ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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試験的に一人称描写を入れてみました。


第47話「決戦」

優人side――

 

空飛ぶ船を見たことがあるだろうか?飛行船や飛行艇などとは違う。海上を航行するはずの船が、羽を生やしたかのように宙に浮き、悠々と大空を駆ける。

子どもの頃、そういった空船が描かれた挿し絵を何かの本で見た気がする。お気に入りの童話本か、妹に読んでやった絵本か、それとも小学校の授業で使っていた国語の教科書か。10年以上も前のことで判然としない。

恥ずかしい話だが、当時の俺にとっては航空機やウィッチ・ウィザードの駆る飛行脚よりも、そんな空想上にしか存在しないもの方が魅力的に映っていた。

今よりも幼く、遥かに純粋な心の持ち主だった俺は、一度で良いから海の青空を漂う船を見てみたいと本気で思っていた。

それがまさか、こんな形で叶うとは。“事実は小説よりも奇なり”とは、よく言ったものだが、俺は少しも嬉しくなかった。

理由は二つ。一つは、自分はもうメルヘンを信じるような年頃ではないということ。もう一つは、船を浮かせている存在がネウロイすら上回るほどの化物だということだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

outside――

 

ドーバー海峡には、ネウロイのものとはまた違った唸り声が響いていた。歪みつつも軍艦の汽笛を想起させるそれは、ウォーロックと融合した赤城から発せられている。

ほんの少し前まで、兵器らしからぬ生理的な挙動で飛び回り、ウィザードとウィッチの兄妹を翻弄していたウォーロックはピタリと動きを止め、機体は赤城の艦首部分へ銅像のように収まっている。

新たに出現した怪物に対処するため、ストライクウィッチーズは早急に態勢を整えていた。

優人は主兵装を九九式二号二型改13mm機関銃に変更し、残弾一のS-18対物ライフルを背負う。さらに芳佳の13mm機関銃を一時的に預り、弾倉を銃弾が詰まった新しいものに交換していた。

 

「ありがとうエイラ、サーニャ。おかげで助かったよ」

 

弾切れ寸前だった優人は、基地から武器弾薬を持って来てくれたエイラとサーニャに感謝の言葉を述べる。

 

「いえ……」

 

「今日だけダカンナァ……」

 

やや視線が下げるサーニャと、プイッとそっぽくエイラ。雪を想わせる二人の頬にポッと紅が灯される。照れ臭そうらしい。

 

「よっと……」

 

芳佳はウォーロックとの戦闘で大破したストライカーユニットを、パーソナルマークが入った自身の零式に履き替えていた。彼女を手伝うのは、ユニットを運んできてくれたバルクホルンとシャーリー。

優人を部隊のお兄さん役とすれば、二人はお姉さんコンビ。普段からこの三人は、部隊の年少組である芳佳達のことを気にかけている。

 

「シャーリーさん、バルクホルンさん。ありがとうございます」

 

ストライカーの履き替えを手伝って貰った芳佳もまた、愛らしい笑顔で二人に礼を述べる。

 

「どういたしまして」

 

「持ってきて正確だったな」

 

シャーリーとバルクホルンも、芳佳に優しく微笑み返した。

ウォーロックの攻撃で損傷した零式は、元々赤城に艦載されていた扶桑皇国海軍遣欧艦隊所有の機体である。既に赤城への返却は叶わなくなったため、陽炎型駆逐艦『雪風』に預けられた。

ウォーロックの攻撃から唯一生き残った雪風は、赤城及び同型艦『天津風』乗員の救助を行っている。赤坂が手配したのだろう、ブリタニアに駐留していた遣欧艦隊所属艦艇も応援に駆けつけていた。

芳佳は零式の魔導エンジンを始動させ、プロペラを回転させる。その直後、ウォーロックに乗っ取られた赤城が

、全方位へ向けて多数のビームを放った。ウォーロックとの融合によって、搭載されているすべて砲門はより攻撃力の高いビーム砲へと強化されていた。艦底にも発射口が追加され、死角は殆んどない。

ウィッチーズは暴風雨のようなビーム群を掻い潜り、赤城を追跡する。

 

「美緒、始めるわよ」

 

「ああ、いつでもいいぞ」

 

ミーナと坂本は手を繋ぎ、互いに固有魔法を発動させる。親しい関係にあるウィッチないしウィザードが接触することで、相互の固有魔法が融合させな能力を発揮できる。二人はそれを利用することでウォーロックと赤城の内部構造を解析するつもりだ。

 

「な、何だこれはっ!?……」

 

坂本は驚愕のあまり言葉を失う。彼女の魔眼とミーナの空間把握が浮かび上がらせたのは、赤城の機関部まで移動したウォーロックのコアと、生物の血管のように艦全体へ張り巡らされている光の管だった。

 

「ウォーロックと赤城が融合している。これじゃ手のつけようがないわね」

 

艦がまるごと乗っ取られるという前代未聞の状況に、さすがのミーナも動揺を禁じ得ない。

赤い輝きを放つ管はコアから艦内のあちこちへと延びている。中でもウォーロック本体へ直結する管は異様に太く、毒々しい紫色の光を発している。

 

「だが、やるしかない!」

 

改めて瞳に決意の光を宿した坂本が、語気を強めて己の心情を語り始める。

 

「あれはもうウォーロックでもネウロイでもない、別の存在だ。我々ウィッチーズが止めなければ、誰もあれを止める者はいない!」

 

自分達が――ストライクウィッチーズが、なんともしても止めなければならない。

出来なければ、欧州最後の砦であるブリタニアが、かつて赤城だった目の前の怪物によって蹂躙され、人類はカールスラントやガリアの時のように多くの人命と、反抗の拠点を失うことになる。

優人と芳佳。扶桑からやって来た兄妹は戦友であり、師であり、上官でもある坂本の言葉に対して静かに、だが力強く頷いた。

 

「あっ……来ます!」

 

魔導針で攻撃を察知したサーニャが叫ぶ。すると、漆黒の巨体が咆哮と共に全方位攻撃を開始した。

一個艦隊に匹敵する大火力によって展開されるハリネズミのような弾幕が、ウィザードとウィッチーズに襲いかかる。

 

「ストライクウィッチーズ、全機攻撃態勢に映れ!目標!赤城及びウォーロック!」

 

『了解!』

 

ミーナは、今まで何度も繰り返してきたように凛々しい表情と威厳に満ちた口調で指示を出し、隊員全員がそれに応える。

人類連合軍第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチ』の全戦力と投入した戦いが始まる。

 

「コアは赤城の機関部だ」

 

「外からは破壊できそうにないわね」

 

無数のビームによって形成される弾幕の中、坂本とミーナが赤城の分析を続ける。

 

「内部から辿り着くしか……」

 

「……内部を知っている私が行く!」

 

「えっ!?」

 

シールドがまともに機能しなくなってるにも関わらず、内部への突入を進言する坂本。

そんな無茶をさせられない、行かせる訳には行かないと、ミーナは坂本の右手を握っている己の左手にギュッと力を込める。

 

「シールドを張れないのにどうやってあの弾幕を突破するつもりだ?」

 

無茶なことを言い出す戦友に対し、優人が厳しめな物言いで異を唱える。

 

「優人。お前……」

 

「俺が行く。艦内のことなら、俺にだって分かる」

 

「お兄ちゃん!私も行く!」

 

すかさず芳佳が名乗り出る。

 

「私も行きます!」

 

「わ、私も内部なら多少分かりますわ!」

 

二人が突入すると聞いて、リーネとほんの少しの間ではあったが赤城に乗艦していたペリーヌも内部突入志を願する。

 

「リーネちゃん、ペリーヌさん。ありがとう!」

 

「べっ……別にあなたの為じゃありませんわ!」

 

笑顔で礼を述べる芳佳に対し、ペリーヌはフンと鼻を鳴らした。

ペリーヌの反応を見て、優人は(素直じゃないなぁ……)と心の中で呟きながら笑みを零した。

 

「ペリーヌ、お前がついていてくれれば心強い。新人達のフォローと病み上がりのお守りは頼んだぞ」

 

「え?……は、はいっ!」

 

「…………おい」

 

敬愛する坂本から頼りにされ、ペリーヌは嬉しそうに表情を輝かせる。

一方、歳下のお守り役が必要だと判断された優人は、不満そうに眉を顰める。そんな優人の表情を見た坂本は、口元に薄笑を湛えている。突入を止められたことに対する、ちょっとした仕返しなのかもしれない。

 

「では、その他各員は4人の突入を援護。突破口を開いて」

 

『了解!』

 

作戦を決定し、各員に指示を出すミーナ。それとほぼ同時に上昇していた赤城と、追いかけていたウィッチーズは雲の上へ飛び出した。

 

「攻撃開始!」

 

ミーナから号令が掛かり、ウィッチ達は大海原の如く雲海を航行する赤城に向かって攻撃を仕掛けた。

すかさずビームで弾幕を張る赤城だが、それで怯む者は一人もいない。

 

「他の連中に手柄を残すなよ!」

 

世界一位の撃墜数を誇るバルクホルン。両手にMG42を持ち、赤城を見据えて余裕の笑みを浮かべる。今日の彼女は一段と士気が高い。

相棒であるハルトマンは、そんなバルクホルンを見て悪戯っ子のように笑う。

 

「フフ……いつもより張り切っちゃって♪優人と芳佳に良いところ見せたいの?」

 

「なっ!?……お前というやつは、またそれを!?」

 

またまた宮藤兄妹のことをネタにからかわれたバルクホルンは、本日何度目かの図星な反応を見せる。

 

「先行くよ~♪」

 

「あ、コラッ!」

 

動揺する相方を出し抜くように、ハルトマンは一足先に行動を開始する。

ビーム兵器へと変貌した連装対空砲、対空機銃による迎撃を容易く掻い潜り、赤城に接近する。

 

「シュトルム~ッ!」

 

ハルトマンは自身の固有魔法を発動する。これは『疾風(シュトルム)』という大気を操作する念動系の固有魔法だ。

 

「私の仕事を!」

 

バルクホルンもやや遅れて攻撃を開始する。2挺のMG42から高速で射出された大量の銃弾と、ハルトマンが纏う鎌鼬状の風によって表面の砲座が次々と破壊されていった。

 

「右ダナ」

 

「うん」

 

「上ダナ」

 

「うん」

 

こちらは身体を密着させているエイラとサーニャ。固有魔法『未来予知』の結果をエイラが知らせ、サーニャに回避を指示する。そして回避の後に、サーニャがフリーガーハマーで攻撃する。

大火力のロケット兵器であるサーニャのフリーガーハマーとエイラの『未来予知』を組み合わせ、効率良くダメージを与えていく。

 

「眠くナイカ?」

 

「うん、大丈夫」

 

端的な会話。だが、二人の間には言葉で語る以上に深い絆が確かに存在している。

 

「攻撃が弱まったぞ!」

 

そして、こちらはシャーリーとルッキーニのペア。二人は、赤城が飛行している高度よりもさらに上空から戦場全体を見下ろしていた。

 

「行っちゃう~?パフパフ~♪」

 

と、シャーリーの豊かな胸に己の後頭部を乗せるルッキーニ。

 

「へへへっ♪」

 

スリスリと自分に甘えてくるルッキーニに対し、母親を想わせる優しい眼差しを向けるシャーリー。どんなに緊迫した状況でも、このコンビは明るさを忘れない。

 

「ゴォーッ!」

 

シャーリーはルッキーニを抱えたまま、赤城の艦首へ向かってグライダーのように降下していく。

 

「行っけええええぇ~っ!ルッキーニ~ッ!」

 

艦首部分で固定砲台となっているウォーロックが放つビームを軽々と躱し、ある程度まで接近したシャーリーは固有魔法の『超加速』を発動させ、ルッキーニをウォーロック目掛けて投げ飛ばした。

ボンネヴィル・フラッツにおいて、シャーリーを『クイーン・オブ・スピード』たらしめた『超加速』は、自らを周囲に張り巡らされているシールドごと任意の方向へ引っ張る魔法であるが、仲間のウィッチをカタパルトのように加速させた上で目標へ射出することも可能性なのだ。

 

「あっちょ~っ!」

 

ウォーロックに向かって高速で突進するルッキーニも、自身の固有魔法を発動させる。

ルッキーニの固有魔法は『光熱攻撃』と『多重シールド』。魔法力を冷気に変換する優人との『凍結』とは対照的に熱に変換した魔法力を放出し、重ねて展開した大小様々なシールドの頂点に光熱を持たせる攻撃魔法だ。

その性質上、敵と接触しなければ効果を発揮できないものの威力は絶大で、大型ネウロイの表面装甲を容易に貫通出来る。

シャーリーとの連携によって加速したルッキーニは、自らを必殺の弾丸としてウォーロックが鎮座する艦首へ突撃する。戦艦や大型列車砲も顔負けな破壊力でウォーロックのボディと赤城の艦首を破砕し、大穴を開けた。

 

「ほちゃ~っ!」

 

装甲の破片と水蒸気が漂う白煙の中から、元気いっぱいのルッキーニが飛び出す。彼女は掠り傷一つ負わずに戻ってきたのだ。

 

「優人、芳佳!やっちゃえぇ~っ!」

 

元気いっぱいに声を出すルッキーニ。彼女に促され、突入班である優人達も動き始める。

 

「行くぞ!」

 

「うん!」

 

「「はいっ!」」

 

芳佳、リーネ、ペリーヌの三人娘を指揮する立場にある優人が指示を出す。

赤城の内部へ侵入するため、ルッキーニが開いた突破口へと接近する。しかし、4人が中へ入るよりも先に、破壊された赤城の艦首より無数の小さな影が飛び出してきた。

 

「お兄ちゃん、あれって!?」

 

「ああ、小さいが……ありゃウォーロックだ」

 

艦首に開いた大穴から飛び出してきたのは、飛行形態時のウォーロックに形状が酷似した子機の大編隊だった。

赤城より溢れ出た子機の大群は優人達へ向かって一斉に突撃を敢行する。その姿は、まるで巣を攻撃してきた外敵へ反撃する蜂のようだ。

サイズを鑑みて、ウォーロックほどの戦闘力は無さそうだが、数にものを言わせて攻めてくる子機の相手までしていては、コアを破壊する前に魔法力と弾薬が尽きてしまうだろう。

 

「厄介だな……」

 

優人が13mm機関銃を構えながらぼやく。すると、上空より無数の銃弾が雨のように降り注ぎ、子機供を凪ぎ払った。

上に視線を走らせてみると、それぞれ九九式二号二型改13mm機関銃とMG42を構えた坂本とミーナが、援護射撃を行っていた。

 

「今よ!」

 

「突入しろっ!」

 

「恩に着る!」

 

優人がインカム越しに短くも心からの謝意を伝えると、突入班は再度赤城へ接近、仲間達のサポートのおかげで内部への侵入に成功する。

 

「っ!?隔壁が!」

 

と、ペリーヌが声を上げる。機関部へと急ぐ4人の進路を隔壁が塞いでいたのだ。

 

「リーネ!」

 

優人が振り返り、リーネが叫び返す。

 

「はい!」

 

名を呼ばれただけで、優人が言わんとしていることを理解したリーネは、すかさずボーイズMk.I対装甲ライフルを構え、分厚い隔壁へ魔導弾を撃ち込んだ。

隔壁は破壊され、進路は確保された。突入班は機関部への侵攻を再開するが、宮藤兄妹が通路に入った瞬間に隔壁は再び閉じられてしまう。赤城――いや、ウォーロックの持つ自己修復能力により、隔壁は瞬時に再生されてしまったのだ。

 

「きゃっ!?」

 

「な、なんですの!?」

 

揃って悲鳴を上げるリーネとペリーヌ。二人は咄嗟にブレーキをかけながらシールドを展開する。中々際どかったものの、なんとか隔壁と衝突せずに済んだ。

 

「リーネちゃん!ペリーヌさん!」

 

慌てて引き返した芳佳が、二人の名を叫びながら隔壁を叩く。その背後では優人がインカムを使い、二人に呼び掛けていた。

 

「ペリーヌ、リーネ!無事か!?」

 

『はい!あ、いえ……少々問題が……』

 

優人からの通信を受け、ペリーヌが応答する。

 

「どうした?負傷したのか?」

 

『いいえ、私にもリーネにも怪我はございませんわ。ただ、すぐ合流は出来そうもません』

 

緊張を孕んだペリーヌの声が、インカム越しに伝わってくる。再生の過程でより堅固に強化された隔壁。その向こう側では、ペリーヌとリーネが多数の子機に取り囲まれているのだ。

子機は赤城の内部で無尽蔵に製造されているらしい。艦首から出てきた一群の2、3倍の数が飛行甲板のエレベーターから飛び出し、ウィッチ達は対処に追われていた。

ミーナ・坂本ペアとバルクホルン・ハルトマンペアは各々背中合わせで銃を撃ち続け、シャーリーとルッキーニはエイラと共にフリーガーハマーのロケット弾を撃ち尽くしてしまったサーニャをフォローしている。

 

『お二人は機関部へ向かって下さい。このうるさい蝿共を始末したら、私達もすぐに向かいますわ!』

 

「……わかった。死ぬんじゃないぞ!」

 

ペリーヌの声色から外の様子を察し、優人は一瞬迷った。だが、ウォーロックと融合した赤城を撃破すれば連鎖的に子機も消滅する。コアの破壊こそが、外で戦う仲間達を救う近道と判断し、機関部への再侵攻を決意する。

 

『ご心配には及びませんわ、ガリアを取り戻すまでは死ねませんもの……』

 

口元に笑みを湛えながら告げるペリーヌ。その直後、ブレン軽機関銃Mk.Iの連射音と銃弾でネウロイの装甲が砕かれる音が聞こえてきた。

 

「リーネちゃん、聞こえる!?」

 

今度は芳佳がインカムでリーネを呼び掛ける。

 

『なぁに?』

 

ボーイズライフルの発砲音と共に、リーネの声が返ってくる。

 

「頑張って!私とお兄ちゃんも頑張るから!」

 

『うん!芳佳ちゃん、気を付けてね!』

 

芳佳を不安にさせないためだろう。危機的状況にも関わらず、リーネの口調は普段通りの穏やかで優しげなものだった。

 

「芳佳、いくぞ!」

 

「はいっ!」

 

コアが存在する機関部へ向け、宮藤兄妹は侵攻を再開する。当然ながら、その道のりは決して楽ではなかった。

距離自体はそう長くなく、ストライカーユニットを装備したウィッチ・ウィザードならば、機関部までひとっ飛び出来る。しかし、通路の壁に設置された小型の固定砲台による奇襲や内部の残っていた子機の待ち伏せによって侵攻を阻まれる。

奥に進むほど激しさを増していく敵側の抵抗で機関部まで距離が実際のものよりも遠く感じる。だが、諦めない。本作戦の成否は、扶桑からやって来た宮藤兄妹の働き如何にかかっている。

優人と芳佳は弾薬の消耗を最小限に抑えるため、銃は子機のみに使用し、砲台が放つビームはシールド展開してやり過ごした。

 

「漸く着いたな」

 

やがて、二人は機関室前の通路まで到達する。またしても隔壁が通路を塞いでいるが、おそらくこれが最後の障害だろう。

優人は隔壁に向かって13mm機関銃を構え、引き金を引いた。リベリオンで開発・採用されている重機関銃――ブローニングM2と共通の12.7mm×99弾を、弾倉が空になるまで撃ち込んだ。

 

「ダメだ……ビクともしない」

 

威力も弾数が足りておらず、隔壁に弾痕を残す程度で破壊には至らない。

 

「そんなっ!」

 

芳佳が悲痛な声を上げる。コアの存在する機関部が――自分達ウィッチーズの勝利が目前まで迫っているというのに、あと一歩届かない。

 

「…………」

 

「……お兄ちゃん?」

 

落ち込む芳佳の頭をポンと叩くと、優人は隔壁の前まで進み出る。

 

「なんだか、ずいぶん久しぶりに使う気がするな……」

 

優人は苦笑しながら呟くと、そっと隔壁に右手を着いた。すると、優人の身体が青く輝き始めた。

 

「凍てつけっ!」

 

叫び声と共に、優人の右手から冷気が発せられる。彼の固有魔法『凍結』だ。機関部へと続く隔壁が一瞬にして芯まで凍りつき、それに伴い強度も大幅に低下する。

次に優人は13mm機関銃を鈍器代わりに使用し、銃床で凍てついた隔壁を叩き割る。これで機関室内への侵入が可能になった。

 

「あっ……」

 

「お、おいおい……」

 

赤城の機関部――正解に言えば、機関室だった区間へ乗り込んだ二人は固唾を飲んだ。

機関室内部は今まで通ってきた通路とは違い、原型を保っていなかった。ドーム状の広い空間に、内壁は外側と同様に黒地のハニカム構造に覆われている。中心には赤城を侵食したウォーロックのコアが、恐ろしく肥大化した状態で脈動している。

これほどまでに巨大なコア。戦闘経験の浅い芳佳はもちろん、何年も前からネウロイと戦ってきた優人ですら見たことがない。しかも、今の二人は眼前のコアを破壊可能な武器を持っていない。

 

「やるしかないか……」

 

優人は護身用に所持していた十四年式拳銃をホルスターから引き抜く。装填してある全ての銃弾に魔力を込めると、コアを狙って引き金を引いた。

 

バァン!バァン!バァン!

 

射出された9つの銃弾が、ほぼ同じ箇所に命中する。しかし、通常のコアならいざ知らず。威力の低い8mm南部弾では小さなヒビを入れるのが精一杯で、巨大化したコアを破壊することは叶わなかった。

 

「っ!?……クソッ!」

 

優人は悔しさのあまり歯噛みする。仲間達が――ウィッチーズが自分達兄妹を全力でサポートしてくれた。自分達を信じて、コア破壊という重要な役割を任せてくれた。だが、出来ない。

元々、怪我の完治や魔法力の回復が不完全な状態でここまで戦ってきた優人だ。ここまででかなり消耗しており、奥の手である『絶対凍結』は当然として、もう一度『凍結』を使用するだけの魔法力も残っていない。

 

(もう、何も出来ないの?)

 

優人と同じ心境で唇を噛む芳佳。ここへ到着する直前に弾薬をすべて使い果たしてしまった彼女にも、コアを破壊することは出来ない。

 

「…………そうだ!」

 

何かを閃いたらしい芳佳は、ハッと顔を上げるとコアの方へ近付いていった。

 

「芳佳?」

 

優人も怪訝そうな面持ちで芳佳の後に続く。

 

「お兄ちゃん、私を支えて」

 

「さ、支え?」

 

「お願い!」

 

「あ、ああ……わかった」

 

理由も説明されずに「支えて」とだけ言われ、優人は何をどうすれば良いのかわからなかった。当惑しながらも芳佳の背後に回り、腕を伸ばして後ろから抱き締める形で妹を支えた。

 

「あっ!……」

 

ギュッと抱き締められた芳佳の身体がビクッと跳ね上がる。

 

「こ、これでいいか?」

 

「…………うん、大丈夫」

 

予想とは違っていた兄の支え方に、軽く戸惑いを覚えた妹は頬をほんのりと赤く染める。同時に胸を幸福で満たしてくれるような温もりと安らぎも感じていた。

優人の両腕にしっかりと支えられた芳佳は、ストライカーユニットのプロペラを一旦止め、逆方向に回転させ始めた。

 

「ありがとう」

 

ふと呟かれる謝意の言葉。それは今まで自分の箒として共に空を駆け、共にネウロイと戦ってくれたストライカーユニット――豆柴のパーソナルマークが描かれた零式艦上戦闘脚に向けられたものだった。

主からお礼の言葉を賜った零式は、スルッと芳佳の足から脱げ落ちていく。弾頭のように撃ち出されたストライカーユニットの直撃を受け、コアは粉々に弾け飛んだ。




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