ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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扶桑海軍ならリベリオン軍の協力を得て、早いうちに四式自動小銃の本格的な量産をしてそう。


第45話「宮藤兄妹vsウォーロック」

1944年9月初頭、ドーバー海峡上空――

 

「そうだ、俺が相手だ!!こっちに来な!」

 

遣欧艦隊から僅かに離れた空域で、優人はウォーロックと死闘を繰り広げていた。

両手で構えるS-18対物ライフル。その銃口から空気を引き裂く勢いで放たれた20mmの魔導弾が、ウォーロックへと迫る。しかし、ウォーロックが展開したシールドによって、いとも容易く弾かれてしまう。

 

(正面からじゃ無理か……)

 

直撃すれば、小型ネウロイを一発で粉砕し、中型以上の個体にも大打撃を与えることの出来る大口径の魔導弾も、ウォーロックに搭載されたシールドの前では無力だった。しっかりとスコープで捉えた敵に、自慢の射撃が当たらない。シールドで遮られ、ただの一発もだ。

過去にウィッチやウィザードと戦い、魔力シールドで自らの攻撃を弾かれたネウロイ達も、こんな惨めな気分だったのだろうか――と、優人は歯噛みする。

 

「くっ!……」

 

雄叫びを上げると同時に、ウォーロックはビームによる報復を見舞った。優人は咄嗟にシールドを張った。高出力ビームの衝撃がシールド越しに伝わり、全身が強張る。

 

(やっぱり、イリスの時と同じだ)

 

気でも狂ったかのようなウォーロックの豹変ぶりは、かつて優人が直面したイリスの暴走と極めて酷似している。

かつてブリタニアのストライカーユニット共同研究所では、ウィッチやウィザードが駆る飛行脚・歩行脚とは異なった視点から、魔法力を持たない一般兵でも扱うことが可能な対ネウロイ用兵器の研究・開発が進められていた。ギリシア神話に登場する虹の女神と同じ名が与えれられたイリスは、その試作機だった。

約5年前のワイト島。戦闘中に受けた攻撃が呼び水となり暴走状態に陥ったイリスは、シールド越しに見えるウォーロックように装甲をネウロイを想起させるハニカム模様の浮かんだ禍々しい漆黒へ変化させ、身震いするほど不気味な唸り声を上げていた。

人間の制御から外れた女神は、まず自らの操縦席に座っていたパイロットを殺害。自我が芽生えたことで、有人機でありながら操縦者を必要としなくなった試作新兵器は、敵味方双方に襲いかかった。ウィッチやウィザードと肩を並べてネウロイと戦うはずだった“女神”は、本能のままに殺戮を行う“怪物”へ変貌し、自らの創造主である人類に反旗を翻したのだ。

本来のスペックを遥かに超える戦闘力で中型ネウロイを撃破。さらには運用試験の仮想敵機役として各国から集められた10名近い航空歩兵を、圧倒的な力の差を見せつけた上で惨殺した。ただ一人、優人を除いて――

 

(もう誰も死なせない……俺が、俺がこいつからあいつらを守るんだ!)

 

S-18対物ライフルを握りしめながら、優人は心の中で強く決意する。

5年前のあの時、優人は殺戮兵器と化したイリスと対峙した。しかし、イリスの桁違いの強さと、次々と物言わぬ肉片に変えられていくウィッチ達の最期を目の当たりにした優人は、恐怖のあまり動くことが出来なかった。

持って生まれた魔法という名の力を、誰かを守る為に活かそうと、そのためにも強くなろうと扶桑皇国海軍へ入隊し、航空ウィザードに志願したはずだった。が、結局誰も助けられなかった。

もう誰も死なせたくない、あんな想いは二度としたくない。その想いを胸に秘め、リバウやカールスラント、そしてこの西部戦線で戦い、強くなった。人類すべてを守りきれると思うほど自惚れていない。けれども、自分の魔法が届く距離にいる人々のことはなんとしても守りたい。

 

(十分引き離したな……)

 

芳佳達のいる赤城の艦影を、優人は遠目で確認した。既に遣欧艦隊との距離は大幅に開いているので、心置きなく戦うことが出来る。しかし、ウォーロックに対して有効打を与えられない現状において、優人の勝ち目は薄い。

言うまでもないことだが、優人の魔法力やS-18対物ライフルの弾薬には限りがある。使い魔との同調がまだ完全には回復していないことから、魔法力の消耗はいつもより激しい。

対してウォーロックは、ガリアの巣に潜んでいた全てのネウロイと戦った直後にも関わらず、燃料や弾薬を使い切る気配をまったく感じない。

攻撃の手を緩めることなく、雨のようにビームを放つウォーロック。優人は持久戦に考慮し、シールドを使った防御から、零式の運動性を活かした回避行動に切り替える。旧式化しつつも、他国産ストライクユニットの追随を許さない運動性は今だ健在。そのおかげで、イリスの時も命拾いした。

 

(イリスに比べれば、遥かにマシだけど……やっぱり、キツいな……)

 

強力なビーム兵器を主兵装としているウォーロックの総合火力は大型ネウロイ以上だ。それに加え、先代機であるイリス譲りの強固なシールドを装備している。

さらには、新開発のジェットエンジンを搭載し、飛行形態時には亜音速での飛行が可能としている。

数年間の技術革新の恩恵によって、先代機よりも精錬されているウォーロックだが、不思議とイリスほど圧倒的な強さや恐ろしさは感じなかった。それ故に、冷静に分析・判断する程度の余裕が、優人には残っていた。

 

「お兄ちゃああああああぁ~ん!」

 

「…………えっ?」

 

ふと耳朶を叩いた聞き覚えのある大声。ウォーロックへの対処法を思案していた優人の思考が一瞬停止する。

声のした方向へ恐る恐る目をやると、赤城に艦載されていたもう一機の零式を履き、九九式二号二型改13mm機関銃を両手に抱えたウィッチが一人、自分の元に向かっているのが見えた。

 

「芳佳っ!?」

 

優人は思わず目を見張った。こちらに飛んでこようとしているのは、彼の最愛の妹――宮藤芳佳だったのだ。

近付く芳佳に気付いたのは優人だけではない。ウォーロックもまた、新たに現れたウィッチの存在と接近を察知していた。機体を反転させ、突っ込んでくる芳佳にビームの照準を合わせる。

 

「危ない!」

 

妹の危機に優人は声を張り上げる。ウォーロックは、両腕の間にビームを収束させることで、より強力な一撃を放とうとしていた。

 

「やあああぁっ!」

 

自分へ向けて発射されようとしているビームにまったく臆することなく加速した芳佳は、シールドを展開しながらの体当たりをお見舞いする。

ビームと魔法の干渉によって衝撃が発生する。ウォーロックは仰け反り、吹き飛ばされた。

 

「うそぉ……」

 

思い切りがいいと言うか、なんと言うか。脳筋全開な妹の戦法に優人は唖然とするも、すぐにハッとなってS-18対物ライフルを構え、隙のできたウォーロックへ20mm弾を叩き込んだ。見事命中し、装甲の一部が破損する。

手痛い一撃を食らったウォーロックは、慌てたように飛行形態に変形し、宮藤兄妹から距離を取った。

 

「芳佳!」

 

ウォーロックが離れると、優人はすぐさま芳佳の元へ駆け寄った。

 

「お兄ちゃん、大丈夫!?」

 

「それはこっちに台詞だ!また無茶して!」

 

芳佳が強力魔力シールドを張れることは分かっているが、それでもビームを撃とうとするウォーロックに正面から突っ込んでいった芳佳の姿を見て、優人は肝を冷やしていた。

 

「ごめんなさい。でも――」

 

「でももヘチマもな……いや、今はいい」

 

優人は説教を止めて上を向く。上昇していったウォーロックは上空でUターンした後、急降下を始めた。機首及び機首に装備されたビーム砲が宮藤兄妹に向けらている。

 

「どうせ帰れ、って言っても聞かずに残るんだろ?なら怪物退治に付き合ってくれ!」

 

切羽詰まった状況。頑固な芳佳を説得して赤城に返すには、時間が足りな過ぎる。それに、先程のシールドアタックで、ウォーロックは芳佳のことも殲滅対象と認識したはずだ。

自身に強烈な体当たりを見舞い、損傷する原因を作ったウィッチを見逃がしてくれるはずもない。

 

「う、うん!もちろんやるよ!」

 

と、芳佳が応じた直後に、ウォーロックがビームを撃ってきた。反射的に左右に分かれ、攻撃を回避する優人と芳佳。

二人が躱したビームは海面は抉り、爆音と共に巨大な水柱を立てる。雨のように降り注ぐ水飛沫が、戦闘空域に場違いな美しい虹を掛ける。

速度を落とし、人型形態へ変形するウォーロック。宮藤兄妹の姿が見えない。水飛沫の霧が立ち込めた見通しの効かない中、姿を消した二人を焙り出そうとウォーロックは両腕の機関銃を乱射する。

 

「こっちだ!」

 

叫び声と共に、飛沫の中から優人が姿を見せる。すかさずS-18対物ライフルを発砲するが、またもやシールドで防がれる。しかし、何故か優人は口元に笑みを浮かべていた。

 

(かかった!)

 

優人が心中で呟くと、ウォーロックを挟んで反対側から零式のプロペラ音を響かせ、芳佳が現れた。

やや遅れて水飛沫の中から飛び出した芳佳は、先程の優人の攻撃で装甲が破壊された箇所を狙い、13mm機関銃のフルオートで撃ち放つ。

不意と弱点を突かれたウォーロックは、損傷箇所から黒煙を吐き出した。バランスを崩して海へ落ちそうになるのをどうにか堪え、ウォーロックは再び宮藤兄妹から距離を取る。

 

「やった!上手くいったよお兄ちゃん!」

 

咄嗟に思い付いた即席かつ単純な連携攻撃ではあったが、予想以上に効果的だったため、芳佳は歓喜の声を上げる。

 

「油断するな!また仕掛けてくるぞ!」

 

と、妹を諌める優人。もう同じ戦法は通用しないが、芳佳の参戦により形勢は逆転したと言える。

 

「一気に畳み掛ける!ついてこい!」

 

「はいっ!」

 

射撃を続けながら、優人と芳佳はウォーロックへ食らいつかんとする。

ストライカーユニット『零式艦上戦闘脚』と対ネウロイ用兵器『イリス』の開発者である宮藤一郎を父に持つ、扶桑海軍ウィザードとウィッチの兄妹。

敵側のテクノロジーを利用して開発された、イリスの後継機とも言える遠隔操作式半自律型攻撃兵器ウォーロック。

まるで運命に導かれたかのように、両者は零式とイリスが開発されたブリタニアの空で激突する。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

シャーリーとルッキーニを乗せたソードフィッシュは、戦闘中の宮藤兄妹とウォーロックをはっきりと視認出来る距離まで近付いていた。

 

「何だぁ?優人と芳佳が、ウォーロックと戦ってるぞ!」

 

操縦席に座るシャーリーの脳中に疑問符を浮かんだ。ウォーロックが扶桑の空母を攻撃していたかと思えば、今度はそのウォーロックと宮藤兄妹が戦っている。

扶桑艦隊に接近して詳しい状況確認するつもりが、ますます分からなくなってしまった。

 

「二人を助けなきゃ!」

 

「ああ!……あっ…………」

 

一瞬も迷うこともなく、宮藤兄妹を助けようとするルッキーニの意向に二つ返事で応じるシャーリーだが、ある致命的な問題に気付いた。

 

「コイツ、武装なんてしてないぞ!」

 

例え武装があったとしても、大型ネウロイを瞬殺するような相手に、ソードフィッシュで挑むのは無謀というものだろう。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

その頃――

 

ウォーロックの攻撃を受け、黒煙が上がっている旧501基地。その本部管制塔は、混乱に乗じて乗り込んできたミーナ達カールスラント組によって掌握されていた。

 

「ふふん……」

 

「へ……へへ……」

 

使い魔であるジャーマンポインターの耳と尻尾を出現させて仁王立ちするバルクホルン。その視線の先には、彼女の手で叩きのめされ、ボロ雑巾のような姿となったマロニーの副官が転がっている。

普通の人間が、魔法力を発動したウィッチに敵うはずもない。反撃する間もなく、一方的に叩き伏せられた。

 

「ひぃいいいい~っ!」

 

副官と同じくマロニーの野望に付き合ったウォーロック隊の面々が、バルクホルンに睨まれ、情けない声を上げる。

部屋の隅で身を寄せ合いながら震えている彼らから、抵抗の意思等は微塵も感じない。

当基地は、ミーナ達によって完全に制圧――いや、奪還されたと言うべきか。

 

「我々をどうするつもりだ?」

 

追い詰められたマロニーが、苦虫を噛み潰したような表情で問う。

ブリタニア空軍戦闘機軍団司令官――実質的最高指導者の地位に胡座をかいていた空軍大将も、こうなってしまえば形無しだ。

 

「どうする、ミーナ?」

 

バルクホルンは、楽しげな口調で訊ねる。マロニーが自分達の上官に就任してから今日に至るまで、冷飯を食わされ続けたウィッチーズ。溜まりに溜まった鬱憤を晴らす機会が、漸く訪れたのだ。

 

「ふぅ……」

 

管制室上部に設置された司令用デスクの前に立つミーナは、マロニー自らが保管していた資料類に目を通すと、軽く息を吐いた。

 

「ウィッチーズを陥れようとして、随分いろいろとなさったようですね、閣下?」

 

読み終えた資料をデスクに置いたミーナは、さらに言葉を続ける。

 

「かつて秘密裏に行われていたネウロイのテクノロジー利用した新兵器の開発計画を知り、ウィッチを超える力を得るため、開発陣の一人である石威博士を抱き込み、ウォーロックの開発を命令。それらの事実を隠そうとして、ウィッチーズを無理矢理解散に追い込もうとした」

 

ミーナがそこまで語ると、バルクホルンはマロニーの隣で崩れ落ちている石威に目をやった。

己の人生の最高傑作、と太鼓判を押したウォーロックが暴走。そのショックで彼は、“心ここに在らず”といった感じで、ミーナの声も聞こえていないようだった。

 

「良い計画でしたが、優人の作戦案と、芳佳さんの軍の理解を超えた行動に慌てて動いたのが失敗でしたね」

 

「もっと……もっと早く芳佳を信じてやっていれば」

 

ネウロイに対する憎しみの感情に流されたばかりに、芳佳の言い分には一切耳を貸さなかった。バルクホルンは、慚愧の念に駆られる。

 

「あっ!?おーい、大変だ!」

 

ふと窓から外を眺めていたハルトマンが、ミーナ達へ振り返って叫んだ。

 

「赤城が沈みそうだよ!あっ!航空歩兵が二人、ウォーロックと戦ってる!誰だ!?」

 

ハルトマンの報せを受け、ミーナは灰色狼の耳と尻尾を出した。固有魔法『空間把握』を発動させ、ウォーロックと戦っている航空歩兵の感知と識別を始めた。

 

「……優人と、芳佳さんだわ!」

 

「あいつらが!?」

 

と、ハッとなって驚くバルクホルン。

 

「あり得ん!お前達のユニットは、すべてハンガーに封印されているはずだ!」

 

ミーナの分析に、マロニーが異を唱える。確かに、赤城に乗艦して海上にいるはずの宮藤兄妹が、H鋼で封鎖されたハンガー内からストライカーユニットを持ち出すことなど出来ない。当然、何者かがハンガーに侵入したという報告も受けていない。

 

「あのストライカーユニットは、赤城に艦載されていたものですよ」

 

ふと入り口の方から男の声が聞こえてきた。目を向けてみれば、扶桑海軍の制服に身を包んだ中年男性が立っていた。扶桑海軍遣欧艦隊司令長官――赤坂伊知郎中将だ。

 

「赤坂中将!?」

 

驚いたミーナが声を上げると、赤坂の背後より大勢の扶桑海軍兵が現れ、管制室へなだれ込んで来た。四式自動小銃で武装した扶桑海軍の陸戦隊だ。陸戦隊の面々は、マロニーと石威。そしてウォーロック隊の将兵・研究員を取り囲み、四式の銃口を向ける。

 

「赤坂!一体何の真似だ!?」

 

激昂するマロニー。皮肉なことに今のマロニーの姿は、彼の命を受けたブリタニア軍兵士に包囲された時のウィッチーズに酷似している。

 

「それはこちらの台詞ですよ、マロニー大将閣下」

 

赤坂は、総司令部の上官であるマロニーを嘲笑うように言葉を発した。

 

「何故そちらの兵器が、我が遣欧艦隊の艦艇を攻撃しているのでしょうか?よもやネウロイと誤認した、などとは言いますまい」

 

「うっ……」

 

穏やかで丁寧な口調ながら威圧を孕んでいる赤坂の問い掛けに、マロニーはぐぅの音も出ずに口ごもる。

 

「ミーナ中佐」

 

次に赤坂は、視線をマロニーからミーナへ移した。

 

「宮藤兄妹だけでは、時間稼ぎがやっとだ。ここは我々が引き受ける、君達にはウォーロックの対処を頼みたいのだが?」

 

「了解しました、ウォーロックはお任せください!」

 

赤坂からの要請に敬礼で応じると、ミーナはすぐに駆け出した。

 

「行くか!」

 

ハルトマンも窓辺から離れ、ミーナに続いた。

 

「わっ!……ま、待て待て待て~っ!」

 

置いてかれそうになるバルクホルン。赤坂に敬礼すると、慌てて二人の後を追った。

赤坂は、カールスラントの三人娘を笑顔で見送ると、再びマロニーに向き直った。

 

「さて、話を聞かせて頂きましょうか。ウォーロックと、お隣の扶桑人について」

 

赤坂は、石威をチラリと見る。数年間、行方が知れなかった自国の技術者と、こんな形で再会するとは思っていなかった。

 

「くっ……扶桑の狸がっ!」

 

赤坂と陸戦隊に拘束されたマロニーには、そう毒突くことが精一杯だった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

同じ頃――

 

「あ……」

 

海から上がっていた黒煙が気になったリーネは、運転手に頼んで開けたら崖の上まで車を回してもらっていた。ロールスロイスから降りると、海の方へ目を向ける。海上には沈みかけている赤城、その上空では優人と芳佳がウォーロックと戦っている。

 

「あれは、ウィッチですか?」

 

やや遅れて車から降りてきた運転手が、リーネに訊ねる。

 

「ええ……扶桑のウィッチと、ウィザードです……」

 

宮藤兄妹がいる空を見つめたまま答え、さらに言葉を続けた。

 

「私の一番大切な友達と……お兄ちゃんみたいに優しい人です」

 

大切な友人と、その兄について呟いたリーネの表情はパッと明るくなる。すぐさま踵を返し、ロールスロイスに向かって走り出した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

再び、ドーバー海峡上空――

 

(どうして……どうしてウォーロックが赤城を?)

 

優人と共にウォーロックと戦いながらも、芳佳の心中では疑問符が躍っていた。

 

(それにまるでネウロイみたいな……)

 

複数の記憶が、芳佳の脳裏にフラッシュバックする。ネウロイとまったく同じビームを撃つウォーロック、ネウロイのコアがある実験室の隅に置かれていたウォーロック、自分に何かを伝えようとしていた兄妹のような二体の人型ネウロイ。

 

「ネウロイ!」

 

芳佳がハッとなったその瞬間、ウォーロックは再び海に向けてビームを放つ。

 

「わっ!……くそっ!」

 

ビームの着弾により、優人の行く手を阻むようにして海水が舞い上がる。その隙にウォーロックは、素早く芳佳の正面へと回り込んだ。

目の前でホバリングするウォーロックに対し、芳佳はすかさず13mm機関銃を構える。しかし、至近距離で銃口を向けれたウォーロックは攻撃を突然中止し、頭部のハッチを開いた。機内から筒状のガラスケースが迫り上がってくる。

 

「ああっ!」

 

ガラスケースの中身を見た芳佳は驚愕のあまり声を上げた。ケース内に納められていたのは、ネウロイのコアだったのだ。

イリスの時もそうだったが、ネウロイのテクノロジーを解析することは出来ても再現することは出来なかった。それ故に、制御や動力にコアを利用することでビームやシールド実装や基地からの遠隔操作を可能としていた。

 

「…………」

 

ウィッチ型ネウロイと同じようにコアを見せるウォーロック。

芳佳はケースの中で輝くコアをじっと見据えながら、ウィッチ型ネウロイの時と同じく、ゆっくりと左手を伸ばした。

 

――人型ネウロイがそうだったように、ウォーロックとも心を通わせることが出来るのではないか?

 

そう思って。しかし、芳佳が開いた両腕の間に入ると、ウォーロックのビーム発射口が輝き出した。

 

「っ!?」

 

ビームが自分に向けて発射されようとしていることに気付いた芳佳だが、魔力シールドを使った防御は間に合いそうもない。死を覚悟した芳佳は、反射的に目を瞑る。

 

「うちの妹に何してんだ!このクソ野郎っ!」

 

殺気を孕んだ凄まじい怒鳴り声と共に、20mmの魔導弾がウォーロックの右腕に直撃する。妹への攻撃に激怒した優人の、S-18対物ライフルによる狙撃だ。

右腕を損傷したウォーロックは、悲鳴と唸りが合わさったような不気味な叫び声を上げると、急ぎガラスケースを戻してハッチを閉じる。変形はせず人型のままその場から離脱していった。

 

「芳佳!大丈夫かっ!?」

 

血相変えた優人が、慌てて芳佳に駆け寄る。

 

「うん、大丈夫!」

 

と、頷いて答える芳佳。もし優人の狙撃が一瞬でも遅れていたら、芳佳は人型ネウロイの兄妹(?)と同じように消し飛んでいたことだろう。

 

(違う……これは、あのネウロイじゃない!敵なんだ!)

 

騙し討ちにあったことで、芳佳はウォーロックを敵だとハッキリ認識し、13mm機関銃を構え直した。

二人が正面に目を向けると、手痛い一撃を受けたウォーロックが赤城の方へと逃げていくのが見えた。

 

「あの野郎、また赤城に……」

 

妹を殺されかけた優人は、恐いほどの憎しみをウォーロックに抱いていた。

 

「追うぞ!」

 

「はいっ!」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

空母赤城、飛行甲板――

 

損傷した右腕を庇うようにして飛行するウォーロックと、追い掛ける宮藤兄妹の戦闘を、ペリーヌと坂本が甲板から見上げていた。

 

「すごい……」

 

優人と芳佳の戦いぶりに魅せられ、ペリーヌは思わず感嘆の声を漏らした。

 

「ああ、あの化け物相手に優勢とは……」

 

坂本もペリーヌに同意する。兄妹だけあって、二人の連携には目を見張るものがある。

坂本は、チラッと優人に目をやった。長い間共に戦ってきた自分よりも、芳佳とロッテを組んだ方がいい動きをしているように思えた。

 

(少し、妬けるな……)

 

芳佳が、大ベテランの優人についていけるほどまでに腕を上げたことが喜ばしい反面、少し複雑だった。

愛弟子の成長を手放しで喜べない自分自身に坂本が苦笑していると、またもやウォーロックのビームが赤城を襲った。

 

「あっ!」

 

「きゃああああっ!」

 

さらに傾く赤城の船体。被弾により発生した衝撃で、二人は甲板から投げ出された。

 

「お兄ちゃん!」

 

「ああ、わかって……うわっ!」

 

芳佳と優人が二人の危機に気が付いたものの、助け向かおうとする。だが、ウォーロックのビーム攻撃によって阻まれてしまう。

 

「お前は卑怯なやり方でしか戦えないのかよっ!」

 

仲間の救出を妨害された優人は、ウォーロックに振り返ると怒りに満ちた声で叫び、20mm魔導弾を撃ち込む。

弾をシールドで受けるウォーロックは戦闘中に自己進化でもしているのか。再生能力までも手に入れ、右腕を再生していた。




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