ストライクウィッチーズ 扶桑の兄妹 改訂版   作:u-ya

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ワイト島編の最終回です。


最近はラッキースケベや天然ジゴロばかり。優人のシスコン属性を忘れていたことに今さら気付きました。


第8話「ゾ~ウさん♪ゾ~ウさん♪パ~パより大きいね♪」

早朝、ブリタニア・ワイト島分遣隊基地――

 

第501統合戦闘航空団の宮藤優人大尉が、ワイト島のウィッチーズ基地へ出向という名目の療養生活を始めて4日が過ぎていた。

今朝も彼は朝風呂上がり。制服への着替えは既に脱衣所で済ませ、扶桑海軍の第二種軍装でビシッと決めている。

 

(もう……大丈夫かな?)

 

基地宿舎の廊下を歩いている優人は、自身の胸に触れてみる。

島の温泉には、まだ数えるほどしか浸かってはいないが、湯の効能はハッキリと現れていた。予期せぬネウロイとの遭遇戦が二回ほどあり、その両方で彼は全開戦闘を行った。しかし、胸の傷は悪化することなく完治し、悩みの種であった痛みもまるで嘘だったかのように無くなっている。ロフティング医師から渡された痛み止めの錠剤はもう必要無さそうだ。

 

(そろそろ、御暇しないとだな……)

 

傷が癒えた以上、ここにいる必要はない。ならば一両日にワイト島を発ち、帰還した501基地で他の隊員と同様総司令部から下される次の命令を待たなければならない。

もう怪我のことで妹や親友、501のウィッチ達に心配をかけなくて済む。それは大変喜ばしいことではあるが、せっかく知り合ったワイト島分遣隊の面々と別れなければならない。特に余暇を利用して射撃や料理を教えたアメリーやフランのことを思うと、寂しいものがある。

 

「おはよぉ~♪」

 

ふと廊下の奥からウィルマが姿を見せた。ニッコリと形の良い唇で曲線を描きながら、優人の向かってヒラヒラと手を振っている。

寝起きでまだ着替えていないのか。彼女は今、寝間着として使っている黒のタンクトップに身を包んでいる。遭難時の下着姿や風呂場で鉢合わせした時の全裸姿に比べて刺激は大分弱いものの、軍の制服と比較すると肌色の面積はやはり多い。

胸元からは谷間が僅かに顔を出し、生地も薄いため持ち主のボディライン。特に胸部を隠しきれていない。しかもウィルマはこのタンクトップを着る際はノーブラなのである。ウィルマが足を一歩進める度に、人の頭ほどもある乳房がタンクトップから零れるそうなくらいに揺れる。

 

「お……おはよう」

 

軽く手を上げ、優人も挨拶を返す。しかし、やはりというか。彼の視線は一瞬だけウィルマを捉えると、すぐさま胸部へ移っていった。

 

「今日も朝風呂?」

 

ウィルマは優人が小脇に抱えている桶――中にはタオルや石鹸が入っている――に目を向けながら訊ねる。

 

「ああ」

 

「残念ねぇ……もう少し早く起きていれば大尉殿に“御一緒”出来たのに♪」

 

「ご、御一緒って……お前……」

 

ニヤニヤと悪戯っぽく笑うウィルマに、優人は少しばかりたじろぐ。

ワイト島基地において、ウィルマによる優人へのからかいは最早習慣と成りつつある。冗談だと思いつつも、優人は心の何処かでウィルマに“御一緒”してもらうことを期待してしまっていた。

 

「ところで、あなた海は好き?」

 

ウィルマが強引に話題を変えてきた。あまりに唐突な質問をされた優人は眉を寄せて訝しがる。

 

「何だ急に?」

 

「いいからいいから♪好き?」

 

ズイッと優人に顔を近付け、ウィルマは重ねて訊く。成人に達した大人の女性の甘い香りが鼻腔を駆け抜け、優人の心臓をトクンと高鳴らせた。

 

「まぁ、嫌いではないけど……」

 

「そ?良かった」

 

「何で、そんなこと訊くんだ?」

 

「ふふ、それはね……」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

数時間後、ワイト島南部海岸――

 

「海だぁ~っ!」

 

砂浜全体に歓喜の叫び声が響き渡る。声の主は、いつものリベリオン陸軍の制服から自前の水着に着替えたフランことフランシー・ジェラード少尉である。

彼女の左右には同じく水着に着替えたワイト島分遣隊のウィッチ達。後ろには赤白二色のパラソルを担いだ優人がついて来ている。もちろん、彼も水着だ。

 

「何で海水浴?」

 

適当な場所にパラソルを立てながら、優人は疑問を口にする。

よもや海水浴に参加するとは思っていなかった優人は水着を用意していない。なので、角丸がどこからか調達してきたサーフズボンを借りて履いている。

おそらくは基地の整備兵ないし他の基地要員の私物を拝借したのだろうが、サイズが合わない。ずり落ちないよう腰回りを紐で縛っている。

 

「今朝説明したでしょ?あなたとの思い出作りよ、思い出作り♪」

 

右目でウインクしながら答えたのは、ホルターネックの白ビキニに身を包んだウィルマだった。

トップは胸元と背中、ボトムは両サイドを縛っているセクシーなデザインが彼女のスタイルの良さを際立たせている。

 

「大尉はそろそろ501へお戻りになることでしょうから、その前に送別会の一環として海水浴をしようと思いまして……」

 

と、説明を補足したのは扶桑ではお馴染みである紺色の水練着を身に纏った角丸だった。

扶桑の水練着はウィルマの着ているビキニに比べて地味な印象を受けるが、むしろその地味な水着がウィルマに勝るとも劣らぬ角丸の見事なプロポーションを引き立てていた。

 

「そういうことな……」

 

「ご迷惑でしたか?」

 

「いやいや、気を遣わせたみたいで申し訳ないな」

 

顔の前で軽く両手を振りつつ、優人は角丸に謝意を述べる。

 

「そうよねぇ!水着美女に囲まれての海水浴に誘われて、迷惑なはずないわよねぇ?」

 

パラソルに下に敷いたレジャーシートに腰を降ろしている優人に向かって、ウィルマがズイッと身を寄せてきた。白いビキニトップに包まれた大きな乳房が眼前でアップになる。あまりの迫力に、優人はゴクリと音を立てて唾を飲んだ。

 

「ちょっと、視線がやらしいんだけど?」

 

ウィルマの背後からフランが顔を出し、眼前の双丘を凝視する優人をジト目で見据えている。

フランの数歩後ろにはアメリーもいる。逡巡したように2、3度左右に視線を泳がせた後、彼女は小走りで優人の元へ駆け寄った。

 

「ゆ、優人さん!」

 

1メートルも離れていない至近距離にも関わらず、アメリーは必要以上に大きな声を飛ばす。なにやら緊張しているらしく、声が裏返ってしまっていた。

 

「ん?」

 

「そのっ!……どうでしょうか?」

 

「どう、って?」

 

「アメリーは、あなたに自分の水着姿の感想を訊いてるのよ」

 

頭上でクエスチョンマークを躍らせている鈍い上官殿に、ウィルマが小声で耳打ちする。一方、アメリーは頬を染め上げ、後ろ手を組んでモジモジしながら優人の返事を待っていた。

アメリーが着ているのは、胸元に小さなリボンをあしらったコバルトブルーのワンピースタイプ。彼女のイメージに合った清楚で可愛らしデザインの水着である。

 

「うん、とても似合ってる。可愛いよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

優人に褒められたことが嬉しい反面、照れ臭いものがあるのか。アメリーは頬だけでなく顔全体を真っ赤にして、気恥ずかしそうに目を伏せる。

 

「ねぇ、あたしは?」

 

「大尉、私はどうですか?」

 

優人とアメリーの間にフランとラウラが割り込んできた。彼女も自分達の水着姿の感想が聞きたいらしい。

 

「おやおやぁ♪モテますなぁ、大尉殿♪」

 

ウィルマが口角を吊り上げ、ニヒヒと楽し気な笑みを浮かべる。その間もフランとラウラは優人の顔をジッと見つめ、視線の圧力で言葉を促す。

ラウラが着ているのは、明るい紫色の布地で作られたバンドゥビキニである。ウィルマの白ビキニよりも布の面積が少なめなセクシーなデザインの水着は、持ち主の豊満ボディを際どいながらも美しく魅せている。

私生活ではズボン一枚の格好で昼寝したりと、だらしない印象を受けるが、彼女も女性だ。意外と自分を美しく見せることに気を遣っているのかもしれない。他にサイズが合うものがなかったのかもしれないが……。

一方、フランが着ているのはトップとボトムのフロントをスナップボタンで留めたタンキニ風のビキニ。ボトムこそビキニ風だが、トップはブラよりもタンクトップに近い露出度控えめなものを着けている。

成長途中の幼児体型なこともあって――フランもアメリーも15歳にしてはスタイルは良い方だが、年長の三人の発育が良過ぎるせいで目立たない――ラウラやウィルマほど大胆な印象は受けない。

 

「も、もちろん二人共素敵だよ」

 

「ふふ~ん♪あったり前でしょ!」

 

満足そうに鼻を鳴らしたフランは、両手を腰に当てて王立ちのポーズを取った。

 

「あたしのセクシーな水着姿を見せてあげたんだから、感謝しなさいよ!」

 

「そ、そうだな」

 

無い胸――もしかしたらワイト島分遣隊内ではアメリーを下回って最下位かもしれない――を張りながら、誇らし気な表情で嘯く。そんなフランに対して、優人は苦笑を禁じ得ない。

 

「~♪」

 

ふと小気味良い鼻唄が、優人の耳朶を擽る。聞こえた方へ目をやると、両手を頭の後ろで組んだラウラが背を向けて立っていた。どうやら彼女も異性に水着を褒められて、ご機嫌なようだ。

 

「さて、まずは準備運動を――」

 

しましょう、と言葉を続けようとする角丸を余所に、フランとアメリーとラウラの三名は早くも海へ駆け出していた。

 

「あの……もう、みんな行っちゃったけど?」

 

「あいつら、準備運動も無しに……」

 

遠ざかる三人の後ろ姿を、ウィルマが右手の親指で差す。優人も三人に視線を走らせ、心配そうに呟く。

 

「ふふ……まぁ、いいけどね……」

 

スルーされたことが余程堪えたのか。角丸はどよーん、と憂いに満ちた表情をしていた。彼女は頼れるお姉さんキャラである反面、打たれ弱い落ち込みやすい面も持ち合わせている。

 

「ま……まぁまぁ、楽しみましょ」

 

ウィルマは角丸の左肩にポンと手を置いて彼女を励ます。

 

(そう言えば……結局、芳佳と海水浴してないな……)

 

隊長を差し置いて先に海水浴を始めているアメリー達を見て、ふと優人は思い出す。

以前501基地でウィッチーズが海上訓練を行ったあの日。訓練後、海で遊ぶ約束を芳佳としていたが、ネウロイの出現により、海水浴の予定はキャンセルとなってしまった。

9月に入ったとはいえブリタニアはまだまだ暑い。501の解散も、もう少し先だろう。基地に戻ったらミーナに海水浴を提案してみるのもいいかもしれない。

 

(芳佳の水着……か)

 

優人の唇が僅かに綻んだ。彼の脳裏には、おニューの水着に身を包んだ芳佳の姿が浮かび上がっている。

その芳佳は優人に見て欲しい、と背伸びして前にサーニャが着ていたような紐で結ぶタイプのビキニを選んでいた。

砂浜で追い掛けっこしたり、寝転がって日光浴したり、優人が芳佳に泳ぎを教えたり、等と兄妹水入らずで海水浴を楽しむ風景を夢想する。

やがて、芳佳が着ているビキニトップの紐がアクシデントでほどけてしまう。そして、芳佳の慎ましやかな胸が露に……。

 

(ヤバい……鼻血出そう!)

 

鼻に血が集中するのを感じた優人は、咄嗟に鼻の頭を抑えつつ目線を下げた。

世の中広しと言えども、事故で妹の水着が脱げるという厭らしい妄想をした挙げ句、鼻血を出しそうになる人間など彼くらいだろう。

最早優人は、シスコンを通り越して立派な変態さんである。

 

「どうしたの?」

 

様子がおかしいことに気付いたウィルマが、優人の顔を覗き込んでいた。

 

「あ、いや……ちょっと調子が悪くて……」

 

「大丈夫ですか?」

 

復活し、ウィルマの背後に立っている角丸も心配そうな眼差しで優人を見ている。

 

「少し休めば大丈夫だから……先に遊んでてくれ」

 

さすがに妹の裸を想像して鼻血しかけている、などと言えないので、優人は愛想笑いで誤魔化そうとする。

 

「あっ!ひょっとして……」

 

ウィルマは何か気付いたとばかり人差し指を立てる。

 

「周りが水着美女ばかりで照れてるのかしら?」

 

「ま、まぁな……」

 

何かと鋭いウィルマ。邪な考えを見破られたのかと思って顔を強張らせていたが、どうやら違ったようで優人はホッと安堵する。

 

「ふふっ♪意外とボウヤなのねぇ~♪」

 

ウィルマはそう言うと、優人の耳元に唇を近付けて囁いた。

 

「大丈夫ですよ、大尉殿?海水浴なら、うっかり女の子の身体に触れたりしても“事故”ですから♪」

 

「なっ!?」

 

頬を赤らめて絶句する優人が可笑しかったのか。ウィルマはクスクスと笑声を立てる。

 

「大尉殿は、本当に可愛い反応をなさいますわねぇ♪」

 

「お前なぁ!」

 

優人は憤然とレジャーシートから立ち上がり、自分をオモチャにするウィルマに抗議の目を向けた。

 

「俺は、そんな邪なことは――」

 

「あら?朝っぱらから人の身体を舐め回すように見ていたのは誰だったかしら?」

 

「――っ!?」

 

美人で理想的なグラマラスボディの持ち主であるウィルマは、普段から異性に“そういう目”で見られることが多い。タンクトップの上からでも分かるウィルマの豊満な身体に釘付けになっていた優人の邪な視線はバレバレだったようだ。

反論しようにも先に痛い所を突かれてしまったうえに、優人はウィルマほど口達者ではないため、いい言葉がすぐには浮かんでこない。代わりに恨めしそうな視線で睨み付けた。

 

「じゃあ、私達も行くわね♪ほら隊長さんも!」

 

ウィルマは“してやったり”と言った感じの笑みを浮かべると、角丸の手を引いてアメリー達の元へ向かっていった。

 

「まったく……」

 

優人は二人の後ろ姿を見送りつつ、溜め息を零した。美女達に続いて海に入ろうとはせずに、レジャーシートへ座り直した。

 

「性格が全然違う。本当にリーネの姉か?いや、でもあの胸はビショップ家の血縁に間違いないだろうし……」

 

「胸がどうかしたんですか?」

 

アホな分析を言葉に出している優人に、いつの間にか戻って来ていたラウラが声を掛ける。

 

「ラウラ?もう戻ってきたのか?」

 

「少し眠たくて、こっちで一眠りしようかと……」

 

そう答え、ラウラは眠たそうに欠伸を噛み殺す。いつもなら、彼女は今の時間帯は昼寝をしている。

優人はラウラの水着を改めて見てみるが、やはり際どい。サイズが合っているのか疑わしく、持ち主の豊かな胸が、今にもトップから零れ落ちそうだ。

 

「?……どうしたですか、ジロジロ見て?」

 

「いやいや、何でもない!」

 

視線に気付かれ、優人は慌てて目を逸らす。

 

「…………そうですか」

 

ラウラは怪訝そうに首を傾げたが、それ以上は何も訊かなかった。

 

「……あの大尉」

 

暫しの沈黙の後に、ラウラが再び口を開いた。

 

「お願い、聞いてもらってもいいですか?」

 

ラウラは両手を膝に添え、前屈みになりながら問い掛ける。眼前でたゆんと揺れる乳房を凝視しつつ、優人は訊き返した。

 

「な、何かな?」

 

「えっと……」

 

言いづらいことなのか。ラウラは視線をやや右に泳がせ、仄かに両頬を染め上げながら“お願い”を口にした。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

その頃、第501統合戦闘航空団基地食堂――

 

いつも騒がしいほどに賑やかな食事時の501基地食堂だが、今日は馬鹿に静かだった。それもそのはず。昼食の席に顔を出しているのは、501ウィッチ隊総数の3分の1程度の人数だったのだ。

現在、優人はワイト島へ出向中。ミーナと坂本は連合軍西部方面総司令部から呼び出しを受け、バルクホルンとハルトマンはバルクホルンの妹――クリスの見舞い、シャーリーとルッキーニはショッピングと、それぞれ違った用事でロンドンへ出掛けている。

サーニャは夜間哨戒明けのため、例によって自室で眠っている。

以上の理由から昼食を取りに食堂を訪れているのは、宮藤芳佳、リネット・ビショップ、ペリーヌ・クロステルマン、エイラ・イルマタル・ユーティライネンの4名のみである。

 

「さぁオマエ達!出来たゾ!」

 

スオムスに伝わる妖精――トントが描かれたエプロンを付け、白いコック帽を被ったエイラが、料理の乗せられたワゴンを押して厨房から食堂へ出てくる。

食堂では芳佳、リーネ、ペリーヌの三人がテーブルに着いて、雑談で時間を潰しながら料理の到着を待っていた。

 

「エイラ・イルマタル・ユーティライネン特性!スペシャルランチだ!」

 

そう嘯き、エイラは自分の手料理をテーブルに並べていく。

 

「これって……」

 

「サンドイッチ、ですよね?」

 

芳佳とリーネは順に言うと、目をパチクリさせる。スペシャルランチと聞いて、どんなごちそうが出てくるのかと思えば、何の変哲もないサンドイッチだった。

 

「ずいぶんと、慎ましいスペシャルランチですわね」

 

ペリーヌが呆れ目でサンドイッチを見つめつつ、嘆息混じりに嫌味を呟く。呟くといっても、その声は周りに十分聞こえる大きさである。

 

「ぺ、ペリーヌさん!」

 

エイラを毒突くペリーヌをリーネが咎める。しかし、ペリーヌはまったく意に介さず、フンと鼻を鳴らしてそっぽ向いた。

 

「フフ♪今日はツンツン眼鏡の嫌味も気にしないンダナ♪」

 

ご機嫌そうなエイラは、ペリーヌの憎まれ口をにこやかに受け流す。

 

「確かに見た目はただのサンドイッチ!しかし、食材は基地にあるものの中からワタシが厳選したものを使っているンダ!」

 

「えっ?何を使ってるんですか?」

 

「それは食べてみてのお楽しみダ!ホントはサーニャにも食べて欲しかったンダけどナ」

 

芳佳の質問にそう返すと、エイラはエプロンとコック帽を脱ぎ、自身もテーブルに着いた。

 

「普通のサンドイッチに見えるけど……」

 

一番最初にサンドイッチを皿から持ち上げたのはリーネ。食す前に矯めつ眇めつ眺める。

補給物資にあった扶桑産のツナ缶を使用しているが、やはり特に変わったところは何もない。普通のサンドイッチだ。

 

「エイラさんオリジナルのサンドイッチ。どんな味がするだろう?」

 

リーネに続いて芳佳もサンドイッチを手に取る。エイラが厳選した食材を用いて作ったという料理に興味津々だ。

 

「一口食べれば、あまりの美味しさに夢見心地!二度と憎まれ口なんて叩けなくなるンダナ!」

 

「まぁ、お料理に罪はありませんし。頂きますわ」

 

かような発言と共にエイラ、ペリーヌもサンドイッチを手に取った。

 

「頂きま~す!」

 

芳佳が音頭を取り、全員が同時にサンドイッチを口へ運ぶ。

 

「「「「…………うっ!?」」」」

 

サンドイッチの具材が口内で舌先に触れた瞬間、凄まじい吐き気と目眩がウィッチ達に襲いかかった。瞬く間に顔面蒼白となった4人は反射的に両手で口元を押さえる。

カタカタと全身を震わせながら悶絶した後、彼女らはテーブルに突っ伏した状態で気を失った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

再びワイト島南部海岸――

 

「ほ、本当にいいんだな?」

 

緊張を孕んだ声音で同じ質問を何度も繰り返す優人に、ラウラは少しだけムッとする。

 

「大尉、ちょっとしつこいです」

 

「わ、悪い……」

 

「私はいいって言ってるのに……」

 

「い、いや。だけど……」

 

「男の子でしょう?」

 

「…………分かったよ」

 

同じようなやり取りを何度も繰り返し、優人はようやく観念した。

“ある液体”をたっぷり掛けた両手を、躊躇いがちに伸ばした。その先にあるのは、ラウラの白くてきめ細かい肌。

まずは指先、続いて指の腹。やがては手の平全体で触れた。ミルクを溶かし込んだような白い肌の質感に、優人は思わず息を呑んだ。

 

(や、柔らかいな……)

 

軍人のものとは思えない、ラウラの美しく柔らかな身体。瑞々しい柔肌の感触は、健全な青少年になんとも言えない幸福感を与えてくれる。

 

「手が止まってます」

 

「あ、ああ」

 

ラウラに催促され、ハッと我に還った優人は手の動きを再開させる。スベスベ感を味わいつつ、肌に手を這わせる。

 

「さっきから同じところばかり……」

 

「うっ……」

 

「もっと上も塗ってください」

 

「なぁ、やっぱりタオル越しとかじゃダメか?」

 

優人が訊ねる。往生際の悪い上官殿に対して、ラウラは苛立だし気に言い返す。

 

「ダメです。タオル使ったらしっかり塗れないじゃないですか。これは大切な“準備”なんですよ?」

 

「でもなぁ……」

 

「恥ずかしいのは私も同じです。“ブラ外してる”んですから……」

 

「そ、そうだな」

 

同じ航空歩兵でも、ウィッチに比べてやや固いウィザードの手。それが肌を擦るように上下し、こそばゆさを感じたラウラの唇から小さな声と吐息が漏れる。

 

「ふっ!……くぅ……」

 

「あ、悪い!少し乱暴だったか?」

 

「大丈夫ですから、続けてください」

 

「分かったよ。もし痛かったら教えてくれ」

 

「気持ち良いですよ?」

 

「そ、そっか……」

 

上手い返しが思い付かなかった優人は短く答えると、俯き加減に手を動かし続けた。

歳下とはいえ、かなり発育が良いラウラ。その身体を前にし、直に触れている優人は照れてしまっている。さらに思考も熱に浮かされ動きが鈍くなっている。

照れを隠すためか、それとも早く終わらせたいのか。優人は両手に力を込め、動きを速めた。

 

「っ!?……はぁ……んっ!」

 

急に押し寄せてきた刺激に、ラウラはやけに艶めかしい吐息を漏らした。

優人の手が動く範囲も少しずつ広がり、終わりが近付いている。

 

「ふぅ、んっ!……た、大尉。もう……」

 

「もう、いいのか?」

 

手の動きを止め、優人は確認するように問う。彼に顔を覗き込まれたラウラは、潤んだ瞳を向けて小さく頷いた。

 

「じゃあ、終わりだな。まったく、オイル塗りなら俺じゃなくて他のやつに頼めばいいだろ?」

 

優人は手に残った“ある液体”――サンオイルをタオルで拭き取りながらぼやく。

そう。ラウラが優人に聞いて欲しがった“お願い”とは、「昼寝がてら肌を焼きたいから、綺麗に焼けるよう背中にサンオイルを塗って欲しい」というものだった。

 

「だって、皆もう楽しそうに遊んでるし」

 

ラウラがうつ伏せの姿勢から身体を起こす。“ビキニトップの紐をほどいた”状態で、レジャーシートに寝転がっていたのだ。

優人が塗りやすいように、と外していた背中にあるブラの紐を結び直す。もちろん、優人に見られぬよう背を向けたまま。

 

「大尉なら暇そうだったので……」

 

「おい」

 

「優人ぉ~!ラウラァ~!」

 

不意に海の方から二人を呼ぶ声が聞こえてきた。振り返ってみると、優人達に向けてブンブンと大きく手を振るウィルマの姿が確認できた。

 

「あんた達、そこで何してんのよぉ?」

 

「お二人も、こっちで一緒に遊びましょ~!」

 

ウィルマに続いて、フランとアメリーも二人に叫んだ。

 

「お嬢様方がお呼びだ」

 

優人はどっこいしょ、と年寄り臭い呟きと共にレジャーシートから腰を持ち上げる。

 

「俺は行くけど、お前はどうする?」

 

横目でチラリとラウラを見てみる。彼女は既に水着を着直していた。

 

「私は遠慮します。サンオイル塗っちゃったし」

 

「それもそうか」

 

バカなことを聞いたな、と心の中で呟いた優人は「じゃあ、行ってくるよ」とラウラに一言だけ言い、ウィルマ達の元へ歩いて行った。

そんな彼の後ろ姿を、ラウラは心持ち残念そうな表情で見つめていた。

 

「ラウラと二人っきりで何してたの?」

 

と、合流した優人にさっそくウィルマが訊いてくる。対して、優人は適当なことを言って誤魔化した。

 

「ちょっとした世間話をな」

 

「あんた、ラウラに変なことしてないでしょうね?」

 

「フラン!失礼よ!」

 

すかさず追及するフラン。上官相手でも構わず非礼を働く彼女を角丸が窘める。

 

「いやいや、そんなことはっ!?」

 

「あらぁ~?」

 

激しく頭を振って否定する優人に、ウィルマがにんまりと悪意に満ちた笑みを向ける。

 

「ラウラの身体をベタベタ触ってたみたいだけど?」

 

「なっ!?見てたのか!?」

 

「ふふ♪スナイパー家系の視力を舐めないでよ」

 

と、ウィルマはペロッと舌を出して見せる。

 

「あんた、やっぱり……」

 

「あ……」

 

怒りを滲ませた声が、優人の耳に突き刺さる。額から冷や汗を流しつつ、勇気を振り絞って恐る恐る振り返ると、フランが親の敵でも見るような鋭い目付きで優人を睨んでいた。

よく見てみると、使い魔の耳と尻尾が出ている。つまりは、ストライカーユニット装着時と同じく魔法力発動状態なのだ。

 

「ちょっ、ちょっと待って!誤解だ!」

 

優人は身を守るようにして両手の平を正面に出し、どうにか冤罪を晴らそうとする。

 

「確かに触りはした!けど、それはラウラがサンオイルを塗っ――」

 

「不潔っ!!」

 

「ぶっ!?」

 

フランの渾身の右ストレートが、優人の顔面にめり込む。小柄で細身な体格から想像も出来ない――魔法力を使用しているからだが――強力な一撃によって、優人は数メートル先まで吹っ飛ばされ、水飛沫を上げながら海中に沈んだ。

 

「フランっ!何てことを!?」

 

角丸の顔が真っ青になる。軍隊において比較的規律の緩いウィッチ部隊、特に統合戦闘航空団にいると忘れがちだが、自分より階級が上の士官を殴り飛ばすなど、軍隊内では暴行脅迫等の罪に問われても仕方のない暴挙である。

まぁ、優人はおそらく気にしないだろう。何故かって?慣れてるからだ。

 

「あはは。優人、生きてるかしら?」

 

と、ウィルマが苦笑する。彼女の隣では、アメリーがあたふたしている。

 

「はぁ……はぁ……結構、いいやつだと、思ったのに……はぁ、やっぱり男なんて……みんな、ケダモノよ……」

 

ぜぇぜぇと肩で息をしながら、フランは優人への失望を口にする。

 

「みんな、どうしたの?」

 

騒ぎを聞き付けてきたラウラが、不思議そうにフラン達を順に見回す。

 

「ラウラ!大丈夫!?アイツに何されたの!?セクハラ!?痴漢!?強姦!?まさか愛人になることを強要されたとか!?」

 

「…………は?」

 

フランの質問責めに理解が追い付かず、ラウラは訝しげに首を傾げた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

1分後――

 

「サンオイル、塗ってただけ?」

 

「うん」

 

ラウラに事情を説明され、フランは唖然とする。彼女が心配していたことは何もなかったのだ。

 

「なぁんだ、そういうことだったのね」

 

あっはっはっ、と快活に笑い飛ばすのはウィルマ。元はと言えば、彼女が元凶である。

 

「フラン、後で大尉に謝りなさい」

 

角丸が改めてフランを注意する。軽い頭痛を覚えた彼女は、右手で頭を押さえている。

 

「その優人さんが上がって来な……わあっ!?」

 

アメリーがキョロキョロと周囲を見渡していると、足元の水面が割れて優人が姿を現した。

 

「あ、優人さん」

 

「酷い目にあった」

 

「大尉、大丈夫ですか」

 

角丸が水飛沫を撒き散らしながら優人に駆け寄る。

 

「ああ、なんとかだ――」

 

「きゃああっ!?」

 

なんとか大丈夫、と言いかけた優人の言葉をアメリーの悲鳴が遮った。

 

「アメリー?」

 

突然の悲鳴を上げたアメリー。優人は彼女の方へ顔を向けて「どうしたんだ?」と視線で問う。

しかし、アメリーは何も答えない。ただ顔をロブスター並みに真っ赤にして、優人の身体――正確には、下腹部よりさらに下――を凝視するだけだった。

駆け寄ってきた角丸もアメリーと同じ箇所を見つめ、顔を赤ランプのように真っ赤にしている。その瞳には涙が滲んでいる。

 

「あ、あんた……なん、で?」

 

「…………」

 

「あらぁ?」

 

少し離れた所にいる他の三人も、アメリーや角丸と同様に優人の身体のある部分を見入っている。

フランはアメリーと同じく真っ赤になっている。ラウラは普段と同じくポーカーフェイスだが、頬には微かに紅が差している。ウィルマも赤面具合はラウラと同じであるが、ニヤつくだけの余裕を持っていた。

 

「みんな、一体どう――」

 

ウィッチ達の視線を追い、優人も下へと目線を下げてみる。そして、自分に何が起きたかを理解し、彼の顔は一気に青ざめた。

角丸から借りたサーフズボンが、いつの間にか脱げてしまっていたのだ。つまり、今彼は男にとって最も大切な所を丸出ししてしまっている。それもウィッチの目の前で……。

 

「きっ!…………きゃあああああっ!!」

 

優人が再び顔を上げると、アメリーのものよりずっと大きく長い悲鳴を上げた角丸が、魔法力を発動させて優人の顔面に右拳を打ち込んできた。

本日二度目の顔面ストレート。優人は声を上げる間も無く、吹っ飛ばされる。フランの時よりもはるかに速く遠くまで飛ばされ、水切り石のように2、3度海面を跳ねた後に大きな水柱を立てて海中へ没した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

さらに1時間後、ワイト島基地宿舎――

 

海水浴は終え、基地に戻ってきた優人とウィッチ達。既に制服に着替え、食堂でお茶をしている。

 

「おぅ……」

 

食堂の椅子に深く腰掛けた優人は、もう一歩動けそうもないほど疲弊していた。しかし、殴られる回数はこなしているためか、身体は丈夫になっているらしい。目立った外傷は見当たらない。

 

「災難だったわねぇ」

 

と、隣に座るウィルマが気の毒そうに優人を見る。が、大変なのは優人だけではない。

 

「見ちゃったわね……」

 

「バッチリ見ちゃいました……」

 

未だ顔から熱が引かないフランとアメリー。優人と顔を合わせることも出来ず、両手で顔を覆っていた。

一方で、二人の隣に座っているラウラは大して気にしていないらしく、落ち着いた様子で静かに紅茶を飲んでいた。

 

「二人共、揃って真っ赤になっちゃって。ウブねぇ♪」

 

フランとアメリーの初々しい姿を可愛らしく思ったウィルマが、右手で口元を隠しながらクスクスと笑声を立てる。

 

「もしかして、見たの初めて?」

 

「ち、違うわよ!」

 

テーブルに身を乗り出したフランが、ムキになって反論する。

 

「ちっちゃい頃、お風呂でパパのを見たことあるわ!ただ、パパのより大きかったからちょっと驚いただけよ!」

 

「フラン、やめてくれ……」

 

優人が力無く呟く。男の証を思いっきり見られた上に、フランパパのものと比較されてしまっては堪ったものではない。

 

「あ、あの……宮藤大尉」

 

ふと入り口の方から遠慮がちな声が聞こえてきた。5人が視線を移すと、角丸がドア越しに顔を半分出していた。

男の証を間近で見てしまったことや、上官を思いっきり殴ってしまったことで、優人と顔を合わせづらくなっているのだ。

 

「ん?何だ?」

 

「501基地から宮藤大尉へ連絡が来ています」

 

「また芳佳から?」

 

重ねて訊く優人に、角丸は気まずそうに視線を逸らしたまま答える。

 

「いえ、リトヴャク中尉からです」

 

「サーニャ?」

 

優人は首を傾げる。ほぼ毎日夜間哨戒で、今の時間帯はまだ眠っているはずのサーニャが、睡眠時間を削ってまで連絡してきた。一体自分に何のようがあるのか。

 

「詳細は分かりませんが、『芳佳ちゃん達が大変なので、出来るだけ早く戻ってください』と、なにか切羽詰まった感じで……」

 

「芳佳がっ!?」

 

ガタンと音を立て、優人は椅子から立ち上がる。さすがはシスコン。妹のこととなると、目の色が変わる。

 

「芳佳がどうしたって!?」

 

「く、詳しくは何も……」

 

優人はズイッと角丸に顔を寄せて問い掛ける。あまりの迫力に、角丸は思わずたじろいだ。

 

「まさか、ネウロイとの戦闘で怪我を!?」

 

「っ!?芳佳!!」

 

アメリーの推測を聞くなり、優人は一目散にストライカーユニットの格納庫へ向かった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

~おまけ~

 

作者「ビキニの紐がほどけるラッキースケベなハプニングだと思った?残念、ゾウさん丸出しでしたぁ!」

 

優人「オッサン、いっぺん死んどくか?」←十四年式拳銃を構える

 




次回から優人は501へ戻ります。


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