個人的に、ガランド少将とゲーリング元帥が全くアニメに出ないことと、ハルトマンのヒッチハイクでトラックが止まらなかったことが不思議で仕方ありません。
扶桑皇国海軍遣欧艦隊所属の航空母艦『赤城』は、急遽ガリア反攻作戦から外され、自国のウィッチ3名並びに自由ガリア空軍に所属するウィッチ1名共に帰国することとなった。
護衛隊の生き残りである陽炎型駆逐艦『雪風』及び『天津風』を伴った赤城は、経由地の喜望峰を目指してドーバー海峡を航行していた。
「んっ……」
宮藤兄妹に充てがわれた赤城艦内の居室では、寝台に腰を下ろした優人が、ゴクゴクと喉を鳴らしながらミネラルウォーターを瓶を呷っていた。
寝台の上には、それぞれ種類の違う錠剤が入った薬瓶が二つほど置かれていた。
「大尉」
小気味良いノック音が居室内で2、3回響いた後に、品のある澄んだ声が優人の耳朶を打つ。ミネラルウォーターで適量の錠剤を喉奥に流し終えてから、声のした方へ目を向ける。
「ペリーヌか」
ドアが開きっ放しになっている居室の入口にペリーヌが立っていた。両手を腰に当て、じっと優人を見据えている。
「何か用か?」
「……痛みますの?」
優人の質問を無視したペリーヌは、真剣な面持ちで逆に問い掛ける。
「ん?」
「その薬瓶……中身は痛み止めですわよね?」
片方の薬瓶に視線を移したペリーヌは重ねて訊ねる。優人が飲んでいた錠剤は、ブリタニア国内で出回っている強め鎮痛剤。芳佳の治癒魔法でも完全には治しきれなかった傷が痛み、少しでも和らげようと現地で手に入れた鎮痛剤を飲んでいたのだ。
ペリーヌ本人は使ったことがない。しかし、ラベルは統合戦闘航空団の公用語でもあるブリタニア語で書かれているため、読めばどんな薬か理解出来た。しかし、もう片方の薬瓶はラベルの文字が扶桑語で書かれているため、ペリーヌには何か分からなかった。
「大方、私達に心配かけまいと、こっそりと服用されていたのでしょう?」
「バレたか……こんな近くに名探偵がいるとはな……」
「この程度、探偵で無くとも分かりますわ」
ペリーヌは目を伏せ、呆れたようにフゥと息を吐いた。
「このこと、芳佳や坂本少佐には黙っていてくれないか?」
優人は顔の前で拝み手を作り、軽く頭を下げてペリーヌに頼み込む。
芳佳や坂本は、優人が怪我をしたのは自分のせいだと思っているようだ。しかし、優人に言わせれば、あの負傷は自らのポカが招いたことであり、他の誰にも責任はない。
床に伏せていた際に、二人には特に気苦労をかけてしまっていた。優人としては、これ以上余計な心配をかけたくはない。
「かしこまりましたわ」
と、ペリーヌは恭しく一礼する。優人は寝台から腰を上げると、彼女へ近付いた。
「恩に着るよ」
優人はそう言うと、普段芳佳にやっている自然な所作でペリーヌの頭を撫でた。突然のことに驚いたペリーヌは、短い悲鳴を上げながら身体をビクつかせる。
「ひゃっ!?」
「あっ……悪いっ!」
優人は咄嗟に手を引っ込めた。いつもの芳佳を撫でている癖が出て、ついやってしまった。
「あ……いえ、少し驚いてしまっただけで、その……別に嫌と言うわけでは、ありませんわ……ですから」
頬を軽く染めたペリーヌは、視線を優人から僅かに逸らして照れ臭そうに告げた。
「な、撫でて下さいまし……“お兄様”」
知り合って以来、初めて見たであろう甘えん坊なペリーヌと、彼女の口から久しぶりに聞いた“お兄様”という呼び名に優人は一瞬キョトンとするも、すぐに優しく微笑み返した。
「まだ、そう呼んでくれるんだな……」
「い、妹のように思っていると仰ったのはそちらです!私はただ、合わせたま――」
そこでペリーヌの唇が動きを止める。何故なら、優人の右手が再び彼女の美しいブロンドに添えられていたからだ。
「ありがとう、嬉しいよ」
「……礼を言われるようなことではありませんわ。お兄様」
薄暗い居室内で金色に輝いているペリーヌの長い髪を、優人の右手が優しく梳く。髪を痛めないようにと気を遣う繊細な手つきが、ペリーヌの胸を幸福で満たしていった。
(こんなに素敵な方がお兄様だなんて……本当に芳佳さんが羨ましいわ……)
あまりの心地好さに目を閉じるペリーヌの顔を、優人は手を動かしたまま、じっと覗き込んだ。
「コンタクトも悪くなかったけど、やっぱり眼鏡を掛けたペリーヌも知的で素敵だよ」
「あら?眼鏡のない私には、知性を感じられないと仰りたいのかしら?」
「あ、いや。別にそういうわけじゃ――」
「フフフ、冗談ですわよ?」
取り乱した優人の姿に、ペリーヌは笑みを零した。二人のこのやり取りは、ペリーヌが坂本より「優人を連れて来い」との命を受けたことを思い出すまで続いた。
◇ ◇ ◇
同時刻、旧501基地本部管制塔――
「ウォーロック0号機、準備整いました」
管制室に配備されたモニター要員の一人から報告が上がる。
担当の技術者達によって、ベストコンディションに整備されたウォーロック試作0号機は、基地滑走路にてエンジンを始動しつつ、出撃命令の命を待つ。
「これより、ガリア地方制圧に向かわせます」
「うむ」
マロニーが頷くと、副官が彼に代わって出撃命令下した。
「ウォーロック0号機、発進せよ!」
命令を受けたウォーロックは、スラスターを吹かして滑走し、滑走路の先端から急角度で飛び立つ。空に上がったウォーロックはすぐさま飛行形態に変形し、目標地点であるガリアへ向けて飛翔した。
「飛行形態に変形完了!ガリアへの軌道変更確認!すでに亜音速に到達しました!」
モニター要員達より、次々と報告が上がる。順調な滑り出しに、マロニーは口元を綻ばせた。
「ふんっ……どうだ?生意気なあのウィッチ共やウィザードの青二才とはまったく違う!」
「ウォーロックこそ、我々の研究成果にして最強の兵器です!」
石威がマロニーの言葉を継いだ。石威も笑みを浮かべているが、マロニーのそれとは違い、粘り気のある不気味なものだった。
マロニー本人が、心中で彼のことをどう思っているかは分からない。しかし、副官の方は石威紫郎という男に対し、内心不信感を抱いていた。特に笑顔に関しては、思わず目を背けたくなるほどの生理的嫌悪感を覚えている。
おそらくマロニーと石威の間には、利害関係の一致はあっても信頼という言葉は存分していないことだろう。
「閣下」
外部との連絡を担当する通信兵が、マロニーに振り返った。
「カールスラント空軍のゲーリング元帥、それにリベリオン陸軍のアイゼンハワー元帥から通信が――」
「後にしろ!我々は現在、作戦行動中だ!」
「よろしいのですか!?」
マロニーの対応を見た副官が、不安げな表情で訊ねる。
「ガリアをネウロイから解放すれば、うるさい連中も黙る!」
そう嘯くマロニーが、その瞳で見据えているのは目先のガリア攻略戦でもなければ、本大戦における人類側の勝利でもなかった。
ネウロイを殲滅後、世界のイニシアチブを握った祖国の――自身が思い描く、未来のブリタニアの姿だった。
◇ ◇ ◇
その頃――
トラックの運転手の御厚意によって、ミーナ達3人は基地から程近い崖の上にある廃屋まで戻ってきていた。
屋内は埃や瓦礫にまみれ、床は所々木片が剥がれたり、雑草が生えたりしている。崩れてレンガが露出した壁や天井には穴がいくつか空いていて、一際大きな穴からは少し前まで彼女らがいた旧501基地がはっきり見えていた。
「先程の運転手、何者だ?」
不自然なほどタイミング良く現れ、何も言わずに自分を乗せたトラックの運転手に対する疑問をバルクホルンが呟く。すると、ハルトマンがセクシーポーズを決めながら答えた。
「きっと私のセクシーな魅力に悩殺さ――」
「優人が手配してくれた扶桑海軍のトラックよ」
と、ミーナ。言葉を遮られた上に、結果的に自身の考えまで否定されたような気分のハルトマンは唇を尖らせて、ブー垂れる。
「優人が?どういうことだ?」
「ふふ……親のコネも臆することなく利用する。優人って、意外と政治家向きかもしれないわね」
怪訝そうに眉を寄せるバルクホルンにそれだけ言うと、ミーナは壁の大穴へ歩み寄った。
穴の傍に着弾観測用のペリスコープが立てかけられていた。バルクホルンが「気の利いた物あるな」と基地の方に向けてピントを合わせたまさにその瞬間、基地から飛び立って行くウォーロックの機影を捉えた。
「さっそくガリア制圧作戦か……」
「大忙しだね」
「軍の上層部に、ウォーロックの強さを認めさせたいのよ。そして、量産の支持を取りつけたい」
バルクホルンとハルトマンが順に呟くと、ミーナが自身の推測を述べる。
「それにしても、ウォーロックが1機しかないのに実戦なんて……」
「戦果を上げて隠したいことがあるんじゃないのかぁ?」
と、ハルトマンがでマロニー達のいる基地をジト目で見据える。
「奴らの化けの皮を剥がすチャンスだな」
ニヤリと笑みを浮かべるバルクホルンの横顔を見たハルトマンは、「ニッシッシッシッ♪」と何故か楽しそうに笑っている。
「何だ?」
笑い声に気が付いたバルクホルンは、訝しげにハルトマンを振り返る。
「やる気だねぇ、愛しの宮藤兄妹の為?」
「なっ!?……ばっ!……○☆#△◎♯◇ッ!?」
茶化されたバルクホルンは、動揺のあまり金魚のように口をパクパク動かした後、言葉にならない声を上げる。明らかな図星だ。
おそらくハルトマンは、当分宮藤兄妹のことをネタにバルクホルンを弄り倒すつもりだろう。
「ふふふ、監視を続けましょう」
二人のやり取りを微笑ましそうに見ていたミーナが告げると、バルクホルンは「あ、ああ」と歯切れの悪い口調で応じた。
◇ ◇ ◇
同時刻、とある民間飛行場――
旧501基地から程近い場所にある民間飛行場。その滑走路に航空機が1機待機していた。ブリタニアのシルフィー社が開発した三座複葉の雷撃機『ソードフィッシュ』だ。機体にはブリタニア語で『GLAMOROUS SHIRLE』と書かれている。
言うまでもなく当機体の持ち主は、第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』一のグラマラスボディを誇るリベリオンウィッチ――シャーロット・E・イェーガー大尉である。
シャーリーは、近隣基地で廃棄となった機体をタダ同然で貰い受け、連絡機という名目で私物化。シャーリーが自ら飛行場の整備士と共にレストアしたものである。魚雷搭載機構をオミット、代わりに900リットルの増加燃料タンクを設置し、航続距離を伸ばしている。ちなみに、優人もたまにであるが機体の整備を手伝わされていた。
「ねぇねぇ、シャーリー!」
操縦席のシャーリーがエンジンを始動させると、プロペラの回転音に混じって後部座席に座るルッキーニの声が聞こえてきた。
カールスラント組と扶桑組(+ペリーヌ)が、それぞれ陸路と海路を使っていたのに対し、飛行帽を被ってソードフィッシュに搭乗する二人は空を飛んで帰るつもりでいる。まずルッキーニをロマーニャまで送り、自身の原隊の居場所がわからないシャーリーはその後で大西洋を越えてリベリオン本国へ向かう予定だ。
「ん~?」
と、ルッキーニへ振り返るシャーリー。
「シャーリーって……優人のこと好きなの?」
「はぁ?なんだ急に?」
思いがけない質問に、シャーリーは怪訝そうな顔をする。
「だってさぁ~……アタシがお昼寝してる時は優人と一緒にいるんでしょ?」
「正しくはバルクホルンも入れて三人だよ。まぁ、優人と二人きりの時もあったけど……」
補足しつつ、シャーリーは501基地での日常を思い出していた。宮藤兄妹に助けられて以来、柔らかくなったバルクホルンとシャーリー、優人の三人でつるむことが多くなった。
性格が真逆なシャーリーとバルクホルン、そして二人の間を取ったような性格の優人。三人の関係は同じ部隊の同僚というよりは、ハイスクールのクラスメイトに近い。
もし同じ学校に通っていたら、昼休みは互いの机をくっつけて昼食を取ったり、学校帰りに寄り道をしたり、一緒に試験勉強をすることもあったかもしれない。
「じゃあ好きなの?」
「ん~……好きって言えば好きだけど、好きにもいろいろあるからなぁ。例えば友達としてとか、家族としてとか……」
シャーリー個人的としては、優人のことを中々にいい男だと思っているし、友人としても気に入っている。しかし、恋愛対象として見ていたのか、と問われると首を縦にも横にも振れないというのが正直なところだ。
人間というのは、意外と自分のことを分かっていないもの。感情面に関しては、それが特に顕著だ。
優人に他の仲間達と違った何かを感じたことはあるが、伝え聞いていた恋心とマッチしないため、シャーリーは男友達に対する感情だと思っている。
「お?ウォーロックだ」
シャーリーが答えに悩んでいると、ガリアへ向けて飛んでいくウォーロックの機影が見えた。
「あの音好きじゃないな……」
耳に届いたウォーロックのエンジンに、ルッキーニは不満を漏らした。彼女としては、聞き慣れた自身のチェンタウロやシャーリーのP-51Dに搭載されているマーリンエンジン音の方が断然好みである。
「もう出撃かよ」
と、呆れ目でウォーロックを見据えるシャーリー。
「イ~ッ!やられちゃえ!」
自分達を基地から追い出し、大切な友達である芳佳を悲しませた連中が運用する兵器に対し、ルッキーニは敵意と嫌悪感を露にする。
「おいおい」
シャーリーは苦笑すると、ソードフィッシュを滑走させ、ゆっくりと離陸していった。
◇ ◇ ◇
同時刻、赤城甲板――
「……あっ!?」
優人とペリーヌは甲板まで上がり、芳佳や坂本と合流していた。優人が坂本に自分を呼び出した用件を訊ねようとしたその時、芳佳が基地の方から接近してくる機影に気付いた。ウォーロックだ。
ウォーロックは赤城の直上を高速で通過すると、そのままガリア上空にあるネウロイの巣へ向かっていった。
「左デッキへ!」
坂本に促され、一同は急ぎ左舷へと移動する。
「ガリアへか?……」
「さっそくですわね」
と、順に呟く坂本とペリーヌ。巣の真下まで到達したウォーロックを出迎えたのは、黒雲の渦の中心より放たれた多数のビームだった。芳佳の時とは違い、ウォーロックを歓迎するつもりはないらしい。
「ネウロイの巣が……」
「大分近付いて来ているな」
出現して以来、ガリア北東から動くことのなかったネウロイの巣が、ブリタニアへ向かって少しずつ、だが確実近付いていた。
既にドーバー海峡からでも全体が見える位置まで来ているため、巣の下部に飛び交うビームの光は赤城の甲板からも視認できる。
やがて巣の中から、ビームを発射していた大型ネウロイが出現し、全砲門よりウォーロックに向けて一斉砲撃を行う。ウォーロックは雨のようなビーム攻撃を難なく回避すると、同じくビームを使用して報復の一撃を見舞う。高出力ビームの直撃を受けたネウロイは、あっさりと撃破される。
「一撃でネウロイを!?」
魔眼を開いて、戦闘を見ていた坂本は驚きのあまり声を上げた。
「あ……」
「な、何ていう威力ですの?」
遠目でネウロイが爆散する様を見ていた芳佳とペリーヌも固唾を呑む。
ウォーロックに搭載されたビームの威力は、彼女達航空歩兵が使用する火器のそれとは比べものにならない。
「…………」
一方、優人は特に驚いた様子も見せず、泰然と腕を組んで戦闘の行く末を見つめていた。
「おかしい……何故、ウォーロックはビーム兵器を使えるんだ?」
坂本が疑問を口にする。ネウロイが当たり前のように使っているビームだが、今の人類側の技術で開発することは到底不可能だ。
ビーム兵器だけではない。従来の航空機やストライカーユニットを遥かに上回る機動力、パイロットを必要としない無線式の遠隔操作、人型から飛行形態への変形機構。どれもこれも、人類の手に余るオーバーテクノロジーだ。
「あっ!」
何かを思い出した芳佳が、短く声を上げる。
「どうした、芳佳?」
「私、見たんです。ネウロイが見せてくれたんです」
坂本に問われ、芳佳はネウロイの巣に招かれた時の記憶を辿りながら答える。
「ウォーロックは、ネウロイと会っていたんです!」
「ウォーロックがネウロイと接触していただと!?」
芳佳の発言に驚きつつも、坂本は確認するように繰り返す。
(やっぱり、そうか……)
芳佳の話を聞いて、優人は表情を険しくした。石威と再開した時から優人の中に存在していた疑惑が確信へと変わっていた。
「ありませんわ!ネウロイは敵ですのよ!」
ペリーヌが、間髪入れずに否定する。カールスラント組と同じく故郷や家族を奪われた彼女は、501の中ではネウロイ対する敵愾心が強い方だ。
「それに、ネウロイの技術を手に入れたのなら、私達にも報告があるはずですわ」
「でも……」
ペリーヌの言い分は尤もだ。しかし、人型ネウロイの兄妹(?)は、芳佳を巣に招き入れてまでウォーロックに関係する映像を観せていた。あのスクリーンに映っていた内容に虚偽があるとは、芳佳にはどうしても思えなかった。
「……本来ならばあり得ない。だが、辻褄は合う」
難しい顔で思案する坂本の呟きに、ペリーヌは「え?」と聞き返す。次に坂本は、芳佳の隣に立っている優人に目を向けた。
「優人、話してくれ」
「……何のことだ?」
「惚けるな!」
澄ました表情でシラを切る優人に、坂本はやや語勢を強める。
「何年の付き合いだと思っている。最初にウォーロックや石威を見た時のあの目、あの反応!何か知っているのだろう!」
「えっ……お兄ちゃん、どういうことなの?」
坂本に続き、戸惑いと少しの不安を瞳に湛えた芳佳が、問いかけるように優人を見上げた。
親友と妹に二人がかりで問い質されてしまい、優人は誤魔化しきれないと悟る。深い溜め息を一つ吐くと、おもむろに口を開いた。
「分かった……出来れば、居室の方で――」
「――ッ!?あれは!?」
優人の言葉を遮るように、突如ペリーヌがを叫んだ。巣の方で何か動きがあったらしい。彼女の声にハッとなった3人は、即座に巣へと視線を戻した。
「えっ!?……」
芳佳は言葉を失った。巣から、さらなるネウロイが出現していたのだ。それも1機や2機ではない。先程、ウォーロックに撃破された個体と同型、同サイズのネウロイが、空を覆うほど大量に現れたのだ。
「おいおい……何の冗談だ!?」
尚も増え続けるネウロイ群、絶望的な光景に優人は冷や汗を流した。
既にネウロイの数は、駐留している連合軍の総戦力を軽く上回る程に、ブリタニアを焼き払ってお釣りがくる程にまで膨れ上がっていた。
「何が……一体何が起こっているのです!?」
「おかしい……ネウロイの数が半端じゃない!」
あまりの事態にペリーヌはもちろん、魔眼による観測を再開していた坂本までもが動揺を通り越して戦慄した。
「ああ……」
巣の下部で蠢くネウロイの大群に、言い知れぬ恐怖を感じた芳佳は身を震わせる。
脅えた様子の妹に気付いた優人は、巣とネウロイ群を凝視したまま芳佳を腕の中へ抱き寄せる。
(いやな予感が的中したかも、だな……)
最初にウォーロックを見て以来、一向に治まる気配のない優人の胸騒ぎが、現在最高潮に達していた。
◇ ◇ ◇
約1分程前、旧501基地本部管制塔――
ほんの僅かに時間を遡った基地の管制塔では、レーダー要員がネウロイ撃破の報告を上げていた
「ウォーロック0号機、ネウロイを撃破しました」
「はははははっ!見ろ!最早、我々の力はネウロイを越えたのだ!」
報告を受けるなり、マロニーは歓喜の声を上げた。初陣で300m級の大型ネウロイをいとも容易く撃破したウォーロックの性能は、期待以上のものだった。
(当然だ……ウォーロックは、私の技術者人生における最高傑作。宮藤のストライカーユニットなど、子どもの玩具だ)
隣に立つ石威もまた勝ち誇った笑みを浮かべている。彼は確信していた。
今日この時を境に、対ネウロイ戦における主力は宮藤理論を採用したストライカーユニットやそれを駆るウィッチ・ウィザードではなく、自らが生み出したウォーロックとなったのだと。
司令官と開発主任が有頂天になっていると、下の方から兵達の喧騒が聞こえてきた。二人より早くそのことに気付いた副官が問い掛けた。
「どうした?何が起きている!?」
「ネウロイが2機出現しました!いえ、3機です!」
「何っ!?」
レーダー要員が叫び返すと、副官は驚愕の声を上げた。
「構わん!殲滅しろ!」
すぐさまマロニーが指示を出す。ウォーロックは命令に従い、ビームを放って新たに現れた3機のネウロイを撃破する。しかし、それで終わりではなかった。さらに複数のネウロイが出現する。
「ネウロイの数、8!9!」
レーダー要員が、状況報告を続ける。やがてネウロイの数は、ウォーロック単機では応戦不可能なほどまで増大していった。
「閣下!ウォーロックの処理能力は、限界です。コアコントロールシステムの稼働を!」
石威がマロニーに進言するも、研究員の一人がすぐさま異を唱える。
「しかし、コントロールするには、共鳴させるコアを持ったウォーロックが5機以上必要です!」
「短時間稼働に留めておけば、理論上問題はない!何のために膨大な時間をかけてコアの出力を調整したと思っている!」
石威が研究員に怒鳴り返した直後、ジリリリと管制室内に警報が鳴り響いた。
「どうした!?」
「コアコントロールシステムが、勝手に動いています!ウォーロック自らが、コアコントロールシステムを稼働させたようです」
システム管制官を務める士官が、マロニーに叫び返した。
「何っ!?」
「そんなバカな!」
予期せぬ事態にマロニーや石威はもちろん、他の将兵や研究員達も当惑を隠せなかった。
「ウォーロックのコアコントロールシステム、正常に稼働しています!」
「すべてのネウロイを支配下に置きました。予想以上の成果です!」
システム管制官とモニター要員が順に報告する。問題がないことが確認出来ると、マロニーはホッと口元を弛ませる。
一方、石威は未だに頭を抱えていた。問題が確認されていないとはいえ、ウォーロックがこちらからのコントロールではなく、自らの意志でコアコントロールシステムを稼働させたことが不安で仕方ないのだ。
(そんな……まさか……いや、違う!ウォーロックは完璧だ!イリスの時のような失態は起きない!起きるはずがない!)
必死になって頭の中にある不安要素を振り払おうとする石威を余所に、ウォーロックは支配下に置いたネウロイ群に命令を送った。
◇ ◇ ◇
「バカな!ネウロイがネウロイを攻撃している!」
魔眼を使って赤城の甲板から状況を見ていた坂本が、驚愕のあまり声を上げる。
巣の真下でホバリングするウォーロックを取り囲むように周辺を飛行していたネウロイの大群が、突如互いに向けてビームを放ったのだ。ネウロイは次々と消滅し、ガリアに破片の雨を降らせる。
「そんな!?同士討ち!?」
「まさか!ウォーロックがネウロイを操っているのか!?」
「そんなことって……」
坂本も、彼女の推測を聞いたペリーヌも信じられない、といった顔をする。
ウォーロックにネウロイを操るシステムが搭載されていること事実だ。しかし、よく見ると、ウォーロックも支配下に置いているはずのネウロイから攻撃を受けていた。
無論やられっぱなしというわけではなく、ビームが直撃する度に反撃するのだが、その様子はまるでウォーロックがネウロイに混じり、サバイバル戦で群れの――巣の新しいリーダーを決めようとしているかのようだった。
「何が……起きているの?」
「…………」
優人はウォーロックとネウロイの大乱戦に目を向けたまま、小刻みに震える妹の身体を強く抱き締めていた。
◇ ◇ ◇
旧501基地本部管制室のモニターには、ウォーロックと出現した多数ネウロイを示すマーカーが表示されていた。
同士討ちによって多数映し出されていたネウロイを示す赤いマーカーは急速に消えていき、やがてウォーロックのマーカーのみが残った。
「ネウロイを殲滅しました!」
モニター要員の報告と共に、勝利を確信した将兵達の歓声が上がる。しかし、それも長くは続かなかった。
「……なっ!?」
ふと管制官が声を上げる。
「どうした!?」
「いえ、それが……」
副官が訊くと、管制官は躊躇いがちに答えた。
「こちらの制御が遮断されました!」
1期10話をよく観てみると、ガリアの巣の主らしきコアがウォーロックのビームで消し飛んでいるので……11話あれはウォーロックとネウロイの群れが、巣の新たな主を決めるために、大乱闘を始めたのではないかと作者は思っています。
感想や誤字脱字報告、良かったら上記の推測に関するご意見もお願い致します。