

 

(あれは間違い?……ううん、違うよね?)

 

自問自答を繰り返す芳佳だったが、答えは出ない。

 

「……私……どうしたらいいんだろう?」

 

芳佳は自分にしか聞こえない、悲しみを孕んだ声で呟いた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

入浴後、基地宿舎――

 

朝は快晴だったドーバーの空もウィッチ達が入浴を終えた頃には真っ黒な群雲に覆われ、雨を降らせていた。日光も分厚い雲によって遮られ、景色は昼間にも関わらず薄暗い。

この天気の変化は、まるで芳佳の心境を反映したかのようだった。

 

「……どうしよう」

 

宿舎の廊下。ある一室のドアの前には、何やらもじもじとしている芳佳の姿があった。風呂から上がった芳佳は自室には戻らず、この部屋の前前で来ていた。部屋のプレートには『YUTO.MIYAFUZI』とある。優人の部屋だ。

 

「う~ん……やっぱりダメ!」

 

ドアをノックしようと右手を伸ばす芳佳だったが、音を響かせる前に頭を振りながら手を引っ込める。

約十分前からこの調子だ。大好きな兄――優人の会いたいと思って訪ねに来たというのに、部屋へ入る決心がつかない。

 

(お兄ちゃんなら、もっとちゃんと話を聞いてくれるかもだけど……だけど……)

 

ウィッチーズの誰からも理解を得るどころか、しっかりと言い分を聞いて貰うことすら出来なかった芳佳。入浴直後、彼女の足は自然と優人の部屋へと進んでいった。

優人が自分の話に耳を傾けてくれることを期待したのか、それとも単に慰めて欲しかったのか。それは芳佳にも分からなかった。確かなのは、兄に甘えようとしていることだけだった。

散々暴言を吐いて傷つけ、自分の行動が原因で大怪我までさせた。その癖、落ち込んでいるところを慰めて貰おうとしている。また兄に助けて貰おうとしている。

 

「私……最低だよね……」

 

「何が最低?」

 

「ひゃああああぁっ!」

 

突然、背後から声がした。驚いた芳佳は悲鳴と共に飛び上がる。

 

「お、お兄ちゃん?」

 

振り返ると、病院着姿の優人がすぐ後ろに立っていた。

 

「よぉ、どうした?」

 

「もう、驚かさないでよ!どうして、いつもいつも足音立てずに近付いて来るの!?」

 

プンスカと怒る芳佳。対する優人は困ったような顔をする。

 

「いやぁ……そう言われてもなぁ。それよりも、俺に何か用?」

 

「あ……えっと……」

 

優人に訊ねられ、芳佳は言葉に詰まった。優しい兄のことだ。入浴時のことや人型ネウロイのことを話せば、励ましてくれるだろう。相談にも乗ってくれるだろう。しかし、そんな虫の良いことが許されていいはずがない。

芳佳はこれ以上優人に迷惑は掛けたくなかった。かといって、上手い言い訳も思い付かず、ただただ無言で俯いた。

 

「…………」

 

「……芳佳、顔上げて」

 

見兼ねた優人が優しく語り掛けると、芳佳をゆっくり顔を上げた。

 

「お見舞いに来てくれたんだな?」

 

「えっ?……あ、うん」

 

優人の問いに、芳佳は思わず頷いた。

 

「ちょっと、話相手になってくれない?」

 

「……えっ?」

 

「ロフティング先生に『部屋に戻ってもいいけど、安静にして下さい』って言われてさ。本読むかトイレに行くかしかやること無くて暇なんだよ。可愛い妹と楽しいおしゃべりがしたいなぁ……なんて」

 

「でも……お兄ちゃんは怪我してるし。ゆっくり休んだ方が――」

 

「お前と過ごす時間が何よりの薬だよ。ほら、突っ立ってないで入るぞ!」

 

「あっ!ちょっと!」

 

芳佳は問答無用で手を引かれ、部屋に連れ込まれてしまう。

彼女がこの部屋に入るのは随分と久しぶりのこと。最後に入ったのは、勘違いしたバルクホルンにドアを破壊されたあの日。今日と同じように大雨が降っていた。

 

(久しぶりのお兄ちゃんの部屋。お兄ちゃんのにおいがする)

 

男性である兄の部屋からは、自分のとも他のウィッチのともまた違った趣が感じられ、改めて入ってみると妙に意識してしまう。

これは芳佳が女性と成長しているからなのか、それとも……。

 

「芳佳」

 

ベッドに腰掛けた優人が、ぼーっと突っ立っている芳佳に声を掛け、すぐ隣のスペースをポンポンと叩いた。「ここに座りなさい」ということだろう。

芳佳は躊躇いがちになりながらも優人の左隣に腰を下ろした。すると、優人は芳佳の肩に左腕を回し、グイッと自分の方へと引き寄せた。

 

「お兄ちゃん?どうしたの?」

 

突然密着され、戸惑う芳佳。宮藤兄妹は普段からよくスキンシップをしているが、抱き着いたり、寄り添ったり等は優人の方からはあまりしてこない。それはどちらかと言えば芳佳がすることで、優人はせいぜい頭を撫でる程度だ。

 

「ん?妹成分の補給」

 

「い、妹成分?」

 

聞き慣れない単語に芳佳は疑問符を浮かべて、鸚鵡返しする。

 

「妹成分って、言うのはな。兄が妹とのスキンシップで補給するエネルギーのことだよ。これを定期的に補給しないと、世の兄貴達はミイラみたいにカラカラになっちゃうんだ」

 

「ええっ!?じゃあ、私と離れたらお兄ちゃんはミイラに!?」

 

「いやいや、冗談だから」

 

すぐ嘘だと分かりそうなものを、芳佳は簡単に信じてしまう。優人が思っていた以上に彼の妹は天然らしい。

 

「あ、冗談?そっか……」

 

ホッと胸を撫で下ろす芳佳。だが、優人の方は騙されやすい妹の将来が少し不安になった。

 

「それで?」

 

「え?それで、って?」

 

「何か悩みがあって、俺に相談しに来たんじゃないのか?」

 

「ふぇっ!?な、無いよ!」

 

芳佳は首を左右に振る。図星を突かれ、分かりやすく動揺している。

 

「顔に書いてあるぞ?な・や・み、って」

 

「か、書いてない!書いてない!」

 

と、芳佳はブンブンとさらに激しく首を振る。すると、優人は芳佳の顎を持ち上げて自分の方へと向かせた。

 

「あ……」

 

身体を密着させていたため、優人の顔が眼前に来る。至近距離で見つめれた芳佳の頬には赤みが差し、思考が一瞬停止する。

 

(お、お兄ちゃんの顔が……こんなに近くに……)

 

「あるんだろ?話してくれないか?」

 

「…………」

 

「自分をひっぱたくような兄貴なんて信用出来ないか?」

 

「――っ!?違くて!そうじゃなくって!お兄ちゃん大好きだけど!……その!」

 

意地の悪い訊き方をする優人。慌てた芳佳は両手を顔の前で振って必死に否定した。

 

「俺が好きなら教えてくれないか?」

 

優人はズイっと顔を寄せて微笑んでみせる。

 

「あう……言うから、もう許して……」

 

ゼロ距離まで迫った兄の顔。芳佳の顔は一層赤くなり、頭からは煙が出ていた。

しばらくして頭から熱が引くと、芳佳はポツポツと語り始めた。接触した人型ネウロイと分かり合えたかもしれないこと。そのことを他のウィッチ達にも話したが、訝しがられるばかりだったこと。バルクホルンからは全否定されたこと。

優人は最後まで口を挟まず、芳佳の言葉にしっかりと耳を傾け、時折頷きながら話を聞いていた。

 

「なるほど、皆には信じて貰えなかったと……」

 

優人が確認するように訊くと、芳佳は小さく頷いた。

 

「バルクホルンさんなんて、すっごく怒ってた」

 

「まぁ、だろうな」

 

優人は苦笑する。確かにネウロイと戦わずに済むなら、意思の疎通が可能で話し合いで解決出来るのなら、それが一番だろう。これ以上、ネウロイとの戦争で誰も傷つかずに、死なずに済む。しかし、出来るか出来ないかに関わらず、人類すべてがその考えを支持するとは限らない。少なくともカールラントやガリア等の祖国をネウロイに蹂躙された人々はは間違いなく反対し、ネウロイの撲滅を強く主張するだろう。

多くの人間が平和を求めているのは確かだが、人は理屈よりも感情で動く生き物だ。中でも怒りや憎しみなどの感情は特に心を支配しやすく、理性で抑え込むのは容易ではない。

どれだけ理想的で平和的な解決法も、激しい怒りを抱いた者の前では無力だ。この戦いの行方がどうなろうと、人々のネウロイに対する憎悪は増しこそすれ、決して消えはしないだろう。

 

「でも私……やっぱり、やっぱり確かめたい」

 

芳佳は一緒に空を舞い、自分の弱点であるはずのコアを晒して見せたネウロイのことを思い出していた。

 

「……芳佳、報告書は?」

 

「え?」

 

「このことをちゃんと報告書に纏めて提出したのか?」

 

「……ううん」

 

芳佳が首を横に振ると、優人はニッと笑みを浮かべた。

 

「なら今から書こう」

 

「でも、私……書類は苦手で」

 

「俺が教えてあげるよ。皆を納得させたいんだろ?俺に考えがあるんだ。まず必要なのは、なるだけ客観的な内容の報告書」

 

「……分かった。やってみるよ」

 

「よし!」

 

兄に背中を押され、芳佳は力強く頷いた。そんな妹を見て優人にも俄然やる気が出てきた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

さらに一時間後、部隊長執務室――

 

501基地の部隊長執務室にはミーナと坂本、そして二人に芳佳の書いた報告書とある作戦の立案書を提出しに来た優人の姿があった。

優人は今朝と違って病院着ではなく、扶桑海軍の第二種軍装を身に纏っていた。

 

「……正気なのか?」

 

作戦立案書に目を通した坂本が険しい表情で問う。

 

「おかしく見えるのか?」

 

と、訊き返された坂本は眉を顰める。むしろ彼女は優人がおかしくなっていることを望んでいた。一番付き合いの長く、心から信を置いている戦友が、こんな馬鹿げた作戦を提案するなど認めたくなかったからだ。

 

「では宮藤大尉、確認します」

 

机の椅子に腰掛けたミーナは優人を上目遣いに見据え、確かめるように訊いてきた。

 

「あなたは、先日出現した人型ネウロイとの接触及びコミュニケーションを目的とした作戦を提案しているのですね?」




感想、誤字脱字報告お願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。