晩刻、ブリタニア・ワイト島方面上空――
宝石を散りばめたかのように無数の星々が輝くブリタニアの夜空を、二つの機影が並んで飛行していた。
静けさに支配された満天にストライカーユニット二機分の魔導エンジン音を響かせているのは、二人連れのウィッチとウィザード。王立ファラウェイランド空軍のウィルマ・ビショップ軍曹に、扶桑皇国海軍遣欧艦隊の宮藤優人大尉である。
「~♪」
ブラウンの長い髪を風に靡かせ、ご機嫌そうに鼻歌を口ずさむウィルマは下方へ背を向けて芝生で寝っ転がるような体勢で飛んでいる。完全に遊覧飛行気分だ。
ガリアの巣が消滅して以降もブリタニア空軍や連盟空軍隷下の部隊が残存ネウロイへの警戒は続けているが、領空内にネウロイが姿を現すことはなく穏やかなものであった。
昼間はもちろん、夜間の空襲に見舞われる心配もなくなり、ブリタニアの人々は枕を高くして眠ることが出来るようになった。
「…………」
一方、ウィルマのすぐ隣を飛行している優人は少し前から無言のままであった。その瞳は瞬きすることすら忘れ、ある一点をジッと捉えて離さない。
(やっぱ、すごいな。リーネも大きいし、ビショップ家の女の人はみんな胸がデカイのか?)
リーネと同等か。或いは彼女以上に大きく豊かなに育ったウィルマの胸を凝視し、優人は固唾を呑む。
ファラウェイランド空軍の制服に包まれながら、服に使用されている布地が薄っぺらく思えるほどの巨乳。持ち主であるウィルマが胸部を上向きにしていることもあり、まるで屹立した山のようだ。
ここまでのボディの持ち主は扶桑ウィッチには中々いない。リバウにいた頃の優人の後輩で、今や第502統合戦闘航空団の一員である下原定子少尉も扶桑ウィッチの中ではかなり大きめだったが、彼女は着痩せするタイプなので制服を着てしまえば殆んど目立たなかった。
「?」
ふとウィルマが優人の視線に気付く。話掛けようともせずにしげしげと自分を見ている優人を、ウィルマは不思議そうな顔で彼を見つめ返す。
やがて、優人が自分の身体のどこへ視線を向けていたのかを理解すると、彼女はニィと唇を綻ばせた。
「エッチ♪」
頬を軽く染め上げたウィルマは一言告げると、両腕で庇うように胸を覆った。
恥ずかしがっているにしてはわざとらしさ全開のリアクションだったが、優人はハッとなり慌てて弁明を始める。
「あ、いや……。べ、別に胸を見ていたわけじゃ――」
「なら、どこを見ていたのかしら?」
ローリングして優人に近付いたウィルマはニヤニヤと悪戯な笑みで問い掛ける。
「せ、制服を」
「制服?」
「お前の来ている。その……ファラウェイランド、空軍の制服が、格好いいなぁ……って」
優人はなんとか誤魔化そうとする。しかし、彼の物言いは歯切れが悪く、目も泳いでいるので嘘だというのがバレバレである。
「ふ~ん?」
口元に笑みを湛えたまま怪訝そうに目を細めたウィルマは、次にズイッと優人に顔を寄せる。
リーネと似て整った顔立ち、妹と同じ色の髪と瞳を持つ美女がフワッと甘い香りを発しながら眼前まで迫る。優人は頬をポッと紅潮させ、ドキッと胸を鳴らす。
「本当は……」
ウィルマは腕を組むと、自慢の胸を強調するようにして優人の眼前へ持ち上げる。
「こっちを見てたんでしょ?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……はい、見てました。すみません」
笑顔で迫られ、圧力に屈した優人は両手の平をウィルマへ向けるようにして上げる。
「うん、正直でよろしい!」
降参した優人の態度に、ウィルマ満足気そうに微笑んだ。白状した優人はばつが悪そうにウィルマから目を逸らす。
「気にしないで。年頃の男の子なんだし、女性に興味を持つのは健全なことよ?」
やんわりとフォローしつつ、ウィルマは健全で健康な扶桑海軍大尉に一つだけ忠告する。
「け・ど。女の子は皆そういうエッチな視線に敏感なんだから、気を付けないと……」
と、ウィルマはツンツンと右の人差し指で優人の唇を軽く突っついた。
「気を付けます」
優人がばつが悪そうな顔をして応じると、ウィルマはクスクスと小さく笑い、再びローリングして優人から離れていった。
無意識にウィッチの胸を凝視する彼の悪癖は大戦初期のリバウ航空隊時代から指摘され続けている。優人自身「どうにかして直さないと」と思い、彼なりに努力はしているのだが、男の性故か一向に改善される気配がない。また、彼は天性のラッキースケベの持ち主でもあるため女性と、とりわけウィッチと関わった際に度々破廉恥なトラブルが起きてしまう。
それでも彼を本気で怖がったり嫌ったりする人間が現れないあたり、優人自身が生まれながらに持ち合わせている人徳とカリスマ性のおかげ……なのかもしれないが、真偽は不明である。
「そう言えば……」
しばらく間を置いて、ウィルマは別の話題を切り出した。
「あなたって、坂本少佐とは古い仲なのよね?」
「まぁ、ウィザード候補生時代からの付き合いだからな。かれこれ8年になるよ」
優人はウィルマに語りながら、ウィザード候補生時代を過ごした舞鶴での日々を思い出していた。
海軍入隊を決意した優人はそれまで通っていた横須賀の小学校から舞鶴海軍付属小学校へ編入し、舞鶴近郊の講導館道場剣道師範代兼舞鶴海軍航空隊所属ウィッチである北郷章香少佐の師事を受けるようになった。その時の同期が現在エースウィッチとして世界に名を馳せている坂本美緒、竹井醇子、若本徹子の三人だったのだ。
あの頃はまさか自分がエース部隊である統合戦闘航空団に招聘されたり、妹と肩を並べてネウロイと戦うことになるなんて思いもしなかった。
「ねぇ訊いてもいい?坂本少佐とのな・れ・そ・め」
と、訊ねるウィルマは先ほどと同じく悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「は?」
対する優人は気の抜けた声を漏らしてポカンとしている。
「隠さなくてもいいじゃない。少佐とはどこまで進んでいるのかしら?」
「あのな、坂本とはそういった関係じゃないよ」
何か勘違いをしているらしいウィルマに、優人は誤解だと反論する。
優人にとって坂本はあくまで付き合いの長い友人であり、彼女に対し特別な感情は抱いていない。
「えっ、そうなの?」
恋話を期待していたのだろう。ウィルマは少しばかり拍子抜けする。
ウィッチといっても年頃の女性。恋愛話に関心を持つところは一般の少女となんら変わらない。
「一体どこでそんな話を?」
「私は前にいた部隊で、ブリタニアのウィッチ隊では有名な話よ。扶桑のウィザードとウィッチのカップルって……」
「おいおい……」
優人は肩を竦める。どうやら彼の知らないところで根も葉もない噂の広まっているらしい。
確かに、世界的にも著名なウィッチとウィザードが長年行動を共にしていれば興味本位でそういった憶測をする者が現れてもおかしくはない。
「他にも、バルクホルン大尉やイェーガー大尉を巻き込んだ四角関係の話とか。あなたが502のクルピンスキー中尉やロスマン曹長を誑し込む目的でホテルに連れ込んだとか……」
「おいおいおいおい!何だよそれ!?」
タチの悪いゴシップ雑誌にでも載せられているような尾ひれ背びれ付きまくりの噂話に、優人は思わず声を張り上げた。彼はすかさず弁解を始める。
「バルクホルンもシャーリーも良い友達ってだけだし!ロスマン曹長やクルピンスキーとは偶々泊まったホテルが一緒だっただけで、疚しいことなんて何もないよ!」
優人が見せた狼狽えっぷりは凄まじく、とてもガリアを解放した英雄である501の一員とは思えないほどであった。
「落ち着いて。大丈夫よ、分かっているから」
言い募る優人を落ち着かせようと両手で制しながら、ウィルマは苦笑する。
「ちなみに、その噂はどこまで?」
「かなり広まっているわね。私はロンドンにいた時に食堂のおばちゃんから聞いたわ」
「悪夢だ」
事実無根の噂がかなり広範囲にまで広まっている現実に、優人は辟易する。人の口に戸は立てられないとはよく言ったものだ。
「まぁまぁ、扶桑では人の噂も75日って言うじゃない?」
「75日で消えるかな……」
優人は溜め息を吐くと、やや虚ろ気味な瞳を何気無しに上方へ向ける。星の輝いていた美しい夜空が暗雲に覆われているのが見えた。
「なんだか、一雨来そうね」
優人につられて上空に視線を移したウィルマがポツリと呟く。優人は「そうだな」と短く返し、一呼吸置いてから言葉を続けた。
◇ ◇ ◇
同時刻、第501統合戦闘航空団基地――
ワイト島基地と同様に、501部隊の面々も既に夕食を終えていた。
騒がしいほどに賑やかな食事時が過ぎ去り、閑散とした食堂内には、厨房から漏れ聞こえる食器洗いの水音のみが響いていた。
「はぁ~……」
厨房内では、食事当番である芳佳がリーネと並ぶようにして洗い場立っている。食器を洗っている手を動かしながら、彼女は本日何度目かの深い溜め息を漏らす。
「芳佳ちゃん、大丈夫?」
「へっ?何が?」
ふとリーネから声を掛けられる。質問の意味がよく理解出来なかった芳佳は、答えの代わりに間の抜けた声を返した。
「なんだか元気無さそうだし、夕方から溜め息ばっかり吐いてるよ?」
「えっ?……そ、そうだったかな?」
どうやら無自覚だったらしい。リーネに指摘されたことで、芳佳は初めて自身の溜め息の多さと活力のなさに気が付いたのだった。
「やっぱり、優人さんがいないと寂しい?」
「ふぇっ!?な、何でお兄ちゃんが出てくるの?」
図星を突かれた芳佳が分かりやすい動揺を見せると、リーネは優しく微笑み返しながら説明する。
「ふふ。何でって、夕食中ずっと優人さんの席を寂しそうにチラチラ見てたんだもん。それくらいわかるよ?」
「あぅ……」
リーネは意外と観察力が高い。それ故に、他の面々が見落とすような芳佳のちょっとした仕草も見逃さなかったのだ。
兄恋しく思っている自らの心内は見透かされた芳佳は、恥ずかしさのあまり顔から火が出そうだった。
「――ッ!?」
突如、芳佳はハッとなって目を見開く。かと思えば背後へ振り返り、カウンター越しに食堂内をキョロキョロと見回した。
「どうしたの?」
「あ、ごめん」
芳佳はリーネに一言詫びると、視線を正面へ戻して食器洗いを再開した。
「お兄ちゃんが、話を聞いてるのかと思って……」
「そう言えば優人さんって、私達がお話してるといつの間にか後ろに立ってたりするよね?」
「うん、足音は聞こえないのにね」
思い出したように言うリーネに苦笑混じりに頷くと、芳佳は再び手を止め、チラッとカウンターに目を向けた。
カウンターには一人分の食事が載せられたトレイが残されている。優人の分の夕食だ。
食事当番の二人が、優人の留守をうっかり忘れていたために一人分多く作ってしまっていたのだ。
(お兄ちゃん、しばらく帰って来ないんだよね)
赤面していた芳佳の表情が、残された食事を見たことで再び陰り始める。
兄がいないのはたったの数日。8年間会えなかったことに比べれば大した時間ではない。ほんの少し、ほんの少しだけ我慢すればいい。だが、芳佳は早くも心細さを感じていた。
「芳佳ちゃん……」
親友の寂しげな横顔を見つめるリーネもまた、心配そうに表情を曇らせる。何か芳佳を元気づける良い方法はないか、とすぐさま考えを巡らせた。
(……そうだ!)
名案を思い付いたのか、リーネは心中で呟きながら軽く握った右手で左手の平をポンッと叩いた。
「ああ、芳佳さんここにいたのね」
食事の方から歌手を連想させる澄んだ声が聞こえ、二人の耳朶を打った。振り返ると、大きめの茶色封い筒を抱えたミーナがカウンターの向こうに立っていた。
「ミーナ中佐、何かご用ですか?」
芳佳は手に付いた洗剤の泡を水で洗い流すと、ハンドタオルで手を吹きながらトトトッとミーナの元へ駆け寄る。
「これ、今日届いたあなたのお兄ちゃん宛ての荷物なんだけど……」
ミーナは封筒を芳佳に差し出した。
「受け取る前に出発しちゃったみたいなの。申し訳ないのだけれど、預かってて貰えるかしら?」
「あ、はい。わたりました」
二つ返事で了承すると、芳佳は封筒を受け取った。封筒越しに手で中身を軽く探ってみる。どうやら中には雑誌が2、3冊入っているらしい。
「じゃあ、お願いね」
ミーナは一度だけ念を押すと、踵を返して食堂から去っていった。
「何だろう?」
渡された封筒を見つめる芳佳は、独り言ちながら首を傾げた。
◇ ◇ ◇
再び、ワイト島方面―
優人とウィルマの予想通り、程無くして月夜の空を覆った黒雲の群れから雨を降らせ始めた。
降り初めはポツポツと落ちる程度だった雨足は段々と強くなり、やがて大粒の雨を伴う本格的な降りへと変化した。
「酷い雨だな」
雨水を全身で浴びた優人が堪らずぼやいた。今朝、洗濯したばかりの第一種軍装はあっという間にびしょ濡れ状態となり、シャツにまで滲み出していた。
「あぁ~、もうびしょびしょ~!」
雨音に混じって不快そうなウィルマの声が聞こえ、チラッと彼女がいる隣へ目をやる。
「――っ!?」
大丈夫か?、と声を掛けようとしていた優人だったが、視界に飛び込んできたウィルマの姿を見て反射的に言葉を呑み込んだ。
ウィルマの着ている制服が、ジャケットと下に身に付けているシャツが雨水に晒されて身体にピッチリと張り付き、透けるほどに濡れていたのだ。
白い下着と色白な肌が浮かび上がり、水分を含んで額に張り付いている前髪を鬱陶しそうに払うウィルマを扇情的に見せていた。
(はっ!……いかんいかん!)
しばらくは悩ましい姿となったウィルマを茫然と見つめていた優人だが、ハッと我に還ると大慌ててで彼女から視線を逸らし、正面へ向き直る。
入浴時に不幸(?)にもウィルマ達の一糸纏わぬ肢体を目にしてしまっていた優人。しかし、今の彼女は全裸姿よりよっぽど刺激的な格好となってしまっている。
「これ以上酷くなる前に基地に戻ろう!」
優人は進行方向を見つめたまま、シャツが透けていることに気付いていないであろうウィルマに声を掛ける。
「そうね。このままじゃ風邪引いちゃうわ……くしゅん!」
返事の後に可愛らしいくしゃみが聞こえた。大量の雨水に浴びて身体が冷えてしまっているのだろう。夏などいうのに雨のせいで気温も下がってきている。
夕食前。ワイト島の温泉に浸かって身体を温めて癒したというのに、この様子では基地に戻ったらすぐにでも入り直さなくてはならない。
「うぅ……寒い……」
「じゃあ、基地に引き返……」
引き返そう、と言おうとしていた優人がまた言葉を止める。だが先ほどとは違って、今度はずいぶんと真剣な表情をしている。
その双眸は雨が降り注いでいる前方の景色を捉えたまま瞬き一つしない。
「どうしたの?」
雰囲気が変わった優人から何かを感じ取ったのか。ウィルマもまた、彼に真剣な眼差しを向ける。
「前に何かいる」
「えっ?」
優人にそう告げられ、ウィルマも正面へと視線を走らせる。
直後、遠方で赤い光が煌めいた。その光は暗闇に支配された夜空を赤ランプのように照らしながら一直線に伸び、一瞬で優人とウィルマの間を通り過ぎていった。
赤い光の正体はネウロイのビームだ。突然の奇襲を受けた二人の背筋に緊張が走る。
「ネウロイッ!?」
ウィルマは背負っていたブレン軽機関銃Mk.Iを手に取った。
「やっぱり残党が残っていたか!」
優人も九九式二号二型改13mm機関銃を手に取り、安全装置を外した。
間も無く、ビームを撃ってきたネウロイは二人が視認出来る距離まで近付いてきた。優人とウィルマは足を止め、ホバリングしながら銃を構える。
「中型か?」
優人は照準器越しに敵機を見定める。現れたネウロイの大きさは人類側の航空機程度で、小型に比べれば巨体だが大型には及ばない。連合軍内の規程では中型に分類されるサイズである。
ネウロイはビームを放ちながら速度を緩めず二人へと接近し続けている。優人は頭を戦闘モードに切り替え、すかさずウィルマに支持を出した。
「左右から挟撃を仕掛けよう!俺は右から行くから、ウィルマは左を頼む!」
「了解!お姉さんに任せなさい!」
と、ウィルマは笑顔とサムズアップで応じる。
「頼りにしてる!」
「それはお互い様よ?ガリア解放の英雄さん♪」
そう言ってウインクすると、ウィルマはスピットファイアMk.IIの魔導エンジンを吹かしてネウロイへ接近していった。遅れを取るまいと、優人もインカムを使ってワイト島へ一報入れるとすぐさま行動に出た。
まずウィルマがネウロイの左舷側へ攻撃を仕掛けた。ブレン軽機関銃より射出された303ブリティッシュ弾が、ネウロイの装甲に叩き込まれる。
次にネウロイの注意がウィルマへ集中した隙を突き、右舷より仕掛けた優人が九九式二号二型改13mm機関銃を発砲する。303ブリティッシュ弾よりもさらに強力な12.7mm×99弾が多数命中し、そのうちの何発かはネウロイの表面装甲を抉った。
一撃離脱戦法で交互に攻撃を行い、自分達の身を守りつつ確実にダメージを与えていく優人とウィルマ。対してネウロイは自棄になったかのようにやたらめったらビームを撃ってくる。が、二人には当たらない。
(しなやかだ。機体に負担を掛けすぎない機動、さすがはリーネの姉さん。長いキャリアに恥じない飛行技術だ)
(まったく無駄のない、それでいて綺麗な動き。射撃もかなり正確だし、さすがは世界的エースウィザードね)
心の中でお互いを褒め称える優人とウィルマ。雨と暗闇で視界の悪い中でも二人は問題なく連携を取っているあたり、ロッテの相性は悪くないのかもしれない。
「よし!押してる!」
『これなら、すぐお風呂に入れそうね!』
距離が離れ、雨音で声もよく聞き取れないため二人はインカムで会話を行う。
夜の闇を切り裂いたビームの初撃には、少しヒヤッとしたものの。落ち着いてみれば、501以前より散々戦ってきた大型の個体ほど戦闘力は無さそうである。
悪天候下での戦闘が長引かずに済むことを確信し、優人は安堵する。しかし、その予想はすぐに裏切られることとなる。
『きゃあっ!!』
インカム越しに聞こえたウィルマの叫び声が優人の耳に突き刺さった。
「ウィルマ!?」
優人は反射的にウィルマの方へと視線を走らせる。すると右腕を負傷し、苦痛で表情を歪めているウィルマの姿が確認できた。
「ウィルマ、怪我したのか!?」
『あはは……ごめんなさい。銃落としちゃった』
出血した右腕を左手で押さえながら、ウィルマは苦笑気味の笑顔を向けてくる。
「早く離脱しろ!後は俺が!」
と、心配そうに声を張り上げながらも優人は脳裏に疑問符を浮かべていた。
ウィルマのようにな腕の立つウィッチが、この程度のネウロイ相手に負傷したことがどうも引っ掛かったのだ。
雨水が目に入りでもしたのか、ユニットの不調か等いろいろな考えが優人の頭を過る中、ふとウィルマが坂本と同じく自分よりも一つ歳上だということを思い出した。
(まさか!?……)
ある可能性に優人が気付き、ウィルマに確認しようとした。その時だった。
ネウロイは怪我をして弱っているウィルマに集中砲火を浴びせ始めた。ウィルマは咄嗟にシールドを展開して身を守ろうとする。
例によってネウロイは出鱈目に撃っているだけで殆ど当たっていなかったが、放たれた多数のビームのうち直撃コースにあった二発がシールドに接触する。ビームは何事もなかったかのようにシールドを突き抜け、ウィルマのストライカーユニットを掠めた。
「あっ!……きゃああああぁ!!」
ネウロイの攻撃が両足のユニットに被弾、持ち主の悲鳴と共に機体から爆煙が上がる。飛行手段を失ったウィルマは重力に引かれるままに落ちていった。
「ウィルマッ!この野郎ぉおおおお!」
ウィルマが撃墜され、憤慨した優人は13mm機関銃のフルート射撃による報復を見舞った。
僚機をやられて怒り狂いながらも優人の思考は比較的冷静だった。彼の射撃がまだ攻撃を加えておらず、コアが隠れている可能性が高い機首部分のみに集中しているのが何よりの証拠である。
(落ち着け……こんな時だからこそ冷静になるんだ!)
怒りに任せて乱射し、弾切れや魔法力を起こしてしまえばネウロイを倒すことが出来なくなる。そして、ネウロイがいたままではウィルマも救助も行えない。
とはいっても、やはり焦りを感じているのだろう。優人はそんな自分を必死に宥め、一刻も早くネウロイを倒そうとする。
やがて、優人の集中攻撃を受けたネウロイの機首は砕け、コアが姿を現す。優人は攻撃の手を緩めず一気にコアを破壊、ネウロイは後片付もなく四散した。
「――ッ!?」
ネウロイ消滅時に発せられる光によって一瞬だが夜の闇が払われ、優人は眼下の海上にある小さな島に気付いた。
ワイト島よりもさらに小さいであろうその島から小さな黒煙が上がっているのが見えた。おそらくは、ウィルマのスピットファイアのものだ。
「はぁはぁ……ウィルマ!!」
少しだけ息を整えた優人は、出来たばかり友人の無事を祈りながら自身の真下に屹立している島を目指して急降下していった。
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