ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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あ、『佐世保の英雄の弟妹』も書かなきゃ……


二足の草鞋、って大変


第43話「ピースの欠けた完全体 後編」

ネウロイ同士の共食いと形容しても差し支えない凄惨な戦闘が終わりを迎えた。破壊されたネウロイの破片がキラキラとガラスのように輝いてガリアの地に降り注ぐ。

勝利の立役者であるウォーロックは基地へ帰投する様子も見せず、依然として巣の真下に佇んでいる。

 

「終わったようだ。ウォーロックの勝利だ……」

 

沈黙続けたまま微動だにしないウォーロックを遠望に見据え、坂本は呆然と呟いた。

 

「でも……どうしてネウロイ同士が……」

 

「ああ、確かに攻撃し合っていた」

 

芳佳が口に出した疑問を継ぐようにして、坂本が言葉を続ける。十中八九ウォーロックの仕業だろう。何故そんな真似が出来たのか、と一同は思案する。

その時だった。無機質な銀色に塗装さたウォーロックの装甲が、突如禍々しい漆黒へと変貌した。黒地に浮かぶ六角の図形、妖しく灯った赤く不気味な光が頭部から漏れる。

姿を変えたウォーロックは、航空機のエンジン音とは異なる、ネウロイの唸り声に近い雄叫びを上げると、同時に動き始めた。進行方向に浮かんでいるのは、優人達が乗っている赤城だ。

 

「帰って来ますわ!」

 

戦場から引き返してくるウォーロックを見て、ペリーヌが呟いた。

 

「ネウロイと交戦していた機体がこちらに向かってきます」

 

艦橋では、同じくウォーロックの接近に気付いた赤城の副官――樽宮敬喜中佐が、艦長の杉田淳三郎大佐に報告していた。

 

「味方なのか?」

 

遣欧艦隊の面々はウォーロックについて何の報告も受けていない。見慣れぬ形状をした未知の新兵器。杉田はウォーロックを訝しげな眼差しで見据える。

低空飛行で遣欧艦隊に接近したウォーロックは、万歳のポーズを取るように両腕を大きく広げ、ビームを放った。

ビームは進路上の海面を凪ぎ払うように抉ると、着弾の爆音や衝撃と共に、大波に似た水柱を立てる。それはまるで、艦隊の行く手を阻む巨大な壁にも見えた。

 

「「きゃあっ!?」」

 

「芳佳っ!」

 

「ペリーヌ!」

 

衝撃で揺れる赤城の甲板。悲鳴を上げて倒れかかった芳佳とペリーヌを、それぞれ優人と坂本が咄嗟に抱き留める。

 

「ウォーロックが私達を!?」

 

坂本に支えられたペリーヌが信じられない、といった表情でウォーロックを見上げる。

黒々とした装甲、ネウロイに酷似した唸り声。直上よりビームを撃ち続けるウォーロックは、まるでネウロイのようだった。

 

「対空戦闘用意!」

 

「対空戦闘!」

 

杉田が命じ、樽宮が復唱する。二人の号令の元、赤城及び僚艦の天津風、雪風はすぐさま戦闘態勢に移行した。

 

「撃ち方ぁ、始めぇ!」

 

赤城に搭載されている6基12門の12cm連装対空砲と28門の25mm対空機銃が、上空のウォーロック目掛けて一斉に火を吹く。二隻の陽炎型駆逐艦も装備された25mm3連装機銃や連装機銃で応戦、ウォーロックに集中放火を浴びせる。 しかし、それら全ての砲弾もウォーロックの展開するシールドの前ではパチンコ玉も同然、ことごとく弾かれてしまう。

反攻作戦から外された赤城には、艦上航空歩兵はおろか艦上戦闘機すら搭載されていない。そんな状態で火力、機動力、防御力等、あらゆる面でエース級の航空歩兵や大型ネウロイを遥かに凌駕しているウォーロックを相手取るのは、無謀極まりない。

戦闘が始まって間も無く、天津風がビームの直撃を受け、大破・炎上する。あろうことか味方であるはずのブリタニア空軍が運用する新兵器の――ウォーロックの攻撃によって、扶桑海軍の駆逐艦は海の藻屑と化したのだ。

次にウォーロックは、旗艦である赤城に向けてビームを放つ。至近弾。赤城の船体が大きく揺れ、乗員達は咄嗟に近くの物に掴まる。

 

(くそっ!……嫌な予感が当たった!)

 

優人は奥歯を噛み締めると、ウォーロックを睨み付けた。

 

「坂本、芳佳を頼む!」

 

「優人?」

 

坂本に向かって叫ぶと、優人は返事を待たずに背を向けて走り出した。

 

「お兄ちゃん!?どこ行くの!?お兄ちゃ……きゃあっ!」

 

走り去っていく兄。慌てて追い掛けよう芳佳を阻むように、赤城船体が激しく揺れた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、旧501基地――

 

「扶桑海軍遣欧艦隊が、ウォーロックの攻撃を受けています!」

 

「なにっ!?」

 

観測員の報告に、マロニーは己の耳を疑う。コンソールの前でウォーロックの制御を担当していた士官も、振り返って叫んだ。

 

「ウォーロック、制御不能!暴走しています!」

 

突如制御から外れたウォーロックによる同士討ちという予期せぬ事態、基地本部管制塔内は喧騒に包まれた。

 

「バカな!ありえん!」

 

自身が持てる技術を全て注ぎ込んで開発した兵器の暴走、元から顔色の良くない石威はさらに青ざめる。マロニーに至っては、言葉を失ったまま立ち尽くしていた。

 

「閣下!至急、ウォーロックの停止を!」

 

想定外の事態に茫然とする司令官に対し、副官が進言する。すると、意識が憤然と声を荒げた。

 

「――っ!?貴様、何を言い出す!?貴重な0号機を海の底へ沈める気か!?私がウォーロックの開発にどれだけの――」

 

「閣下!味方を攻撃する事態となっているのです!どうかご決断を!」

 

自分に食って掛かる石威を無視し、副官はウォーロックの停止を強く具申する。

扶桑の艦がどうなろうと知ったことではない。しかし、マロニー自ら開発を命じ、運用の陣頭指揮を取った兵器が暴走して他国の艦を攻撃したとあっては、自身の失脚に繋がりかねない。

 

「くっ……やむを得ん……」

 

「そんな……!?」

 

マロニーが苦渋の決断を下す。石威はガクッと肩を落とした。気落ちする石威を他所に、副官がマロニーに代わって命令を下した。

 

「ウォーロック強制停止システム、稼働準備!」

 

「稼働準備!」

 

兵達が復唱すると、すぐにウォーロックを強制停止させる作業が開始された。

 

「ウォーロック強制停止システム、稼働!」

 

「……強制停止!」

 

マロニーに命じられ、強制停止システムの担当官が稼働レバーを下げる。だが、反応はない。ウォーロックは、依然として稼働状態にあり、遣欧艦隊を相手に攻撃を継続している。

必死に応戦する赤城・雪風だが、ついに一発のビームが赤城に命中、船体後部で爆発が起きる。大型ネウロイすらも一撃で粉砕するビームはそのまま後方にある旧501基地へ流れていった。基地本部への直撃は免れたものの、高出力のビームは敷地を抉り、基地の西側にある施設を破壊した。

 

「何故だ!?何故停止しない!?」

 

着弾による衝撃が島全体を駆け巡る。激しく揺れる管制塔内に、マロニーの絶叫が響いた。

 

「は……はは……」

 

隣では両膝を床に着いた石威が、ひきつった笑みを浮かべている。その乾いた笑いが何を意味するのかは、本人にしか分からない。

“制御”という名のピースが欠けた完全体は、自らを生み出し、支配した気になっていた人類に牙を剥いたのだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、基地近傍の廃屋――

 

「基地がっ!?」

 

ペリスコープ越しに基地を監視していたバルクホルンが声を上げる。

突然、赤い閃光が目の前を横切ったかと思えば、直後に基地が炎上し、全景の半分を覆うほどの爆煙が上がったのだ。

 

「あのビーム、どこから来たんだ!?」

 

破壊された基地を遠目に、ハルトマンは表情を険しくする。彼女達の位置からでは、暴走したウォーロックを視認出来ないため、ビームがどこから飛んできたのかまではわからない。

 

「行きましょう!」

 

ミーナは短く言うと、すぐさま廃屋を飛び出した。バルクホルンとハルトマンも後に続き、3人は基地へと向かって駆け出していった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

空母赤城、甲板――

 

「右舷後部デッキ、被弾!」

 

「第2、第3高角砲、大破!」

 

「格納庫より出火!消火急げ!」

 

「機関室浸水!隔壁閉めろ!」

 

ウォーロックの攻撃は尚も続いていた。畳み掛けるように、いたぶるように繰り返し放たれるビームによって各部が損傷、被害は拡大していく。最早、航行は不能。赤城の艦内では被害報告ばかりが飛び交っている。

さらにウォーロックは、艦首方向より赤城の甲板をすれすれに飛行、ダメ押しと言わんばかりゆ後部エレベーターにビームを撃ち込んだ。ビームは内部まで貫通し、一際大きい爆発を引き起こした。

 

「きゃああああっ!」

 

大きく揺れる船体、ゆっくりと傾き始める甲板。一時的に平衡感覚を失った芳佳は、悲鳴を上げる。そのまま甲板に倒れそうになるが、坂本の左腕に抱き留められ、事なきを得る。

 

「大丈夫か!?」

 

と、坂本。彼女の身体から使い魔であるドーベルマンの耳と尻尾が飛び出している。

気を抜けば海へ滑り落ちてしまいそうなほどに不安定な甲板。ペリーヌと芳佳の二人をしっかり支えようと、身体強化魔法を発動しているのだ。

 

「はい……ありがとうございます。坂本さん」

 

心配そうに自分を見る坂本に対し、芳佳は苦笑気味に答えた。

 

「お兄さ……いえ、宮藤大尉は?」

 

つい“お兄様”と呼びそうになり、ペリーヌは慌てて言い直す。坂本を右腕で支えられた彼女は、キョロキョロと甲板を見渡して優人の姿を探している。

 

「妹を置いてどこへ行ったんだ?」

 

坂本が眉を寄せながら呟いた。芳佳を預けられた直後に、ウォーロックの攻撃で船体が大きく揺れたために、走っていった優人の後ろ姿を見失っていたのだ。

彼は今何処に、何故急に走り出したのか。突如襲いかかってきたウォーロックに恐れをなして一目散に逃走したか。いや、優人はそんな臆病な人間ではない。無論、最愛の妹や大切な仲間を置いて、我先にと逃げ出すような卑怯者でもない。それは彼と一番付き合いの長い坂本自身が、誰より理解していることだ。

しかし、姿が見えないことが気掛かりだった。艦が揺れた際に海へ放り出されていないか、ビーム着弾時の爆発に巻き込まれていないか等の不吉な考えが頭を過る。

 

「お兄ちゃん……」

 

芳佳は足元へ視線を落とし、不安げに呟く。その時、突然甲板に振動が走った。

 

「?……なんですの?」

 

振動に気付いたペリーヌが、足元に目をやる。ビームの直撃や着弾による爆発によって起きる揺れとは明らかに異なる、小さくて細かい振動。

空母乗艦経験の無いペリーヌには何か分からないようだが、足元より伝わるそれはエレベーター作動時に発生するものだった。

 

「――っ!?……中央エレベーターか?」

 

ハッ気付いて顔を上げた坂本は、甲板中央部へ目を向けた。次に彼女の視界に飛び込んできたのは、中央エレベーターを使って甲板まで上がってきた2基の発進ユニットと、固定されている見慣れたストライカーユニット『零式艦上戦闘脚二二型甲』。そして、見知った1人の青年であった。

 

「お兄ちゃん!?」

 

芳佳が驚いて声を上げる。発進ユニットやストライカーユニットと共にエレベーターで上がってきたのは、S-18対物ライフルを手にした優人だった。2機あるストライカーユニットの片方を装着し、既に魔導エンジンを始動していた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

その頃――

 

シャーリーとルッキーニを乗せてロマーニャへ向かっていたソードフィッシュは、ウォーロックと遣欧艦隊の交戦海域近傍を飛行していた。

 

「見ろ」

 

何かに気付いたシャーリーが、11時方向へ顎をしゃくりながら言う。彼女に促され、ルッキーニも同じ方向へ目をやってみると、遠方より黒煙が上がっているのが見えた。

 

「何だろう?」

 

黒煙はウォーロックの攻撃で沈みかけている赤城から上がっているのだが、そんなこと知る由もないルッキーニ

は不思議そうに首を傾げた。

 

「行ってみるか?」

 

「……へ?」

 

ニィと笑みを浮かべるシャーリーの提案に、間の抜けた声を返すルッキーニ。彼女のちゃんとした返事を待たずして機体を急旋回させたシャーリーは、黒煙の方へ加速していく。

 

「ヤッホォ~イ!」

 

「うにゃにゃああああああっ!!」

 

シャーリーの歓喜な叫びと、ルッキーニの猫に似た悲鳴がドーバー海峡に轟いた。

しかし、遣欧艦隊の危機に気付いたのは、空を往くシャーリーとルッキーニの二人だけではなかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

所変わって――

 

沿岸に設けられた一条の線路。その上を走行する蒸気機関車は、客車ではなく丸太状の木材が積まれた貨物車両を牽引する貨物列車だ。

旧501基地の最寄り駅より発車し、ロンドンへ向かって移動中の貨物列車の荷台――正確に言えば、荷台に積まれた木材に座るサーニャとエイラの姿が認められた。木材を座席代わりに使うエイラは、自身にもたれ掛かって眠るサーニャを穏やかな表情で見つめている。

 

「す~……す~……」

 

サーニャから可愛らしい寝息が聞こえる。昨晩、夜間哨戒がなかったサーニャだが、ナイトウィッチ故に夜型であり、昼間は眠い。本日はお気に入りの枕ではなく、エイラの腿に手を添えて眠っている。

何故二人は、わざわざ乗り心地の悪い貨物列車で移動しているのか。もちろん、ちゃんと理由がある。

他のメンバー同様基地を出た二人は、列車に乗るために最寄り駅まで足を運んだ。そこでロンドン行きの切符を買おうとしたのだが、ロンドン行き列車は既に出てしまっていた。

駅員から「次のロンドン方面は6時間後だよ」と言われ、サーニャはともかくエイラはベンチが一つ置かれているだけの寂れたホームで6時間も待たなければならないことに不満を零していた。すると見兼ねた駅員が、ちょうど給水のため駅に停車中だった貨物列車に乗せてもらうという提案をしてきた。

初めは「サーニャを貨物車両に乗せるわけにはいかないダロ!」と憤慨していたエイラだったが、貨物列車なら切符要らずで堂々とタダ乗りが出来ること。人見知りするサーニャから「他にお客さんがいないなら、その方がいい……」という意見が出たこと。

そして何より、エイラが貨物ならサーニャと二人っきりだということに気付いたため、邪な感情を抱いた彼女の決断で貨物列車の荷台に乗車することが決まったのだ。

 

「う、ううん……」

 

ふと眠っていたサーニャから、彼女の使い魔である黒猫の耳と尻尾が出現する。次に魔導針が発動し、同時にサーニャも半覚醒ながら目を覚ます。

あまり気持ちの良い目覚めではなかったらしい。辛そうな面持ちで、サーニャはポツリと呟いた。

 

「あ……艦が、燃えてる」

 

「艦?」

 

寝言かも分からねサーニャの言葉を、エイラは気の抜けた声で鸚鵡返しする。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同じ頃――

 

一台の車が舗装されていない田舎道を進んでいた。ロンドンのような大都市ならいざ知らず、木骨造り、藁葺き屋根の家が並ぶ村々や小ぢんまりとした都市が点在する地方には、あまりに不相応な高級車――ロールスロイス。運転席には執事然とした男性が座り、後部座席にはなんとリーネが乗り込んでいた。

見た目も中身も言動も、貴族令嬢らしいペリーヌの影に隠れて忘れられがちだが、リーネもまたロンドンにてデパートを始め多数の店舗を営む裕福な商家を実家に持つ、れっきとしたお嬢様なのだ。

このロールスロイスは、娘から連絡を受けた実家より遣わされたリーネの迎えであり、運転席の男性は彼女が幼い頃からビショップ家で運転手をしている。

 

「あっ、あれは!?」

 

運転手と雑談に興じていたリーネもまた、水平線上の黒煙に気付いたのだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

場面は再び空母赤城、甲板――

 

「総員退艦!総員退艦!」

 

黒煙を上げながら沈みゆく赤城では、杉田の判断で退艦命令が発せられた。海上には、脱出した乗員達を乗せた救命艇が浮かんでいる。

唯一生き残った駆逐艦『雪風』は杉田の要請を受け、赤城乗員の収容と、天津風の生存者の救助を行っていた。

 

「優人、それは!?」

 

優人と共に中央エレベーターから上がってきた2機のストライカーユニットに、坂本は目を見張った。

これらの零式艦上戦闘脚二二型甲は赤城の艦載機であり、元々ガリア反攻作戦に参加するウィッチに支給される予定だったもの。

扶桑への帰路につく前にブリタニアの港で下ろされるはずだったが、優人がウォーロックの暴走という万一の事態に備えて赤坂に根回しを行い、艦内に残して貰っていたのだ。

 

「悪い説明してる時間はない」

 

優人はそう言うと、空を見上げた。ウォーロックが艦隊の様子を伺うかのように上空を旋回していた。

 

「援軍の到着まで、俺が奴を押し留める。その間にお前らは避難しろ!」

 

「無茶です、大尉!」

 

ペリーヌが異を唱えた。魔法力が落ち、怪我も癒えきっていない。そんな状態でウォーロックと戦うなど無茶でたる。

 

「悪い、そろそろ向こうが痺れを切らしそうなんだ」

 

優人は再び空を見る。旋回していたウォーロックは、いつの間にホバリングして優人を見下ろしていた。

まるで、早く上がってこいと急かすかのように唸り声を上げている。

 

「よせ、優人!」

 

「大丈夫だよ、死ぬ気はない」

 

ペリーヌに続いて、自分を止めようとする坂本にそう告げると、次に優人は芳佳を見た。

 

「お兄ちゃん……」

 

「…………」

 

潤んだ瞳で自分を上目遣いに見返す妹に優人は微笑み返すと、ストライカーを発進ユニットより滑走させ、空へと上がっていった。

 

「優人!」

 

「大尉!」

 

飛び立ってしまった優人を目で追いながら、坂本とペリーヌが順に声を上げる。間も無く、優人はウォーロックと交戦状態に入った。

 

(お兄ちゃん……)

 

既に手の届かない位置まで高く上がった兄を、芳佳は不安げに見つめる。かと思えば、ハッとなって斜め後ろに振り返った。その視線の先には、もう1機の零式艦上戦闘脚二二型甲を固定したがある。

 

(行かなきゃ……)

 

芳佳は決意し、発進ユニットへ駆け寄った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

黒煙を目指していた飛行していたソードフィッシュは、赤城を視認できる距離まで接近していた。

 

「あれは?」

 

ウォーロックの攻撃を受けて沈んでいく赤城を視界に捉えたシャーリーが、戸惑いの声を上げる。

 

「扶桑の空母だよ。何でウォーロックが攻撃してるの?」

 

ルッキーニも首を傾げた。

 

「あたしに聞くなって~の!飛ばすぞ!」

 

「おうよ!」

 

もっと近付いて状況を確認したいシャーリー。今度はちゃんとルッキーニの返事を聞いてからソードフィッシュを加速させた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

空に上がった優人は、ウォーロック相手に空中戦を展開していた。

ウォーロックの頭部へ狙いを定め、S-18対物ライフルに装填された航空機関砲用20mm弾を数発撃ち込むも、シールドであっさりと防がれてしまう。

 

「チッ……」

 

お返しとばかりにビームを撃つウォーロック。シールドで防ぎながら舌打ちする優人。簡単に倒せる相手とは思っていないが、本調子でない優人としてはそれでも長期戦は勘弁願いたかった。

使い魔との同調は安定しているが、魔法力の回復具合は芳しくない。薬のおかげで傷の痛みは殆んど感じないが、負傷前には無かった身体の中で何かが引っ掛かっているような違和感がある。

 

(とにかく、こいつを赤城から引き離さないと……)

 

優人は海面に背を向けた体勢で飛行しつつ、射撃でウォーロックの気を引き、赤城から遠ざけようとする。

優人の思惑通り、彼の挑発染みた攻撃にウォーロックが食い付いてきた。逃がさない、と言わんばかりにビームや機銃を乱射する。

ビームや銃弾をを受け止めながら、優人は魔力シールド越しにウォーロックを見据えた。黒いハニカム構造の装甲を纏い、狂ったような甲高い咆哮を上げる機体は、ほぼネウロイと同質の物に変貌している。

優人は以前にも、眼前のウォーロックと酷似した存在と遭遇していた。ウォーロックが暴走しなければ、赤城の居室で芳佳達に話していたであろう過去。それは5年前の8月、父――宮藤一郎が亡くなる数日前のことだった。




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