ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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続きです。では、どうぞ!


第40話「ネウロイの兄妹(?)とウォーロック」

基地を飛び出した芳佳は、人型ネウロイと遭遇したグリッド東23地区を目指し、ドーバー海峡上空を飛行していた。

雨を降らせていた黒雲は日の出と共に他所へ流れ、澄み切った空が広がっている。

 

「そろそろ、この間の場所……」

 

目的地に到着した芳佳。キョロキョロと辺りを見渡す彼女に向かって、何かが急降下してきた。

 

「あっ!」

 

気配を感じた芳佳が振り返ると、ウィッチ似の人型がネウロイが少し離れた場所に佇んでいた。彼女(?)は、まるで最初から来ることを知っていたかのように、芳佳の前に姿を現したのだ。

両者はホバリングしたまま、互いの意図を推し量るように見つめ合う。すると、芳佳に向かって直上より赤い閃光が降り注いだ。ネウロイのビームだ。

 

「わわっ!?」

 

間一髪回避する芳佳。見上げると、上空に人型ネウロイがもう一体、坂本と交戦したウィザード似の個体だ。彼(?)は、両腕のビーム発射口を芳佳に向けていた。

 

「ちょっ、ちょっと待って!きゃあああっ!」

 

芳佳は両手の平を前に突き出して『待った』をかけるが、ウィザード似のネウロイは構わずビームを見舞い、慌てて展開した芳佳のシールドに直撃する。

ウィザード型ネウロイの攻撃に芳佳が悲鳴を上げると、すぐさまウィッチ型ネウロイがビームの射線上に割って入り、両腕を広げて芳佳を庇おうとする。

 

(……庇って、くれた?)

 

芳佳を助けようとするウィッチ型ネウロイの姿は、坂本から彼女(?)を守ろうとした時の芳佳に酷似していた。ウィザード型は、ウィッチ型の行動に戸惑ったように一旦動きを止め、彼女(?)の元へゆっくりと近寄った。そのまま見つめ合う二体のネウロイ。ウィッチ型が、芳佳は敵じゃない、撃たないで、とでもウィザード型に懇願しているかのようだった。

暫くすると、ネウロイ達は揃って芳佳へ向き直る。かと思えば、再び背を向けて飛んでいった。

 

「待って!」

 

誘うかのように飛んでいく二体のネウロイを、芳佳が追いかける。

ネウロイ達は、まるで寄り添うように並走して飛んでいる。その仲の良さそうな後ろ姿を見て、芳佳は自然と笑みを零した。

 

(なんだが、私とお兄ちゃんみたい)

 

ネウロイに親兄弟等の関係があるかは分からない。しかし、芳佳には、ウィザード型ネウロイが、妹であるウィッチ型を気遣う兄のように思えた。

 

(お兄ちゃん……怒ってるかな?怒ってるよね?)

 

ふと優人の顔が頭に浮かび、芳佳は俯いた。また勝手に基地を飛び出してしまい、兄を心配させている。自分を送り出してくれたリーネのこともあり、罪悪感で胸がチクりと痛んだ。

 

(お兄ちゃん、リーネちゃん。ごめんなさい、出来るだけすぐに戻るから……)

 

心の中で呟くと、芳佳は顔を上げた。気が付けば、前方に巨大な黒雲が屹立していた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「いたっ!一緒にいるよ!」

 

芳佳を追って基地を発ったウィッチーズが追いついてきた。まずハルトマンが、芳佳と人型ネウロイ二体を発見する。

 

「ネウロイ、ヤツが優人を!」

 

続いてバルクホルンも気付いた。優人を撃ったネウロイ、彼の仇。怒りを抑えられないバルクホルンは、MG42を構え、ウィッチ型ネウロイに照準を合わせる。

 

「待って!」

 

発砲しようとするバルクホルンを、ミーナが声で制する。

 

「何故だ!」

 

バルクホルンはすぐさまミーナに振り返り、険しい表情で問う。

ミーナ自身、直に見るまで信じられなかったことだが、宮藤兄妹が言ったように人型ネウロイの行動が今までのネウロイと違って見えたのだ。

ほんの少しだけ様子を見ようという気になるが、同時にすぐにでも芳佳を連れ戻したいという気持ちもある。ミーナは、板挟みな己の感情に唇を噛んだ。

 

「何だあれはっ!?」

 

突如、シャーリーが驚きの声を上げる。巨大な黒雲の渦が、ウィッチ達の眼前にそびえ立っていたのだ。

 

「ネウロイの巣よ」

 

と、ミーナ。黒雲の正体は、ガリア北東部にあるはずのネウロイの巣だったのだ。

 

「前にも見たことある。あそこからヤツらは来るんだ!」

 

ハルトマンが、ミーナの言葉を継いだ。

 

(これが、ネウロイの巣……)

 

固唾を飲むシャーリー。彼女は、年齢に反してウィッチとしての経験が隊内でも浅い方だ。知識としてはあったものの、ネウロイの巣を見たのは今回か初めてだった。

大型ネウロイすら比較にならない規格外の大きさに、恐怖というよりただただ圧倒された。

 

「あれを破壊しようと、多くの仲間が攻撃した……だが、誰ひとり近付くことすら出来なかった」

 

巣を前に散っていったウィッチ達のことを想い、バルクホルンは瞳を伏せ、グッと拳を握り締める。

 

「芳佳が中に入っていくよ!」

 

「何だとっ!?」

 

ルッキーニの言葉を聞いて、バルクホルンは驚愕のあまり声を張り上げた。同時に、一同の視線が芳佳に集中する。

 

「わぁ~!雲の廊下みたい」

 

まったく物怖じしていない芳佳は、ネウロイに案内されるままに巨大で不気味な黒雲の中心を昇り、前人未到の巣の中へと入って行った。

 

「入っちゃった……」

 

呆然と呟くシャーリー。

 

「誰も入れなかったのに……」

 

さしものハルトマンも驚きを隠せない。

 

「ヤツらの罠かっ!?」

 

あまりにあっさり芳佳の侵入を許したネウロイに、バルクホルンの警戒心はさらに強くなる。

 

「芳佳!」

 

「待ちなさい!」

 

追いかけようとするルッキーニを、ミーナが止める。

 

「……様子を見ましょう」

 

ミーナは改めてネウロイの巣を見据える。平静を装ってはいるが、芳佳を追いかけたい想いは彼女が一番強い。今にも動き出さんとする己の身体を必死に抑えながら、芳佳の無事を信じて彼女の帰りを待つ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

ミーナ達より、やや遅れて基地を発った優人は、勝手に借りた坂本のストライカーユニットを使って飛行していた。しかし、その飛行姿勢はフラフラと安定していない。

怪我が癒えきっていないことはもちろん、彼の使い魔である柴犬――紗綾も同じく傷を負っているため、今の優人は、使い魔との同調と補助が不完全な状態だ。

どうにか飛ぶことが出来たが、いつもと比べて明らかに魔法力の消耗が激しい。呼吸は乱れ、胸には痛みが走る。

シールドや身体強化等の基本的な魔法は問題無さそうだが、固有魔法の『凍結』や覚醒魔法の『絶対凍結』に関しては不安が残る。しかし、使い勝手と燃費の悪さから、固有魔法を多用しない優人にとっては些細なこと。

 

「……芳佳、追いついたらたっぷり説教してやるからな」

 

妹がいるであろう遠方を見つめ、優人はギュッと拳に握る。

さすがは扶桑海事変からの大ベテラン。経験に裏付けされた技量で、なんとか魔法力をコントロールし、姿勢を安定しさせる。

 

「よし!……うわっ!?」

 

優人が速度を上げようとしたその時。航空機らしき“何か”が、後方から優人に接近し、彼の脇を高速で通り過ぎていった。突然のことに驚いた優人は思わず声を上げる。

正体不明の航空機は、ストライカーユニットを遥かに上回る速度で飛び去っていく。

 

「な、何だあれは?」

 

高速で飛行し、あっという間に小さくなった未確認機の影を見据える優人は言い様のない胸騒ぎを覚えた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

芳佳はネウロイの巣の中心部に到達していた。そこは雲の渦ではなく、ネウロイの装甲を連想させる正六角形のパネルを組み合わせたような壁で覆われていた。

 

「これは?」

 

突然、壁が発光し、図形にも文字にも見える模様が浮かび上がる。下を見てみると、西ヨーロッパの地図らしきものが映し出されていた。

人型ネウロイの兄妹(?)は地図の真上に立っている。そして、正十二面体の透明な物体が、彼らの前で赤色に輝いていた。ネウロイのコア、それもこの巣のコアだ。

 

「コア……だよね?」

 

確認するように呟いた芳佳はコアに近付き、人型ネウロイの兄妹(?)の反対側に降り立った。

以前、赤坂が巣の内部にコアが存在すると言っていたが、大きさは彼の予想よりもかなり小さい。

 

「あの……」

 

声をかけるのとほぼ同時に、無数のスクリーンが芳佳を囲むように現れ、青い海と白い雲で覆われた天体が映し出された。

 

「え、地球?」

 

映像は、次々切り替わる。機銃を撃ちながらネウロイの巣に突入する戦闘機の一個小隊。それらを返り討ちにし、巣から出現する大型ネウロイ。無数のビームで焼かれる街。それとはまた別の大型ネウロイと、海面スレスレに飛びながらビーム掃射を回避するウィッチとウィザード。優人と坂本だ。

 

「お兄ちゃん!坂本さん!」

 

二人の姿を見て、反射的に叫ぶ芳佳。同時に映像が切り替わる。

今度は、地面に墜落したネウロイのコアの破片と、それを調べている研究者らしき人々が映し出された。

 

「ネウロイの……破片?」

 

さらに映像は切り替わる。今度は、何かの実験室のような部屋だ。

 

「ここ、どこ?何あれ?」

 

手前には、大型のカプセルに入れられたネウロイのコア。奥には、赤い光を帯びた人型の機械。

またまた映像が変わり、芳佳とウィッチ型ネウロイが、楽しげに空を舞う場面が映し出された。それは、優人が撃墜されたあの日のものだった。

 

「私だ!」

 

映像を一通り見せられた芳佳は、兄妹ネウロイ(?)に身体を向け、意図を推し量るように見つめる。彼女がすっと右手を伸ばすと、ウィッチ型も同様に右腕を持ち上げ、先端から指のような物を生やした。

ウィザード型に見守られながら、ゆっくりと芳佳に近付き、まるで握手するように己の右手を伸ばす。しかし、次の瞬間。何かの気配を察知した人型ネウロイ達は二体揃って姿を消した。

 

「――っ!?待って!」

 

一人残された芳佳の悲痛な叫びが、内部で木霊する。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

外では、ウィッチ達が神妙な面持ちで巣を見つめながら芳佳が出てくるのを待っていた。

 

「まだ……出てこないね」

 

皆が沈黙を貫く中、ルッキーニが不安げに呟いた。その時だった。二体の人型ネウロイが、まるで瞬間移動でもしたかのように、突然二体のウィッチが目の前に現れた。

 

「さっきの人型だ!」

 

「芳佳は!?」

 

ハルトマンが叫ぶ。続いて、ルッキーニが芳佳の姿を探すが、見当たらない。

 

「いない。やっぱり罠か!?」

 

と、バルクホルンが奥歯を噛み締める。

 

「ブレイク!」

 

「「「「了解!」」」」

 

ミーナの指示を受け、ウィッチ達は散開する。対する、二体の人型ネウロイは微動にしない。そればかりか彼らの視線は、ウィッチ達とは別の“何か”を捉えていた。

それは優人が先程遭遇した未確認機、銀色に輝く流線形の航空機だった。高速で飛来し、上昇するバルクホルンとハルトマンの脇を通り過ぎていく。

 

「何っ!?」

 

突如現れた未確認機に、バルクホルンが思わず声を上げる。

上昇した未確認機は速度を維持したまま大きく旋回した後、急降下する。進行方向上には人型ネウロイ達がいた。

ウィザード型ネウロイが、ウィッチ型を庇うようにして前に出ると、未確認機の機首部分に内蔵された機銃を発砲した。銃弾がウィザード型に命中し、白煙が上がった。

白煙を突っ切きり、変形しながら離脱していく未確認機。白煙が晴れると、今度はウィッチ型のネウロイが反撃に出た。脚部の発射口より大量のビームを放たれ、ウィッチが巻き込まれる。

 

「こんなすごいビーム、初めてだよ!」

 

「キツいね……」

 

雨のように降り注ぐビームを必死に回避するシャーリーとルッキーニ。あまりの火力に、二人は冷や汗を掻いた。

 

「さっきのは!?」

 

「何だアイツは!?」

 

ハルトマンとバルクホルンがビームを警戒しつつ、未確認機を探す。

 

「あれは?……」

 

二人よりも先に、ミーナが未確認機を見つける。未確認機は、航空機から人型に変形し、魔力シールドのような物を展開していた。ただしそれは、正六角形の光を組み合わせたような形状で、ウィッチのシールドよりもネウロイの装甲に似ている。

人型に変形した未確認は正面で両腕を合わせ、そこから赤い閃光を放った。

 

「ビームだよ!」

 

ルッキーニが叫んだ。未確認はネウロイの主兵装であるビームを、しかも大出力で放っていた。

 

「あいつもネウロイなのか!?」

 

驚愕するシャーリー。同時に未確認機のビームが二体の人型に飲み込み、一瞬で消滅させた。さらにビームは、後方の巣をも貫いていた。

 

「ねぇ!何処行ったの!?」

 

巣の中では、芳佳が人型ネウロイに呼び掛けていた。取り残されて戸惑う彼女の元に、未確認のビームが流れてきた。

 

「えっ!?きゃあああああっ!?」

 

巣の壁を容易く貫通するビームに、芳佳は悲鳴を上げて逃げ出した。彼女は間一髪回避するも、中心にあったコアが焼き払われた。

 

「アイツ!強いぞ!」

 

普段、飄々としているハルトマンが珍しく表情を硬くしている。世界的なウルトラエースたる彼女にそこまで言わせた未確認は人型ネウロイの消滅させると、再び航空機に変形し、何処かへ飛び去っていった。

 

「何なんだアイツ!ネウロイを一撃で!」

 

「分からん」

 

目の前で起きた出来事に頭が追い付かず、シャーリーとバルクホルンは当惑する。

 

「あのビーム、とんでもない威力だぞ……」

 

シャーリーはさらに言葉を続ける。あの未確認が放ったビームは、これまでのネウロイとは段違いの威力、射程を誇っていた。

 

「にゅああああああっ!」

 

何かに気付いたルッキーニが大声を上げる。彼女の視線の先にはビームの衝撃で気を失い、海に向かって頭から落ちていく芳佳の姿があった。

 

「芳佳ぁ!」

 

「芳佳!」

 

シャーリーとルッキーニが魔導エンジンを全開にして追いかけるも、既に距離はかなり開いてしまっている上に、芳佳の落下速度も速い。

 

「追いつけない……」

 

唇を噛み締めるシャーリー。固有魔法『超加速』を使って、一気に距離を縮めようとする。しかし、シャーリーが『超加速』を発動するよりも先に、人型のシルエットが彼女とルッキーニの間を猛スピードで通りすぎていった。それは人型ネウロイでもなければ、人型に変形した未確認機でもなかった。

 

「あれ?」

 

「優人かっ!?」

 

二人を追い越していったのは、基地にいるはずの優人だった。

 

「芳佳ぁああああ!!」

 

坂本のパーソナルマークが描かれた零式を履いた彼は、機体の最高速度を上回る速さで芳佳に追い縋り、なんとか海に落ちる前に抱き止めることに成功する。

 

(あれってまさか、あたしの魔法か?)

 

シャーリーは呆然と優人を見る。彼女には、優人が行った加速が自身の『超加速』と同じものに見えたのだ。

 

「芳佳!大丈夫か!?しっかりしろ!芳佳!」

 

芳佳を抱き抱えた優人が、切迫した表情で呼び掛ける。

 

「う……う~ん」

 

声に反応し、芳佳はすぐ意識を取り戻した。同時にシャーリーとルッキーニも駆け寄る。

 

「芳佳!」

 

「芳佳、大丈夫?」

 

シャーリーとルッキーニが、芳佳の顔を心配そうに覗き込む。

 

「あれ?お兄ちゃん?シャーリーさん?ルッキーニちゃん?何で――」

 

「このバカ!何でじゃないだろ!」

 

怒声を上げる優人。半覚醒状態だった芳佳はハッと目を見開いた。

 

「どうして基地を飛び出した!?どうして一人でネウロイの巣に入った!?」

 

「おっ、おい!落ち着けよ」

 

「お前は黙ってろ!」

 

宥めようとするシャーリーだったが、優人は口出し無用とばかりにキッと睨み返す。

優人の剣幕に圧され、シャーリーは口を噤む。ルッキーニもまた、怒りを湛えた優人の表情に脅え、シャーリーの後ろへ回った。シャーリーの制服を摘まみながら、様子を窺うようにしてチラチラと顔を覗かせている。

 

「お前は、一体どれだけ心配かければ気が済むんだ!」

 

「……ごめんなさい」

 

目をギュッと瞑り、芳佳は俯く。

 

「坂本とミーナを説得する、って言っておいただろう!待てなかったにしても、一言くらい相談してくれてもよかっただろう!勝手に出ていって、武器も無しに一人でネウロイの巣まで入って!もしものことがあったら……」

 

そこまで言うと、芳佳をギュッと抱き締め、震える声で囁いた。

 

「頼むから、一人でこんな無茶しないでくれ。俺は、このブリタニアで父さんを亡くした。その上、お前まで失ったら、俺は……」

 

「お兄ちゃん……ごめんなさい……」

 

互いの声が嗚咽混じりとなる。また喧嘩になることを懸念していたシャーリーはホッと安堵し、穏やかな表情で二人を見つめる。

ルッキーニも、優人が芳佳に怒っている訳ではないと理解し、安心してシャーリーの影から出てくる。

やや遅れて、カールスラント組も宮藤兄妹の元へ降りてきた。

 

「ミーナ中佐」

 

「宮藤軍曹!無許可離隊の罪で拘束します!」

 

芳佳が無事に戻ったことに内心安堵しつつも、ミーナは敢えて厳しい表情を作る。

 

「えっ?」

 

マロニーが下した自分への撃墜命令を知らない芳佳は、当惑する。次にミーナは、優人に視線を移した。

 

「宮藤大尉あなたもです!負傷しているにも関わらずの無断出撃、上官のストライカーユニットを無断使用。基地に戻り次第、これらについて追及します」

 

「了解」

 

優人の方は特に戸惑う様子もなく、敬礼で応じる。それと同時に、なるべく大事に至らぬよう二度と戻らないことを前提とした脱走ではなく、帰隊の意志がある無許可離隊という表現を芳佳に使ったミーナに内心感謝した。

 

「帰投します!」

 

ミーナの指示の元、一同は基地へ引き返した。

 

「あれ?誰かいるよ!」

 

ルッキーニが滑走路上に人影を見つける。ブリタニア軍のステン短機関銃で武装した数名の兵士と、その中央に立つ黒い制服を身に纏った体格の良い壮年の男性――トレヴァー・マロニー空軍大将。そして彼の傍らには、周りの軍人達とは雰囲気が異なる白衣を着た男性が立っていた。

 

「ご苦労だった、ミーナ中佐」

 

一同が滑走路に降りると、マロニーがミーナに言う。直後、先程の未確認機が優人達の頭上に姿を現した。

機体は人型に変形した後、滑走路を封鎖するように佇むマロニーの背後に直陸した。

 

「さっきのだ」

 

ハルトマンがそう呟くと、すぐさま兵士達が優人達を取り囲み、短機関銃の銃口を向ける。救国の英雄に銃を向ける彼らの表情は、仮面をかぶったようで心情を伺い知ることが出来ない。

 

「まるでクーデターですね、マロニー大将」

 

ミーナは自分達の上官であり、天敵でもあるマロニーを見据えながら皮肉を飛ばした。

 

(いつ見ても嫌な顔だ……)

 

優人もまた、心の中で彼のことを毒づいていた。

 

「命令に基づく正式な配置転換だよ、ミーナ中佐」

 

そう言ってマロニーは、一枚の書類を見せる。

 

「この基地は、これより私の配下である第一特殊強襲部隊、通称『ウォーロック』が引き継ぐこととなる」

 

「ウォーロック?」

 

ミーナは訝しげに繰り返す。格納庫の入り口では、ペリーヌを連れた坂本が、兵士に愛刀を取り上げられていた。

リーネ、サーニャ、エイラの三人も遅れて基地から出て来る。マロニーに呼び出されたのだろう。

 

「ウィッチーズ、全員集合かね?」

 

自分の前に並んだ501の面々を見渡したマロニーは、我が意を得たりといった感じに嬉々としている。

 

「君が宮藤芳佳軍曹か?」

 

芳佳の前へと歩み出るマロニー。

 

「はい……」

 

不安げな面持ちで答える芳佳。優人は庇うようにして二人の間に己の身体を挟むが、マロニーは構わず言葉を続けた。

 

「君は軍規に背いて脱走をした……そうだな?」

 

「えっ?……軍規……」

 

元より軍規に疎い芳佳は、自分の行動が脱走という重大な違反行為であることに初めて気が付いた。

 

「御言葉ですが閣下、今回のいも……いえ、宮藤軍曹の行動は脱走ではなく無許可離隊です」

 

「宮藤大尉、君に発言を許可した覚えはない」

 

咄嗟に妹を庇おうとする優人の発言が一蹴される。優人はキッとマロニーを睨みつけた。

 

「あっ!……その後ろの」

 

芳佳は気付いた。マロニーの背後に立つ機体が、人型ネウロイの兄妹(?)が見せてくれた映像に移っていたことを。

 

「ウォーロックのことかね?」

 

マロニーの代わりに白衣の男性が答えた。察するウォーロックの開発者だろう。男性は健康を疑うほどに肌が白く、痩せ過ぎの身体に猫背、そして粘り気のある不気味な笑みを浮かべている。まるでブリタニアの小説に登場するフランケンシュタインのようだった。

 

「あなたはっ!?」

 

芳佳に引き続き、優人も何かに気付いて声を上げる。

 

「おお!敬愛する宮藤博士の御子息が、私のことを覚えていてくれたとは……実に光栄だ」

 

優人に視線を移した男性は、人目で本心ではないと分かるほど大袈裟に喜ぶ。

 

(宮藤博士の助手をしていた男か!?名前は確か……石威紫郎、だったか?)

 

すぐには気付けなかったが、坂本も男性が何者かを知っていた。扶桑海事変後、彼女と優人が滞在していたストライカーユニットの共同研究で優人の父――宮藤一郎の助手を務めていた男だ。

例の爆発事故で一郎と共に安否不明となっていた。一郎同様亡くなったものと思っていたが、どういうわけかマロニーの元にいたらしい。

 

「私、見ました!それがネウロイと同じ部屋で!実験室のような部屋で!」

 

「何を言い出すんだ、君は!」

 

余裕の笑みを浮かべていたマロニーが、芳佳の言葉を聞いて突然狼狽え出す。

 

「でも私、見たんです!」

 

「質問に答えたまえ!君は脱走をした、そうだな?」

 

と、マロニーは強引に話を戻した。

 

「はい、でも――」

 

「中佐!私は脱走者は撃墜するように命令したはずだ!」

 

芳佳の言い分を遮り、マロニーはミーナに視線を戻す。

 

「はい、ですが――」

 

「隊員は脱走を企てる。それを追うべき上官も司令部からの命令を守らない。まったく残念だ、ミーナ中佐。そしてウィッチーズの諸君……」

 

マロニーはミーナの言葉も遮り、ウィッチーズに背を向けてウォーロックの前まで戻ると、くるりと一同に振り返った。

 

「本日只今をもって、第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』は解散する!」

 

「えっ!?」

 

「なんだと!?」

 

マロニーの発言に驚愕する宮藤兄妹。他のメンバーも同様だ。

 

「各隊員は、可及的速やかに各国の原隊に復帰せよ。以上、分かったかね中佐?」

 

「……了解しました」

 

ミーナは、マロニーの強引な解散命令に反感を抱きつつも、ここで逆らうのは得策ではないと承服する。

 

(そんな……解散……ウィッチーズが……)

 

「君の独断専行が原因なのだよ?宮藤軍曹」

 

「私……でも、私……」

 

自分をいたぶるようなマロニーの言葉に、芳佳は目を見開きながら震える。

 

「安心したまえ。ネウロイはこのウォーロックが撃滅する。ブリタニアを守るのに、君達はもう必要ないのだ」

 

芳佳の心境を全く顧みない、高圧的かつ厭味なマロニーの物言い。ショックを受けた芳佳は、その場で気を失う。

 

「芳佳!」

 

倒れた芳佳を、優人が咄嗟に抱き抱えた。傷つけられた妹を見て歯噛みすると、優人は芳佳をバルクホルンに預けた。

 

「……バルクホルン、芳佳を頼む」

 

「優人?」

 

芳佳を抱き取ったバルクホルンが優人を見返す。優人はマロニーに振り返り、ゆっくりと歩み寄った。

 

「宮藤大尉、一体なん……がっ!?」

 

マロニーが怪訝そうな顔をすると、優人がいきなり殴ってきた。マロニーは不意打ちに対処する間も無く顔面に一発食らい、地面に倒れるという醜態を晒してしまった。彼のすぐ近くにいた二名の兵士が慌てて駆け寄る。

優人の怒りは拳一発で済むようなものではなかったが、他の兵士が銃を突きつけたため、それ以上手は出さなかった。

 

「貴様!何の真似だ!?」

 

身体を起こしたマロニーが、左頬を押さえながら優人に怒鳴った。対する優人は悪びれる様子もなく、ニッコリと笑顔を浮かべている。

 

「申し訳ありません、マロニー大将閣下。手が滑りました」

 

それだけ言うと、優人はバルクホルンに預けた芳佳を横抱きし、何事もなかったかのように基地へ戻っていった。ウィッチ達の何人かが、小さくガッツポーズして優人の行動を讃えている。

一方、芳佳を抱えた優人は、芳佳を休ませるため彼女の部屋へ向かいながら、思案を巡らせていた。

 

(あのウォーロックとかいう機体、もしかして……いや、“アレ”に関わった人間は父さんも含めて皆……いや、石威がいる。一人いれば可能なのか?)

 

最初にウォーロックを見かけた際に感じた胸騒ぎが、彼の中で一層強くなっていた。




ウィザード型ネウロイを出した意味あるのか、って?ちゃんとありますよ♪


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